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【発明の名称】 熱間圧延巻取り設備用のロール及びその調整方法
【発明者】 【氏名】田中 哲夫

【氏名】板谷 幸司

【氏名】坂本 健太郎

【氏名】司城 浩一

【氏名】井上 靖人

【要約】 【課題】鋼板の種類によらずに、焼き付き疵の発生を防止することが可能な熱間圧延巻取り設備用のロール及びその調整方法を提供する。

【解決手段】鋼板を熱間圧延する際の巻取り設備に使用されるロールであって、前記ロールの胴部表面には、下地硬化肉盛層3と金属溶射層2とが形成されてなり、金属溶射層2は、母材層と、前記母材層中に分散された炭化物粒子とから構成され、金属溶射層2の表面において前記炭化物粒子の一部が前記母材層の表面よりも突出していることを特徴とする熱間圧延巻取り設備用のロール1を採用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を熱間圧延する際の巻取り設備に使用されるロールであって、
前記ロールの胴部表面には、下地硬化肉盛層と金属溶射層とが形成されてなり、
前記金属溶射層は、母材層と、前記母材層中に分散された炭化物粒子とから構成され、前記金属溶射層の表面において前記炭化物粒子の一部が前記母材層の表面よりも突出していることを特徴とする熱間圧延巻取り設備用のロール。
【請求項2】
前記母材層がNi基合金、Co基合金、Fe基合金のうちのいずれかであり、前記炭化物粒子が、WC、W、Cr、NbC、VC、MoC、TiC、SiCのうちのいずれか1種以上の炭化物からなることを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延巻取り設備用のロール。
【請求項3】
鋼板を熱間圧延する際の巻取り設備に使用されるロールの調整方法であって、
胴部表面に、下地硬化肉盛層と金属溶射層とが形成され、前記金属溶射層は、母材層と、前記母材層中に分散された炭化物粒子とから構成されてなるロールを用意し、
前記ロールの表面を研磨することによって、前記金属溶射層の表面において前記炭化物粒子の一部を前記母材層の表面よりも突出させることを特徴とする熱間圧延巻取り設備用のロールの調整方法。
【請求項4】
前記母材層がNi基合金、Co基合金、Fe基合金のうちのいずれかであり、前記炭化物粒子が、WC、W、Cr、NbC、VC、MoC、TiC、SiCのうちのいずれか1種以上の炭化物からなることを特徴とする請求項3に記載の熱間圧延巻取り設備用のロールの調整方法。
【請求項5】
前記ロールの表面を研磨する際に、エメリーペーパーを使用することを特徴とする請求項3に記載の熱間圧延巻取り設備用のロールの調整方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延巻取り設備用のロール及びその調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延工場の巻取り設備で使用されるピンチロールやラッパーロールは、冷却水および900℃にも及ぶ高温鋼板と接触しており、熾烈な腐食環境に曝されている。また、特にピンチロールは、鋼板との摺動および鋼板突入時の衝撃によって摩耗しやすい状況になる。
このような巻取り設備において使用される各種ロールに要求される主な性能には、上記の耐腐食性、耐摩耗性の他にも、鋼板に対する摩擦グリップ力および耐疵つき性(スリップ疵・焼付き疵)等がある。
【0003】
巻取り設備の各ロール構成は、図8に示すように、仕上げ圧延機において規定寸法に圧延された400〜900℃の高温鋼板110を巻取ってコイルに形成する設備において、1基または複数基のコイラー101(図8では1基)を備えており、各コイラー101の入側に位置する上・下ピンチロール111,102と、各コイラー101のマンドレル105周辺に位置する4本のラッパーロール106〜109で概略構成されている。
ピンチロール111、102及びラッパーロール106〜109は、その前後の設備である仕上げ圧延機とコイラー101との間における高温鋼板110の張力調整、搬送、方向転換を行ない、コイラー101での鋼板110の円滑な巻取りおよび巻き形状を整える役割を担っている。
【0004】
