トップ :: B 処理操作 運輸 :: B21 本質的には材料の除去が行なわれない機械的金属加工;金属の打抜き

【発明の名称】 金属材料の打ち抜き方法
【発明者】 【氏名】瀬戸 厚司
【氏名】及川 初彦
【氏名】村山 元
【氏名】松野 崇
【課題】材料、対象部材の種類によらず疲労強度を安定して向上させる打抜き面の加工方法を提供する。

【解決手段】金属板の表面又は表裏面に塑性変形を与えて圧痕を形成した後、前記圧痕より広い部分を打抜きポンチにより打抜く。このとき、衝撃塑性加工処理を施すことにより塑性変形を与えるようにしてもよいし、また、板厚方向に圧縮変形を与えることにより、塑性変形を与えるようにしてもよい。また、圧痕の深さが板厚の5%以上15%以下であるようにしてもよいし、さらに圧痕の外周と打抜かれる部分の境界線の距離が2mm以下であるようにしてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面又は表裏面に塑性変形を与えて圧痕を形成した後、前記圧痕より広い部分を打抜きポンチにより打抜くことを特徴とする疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法。
【請求項2】
前記塑性変形を与える方法は、衝撃塑性加工処理であることを特徴とする請求項1記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法。
【請求項3】
前記塑性変形を与える方法は、底面の中央部に孔を有する圧縮ポンチにより圧痕を形成する方法であることを特徴とする請求項1記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法。
【請求項4】
前記塑性変形を与える方法は、底面に突起を有する圧縮ポンチにより圧痕を形成する方法であることを特徴とする請求項1記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法。
【請求項5】
前記塑性変形を与える方法は、板厚方向に圧縮変形を与える方法であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法。
【請求項6】
前記圧痕の深さが板厚の5%以上15%以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法。
【請求項7】
前記圧痕の外周と打抜かれる部分の境界線の距離が2mm以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法。
【請求項8】
板厚の6〜10%のクリアランスで打抜くことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は自動車、家電製品、建築構造物、船舶、橋梁、建設機械、各種プラント、ペンストック等で用いられる鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウムおよびこれらの合金等の金属板からなる構造部材のうち、打抜き加工によって生じる打抜き面の疲労強度向上方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品、建築構造物等の金属板1には、図2のように打抜きポンチ2と打抜きダイス3により打抜き加工が施されることが多く、図3に示すように打抜き面4の裏面にはバリ12が発生し、また板厚中央部では中心偏析に起因する割れ11が発生することが多い。特に、打抜き穴を有する部材に繰返し荷重が負荷された場合、これらが疲労破壊の起点になって疲労強度の低下を引き起こす。
【0003】
このため、打抜き面4のバリ12や割れ11を低減させる方法、打抜き面4の性状を良くする方法、および打抜き面4の残留応力を制御する方法がいくつか提案されている。
【0004】
まず打抜き面のバリや割れを低減させる発明として、特許文献1では、打抜きポンチの先端部にポンチ径の5〜20%の部分を面取りした打抜き型、および打抜き時のクリアランスを3〜15mmの板厚に対して6〜15%にする方法が開示されている。この方法では、打抜き部分を予め裏面から表面方向へ板厚の途中までパンチプレスした後、表面から裏面方向へ同一位置及び同一形状でパンチプレスを行い残りの部分を打抜くことによりバリ発生を抑制する方法が特許文献2に開示されている。またさらにバリにポンチを押し当てて潰す、いわゆるコイニング加工と呼ばれる方法が特許文献3に開示されている。この特許文献3に開示されている方法としては、引張強さ490N/mm2以上の板材せん断加工ばり部に、コイニング直下の硬さ上昇量がビッカース硬さ(Hv)50以上で、かつ加工量が局部体積比3〜30%のコイニング加工を施す。
【0005】
また打抜き面の性状を良くする方法として、非特許文献1では打抜きクリアランスを1%以下に小さくして三角形状もしくは台形状の板押さえをする、いわゆるファインブランキングの技術が開示されている。さらにポンチまたはダイスの刃に丸みを持たせて、クリアランスを0または負にして打抜かれた穴の側面を削りとる、いわゆる仕上げ抜き方法が非特許文献2に開示されている。またさらに表面を含む打抜き部および周辺を強化する方法として、予め摩擦攪拌現象を利用して打抜き部に対して組織制御して強度を向上させる方法が特許文献4に、穴の周辺をレーザー照射により環状の焼入れ部を形成させることにより、硬度を増大させるとともに圧縮残留応力を生起させる強化方法が特許文献5に、孔周辺を冷間圧延する方法が特許文献6にそれぞれ開示されている。
【0006】
また打抜き面の残留応力を圧縮応力にするために、切り刃(パンチ)の形状に関する発明として、打抜き孔の内径よりも小さい直径の先端部と、打抜き孔の内径とほぼ同じ直径を有する孔拡部を有するピアスパンチおよび孔明方法が特許文献7に、先端部に打抜き方向と平行な側面を有する切り刃と、切り刃の上部に形成された上方に向けて拡径するテーパー部を有するポンチおよびこのポンチを用いた打抜き方法が特許文献8にそれぞれ開示されている。
【0007】
