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【発明の名称】 ばね用ステンレス鋼線
【発明者】 【氏名】谷本 好則

【氏名】友田 一朗

【要約】 【課題】コイリング特性に優れたばね用ステンレス鋼線を提供する。

【構成】引張強さ1500〜3000N/mm2 の高強度ステンレス鋼線を用いた芯材と、該芯材の表面を覆うニッケルメッキ層とからなるニッケル被覆鋼線であって、前記ニッケルメッキ層は、内メッキ層,外メッキ層の複数層からなる層状メッキ組織からなり、前記内メッキ層は、前記外メッキ層と前記芯材との間に介在して両者を結合し、前記芯材の径方向にのびる柱状組織をなし、前記前記外メッキ層は、伸線による冷間加工に伴う細径化により微小片に破壊され、前記外メッキ層は、該破壊された前記微小片により内メッキ層を覆うことを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強さ1500〜3000N/mm2 の高強度ステンレス鋼線を用いた芯材と、該芯材の表面を覆うニッケルメッキ層とからなるニッケル被覆鋼線であって、
前記ニッケルメッキ層は、内メッキ層と外メッキ層との複数層の層状メッキ組織からなり、
前記内メッキ層は、前記外メッキ層と前記芯材との間に介在して両者を結合し、かつ前記芯材の径方向に伸びる柱状組織をなすとともに、
前記外メッキ層は、前記内メッキ層よりも硬質であって、かつ伸線による冷間加工に伴う細径化により微小片に破壊され、前記外メッキ層は、該破壊された前記微小片により内メッキ層を覆うことを特徴とするばね用ステンレス鋼線。
【請求項2】
前記外メッキ層は、伸線前の状態において、表面硬度Hvが400以上の硬質系ニッケルメッキからなることを特徴とする請求項1に記載の前記ばね用ステンレス鋼線。
【請求項3】
前記内メッキ層は、半径方向外側に伸びる柱状結晶を有する柱状組織からなり、かつ前記外メッキ層は、前記微小片が芯材と同心状に配列されて半径方向に重なるメッキ組織を具えることを特徴とする請求項1又は2に記載の前記ばね用ステンレス鋼線。
【請求項4】
前記内メッキ層は、前記外メッキ層の下面かつ前記破壊された微小片間に隙間なく侵入していることを特徴とする請求項2又は3に記載の前記ばね用ステンレス鋼線。
【請求項5】
前記芯材と内メッキ層とは、最終となる冷間伸線加工の前に拡散熱処理を施すことにより両者の界面を冶金学的に結合させたことを特徴とする請求項3に記載のばね用ステンレス鋼線。
【請求項6】
前記ニッケルメッキ層は、その表面に付着した0.3〜1.0g/m2 の加工用潤滑剤を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のばね用ステンレス鋼線。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、コイリング特性に優れたばね用ステンレス鋼線に関する。
【背景技術】
【0002】
耐食性、機械的特性により優れ、かつばね用途に用いるステンレス鋼として、例えばJIS−G4314に、種々なオーステナイト系ステンレス鋼線が規定されている。又ばね用途として伸線加工性、その後のコイリング性を高めるために、芯材表面に、例えば樹脂、金属などを被覆、メッキした潤滑層を形成ことが行われている。特にニッケルメッキ層は潤滑性に優れかつその後のテンパー処理におけるテンパーカラーの着色が防止できる。
【0003】
ニッケルメッキ層を形成することにより潤滑性を向上し、かつばね成形する際のばねの寸法バラツキを減じるために、ニッケルメッキしたステンレス鋼線の最終伸線後のメッキワイヤーが、
a)ニッケルめっき厚さ0.2〜2μm、
b)めっき層の母材(芯材)に対する硬さ比が0.20〜0.83、
c)かつ潤滑剤封着量を0.05〜0.80g/m2