図8に示されるピンチロール111、102の表面は、上ピンチロール111の圧下を伴った高温鋼板110との接触、摺動および冷却水による腐食により摩耗する。一方、ラッパーロール106〜109も、同様の過酷な条件下で使用される。前記のピンチロール111の摩耗によってピンチロール111のロール胴部の形状が変化した場合、高温鋼板110に対するピンチ力および圧下力の変動を伴い、巻取り形状の崩れおよび疵発生の原因となることから、各ロール111、102、106〜109は通常1ヵ月間程度の短寿命取り替えが行なわれており、設備稼動率および修繕費用面で大きな損失を生じている。また、高温鋼板110をピンチおよび搬送するためには、ロール表面の摩擦係数の確保が必要であり、この値が低い場合には、高温鋼板とロール表面間において激しいスリップや焼付きを生じる。特にピンチロール111、102等の表面に焼付き疵がつくと、後続の鋼板に対してその疵を次々と転写させてしまい、鋼板の外観品質が著しく損なわれて問題視されていた。
【0005】
従来、これらのロールにおいては表面硬化の目的で、溶接肉盛、鋳かけ、鍛造等の方法が採用されていたが、最近では、下記特許文献1〜5に示すように、鋼製ロールの表面に溶射層を形成させてなるロールが、耐摩耗性及び耐疵付き性の面で非常に優れており、注目されている。
【特許文献1】特開平8−121464号公報
【特許文献2】特開平9−67054号公報
【特許文献3】特開平11−267731号公報
【特許文献4】特開昭59−163020号公報
【特許文献5】特開昭63−317207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜3に記載された内容によれば、これらの各文献には、タングステンカーバイド等の炭化物粒子が分散された自溶合金溶射層が形成されてなるロールが開示されている。このロールは、普通炭素鋼板を対象とする場合は、先に述べた巻取り設備に求められるロール性能や優れた耐久性を具備しており、何ら問題なく使用することが可能である。ところが、ステンレス鋼板を処理材として通板した場合には、ロールの交換直後から最初の1日目の間に、鋼板に焼付き疵が多発する現象が認められた。そしてこの期間を経過した後は、新たな焼付き疵が発生しないことも確認された。
また、ロール交換後、最初の数日間は普通炭素鋼板のみを通板し、その後ステンレス鋼板を通板させても焼付き疵が目立って発生しないことも確認された。
さらに、ロールの溶射材料がNiCrを母相とする場合に焼付き疵の発生が顕著に認められ、Fe基、Co基の場合は特に問題とならなかった。
【0007】
また、上記特許文献4では、Cr-Mo-Ni合金系のピンチロールを用いてチタンおよびステンレス鋼等の鋼板を巻き取る場合に焼付き疵が発生する問題に対して、ピンチロール表面に耐焼付け性材料を溶射することによって、焼付き疵の発生が防止可能とされている。しかし、先に述べたように、特定条件に限られた初期焼付きに関する開示はなく、この解決手段のみでは本技術課題を解消できない。
【0008】
更に、上記特許文献5では、ピンチロールの近傍にポリッシャーを配置させ、鋼板がピンチロールにかみこまれる前後から鋼板先端が巻取り機に到達するまでの間に、前記のポリッシャーによってピンチロールを研磨する方法が開示されている。しかし、ポリッシャーをピンチロールの近傍に配置するとともにその動作を制御するには、追加の設備投資が必要であり、現実的ではない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、鋼板の種類によらずに、焼き付き疵の発生を防止することが可能な熱間圧延巻取り設備用のロール及び熱間圧延巻取り設備用のロールの調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意研究を行ったところ、特に初期の焼き付き疵の発生メカニズムとして、以下の3つの事象が考えられることに至った。
(1)溶射材の母相としてNiCr合金を使用し、鋼板としてステンレス鋼を用いた場合には、共にNiとCrを多量に含有する類似成分系であるため、焼付きやすい。
(2)ロールの表面が平滑面であると、金属溶射層の母相(たとえばNiCr合金)と、ステンレス鋼が直接接触しやすく、焼付きが多発しやすい。
