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【発明の名称】 高温鋼材の冷却方法
【発明者】 【氏名】上岡 悟史

【氏名】藤林 晃夫

【要約】 【課題】熱延後の鋼材を安定冷却し、均一に冷却できるとともに、冷却終了温度を高精度に制御することが可能な冷却方法を提供する。

【構成】熱間圧延後の高温鋼材を冷却するに際し、(i)鋼材に接した水の沸騰形態が膜沸騰から遷移沸騰に移行する温度を遷移沸騰開始温度Aとした場合、この遷移沸騰開始温度Aよりも高い鋼材表面温度から、水を冷却媒体として鋼材の冷却を開始した後、(ii)鋼材表面温度が前記遷移沸騰開始温度Aに達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマーが添加された冷却媒体に切り換え、引き続き鋼材の冷却を行う。遷移沸騰領域での水冷却が回避できるので安定冷却が可能となり、鋼材を均一に冷却できるとともに、冷却終了温度を高精度に制御できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延後の高温鋼材を、下記(i),(ii)の条件で冷却することを特徴とする高温鋼材の冷却方法。
(i)鋼材に接した水の沸騰形態が膜沸騰から遷移沸騰に移行する温度を遷移沸騰開始温度Aとした場合、該遷移沸騰開始温度Aよりも高い鋼材表面温度から、水を冷却媒体として鋼材の冷却を開始した後、
(ii)鋼材表面温度が前記遷移沸騰開始温度Aに達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマーが添加された冷却媒体に切り換え、引き続き鋼材の冷却を行う。
【請求項2】
鋼材に接した水溶性ポリマーが添加された冷却媒体の沸騰形態が遷移沸騰から核沸騰に移行する温度を核沸騰開始温度Bとした場合、
水を冷却媒体として鋼材の冷却を開始した後、鋼材表面温度が前記核沸騰開始温度B以下となり且つ遷移沸騰開始温度Aに達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマーが添加された冷却媒体に切り換え、引き続き鋼材の冷却を行うことを特徴とする請求項1に記載の高温鋼材の冷却方法。
【請求項3】
水を冷却媒体として鋼材の冷却を開始した後、鋼材表面温度が500℃に達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマーが添加された冷却媒体に切り換え、引き続き鋼材の冷却を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の高温鋼材の冷却方法。
【請求項4】
水溶性ポリマーが添加された冷却媒体の水溶性ポリマー濃度が1〜40mass%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高温鋼材の冷却方法。
【請求項5】
水溶性ポリマーが添加された冷却媒体により鋼材を冷却するに際し、ラミナー冷却、スプレー冷却、ジェット冷却、ミスト冷却のうちのいずれかの方法を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高温鋼材の冷却方法。
【請求項6】
水溶性ポリマーが添加された冷却媒体を循環使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高温鋼材の冷却方法。
【請求項7】
循環使用される冷却媒体の水溶性ポリマー濃度を濃度調製手段により調整することを特徴とする請求項6に記載の高温鋼材の冷却方法。
【請求項8】
水溶性ポリマーが添加された冷却媒体の温度を温度調整手段により調整することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の高温鋼材の冷却方法。
【請求項9】
水溶性ポリマーが添加された冷却媒体で冷却した鋼材を洗浄することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の高温鋼材の冷却方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延された鋼帯、厚鋼板、形鋼等の高温鋼材の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材の熱間圧延工程では、高温加熱したスラブを目的とするサイズ、材質となるように圧延した後、水冷却が行われる。熱延鋼帯のランナウトテーブル上での冷却や厚鋼板の制御冷却などは、その代表的なものである。ここで行う水冷の目的は、主に鋼材の変態組織を制御することにより、目的とする強度、延性などの材質を調整することにある。特に、冷却終了温度を精度よく制御することは、目的とする材質をバラツキを生じることなく確保するために非常に重要である。
熱間圧延後の水冷工程では、冷却媒体としてコストが安い水を使うことが多い。冷却水は鋼材に被水した時点で沸騰するが、温度域によって沸騰形態が変わり、伝熱能力が変化する。そして、このように沸騰形態が変化する温度を跨いで冷却した場合、冷却終了温度を精度よく制御できないという問題がある。
【0003】
ここで、鋼材(以下、鋼板を例に説明する)を水冷した場合の沸騰形態について説明すると、被水する鋼板の表面温度が高温域の場合には膜沸騰、低温域の場合には核沸騰、高温域と低温域の間の中間温度域の場合には遷移沸騰となる。高温域で生じる膜沸騰では、鋼板表面と冷却水との間に蒸気膜が発生し、この蒸気膜内の熱伝導により伝熱がなされるため、冷却能力は低い。一方、低温域で生じる核沸騰では、鋼板表面と冷却水は直接接触し、且つ鋼板表面から冷却水の一部が蒸発してできた蒸気泡が発生し、直ぐに周りの冷却水によって凝縮されて消滅するといった複雑な現象が起こり、蒸気泡の生成・消滅に伴う冷却水の撹拌が発生することから、極めて高い冷却能力を有する。また、中間温度域では膜沸騰と核沸騰が混在した状態である遷移沸騰状態となる。この遷移沸騰では、核沸騰や膜沸騰とは異なり、鋼板温度が低くなるにつれ熱流束が大きくなる現象が起こる。材質制御の観点からは温度によって冷却速度が変化することは好ましくなく、且つ膜沸騰状態から遷移沸騰状態に遷移する温度域で冷却を終了(停止)させようとすると、遷移沸騰領域では加速度的に冷却速度が高くなることから、わずかに冷却制御時間が長くなっただけで鋼板温度は狙いより大幅に低くなってしまう問題がある。
