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【発明の名称】 スプリングバックの大きい金属の造管溶接方法
【発明者】 【氏名】林 照彦

【氏名】高橋 一浩

【氏名】爲成 純一

【氏名】弘中 祥夫

【氏名】川上 哲

【要約】 【課題】管内面溶接ビード表面の微細割れ発生を防止し、高速溶接造管が安定して実施可能な、スプリングバックの大きい金属の連続溶接造管方法を提供する。

【構成】溶接を実施するスクイズロール2の前方位置において、フィン11を有するフィン付ロールを用いて突き合わせ部端面4のギャップ幅を拡大するとともに、スクイズロール2の押し付けによりスクイズ点2Cで突き合わせ部を密着させることにより、スクイズロール前方の突き合わせ入側角度を広げ、逆にスクイズ点より後方の突き合わせ出側角度を狭める。これにより、スクイズ点2Cより後方の広範囲な領域において、スクイズ点から離れるにつれて拡大する突き合わせ部端面5のギャップ幅が縮小し、その結果、溶接ビード表面の微細な割れ発生を防止することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリングバックの大きい金属の帯状フープを、ロール成形により円筒状に丸めながら、スクイズロールを用いてフープの両端面を密着させ、突き合わせ溶接して連続的に造管する造管溶接方法において、溶接を実施するスクイズロールに入る前のフープの突き合わせ端面間のギャップ幅を、フィン付ロールのフィンにより拡大することを特徴とする、スプリングバックの大きい金属の造管溶接方法。
【請求項2】
溶接の狙い位置を下記の範囲内に設定することを特徴とする、請求項1に記載のスプリングバックの大きい金属の造管溶接方法。
0mm≦L≦25mm
但し、Lは、溶接を実施するスクイズロールのスクイズ点から後方の溶接狙い位置までの距離(mm)を表す。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリングバックの大きい金属の帯状フープをロール成形により円筒状に丸めながら、スクイズロールを用いてフープの両端面を突き合わせ溶接して連続的に造管する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の造管溶接方法において、金属の帯状フープをロール成形により円筒状に丸めながら、スクイズロールを用いてフープの両端面を突き合わせ溶接して連続的に造管する方法が用いられる。スプリングバックの大きい金属を造管する場合には、スクイズロールによってフープの両端面を突き合わせても、スクイズロールの下流側でスプリングバックによって突合せが開いてしまうことがある。
【0003】
図1、および図2に、一般的なスクイズ装置を用いて造管溶接する場合に、溶接部に働くスプリングバックの影響を説明する概略図を示す。チタン等、ヤング率が小さく且つ耐力が大きい金属薄板を造管する場合、図1のように、丸めたフープをスクイズロール2によって押し付けることにより、スクイズ点2Cにおいては突き合わせ部を密着することは可能であるが、スクイズ点2Cの前後では突き合わせが開こうとする性質、すなわち、スプリングバックが強い。図1においては、後方突き合わせ端面5がスプリングバックによって開いた状態にある。このような金属薄板の長尺フープをロール成形により円筒状に丸めながら、スクイズロール2を用いて板の両端エッジ面を密着させ、その突き合わせ部を溶接して連続造管する場合においては、溶融部の凝固が完了する前にスプリングバックが作用して、図3に示したように管内面溶接ビードの幅方向中央部の表面に、幅が数μmから数十μmオーダーの微細な割れ19が生じることがあり、スプリングバックの大きい材料ほど発現し易い。また、この現象は、溶融部が最終凝固する位置がスクイズ点に近い場合には、スクイズロールによる押し付けが有効であるために発現しないが、溶融部の最終凝固位置がスクイズ点から離れるとスクイズの作用が弱まるため、割れが発生する。例えば、図2(b)に示したように、造管速度が低速の場合に形成される溶融部の形状7であれば溶融部が最終凝固する位置がスクイズ点2Cに近いのでスクイズロール2による押しつけが有効に働くが、造管速度が速くなった場合はその速度増分に応じて溶接入熱も増加するために溶融プールの大きさが拡大し、造管速度が高速の場合に形成される溶融部の形状8のように溶融部の最終凝固位置がスクイズ点から遠ざかる。その結果、上記の微細割れ現象が発現し易くなる。