としかつこれら3要因が三相相関図において相関関係をもたせたばね用のステンレス 鋼線 が提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
さらにステンレス鋼帯にニッケルメッキする被覆ステンレス鋼帯において、ワット浴によるニッケルメッキを施す前に、塩化ニッケルの陰極電解処理による薄メッキすること、またさらに非酸化性雰囲気中で拡散処理を行うことによりメッキの密着性を向上する提案もある(例えば特許文献2)。
【0005】
さらに、ニッケルメッキ層とステンレス鋼との密着性を増大させるために、ステンレス鋼表面にニッケル層を形成させ、これを非酸化性雰囲気中500〜1100℃で熱処理することにより、その間に強固な合金層を形成する提案もある(例えば特許文献3)。
【0006】
又ばね用ステンレス鋼線について、ステンレス鋼線の表面に10μ以下のNiメッキを施したのち、無酸化雰囲気中を連続走行させて溶体化熱処理し、その熱処理時間の制御によって、Niメッキ層とステンレス鋼との拡散層を表層付近まで生成させることにより、成型性と耐食性を向上する提案もある(例えば特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特開平10−5847号公報
【特許文献2】特開昭61−204393号公報
【特許文献3】特開昭49−59048号公報
【特許文献4】特開昭53−50001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献1の提案は、ばね成形する際のばねの寸法バラツキを向上するため、乃至特許文献1〜4の提案はいずれも軟質系のニッケルメッキ層を採用している。
【0009】
その結果、熱処理による前記拡散層の形成は、潤滑成分として有効な純粋ニッケル層の厚さを減少させ、結果的に加工性低下を招きやすく、しかもその界面には異質な拡散層が形成されることから、全体的な耐食性の低下も懸念される。なお、このようなメッキ層を除去する場合には、拡散した部分でのニッケルを含めて完全に除去することが困難であり、しかもその場合、前記拡散層は通常不均一厚さで形成されることから、メッキ除去後の線表面には微細凹凸が形成され、表面平滑性に優れた高品質のばね製品は得られ難い。
【0010】
本発明は、特にばね用として耐磨耗性を持つ硬質系のニッケルメッキ層を形成することを基本として、ニッケルメッキ層自体により、ステンレス鋼線の加工に際して潤滑性を維持しうる密着性に富むニッケルメッキ層を有するばね用ステンレス鋼線の提供を目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、引張強さ1500〜3000N/mm2 の高強度ステンレス鋼線を用いた芯材と、該芯材の表面を覆うニッケルメッキ層とからなるばね用ステンレス鋼線であって、
前記ニッケルメッキ層は、内メッキ層と外メッキ層との複数層の層状メッキ組織からなり、
前記内メッキ層は、前記外メッキ層と前記芯材との間に介在して両者を結合し、かつ前記芯材の径方向に伸びる柱状組織をなすとともに、
前記外メッキ層は、前記内メッキ層よりも硬質であって、伸線による冷間加工に伴う細径化により微小片に破壊され、前記外メッキ層は、該破壊された前記微小片により内メッキ層を覆うことを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記外メッキ層が、伸線前の状態において、表面硬度Hvが400以上の硬質系ニッケルメッキからなること、請求項3に係る発明は、前記内メッキ層は、半径方向外側に伸びる柱状結晶を有する柱状組織からなり、かつ前記外メッキ層は、前記微小片が芯材と同心状に配列されて半径方向に重なるメッキ組織を具えること、また請求項4に係る発明は、前記内メッキ層が、前記外メッキ層の下面かつ前記破壊された微小片間に隙間なく侵入していることを特徴とする。
