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ニッケルメッキステンレス鋼線 - 特開2008−49353 | j-tokkyo
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【発明の名称】 ニッケルメッキステンレス鋼線
【発明者】 【氏名】高村 伸栄

【氏名】村井 照幸

【氏名】中野 稔

【要約】 【課題】工具との潤滑性が良く、加工性に優れたニッケルメッキステンレス鋼線を提供することである。

【構成】ステンレス鋼線の素材へニッケルメッキした後の伸線加工によりメッキ層の表面に形成される凹部(A部)に、潤滑剤を保持する作用のある無機塩を溜め込んだものとすることにより、ニッケルメッキ層の凹部以外の表面のほぼ平坦な部分(B部)に無機塩がほとんど付着していなくても、凹部に溜め込まれた無機塩の潤滑剤保持作用で後工程での伸線やコイリングの際の工具との潤滑性が良くなり、加工性が向上するようにしたのである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルメッキ層を有するステンレス鋼線において、前記ニッケルメッキ層の表面に凹部を有しており、この凹部に硫酸カリウム、硫酸ナトリウムまたは硼砂の少なくとも1種を含有する無機塩が保持されていることを特徴とするニッケルメッキステンレス鋼線。
【請求項2】
前記ニッケルメッキ層の凹部以外の表面に、硫酸カリウム、硫酸ナトリウムまたは硼砂の少なくとも1種を含有する無機塩の被覆層が、前記凹部に保持されている無機塩よりも薄く形成されていることを特徴とする請求項1に記載のニッケルメッキステンレス鋼線。
【請求項3】
前記ニッケルメッキ層の厚さが0.5〜5μmであり、前記ニッケルメッキ層の凹部の深さが、ニッケルメッキ層の厚さの10〜100%であることを特徴とする請求項1または2に記載のニッケルメッキステンレス鋼線。
【請求項4】
前記ニッケルメッキ層の凹部の幅が、0.5〜20μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のニッケルメッキステンレス鋼線。
【請求項5】
前記ニッケルメッキ層の表面に潤滑剤が付着しており、前記ニッケルメッキ層の凹部以外の表面に付着している潤滑剤の単位面積あたりの量が、凹部に付着している潤滑剤よりも少ないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のニッケルメッキステンレス鋼線。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルをメッキしたステンレス鋼線に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼線は、炭素鋼線に比較して加工硬化性が大きいうえ、工具との潤滑性が悪いので、伸線加工やばね成形(コイリング)する際の加工性が低く、製品寸法のばらつきが大きくなりやすいという問題があった。このため、従来は、潤滑性に優れたニッケルをメッキして加工性を改善したものが多く用いられてきたが、このようなニッケルメッキを施したステンレス鋼線も、加工性に対する要求が高まるにつれて、その要求に必ずしも十分に対応できなくなってきている。これに対して、加工性をさらに改善するために、ニッケルメッキ層の表面に硫酸カリウム等の無機塩を被覆する方法(特許文献1参照。)や、その無機塩の被覆層の表面に付着する潤滑剤の量を適正範囲に調整する方法(特許文献2参照。)が提案されている。
【特許文献1】特開平10−118711号公報
【特許文献2】特開平11−92882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されているようにニッケルメッキステンレス鋼線のメッキ層表面を無機塩で被覆しても、伸線加工の過程では加工前のメッキ層表面に存在していた凹凸がさらに小さくなるため、被覆した無機塩が脱落しやすく、実際に伸線やコイリングを行う際の工具との潤滑性を良くして加工性を改善することは困難であった。
【0004】
また、上記特許文献2にはステンレス鋼線表面(ニッケルメッキ表面)の粗さと潤滑剤付着量の適正範囲が記載されているが、潤滑剤付着量の適正範囲はニッケルメッキの表面状態だけでなく加工条件等によっても変化する。従って、特許文献2に記載されたような方法では、加工性を改善するために潤滑剤付着量を精密に制御することが必要となり、その制御の実現が容易でない。
【0005】
