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【発明の名称】 延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法
【発明者】 【氏名】川田 裕之

【氏名】杉浦 夏子

【氏名】丸山 直紀

【氏名】高橋 学

【氏名】白石 利幸

【要約】 【課題】形状を損なうことなく板幅方向の材質の均質性を確保することが可能な、延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼板の製造方法を提供する。

【解決手段】上下のロールアセンブリーの一方又は双方が、軸方向に3以上に分割された分割バックアップロールによって、直径30〜300mmのワークロールを支持する支持機構を有し、分割バックアップロールのそれぞれに負荷される荷重を検出する荷重検出装置と前記分割バックアップロールを独立して昇降させる圧下装置を設けた圧延機により、固溶Cと固溶Nの量の合計が0.0005%超0.0050%以下であり、板厚が0.3〜2.0mm、板幅が600〜2000mmである冷延鋼鈑に、圧延率が0.1以上0.8%未満の調質圧延を施す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.0005%超0.0500%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:3.00%以下、
P:0.100%以下、
S:0.100%以下、
Al:1.000%以下、
N:0.1000%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、固溶C量と固溶N量の合計が0.0005%超0.0050%以下であり、板厚が0.3〜2.0mm、板幅が600〜2000mmである冷延鋼鈑に、
上下のロールアセンブリーの一方又は双方が、軸方向に3以上に分割された分割バックアップロールによって、直径30〜300mmのワークロールを支持する支持機構を有し、前記分割バックアップロールのそれぞれに負荷される荷重を検出する荷重検出装置と前記分割バックアップロールを独立して昇降させる圧下装置を設けた圧延機により、圧延率が0.1以上0.8%未満の調質圧延を施すことを特徴とする延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法。
【請求項2】
更に、前記冷延鋼板が、質量%で、
Nb、Ti、Bの何れか1種又は2種以上を合計で、0.0001〜0.1質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法。
【請求項3】
更に、前記冷延鋼板が、質量%で、
Mo、Cr、V、Wの何れか1種又は2種以上を合計で、0.001〜1.0質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法。
【請求項4】
前記ワークロールの表面粗さRaが0.2μm以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法。
【請求項5】
前記調質圧延前の冷延鋼板の表面にめっきを施すことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装焼付工程で歪時効によって硬化する焼付硬化性冷延鋼板の製造方法に関し、特に自動車及び家庭電気製品の材料、建材などに好適な、高い延性を有し、かつ耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼板の製造方法に関する。なお、本発明には、冷延鋼板の表面に、更に、防錆のために、例えばZnめっきや合金化Znめっきなどの表面処理を施す製造方法も含まれる。
【背景技術】
【0002】
応力−歪み曲線において降伏伸びを発現する冷延鋼板は、プレス時にストレッチャーストレインと呼ばれるしわ模様が発生する。また、冷延鋼板に、固溶Cが残存していると、室温で歪時効が進行して降伏伸びが発生する。特に、成形性と耐デント性、すなわち飛び石などが当たった時に容易に凹まない特性の両立のために、固溶C及び固溶Nを意図的に残存させて焼付硬化性(Bake Hardenabiliy:BH性という。)を付与した鋼板では、室温で時効が進行するという問題がある。
【0003】
そこで、従来、成分組成及び焼鈍工程までの製造条件の最適化によって、鋼中の固溶C及びNを確保し、更に、調質圧延によって可動転移を導入し、常温時効を抑制している。また、冷延鋼板への可動転位の導入を促進させるには、調質圧延による伸び率の増加が必要であり、これにより耐常温時効性を向上させることができる。しかしながら、調質圧延の伸び率を増加させると冷延鋼板の延性が劣化し、製品の成形性を損なうことがある。
【0004】
