トップ :: B 処理操作 運輸 :: B09 固体廃棄物の処理;汚染土壌の再生

【発明の名称】 有機汚染物質で汚染された汚染土壌及び/又は汚染底泥からの有機汚染物質移動促進剤および該促進剤を用いた汚染土壌及び/又は汚染底泥の浄化法
【発明者】 【氏名】辰巳 憲司

【氏名】市川 廣保

【氏名】森本 研吾

【要約】 【課題】ナフタレン、フェナントレン、ピレンなどの多環芳香属化合物(PAHs)や、ダイオキシン類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDTといった残留性有機汚染物質(POPs)など、種々の疎水性の有機汚染物質で汚染された汚染土壌や汚染底泥の浄化過程で、汚染物質の移動性を高めることによって浄化効率を高めることが可能になる。そこで、本発明では汚染物質の移動性を高めることを可能にする、汚染物質移動促進剤を提供するとともに、この汚染物質移動促進剤を使用し、有機溶媒を使用することなしに疎水性の有機汚染物質で汚染された汚染土壌や汚染底泥を水で洗浄浄化する浄化方法を提供する。

【構成】デオキシリボ核酸(DNA)またはその誘導体を必須成分とする、汚染土壌や汚染底泥中に存在する疎水性の有機汚染物質の移動を促進する汚染物質移動促進剤。更にリン酸イオン発生剤を含有する上記汚染物質移動促進剤。並びにこれらを含む洗浄水で洗浄する汚染土壌や汚染底泥の浄化方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシリボ核酸(DNA)もしくはその誘導体を必須成分とすることを特徴とする有機汚染物質で汚染された汚染土壌及び/又は汚染底泥からの有機汚染物質移動促進剤。
【請求項2】
更にリン酸イオン発生剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の有機汚染物質移動促進剤。
【請求項3】
有機汚染物質が多環芳香族化合物(PAHs)であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機汚染物質移動促進剤。
【請求項4】
有機汚染物質が残留性有機汚染物質(POPs)であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の有機汚染物質移動促進剤。
【請求項5】
有機汚染物質で汚染された汚染土壌及び/又は汚染底質に、請求項1〜4の何れかに記載の有機汚染物質移動促進剤を混合すること特徴とする汚染土壌及び/又は汚染底泥から該汚染物質の移動を促進する方法。
【請求項6】
有機汚染物質で汚染された汚染土壌及び/又は汚染底泥を、請求項1〜4の何れかに記載の有機汚染物質移動促進剤の存在下で、洗浄することを特徴とする汚染土壌及び/又は汚染底泥の浄化方法。
【請求項7】
有機汚染物質移動促進剤を含む洗浄水で洗浄することを特徴とする請求項6に記載の浄化方法。
【請求項8】
超音波照射下で洗浄することを特徴とする請求項6または7に記載の浄化方法。
【請求項9】
洗浄処理後、洗浄水に含まれる有機汚染物質を疎水性有機溶媒で抽出除去することにより、洗浄水を再生し、該再生洗浄水を有機汚染物質で汚染された汚染土壌及び/又は汚染底質の洗浄処理に再利用することを特徴とする請求項7または8に記載の浄化方法。
【請求項10】
有機汚染物質を含む疎水性有機溶媒から、疎水性有機溶媒を回収し、この疎水性有機溶媒を前記洗浄水に含まれる有機汚染物質の抽出溶媒として再利用することを特徴とする請求項9に記載の浄化方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、有機汚染物質で汚染された汚染土壌や汚染底泥(以下、単に、汚染土壌等ともいう)中の有機汚染物質の移動性を高めることを可能にする有機汚染物質移動促進剤、および該促進剤を用いた汚染土壌等の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゼン、トルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物、ナフタレン、フェナントレン、ピレンなどの多環芳香属化合物(PAHs)、ダイオキシン類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDTといった通称POPs(ポップス)と呼ばれる残留性有機汚染物質などの有機汚染物質による土壌や底質の汚染が数多く報告され、その対策が世界的に重要な関心事になっている。