【0004】
また、冷却前の鋼板に熱間圧延などの影響で局所的に温度の低い領域があった場合、冷却の際に、この温度の低い領域が早いタイミングで遷移沸騰に移行するため、温度偏差は増大する。一般的な熱延鋼板では、そのような遷移沸騰開始温度はおおよそ500℃程度である。
以上の理由から、遷移沸騰開始温度である500℃以下で熱延鋼板の冷却を終了させようとすると、コイル内の温度のバラツキが大きくなる。
【0005】
このため従来から、上記のような現象に対応するために様々な検討がなされてきた。
例えば、特許文献1には、冷却水が膜沸騰となる高温域では熱延鋼板の上下両面に冷却水を注入し、遷移沸騰温度領域では鋼板下面のみに冷却水を注入する方法が開示されている。この冷却方法は、遷移沸騰温度域を下面冷却することによって、鋼板上面に形成される水膜とそれに伴う冷却能の不安定性を排除し、安定冷却を実現しようとするものである。
また、特許文献2には、まず低温の冷却水で冷却しておき、遷移沸騰温度域からは80℃以上の高温の冷却水で冷却する方法が開示されている。この冷却方法は、冷却水として温水を使用することによって遷移沸騰開始温度を低温側にずらし、これにより膜沸騰持続時間を長くして安定冷却を実現しようとするものである。
【0006】
さらに、特許文献3には、冷却装置として水冷却装置とガス冷却装置を併設し、高温域では水冷却装置を用いた水冷却を行い、遷移沸騰開始温度以下の温度領域ではガス冷却装置を用いたガス冷却を行う方法が開示されている。この冷却方法は、低温域で沸騰現象がなく安定した冷却が可能なガス冷却を使用することにより、低温域での温度安定性を実現しようとするものである。
また、特許文献4には、まず冷却水で冷却しておき、冷却の後期に界面活性剤を添加した冷却水で冷却する方法が開示されている。この冷却方法は、界面活性剤を添加した冷却水を使用することによって、遷移沸騰開始温度を低温側にずらすことにより、膜沸騰持続時間を長くして安定冷却を実現しようとするものである。
【0007】
【特許文献1】特公平6−248号公報
【特許文献2】特開平6−71339号公報
【特許文献3】特開2000−313920号公報
【特許文献4】特開2000−334514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の従来技術には以下のような実用上の問題がある。
特許文献1の技術では、鋼板上面の滞留水による温度ムラなどは低減できるものの、鋼板下面に冷却水を注水しただけでは、冷却不安定が発生する遷移沸騰温度領域を通過することが避けられないため、それに伴って冷却終了(停止)温度の精度低下は避けられない。
特許文献2の技術では、温水を使用することにより遷移沸騰開始温度を低温側にずらす効果は得られるものの、その効果には限界があり、さらなる低い冷却終了温度に制御しようとすると、冷却不安定が発生する遷移沸騰温度領域を通過することが避けられないため、それに伴って冷却終了温度の精度低下は避けられない。
【0009】
特許文献3の技術は、ガス冷却を実施することから、沸騰現象がないため冷却不安定が発生せず、このため冷却終了温度の精度向上は可能である。しかし、ガス冷却は、水冷却に較べて冷却能力のオーダーが一桁から二桁小さいため、冷却速度が極めて遅くなり、このため所望の材質が得られないという問題がある。特に、熱延鋼板のランナウト冷却等に適用することを想定した場合、ガス冷却は冷却速度が低いために非常に長大な冷却設備が必要となり、その実現は極めて難しい。
【0010】
特許文献4の技術では、界面活性剤を添加した冷却水を使用することによって、特許文献2と同様に遷移沸騰開始温度を低温側にずらす効果が得られる。しかし、特許文献2と同様、その効果には限界があり、さらなる低い冷却終了温度に制御しようとすると、冷却不安定が発生する遷移沸騰温度領域を通過することが避けられないため、それに伴って冷却終了温度の精度低下は避けられない。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、熱間圧延された鋼材を均一に冷却することができるとともに、特に低温域における冷却終了温度を高精度に制御することが可能な高温鋼材の冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、遷移沸騰による冷却不安定を避けるためには、水溶性ポリマーが添加された冷却媒体を用いて鋼材を冷却することが極めて有効であること、また、そのような冷却媒体を用いた冷却と水冷却とを組み合わせて実施することによって、より安定した冷却が可能になることを見出した。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
【0012】
[1]熱間圧延後の高温鋼材を、下記(i),(ii)の条件で冷却することを特徴とする高温鋼材の冷却方法。
(i)鋼材に接した水の沸騰形態が膜沸騰から遷移沸騰に移行する温度を遷移沸騰開始温度Aとした場合、該遷移沸騰開始温度Aよりも高い鋼材表面温度から、水を冷却媒体として鋼材の冷却を開始した後、
(ii)鋼材表面温度が前記遷移沸騰開始温度Aに達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマーが添加された冷却媒体に切り換え、引き続き鋼材の冷却を行う。
【0013】