また打抜き後の加工処理に関する発明として、打抜き部表面でボルトの頭部の外周に位置する部分をポンチで加圧して、円周溝を形成すると同時に圧縮残留応力を付与するボルトの継手構造が特許文献9に、打抜き面を最終穴径よりも小さく打抜いた後、自動車用ホイール用飾り穴の外周となる打抜き面をポンチとダイでしごくことにより当該打ち抜き面に発生した破断面のマイクロクラックを押しつぶし、更に圧縮残留応力を負荷して平滑強化し、厚肉部を形成する方法が特許文献10に、加工部に発生する引張残留応力を加工部から遠ざけるように打抜き部の表面に超音波衝撃処理を施す方法が特許文献11にそれぞれ開示されている。
【0008】
また事前の加工処理に関する発明として、加工板の表面又は表裏面に圧縮残留応力を付与するためにインデンタでプレスして所定深さの溝を形成した後、ドリルで穴をあけてリベット穴を形成する方法が特許文献12に開示されている。
【特許文献1】特開平8−57557号公報
【特許文献2】特開平11−221628号公報
【特許文献3】特開平6−57325号公報
【特許文献4】特開2004−149893号公報
【特許文献5】特開平10−251743号公報
【特許文献6】特開昭64−1602号公報
【特許文献7】特開平10−263720号公報
【特許文献8】特開平11−333530号公報
【特許文献9】特開昭55−155846号公報
【特許文献10】特開2002−120026号公報
【特許文献11】特開2004−115856号公報
【特許文献12】WO02−092255 A1
【非特許文献1】塑性と加工、Vol.9、No.92(1968-9)、618頁〜626頁
【非特許文献2】プレス加工便覧、152頁〜156頁、日本塑性加工学会編、丸善株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の特許文献1〜11、非特許文献1〜2の開示技術は、何れも打抜き前に、その外周よりも大きな塑性変形を予め与える方法ではないため、打抜きままの打抜き面は圧縮残留応力のみならず引張残留応力も存在することになり、打抜きままではこの引張残留応力により疲労強度の向上が望めないという問題がある。
【0010】
さらに特許文献12には、穴を加工する部分にインデンタにより塑性変形を与える方法が開示されているが、穴加工方法はドリルによる加工の記載しか無く、またリベットやボルト等のファスナーを挿入する目的の穴加工であるので、打抜き加工を対象とする本発明とは異なる方法である。このため、特許文献12に記載された発明は、打抜き加工よりも穴加工に長時間を要すること、特にドリル加工は1工程では円形の穴加工に限られるため、非円形の穴加工のためには複数回のドリル加工を組合せる必要があること、ドリル加工は穴縁のみならず取り除く部分にも徐々に塑性変形を与えて穴を開ける加工のため、インデンタにより与えた圧縮残留応力が徐々に開放される結果、穴加工後に残る圧縮残留応力も小さくなる問題があると考えられる。
【0011】
そこで、本発明は上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、材料、対象部材の種類によらず疲労強度を安定して向上させることを可能とした、疲労強度に優れた打抜き面の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の要旨とするところは、
【0013】
(1)金属板の表面又は表裏面に塑性変形を与えて圧痕を形成した後、前記圧痕より広い部分を打抜くことを特徴とする疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法、
【0014】
(2)塑性変形を与える方法は、衝撃塑性加工処理であることを特徴とする(1)記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法、
【0015】
(3)塑性変形を与える方法は、底面の中央部に孔を有する圧縮ポンチにより圧痕を形成する方法であることを特徴とする(1)記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法、
【0016】
(4)塑性変形を与える方法は、底面に突起を有する圧縮ポンチにより圧痕を形成する方法であることを特徴とする(1)記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法、
【0017】
(5)塑性変形を与える方法は、板厚方向に圧縮変形を与える方法であることを特徴とする(1)〜(4)の何れか1項に記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法、
【0018】
(6)圧痕の深さが板厚の5%以上15%以下であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法、
【0019】
(7)圧痕の外周と打抜かれる部分の境界線の距離が2mm以内であることを特徴とする上記(1)〜(6)の何れか1項に記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法、
【0020】
(8)板厚の6〜10%のクリアランスで打抜くことを特徴とする上記(1)〜(7)の何れか1項に記載の疲労強度に優れた金属材料の打抜き方法、
にある。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、打抜き後の打抜き面や表面に圧縮残留応力を付与でき疲労強度を向上させることができるため、材料、対象部材の種類によらず疲労強度を安定して向上させることが可能であり、その工業的意味は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明者は、金属の構造部材に存在して疲労強度低下要因となる打抜き穴周辺の状況を詳細に調査した結果、図4に断面図を示すように打抜いた後の打抜き面4や穴周辺の表面22には残留応力が分布して引張残留応力が負荷されている引張残留応力領域19も存在すること、引張残留応力領域19からき裂の発生や疲労が発生しやすいという知見を得た。
【0024】
