トップ :: B 処理操作 運輸 :: B21 本質的には材料の除去が行なわれない機械的金属加工;金属の打抜き

【発明の名称】 鋼線伸線装置
【発明者】 【氏名】小林 敏行

【要約】 【課題】鋼線伸線時の発熱を抑制することができ、延性の優れたブラスめっき鋼線を製造可能な鋼線伸線装置を提供する。

【構成】ブラスめっきを施した鋼線11を複数のダイスを用いて伸線加工する鋼線伸線装置において、最終ダイス1Zのみ、あるいは、最終ダイス1Z及び最終ダイス1Zの前段に設置される1つ又は複数のダイス1が、焼結ダイヤモンドにより形成され、かつ、引抜穴2を通過する鋼線11に対する減面率が1%未満となるような直径dの引抜穴2を備えたことを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラスめっきを施した鋼線を複数のダイスを用いて伸線加工する鋼線伸線装置において、最終ダイスのみが焼結ダイヤモンドにより形成され、この最終ダイスが、引抜穴を通過する鋼線に対する減面率が1%未満となるような直径の引抜穴を備えたことを特徴とする鋼線伸線装置。
【請求項2】
最終ダイスのベアリング長が、最終ダイスの引抜穴の直径の30%以上80%以下に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の鋼線伸線装置。
【請求項3】
ブラスめっきを施した鋼線を複数のダイスを用いて伸線加工する鋼線伸線装置において、最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスが、焼結ダイヤモンドにより形成され、かつ、引抜穴を通過する鋼線に対する減面率が1%未満となるような直径の引抜穴を備えたことを特徴とする鋼線伸線装置。
【請求項4】
最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスに形成された引抜穴の直径が同じであり、これらダイスのベアリング長の合計値が、これらダイスの引抜穴の直径の40%以上200%以下に設定されたことを特徴とする請求項3に記載の鋼線伸線装置。
【請求項5】
最終ダイス、あるいは、最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスの引抜穴の直径が、ダイスに入る直前の鋼線の断面の直径±0.002mmの寸法に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の鋼線伸線装置。
【請求項6】
最終ダイス、あるいは、最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスが、粒径1μm以下の単結晶ダイヤモンドのダイヤモンド粒子を焼結して形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の鋼線伸線装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、延性の優れたブラスめっき鋼線を製造可能な鋼線伸線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ補強用スチールコードの素線等に用いられるゴム物品補強用鋼線として、表面にブラスめっきを施したブラスめっき鋼線が用いられている。このブラスめっき鋼線は、パテンティング等の熱処理とブラスめっき処理とを施した鋼線を、多段スリップ型湿式伸線装置を用いて所望の線径まで伸線して製造される。このブラスめっき鋼線とゴムとの接着に関して、例えば、タイヤ製造時の加硫工程において、ブラスめっき鋼線とゴムとを接触させた状態で加熱することにより、ゴム中の硫黄とブラスめっき中の銅とが反応して接着層が形成されることが知られている。この接着層は、加硫工程において速やかにかつ確実に形成されること(初期接着性能)、及び、形成された接着層がゴム物品の使用時に水分や熱によって劣化しないこと(耐久接着性能)が求められている。
多段スリップ型湿式伸線装置に用いられる鋼線引抜用のダイスとしては、タングステンカーバイト(WC)などの硬質の炭化物または窒化物の粉末を焼結してなる超硬合金を用いて形成した超硬合金ダイスが用いられていたが、タイヤ補強用スチールコードの素線等に用いられる高強度鋼線の製造においては、従来の伸線以上の発熱を伴うために、製造されるブラスめっき鋼線の延性を確保するのが困難であるだけでなく、ダイスの引抜穴の穴壁面が荒れてブラスめっき鋼線の引抜抵抗が大きくなり、ブラスめっき鋼線の表面のブラスめっき層の引張残留応力を十分に緩和することが困難であった。