【0013】
また請求項5に係る発明は、前記芯材と内メッキ層とが、最終となる冷間伸線加工の前に拡散熱処理を施すことにより両者の界面を冶金学的に結合させたこと、及び請求項6に係る発明は、前記ニッケルメッキ層が、その表面に付着した0.3〜1.0g/m2 の加工用潤滑剤を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1に係る発明は、引張強さ1500〜3000N/mm2 の高強度ステンレス鋼線を芯材として、しかもその表面は前記ニッケルメッキ層で被覆していることから、ばね用として十分な強度と種々加工に適する潤滑性を備え、従来の同様な加工が可能となる。
【0015】
しかも、本発明では前記ニッケルメッキ層は、内外メッキ層からなる複数種類の異なるニッケル層を積層したものを用い、外面側の外メッキ層として結晶構造が層状組織、かつ前記内メッキ層よりも硬質であってその後の冷間加工で鱗片状の微小片に破壊し得るニッケルメッキ層、即ち所謂硬質系のニッケルメッキ層を用いている。
【0016】
したがって、該鋼線はその表面側、即ち外面側には層状組織でかつ鱗片状の微小片に破壊した前記外メッキ層で構成されることから、ばね成形する際にはコイリングピン等の加工具との摩擦抵抗を減じることができ、しかも前記微小片間には隙間溝が構成され、その溝内により多くの潤滑剤を収容できることから、コイリング加工時の焼付きなどを防止しうるばね用ステンレス鋼線となる。
【0017】
さらに本発明では、前記外メッキ層の下面に、外メッキ層よりも軟質であって柔軟性に優れた内メッキ層を配置して細径化するものであり、この場合該内メッキ層は、純粋なニッケルで、強度の冷間伸線加工によって延性を持って芯材と外メッキ層との間を満たし両者結合をより強固にするバインダーとしての働きをすることとなる。また、前記外メッキ層とは、共にニッケルメッキ同士であることから、結果的に該内メッキ層を介して、前記芯材と外メッキ層とを強固に結合することができ、また全体的なニッケルメッキ厚さをより厚く形成するとともに、最終的にこのニッケルメッキを除去する場合にも、容易に溶解除去でき、平滑表面を持つばね製品が可能となる。
【0018】
さらに本願請求項2に係る発明は、外メッキ層は例えば有機添加剤の添加によって表面硬度Hv400以上の硬質系メッキ層としたから、前記効果を高め、使用加工具との局部的な磨耗を減じることができ、請求項3の発明によれば、前記外メッキ層は、前記内メッキ層による結晶方向とは交差する方向、即ちメッキ層の面方向に拡がる層状の結晶組織で構成していることから、前記内メッキ層が外メッキ層を良好に支持する。また請求項4の発明によれば、外メッキ層の下面には前記内メッキ層が隙間無く潜入しており、より強固な結合を可能にしている。
【0019】
請求項5に係る発明は、最終伸線加工前の拡散熱処理によって、芯材と内メッキ層をその界面で拡散させることもでき、この場合、該内メッキ層を比較的薄く形成しておくことで、実質的な拡散層をその界面だけに留めることができる。また請求項6の発明によれば、その表に所定量の加工用潤滑剤が付着していることから、潤滑性に優れたばね用ステンレス鋼線が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のばね用ステンレス鋼線(ときに、ばね用鋼線という)1は、引張強さ1500〜3000N/mm2 のステンレス鋼線を用いた芯材2と、その表面に配置されたニッケルメッキ層3とを備え、メッキされたステンレス鋼線材の伸線により形成される。前記ニッケルメッキ層3は、図1,図2(B)に示すごとく内面側で芯材2を被覆する内メッキ層3Aと外面側の外メッキ層3Bとを積層した層状メッキ組織、即ち複合メッキ層として形成している。