[2]上記[1]の冷却方法において、鋼材に接した水溶性ポリマーが添加された冷却媒体の沸騰形態が遷移沸騰から核沸騰に移行する温度を核沸騰開始温度Bとした場合、水を冷却媒体として鋼材の冷却を開始した後、鋼材表面温度が前記核沸騰開始温度B以下となり且つ遷移沸騰開始温度Aに達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマーが添加された冷却媒体に切り換え、引き続き鋼材の冷却を行うことを特徴とする高温鋼材の冷却方法。
【0014】
[3]上記[1]又は[2]の冷却方法において、水を冷却媒体として鋼材の冷却を開始した後、鋼材表面温度が500℃に達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマーが添加された冷却媒体に切り換え、引き続き鋼材の冷却を行うことを特徴とする高温鋼材の冷却方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの冷却方法において、水溶性ポリマーが添加された冷却媒体の水溶性ポリマー濃度が1〜40mass%であることを特徴とする高温鋼材の冷却方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの冷却方法において、水溶性ポリマーが添加された冷却媒体により鋼材を冷却するに際し、ラミナー冷却、スプレー冷却、ジェット冷却、ミスト冷却のうちのいずれかの方法を用いることを特徴とする高温鋼材の冷却方法。
【0015】
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの冷却方法において、水溶性ポリマーが添加された冷却媒体を循環使用することを特徴とする高温鋼材の冷却方法。
[7]上記[6]の冷却方法において、循環使用される冷却媒体の水溶性ポリマー濃度を濃度調製手段により調整することを特徴とする高温鋼材の冷却方法。
[8]上記[1]〜[7]のいずれかの冷却方法において、水溶性ポリマーが添加された冷却媒体の温度を温度調整手段により調整することを特徴とする高温鋼材の冷却方法。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかの冷却方法において、水溶性ポリマーが添加された冷却媒体で冷却した鋼材を洗浄することを特徴とする高温鋼材の冷却方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鋼材を均一に冷却することができるとともに、冷却終了(停止)温度を高精度に制御することができる。特に、本願の請求項2に係る発明によれば、冷却が不安定化する遷移沸騰領域を完全に回避して冷却することができるため、鋼材をより均一に冷却できるとともに、従来技術では難しかった低温域における冷却終了温度の高精度な制御も容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、熱間圧延後の高温鋼材(以下、鋼板を例に説明する)を冷却するに際し、高温域を水を冷却媒体として冷却し、所定の温度以下の低温域を水溶性ポリマーが添加された冷却媒体で冷却するものである。
図1に、高温の鋼板を水で冷却した場合と、水溶性ポリマーを添加した冷却媒体(以下、水溶性ポリマー添加冷却剤という)で冷却した場合の伝熱特性を示す。同図は、熱延鋼板のランナウト冷却(ランナウトテーブル上での冷却)を想定して、30℃の冷却媒体を用いたスプレー方式により、水量密度700L/min.mで鋼板を冷却した場合の伝熱特性を模式的に示したものである。なお、水溶性ポリマー添加冷却剤としては、水溶性ポリマーを添加した水溶液を用いた。
【0018】
図1に示すように、水と水溶性ポリマー添加冷却剤は、それぞれ高温域では膜沸騰状態、中間温度域では遷移沸騰状態、低温域では核沸騰状態となるが、水溶性ポリマー添加冷却剤を用いた冷却では、(1)膜沸騰から遷移沸騰に移行する温度(遷移沸騰開始温度)が水冷却の場合よりも高い、(2)遷移沸騰から核沸騰に移行する温度(核沸騰開始温度)が水冷却の場合よりも高い、(3)膜沸騰時の熱流束が水冷却の場合よりも高い、(4)核沸騰時の熱流束が水冷却の場合よりも低い、という特徴がある。
【0019】
以上の特性から、水冷却を行った場合の遷移沸騰開始温度における熱流束W1と遷移沸騰終了温度における熱流束W2との間の変化量に比較して、水溶性ポリマー添加冷却剤を用いた冷却を行った場合の遷移沸騰開始温度における熱流束P1と遷移沸騰終了温度における熱流束P2との間の変化量は小さくなる。この熱流束の変化量は鋼板の遷移沸騰による冷却速度変化量と等しくなるので、冷却速度変化量の小さい水溶性ポリマー添加冷却剤を用いた冷却の方が安定した冷却を行えることを意味する。その結果、冷却終了温度も高精度に制御することが可能となる。
【0020】
したがって、鋼板に接した水の沸騰形態が膜沸騰から遷移沸騰に移行する温度を遷移沸騰開始温度A(図1)とした場合、この遷移沸騰開始温度Aよりも高い鋼板表面温度から、水を冷却媒体とした鋼板の冷却を開始した後、鋼板表面温度がその遷移沸騰開始温度Aに達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマー添加冷却剤に切り換え、引き続き鋼板の冷却を行うことにより、少なくとも水冷却による遷移沸騰領域での冷却を回避することができ、安定冷却が実現できる。すなわち、遷移沸騰領域で冷却がなされるとしても、水溶性ポリマー添加冷却剤を用いた冷却であるため、上述したような理由から安定冷却を行うことができ、冷却終了温度も高精度に制御することが可能となる。
【0021】
このため本発明では、熱間圧延後の高温鋼板を下記(i),(ii)の条件で冷却するものである。
(i)鋼板に接した水の沸騰形態が膜沸騰から遷移沸騰に移行する温度を遷移沸騰開始温度Aとした場合、該遷移沸騰開始温度Aよりも高い鋼板表面温度から、水を冷却媒体として鋼板の冷却を開始した後、