このような課題に対して、小径ロールを用いて調質圧延を施し、鋼板の表層に可動転位を導入し、内層への加工の影響を抑制し、成形性を維持する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、従来の圧延機を用いて低い伸び率での調質圧延を行うと、平坦度などの形状を損なうことがある。また、板幅方向において伸び率のバラツキが生じ、伸び率が不十分である部位では、充分な耐常温時効性が得られない。一方、冷延鋼板の板幅方向において、局所的な伸び率が最も低くなる部位でも十分な伸び率を確保できるように伸び率を高めると成形性が劣化する。
【0006】
これまで、板幅方向の圧下率を均一とした圧延を施す方法として、分割バックアップロールを備える軽圧下圧延機を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、特許文献2に記載される圧延機は、板厚5mm以上の厚鋼板の製造方法に関するものであり、また、耐常温時効性や延性等の材質に関する記載はない。
【特許文献1】特開平11−314103号公報
【特許文献2】特開2002−66603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、形状を損なうことなく板幅方向の材質の均質性を確保することが可能な、延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、鋼板の全幅において十分な耐常温時効性を持たせるために、調質圧延の伸び率は、局所的な伸び率の低下を想定して、0.8%以上が必要とされており、そのため、成形性の劣化を避けることが困難であった。そこで、本発明は、固溶C、固溶Nの量を確保した焼付硬化性冷延鋼板を、分割バックアップロールで小径のワークロールを支持した圧延機により、伸び率を低下させた調質圧延を行うことによって、形状及び板幅方向の材質の均質性を損なうことなく、延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼板を製造することを可能とした方法であり、その要旨は以下のとおりである。
【0009】
(1) 質量%で、
C:0.0005%超0.0500%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:3.00%以下、
P:0.100%以下、
S:0.100%以下、
Al:1.000%以下、
N:0.1000%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、固溶C量と固溶N量の合計が0.0005%超0.0050%以下であり、板厚が0.3〜2.0mm、板幅が600〜2000mmである冷延鋼鈑に、
上下のロールアセンブリーの一方又は双方が、軸方向に3以上に分割された分割バックアップロールによって、直径30〜300mmのワークロールを支持する支持機構を有し、前記分割バックアップロールのそれぞれに負荷される荷重を検出する荷重検出装置と前記分割バックアップロールを独立して昇降させる圧下装置を設けた圧延機により、圧延率が0.1以上0.8%未満の調質圧延を施すことを特徴とする延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法。
(2) 更に、前記冷延鋼板が、質量%で、
Nb、Ti、Bの何れか1種又は2種以上を合計で、0.0001〜0.1質量%含有することを特徴とする前記(1)に記載の延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法。
(3) 更に、前記冷延鋼板が、質量%で、
Mo、Cr、V、Wの何れか1種又は2種以上を合計で、0.001〜1.0質量%含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法。
(4) 前記ワークロールの表面粗さRaが0.2μm以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)の何れか1項に記載の延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法。
(5) 前記調質圧延前の冷延鋼板の表面にめっきを施すことを特徴とする前記(1)〜(4)の何れか1項に記載の延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、平坦度等の形状を損なうことなく、局所的な表面品位の劣化も抑制した、延性及び耐常温非時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼板を製造することができる。また、鋼種によっては、生産性の低下の要因となっていた成分及び製造条件に対する規制を緩和できることができるなど、産業上の貢献が顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の圧延機は、上下の少なくとも何れか一方のロールアセンブリーが、軸方向に3以上に分割された分割バックアップロールによってワークロールを支持する支持機構を有し、各分割バックアップロールに負荷される荷重を検出する独立した荷重検出装置と、各分割バックアップロールを個別に昇降させる独立した圧下装置とが配置された構成となっている。