又前記内メッキ層3Aは、芯材2の半径方向すなわち該メッキ層の厚さ方向に長さ中心軸を向けた柱状結晶からなる柱状組織をなし、前記外メッキ層より軟質の軟質系ニッケルメッキ体を用いている。前記外メッキ層3Bは前記内メッキ層3Aよりも硬質であって、微小片aが芯材2と同心状に配列されて半径方向に重なる層状のメッキ組織を具え硬質系のニッケルメッキ体としている。又前記微小片aは、伸線前の外メッキ層が冷間伸線加工に伴う細径化する際の破壊により鱗片状にかつ半径方向に多層に配列されて形成され、層状組織を形成している。これにより、本発明のばね用ステンレス鋼線は、破砕された微小片aからなる外メッキ層3Bにより内メッキ層3Aを覆うこととなる。
【0021】
芯材2には、ばね用として用いられている例えばSUS304,SUS304N,SUS302,SUS316,SUS631J1などのばね用ステンレス鋼線の他、本出願人の提案に係る以下の組成のNAS316H1材、ハーキュリー材、NAS106N材を用いることができる。なお芯材2の線径としては、例えば0.01〜5mm、好ましくは0.08〜1.0mmである。
【0022】
前記組成を以下の(A)〜(C)に記載する。
(A) : 質量%で、C≦0.10%,Si≦1.00%,Mn≦2.00%,P≦0.045%,S≦0.030%,Ni:10.00〜14.00%,Cr:16.00〜18.00%,Mo:2.00〜3.00%,N:0.18〜0.30%を含有し、残部実質的にFeと不可避不純物でなるNAS316H1材。
(B) : 質量%で、C≦0.15%,Si≦1.00%,Mn≦2.00%,P≦0.045%,S≦0.030%,Ni:6.00〜8.00%,Cr:16.00〜18.00%を含有し、残部実質的にFeと不可避不純物でなるハーキュリー材(ハーキュリー:登録商標)。
(C) : 質量%で、C≦0.02%,Si≦0.25%,Mn:5.80〜6.20%,P≦0.045%,S≦0.030%,Ni:9.80〜10.50%,Cr:21.00〜23.00%,Mo:1.50〜2.50%,N:0.40〜0.50%と、必要に応じて若干(≦0.5%)のCuを含有し、残部実質的にFeと不可避不純物でなるNAS106N材。
【0023】
これら(A)〜(C)組成の前記ステンレス鋼線は、冷間加工によって優れた機械的特性(例えば引張強さ、弾性特性、疲労特性)と耐食性を備えるとともに、更に例えば温度300〜600℃での低温熱処理を施すことにより成形品の特性を飛躍的に向上できる。そのため、十分な潤滑機能を持つニッケルメッキ層3により被覆することが伸線加工上有効であり、また例えば前記(A)組成及び(C)組成のステンレス鋼線は非磁性でもあることから、例えばばね成形後の脱ニッケル処理によって前記ニッケルメッキのみを除去することにより、非磁性のばね製品にすることもできる。
【0024】
前記芯材2は、前記のように、その引張強さを1500〜3000N/mm2 の高強度としている。しかしその強度は線径と求める特性等によって前記範囲で設定される。引張強さが1500N/mm2 未満のものでは、ばね用として使用する際に必要なばね強度が発揮され難く、一方3000N/mm2 を超える程高強度にしたものでは剛性が増して、鋼線での細径加工、ばね成形する際の加工性、あるいはこのばねを使用する際の繰返し寿命にも劣る。ゆえに、例えば線径が前記0.08〜1.0mmのものでは、好ましくは1800〜2500N/mm2 とし、またこの範囲の強度は、例えば加工率60〜99.8%、好ましくは80〜98%での冷間伸線加工、圧延加工によって得ることができる。
【0025】