【0004】
この問題に対し、従来、拘束治具を用いて小径ロールを造管軸方向に複数配列することにより、材料のスプリングバックを抑制し、突き合わせギャップ量を最小に押さえ込んだ直線領域を確保して溶接する造管方法(特許文献1:小径ロール複数配列スクイズ装置)や、管状体を加熱した状態で造管溶接することで材料のスプリングバックを軽減する造管方法(特許文献2:温間加熱造管法)、更には、突き合わせ溶接前のロール成形段階で材料の左右の領域を交互に小半径に成形することにより、突き合わせ溶接時でのスプリングバックを軽減する方法(特許文献3:非対称曲げ成形造管法)が提案されてきた。これらの提案は何れも材料のスプリングバックを最小に押さえ込むことを狙いとしたものであるが、何れの提案も、従来型の溶接造管ラインに、特殊な専用治具や成形ロール構造、加熱処理設備を組み込むことが必要であり、これら特別な装備を様々な管寸法へ適用することはエンジニアリング上の困難を伴ったり、多大な設備投資が必要であり、経済的な解決手段とは言えない。また、何れの方法もスプリングバックの作用を完全に0に押さえ込むものでは無い。
【0005】
本発明者らも図4に示したように、スクイズロール2の直ぐ後方に、できるだけ近づくように極小径のスクイズロール2’を配置して、溶融部の最終凝固位置近傍でのスプリングバックを押さえ込む方法を考案し実際に試みたが、上記の微細割れ発生を防ぎ、且つ、良好なビード形状を得るためのスクイズ押し込み量のコントロールが難しく、また、エンジニアリング面からも極小径スクイズロール2’の製作は困難を伴い、満足な結果が得られていない。
【0006】
一方、この問題に対し、溶接の条件面の工夫で対処する方法が考えられる。
【0007】
即ち、溶接トーチ位置をスクイズ点2Cより上流側の1’点に設定し、溶融部を、前方に位置を移動させて溶接トーチ1’によって形成される溶融部の形状9とし、溶融部の最終凝固位置をスクイズ点2Cに近づける方法であり、図5に概略図を示す。この方法によればスプリングバックによる割れの発生は緩和されるものの、スクイズ点より上流側に遡るほど突き合わせ部の両端面のギャップ量は拡大するため、溶接品質を考慮すると溶接トーチ位置の移動距離にも限度がある。例えば、板厚0.5mmの薄肉チタン管の場合、溶け落ち等の無い健全な溶接品質を維持するためには、溶接トーチ位置の移動可能な距離は数mmから最大でも10mm程度の範囲に制限されるため、この方法による大きな改善は期待できない。
【0008】
以上の成形と溶接に関する従来技術を組み合わせることにより、管内面溶接ビード表面の微細割れ防止の相乗効果が有る程度期待できるものの、スプリングバックによる影響を完全に抑え込むには到らず、今後、更なる材料の高強度化、造管速度の高速化が要求される中で、技術的限界が露呈することが予想される。また、何れの提案も、対策として従来型の溶接造管ラインに特殊な専用治具や複雑な成形ロール構造、加熱処理設備等を組み込むことが必要であり、これら特別な装備を様々な管寸法へ適用することはエンジニアリング上の困難を伴ったり、多大な設備投資が必要であり、経済的な解決手段とは言えない。また、スプリングバックの強い材料をスクイズロールを用いて板の両端エッジ面を密着させ、その突き合わせ部を溶接して連続造管する場合においては、溶接狙い位置としては、原則として両端エッジ面が最も密着するスクイズ点近傍を採択せざるを得ない。この場合、例えばTIG溶接では、スクイズロールのフランジ同士が最も接近する狭隘部をかいくぐり、突き合わせ部を狙ってTIGアークを照射する必要がある。この時、TIGアークとスクイズロールフランジ部の距離が極端に短いことが災いして、TIGアークが不安定な状態に陥ったり、甚だしい場合にはTIGアークがスクイズロールフランジ部に短絡するトラブルが発生する。また、TIGアークが近接することで生じるスクイズロールの高温化が原因となって、設備面、品質面でのトラブル発生に繋がる場合があるが、これらの問題に対して有効な解決策の提案はなされていない。
【0009】