この様な状況を改善するためコイニングなど打抜き後に塑性変形を与えることにより圧縮の残留応力を付与する方法は従来から検討されてきたが、打抜きままで圧縮残留応力を残す方法を鋭意検討した結果、図1に示すように打抜く前に、金属板の表裏面に塑性変形を予め圧縮ポンチ9により与えて圧痕(塑性変形領域)5を形成し、圧痕5より広い部分を打抜きポンチにより打抜くことにより、打抜き後の打抜き面4に圧縮残留応力を残し、打抜き部を含む部材の疲労強度を向上させることが可能であることを見出した。残留応力の分布は、図5に示す断面図のように塑性変形領域5の周辺に圧縮残留応力が負荷された圧縮残留応力領域20が発生するとともに、その外周に引張残留応力領域19が存在する状態になり、塑性変形領域5を含む領域を打抜くことにより、図6に示す断面図のように打抜き後の打抜き面4および外周の表面22に圧縮残留応力領域20を残すことが可能であることを見出した。
【0025】
また金属の構造部材では、図7のように既に多くの成形工程を経たのち打抜き加工が施される場合も少なくないが、このように成形工程で既に塑性変形を受けた領域であっても、金属板1の表面又は表裏面に塑性変形を与えて圧痕などの塑性変形領域5を形成した後に、その塑性変形領域5より広い部分に打抜き部分6を形成することにより、打抜き面4およびその外周の表面に圧縮残留応力を残すことができることを知見した。
【0026】
なお、打抜き面の残留応力は、打抜き面の表面を10μm程度電解研磨にて研磨した表面について、日本材料学会X線材料強度部門専門委員会編、JSMS-SD-5-02X線応力測定法標準(2002年版)鉄鋼編、に記載の方法を用いて、打抜き面の円周方向の残留応力を求めた。
【0027】
打抜き面4の外側にも塑性変形領域が存在する場合、例えば大きな圧痕の内側に打抜き部分6を形成する場合にも、打抜き後の打抜き面に圧縮残留応力が残る場合があり、疲労強度向上の可能性があるが、打抜き穴縁の表裏面には凹凸が生じ、部材の美観が損なわれること、また穴縁に凹凸に起因する応力集中の可能性があることから、この場合は本発明の範囲外とした。
【0028】
さらに打抜き部の外周よりも大きな歪の塑性変形領域5を与える手段についても検討した結果、図8のように圧縮ポンチ9で圧縮変形を与える方法、および図9のようにハンマピーニング、ショットピーニング、超音波衝撃加工などの衝撃塑性加工処理装置17による方法が有効であることも知見した。また圧縮ポンチ9により圧縮変形を与える方法では、図8のように圧縮ポンチ9を作用させる表面とは反対側の裏面に、同様の圧縮ポンチ9であっても、図10のように平板10であっても、図12のように圧縮ダイス8のように穴が開いている場合でも同様に有効であることも見出した。また図11のように圧縮変形を与える側と打抜きポンチ2が当る側が反対であっても同様に打抜き面4に圧縮残留応力を残すことが可能であることを知見した。
【0029】
衝撃塑性加工の場合、図13に示すように先端工具18が一回の衝突で与える塑性変形領域23は小さく、また一般に同一領域に数十秒から数分間の多数回の衝突による塑性加工処理が施される。本発明では連続的に衝撃塑性加工処理されて形成された塑性変形領域23を外側から包含する線を塑性変形領域の境界線15とし、その内側の領域を衝撃塑性加工の塑性変形領域5と定義した。また先端工具による塑性変形のうち最も深い部分の深さを圧痕の深さと定義した。
【0030】
続いて、圧縮ポンチの形状に関して説明する。
【0031】
本発明の圧縮残留応力付与以外の利点は、打抜き予定部を予め加工硬化させることによって打抜き時の破断が促進され、打抜き端面の平滑度が上昇させることができる点である。しかしながら、本発明においては、圧痕を形成する際の圧縮ポンチ荷重が大きくなり、通常の圧縮ポンチではあまり深い圧痕を形成できず、打抜き予定部へ大きな加工硬化を与えにくくなる場合がある。そこで、圧痕荷重を減らし、深い圧痕を形成させるべく本発明者が鋭意検討した結果、図14に例を示すように、圧縮ポンチの底面の中央部に孔23を有する形状とすればよいことを見出した。これは、図15に示すように、圧痕形成時に圧縮ポンチ9により変形を加えると、圧縮ポンチ9底面の孔内へ材料を図中矢印で示される方向へ流し込むことが可能となるためである。
【0032】
ちなみに、図14(a)に示す例では、孔23の底面形状を円形としたものを示しており、図14(b)に示す例では、孔23の底面形状を四角形としたものを示しており、さらに図14(c)に示す例では、孔23の底面形状を不定形とした例を示している。
【0033】
この孔23の底面形状は、圧痕境界部での不均一部をなくすという観点から圧縮ポンチ9の外周と相似形であることが望ましい。しかし、孔23の底面形状が相似形でなくても充分な効果は得られるため、これに限定されるものではない。
【0034】
また、圧縮ポンチ9外周と孔23外周との長さは、適切に選択されなければならない。孔23の外形が大きすぎれば圧痕の外側への塑性流動が少なくなり過ぎ、打ち抜き端部の疲労強度上昇に対して充分な圧縮の残留応力を付与できないためである。本発明者は試行錯誤の結果、孔23の外周部から圧縮ポンチの外周部までの長さが圧縮ポンチの平均径の10%〜30%程度であれば、孔23を有しない圧縮ポンチで圧痕を形成した場合と比較して、ポンチ荷重が小さくてもより深い圧痕を形成することができ、ほぼ同等の圧縮残留応力を打ち抜き面予定部周辺に付与できることを見出した。さらに、孔23の断面形状としては、例えば図16(a)〜(d)に示すようないくつかのパターンが考えられる。図16(a)は、孔23の側面形状を長方形としたものであり、図16(b)は、孔23の側面形状において曲線部を設けた例であり、図16(c)は、孔23の側面形状を台形としたものであり、図16(d)は、側面形状を三角形としたものである。
【0035】