(3)このロールを一定期間使用すると、軟質な母相(NiCr合金)が優先的に磨耗されて炭化物粒子がロール表面に突出する。そのため、母相とステンレス鋼とが直接接触しないので焼付きが発生しなくなる。
【0011】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、上記の目的を達成すべく以下の構成を採用した。
本発明の熱間圧延巻取り設備用のロールは、鋼板を熱間圧延する際の巻取り設備に使用されるロールであって、前記ロールの胴部表面には、下地硬化肉盛層と金属溶射層とが形成されてなり、前記金属溶射層は、母材層と、前記母材層中に分散された炭化物粒子とから構成され、前記金属溶射層の表面において前記炭化物粒子の一部が前記母材層の表面よりも突出していることを特徴とする。
また、本発明の熱間圧延巻取り設備用のロールにおいては、前記母材層がNi基合金、Co基合金、Fe基合金のうちのいずれかであり、前記炭化物粒子が、WC、W、Cr、NbC、VC、MoC、TiC、SiCのうちのいずれか1種以上の炭化物からなることが好ましい。
【0012】
上記の熱間圧延巻取り設備用のロールによれば、ロール表面に金属溶射層が形成され、金属溶射層の表面において炭化物粒子の一部が母材層の表面よりも突出しているので、鋼板がロールに接触した際には主に炭化物粒子による突出部が鋼板と接触し、鋼板と母材層との接触が妨げられる。これにより、鋼板の一部がロール側に焼き付くおそれが少なくなり、ロール表面が常にきれいな状態に保たれ、後に続いて供給される鋼板に対して焼き付疵を転写させる虞がない。
また上記の熱間圧延巻取り設備用のロールによれば、炭化物粒子がWC、W、Cr等の高硬度材料から構成されるので、鋼板がロールと接触した際にも炭化物粒子自体の摩耗量が少なく、また、焼き付きの発生もなく、これによりロールの長寿命化を図ることができる。
また、上記のロールによれば、ロール表面に金属溶射層が形成されているので、ロールの耐摩耗性、耐腐食性、摩擦グリップ力及び耐疵つき性の向上を図ることができる。
【0013】
次に本発明の熱間圧延巻取り設備用のロールの調整方法は、鋼板を熱間圧延する際の巻取り設備に使用されるロールの調整方法であって、胴部表面に、下地硬化肉盛層と金属溶射層とが形成され、前記金属溶射層は、母材層と、前記母材層中に分散された炭化物粒子とから構成されてなるロールを用意し、前記ロールの表面を研磨することによって、前記金属溶射層の表面において前記炭化物粒子の一部を前記母材層の表面よりも突出させることを特徴とする。
本発明における「研磨」とは、機械研磨、化学研磨、電解研磨に代表される全ての研磨を含む。機械研磨としては、例えばエメリーペーパー、砥石、鋼製ブラシを使う方法、ショットのような噴射加工を施す方法等が挙げられる。本発明の目的が実現可能な研磨であれば、特に限定しないが、特に、エメリーペーパーの使用が、粒度調節の自由度、簡便性、経済性の面で最も好ましい。
また本発明の熱間圧延巻取り設備用のロールの調整方法においては、前記母材層がNi基合金、Co基合金、Fe基合金のうちのいずれかであり、前記炭化物粒子が、WC、W、Cr、NbC、VC、MoC、TiC、SiCのうちのいずれか1種以上の炭化物からなることが好ましい。
【0014】
上記の熱間圧延巻取り設備用のロールの調整方法によれば、ロール表面の金属溶射層において炭化物粒子の一部を母材層の表面よりも突出させるので、鋼板がロールに接触した際には主に炭化物粒子による突出部が鋼板と接触し、鋼板と母材層との接触が妨げられる。これにより、鋼板の一部がロール側に焼き付く虞が少なくなり、ロール表面が常にきれいな状態に保たれ、後に続いて供給される鋼板に対して焼き付疵を転写させる虞がない。
また上記の熱間圧延巻取り設備用のロールの調整方法によれば、炭化物粒子がWC、W、Cr等の高硬度材料から構成されるので、鋼板がロールと接触した際にも炭化物粒子自体の摩耗量が少なく、これによりロールの長寿命化を図ることができる。