そこで、多段スリップ型湿式伸線装置の最終ダイス、又は、最終ダイスと最終ダイスより上流側の数個のダイスとして、上記超硬合金ダイスに代えて、超硬合金よりも硬い焼結ダイヤモンドを用いて形成した焼結ダイヤモンドダイスを用いることが知られている。焼結ダイヤモンドダイスは、優れた自己潤滑性(低摩擦抵抗)と優れた耐磨耗性とを備え、鋼線伸線時の発熱を抑制できるので、ブラスめっき鋼線の表面のブラスめっき層の引張残留応力を十分に緩和することができ、ゴムとの接着性に優れたブラスめっき鋼線を得ることができる。
【特許文献1】特開2003−313788号公報
【特許文献2】特開2003−342883号公報
【特許文献3】特開2004−66271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、鋼線に対する減面率の大きい焼結ダイヤモンドダイスを用いた場合、即ち、焼結ダイヤモンドダイスの引抜穴の直径dが、この焼結ダイヤモンドダイスの引抜穴に入ってくるブラスめっき鋼線の直径d1よりも小さく、直径dと直径d1との差が大きい場合には、伸線時の発熱が大きくなり、延性の優れたブラスめっき鋼線を製造できない場合がある。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、延性の優れたブラスめっき鋼線を製造可能な鋼線伸線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る鋼線伸線装置は、ブラスめっきを施した鋼線を複数のダイスを用いて伸線加工する鋼線伸線装置において、最終ダイスのみが焼結ダイヤモンドにより形成され、この最終ダイスが、引抜穴を通過する鋼線に対する減面率が1%未満となるような直径の引抜穴を備えたことを特徴とする。
最終ダイスのベアリング長が、最終ダイスの引抜穴の直径の30%以上80%以下に形成されたことも特徴とする。
ブラスめっきを施した鋼線を複数のダイスを用いて伸線加工する鋼線伸線装置において、最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスが、焼結ダイヤモンドにより形成され、かつ、引抜穴を通過する鋼線に対する減面率が1%未満となるような直径の引抜穴を備えたことも特徴とする。
最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスに形成された引抜穴の直径が同じであり、これらダイスのベアリング長の合計値が、これらダイスの引抜穴の直径の40%以上200%以下に設定されたことも特徴とする。
最終ダイス、あるいは、最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスの引抜穴の直径が、ダイスに入る直前の鋼線の断面の直径±0.002mmの寸法に形成されたことも特徴とする。
最終ダイス、あるいは、最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスが、粒径1μm以下の単結晶ダイヤモンドのダイヤモンド粒子を焼結して形成されたことも特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の鋼線伸線装置によれば、最終ダイスのみが焼結ダイヤモンドにより形成され、この最終ダイスが、引抜穴を通過する鋼線に対する減面率が1%未満となるような直径の引抜穴を備えたので、鋼線の減面率が1%未満となるようなダイスによるスキンパス伸線によって鋼線のブラスめっき表層部を集中的にかつ安定的に加工できるとともに、焼結ダイヤモンドにより形成された最終ダイスの優れた自己潤滑性(低摩擦抵抗)と優れた耐磨耗性とによって鋼線伸線時の発熱を抑制することができるので、装置のダイスコストを抑えることができるとともに、ゴムとの接着性に優れ、かつ、延性の優れたブラスめっき鋼線を製造できる。
最終ダイスのベアリング長を、最終ダイスの引抜穴の直径の30%以上80%以下にしたことで、ゴムとの接着性に優れ、かつ、延性の優れたブラスめっき鋼線を製造できる。