また、圧痕荷重を減らして深い圧痕を形成させる別の手段として、圧縮ポンチ9の底面に突起24を設けることが有効であることも見出した。すなわち圧縮ポンチ9の底面が平坦な場合には図17に示すように金属板1の圧縮された部分は一様に圧縮変形を受けるが、中心部は周辺への塑性流動25が困難なため大きな荷重を必要とする。これに対して、図18に示すように圧縮ポンチ9の底面に突起24を設けることによって、中心部は当該突起24によって周囲に押し出されるため、底面の圧縮による外側への塑性流動25をさらに容易にし、圧痕荷重を低減できるとともに深い圧痕を与えることができるため圧縮部分の周辺への塑性流動量を多くし、さらには打抜き後の圧縮残留応力領域の拡大および圧縮残留応力値の増加させることができる。この方法により、打抜き材のさらなる疲労強度の向上が得られることを知見した。
【0036】
またさらに圧縮ポンチ9の底面に設けられた突起24は、図18に示すように中央部に限られたものではなく、例えば図19に示すように中央部と端部の間に1個又は複数設けることで、打抜き後の圧縮残留応力をさらに大きくすることができる。すなわち突起24が打抜き部の境界線16に近い位置を圧縮するような圧縮ポンチを用いると、突起が圧縮する際に打抜き境界線16での外側への塑性流動25を図18の場合よりさらに大きくすることができ、打抜き後の圧縮残留応力領域をさらに拡大するとともに圧縮残留応力値も増加させることができる。また圧縮ポンチの底面に設ける突起24の形状や配置は特に限定するものではなく、例えば図20(a)に示すように円筒形状のものを中央部に配置したもの、図20(b)に示すように滑らかな山形形状のものを中央に配置したもの、図20(c)に示すように同一形状の突起が複数配置されたもの、図20(d)に示すように複数の形状の突起が混在するもの、図20(e)に示すように円環状のもの、図20(f)に示すように円環状であって断続的なもの、であっても差し支えなく同様の効果が得られることができる。また、図18および図19は上下とも同じ圧縮ポンチの例であるが、上下の片側の圧縮ポンチにのみ底面に突起を有する場合であっても、上下両側の圧縮ポンチに突起を有する場合とほぼ同様の効果が得られることから、少なくとも片側の圧縮ポンチの底面に突起を有する場合に、打抜き後の圧縮残留応力領域の拡大、圧縮残留応力値の増加、ならびに疲労強度のさらなる向上が可能である。
【0037】
加えて、圧縮ポンチの底面に突起を有し、かつ上述のように底面の中央部に孔を有する場合でも本発明の効果を損なうものではなく、当該ポンチによる圧痕荷重のさらなる低減およびさらに深い圧痕が期待できるとともに、打抜き後の圧縮残留応力領域の拡大、圧縮残留応力値の増加、ならびに疲労強度のさらなる向上が可能である。
【0038】
本発明は、打抜く部分に塑性変形を施して図5に示すように圧縮残留応力領域20を発生させ、圧縮残留応力が負荷されている部分を打抜き加工により取り除くことによって、打抜き前に圧縮応力と釣り合って外側に存在していた引張残留応力領域19と、打抜き後に新たに釣り合う圧縮残留応力領域20を打抜き面に残す方法である。特許文献12で開示されているドリルによる穴加工は、ドリル先端によって穴縁のみならず取り除く部分全体に塑性変形を少しずつ与えながら除去する方法のため、図5において発生していた圧縮残留応力領域20がドリル加工の途中で徐々に開放される結果、それと釣り合っていた外側の引張残留応力領域19も徐々に小さくなり、穴加工が終了した時点で新たに穴面で釣り合う圧縮残留応力も打抜きによる本発明の方法に比べて小さくなると考えられる。また、ドリル穴による加工は円形の穴の加工に限定されるため、非円形の穴の加工に対しては複数回のドリル加工を組合せる必要があり、効率の点で好ましくない。
【0039】
また、塑性変形の形態としては引張変形、圧縮変形、曲げ変形、せん断変形などが考えられるが、打抜き部のみに塑性変形を与える手段を鋭意検討したところ、打抜き部に表面および/または裏面から圧縮ポンチにより板厚方向に圧縮変形を与える方法、および打抜き部に熱を与え熱応力により塑性変形させる方法、局部的に曲げ変形を与える方法が考えられ、塑性変形範囲の管理精度の観点から圧縮ポンチにより板厚方向に圧縮変形を与える方法がより効果的であることを見出した。板表面から板厚方向に圧縮変形を与えることにより圧縮変形を受けた部分は板全厚にわたり板の表面方向に伸ばされるため、圧縮変形を受けた部分の外周から押し戻されて板全厚にわたり圧縮残留応力が発生する。この状態で打抜くことにより打抜き面全体に圧縮残留応力を残すことが可能となることが判明した。
【0040】
次に圧縮変形による圧痕5の深さ13の限定理由について述べる。
【0041】
圧縮変形による圧痕5の深さ13を種々に変えて打抜き後の打抜き面の残留応力を測定したところ、圧痕の深さ13が板厚の5%より小さい場合には打抜き面4に残る圧縮残留応力領域20に残留されている圧縮残留応力が降伏応力の半分以下と小さいために疲労強度向上効果が小さいこと、また15%より大きい場合には板厚減少が大きいために圧痕5周辺が逆に盛り上がってしまうため、やはり圧縮残留応力は頭打ちになってそれ以上の疲労強度向上効果が期待できないこと、および圧痕周辺の盛り上がり部により打抜きポンチとの接触が一様でなくなり打抜き性状も不安定になることから本発明では特に好ましい圧痕深さとして板厚の5%以上15%以下と規定した。もちろん圧痕の深さがこの範囲外であっても本発明の効果を大きく損なうものでは無い。
【0042】
次に圧痕の外周と打抜かれる部分の境界線との距離の限定理由について述べる。本発明における圧痕5の外周と打抜かれる部分の境界線の関係は図21に示す関係になる。すなわち、圧痕5の外周15の外側に打抜き部分6の境界線16が存在し、外周15と境界線16の間が距離14に相当する。この距離14を種々に変えて打抜き面4の圧縮残留応力領域20に残留している圧縮残留応力を測定したところ、距離14が2mm以下であれば打抜き面の圧縮残留応力は降伏応力レベルの大きさであり、大きな疲労強度向上効果が得られるが、2mmを超えると圧縮残留応力は降伏応力の半分より小さくなり、これに伴い疲労強度向上効果も小さくなることを知見した。また距離14は小さければ小さいほど良く、即ち、0mm超であれば良く、特に下限を設けるものではない。以上のような理由から圧痕5の外周15と打抜き部分6の境界線16との好ましい距離14を2mm以下とした。なお、打抜き穴は図22に示すように円形でない場合も多く、この場合距離14は打抜き穴の外周に沿って必ずしも一様ではないがその場合には、距離14の最大値が2mm以内である場合を好ましい打抜き方法とする。