前記ニッケルメッキ層3は、前記したように内メッキ層3Aと外メッキ層3Bとの積層体である層状メッキ組織を有するメッキ複合体であり、耐磨耗性に優れた外メッキ層3Bを内メッキ層3Aを介して前記芯材2の表面(外面)を被覆している。このニッケルメッキ層3は、高強度ステンレス鋼線からなる前記芯材2を細径化し,その後ばね成形する際の潤滑用皮膜として用いる。なお通常のステンレス鋼線では素材段階、すなわち前記細径化のための伸線加工に際しての潤滑性の観点から、メッキ層は細径加工前に熱処理された軟質状態とされる。また該ニッケルメッキ層3は、そのメッキ直後の状態と、その後の細径化処理によって加工された後の状態での厚さは異なるものの、ほぼ同様の結晶組織を持って薄肉化される。したがって、ニッケルメッキ層の全体厚さが例えばサブミクロン程度の極少厚さに伸線された場合にあっても、その組織は、例えば冷間伸線加工前のメッキ処理段階での組織状態をもって特定することもできる。なお、サブミクロン程度の極少厚さに伸線された場合にあっては電子顕微鏡等の精密測定機を用いることにより測定できる。
【0026】
前記内メッキ層3Aには、従来から用いられてきた種々液組成のメッキ浴が用いられ、柱状組織で例えばHvが350以下の硬度の軟質系ニッケルメッキ層を採用する。ここで、硫酸ニッケル145〜150g/Lと塩化アンモニウム12〜18%によるワット浴、スルファミン酸ニッケル200〜500g/l+若干の塩化ニッケル及びホウ酸を加えたスルファミン酸浴などが用いられる。またメッキ液は、好ましくはPHを0.3〜5.0とし、かつメッキは例えば電気メッキで行うことができる。
【0027】
外メッキ層3Bは、伸線前の状態において図2(A)に示すごとく、その結晶構造が微細(例えば0.1μm以下)な粒子からなる層状組織であり、またその硬度も例えば硬度Hvが400以上の比較的硬質系のニッケルメッキ層を用いる。そのため、延性が低く、伸線による前記細径化加工によって図2(B)に示すように、鱗片状の微小片aに破壊する。そのメッキ方法には、例えば硫酸ニッケル(NiSO4 6H2 O):220〜370g/L,塩化ニッケル(NiCl2 6H2 O):30〜60g/L,ホウ酸(H3 BO3 ):30〜60g/Lのメッキ浴を用いたワット浴、さらにこれに硫酸コバルト:1〜15g/L,ぎ酸ニッケル40〜50g/L,ホルマリン1〜3g/L、硫酸アンモニウム1〜3g/Lの他、更にはベンゼンやナフタリン等の芳香族炭化水素、ビニルやアリルなどのアルキル鎖状化合物等の添加成分を必要により付加する。好ましくはメッキ浴のPHを2〜4とする。
【0028】
こうしたメッキ構造の組織状態の一例として、図3はそのメッキ組織状態を明瞭に示す為に、伸線前の素材状態において意図的に厚く(合計20μm)形成した場合を200倍の倍率で縦断面の顕微鏡を用いた拡大図である。前記のように外メッキ層3Bは硬質系ニッケルメッキであり、内メッキ層3Aは軟質系ニッケルメッキからなる。また図4は本発明に係るばね用ステンレス鋼線の外観表面状態を示す顕微鏡写真(300倍)であり、表面では前記鱗片状の微小片aが微細幅を有して島状に分布している。
【0029】
ここで、本明細書において「硬質系ニッケルメッキ」とは硬度については、Hvが例えば400以上のものを、また「軟質系ニッケルメッキ」とは硬質系ニッケルメッキよりも軟質であって、例えばHv350以下のものを言うが、特性上では、伸線により微小片aに分割しうるものを「硬質系」と、微細化することなく延伸される特性を有するニッケルメッキを「軟質系」と呼ぶ。さらには、硬質系は、層状組織構造で粘性に欠け、変形などによって破壊しやすく、容易に微小片に破壊できるが、表面状態としてやや光沢を持つなどの特徴を有する。こうした中で、本発明では例えば図3の表面側に見られるような層状組織を持つものとして定義する。一方、軟質系とは、粘性に富み柱状組織を有する比較的軟質のものであって、前記芯材との結合に優れ、また外メッキ層とも同種ニッケルであることから、両者を一体に結合するバインダー効果を持つことができる。なお、「微小片に破壊」の有無は、前記した加工率60〜99.8%、好ましくは80〜98%での冷間伸線加工、圧延加工によって判断する。