最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスが、焼結ダイヤモンドにより形成され、かつ、引抜穴を通過する鋼線に対する減面率が1%未満となるような直径の引抜穴を備えたので、鋼線の減面率が1%未満となるようなダイスによるスキンパス伸線によって鋼線のブラスめっき表層部を集中的にかつ安定的に加工できるとともに、焼結ダイヤモンドにより形成された最終ダイスの優れた自己潤滑性(低摩擦抵抗)と優れた耐磨耗性とによって鋼線伸線時の発熱を抑制することができるので、延性の優れたブラスめっき鋼線を製造できる。
最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスに形成された引抜穴の直径を同じ寸法とし、これらダイスのベアリング長の合計値が、これらダイスの引抜穴の直径の40%以上200%以下にしたことで、延性の優れたブラスめっき鋼線を製造できる。
ダイスの引抜穴の直径が、ダイスに入る直前の鋼線の断面の直径±0.002mmの寸法に形成されたので、鋼線のブラスめっき表層部の加工が安定して行われることによって、ゴムとの接着性に優れ、かつ、延性の優れたブラスめっき鋼線を製造できる。
最終ダイス及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスとして、粒径1μm以下の単結晶ダイヤモンドのダイヤモンド粒子を焼結して形成されたダイスを用いたことで、製造されるブラスめっき鋼線の延性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の最良の形態について、図1及び図2に基づき説明する。図1は鋼線伸線装置を示し、図2は最終パスを示し、図3は従来例及び各実施例の条件とその条件での伸線加工評価結果とを示す。
【0007】
図1を参照し、鋼線伸線装置10を説明する。鋼線伸線装置10は、表面にブラスめっきを施した鋼線(以下、ブラスめっき鋼線という)11を巻出す巻出部16、潤滑液15が満たされた潤滑液槽18、伸線されたブラスめっき鋼線11を巻き取る巻取部17を備える。潤滑液槽18内の潤滑液15中には、複数の伸線パス12、最終段の伸線パス(以下、最終パスという)12Z、複数の駆動キャプスタン13,14を備える。最終パス12Zは1つ以上のダイスを備える。巻出部16から巻き出されたブラスめっき鋼線11は、潤滑液槽18中の複数の伸線パス12及び最終パス12Zのダイスの引抜穴を通過することにより伸線加工されて巻取部17に巻き取られる。
【0008】
図2を参照し、鋼線伸線装置10の最終パス12Zを説明する。最終パス12Zは1つ以上の焼結ダイヤモンドダイス1を備える。図2では、2つの焼結ダイヤモンドダイス1を備えた最終パス12Zを例示した。焼結ダイヤモンドダイス1は、ダイヤモンドニブ3とダイヤモンドニブ3を内部に保持する保持体4とにより形成される。ダイヤモンドニブ3は、粒径1μm以下の単結晶ダイヤモンドのダイヤモンド粒子をコバルト金属のようなバインダーで焼結した後このバインダーを除去して形成された焼結ダイヤモンドに精密な引抜穴2が形成されたものである。最終パス12Zの少なくとも一番後ろのダイス設置位置には焼結ダイヤモンドダイス1(以下、最終ダイス1Zという)が設置される。最終パス12Zにおける最終ダイス1Zは、引抜穴2の直径dが、最終ダイス1Zの引抜穴2を通過するブラスめっき鋼線11に対する減面率が2%未満となるように形成されたものである。即ち、最終ダイス1Zに入る直前のブラスめっき鋼線11の断面積をX1とし、最終ダイス1Zを通過後のブラスめっき鋼線11の断面積をX2とした場合に、(X1−X2)/X1が0.01未満となるように設定された直径dの引抜穴2を備えた焼結ダイヤモンドダイス1を最終ダイス1Zとして用いる。例えば、最終ダイス1Zに入る直前のブラスめっき鋼線11の断面の直径(以下、入線径という)をd1とした場合に、引抜穴2の直径dがd1±0.002mmの寸法に形成された最終ダイス1Zを使用する。
【0009】
最終ダイス1Zの直径dが入線径d1より大きい場合には、最終ダイス1Zの引抜穴2を通過するブラスめっき鋼線11に対する減面率は実質0%になるが、実際の操業では微妙な芯ずれやブラスめっき鋼線11の振動を伴うので、最終ダイス1Zの引抜穴2の直径dを入線径d1よりも0.002mm程度大きくしてやれば、ブラスめっき鋼線11の表面と最終ダイス1Zの引抜穴2の穴壁面とが接触し、ブラスめっき鋼線11の表面のブラスめっきは最終ダイス1Zによる加工を受ける。減面率が0%であると、下地の鋼材への影響が少ないので、かえって好ましい場合がある。