【0043】
さらに、打抜き時のクリアランス限定理由を述べる。
【0044】
図8〜図12に示した打抜き時のクリアランス21は、打抜き面性状を良くするためには非特許文献1に開示されているように、通常は小さくすればするほど有効であるとされており、本発明においても疲労強度向上の観点からはクリアランスが小さいほど好ましい。しかし、逆にクリアランスが小さくなるにつれて、ポンチおよびダイへの負荷が大きくなり、これらが磨耗したり疲労破壊したりしやすくなる。従ってポンチおよびダイの磨耗寿命も考慮しつつ打抜き後の疲労強度向上効果を得るクリアランスを検討したところ、クリアランスが板厚の6%から10%の場合に打抜きポンチおよび打抜きダイの磨耗・耐久寿命と打抜き部材の高疲労強度の両立が特に良好なことを見出した。クリアランスが板厚の6%以下の場合にはポンチおよびダイの磨耗寿命が極端に短くなり、またクリアランスが板厚の10%を超えると打抜き面の圧縮残留応力が降伏応力の半分より小さくなり、また打抜き面性状も凹凸が大きくなって悪くなるため、疲労強度向上効果が小さくなる。
【0045】
打抜き加工および塑性変形の付与に用いる工具の材質は特に限定するものではなく、通常用いられる工具鋼や、その他の材料、および表面に硬化処理等を付与したものでも差し支え無い。
【0046】
また、本発明に係る金属材料の打抜き方法は鋼板に対して適用される場合に限定するものではなく、アルミ、チタンなど非鉄金属にも適用可能であり、板形状以外に管や複雑な形状の構造部材についても適用することが可能である。
【実施例1】
【0047】
実施例として、表1〜3に示す強度レベルおよび板厚の鋼板を供試材として、図23に示すような幅80mm、長さ300mmの短冊試験片を作成し、この短冊試験片の中央に圧縮ポンチによる圧下、および超音波衝撃加工装置およびハンマピーニングによる加工により塑性変形領域(圧痕)5を付与した。圧縮ポンチによる圧下の場合には、表裏から同時にプレスを行い、超音波衝撃加工およびハンマピーニングによる加工の場合には、裏面に平板を敷いて表面からのみ塑性変形領域を付与した。次いで直径10mmの穴の打抜き加工を行った(図23)。この短冊試験片を用いて疲労試験を行った。荷重作用方向は試験片の長手方向とした。比較例として、塑性変形を与えず打抜き加工を行った短冊試験片も製作して同様に疲労試験を実施した。
【0048】
疲労試験条件は応力比(=最小荷重/最大荷重)を0とする荷重制御疲労試験であり、室温・大気中で行った。荷重の制御が困難となる寿命を破断寿命として、破断寿命が200万回となる応力範囲で評価した。
【0049】
疲労試験結果を同じく表1〜3に示す。
【表1】


【表2】


【表3】


【0050】
まず2.3mm厚の400MPa級鋼を用いた表1について見ると、No.1-1の比較例に対して、本発明の方法を適用した例No.1-2〜1-71は全て20%以上の疲労強度向上効果が認められ、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。
【0051】
No.1-2〜No.1-31は圧縮ポンチによる塑性変形付与の例を示しており、例えばNo.1-2〜1-9はほぼ同一の圧痕の外径を持つ例である。このうち圧痕深さが板厚の5〜15%の範囲にあるNo.1-3〜1-7はNo.1-2およびNo.1-9に比べてさらに10%程度の疲労強度向上が認められている。No.1-8は圧痕深さは5〜15%の範囲内であるが、打抜きクリアランスが10%を超えているため疲労強度はNo.1-2およびNo.1-9とほぼ同じである。なお、No.1-5は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状は良好なため疲労強度は比較例より高い。
【0052】
No.1-10〜1-31は圧縮ポンチによる塑性変形付与試験片において、圧痕の外周と打抜き境界の距離が2mm以下の例である。このうちNo.1-10、1-14、1-15、1-23、1-24および1-31は圧痕の深さが(6)に係る本発明の範囲より小さいか大きい例であり、またNo.1-21および1-29は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲外の例であるが、いずれも疲労強度の向上は比較例の30%程度である。これに対し、No.1-11〜13、16、17、19、20、22、25、27、28および30は圧痕の深さ、打抜きクリアランスとも(6)及び(8)に係る本発明の範囲内であることから比較例に対して40%以上の疲労強度向上を示しており、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。なお、No.1-18および1-26は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状が良好なため比較例に比べて40%以上の疲労強度向上を示している。
【0053】
No.1-32〜1-51は超音波衝撃処理によって塑性変形を付与した本発明例である。No.1-32、37、42、47は圧痕の深さが(6)に係る本発明の範囲より小さいか大きい例、No.1-36、41、46、51は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲外の例、No.1-32〜36は圧痕の外周と打抜き境界の距離が2mmより大きい例であり、これらはいずれも比較例に比べて30%程度の疲労強度向上である。これらに対して、圧痕の深さ、打抜きクリアランスおよび圧痕の外周と打抜き境界の距離について(6)、(7)及び(8)に係る本発明の範囲を満たすNo.1-39、40、44、45、49、50はいずれも40%以上の疲労強度向上を示しており、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。なお、No.1-38、43、48は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状が良好なため比較例に比べて40%以上の疲労強度向上を示している。