【特許文献1】特開平09−216094号公報
【特許文献2】特公平01−054122号公報
【特許文献3】特公平05−051373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、チタン等、スプリングバックの大きい金属の帯状フープを用いて造られる溶接管の造管溶接において、管内面溶接ビード表面に発生する微細割れの効果的な防止方法を提案するものであり、その適用範囲としては、管材の鋼種、板厚、管径を特に限定するものではない。また、本発明は、上記溶接管の造管溶接において用いる溶接アークとスクイズロールフランジ部の距離が近接することによって生じる、アークの不安定とスクイズロールの高温化による弊害を回避する手段を提供することを目的とする。本発明は、基本的に従来の溶接造管ラインを活用するものであり、極めて小規模の設備改造により大きな改善効果を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)スプリングバックの大きい金属の帯状フープを、ロール成形により円筒状に丸めながら、スクイズロールを用いてフープの両端面を密着させ、突き合わせ溶接して連続的に造管する造管溶接方法において、溶接を実施するスクイズロールに入る前のフープの突き合わせ端面間のギャップ幅を、フィン付ロールのフィンにより拡大することを特徴とするスプリングバックの大きい金属の造管溶接方法。
(2)上記(1)の造管溶接方法において、溶接の狙い位置を下記の範囲内に設定することを特徴とするスプリングバックの大きい金属の造管溶接方法。
0mm≦L≦25mm
但し、Lは、溶接を実施するスクイズロールのスクイズ点から後方の溶接狙い位置までの距離(mm)を表す。
【0012】
すなわち、本発明者らは、図6(c)に示すように、溶接を実施するスクイズロールに入る前のフープの突き合わせ端面間のギャップ幅を、フィン付ロールのフィン11により拡大することにより、突き合わせ部を傷めたり変形させることなく、スクイズ点2Cより前方の突き合わせ部端面4の入側角度を拡大させ、そうすることで、逆にスクイズ点2Cより後方の突き合わせ部端面5の出側角度を縮小させることが可能であることを実験で見出した。この効果により、スクイズ点2Cより後方の広範囲な領域において突き合わせ部のギャップ幅が縮小し、その結果、溶接ビード表面の微細な割れ発生を防止可能であることが鋭意、実験を行う中で明らかとなった。
【0013】
また、スクイズ点2Cより後方の広範囲な領域において突き合わせ部のギャップ幅が縮小することで、溶け落ちが発生せず、且つ、溶接ビード表面の微細な割れが発生しない溶接可能な領域がスクイズ点の後方に拡大した。これにより、従来、溶接アークとスクイズロールフランジ部の距離が近接することによって生じていたアークの不安定や、スクイズロールの温度上昇が原因となって生じる設備面、品質面での問題が、溶接トーチ位置を後方に配置することにより解決可能となった。
【0014】
なお、本発明において、スプリングバックの大きい金属とは、耐力(単位 MPa)×1000/ヤング率(単位 MPa)が1.40以上である金属が対象となる。具体的には、純チタン(JIS1種、2種)、ステンレス鋼(SUS304)等が対象に挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、スプリングバックの大きい金属の連続溶接造管に際し、管内面溶接ビード表面の微細割れ発生が防止され、高速で安定した溶接造管を実施可能とする製造方法が提供され、工業上、有益な効果をもたらし得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態について、図6、図7、図8を用いて、以下に説明する。
【0017】
最初に、スクイズ点2Cより後方の領域において突き合わせ部のギャップ幅を縮小する方法について、図6、および図8を用いて説明する。本発明では、スクイズロール2を用いてスクイズ点2Cにおいて突き合わせ部を密着させた上で、スクイズロール2に入る前のフープの突き合わせ部端面4間において、フィン部11と板抑え部13で構成されるフィン付ロールのフィン部11を突き合わせ部のフープ端面間に図6(b),図6(c)や図8のように配置して、ギャップ幅を図6(a)(フィン付きロールを配置していない)の4aから図6(c)の4a’に拡大する。