(ii)鋼板表面温度が前記遷移沸騰開始温度Aに達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマーが添加された冷却媒体に切り換え、引き続き鋼板の冷却を行う。
【0022】
また、鋼板の冷却形態としては、遷移沸騰領域を通過しないことが最も好ましいので、本発明では、以下に述べるような実施形態が特に好ましい。
水溶性ポリマー添加冷却剤の大きな特徴として、さきに述べたように、遷移沸騰から核沸騰に移行する温度(核沸騰開始温度)が水よりも高いことが挙げられる。したがって、鋼板に接した水溶性ポリマー添加冷却剤の沸騰形態が遷移沸騰から核沸騰に移行する温度を核沸騰開始温度B(図1)とした場合、図1の一点鎖線Xで示すように、高温域は水による膜沸騰で冷却し、水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度Bと水の遷移沸騰開始温度Aとの間の温度領域で、水溶性ポリマー添加冷却剤による冷却に切り換えれば、以降は水溶性ポリマー添加冷却剤による核沸騰で冷却されることになり、これによって不安定冷却(初期温度偏差の拡大など)が生じる遷移沸騰領域での冷却を完全に回避することができる。この結果、鋼板をより均一に冷却することができるとともに、冷却終了温度を特に高精度に制御することが可能となる。
【0023】
すなわち、この好ましい実施形態では、水を冷却媒体として鋼板の冷却を開始した後、鋼板表面温度が前記核沸騰開始温度B以下となり且つ遷移沸騰開始温度Aに達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマーが添加された冷却媒体に切り換え、引き続き鋼板の冷却を行うものである。
以上のような実施形態では、冷却媒体の切り換え(水→水溶性ポリマー添加冷却剤)を適切に行うため、水溶性ポリマーの種類や濃度を適宜選択することにより、水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度Bを、水の遷移沸騰開始温度Aに対して十分に高くすることが好ましい。
また、水の遷移沸騰開始温度Aは通常500℃前後であるので、本発明法のより具体的な実施形態においては、例えば、水を冷却媒体として鋼板の冷却を開始した後、鋼板表面温度が500℃に達する前に、冷却媒体を水溶性ポリマー添加冷却剤に切り換え、引き続き鋼板の冷却を行うようにすることができる。
【0024】
以上述べた本発明法によれば、鋼板を均一に冷却することができるとともに、冷却終了(停止)温度、特に低温域での冷却終了温度を高精度に制御することができるが、さらに、次のような効果も得られる。すなわち、水溶性ポリマー添加冷却剤は、水に較べて核沸騰時の熱流束が低いため、従来では冷却速度が大きすぎることから水冷時間を正確に制御する必要があった核沸騰領域において、水冷時間が多少ばらついても正確な冷却終了温度を得ることができる。また、低温域のみに水溶性ポリマー添加冷却剤を使用することにより、初期にかかる冷却剤コストの低減を図ることもできる。
【0025】
本発明において、水溶性ポリマーが添加される冷却媒体の溶媒としては、通常は水が用いられる。冷却媒体に添加される水溶性ポリマーに特別な制限はないが、高周波焼入れなどの熱処理に使用されているような分子量が比較的大きい水溶性ポリマーが特に好ましい。水溶性ポリマーの種類としては、天然ポリマーや合成ポリマーがあり、水に添加することにより膜沸騰時の熱流束を水と較べて大きくし、核沸騰時の熱流束を水と較べて小さくすることが可能な水溶性ポリマーであれば種類を問わないが、コストの観点からは合成ポリマーが好ましく、そのなかでも特に、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリソジュウムアクリレート、ポリエチレングリコール、ポリゾジュウムイソブチレンマレエート、ポリエチルオキサゾリン、ポリアマイド、ポリアルキレングリコール等が好適である。これらの水溶性ポリマーは、1種又は2種以上を使用することができる。
また、水溶性ポリマー添加冷却剤には、伝熱特性が損なわれない限度で、防錆剤や防腐剤などを適宜添加してもよい。
【0026】
水溶性ポリマー添加冷却剤は、基本的には水溶性ポリマーの濃度が高いほど冷却特性の改善には有利である。水溶性ポリマーの濃度が1mass%未満では、さきに説明したような遷移沸騰における熱流束変化量を小さくする効果が小さい。一方、水溶性ポリマーを40mass%を超えて添加しても効果が飽和し、添加量に見合う効果が得られないため却って経済性を損なう。このため水溶性ポリマー添加冷却剤の水溶性ポリマー濃度は1〜40mass%とすることが好ましい。また、水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度Bを水の遷移沸騰開始温度Aに対して十分に(例えば80℃以上)高くし、冷却媒体の切替を安定的に行うためには、水溶性ポリマー濃度は5mass%以上とすることがより好ましい。
【0027】
本発明では、ラミナー冷却、スプレー冷却、ジェット冷却、ミスト冷却のいずれかの方式で、水溶性ポリマー添加冷却剤を鋼板に接触させることが好ましい。ここで、ラミナー冷却とは、円管又はスリット形状のノズルから層流状態の液体を噴射する冷却方式である。スプレー冷却とは、液体を加圧して噴射することにより、液体を液滴群として噴射する冷却方式である。ジェット冷却とは、円管又はスリット形状のノズルから乱流状態の液体を噴射する冷却方式である。ミスト冷却とは、液体を噴霧するのに、加圧した気体と液体を混合させて液滴群にした冷却方式である。
上記の各方式で冷却することが好ましいのは、仮に鋼材を浸漬冷却方式などで冷却するとなると、(1)一旦鋼材をオフラインに設けた水槽に運ぶなどの手間がかかる、(2)本発明の目的である低温域における冷却終了温度を精度よく実現するためには、所定の冷却時間だけ浸漬する必要があるが、クレーンなどによるハンドリングではそのような冷却時間の制御は実際上困難である、などの問題があるからである。