本発明の課題は、工具との潤滑性が良く、加工性に優れたニッケルメッキステンレス鋼線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明のニッケルメッキステンレス鋼線は、前記ニッケルメッキ層の表面に凹部を有しており、この凹部に硫酸カリウム、硫酸ナトリウムまたは硼砂の少なくとも1種を含有する無機塩が保持されている構成のものとした。
【0007】
すなわち、ステンレス鋼線の素材へニッケルメッキした後の伸線加工によりメッキ層の表面に形成される凹部(図1におけるA部(暗部))に、潤滑剤を保持する作用のある無機塩を溜め込んだものとすることにより、ニッケルメッキ層の凹部以外の表面のほぼ平坦な部分(図1におけるB部(明部))に無機塩がほとんど付着していなくても、凹部に溜め込まれた無機塩の潤滑剤保持作用で後工程での伸線やコイリングの際の工具との潤滑性が良くなり、加工性が向上するようにしたのである。
【0008】
ここで、ニッケルメッキ層の凹部は、ニッケルメッキ後に30〜40%程度の減面率で伸線加工を行うことによりメッキ層に生じた亀裂を拡張させて生じさせることができる。そして、この伸線加工を行ったステンレス鋼線を、無機塩を含む水溶液中に浸漬した後、乾燥して水分を除去することにより、無機塩の被覆層を形成し、その後40〜55%程度の減面率で伸線加工を行って製品寸法に仕上げる。これにより、後段の伸線加工の段階でメッキ層の凹部以外の表面の無機塩がほとんど脱落したとしても、製品のメッキ層の凹部には無機塩を残存させることができる。
【0009】
上記の構成において、前記ニッケルメッキ層の凹部以外の表面には、硫酸カリウム、硫酸ナトリウムまたは硼砂の少なくとも1種を含有する無機塩の被覆層を、前記凹部に保持されている無機塩よりも薄く形成することが望ましい。凹部以外の表面に付着している無機塩はその厚みが薄いほど後工程での加工の際に脱落しにくくなり、加工性の向上に寄与するようになるからである。
【0010】
ここで、無機塩の被覆層は、前述の無機塩を含む水溶液中へのステンレス鋼線の浸漬によって形成された段階では、メッキ層の表面にほぼ均一な厚みをもっているが、無機塩被覆層形成後に行う後段の伸線加工に続いて、0.1〜5%程度の小さい減面率で伸線加工を行うことにより、メッキ層の凹部以外の表面に形成された部分のみを薄くすることができる。なお、メッキ層の凹部と凹部以外とでの無機塩被覆層の厚みの大小は、X線解析法(薄膜XRD分析)やオージェ電子分光分析法によりステンレス鋼線表面を分析した結果から判定できる。
【0011】
前記ニッケルメッキ層の厚さは0.5〜5μmとし、前記ニッケルメッキ層の凹部の深さは、ニッケルメッキ層の厚さの10〜100%とするとよい。メッキ層の厚さが0.5μm未満では加工性向上効果が小さく、5μmを超えるとメッキ層が剥離しやすくなるので好ましくない。また、メッキ層の凹部の深さがメッキ層の厚さの10%未満になると、凹部に保持される無機塩の量が少なくなって加工性向上効果が小さくなるので好ましくない。
【0012】
ここで、メッキ層の凹部の深さは、メッキを施した当初(前段の伸線加工前)のメッキ層の厚さと伸線加工全体での減面率により調整することができる。当初のメッキ層厚さが一定の場合、減面率が大きいほど凹部深さは大きくなるからである。なお、凹部深さは、ステンレス鋼線の断面を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観測することにより測定できるほか、オージェ電子分光分析法によりステンレス鋼線の表面から深さ方向へニッケル元素分析を行ってその結果から判定することもできる。
【0013】
前記ニッケルメッキ層の凹部の幅は、0.5〜20μmとすることが望ましい。凹部の幅が0.5μm未満では無機塩を保持する面積が小さくなり、20μmを超えると無機塩を保持する作用が弱くなって、いずれの場合も加工性向上効果が小さくなるからである。
【0014】
ここで、メッキ層の凹部の幅は、深さと同様、当初のメッキ層の厚さと減面率により調整することができる。当初のメッキ層厚さが小さいほど、減面率が大きいほど、凹部幅は大きくなるからである。また、後段の伸線加工の後に0.1〜5%程度の小さい減面率で伸線加工を行うことにより、さらに精度よく凹部幅を調整できる。なお、凹部幅は、ステンレス鋼線の表面を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観測することにより測定できる。
【0015】