【0018】
これによりスクイズ点2Cより前方の突き合わせ部端面4の入側角度が拡大するが、このとき、逆にスクイズ点2Cより後方の突き合わせ部端面5の出側角度が縮小し、その結果、スクイズ点の後方における突き合わせ部のギャップ幅が、フィン付きロールを配置していない図6(a)では5aや5bの大きさであったものが、それぞれ図6(c)の5a’や5b’のように狭まる傾向が確認された。
【0019】
この現象は、図6(b)のフィン部11がフープ端面に接触して押し広げる位置12を「力点」とし、突き合わせ部が密着したスクイズ点2Cを「支点」とした場合に、所謂「梃子の原理」によって「作用点」であるスクイズ点後方の突き合わせ部がどのような挙動を示すかを考えると容易に説明ができる。
【0020】
本発明の原理をこのように考えた場合、本発明の効果はスクイズ点の後方領域における突き合わせギャップ幅の縮小としてもたらされるため、これを最大発揮する方法としては、一つには、力点12において差し込むフィンの厚みを増すことであり、もう一つは、力点12と支点であるスクイズ点2Cの間隔Fを縮めることである。
【0021】
しかしながら、極端に厚いフィンを差し込んだり、力点12とスクイズ点2Cの間隔Fが極端に短い場合には、材料に過酷な曲げ加工が加わり、その結果、突き合わせ部の端面を傷めたり、突き合わせ形状が変形する等の不具合が生じ、むしろ溶接に悪影響を及ぼす可能性がある。従って、実際に本発明を適用する際には、造管する素材フープの材質、板厚、管径等を鑑みて、過度な曲げ加工とならないように、フィン厚とフィン差し込み位置を決定する必要がある。
【0022】
本発明者らは、板厚が0.5mmと1.4mmの2種類の外径φ20mm純チタン溶接管用フープ材を用いて、溶接は行わずに造管しながらスクイズロール前後の突き合わせギャップ幅をCCDカメラを用いて測定することにより、上記フィン付ロールの使用によるスクイズ後方のギャップ幅縮小効果を確認する実験を行った。実験の中で、フィン厚を2.9mmから6.5mmと変化させたり、フィンを差し込む位置をスクイズ点から80mm離れた位置から140mm離れた位置まで変化させて、それらの影響と適正範囲について探索した。
【0023】
【表1】


【0024】
表1に結果を示す。フィン付ロールを使用してスクイズロ−ルに入る前のフ−プの突き合わせ端面間のギャップを拡大することで、スクイズ後方30mm位置の突き合わせギャップ幅が縮小しており、本発明による効果が確認された。また、フィン厚が厚いほど、フィンを差し込む位置がスクイズ点に近いほど、スクイズ後方のギャップ幅を縮小する効果が大きいことが実証された。表1では、このフィン差し込みによる改善効果を予測可能な指標として、フィンの厚みとフィン差し込み位置からスクイズ点までの距離を用いて算出されるW値を定義した。フィンを用いたときのフィン位置での突き合わせ端面のギャップを4a’とし、同じ位置でのフィンを用いないときのギャップを4aとし、ギャップ拡大率GaをGa=4a’/4aと定義する。そして、フィン作用点12とスクイズ点2Cの間の距離をFとし、WをW=Ga/Fと定義する。実験でW値が大きいほどスクイズ後方のギャップ幅が縮小する関係が得られた。但し、フィン厚が厚すぎたり、フィン差し込み位置がスクイズ点に近すぎる場合には、突き合わせ形状が変形することも確認された。
【0025】
以上の実験結果から、板厚が異なる2つの純チタン溶接管用フープ毎にフィン厚とフィン差し込み位置の適正範囲が抽出された。例えば、板厚が0.5mmの場合、Wの好適範囲は0.013〜0.022である。また板厚が1.4mmの場合、Wの好適範囲は0.018〜0.026である。
【0026】
フィン付ロールの構造については、突き合わせ部の端面を押し広げる役目を担うフィン部11と、突き合わせ部近傍の管表面をバランス良く押さえ込むことで、オフセット等の突き合わせ形状不良を抑制する役目を担う板抑え部13から成り、何れも常に管体に接触させて機能させるため、材料との焼き付きが発生しないよう、フィン付ロールは滑らかに回転する機構とする。ロール材質としては、フィン部11は材料との激しい接触により摩耗し易い部分であるので表面が硬い方が望ましく、SKD11を焼き入れ処理したものやコストが許せば超硬ロール等を用いても良い。板抑え部13についてもフィン部と同様の材料としても良いが、鋼と焼き付き易いチタンフ−プの造管においては管表面に疵が発生し易く商品価値を著しく損なうため、対策として銅合金を適用している。受けロール14は、管体を挟んでフィン付ロールの反対側に配置し、フィン付ロールによる押さえ込み荷重を下側から支える役目を担う。フィン付ロールと同様に回転構造とし、材質は板抑え部13と同様なものを用いると良い。