このような有機汚染物質によって汚染土壌等の浄化方法は、一般に、(1)加熱処理法(揮発・脱離、熱分解法、溶融固化)、(2)化学分解法、(3)洗浄法、(4)吸着法、(5)バイオレメディエーション、(6)ファイトレメディエーションなどに大別される。
【0003】
(1)の加熱法には、土壌や底質を加熱し、有機汚染物質を脱離・揮発させるか、もしくは分解させる方法と、土壌や底質を溶融して固める方法などがある。加熱により土壌から揮発させた有機汚染物質は、そのまま大気に放出できず、最終的にはトラップして分解し、無害化する必要がある。また、直接熱分解させる方法や溶融固化する方法も併せて、加熱法は、処理コストが高いこと、装置が大掛かりになること、土壌性状が加熱により大幅に変化すること、などの理由からあまり採用されていない。
【0004】
(2)の過酸化水素や過マンガン酸カリウムなどの薬剤を用いる有機汚染物質の分解法は、残留薬品による2次汚染の可能性があるし、過剰の薬品添加量を必要とするなどの問題があり、広く採用されているわけではない。
【0005】
(3)の洗浄法には水溶液を中心に行う場合と有機溶媒で洗浄する方法がある。水溶液で洗浄する場合は、洗浄効果を高めるため、錯形成剤や界面活性剤などの助剤を併用することが多い。水溶液による洗浄法は、土壌や底質中の重金属を溶解させて浄化する方法として広く用いられている方法である。
しかし、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物、ナフタレン、フェナントレン、ピレンなどの多環芳香属化合物(PAHs)、ダイオキシン類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDTといった通称POPs(ポップス)と呼ばれる残留性有機汚染物質などのような疎水性の有機汚染物質の浄化には有効な方法とは言えない。
このため、疎水性の有機物の移動性を高め、洗浄効率を高めるための薬剤である、ある種の有機汚染物質移動促進剤が提案されている。例えば、特許文献1には、有機汚染物質移動促進剤としてシクロデキストリン含んだ水溶液を用いた洗浄方法が、特許文献2には、有機汚染物質移動促進剤として界面活性剤とシクロデキストリン含んだ水溶液を用いた洗浄方法が公開されている(特許文献1〜2)。
【0006】
(4)の吸着法は、土壌等から遊離した汚染物質を、活性炭を始めとする吸着剤に吸着させて除去する方法であり、必ず(1)の加熱処理や(3)の洗浄など汚染物質を遊離させる前処理を必要とする。
【0007】
(5)のバイオレメディエーションは、微生物の働きで有機汚染物質を分解する方法で、微生物を直接土壌に添加する方法と、微生物を直接加えるのではなく栄養塩や酸素を添加して土着微生物の活性を高めて浄化する方法がある。このほか、土壌や底質を洗浄した水を微生物により浄化する方法がある。バイオレメディエーションは、二次汚染の可能性が小さいこと、省エネルギーであること、低コストであること、広範囲の土壌に適用でき土壌そのものの性質を変えないなどの利点があることから、欧米を中心に一般的となってきている。
【0008】
しかし、バイオレメディエーションには、土壌浄化に要する期間が長いという欠点もある。その理由の一つとして、特定の汚染物質に対して分解機能を有している微生物の育成が進んでおらず、その濃度が極めて低いことがあげられる。また、微生物の濃度ばかりでなく、これらの微生物が十分に機能を発揮できる環境条件が整っていなければならない。バイオレメディエーションでは、多環芳香属化合物はベンゼンなどの単環芳香族化合物と比較すると、分解率が一般的に低い。これは、微生物の分解性だけでなく、多環芳香属化合物の土壌や底質への吸着性がベンゼンなどより高いため、微生物との接触が制限されることによる。すなわち、疎水性の汚染物質は、土壌に強く吸着しているため、微生物に取り込まれ難く、生物的分解が進みにくいことが原因として挙げられる。