また、炭化物粒子の一部を母材層の表面より突出させる手段として、エメリーペーパーによる研磨法を採用することで、母材層の表面が炭化物粒子よりも比較的優先的に研磨され、金属溶射層の表面が平坦面に形成される虞が少なく、炭化物粒子の一部を母材層の表面より突出させた仕上げ面を容易に形成させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱間圧延巻取り設備におけるロールの初期焼付き現象を極めて簡便な方法で防止することが可能であり、鋼板の外観品質を損なうことなく、ロール交換の頻度を少なくすることが可能である。その結果、熱間圧延工場の設備稼働率および修繕コストを改善することが実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1(a)には、本実施形態の熱間圧延巻取り設備用のロール(以下、ロールと表記する)の模式図を示し、図1(b)には、図1(a)の符号Aに示す部分の拡大断面模式図を示す。
本実施形態のロール1は、鋼板の熱間圧延工場の巻取り設備に備えられるピッチロールまたはラッパーロールのいずれか一方または両方に適用されるものであって、図1に示すように、ロール胴部を構成するロール本体部4と、ロール本体部4に積層された下地硬化肉盛層3と、下地硬化肉盛層3に積層された金属溶射層2とから概略構成されている。
【0017】
ロール本体部4は、例えば炭素鋼からなるものであって、内部に空間部を有する中空ロールであっても良く、内部に空間部を有しない中実ロールであっても良い。
また、下地硬化肉盛層3は、例えば、ショアー硬度Hs50以上の比較的低炭素な鋼から構成されている。この下地硬化肉盛層3は、組織をマルテンサイト化するための高Cr、Mo、V等を含有した溶接材料を使用して肉盛溶接することで形成される。
下地硬化肉盛層3のショアー硬度Hsが50未満であると、ロール1に対する負荷荷重、走行通過材である鋼板の衝撃によるロール1表面の凹み変形、曲げ歪みに対する耐久性が得られない。ショアー硬度Hsを50以上にするには、下地硬化肉盛層3の形成後に、全体熱処理を行えばよい。
また、下地硬化肉盛層3の厚さは、片肉3mm以上とすることが好ましい。片肉3mm未満ではロール1に対する負荷荷重、走行通過材である鋼板の衝撃によるロール1表面の凹み変形、曲げ歪みに対する耐久性が得られない。
【0018】
次に、金属溶射層2は、母材層と、この母材層中に分散された炭化物粒子とから概略構成されている。
金属溶射層2における炭化物粒子の含有率は3〜60質量%の範囲が好ましい。炭化物粒子の含有率をこの範囲とすることで、ロール1の耐摩耗性を著しく向上させることができる。炭化物粒子の含有率が前記範囲の下限値未満になると、炭化物粒子が少なすぎて耐磨耗性が得られず好ましくない。一方、含有率が前記範囲の上限値を超えると、ロール1の製作コストが高く経済的でないばかりか、金属溶射層2自体の靭性低下によって製作過程で割れ発生が懸念されるので好ましくない。
また、炭化物粒子の粒径は、3μm〜300μmの範囲が好ましく、30μm〜300μmの範囲がより好ましく、50〜100μmの範囲が特に好ましい。炭化物粒子の粒径が前記範囲の下限値未満になると、金属溶射層2内部での炭化物粒子の均一分散が困難となり、偏析を生じて表面硬度が一様ではなくなり偏磨耗の原因となる。一方、炭化物粒子の粒径は、大きいほど耐磨耗性および摩擦係数は向上して好ましくなるが、前記範囲の上限値を超えると、処理後の鋼板の表面に擦り疵が目立つようになり、鋼板の外観品質を損なう結果となるので好ましくない。
また炭化物粒子のビッカース硬度Hvは、1000以上が好ましい。ビッカース硬度Hvが前記の範囲より少ないと、ロール1の耐摩耗性が著しく低下するので好ましくない。
炭化物粒子の材質としては、WC、W、Cr、NbC、VC、MoC、TiC、SiCのうちのいずれか1種以上の炭化物を例示することができる。
【0019】
次に、金属溶射層2を構成する母材層は、溶射によって下地硬化肉盛層3上に均一な溶射層を形成可能なものであれば、どのようなものでも良いが、高温の鋼板と接触することから、ある程度の耐熱性と耐衝撃性を備え、かつビッカース硬度Hvが200以下程度のものが好ましい。
耐熱性及び耐衝撃性を備えた材料としては、Ni基合金、Co基合金、Fe基合金のうちのいずれかを例示することができ、具体的にはNiCr合金を例示できる。
また、母材層のビッカース硬度Hvは上述のとおり200以下の範囲が好ましい。母材層のビッカース硬度Hvが前記範囲を超えると、後述するように炭化物粒子の一部を母材層表面よりも突出させることが困難になる。
【0020】