【0054】
No.1-52〜1-71はハンマピーニングによって塑性変形を付与した本発明例である。超音波衝撃処理の場合と同様にNo.1-52、57、62、67は圧痕の深さが(6)に係る本発明の範囲より小さい例、No.1-56、61、66、71は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲外の例、No.1-52〜56は圧痕の外周と打抜き境界の距離が2mmより大きい例であり、これらはいずれも比較例に比べて30%程度の疲労強度向上度である。これらに対して、圧痕の深さ、打抜きクリアランスおよび圧痕の外周と打抜き境界の距離について(6)、(7)及び(8)に係る本発明の範囲を満たすNo.1-59、60、64、65、69、70はいずれも40%以上の疲労強度向上を示しており、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。なお、No.1-58、63、68は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状が良好なため比較例に比べて40%以上の疲労強度向上を示している。
【0055】
次に3.2mm厚の590MPa級鋼を用いた表2について見ると、No.2-1の比較例に対して、本発明の方法を適用した例No.2-2〜2-71は全て20%以上の疲労強度向上効果が認められ、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。No.2-2〜No.2-31は圧縮ポンチによる塑性変形付与の例を示しており、例えばNo.2-2〜2-9はほぼ同一の圧痕の外径を持つ例である。このうち圧痕深さが板厚の5〜15%の範囲にあるNo.2-3〜2-7はNo.2-2およびNo.2-9に比べてさらに10%程度の疲労強度向上が認められている。No.2-8は圧痕深さは5〜15%の範囲内であるが、打抜きクリアランスが10%を超えているため疲労強度はNo.2-2およびNo.2-9とほぼ同じである。
【0056】
なお、No.2-5は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状は良好なため疲労強度は比較例より高い。No.2-10〜2-31は圧縮ポンチによる塑性変形付与試験片において、圧痕の外周と打抜き境界の距離が2mm以下の例である。このうちNo.2-10、14、15、23、24および2-31は圧痕の深さが(6)に係る本発明の範囲より小さいか大きい例であり、またNo.2-21および2-29は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲外の例であるが、いずれも疲労強度の向上は比較例の30%程度である。
【0057】
これに対し、No.2-11〜13、16、17、19、20、22、25、27、28および30は圧痕の深さ、打抜きクリアランスとも(6)及び(8)に係る本発明の範囲内であることから比較例に対して40%以上の疲労強度向上を示しており、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。なお、No.2-18および2-26は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状が良好なため比較例に比べて40%以上の疲労強度向上を示している。
【0058】
No.2-32〜2-51は超音波衝撃処理によって塑性変形を付与した本発明例である。No.2-32、37、42、47は圧痕の深さが(6)に係る本発明の範囲より小さいか大きい例、No.2-36、41、46、51は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲外の例、No.2-32〜36は圧痕の外周と打抜き境界の距離が2mmより大きい例であり、これらはいずれも比較例に比べて30%程度の疲労強度向上度である。これらに対して、圧痕の深さ、打抜きクリアランスおよび圧痕の外周と打抜き境界の距離について(6)、(7)及び(8)に係る本発明の範囲を満たすNo.2-39、40、44、45、49、50はいずれも40%以上の疲労強度向上を示しており、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。なお、No.2-38、43、48は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状が良好なため比較例に比べて40%以上の疲労強度向上を示している。
【0059】
No.2-52〜2-71はハンマピーニングによって塑性変形を付与した本発明例である。超音波衝撃処理の場合と同様にNo.2-52、57、62、67は圧痕の深さが(6)に係る本発明の範囲より小さい例、No.2-56、61、66、71は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲外の例、No.2-52〜56は圧痕の外周と打抜き境界の距離が2mmより大きい例であり、これらはいずれも比較例に比べて30%程度の疲労強度向上度である。これらに対して、圧痕の深さ、打抜きクリアランスおよび圧痕の外周と打抜き境界の距離について(6)、(7)及び(8)に係る本発明の範囲を満たすNo.2-59、60、64、65、69、70はいずれも40%以上の疲労強度向上を示しており、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。なお、No.2-58、63、68は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状が良好なため比較例に比べて40%以上の疲労強度向上を示している。
【0060】