【0028】
次に、図2に示す熱延鋼板の製造ラインを例に、本発明の実施に供される具体的な設備構成と本発明の実施状況について説明する。
仕上圧延機群1により最終製品板厚まで圧延された鋼板S(熱延鋼板)はランナウトテーブル2で所定の温度まで冷却された後、コイラー3で巻き取られる。ランナウトテーブル2上を搬送される鋼板Sの上下面には、ランナウトテーブル2の上方に設置された冷却剤供給手段10a,10bとテーブルローラ間に設置された冷却剤供給手段11a,11bから、それぞれ冷却媒体が供給される。そして、ランナウトテーブル2の前段領域(上流側領域)では冷却剤供給手段10a,11aから水が、ランナウトテーブル2の後段領域(下流側領域)では冷却剤供給手段10b,11bから水溶性ポリマー添加冷却剤が、それぞれ供給される。
前記冷却剤供給手段10a,10b,11a,11bとしては、通常は液供給ノズル(例えば、ラミナーノズル、スプレーノズル)が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0029】
上記のようにランナウトテーブル2の前段領域(以下、テーブル前段領域という)と後段領域(以下、テーブル後段領域という)では供給する冷却媒体が異なるので、両領域で供給された冷却媒体は互いに混ざらないように回収される。
テーブル後段領域において、冷却剤供給手段10b,11bから鋼板Sに供給された後の水溶性ポリマー添加冷却剤は、集水パン13に集められた後、液供給系12Aにより集水ピット5に送られ、この集水ピット5からポンプ4及び液供給系12Bにより前記冷却剤供給手段10b,11bに供給されることで循環使用される。このように液循環系により水溶性ポリマー添加冷却剤を循環使用するのは、水溶性ポリマーによる排水等の汚染を防止するためである。ただし、水溶性ポリマーは、焼入れ油などと比較して環境に対する負荷が少なく、不要になった冷却剤は焼却処理により無害化することができる。
一方、テーブル前段領域において、冷却剤供給手段10a,11aから鋼板Sに供給された後の水は、適宜排水されるか、必要に応じて循環使用される。
【0030】
水冷却から水溶性ポリマー添加冷却剤による冷却に切り換える鋼板温度は、予め求められた水の遷移沸騰開始温度Aと水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度B(それら冷却媒体の冷却履歴などにより求められる)に基づき決められ、冷却媒体切り換え時の鋼板温度がA−B間になるように、例えば、冷却水の供給量やノズルの使用数などが適宜調整される。
一般的なランナウトテーブル2では、水の遷移沸騰開始温度Aはおおよそ500℃程度であるため、この温度前後の鋼板温度で冷却媒体の切り替えを行ってもよい。
【0031】
また、水溶性ポリマー添加冷却剤は水溶性ポリマーの濃度が冷却特性に影響するが、長期間にわたって循環使用していると、高分子であるポリマーの熱分解や鋼板付着による持ち出しなどのために、水溶性ポリマー添加冷却剤の水溶性ポリマー濃度が変化(主に濃度低下)する。このため、水溶性ポリマー濃度測定装置6によりポリマー濃度を測定し、必要に応じて水溶性ポリマー添加装置7から水溶性ポリマーを添加して濃度を調整することが好ましい。水溶性ポリマー濃度測定装置6としては、粘性係数を測定する方式、光学センサーにより反射率や屈折率を測定する方式、電気伝導度を測定する方式などいずれの方式の装置を用いてもよい。
【0032】
さらに、水溶性ポリマー添加冷却剤の温度が冷却特性に影響するため、これを調整するための水温調整装置8を設けるのが好ましい。この水温調整装置8としては、空冷式の冷却塔等は温度を低くする場合に好適であるし、蒸気加熱手段や電気ヒーターなどは温度を高くする場合に好適である。また、熱交換機を用いれば、温度を高くしたり、低くしたりすることが可能である。
なお、以上述べた装置構成のうち、水溶性ポリマー濃度測定装置6、水溶性ポリマー添加装置7は集水ピット5に付設され、水温調整装置8は集水パン12と集水ピット5間の液供給系11aに設けられているが、これらの各装置の設置箇所は任意である。
以上のような設備構成において、本発明法により鋼板を冷却すると、冷却終了温度が安定し且つ高い冷却速度も確保できるため、優れた特性を持つ高張力鋼の製造が可能となる。
【0033】
水溶性ポリマー添加冷却剤により鋼板を冷却すると、鋼板表面に冷却剤が付着する。このため、例えば次工程で酸洗を行うと、酸洗液にポリマーが混入して好ましくない。そこで、水溶性ポリマー添加冷却剤で鋼板を冷却した後に、洗浄工程で鋼板を洗浄することが好ましい。洗浄方法としては、水やアルコール等の脱脂剤を用いればよいが、水溶性ポリマーは水に溶けるため、水洗浄がコストの観点から好適である。洗浄の方法としては、洗浄液に浸漬したり、洗浄液をスプレーで噴射したりすればよい。洗浄工程は、例えば、図2のようにランナウトテーブル2とコイラー3の間に洗浄装置9を設置して実施し、ランナウトテーブル2での冷却工程で付着した水溶性ポリマー添加冷却剤を速やかに除去し、コイルに巻き取る。また、熱間圧延ラインの次工程の入側、例えば、酸洗ラインの入側に洗浄工程を設けてもよい。
【実施例】
【0034】
図2に示す熱延鋼板製造ラインにおいて、以下のような条件で熱延鋼板を製造した。厚さ240mmのスラブを加熱炉で1200℃に加熱した後、粗圧延機により厚さ35mmまで圧延し、さらに、仕上圧延機群1により板厚3.2mmまで圧延した。圧延後の鋼板はランナウトテーブル2上で860℃から目標温度430℃(冷却終了温度)まで冷却した後、コイラー3により巻き取った。ここで、材質の観点から、冷却終了温度の許容差は鋼板全長に亘って60℃以内、好ましくは40℃以内とした。