【0012】
この分割バックアップロールの採用により、低い伸び率でも板幅方向の伸び率が均一となり、小径ワークロールの採用により、鋼板の表層に可動転位を導入して、焼付硬化性冷延鋼板の常温での耐時効性を向上させる。なお、本発明の調質圧延では、板厚の変化が小さいため、圧延方向の長さの変化率、即ち、伸び率を規定する。
【0013】
本発明の小径ワークロールを有する圧延機により、焼鈍後、固溶C量、固溶N量を確保した冷延鋼板に調質圧延を施すと、形状を損なうことなく、延性及び常温での耐時効性に優れる焼付硬化性冷延鋼板を製造方法することができる。
【0014】
本発明の圧延機は、図1に示すように、電動モータによるパスライン調整機1及び油圧圧下を用いた主圧下装置2で上下する上下のインナーハウジング内に、分割バックアップロール3、4によって支持される上下のワークロール5を有するものである。なお、パスライン調整機1は、ロール交換した際のロール径の変化に対応してパスラインを調整する装置である。また、主圧下装置2は油圧シリンダーの位置を検出する機構を有し、これにより圧下位置が測定される。
【0015】
更に、直径30〜300mmの上下のワークロール5は、図2に示すように、軸方向に分割された分割バックアップロール3a〜3d、4a〜4eによって支持される。また、各々の分割バックアップロール3a〜3d、4a〜4eのそれぞれに独立に負荷される荷重を検出する荷重検出装置と、各々の分割バックアップロール3a〜3d、4a〜4eを独立に昇降させる圧下機構及び各分割バックアップロールの位置を検出する位置検出機構を備えている。なお、図示はしていないが、上下のワークロール5は、駆動モータによって回転され、圧延に必要なトルクが伝達されている。さらに、インナーハウジング内には、ワークロール5の交換に使用されるワークロールチョックが設けられている。
【0016】
本発明者らは、図1及び2に示す圧延機により、焼付硬化性冷延鋼板の調質圧延を施し、調質圧延の伸び率と、延性及び耐時効硬化性との関係を調査した。
まず、質量%で、C:0.0005%超0.0500%以下、Si:1.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Al:1.000%以下、N:0.1000%以下を含有し、必要に応じて、Nb、Ti、Bの1種又は2種以上を合計で、0.0001〜0.1%、Mo、Cr、V、Wの何れか1種又は2種以上を合計で、0.001〜1.0%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を溶製して鋳造した。
【0017】
得られた鋼片を熱間圧延、冷間圧延して、板厚0.8mmの冷延鋼板とした。冷延鋼板の焼鈍は、焼鈍温度を750〜850℃の範囲内、焼鈍時間を40〜100秒の範囲内とし、冷却速度を60〜120℃/秒の範囲内として行い、固溶C量及び固溶N量との和が0.0005%超0.0050%以下になるように調整した。
【0018】
次に、これらの鋼板に図1及び図2に示した圧延機により、伸び率0.3%の調質圧延を施した。また、比較例として直径が300mmであるワークロール及び分割されていないバックアップロールからなる通常の軽圧下圧延機を用いて伸び率0.3%及び1.4%の調質圧延を施した。これらの冷延鋼板から、板幅100mm毎に圧延方向を長手方向としてJIS Z 2201の5号試験片を作製した。なお、調質圧延後、1週間以内に引張試験片を作製し、引張試験を実施するまで、引張試験片を−40℃で保管した。
【0019】
これらの引張試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、降伏伸び及び全伸びを測定した。更に、降伏伸びの測定については、25℃の恒温室に30、60、90日保持した後にも行い、0.2%以上の顕著な降伏伸びが観察された最小の日数を耐常温時効性の指標とした。なお、90日保持後の試験においても降伏伸びが現れない場合に充分な耐室温時効性が得られたものとする。
【0020】
調質圧延後に25℃で保持することなく引張試験を行って測定した全伸びを図3に示す。また、耐常温時効性を評価した結果を図4に示す。
図3及び図4から、本発明に従って製造した鋼板は従来の調質圧延と比較してより高い延性を保ちつつ、優れた耐常温時効性を示すことが分かる。
【0021】
以下、本発明の延性及び耐常温時効性に優れた焼付硬化性冷延鋼鈑の製造方法について詳細に説明する。
まず、本発明において最も重要な工程である調質圧延に関する限定理由を述べる。
【0022】
(圧延機)
通常の調質圧延機では、伸び率を低下させて調質圧延を施すと、板幅方向で伸び率が不均一となる。特に、鋼板の端部では調質圧延の伸び率が不十分となり、耐常温時効性が確保できない。そのため、本発明では、板幅方向の部位によって鋼板の伸び率を適宜調整し得る機構を有する、上述した圧延機により、調質圧延を行う。