【0010】
最終パス12Zが最終ダイス1Zの他にダイスを備えない構成とする場合は、引抜穴2のベアリング長(引抜穴2の軸心に沿った方向の長さ)Lが、引抜穴2の直径の30%以上80%以下に形成された最終パス12Zを用いる。引抜穴2の直径dがブラスめっき鋼線11の入線径d1±0.002mmの寸法に形成され、ベアリング長Lが引抜穴2の直径の30%以上80%以下の最終ダイス1Zを用いたことで、減面率が0%である場合を含めて、ブラスめっき鋼線11のブラスめっき表層部の加工が安定して行われるので、ゴムとの接着性に優れ、かつ、延性の優れたブラスめっき鋼線11を製造できる。ベアリング長Lを引抜穴2の直径の80%以下としたのは、ダイスの製作において、ベアリング長Lが引抜穴2の直径の80%超えるようなダイスを製作することが困難であり、また、ブラスめっき鋼線11と最終ダイス1Zの引抜穴2の穴壁面との接触による発熱が大きくなって、製造されるブラスめっき鋼線11の機械的特性に悪影響を与える可能性があるからである。
【0011】
以上の場合、鋼線伸線装置10は、複数の伸線パス12に設けられるダイスとしてはすべて超硬合金ダイスを使用し、最終パス12Zが最終ダイス1Zのみを備え、粒径1μm以下の単結晶ダイヤモンドのダイヤモンド粒子を焼結して形成された焼結ダイヤモンドダイス1を最終ダイス1Zとして使用し、この最終ダイス1Zが、引抜穴2を通過するブラスめっき鋼線11に対する減面率が1%未満となるような直径dの引抜穴2として、例えば、ブラスめっき鋼線11の入線径d1±0.002mmの寸法に形成された引抜穴2を備えるとともに、さらに、ベアリング長Lが引抜穴2の直径の30%以上80%以下とされた構成とした。この構成によれば、まず、焼結ダイヤモンドダイス1を鋼線伸線装置10の最終ダイス1Zのみに使用するので、鋼線伸線装置10のダイスコストを抑えることができる。さらに、減面率が1%未満となるようなダイスによるスキンパス伸線によってブラスめっき鋼線11のブラスめっき表層部を集中的にかつ安定的に加工できるとともに、焼結ダイヤモンドにより形成された最終ダイスの優れた自己潤滑性(低摩擦抵抗)と優れた耐磨耗性とによって鋼線伸線時の発熱を抑制することができる。したがって、鋼線伸線装置10のダイスコストを抑えることができるとともに、ゴムとの接着性に優れ、かつ、延性の優れたブラスめっき鋼線11を製造できる。
【0012】
最終パス12Zを2つ以上の焼結ダイヤモンドダイス1で形成する場合、即ち、最終ダイス1Z及び最終ダイス1Zの前段に設置される1つ又は複数のダイスにより形成する場合、最終ダイス1Z及び最終ダイス1Zの前段に設置される1つ又は複数のダイスに形成された引抜穴2の直径はすべて同寸法とする。例えば、ブラスめっき鋼線11の入線径d1±0.002mmとする。また、1つ1つのダイスのベアリング長Lの合計値である総ベアリング長は、ダイスの引抜穴2の直径の40%以上200%以下とした。総ベアリング長を引抜穴2の直径の200%以下としたのは、総ベアリング長が200%超えると、ブラスめっき鋼線11と最終ダイス1Zの引抜穴2の穴壁面との接触による発熱が大きくなって、製造されるブラスめっき鋼線11の機械的特性に悪影響を与える可能性があるからである。
【0013】
この場合、鋼線伸線装置10は、複数の伸線パス12に設けられるダイスとしてはすべて超硬合金ダイスを使用し、最終パス12Zが最終ダイス1Zとその他のダイスを1つ以上備え、粒径1μm以下の単結晶ダイヤモンドのダイヤモンド粒子を焼結して形成された焼結ダイヤモンドダイス1を最終ダイス1Z及びその他のダイスとして使用し、これらダイスが、引抜穴2を通過するブラスめっき鋼線11に対する減面率が1%未満となるような直径dの引抜穴2として、例えば、ブラスめっき鋼線11の入線径d1±0.002mmの寸法に形成された引抜穴2を備えるとともに、総ベアリング長が引抜穴2の直径の40%以上200%以下とされた構成とした。この構成によれば、減面率が1%未満となるようなダイスによるスキンパス伸線によって鋼線のブラスめっき表層部を集中的にかつ安定的に加工できるとともに、焼結ダイヤモンドにより形成された最終ダイス1Zの優れた自己潤滑性(低摩擦抵抗)と優れた耐磨耗性とによって鋼線伸線時の発熱を抑制することができる。したがって、延性の優れたブラスめっき鋼線11を製造できる。