次に、金属溶射層2の厚みは、0.5mm以上の範囲が好ましく、0.5mm〜2mmの範囲がより好ましい。金属溶射層2の厚みが上記範囲の下限値未満であると、鋼板とロール1との接触による摩耗によって金属溶射層2が早期に摩耗してしまい、ロール1の寿命が大幅に短くなってしまうので好ましくない。また、金属溶射層2の厚みが上記範囲の上限値を超えると、ロール1の製作コストが高くなるので好ましくない。
【0021】
次に図2には、本実施形態のロール1の金属溶射層の要部を断面模式図で示す。
図2に示すように、金属溶射層2の表面においては、炭化物粒子2aの一部が母材層2bの表面2bよりも突出した状態になっている。炭化物粒子2aの平均突出高さは2μm〜30μmの範囲とされている。ここで平均突出高さとは、母材層2bの表面2bから炭化物粒子2aの最頂部までの高さの平均値である。平均突出高さが上記範囲の下限値未満であると、鋼板の焼き付きを防止できなくなるので好ましくない。また、平均突出高さが上記範囲の上限値を超えると、炭化物粒子2aが突出し過ぎて炭化物粒子2aの母材層2bに対する接合力が低下し、炭化物粒子2aが脱落しやすくなるので好ましくない。
また、金属溶射層2の母材層2bの表面2bにおける炭化物粒子2aの密度は20個/mm〜300個/mmの範囲が好ましい。炭化物粒子2aの密度は、例えば母材層2bの表面2bの単位面積当たりの炭化物粒子2aの数を、電子顕微鏡等で観察しながら計測することで求めることができる。炭化物粒子2aの密度が前記範囲の下限値未満であると、鋼板に接触する炭化物粒子の数が減少してロール自体の耐摩耗性が低下すると共に、焼き付きが防止できなくなるので好ましくない。また、炭化物粒子2aの密度が前記範囲の上限値を超えると、ロール1の製作コストが高く経済的でないばかりか、金属溶射層2自体の靭性低下によって製作過程で割れ発生が懸念されるので好ましくない。
【0022】
次に、本実施形態のロール1の調整方法について説明する。
まず、ロール本体部4に、下地硬化肉盛層3と金属溶射層2とを順次積層させてロールを形成する。
ロール本体部4に下地硬化肉盛層3を積層するには、上述したように、組織をマルテンサイト化するための高Cr、Mo、V等を含有した溶接材料を使用して肉盛溶接することで形成する。下地硬化肉盛層3の厚みは少なくとも3mm以上にすることが好ましい。下地硬化肉盛層3を形成した後には、全体熱処理を行って、下地硬化肉盛層3のショアー硬度Hsを50以上にする。
【0023】
次に、下地硬化肉盛層3の上に、金属溶射層2を溶射法により形成する。溶射の手段としては、自溶合金溶射法、高速ガス溶射法およびプラズマ溶射法等が挙げられるが、巻取設備における各ロールにおいては、圧延鋼板の突入時の衝撃および熱衝撃、圧下による転動疲労に金属溶射層2が耐えうること、ならびに耐ビードマーク性が要求されることから、下地硬化肉盛層3との冶金結合および成分・組織偏析の発生しない施工法が有効であり、従って本実施形態においては自溶合金溶射法を採用することが望ましい。
金属溶射層2の厚みは0.5mm以上あればよい。また、金属溶射層2の表面が平滑面になるように砥石やグラインダー等で研磨を行っても良い。このようにして調製された金属溶射層は、図3に示すように、表面が平滑面となり、母材層2b中には炭化物粒子2aが分散された状態になっている。
【0024】
次に、金属溶射層2の表面に対して、研磨による粗面化処理を行う。この粗面化処理によって、図2に示すように、炭化物粒子2aの一部を母材層2bの表面2bよりも突出させた状態にする。
【0025】
研磨による粗面化処理を行う場合には、エメリーペーパーのような、比較的柔軟な基材に砥粒が接着されてなる研磨材を用いて金属溶射層2の表面を粗面化させると良い。こうした研磨材を用いて金属溶射層2を研磨すると、比較的低硬度(Hv≦200)な母材層2bの表面が研磨され、比較的高硬度(1000≦Hv)な炭化物粒子2aがそのまま残される。研磨を続けることによって、炭化物粒子2aの平均突出高さが次第に高くなり、ついには平均突出高さが所望の範囲となる。この時点で研磨を止めることで、図2に示すように、炭化物粒子2aの一部が母材層2bの表面2bよりも突出された状態になる。ここで、エメリーペーパーではなく、硬質の基材に砥粒が接着されてなる研磨材や、砥石等を用いて研磨することも可能であるが、その仕上がりの良否は炭化物粒子の平均直径・密度等に左右されやすく、作業員の熟練度を必要とする。不適切な研磨方法では、研磨の際の摩擦力によって炭化物粒子が脱落してしまい、金属溶射層2の表面に、研磨材を構成する基材や砥石の表面形状が転写された状態になり、炭化物粒子2aの一部が突出した表面形状を形成できなくなる虞がある。