本発明の圧延機は、バックアップロールを板幅方向に分割させて、各分割バックアップロールを独立に制御するものである。すなわち、所定の伸び率を得るために必要な圧延荷重を計算した後、板幅方向の部位毎の圧延荷重を検出し、独立に設けられた圧下装置によって圧延荷重をコントロールする。これにより、調質圧延における伸び率が低い場合でも、板幅方向での伸び率を均一とすることができる。
【0023】
(伸び率:0.1%以上0.8%未満)
本発明の圧延機を用いても、伸び率が0.1%未満になると、形状矯正の目的が達成できなくなる。このため、伸び率の下限は0.1%以上とする。また、伸び率が0.8%以上となると、冷延鋼板の延性が低下し、また、耐力が原板と比べて大きくなるため加工性が低下することから、伸び率の上限は0.8%未満とする。好ましくは0.6%未満、さらに好ましくは0.5%未満とする。
【0024】
(ワークロールの直径:30〜300mm)
調質圧延のワークロールの直径は、30mm未満になると、圧延の制御が困難になり長手方向での均一な圧下率の確保が難しくなるため、その下限は30mmとする。また、調質圧延のワークロールの直径が300mmを超えると板厚方向に対して変形が均一に進行し、耐常温時効性を確保できる圧下率で調質圧延を行うと成形性が劣化してしまう。そこで、ロール直径の上限は300mmとする。
【0025】
(ワークロールの表面粗さRa:0.2〜3.0μm)
調質圧延のワークロールの表面粗さRaを大きくすることで、ワークロールと冷延鋼板の表面との摩擦係数が大きくなり、負荷される荷重が局所的に低くなった部位においても、滑ることがなくなり、形状が良好になる。また、冷延鋼板の表層への可動転位の導入が促進されることから、表面粗さRaの大きなワークロールを用いて調質圧延を施すことが好ましい。この効果を得るためには、表面粗さRaを0.2μm以上とすることが好ましい。表面粗さRaの上限は特に設けないが、冷延鋼板の表面品位など、実用性の観点から、3.0μm以下とすることが好ましい。
【0026】
次に、化学成分の限定理由について説明する。
(C:0.0005%超0.0500%以下)
Cは、BH性の発現に寄与する重要な元素であり、C量が0.0005以下では本発明の効果が充分発揮されないことから、下限を0.0005%超とする。また、C量が0.0500%を超えると、固溶C量が増加し、耐常温時効性が劣化してしまうため、上限を0.0500%以下とする。
【0027】
(N:0.1000%以下)
Nは、鋼中に不可避的に含有される元素であり、N量が0.1000%を超えると固溶N量が増加して耐常温時効性が劣化するため、上限を0.1000%以下とする。また、NもBH性の発現に寄与する元素であるため、0.0005%超を含有することが好ましい。
【0028】
(固溶C及び固溶N:合計0.0005%強0.0050%以下)
BH性の確保と耐常温時効性との両立には、固溶C及び固溶Nの一方又は双方の合計量を制御することが重要である。固溶C量と固溶N量の一方又は双方の合計が0.0005%以下では十分な焼付硬化量(BH量)が得られないため、0.0005%超を下限とする。一方、固溶Cと固溶Nの一方又は双方の合計が0.0050%超になると、本発明における調質圧延を施しても高い延性を確保しつつ耐常温時効性を確保することができず、時効硬化を起こしてしまうため、上限を0.0050%以下とする。また、固溶C量と固溶N量の一方又は双方の合計が多いほど、高いBH性が得られるため、下限を0.0080%以上とすることが好ましく、0.0010%以上とすることが更に好ましい。
【0029】
固溶N量は、JIS A 5523の付属書に記載されている鋼−窒化物型窒素定量方法に準じて、ろ液を分析することにより求めることができる。固溶C量については電解抽出法により、析出物を採取後のろ液を直接分析するか、あるいは全C量と電解抽出法により採取した析出物中のC量を定量し、その差により評価しても構わない。不溶解残さをろ過するフィルターとしてはAgを使用するのが好適である。
【0030】
(Si:1.00%以下)
(Mn:3.00%以下)
(P:0.100%以下)
Si、Mn、Pは、鋼中に不可避的に含有される元素であり、強度を向上させる効果を有するが、含有量が過剰であると加工性を損なうため、上限をそれぞれ、Si:1.00%以下、Mn:3.00%以下、P:0.100%以下とすることが好ましい。強度を低下させて延性を向上させるには、Si、Mn、Pの上限をそれぞれ、0.500%以下、1.000%以下、0.050%以下とすることが好ましい。
【0031】
(Al:1.000%以下)
Alは、脱酸剤であり、強度の向上にも寄与するが、1.000%を超えて添加すると加工性が劣化するため、1.000%以下を上限とすることが好ましい。特に延性を向上させるには、Alの上限を0.100%以下とすることが好ましい。