またさらに1.2mm厚の980MPa級鋼を用いた表3について見ると、No.3-1の比較例に対して、本発明の方法を適用した例No.3-2〜3-71は全て20%以上の疲労強度向上効果が認められ、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。No.3-2〜No.3-31は圧縮ポンチによる塑性変形付与の例を示しており、例えばNo.3-2〜3-9はほぼ同一の圧痕の外径を持つ例である。このうち圧痕深さが板厚の5〜15%の範囲にあるNo.3-3〜3-7はNo.3-2およびNo.3-9に比べてさらに10%程度の疲労強度向上が認められている。No.3-8の圧痕深さは5〜15%の範囲内であるが、打抜きクリアランスが10%を超えているため疲労強度はNo.3-2およびNo.3-9とほぼ同じである。
【0061】
なお、No.3-5は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状は良好なため疲労強度は比較例より高い。No.3-10〜3-31は圧縮ポンチによる塑性変形付与試験片において、圧痕の外周と打抜き境界の距離が2mm以下の例である。このうちNo.3-10、14、15、23、24および3-31は圧痕の深さが(7)に係る本発明の範囲より小さいか大きい例であり、またNo.3-21および3-29は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲外の例であるが、いずれも疲労強度の向上は比較例の30%程度である。これに対し、No.3-11〜13、16、17、19、20、22、25、27、28および30は圧痕の深さ、打抜きクリアランスとも(6)及び(8)に係る本発明の範囲内であることから比較例に対して40%以上の疲労強度向上を示しており、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。なお、No.3-18および3-26は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状が良好なため比較例に比べて40%以上の疲労強度向上を示している。
【0062】
No.3-32〜3-51は超音波衝撃処理によって塑性変形を付与した本発明例である。No.3-32、37、42、47は圧痕の深さが(6)に係る本発明の範囲より小さい例、No.3-36、41、46、51は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲外の例、No.3-32〜36は圧痕の外周と打抜き境界の距離が2mmより大きい例であり、これらはいずれも比較例に比べて30%程度の疲労強度向上度である。これらに対して、圧痕の深さ、打抜きクリアランスおよび圧痕の外周と打抜き境界の距離について(6)、(7)及び(8)に係る本発明の範囲を満たすNo.3-39、40、44、45、49、50はいずれも40%以上の疲労強度向上を示しており、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。なお、No.3-38、43、48は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状が良好なため比較例に比べて40%以上の疲労強度向上を示している。
【0063】
No.3-52〜3-71はハンマピーニングによって塑性変形を付与した本発明例である。超音波衝撃処理の場合と同様にNo.3-52、57、62、67は圧痕の深さが(6)に係る本発明の範囲より小さいか大きい例、No.3-56、61、66、71は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲外の例、No.3-52〜56は圧痕の外周と打抜き境界の距離が2mmより大きい例であり、これらはいずれも比較例に比べて30%程度の疲労強度向上度である。これらに対して、圧痕の深さ、打抜きクリアランスおよび圧痕の外周と打抜き境界の距離について(6)、(7)及び(8)に係る本発明の範囲を満たすNo.3-59、60、64、65、69、70はいずれも40%以上の疲労強度向上を示しており、本発明の方法が疲労強度向上に有効であることがわかる。なお、No.3-58、63、68は打抜きクリアランスが(8)に係る本発明の範囲より狭く、打抜きポンチおよび打抜きダイの耐久寿命の点では好ましく無いが、打抜き面性状が良好なため比較例に比べて40%以上の疲労強度向上を示している。
【0064】
以上のように、3種類の鋼板について本発明の方法を適用した結果、本発明の方法は打抜き材の疲労強度向上に有効であることが判明した。
【実施例2】
【0065】
(3)に係る本発明の効果を実証するため、下記に説明する疲労試験を行った。この疲労試験では、圧縮を行わない通常の打ち抜きを行った供試材C1と、圧縮ポンチ9の底面に孔23を設けることなく圧痕付与を行い、打ち抜きを行った供試材C2、並びに圧縮ポンチ9の底面に孔23を設けて圧痕付与を行い、打ち抜きを行った供試材C3を試験対象とし、結果を比較することとした。それぞれの試行数は10回である。供試材C1〜C3としての試験片には一般的に用いられるS45Cを用いた。試験片形状は実施例1と同じく幅80mm、長さ300mm、1.2mm厚の短冊型である。打抜き部はφ10mmの円形であり、圧縮ポンチの底面の直径及び圧痕はφ9mmの円形とした。圧痕深さについては、圧痕形成時の荷重が5tとなるまで圧縮ポンチが押し込まれた深さとした。圧縮ポンチの中心部に設けた孔のサイズはφ4.5mm、深さは3mmとした。打抜きポンチとダイスのクリアランスは板厚の10%、すなわち0.12mmとした。疲労試験条件は実施例1と同じである。
【0066】
結果を図24に示す。この図24では、各供試材C1〜C3を横軸に、またこれらについて実行した疲労試験の結果である疲労強度を縦軸に表している。
【0067】
通常打抜き材としての供試材C1と比較し、孔なし圧縮ポンチ9により圧痕を形成した供試材C2については平均して50MPa程度の疲労強度の上昇がみられた。一方、孔あり圧縮ポンチにより圧痕を形成した供試材C3については、平均して80MPaほどの疲労強度の上昇が見られた。この原因を考察するにあたり、目視で打抜き端面を観察したところ、明らかに孔あり圧縮ポンチ9により圧痕を形成した試験片のほうが表面粗度は低く、綺麗な端面であり、この打抜き端面の表面状態の影響が出たためであると考えられる。