【0030】
図1は図3と同様に該ニッケルメッキ層3の被覆時点における積層状態を示すものであって、該メッキ層3の全体厚さtは0.05〜5μm程度、より好ましくは前記芯材2の線径dの0.8/1000〜3/1000倍とするのがよく、また内メッキ層3Aはその表面に施される外メッキ層3Bの0.5〜1.2倍にすることによって、仮にその後にコイリング加工する場合にも耐摩耗特性に優れた外メッキ層3Bとし、潤滑性に優れたばね用ステンレス鋼線とすることができる。
【0031】
このような複合メッキを形成するには、例えば前記芯材の加工前の素材での前処理として、その表面を例えば硝酸や1〜10%硫酸等の薬液、溶媒脱脂、乳化脱脂、アルカリ脱脂、電解又は超音波によって清浄処理され、この処理によってその表面に形成される内メッキ層3Aとの密着性が向上できる。
【0032】
前記内メッキ層3Aは、芯材2と前記外メッキ層3Bとを結合するバインダーとして機能し、細径化加工する際の圧力によって比較的容易にその全面に延展するとともに、前記外メッキ層3Bの下面、乃至前記微小片a間の隙間に侵入して該隙間をなくすことができる。
【0033】
また従来技術で用いられているように、内メッキ層3Aを被覆した状態のまま、温度1000℃程度の短時間処理での拡散熱処理させることにより、例えば前記芯材2との界面に微巾で拡散層を形成させ、内メッキ層3Aをより軟質にして十分なバインダー効果を持つようにすることもできる。そのとき前記拡散層の厚さは例えば0.05〜0.5μm程度とするのがよい。こうした処理により、内メッキ層3Aはより確実に前記芯材1の表面に被覆でき、しかもより軟質化することから強固な結合状態が得られる。
【0034】
なお拡散熱処理工程を経ることなく、例えば前記下地用の内メッキ層3Aを形成した表面上に、直接外メッキ層3Bを形成することもできる。この方法によれば、前記したような実質的な拡散層が形成されないことから、例えばその使用形態が脱ニッケルメッキ品とする場合に、その除去作業が容易になる。
【0035】
一方、このような内メッキ層3Aの表面に被覆される外メッキ層3Bは、図3に示しかつ前記したように、前記微小片aが芯材2と同心状に配列されて半径方向に重なるメッキ組織を具え、そのメッキ膜の面方向に沿って平行に伸びる層状組織を有する。なお伸線前の外メッキ層は比較的硬質で加工による延性が少ないことから、その後の例えば冷間伸線加工によって、微小な鱗片状に破壊した前記微小片aを形成して鋼線表面を覆う。したがって、このような膜状の層状組織を有し、また芯材と同程度の硬さを持つことから、例えばコイリング成形する際の成形工具などとの摩擦が軽減でき、しかも該微小片a同士の隙間内に十分な潤滑剤を収容しておくことで、良好な成形加工が可能となる。
【0036】
図1、図2Bはこのようにして処理された冷間伸線加工後のメッキ状態を拡大して示す概念図、図3は拡大断面図であり、表面には前記外メッキ層3Bが細かく破壊した微小片aで覆われており、しかも微小片aは例えば1〜5000μm2 程度の面積(芯材2と同心な筒状面での値)の不均一な大きさの不定形状を有し、かつその微小片a間には狭い隙間が形成されているが、下面側には前記内メッキ層3Aが延展し、その隙間を封止している。
【0037】
なお、外表面には、前記隙間に例えば液状、ゲル状又は粉末状などの種々加工用潤滑剤を収容しておくことにより、潤滑性の向上したはね用ステンレス鋼線となる。その付着量は0.3〜1.0g/m2 程度とするのがよく、例えばCa系潤滑剤、Na系潤滑剤、K系潤滑剤などを用いることが好ましい。
【実施例1】
【0038】
(ニッケルメッキ層)
芯材となる固溶化熱処理した線径0.65mmのSUS304ステンレス鋼線を素材とし、これをアルカリ溶液中で電解脱脂して表面を活性化するとともに付着物を除去する前処理を行った後、連続して第一次のニッケルメッキ処理を行った。