【0032】
(S:0.100%以下)
Sは、不純物であり、加工性を劣化させるので低減させることが好ましい。0.100%を超えて添加すると延性が大きく劣化するため、0.100%以下を上限とすることが好ましい。
【0033】
更に、必要に応じて、Nb、Ti、B、Mo、Cr、V、Wの1種又は2種以上を添加してもよい。なお、これらの元素の含有量が好ましい下限未満である場合は、顕著な効果を発現せず、悪影響を及ぼすこともないため、不純物と見做される。
【0034】
(Nb、Ti、B:合計0.0001%以上0.1000%以下)
Nb及びTiは、炭化物及び窒化物を形成し、Bは、窒化物を形成する元素であることから、固溶C量と固溶N量を最適な範囲に制御するために、Nb、Ti、Bの何れか1種又は2種以上を添加してもよい。ただし、Nb、Ti、Bの添加量の合計が0.0001%未満では添加による効果が顕著には認められないため、0.0001%以上を下限とすることが好ましい。また、Nb、Ti、Bを合計で0.1000%を超えて添加すると再結晶温度が上昇し、材質が劣化することがあるため、上限は合計で0.1000%以下とすることが好ましい。
【0035】
(Mo、Cr、V、W:合計0.001%以上1.000%以下)
Mo、Cr、V及びWは、炭化物等を生じて耐常温時効性の向上に寄与する元素であるため、これらの何れか1種又は2種以上を添加してもよい。ただし、これらの添加量の合計が0.001%未満では添加による効果が顕著には認められないため、0.001%以上を下限とする。また、合計で1.000%を超えて添加すると延性が大きく劣化するため、1.000%以下を上限とする。
【0036】
上記成分を得るための原料は特に限定しないが、鉄鉱石を原料として、高炉、転炉により成分を調整する方法以外に、スクラップを原料としてもよいし、これを電炉で溶製してもよい。スクラップを原料の全部又は一部として使用する際には、Cu、Ni、Sn、Sb、Zn、Pb等の元素を含んでもよい。
【0037】
調質圧延より前の冷延鋼板の製造方法については常法でよく、鋼を溶製、鋳造し、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍を施して冷延鋼板とすればよい。更に、めっきなどの表面処理を施してもよい。熱間圧延に供する鋼片は特に限定せず、連続鋳造されたスラブ、薄スラブキャスターで製造したものでもよい。また、鋳造後に直ちに熱間圧延を行う、連続鋳造―直接圧延(CC−DR)のようなプロセスにも適合する。
【0038】
熱間圧延の仕上温度は、鋼板の異方性を低減させるために、Ar3変態点より高いことが好ましい。また、熱間圧延については、粗圧延後の鋼片を接合し、仕上圧延を行う、連続熱延プロセスを採用してもよい。更に、連続熱延プロセスでは、仕上圧延をフェライト域で行ってもよい。
熱間圧延における巻取りは、炭化物及び窒化物の生成により固溶C及び固溶N量を低下させるため、600℃以上で行うことが好ましい。Nb、Ti、Bを添加した場合、これらの元素を含む炭化物及び窒化物が過剰に生成し、固溶C及び固溶N量が十分に得られずに焼付硬化性が低下する可能性があるため、これらの元素を添加した場合には、過度の析出を避けるため、熱間圧延における巻取り温度を650℃以下とすることが好ましい。
冷間圧延率は、生産性の観点から、50〜90%が好ましい。
焼鈍温度は、延性を確保するために再結晶温度以上で行うことが好ましく、製造設備による制約、生産性の観点から、950℃以下が好ましい。
巻取温度を650℃以上として析出物を生成させ、冷延後に高温での焼鈍を施し、析出物を溶解させることで十分な固溶C及び固溶N量を得ることも可能である。この場合、焼鈍温度は760℃以上が好ましく、さらに好ましい焼鈍温度は850℃以上である。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、表1に示す化学成分を有する鋼を溶製して鋳造し、鋼片を熱間圧延、冷間圧延して、板厚0.8mmの冷延鋼板とした。表1のNb、Ti、B及びその他の空欄は、分析値が0.001%未満であったことを意味する。鋼No.A〜Jの冷延鋼板の焼鈍は、焼鈍温度を750〜850℃の範囲内、焼鈍時間を40〜100秒の範囲内とし、冷却速度を60〜120℃/秒の範囲内として行い、固溶C量及び固溶N量を調整した。固溶C量は電解抽出法により、析出物を採取後のろ液を直接分析して評価した。固溶N量は、JIS A 5523の付属書に記載されている鋼−窒化物型窒素定量方法に準じて、ろ液を分析することにより求めた。
【0041】
鋼No.Jの冷延鋼板は、C及びNの含有量に対して、Tiの添加量が過剰であるため、固溶Cと固溶Nの合計量が低下した例である。また、鋼No.Kの冷延鋼板は、成分組成は鋼No.Hの冷延鋼板と同一であるが、焼鈍温度を900℃とし、焼鈍時間を40秒し、冷却速度を60℃/秒として行ったため、固溶Cと固溶Nの合計量が本発明の範囲よりも多くなった例である。
【0042】
【表1】