【実施例】
【0014】
図3に、各実施例及び従来例の条件とこれらの条件で鋼線伸線装置10により伸線加工されて得られた抗張力約3200MPs級のブラスめっき鋼線11での伸線加工評価を示す。従来例1では、最終パス12Z及びその他のすべての伸線パス12のダイスとして超硬合金ダイスを用いた。図3の初期接着性、耐久接着性、延性値、ダイスコストは、従来例1での値を基準100で表した場合の相対的な評価指数値で表してある。初期接着性、耐久接着性、延性値は、値が大きいほど優れていることを示し、ダイスコストは、値が小さいほど優れていることを示す。従来例2では、最終パス12Z及びその他のすべての伸線パス12のうち、最終パス12Z及び最終パス12Zの前段2つの伸線パス12に用いる3つのダイスとして粒径1μmの焼結ダイヤモンドにより形成された焼結ダイヤモンドダイス1を用いた。従来例2では、得られるブラスめっき鋼線11の性能評価(初期接着性、耐久接着性、延性値)は優れているが、ダイスコストが高い。実施例1乃至実施例5では、最終パス12Z以外のすべての伸線パス12のダイスとして超硬合金ダイスを用いた。
【0015】
実施例1では、最終パス12Zを第1ダイス(最終ダイス1Z)のみで構成し、第1ダイスの減面率が0%、第1ダイスのベアリング長(=総ベアリング長)が第1ダイスの引抜穴2の直径の30%である。
実施例2では、最終パス12Zを第1ダイス(最終ダイス1Z)のみで構成し、第1ダイスの減面率が0%、第1ダイスのベアリング長(=総ベアリング長)が第1ダイスの引抜穴2の直径の50%である。
実施例3では、最終パス12Zを第1ダイス(最終ダイス1Z)のみで構成し、第1ダイスの減面率が0%、第1ダイスのベアリング長(=総ベアリング長)が第1ダイスの引抜穴2の直径の70%である。
実施例1乃至実施例3では、使用した焼結ダイヤモンドダイス1は、最終パス12Zにおける最終ダイス1Zとしての第1ダイスだけであるので、ダイスコストは同じであるが、第1ダイスの引抜穴のベアリング長を30%から70%の範囲内で長くするほど、初期接着性、耐久接着性、延性値が良くなることがわかった。
【0016】
実施例4;5では、最終パス12Zに、最終ダイス1Zと最終ダイス1Z以外のダイスとして複数の焼結ダイヤモンドダイス1を設けた場合である。実施例4では、最終パス12Zに、焼結ダイヤモンドダイス1を用いた第1ダイス及び第2ダイス(最終ダイス1Z)を設けた場合であり、第1ダイスと第2ダイスの引抜穴2の直径がそれぞれ同じであり、第1ダイス及び第2ダイスの減面率がともに0%である。そして、第1ダイスのベアリング長が第1ダイスの引抜穴2の直径の30%、第2ダイスのベアリング長が第2ダイスの引抜穴2の直径の30%であって、総ベアリング長が、第2ダイスの引抜穴2の直径の60%である。実施例5では、最終パス12Zに、焼結ダイヤモンドダイス1による第1ダイス乃至第3ダイス(最終ダイス)を設けた場合であり、第1ダイス乃至第3ダイスの引抜穴2の直径がそれぞれ同じであり、第1ダイス乃至第3ダイスのそれぞれの減面率が0%である。そして、第1ダイス乃至第3ダイスのそれぞれのベアリング長が抜穴2の直径の50%であり、総ベアリング長が、150%である。
実施例4では、従来例2と比べてダイスコストを低くできて、得られたブラスめっき鋼線11の性能評価(初期接着性、耐久接着性、延性値)は従来例2と同じように優れていた。
実施例5では、従来例2と比べて得られたブラスめっき鋼線11の延性値が優れていた。
実施例4;5によれば、最終パス12Zに複数の焼結ダイヤモンドダイス1による複数のダイスを設ける場合には、ダイスの減面率を0%とし、複数のダイスの総ベアリング長を60%から150%の範囲内に設定することで、従来例2よりも延性の優れたブラスめっき鋼線11を得られることがわかった。
【0017】
初期接着性は以下の方法で求めた。各実施例及び従来例の各条件でブラスめっき鋼線11を作成し、各条件で作成したブラスめっき鋼線11をそれぞれ160℃で7分〜15分間加硫した後、得られたゴム鋼線複合体につき、ゴムから鋼線を剥離し、その後のゴム付着率を測定した。図3では、各実施例及び従来例での結果を、従来例1の場合を基準100とした評価指数値で表示した。値が大きいほど初期接着性が優れていることを示す。
【0018】