このニッケルメッキ処理は、硫酸ニッケル液によるワット浴でのストランド方式による電解メッキで行ったもので、電流密度18.0A/cm2 ,処理速度360cm/minの条件によるものである。得られたニッケルメッキは膜厚さ0.8μmで、柱状組織を持つものであり、またHv硬度計でのメッキ硬さはHv200であった。
【0039】
次に、この一次メッキ鋼線に更に第二次メッキ処理を行い、合計メッキ厚さ1.7μmの複合メッキを得た。この第二次メッキ処理は、前記一次メッキと同様のワット浴の液組成に更に添加剤としてホルマリン,芳香族炭化水素を1〜10ml/L添加したニッケルメッキ液を用い、電流密度 23A/cm2 ,メッキ速度500cm/minの条件で行ったものであって、得られたメッキ層は、表面硬度Hv:490,メッキ厚さ0.9μmの層状組織を持つものであった。
【0040】
(冷間伸線加工)
そこで、この被覆鋼線をストレート型連続伸線機にセットして総加工率95%の冷間伸線加工を行い、仕上がり線径0.14mmの硬質細線を得た。伸線加工は、ダイヤモンドダイスにより鉱物油75+硫化脂肪酸エステル22+カルシウムスルホネート3の非塩素系オイルを補助潤滑剤として用い、加工スピード200m/minで行ったものであり、得られた鋼線の引張強さは、前者304では2200N/mm2 、後者線材では2530N/mm2 を有するとともに、その外表面は前記外メッキ層が粒径8〜50μm程度の細かく破壊して被覆したものであって、このような破壊状態でありながらも、その下面側の内メッキ層によって被覆状態が維持されるものであった。
【0041】
また、この被覆鋼線の表面付着潤滑量を調査した結果、0.31g/m2 であることが分かった。
【0042】
(コイリング試験)
得られたニッケルメッキ被覆鋼線のコイリング性を評価する為、次の圧縮コイルばねを成形し、その成形作業性とばね自由長のバラツキを測定したが、結果は非常に良好で潤滑性にすぐれ、バラツキは標準偏差0.09であった。
ばね外径 4.2mm
有効巻数 8.5
自由長 10mm
コイリング速度 20ケ/min
【実施例2】
【0043】
表1に記載の組成を持つ線径2.2mmの軟質ステンレス鋼線を素材とし、各素材をアルカリ溶液で電解洗浄して活性化するとともに、更に引き続いて次の条件での第一次ニッケルメッキ処理を行った。ニッケルメッキ液は、スルファミン酸ニッケル550g/l,塩化ニッケル25g/l,ホウ酸60g/lを含み、電流密度20A/cm2 、処理速度3m/minの条件によるもので、得られたニッケルメッキは膜厚さ:2.0〜2.2μmで鋳造品などに見られる柱状組織を持ち、またHv硬度計でのメッキ硬さはHv205〜220であった。
【0044】
【表1】


【0045】
そこで得られた各一次メッキ鋼線に更に厚さ1.5μの第二次メッキ処理を行い、合計メッキ厚さ3.5〜4μmの複合メッキを得た。この第二次メッキ処理は、前記一次メッキの組成に更に添加剤として芳香族炭化水素を4ml/L添加したニッケルメッキ液を用いたものであって、得られたメッキ層は表面硬度Hv:490で、そのメッキ組織は前記実施例1と同様にメッキ層の膜面方向に伸びた層状を有するものであった。
【0046】
(冷間伸線加工)
そこで、この3種類の各被覆鋼線について、各々ストレート型連続伸線機にセットして総加工率86%の冷間伸線加工を行い、仕上がり線径0.8mmの硬質被覆鋼線を得た。伸線加工は、Ca系潤滑剤(商品名:コーシン)を補助潤滑剤として用い、伸線速度150m/minで行ったものであり、得られた鋼線は引張強さ1800〜2300N/mm2 の高強度特性で、表面のニッケルメッキ層は厚さ0.6μmで密着性に優れ、メッキ剥離等は見られなかった。
【0047】