【0043】
これらの鋼板に対して図1及び図2に示した圧延機にて種々の伸び率の調質圧延を施した。なお、直径300mm、胴長2070mmのワークロールが、軸方向に9分割された直径550mm、胴長230mmの分割バックアップロールにより支持されている。
【0044】
【表2】


【0045】
調質圧延の条件及び機械的性質を表2に示す。JIS Z 2201の5号試験片は圧延方向を長手とし、板幅方向の採取位置は、端部及び中央部とその中間である1/4部とした。なお、引張試験片は、調質圧延後、1週間以内に引張試験片を作製し、引張試験を実施するまで、−40℃で保管した。表2中の降伏応力、引張応力、全伸びは端部、中央部及び1/4部の3ヶ所での試験結果の平均を表し、全伸びについては、端部、中央部及び1/4部の3ヶ所での最大値と最小値の差を求め、ΔELとして示した。
【0046】
また、耐常温時効性は、引張試験片を25℃の恒温室に0、30、60、90日保持した後に引張試験を行い、0.2%以上の顕著な降伏伸びが観察された最小の日数で評価した。
更に、鋼板の板幅方向で伸びに差異があると、鋼板の形状が悪化するため、形状の良否を目視で評価した。例えば、鋼板の板幅方向の端部での伸びが大きい場合には、端部が繰り返し波打つ耳伸びが見られ、中央部の伸びが大きいと中央部が繰り返し波打つ中伸びが見られる。また、板幅方向の特定の部位が波打つ局部伸びや、これらが複合して見られることもある。このような形状の悪化が目視で判断できないものを「○」、判断できるものを「×」で示した。
また、同様に採取した引張試験片を用いて、JIS G 3135付属書に準拠して引張試験を行い、焼付硬化量(BH量)を測定した。
【0047】
表2に示したように、本発明の製造方法によって得られた冷延鋼板は十分な焼付硬化性を有し、板幅方向の全域において耐常温時効性に優れ、かつ延性も高い値を示すことが分かる。
一方、従来の軽圧下圧延機を用いて伸び率を0.3%で行った製造No.2は、板幅の端部に向かうほど伸び率が不十分になったため、耐常温時効性は板幅方向の中央部では良好であるが、端部及び1/4部では低下している。また、製造No.3は、従来の圧延機で伸び率の大きい調質圧延を行った例であり、板幅方向の伸びのばらつきが大きい。製造No.7は、調質圧延の伸び率が大きいため、延性が低下している。
製造No.10は調質圧延を行わなかった例であり、耐常温時効性が不十分であり、形状も劣化している。製造No.16は固溶C、N量の合計が少ない鋼No.Jを調質圧延した例であるため、BH性が不十分である。製造No.17は、固溶C、N量の合計が多い鋼No.Kを調質圧延した例であり、耐常温時効性が不十分である。
【0048】
(実施例2)
実施例2では、表1に示した鋼NO.A及びFの冷延鋼板について、実施例1と同様の焼鈍を行った後、表面粗さRaの異なる直径300mmのワークロールを有する本発明の圧延機により調質圧延を施した。その後、実施例1と同様に板幅の各点にける機械的性質を測定し、その測定結果を表3に示した。表3には、ワークロールの表面粗さRaが0.13であった表2の製造No.1及び11の結果も比較のために示した。
【0049】
【表3】