【0027】
スプリングバックが大きなフープ材や造管速度が高速であるが故に、従来の造管溶接方法では溶接ビード表面に微細な割れが発生していた場合において、本発明では上記の方法により、スクイズ点より後方の突き合わせ部のギャップ幅を縮小することが可能であるため、図7に示したように、溶接トーチ1を用いて溶融プール17を形成した場合に、その末端位置17’において溶接ビード表面に微細な割れが発生することを防止可能となった。
【0028】
また、本発明の効果は、従来はスクイズ点近傍の極狭い範囲に限られていた溶接可能範囲をスクイズ点の後方に大きく拡大したことにより得られる。すなわち、スクイズ点より後方の広範囲な領域において、突き合わせ部のギャップ幅が縮小されたことにより、溶接トーチの位置を図7(a)の1”のように配置し、スクイズ点の後方に大きく離れた位置で溶接しても、溶け落ちが容易には発生せず、溶接ビード表面の微細な割れが発生しにくくなった。そのため、従来、溶接アークとスクイズロールフランジ部の距離が近接することによって生じていたアークの不安定や、スクイズロールの温度上昇が原因となって生じる設備面、品質面での問題が解決可能となった。図7(b)において、溶接トーチ位置が1の場合の溶融部の形状が17、溶接トーチ位置が1”の場合の溶融部の形状が18である。
【0029】
スクイズ点2Cと溶接トーチ1との距離Lが大きいほどアークの不安定やスクイズロールの温度上昇による不具合は発生しにくくなるが、距離Lが大きくなりすぎると、溶接ビード表面の微細割れ発生が顕著となってくるために造管速度の低減が必要となり、溶け落ちも発生する。実施例のところでも示すが、距離Lの最大値としては、造管試験の結果からスクイズ点の後方25mmとした。本発明において、スクイズ点の前方に溶接トーチを配置することは、フィンの働きによりギャップ幅が拡大した突き合わせ部を溶接することになるため、溶け落ち発生の可能性が極めて高く、採用すべきでは無い。以上から、距離Lを0mm≦L≦25mmの範囲に設定した(但し、Lは、溶接を実施するスクイズロールのスクイズ点から後方の溶接狙い位置までの距離(mm)を表す。)。
【0030】
以上の形態によって既に十分な改善効果がもたらされるが、更に万全を期し、改善効果を高める方法として、図9に示したように、溶接を実施するスクイズロール2の後方に新たに1対のスクイズロール2”を配置してスプリングバックを押さえ込む方法を組み合わせても良い。
【0031】
本発明において適用する溶接方法としてはTIG溶接が一般的であるが、高速化を追求する目的で、TIGに比べて熱源の形態が細いプラズマ溶接、レーザ溶接等も適用可能である。また、予熱による高速化やビード形状を整える等の必要から、複数トーチを用いた溶接方法を選択しても良い。
【0032】
電縫溶接管の製造においても、造管時にフィン付きロールが使用される。しかしフィン付きロールを使用する目的が本発明とは全く異なる。本発明においては、溶接を実施するスクイズロールに入る前のフープの突き合わせ端面間のギャップ幅を拡大するためにフィン付きロールを使用している。それに対し、電縫溶接管の製造においては、ブレークダウンロールにより粗成形された後の仕上げ成形にフィンパスロールが用いられ、フィンパスロールによって曲げと絞り加工を行うのであって、決して突合せ端面間のギャップ幅を拡大することはない。
【実施例】
【0033】