耐久接着性は以下の方法で求めた。各実施例及び従来例の各条件でブラスめっき鋼線11を作成し、各条件で作成したブラスめっき鋼線11をそれぞれ160℃で15分間加硫した後、得られたゴム鋼線複合体を湿度95%及び温度75℃の大気圧雰囲気中に7日〜14日間放置し、その後、ゴムから鋼線を剥離し、ゴム付着率を測定した。図3では、各実施例及び従来例での結果を、従来例1の場合を基準100とした評価指数値で表示した。値が大きいほど耐久接着性が優れていることを示す。
【0019】
延性値は、繰返し捻り試験により求めた。繰返し捻り試験は、以下の要領で行った。各実施例及び従来例の各条件で作成したそれぞれのブラスめっき鋼線11にブラスめっき鋼線11の軸に沿った方向に張力をかけてブラスめっき鋼線11の軸線が直線になるようにブラスめっき鋼線11を保持した状態で、ブラスめっき鋼線11を一方向に所定回数N0回捻った後に逆方向に同量だけ捻り戻す。これを1サイクルとして繰返し、ブラスめっき鋼線11にクラックを発生させる。ここで、所定回数N0回とは、ブラスめっき鋼線11の直径の100倍の長さ当たり3回に相当する捻り回数であり、ブラスめっき鋼線11の長さをL(mm)、ブラスめっき鋼線11の直径をd(mm)とすれば、N0=3×(L/100d)で表わされる値である。
繰返し捻り試験値(=延性値)RTは、上記繰返し捻り試験においてブラスめっき鋼線11にクラックが発生するまでに加えた捻り及び捻り戻しの総量を、長さ100d当たりの捻り回数で表した値で、以下のようにして求める。N0回の捻り及び捻り戻しサイクルをn回繰返した次のサイクルで、Nf1回(Nf1≦N0)捻った時点でクラックが発生したとすると、繰返し捻り試験値RT(回/100d)は、以下の式で表わせる。
RT=(2nN0+Nf1)/(L/100d)
また、N0回の捻り及び捻り戻しサイクルをn回繰返した次のサイクルはN0回の捻りで、ここからNf2回(Nf2≦N0)捻り戻した時点でクラックが発生したとすると、繰返し捻り試験値RT(回/100d)は、以下の式で表わせる。
RT={(2n+1)N0+Nf1}/(L/100d)
上記繰返し捻り試験の好適条件は以下の通りである。
(1)ブラスめっき鋼線の長さ‥‥約50m
(2)ブラスめっき鋼線の軸方向張力 ‥‥約1.0kg
(3)ブラスめっき鋼線の捻り速度 ‥‥約30回/分
(4)クラック発生の検出‥‥クラック発生に伴うアコースティックエ
ミッション(AE)波を検出
AE波は、固体が変形または破壊する際の歪エネルギーの開放によって発生する弾性波で、これをAEセンサを用いて電気信号として検出することにより、試験片が破断する以前の微小なクラック発生をも正確に検出することができるので、繰返し捻り試験によるブラスめっき鋼線のクラック発生を精度良く評価することができる。図3では、各実施例及び従来例での結果を、従来例1の場合を基準100とした評価指数値で表示した。値が大きいほど延性値(捻回特性値)が優れていることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0020】
最終ダイス1Z、あるいは、最終ダイス1Z及び最終ダイスの前段に設置される1つ又は複数のダイスが、引抜穴2を通過するブラスめっき鋼線11に対する減面率が2%程度となるような直径の引抜穴2を備えた構成の鋼線伸線装置10としてもよい。この構成でも、ダイス仕上げ公差を考慮した場合、ゴムとの接着性に優れ、かつ、延性の優れたブラスめっき鋼線を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】鋼線伸線装置を示す図(最良の形態)。
【図2】最終パスの構成例を示す図(最良の形態)。
【図3】従来例及び各実施例の条件とその条件での伸線加工評価結果とを示す図。
【符号の説明】
【0022】
1Z 最終ダイス、2 引抜穴、10 鋼線伸線装置。
【出願人】 【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
【出願日】 平成18年8月24日(2006.8.24)
【代理人】 【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一


【公開番号】 特開2008−49366(P2008−49366A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2006−227322(P2006−227322)