また前記伸線加工での各ダイス段階毎に表面のニッケルメッキ層の状態を観察した結果、メッキ組織の積層組織はあまり変化することなく薄肉化していることが確認できたが、特に外メッキ層は高硬度で延性に劣ることから加工に伴う引き伸ばしによって鱗片状の微小片に破壊が進行していくのに伴なって、その間には溝が形成され下面側の内メッキ層で封止される状態が観察された。またこの被覆鋼線の表面付着潤滑量を調査した結果、0.83〜0.90g/m2 であることが分かった。
【0048】
(コイリング試験)
次にこの各ニッケルメッキ被覆鋼線のコイリング性を評価する為、外径8.3mm,自由長さ20mmの圧縮コイルばねを成形して、そのばね自由長のバラツキを測定したが、規格範囲±0.15mmに対し、98.3%の合格率であった。
【実施例3】
【0049】
前記実施例2の中で、試料2Bのステンレス鋼線を対象として、その表面に前記第一次のニッケルメッキと同様処理によって厚さ1.8μの内メッキ層(軟質メッキ層)を形成した。そしてこれを温度950℃で短時間の加熱処理を行なって、芯材とニッケルメッキ層との界面に幅狭の拡散層を形成させ、その後、第二次の硬質ニッケルメッキ処理を行って、合計厚さ3.0μmのニッケル層を形成した。したがって、その被覆鋼線は芯材、拡散層,柱状組織,層状組織を有するものであった。
【0050】
次にこの被覆鋼線を連続伸線機によって0.9mmにまで細径化し、得られた高強度被覆鋼線のメッキ密着性を繰り返し曲げ試験器で試験した。試験は該鋼線を標点距離50mmにセットしてその一端を繰り返し180°に曲げた場合のメッキ剥離が生ずるまでの曲げ回数で評価したもので、結果的には鋼線が折損するまで特に剥離などの異常は見られなかった。
【比較例】
【0051】
線径2.0mmのSUS304軟質ステンレス鋼線を素材とし、アルカリ溶液中で電解脱脂して表面を活性化するとともに付着物を除去する前処理を行った後、ワット浴によるニッケルメッキ処理を行った。メッキ処理は、硫酸ニッケル液によるワット浴に有機添加剤としてホルマリン2.5ml/Lを加え、ストランド電解メッキ方式で行ったもので、Hv硬度430の硬質メッキに相当するものであり、またメッキ膜は厚さ0.9μmの単層で、メッキ組織は図3に見られるように鋼線の周面方向に伸びた層状組織を持つものであり、またHv硬度計でのメッキ層硬さはHv423であった。
【0052】
そこでこの比較鋼線について前記繰り返し曲げ試験を行ったところ、3回目に早くも表面メッキ層の剥離が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係わるばね用ステンレス鋼線の一実施例を示す拡大概略断面図である。
【図2】(A)は伸線加工前の状態を例示する拡大概略断面図であり、(B)は伸線加工後の状態を例示する拡大概略断面図である。
【図3】本発明に係わるばね用ステンレス鋼線のニッケルメッキ層の断面状態を示す顕微鏡写真を用いた断面図である。
【図4】外メッキ層の外観表面状態を示す顕微鏡写真の一例である。
【符号の説明】
【0054】
1 ばね用ステンレス鋼線
2 芯材
3 ニッケルメッキ層
3A 内メッキ層
3B 外メッキ層
a 微小片
【出願人】 【識別番号】000231556
【氏名又は名称】日本精線株式会社
【出願日】 平成18年7月21日(2006.7.21)
【代理人】 【識別番号】100082968
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 正

【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎


【公開番号】 特開2008−23563(P2008−23563A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2006−199743(P2006−199743)