表2に、外径φ20mmで肉厚0.5mmtの純チタン溶接管の場合について、本発明による造管溶接実施例を従来法で造管溶接した場合等と比較して示す。フィン厚とフィン差し込み位置については、表1と同じ条件を採用した。溶接はTIG溶接トーチ1本を用いて実施した。造管溶接を6m/分、6.5m/分、7m/分、7.5m/分、8m/分の5水準の速度について実施し、溶接ビード表面の微細割れ発生状況を比較した。溶接トーチ位置については、スクイズ点からの距離を0mmから後方へ最大30mmまで5mmピッチで変更し、アークの安定性やスクイズロールの温度上昇に及ぼす影響(△はアークが希に不安定となることがあり、スクイズロールの温度上昇が顕著で実害が発生しうるレベル、○はアークはほぼ安定しており、スクイズロールは温度上昇するが許容範囲内、◎は全く問題なし。)を比較評価し、溶接ビード表面の微細割れ発生状況を比較した。溶接入熱条件は造管速度毎に最適な条件を選択し、従来法と本発明法を同じ溶接入熱条件とした。
【0034】
【表2】


【0035】
No.1〜No.3は従来法による比較例である。溶接トーチ位置をスクイズ点より後方に離すにつれて、溶接ビード表面の微細割れ発生限界速度が低速側に移行する一方、アークの不安定やスクイズロールの温度上昇による不具合発生傾向は弱まった。
【0036】
No.4〜No.6は本発明の実施例である。何れも溶接トーチ位置はスクイズ点を狙った位置である。No.4では3.5mm厚さのフィンをスクイズ点から100mm離れた位置に差し込むことにより、No.1のフィンを差し込まない従来法に比べて微細割れ発生限界速度が高速側に0.5m/分改善した。No.5、No.6では、フィンの厚みを3.5mmから4.5mm、5.5mmへと増すことによってW値が増加し、それに伴って溶接ビード表面の微細割れ発生限界速度が、7.0m/分から7.5m/分、8.0m/分へと高速側に更に改善した。これらの改善傾向は、何れも表1の実験で得られた結果と良好に一致しており、本発明により確かな改善が得られることを裏付けた。
【0037】
No.7〜No.11は本発明の実施例であり、何れもNo.6と同じ5.5mm厚さのフィンを用いている。厚さ5.5mmのフィンを用いたことにより、スクイズ後方の突き合わせギャップ幅が縮小した改善効果は大きく、溶接可能範囲がスクイズ点の後方25mm狙い位置まで拡大した。No.6からNo.11にかけて、溶接トーチ位置をスクイズ点より後方に離していくにつれて、溶接ビード表面の微細割れ発生限界速度が段階的に低速側に移行する一方で、アークの不安定やスクイズロールの温度上昇による不具合発生傾向は段階的に改善されていった。
【0038】
No.12も同じく厚さ5.5mmのフィンを用いているが、溶接トーチ位置をスクイズ点より後方に30mmまで離した結果、溶融部の溶け落ちが発生した。突き合わせギャップ幅が広すぎたために溶け落ちが発生したものと推測され、本発明による効果の限界を示すために比較例として取り上げた。以上、外径φ20mmで肉厚0.5mmtの純チタン溶接管を造管溶接した結果から、スクイズ点と溶接トーチとの距離Lは0mm≦L≦25mmの範囲に設定することが適当であることが証明された。
【0039】
No.13では更に厚い6.5mm厚のフィンを用いたが、突き合わせ部の形状が変形したために溶接が安定せず、溶け落ちが頻発して造管溶接不能であることが判った。
【0040】
No.14ではNo.13と同様に6.5mm厚のフィンを用いているが、フィンの差し込み位置をスクイズ点から140mmと離したことにより突き合わせ部の加工度が低減し、突き合わせ部を傷めたり変形させることなく、スクイズ点に送り込むことに成功した。その結果、W値がほぼ等しいNo.4と同様に、速度7.0m/分の造管溶接で健全な溶接部が得られた。
【0041】
以上、外径φ20mmで肉厚0.5mmtの純チタン溶接管の場合において、本発明による改善効果が確認された。
【0042】
表3に、外径φ20mmで肉厚1.4mmtの純チタン溶接管の場合について、本発明による造管溶接実施例を従来法で造管溶接した場合等と比較して示す。フィン厚とフィン差し込み位置については、表1と同じ条件を採用した。溶接はTIG溶接トーチ1本を用いて実施した。造管溶接を1.4m/分、1.8m/分、2.2m/分、2.6m/分、3.0m/分の5水準の速度について実施し、溶接ビード表面の微細割れ発生状況を比較した。溶接トーチ位置については表2と同様に、スクイズ点からの距離を0mmから後方へ最大30mmまで5mmピッチで変更し、アークの安定性やスクイズロールの温度上昇に及ぼす影響(△はアークが希に不安定となることがあり、スクイズロールの温度上昇が顕著で実害が発生しうるレベル、○はアークがほぼ安定しており、スクイズロールの温度上昇は許容範囲内、◎は全く問題なし。)を比較評価し、溶接ビード表面の微細割れ発生状況を比較した。溶接入熱条件は造管速度毎に最適な条件を選択し、従来法と本発明法を同じ溶接入熱条件とした。