ランナウトテーブル2上の鋼板に冷却媒体の供給を行なうための冷却剤供給手段10a,10b,11a,11bのうち、上方の冷却剤供給手段10a,10bとしてはパイプラミナーノズルを、また、下方の冷却剤供給手段11a,11bとしてはスプレーノズルを各々用い、それぞれ水量密度1000L/min.mで冷却媒体を供給した。
【0035】
本実施例では、冷却剤供給手段10a,11aから冷却媒体を供給するテーブル前段領域では冷却媒体として水を用い、冷却剤供給手段10b,11bから冷却媒体を供給するテーブル後段領域では冷却媒体として水、水溶性ポリマー添加冷却剤、特許文献4の界面活性剤添加水のいずれかを用いた。このテーブル後段領域では、液を交換することにより、水、水溶性ポリマー添加冷却剤、界面活性剤添加水の何れも供給可能となっている。また、本設備は特許文献2を実施するために液温調整機能も備えている。なお、本実施例では、使用する冷却媒体について遷移沸騰から核沸騰に移行する核沸騰開始温度を予め調べ、表1に示した。また、水で鋼板を冷却する際の水の遷移沸騰開始温度Aについては、500℃であることを確認した。
【0036】
また、冷却剤供給手段10a,10b,11a,11bを構成するノズルは、ランナウトテーブル2の長手方向に複数設置されており、それぞれノズルは個別にON−OFFすることができる。また、ランナウトテーブル2とコイラー3の間には放射温度計を設置しており、この放射温度計により長手方向の鋼板温度が測定できるようになっている。また、冷却終了温度を調整するために、前記放射温度計の出力と目標冷却終了温度との誤差を計算し、1つの鋼板(コイル)内でランナウトテーブル2に設置されているノズルの使用本数を調整できる機構となっている。また、冷却媒体を切り替える鋼板温度(テーブル前段領域終点での鋼板温度)を調整するために、テーブル前段領域とテーブル後段領域の間にも放射温度計を設置し、この放射温度計で測定された鋼板温度に基づき、テーブル前段領域のノズル使用本数を調整できるようにしている。また、特許文献1が模擬できるように、ランナウトテーブル2の下方側のノズル(冷却剤供給手段11a,11b)のみの噴射も可能となっている。本実施例では、冷却終了後の鋼板の長手方向平均温度及び1つの鋼板(コイル)内の温度の(最大値−最小値)で定義される温度偏差を調べた。その結果を、冷却条件とともに表1に示す。
【0037】
[本発明例1]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を500℃まで冷却し、引き続きテーブル後段領域において、上下のノズルから液温30℃、濃度1.0mass%のポリアルキレングリコール水溶液を鋼板に供給して冷却した。なお、本実施例における水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度は560℃であり、この温度はテーブル後段領域の冷却開始温度である500℃よりも60℃高く、このため遷移沸騰領域での冷却をほぼ完全に回避した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は433℃であり、ほぼ目標どおりとなった。また、鋼板長手方向の温度偏差も38℃と目標値以内となった。図3に、鋼板長手方向の温度チャートを示す。
【0038】
[本発明例2]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を500℃まで冷却し、引き続きテーブル後段領域において、上下のノズルから液温30℃、濃度5.0mass%のポリアルキレングリコール水溶液を鋼板に供給して冷却した。なお、本実施例における水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度は600℃であり、この温度はテーブル後段領域の冷却開始温度である500℃よりも100℃高く、このため遷移沸騰領域での冷却を完全に回避した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は435℃であり、ほぼ目標どおりとなった。また、鋼板長手方向の温度偏差も35℃と目標値以内となった。また、本発明例1と較べると鋼板長手方向の温度偏差は縮小しており、水溶性ポリマー濃度を高くした効果が得られた。
【0039】
[本発明例3]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を500℃まで冷却し、引き続きテーブル後段領域において、上下のノズルから液温30℃、濃度20mass%のポリアルキレングリコール水溶液を鋼板に供給して冷却した。なお、本実施例における水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度は600℃であり、この温度はテーブル後段領域の冷却開始温度である500℃よりも100℃高く、このため遷移沸騰領域での冷却を完全に回避した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は436℃であり、ほぼ目標どおりとなった。また、鋼板長手方向の温度偏差も32℃と目標値以内となった。また、本発明例1,2と較べると鋼板長手方向の温度偏差は縮小しており、水溶性ポリマー濃度を高くした効果が得られた。
【0040】
[本発明例4]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を500℃まで冷却し、引き続きテーブル後段領域において、上下のノズルから液温30℃、濃度40mass%のポリアルキレングリコール水溶液を鋼板に供給して冷却した。なお、本実施例における水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度は600℃であり、この温度はテーブル後段領域の冷却開始温度である500℃よりも100℃高く、このため遷移沸騰領域での冷却を完全に回避した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は425℃であり、ほぼ目標どおりとなった。また、鋼板長手方向の温度偏差も24℃と目標値以内となった。また、本発明例1〜3と比較すると鋼板長手方向の温度偏差は縮小しており、水溶性ポリマー濃度を高くした効果が得られた。