【0050】
表3から明らかな通り、本発明の化学成分を有する鋼において、表面粗さRaの大きいワークロールを用いて調質圧延を施すことにより、伸び率を低下させても、耐常温時効性を確保することが可能であり、より延性に優れた焼付硬化性冷延鋼板が得られる。
【0051】
(実施例3)
実施例3では、表1に示した鋼No.B及び鋼Dの冷延鋼板について、最高到達温度を800℃とし、亜鉛めっき浴に浸漬後、500℃で20秒間の合金化処理を実施する連続溶融亜鉛めっきを施した。その後、実施例1と同様にして、本発明の圧延機を用いて調質圧延を施し、板幅の各点での機械的性質を測定した。その測定結果を表4に示す。
【0052】
【表4】


【0053】
表4から明らかな通り、本発明の化学成分を有する鋼において、調質圧延前にめっきを施した後、本発明の条件の調質圧延を施すことで耐常温時効性と延性に優れた焼付硬化性冷延めっき鋼板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の圧延機の模式図である。
【図2】本発明の分割バックアップロールの模式図である。
【図3】本発明による板幅方向の全伸びの均一性を示す図である。
【図4】本発明による板幅方向の耐常温時効性の均一性を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 パスライン調整機
2 主圧下装置
3,4 バックアップロール
3a〜3g 分割バックアップロール
4a〜4h 分割バックアップロール
5 ワークロール
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成18年10月31日(2006.10.31)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和

【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄

【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士


【公開番号】 特開2008−110387(P2008−110387A)
【公開日】 平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願番号】 特願2006−296022(P2006−296022)