【0043】
【表3】


【0044】
No.1〜No.3は従来法による比較例である。溶接トーチ位置をスクイズ点より後方に離すにつれて、溶接ビード表面の微細割れ発生限界速度が低速側に移行する一方、アークの不安定やスクイズロールの温度上昇による不具合発生傾向は弱まった。
【0045】
No.4〜No.5は本発明の実施例である。何れも溶接トーチ位置はスクイズ点を狙った位置である。No.4では2.9mm厚さのフィンをスクイズ点から100mm離れた位置に差し込むことにより、No.1のフィンを差し込まない従来法に比べて微細割れ発生限界速度が高速側に0.4m/分改善した。No.5では、フィンの厚みを2.9mmから4.0mmへと増すことによってW値が増加し、それに伴って溶接ビード表面の微細割れ発生限界速度が、2.6m/分から3.0m/分へと高速側に更に改善した。これらの改善傾向は、何れも表1の実験で得られた結果と良好に一致しており、本発明により確かな改善が得られることを裏付けた。
【0046】
No.6〜No.10は本発明の実施例であり、何れもNo.5と同じ4.0mm厚さのフィンを用いている。厚さ4.0mmのフィンを用いたことにより、スクイズ後方の突き合わせギャップ幅が縮小した改善効果は大きく、溶接可能範囲がスクイズ点の後方25mm狙い位置まで拡大した。No.5からNo.10にかけて、溶接トーチ位置をスクイズ点より後方に離していくにつれて、溶接ビード表面の微細割れ発生限界速度が段階的に低速側に移行する一方で、アークの不安定やスクイズロールの温度上昇による不具合発生傾向は段階的に改善されていった。
【0047】
No.11も同じく厚さ4.0mmのフィンを用いているが、溶接トーチ位置をスクイズ点より後方に30mmまで離した結果、溶融部の溶け落ちが発生した。突き合わせギャップ幅が広すぎたために溶け落ちが発生したものと推測され、本発明による効果の限界を示すために比較例として取り上げた。以上、外径φ20mmで肉厚1.4mmtの純チタン溶接管を造管溶接した結果から、スクイズ点と溶接トーチとの距離Lは0mm≦L≦25mmの範囲に設定することが適当であることが証明された。
【0048】
No.12では更に厚い4.5mm厚のフィンを用いたが、突き合わせ部の加工が強すぎたために形状が変形し、溶接が安定せず溶け落ちが頻発して造管溶接不能であることが判った。
【0049】
No.13ではNo.4と同様に2.9mm厚のフィンを用いているが、フィンの差し込み位置をスクイズ点から80mmの位置に近づけたことにより、W値が増加し、その結果、W値がほぼ等しい4.5mm厚のフィンを用いたNo.5と同様に、速度3.0m/分の高速造管溶接でも健全な溶接部が得られた。
【0050】
以上、外径φ20mmで肉厚1.4mmtの純チタン溶接管の場合において、本発明による改善効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の原理を説明するための概略図であり、従来法におけるスクイズ前後での突き合わせ部の挙動を示した図である。
【図2】従来法においてビード表面微細割れが発生するメカニズムを説明するための概略図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図3】溶接部の管内表面の微細割れを断面観察した場合のイメージ図。
【図4】ビード表面微細割れの改善策として、小径スクイズロールを用いてスプリングバックを押さえ込む方法を説明するための概略図。
【図5】溶接トーチ位置を変更してビード表面微細割れを改善する方法を説明するための概略図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図6】本発明の原理を説明するための概略図であり、(a)はフィン付きロールを有しない平面図、(b)(c)はフィン付きロールを有し、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図7】本発明の実施例を説明する概略図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図8】本発明で用いたフィン付ロールの概略図であり、図6のA−A矢視断面図である。