【0026】
上記の方法によって調整されたロール1は、ロールの胴部表面に下地硬化肉盛層3と金属溶射層2とが形成され、金属溶射層2の表面において炭化物粒子2aの一部が母材層2bの表面2bよりも突出されたものとなる。
このロール1を、熱間圧延工程における巻取設備のピンチロール及びラッパーロールに適用し、この巻取設備を用いて圧延鋼板をコイル状に成形するには、まず、圧延鋼板をピンチロールで挟み込んでから鋼板先端をラッパーロール近傍まで送り出し、ラッパーロールによって鋼板先端をマンドレルに押し付け、圧延鋼板がマンドレルに1周以上巻き付くまでラッパーロールで鋼板を固定し続け、その後、ラッパーロールによる固定を解除することで、圧延鋼板がマンドレルにコイル状に巻き付けられる。
【0027】
上記の工程において、最初のピンチロールには、仕上げ圧延機から高速度で送りだされた400〜900℃程度の高温の圧延鋼板が衝突し、その一方で冷却のためにピンチロールにはその近傍に設置されたスプレーノズルから冷却水が吹きつけられる。この時、特に金属溶射層の母材層と似た組成の圧延鋼板が供給された場合には、圧延鋼板と金属溶射層の母材層との親和性によって圧延鋼板の一部が金属溶射層に焼き付いてしまう虞があるところ、本実施形態のロール1においては、炭化物粒子2aが母材層2bの表面2bより突出しているので、圧延鋼板が炭化物粒子2aのみに接触し、母材層2bと接触する可能性が小さく、これによりたとえ鋼板組成と母材層2bの組成とが近似していたとしても、圧延鋼板によるロール1への焼き付きが防止される。また、ロール1への焼き付きが防止されることで、後続の圧延鋼板に対して焼き付き疵を転写させることがなく、圧延鋼板の外観品質を高めることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明について更に詳細に説明する。
まず、炭素鋼(S45C鋼)からなるロール本体部を用意し、このロール本体部の表面に、C:0.25%、Si:0.3%、Mn:1.2%、Cr:13%、Mo:0.6%、Ni:1.3%及び残部Feからなる厚み9mmの下地硬化肉盛層3を溶接法により形成した。下地硬化肉盛層3の形成後に全体を熱処理して下地硬化肉盛層のショアー硬度HSを50以上にした。
次に、NiCr合金(Ni:57%、Cr:12.3%、残部:30.7%)を母材層とし、WCを炭化物粒子とする厚さ1.5mmの金属溶射層を形成した。尚、WC粒子の粒径は50〜100μmの範囲であり、WC粒子の金属溶射層における含有率は10〜30%であり、母材層のビッカース硬度Hvは200であり、炭化物粒子のHvは1600であった。また、金属溶射層の形成後に、その表面をロールグラインダーによって研削して平滑面とした。
【0029】
次に、エメリーペーパーを用いて金属溶射層の表面を研磨して粗面化した。尚、エメリーペーパーは一般の市販品で差し支えない。その粒度や湿式・乾式の種類は特に限定しないが、炭化物粒子の平均粒径、母材層と炭化物粒子の材質等に応じて適宜選択すると良い。粗面化作業は、炭化物粒子の平均突出高さが5μm程度になるまで行った。このようにして、金属溶射層の表面において、炭化物粒子の一部が母材層の表面よりも突出されてなる実施例1のロールを製造した。
【0030】
また、エメリーペーパーを用いた粗面化処理を行わなかったこと以外は上記実施例1と同様にして、比較例1のロールを製造した。
【0031】
実施例1及び比較例1のロールについて、金属溶射層の表面を光学顕微鏡により観察すると共に、金属溶射層の表面の凹凸形状のプロファイルをプロファイルメータにより測定した。比較例1の光学顕微鏡写真及びプロファイルデータを図4に示し、実施例1の光学顕微鏡写真及びプロファイルデータを図5に示す。
【0032】
図4に示すように、比較例1のロール表面は、プロファイルデータのノイズレベルが10μm以下であり、ほとんど平滑面になっているものと考えられる。一方、エメリーペーパーによって粗面化処理を施した実施例1のロール表面は、図5に示すようにWC粒子が所々に突出しており、その突出高さは最大で5μm程度であることがわかる。