【実施例3】
【0068】
(4)に係る本発明の効果を実証するため、下記に説明する疲労試験を行った。この疲労試験では、圧縮を行わない通常の打ち抜きを行った供試材D1と、圧縮ポンチ9の底面に突起24を設けることなく圧痕付与を行い、打ち抜きを行った供試材D2、並びに圧縮ポンチ9の底面に図20(b)に記載した突起24又は図20(e)に記載した突起24を設けて圧痕付与を行い、打ち抜きを行った供試材D3及びD4を試験対象とし、結果を比較することとした。供試材D1〜D4としての試験片には板厚4.8mmの590MPa級熱延鋼板を用いた。試験片形状は実施例1と同じく図23に示す幅80mm、長さ300mmの短冊型である。打抜き部はφ10mmの円形であり、圧縮ポンチの底面の直径及び圧痕はφ9.5mmの円形とした。圧縮ポンチの中心部に設けた突起のサイズは、図20(b)の場合、先端が半径1mmの半円球、底面との境界が半径2mmの円、突起の高さが1.5mmの山形のもの、図20(e)の場合は、外径7mm、幅1mm、高さ1mmの円環である。圧痕は、圧縮ポンチの底面における深さが0.5mm(板厚の約10%)となるまで付与した。打抜きポンチとダイスのクリアランスは板厚の8%、すなわち0.38mmとした。疲労試験条件は実施例1と同じであり、各圧縮条件についてそれぞれ5本のS-N線図を作成して破断寿命が200万回となる疲労強度で比較した。
【0069】
結果を図25に示す。
【0070】
通常打抜き材としての供試材D1の疲労強度は平均値が約270MPaであるのに対し、突起の無い圧縮ポンチ9により圧痕を形成した供試材D2については平均して約50MPaの疲労強度の向上が認められた。さらに図20(b)の形状の突起付き圧縮ポンチ9により圧痕を形成した供試材D3は通常打抜きの場合に比べて平均で約90MPaの疲労強度向上が認められ、またさらに図20(e)の形状の突起付き圧縮ポンチ9により圧痕を形成した供試材D4は疲労強度向上が著しく、通常打抜きの場合よりも平均で約120MPaの向上効果が認められた。このように、突起を有する圧縮ポンチに関する本発明を適用した結果、本発明の方法は打抜き材の疲労強度向上に有効であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の方法における打抜き方法の手順の一例を示す図である。
【図2】比較の方法における打抜き方法の手順の一例を示す図である。
【図3】比較の方法における打抜き面の状況を示す図である。
【図4】比較の方法における打抜き面および表面の残留応力分布を示す図である。
【図5】本発明の方法における圧縮変形後の残留応力分布を示す図である。
【図6】本発明の方法における打抜き面および表面の残留応力分布を示す図である。
【図7】プレス成形を受けた部材に本発明の方法を適用した状況を示す図である。
【図8】本発明の方法における圧縮変形付与工程および打抜き工程を示す例である。
【図9】本発明の方法における圧縮変形付与工程および打抜き工程を示す別の例である。
【図10】本発明の方法における圧縮変形付与工程および打抜き工程を示す別の例である。
【図11】本発明の方法における圧縮変形付与工程および打抜き工程を示す別の例である。
【図12】本発明の方法における圧縮変形付与工程および打抜き工程を示す別の例である。
【図13】衝撃塑性加工による塑性変形領域を示す図である。
【図14】底面に孔を有する圧縮ポンチの例を示す図である。
【図15】底面に孔を有する圧縮ポンチを用いることにより、圧痕形成荷重が減少するメカニズムを説明するための図である。
【図16】底面に孔を有する圧縮ポンチにおいて、孔形状の例を示した図である。
【図17】底面が平坦な圧縮ポンチによる圧痕付与工程を示す図である。
【図18】底面に突起を有する圧縮ポンチによる圧痕付与工程を示す図である。
【図19】底面に突起を有する圧縮ポンチによる圧痕付与工程を示す別の図である。
【図20】(a)は、底面に突起を有する圧縮ポンチ例の斜視図であり、(b)は、底面に突起を有する圧縮ポンチの別の例の斜視図であり、(c)は、底面に突起を有する圧縮ポンチの別の例の斜視図であり、(d)は、底面に突起を有する圧縮ポンチの別の例の斜視図であり(e)は、底面に突起を有する圧縮ポンチの別の例の斜視図であり、(f)は、底面に突起を有する圧縮ポンチの別の例の斜視図である。
【図21】圧縮変形を受ける領域と打抜かれる領域の関係を示す図である。
【図22】圧縮変形を受ける領域と打抜かれる領域の関係を示す別の図である。
【図23】本発明の実施例における試験片形状を示す図である。
【図24】実施例2における疲労試験の結果を示す図である。
【図25】実施例3における疲労試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 金属板
2 打抜きポンチ
3 打抜きダイス
4 打抜き面
5 塑性変形領域(圧痕)
6 打抜き部分
7 圧縮変形による裏面の変形部分
8 圧縮ダイス
9 圧縮ポンチ
10 圧縮変形受け台
11 中心偏析による割れ
12 バリ
13 圧痕の深さ
14 圧痕の外周と打抜き部の境界線の距離
15 圧痕の外周
16 打抜き部の境界線
17 衝撃塑性加工装置
18 衝撃塑性加工用先端工具
19 張残留応力領域
20 圧縮残留応力領域
21 打抜きクリアランス
22 打抜き穴周辺の表面
23 孔
24 突起
25 金属の塑性流動

特許の図
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成19年2月7日(2007.2.7)
【代理人】 【識別番号】100107250
【弁理士】
【氏名又は名称】林 信之

【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
【公開番号】 特開2008−137073(P2008−137073A)
【公開日】 平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願番号】 特願2007−28396(P2007−28396)