【図9】本発明の効果を高めるため、スクイズロールの後方にもう1段スクイズロールを設けてスプリングバックを押さえ込む方法を説明するための概略図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 溶接トーチ
1’ 前方に位置を移動させた溶接トーチ
1” 後方に位置を移動させた溶接トーチ
2 スクイズロール
2C スクイズ点
2’ 小径スクイズロール(スプリングバック抑え用)
2” 追加スクイズロール(スプリングバック抑え用
3 溶接管体
4 スクイズロール前方の突き合わせ部端面
5 スクイズロール後方の突き合わせ部端面
5’ スプリングバックを抑えるために小径スクイズロールを用いた場合の、スクイズロール後方の突き合わせ部端面
5” スプリングバックを抑えるために小径スクイズロールを用いた場合の、小径ロール後方の突き合わせ部端面
6 造管速度が中程度の場合に形成される溶融部の形状
6’ 6の溶融部の末端に働くスプリングバックの大きさを突き合わせ部端面間のギャップ幅で表現したもの
7 造管速度が低速の場合に形成される溶融部の形状
7’ 7の溶融部の末端に働くスプリングバックの大きさを突き合わせ部端面間のギャップ幅で表現したもの
8 造管速度が高速の場合に形成される溶融部の形状
8’ 8の溶融部の末端に働くスプリングバックの大きさを突き合わせ部端面間のギャップ幅で表現したもの
9 前方に位置を移動させた溶接トーチ1’によって形成される溶融部の形状
9’ 9の溶融部の末端に働くスプリングバックの大きさを突き合わせ部端面間のギャップ幅で表現したもの
10 溶接ビード
11 フィン付ロールのフィン部
12 フィン部11がフープ端面に接触して押し広げる位置
13 フィン付ロールの板抑え部
14 受けロール
4a フィン付ロールを用いない場合の、スクイズロール前方の位置12における突き合わせ部端面間のギャップ幅
4a’ フィン付ロールを用いた場合の、位置12における突き合わせ部端面間のギャップ幅であり、フィン底部の幅寸法に等しい。
5a フィン付ロールを用いない場合の、スクイズロール後方位置における突き合わせ部端面間のギャップ幅
5a’ フィン付ロールを用いた場合の、スクイズロール後方位置における突き合わせ部端面間のギャップ幅であり、5aの位置に対応したもの
5b フィン付ロールを用いない場合の、5aのさらに後方位置における突き合わせ部端面間のギャップ幅
5b’ フィン付ロールを用いた場合の、スクイズロール後方位置における突き合わせ部端面間のギャップ幅であり、5bの位置に対応したもの
17 スクイズ点を狙って配置した溶接トーチ1によって形成される溶融部の形状
17’ 17の溶融部の末端に働くスプリングバックの大きさを突き合わせ部端面間のギャップ幅で表現したもの
18 スクイズ点の後方に配置した溶接トーチ1”によって形成される溶融部の形状
18’ 18の溶融部の末端に働くスプリングバックの大きさを突き合わせ部端面間のギャップ幅で表現したもの
19 管内面溶接ビードの幅方向中央部表面に発生した微細割れ
F フィン部11がフープ端面に接触して押し広げる位置12とスクイズ点2Cとの間の距離:(mm)
L スクイズ点と溶接狙い位置までの距離:(mm)
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成18年7月20日(2006.7.20)
【代理人】 【識別番号】100107892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 俊太

【識別番号】100105441
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 久喬


【公開番号】 特開2008−23555(P2008−23555A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2006−198226(P2006−198226)