【0041】
[本発明例5]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を520℃まで冷却し、引き続きテーブル後段領域において、上下のノズルから液温30℃、濃度20mass%のポリアマイド水溶液を鋼板に供給して冷却した。なお、本実施例における水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度は580℃であり、この温度はテーブル後段領域の冷却開始温度である500℃よりも80℃高く、このため遷移沸騰領域での冷却を完全に回避した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は432℃であり、ほぼ目標どおりとなった。また、鋼板長手方向の温度偏差も27℃と目標値以内となった。本発明例3とほぼ同等の結果を得ることができた。
【0042】
[本発明例6]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を500℃まで冷却し、引き続きテーブル後段領域において、上下のノズルから液温30℃、濃度0.5mass%のポリアルキレングリコール水溶液を鋼板に供給して冷却した。なお、本実施例における水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度は530℃であり、この温度はテーブル後段領域の冷却開始温度である500℃よりも30℃高く、このため遷移沸騰領域での冷却をほぼ回避したものの、テーブル前段領域での冷却のバラツキにより、一部でテーブル後段領域の冷却開始温度が530℃以上となった。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は428℃であり、ほぼ目標どおりとなった。一方、鋼板長手方向の温度偏差は57℃となった。水溶性ポリマー添加冷却剤の使用により、比較例1,2と比べて伝熱特性が改善され、ほぼ目標値ではあるものの、本発明例1〜4よりはやや大きい値となった。
【0043】
[本発明例7]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を500℃まで冷却し、引き続きテーブル後段領域において、上下のノズルから液温30℃、濃度50mass%のポリアルキレングリコール水溶液を鋼板に供給して冷却した。なお、本実施例における水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度は600℃であり、この温度はテーブル後段領域の冷却開始温度である500℃よりも100℃高く、このため遷移沸騰領域での冷却を完全に回避した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は431℃であり、ほぼ目標どおりとなった。また、鋼板長手方向の温度偏差も24℃と目標値以内となった。本発明例1〜4が示すように、水溶性ポリマー添加冷却剤の水溶性ポリマー濃度が高いほど鋼板長手方向の温度偏差は縮小する傾向にあるが、本実施例では水溶性ポリマー濃度が40mass%である本発明例4と鋼板長手方向の温度偏差は殆ど変わらなかった。つまり、水溶性ポリマー濃度を40mass%超にしても、それ以上の冷却特性の改善効果が得られないことが判った。
【0044】
[本発明例8]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を500℃まで冷却し、引き続きテーブル後段領域において、上下のノズルから液温30℃、濃度20mass%のポリビニルアルコール水溶液を鋼板に供給して冷却した。なお、本実施例における水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度は580℃であり、この温度はテーブル後段領域の冷却開始温度である500℃よりも80℃高く、このため遷移沸騰領域での冷却を完全に回避した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は432℃であり、ほぼ目標どおりとなった。また、鋼板長手方向の温度偏差も27℃と目標値以内となった。本発明例3とほぼ同等の結果を得ることができた。
【0045】
[本発明例9]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を500℃まで冷却し、引き続きテーブル後段領域において、上下のノズルから液温30℃、濃度20mass%のポリビニルピロリドン水溶液を鋼板に供給して冷却した。なお、本実施例における水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度は590℃であり、この温度はテーブル後段領域の冷却開始温度である500℃よりも90℃高く、このため遷移沸騰領域での冷却を完全に回避した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は433℃であり、ほぼ目標どおりとなった。また、鋼板長手方向の温度偏差も26℃と目標値以内となった。本発明例3とほぼ同等の結果を得ることができた。
【0046】