【0033】
次に、実施例1及び比較例1のロールを用いて、初期焼き付き試験を行った。図6に初期焼き付きの試験装置を示す。図6に示す試験装置は、回転駆動されるテストロール11と、テストロール11上に設置された疑似鋼板12であるステンレス鋼板(SUS304)と、疑似鋼板の一端側を支持する回転支点13と、疑似鋼板12の他端側において疑似鋼板12をテストロール11側に押し付ける荷重印加部14と、疑似鋼板12のテストロール11側とは反対側から疑似鋼板12を加熱する加熱バーナ15と、疑似鋼板12とテストロール11との接触箇所の温度をモニタする非接触型温度計16と、により概略構成されている。また、テストロール11は、疑似鋼板とは反対側の方向から冷却水が吹きつけられている。
【0034】
上記の試験装置のテストロール11として、実施例1及び比較例1のロールを使用し、ロール11表面と疑似鋼板12の表面との相対速度を0.79m/秒に設定し、ロール11と疑似鋼板12の接触箇所における試験荷重を13kgfとし、疑似鋼板12の温度を850℃にして、焼き付き試験を行った。結果を図7に示す。
【0035】
図7に示すように、試験後の比較例1のロール表面には、線状の焼き付き痕がはっきりと確認された。また、ロール表面のプロファイルを測定したところ、焼き付き痕に対応する箇所に、高さ20μm程度のプロファイルピークが見られた。このように比較例1のロールでは、焼き付きが生じてしまうことが判明した。
一方、図7に示すように、試験後の実施例1のロール表面には、肉眼で目視できる程度の焼き付き痕は発見されなかった。また、ロール表面のプロファイルを測定したところでは、焼き付きによるものと見られる高さ5μm程度の小さなプロファイルピークが所々に見られたものの、そのピーク幅は非常に狭く、問題になる程度の大きさの焼き付きではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本実施形態の熱間圧延巻取り設備用のロールを示す図であって、(a)はロールの全体を示す模式図であり、(b)は、(a)における符号Aに示す部分の拡大断面模式図である。
【図2】図2は、本実施形態の熱間圧延巻取り設備用のロールを構成する金属溶射層の要部を示す断面模式図である。
【図3】図3は、本実施形態の熱間圧延巻取り設備用のロールを構成する金属溶射層の要部を示す図であって、金属溶射層を研磨する前の状態を示す断面模式図である。
【図4】図4は、比較例1のロール表面の光学顕微鏡写真(a)及びプロファイルデータ(b)を示す図である。
【図5】図5は、実施例1のロール表面の光学顕微鏡写真(a)及びプロファイルデータ(b)を示す図である。
【図6】図6は、初期焼き付きの試験装置を示す模式図である。
【図7】図7は、実施例1及び比較例1のロール表面の光学顕微鏡写真とプロファイルデータとを示す図である。
【図8】図8は、熱間圧延設備における巻取設備の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1ロール(熱間圧延巻取り設備用のロール)、2…金属溶射層、2a…炭化物粒子、2b…母材層、2b…母材層の表面、3…下地硬化肉盛層
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【識別番号】390030823
【氏名又は名称】日鉄ハード株式会社
【出願日】 平成18年10月20日(2006.10.20)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和

【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄

【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士


【公開番号】 特開2008−100271(P2008−100271A)
【公開日】 平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願番号】 特願2006−286249(P2006−286249)