また、前記ニッケルメッキ層の表面に潤滑剤を付着させている場合、前記ニッケルメッキ層の凹部以外の表面に付着している潤滑剤の単位面積あたりの量は、凹部に付着している潤滑剤よりも少なくすることが望ましい。このようにすれば、潤滑性を確保しつつ、従来よりも潤滑剤の使用量を少なくできるので、潤滑剤が多すぎるときに問題となる伸線加工時の材料つまりや、製品の表面のくすみ等の表面性状劣化が生じにくくなる。
【0016】
ここで、潤滑剤の種類としては、ステアリン酸カルシウム系のものや、ステアリン酸ナトリウム系のものがあげられる。なお、メッキ層の凹部と凹部以外とでの潤滑剤の量の大小は、X線解析法(薄膜XRD分析)やオージェ電子分光分析法によりステンレス鋼線表面を分析した結果から判定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のニッケルメッキステンレス鋼線は、上述したように、ニッケルメッキ層の表面に凹部を有しており、この凹部に潤滑剤を保持する作用のある無機塩を溜め込んだものであるから、後工程での伸線やコイリングの際の工具との潤滑性が良く加工性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施例1)
以下、本発明の実施形態を説明する。実施例1のニッケルメッキステンレス鋼線は、素材として線径3〜5mmのステンレス鋼線を用い、この素材にニッケルメッキを施し(工程1)、前段の伸線加工(工程2)を行った後、メッキ層表面に無機塩を被覆し(工程3)、最後に後段の伸線加工(工程4)を行って製造したものである。
【0019】
前記素材として用いたステンレス鋼線は、質量%で、カーボン:0.077%、シリコン:0.52%、マンガン:1.27%、リン:0.025%、ニッケル:8.55%、クロム:18.58%、モリブデン:0.02%を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなるもの(SUS304)で、溶体化処理のすんだものである。
【0020】
前記工程1では、下記メッキ条件により、素材のステンレス鋼線の表面に2〜20μmの厚さのニッケルメッキ層を形成した。
<メッキ条件>
・メッキ液:
スルファミン酸ニッケル 797g/l
臭化ニッケル 6g/l
炭酸ニッケル 25g/l
ホウ酸 25g/l
・電流密度:10A/dm
・PH :4
・浴温 :25℃
【0021】
前記工程2では、工程1でニッケルメッキを施したステンレス鋼線を、通常の連続伸線機により減面率40%で伸線加工した。伸線加工の際には、ステアリン酸カルシウム系の粉末潤滑剤を使用した。その後、ノルマルヘキサン中に浸漬して表面に残存していた潤滑剤を除去し、表面を清浄にした。
【0022】
前記工程3では、工程2で前段の伸線加工を行ったステンレス鋼線を、硫酸カリウムを2%含む水溶液中に浸漬した後、乾燥して水分を除去することにより、ニッケルメッキ層の表面に硫酸カリウムの被覆層を形成した。
【0023】
前記工程4では、工程3で表面に硫酸カリウムを被覆したステンレス鋼線を、工程2と同じ連続伸線機により減面率45%で伸線加工した。この伸線加工の際にも、工程2と同じステアリン酸カルシウム系の潤滑剤を使用した。
【0024】
そして、前記工程4を終えたステンレス鋼線は、ニッケルメッキ層の表面にメッキ層の亀裂が伸線加工で拡張された凹部を有し、この凹部に硫酸カリウムを含有する無機塩とステアリン酸カルシウム系の潤滑剤を保持したものとなる。
【0025】
次に、本発明の効果を確認するために実施したばね成形加工試験について説明する。まず、上述した工程1〜4により、ニッケルメッキ層の厚さ(メッキ厚さ)、メッキ層の厚さに対する凹部深さの比(凹部深さ比)および凹部幅が異なるニッケルメッキステンレス鋼線を13種類作製した。次に、これらのステンレス鋼線を自動コイリング装置によりばね成形加工して、下記の仕様のばねを300個ずつ製造した。そして、製造したばねの自由長比(実際自由長/目標自由長)を測定し、この自由長比が±0.1%を超えるものを不良として不良率を求めた。
<ばね仕様>
・線径 :1.0mm
・コイル中心径:30.0mm
・有効巻数 :9.5
・標準自由長 :40.0mm
【0026】
上記試験の結果を表1に示す。表1から、この実施例1のニッケルメッキステンレス鋼線は、いずれの条件のものも比較例に比べて不良率が低く、加工性に優れていることがわかる。すなわち、メッキ層の表面に亀裂が拡張した凹部を適度な大きさに形成して、この凹部に潤滑剤を保持する作用のある無機塩を溜め込んだものとすることにより、コイリングの際の工具との潤滑性が良くなり、加工性が向上することが確認された。
【0027】
【表1】