[本発明例10]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を530℃まで冷却し、引き続きテーブル後段領域において、上下のノズルから液温30℃、濃度20mass%のポリエチレングリコール水溶液を鋼板に供給して冷却した。なお、本実施例における水溶性ポリマー添加冷却剤の核沸騰開始温度は610℃であり、この温度はテーブル後段領域の冷却開始温度である500℃よりも110℃高く、このため遷移沸騰領域での冷却を完全に回避した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は429℃であり、ほぼ目標どおりとなった。また、鋼板長手方向の温度偏差も25℃と目標値以内となった。本発明例3とほぼ同等の結果を得ることができた。
【0047】
[比較例1]
テーブル前段領域・後段領域において、液温30℃の水を上下のノズルからランナウトテーブル2上の鋼板に供給し、鋼板を冷却した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は412℃であり、目標温度よりも低くなった。図4に鋼板長手方向の温度チャートを示すが、これによると先端側約100mmはほぼ狙いどおりになっていたものの、所々で温度が急激に低くなる部位があり、このため鋼板長手方向の温度偏差は253℃と目標よりもかなり大きくなってしまった。長手方向位置によって温度が急激に低くなった原因として、この部位の冷却が遷移沸騰領域でなされたためであると推定される。
【0048】
[比較例2]
特許文献1の方法にしたがい、ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、鋼板温度が500℃超の領域(テーブル前段領域)では上下のノズルから鋼板に冷却水を供給し、500℃以下の領域(テーブル後段領域)では下方のノズルのみから鋼板の下面に冷却水を供給した。なお、冷却水の液温は30℃とした。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は395℃であり、目標温度よりも低くなった。鋼板長手方向の温度偏差は、先端側約50m及び長手方向中央部ではほぼ狙いどおりになっていたものの、所々で温度が急激に低くなる部位があり、このため鋼板長手方向の温度偏差は260℃と目標よりもかなり大きくなってしまった。冷却が不安定になる500℃以下を鋼板下面のみで冷却しても、元々遷移沸騰領域を避ける手段をとっていないため、長手方向位置によって温度が急激に低くなったものと推定される。
【0049】
[比較例3]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を冷却し、引き続きテーブル後段領域において、特許文献2の方法にしたがい、液温80℃の水を上下のノズルから鋼板に供給して冷却した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は421℃であり、目標温度より若干低い程度であった。一方、鋼板長手方向の温度偏差は、おおよそ狙いどおりの温度となっているものの、所々温度が急激に低くなる部位が発生しており、このため鋼板長手方向の温度偏差は180℃と目標よりもかなり大きくなってしまった。温水により遷移沸騰開始温度が低くなったため、比較例1,2よりも鋼板長手方向の温度偏差は比較的小さかったものの、目標である60℃以内にすることができなかった。
【0050】
[比較例4]
ランナウトテーブル2上の鋼板に対して、テーブル前段領域において上下のノズルから水を供給して鋼板を冷却し、引き続きテーブル後段領域において、特許文献4の方法にしたがい、界面活性剤であるポリオキシチレンノニルフェニルエーテルを液温30℃の水に0.1mass%添加し、これを上下のノズルから鋼板に供給して冷却した。冷却終了後の鋼板長手方向の平均温度は432℃であり、ほぼ目標温度となった。一方、鋼板長手方向の温度偏差は、おおよそ狙いどおりの温度となっているものの、所々温度が急激に低くなる部位が発生しており、このため鋼板長手方向の温度偏差が160℃と目標よりもかなり大きくなってしまった。界面活性剤の添加により遷移沸騰開始温度が低くなったため、比較例1,2よりも鋼板長手方向の温度偏差は比較的小さかったものの、目標である60℃以内にすることができなかった。
本実施例では、熱延鋼板の製造プロセスにおいて、水溶性ポリマーとしてポリアルキレングリコール、ポリアマイド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールを適用した水溶性ポリマー添加冷却剤を用いた場合の結果を示したが、その他の水溶性ポリマーでも同様の効果が得られる。また、厚鋼板や形鋼の冷却でも同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0051】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】水溶性ポリマー添加冷却剤と水の伝熱特性を比較して示す説明図
【図2】本発明を適用する熱延鋼帯製造ラインの一例を示す説明図
【図3】本発明例1で冷却された鋼板の長手方向温度チャート図
【図4】比較例1で冷却された鋼板の長手方向温度チャート図
【符号の説明】
【0053】
1 仕上圧延機群
2 ランナウトテーブル
3 コイラー
4 ポンプ
5 集水ピット
6 水溶性ポリマー濃度測定装置
7 水溶性ポリマー添加装置
8 水温調整装置
9 ポリマー洗浄装置
10a,10b,11a,11b 冷却剤供給手段
12A,12B 液供給系
13 集水パン
S 鋼板
【出願人】 【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
【出願日】 平成18年7月28日(2006.7.28)
【代理人】 【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏


【公開番号】 特開2008−30088(P2008−30088A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2006−205618(P2006−205618)