【0028】
(実施例2)
実施例1のNo.4の条件で作製したステンレス鋼線を、さらに減面率1%で伸線加工し、その表面をX線解析法(薄膜XRD分析)により下記条件で分析した。
<X線解析条件>
・使用X線 :Cu−Ka
・励起条件 :45KV 40mA
・X線入射角度:0.5°
・測定範囲 :2θ=5〜60°
【0029】
上記分析の結果、図2(a)、(b)に示すように、メッキ層表面の凹部には硫酸カリウムやステアリン酸カルシウムの成分が検出されたが(図2(a))、これらの成分は凹部以外の表面からはほとんど検出されなかった(図2(b))。そして、このステンレス鋼線を用いて実施例1と同じばね成形加工試験を行ったところ、実施例1のNo.4の条件のものと比較して、不良率がさらに30%減少した。
【0030】
(実施例3)
実施例1と同じ工程1、2を経たステンレス鋼線を、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硼砂のうちの1種類を3%含む水溶液中に浸漬した後、実施例1と同様に乾燥して水分を除去することにより、ニッケルメッキ層の表面に硫酸カリウム、硫酸ナトリウムまたは硼砂の被覆層を形成した。この3種類の無機塩の被覆層を有するステンレス鋼線を、それぞれ減面率40%でステアリン酸カルシウム系の潤滑剤を用いて伸線加工し、ニッケルメッキ層の厚さが3μm、凹部深さ比が45%、凹部幅が5μmのものを作製した。そして、実施例1と同じばね成形加工試験を行った結果、不良率は被覆が硫酸カリウムのもので6%、硫酸ナトリウム被覆のもので7%、硼砂被覆のもので8%となり、これらの無機塩の被覆では、無機塩の種類による加工性向上効果の差は小さいことが確認された。
【0031】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ニッケルメッキ後に伸線加工したステンレス鋼線(実施例2)の表面顕微鏡写真の模式図
【図2】a、bは、それぞれ実施例2のステンレス鋼線のメッキ層表面の凹部(a)およびメッキ層の凹部以外の表面(b)の表面分析結果を示すグラフ
【出願人】 【識別番号】302061613
【氏名又は名称】住友電工スチールワイヤー株式会社
【出願日】 平成18年8月22日(2006.8.22)
【代理人】 【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二

【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久

【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由

【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博


【公開番号】 特開2008−49353(P2008−49353A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2006−225553(P2006−225553)