そこで、前記した界面活性剤やシクロデキストリンを含んだ水溶液を散布して、疎水性有機汚染物質の移動性を向上させ、それによって生物分解性を高める特許が公開されている(特許文献3)。
【0009】
(6)のファイトレメディエーションとは、植物が根から水分や養分を吸収する能力を利用して有害物質を取り除く方法と、根圏を形成する根粒菌や微生物などとの共同作業により浄化する方法で、費用対効果に優れ環境にやさしい浄化法といえる。しかし、PAHsやPOPsなど土壌に強く吸着している疎水性化合物に対しては、根から植物への吸収はほとんど認められないし、生物分解も進みにくいため、その効果はあまり期待できない。
【0010】
【特許文献1】特開平07−946号公報
【特許文献2】特開2003−126838号公報
【特許文献3】特開2005−262107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、PAHsやPOPsなどの疎水性の有機汚染物質は、水に溶けにくく、しかも土壌に強く吸着しているため、水で洗浄してもほとんど移動し溶出してくることはなく、浄化することはできない。このため、有機溶媒による洗浄が行われるが、有機溶媒による洗浄では、使用した有機溶媒による環境汚染や、洗浄後、土壌の性質が変化してしまうなどの問題がある。
水洗浄においても、疎水性汚染物質の移動性を高めることができれば、有機溶媒を使わずに土壌洗浄することも夢ではないし、バイオレメディエーションやファイトレメディエーションによる浄化効率を向上させることも可能になる。 このような疎水性の有機汚染物質の移動性を高める有機汚染物質移動促進剤として、前述したように、界面活性剤やシクロデキストリンなどを加えた水溶液を用いて洗浄したり、これらが存在する系で生物分解したりする方法が提案されている。
【0012】
しかし、土壌や底質中の有機汚染物質の洗浄に、界面活性剤を含む水溶液を用いた場合、界面活性剤は微生物の阻害剤となる場合がある。このため、微生物分解性の良好な界面活性剤の利用に限定される。また、添加した界面活性剤が微生物および汚染物を吸着した土壌粒子の表面を覆うため、微生物と汚染物との接触を妨げるといった状態が発生し、結果として微生物分解性を低下させることもある。
【0013】
一方、シクロデキストリンは、D−グルコースが結合した環状構造をとり、種々の有機汚染物質と包接化合物を作ることができるが、シクロデキストリンの種類により包接できる汚染物質が限定されるなどの欠点があるし、洗浄効果が十分とはいえない。
【0014】
本発明は、たとえば、ナフタレン、フェナントレン、ピレンなどの多環芳香属化合物(PAHs)や、ダイオキシン類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDTといった残留性有機汚染物質(POPs)など、種々の疎水性の有機汚染物質の汚染土壌や汚染底泥中での移動性を高める薬剤、すなわち汚染物質移動促進剤を提供するとともに、該促進剤を用いた土壌や底質の洗浄方法を提供することを目的としている。これによって、汚染土壌等を有機溶媒を使用することなしに水で洗浄し浄化することが可能になり、さらに、汚染物質の移動が主要な役割を果たす浄化技術、例えば、バイオレメディエーションや、エレクトロカイネティックレメディエーション、ファイトレメディエーションなどにおいても浄化の促進効果が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、種々の疎水性の有機汚染物質を含む汚染土壌等にDNAまたはその誘導体の水溶液を混合すると、疎水性有機汚染物質の汚染土壌等中での移動性を高めることが可能になり、これによって、汚染土壌等を洗浄浄化することが可能になることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
[1]デオキシリボ核酸(DNA)もしくはその誘導体を必須成分とすることを特徴とする有機汚染物質で汚染された汚染土壌及び/又は汚染底泥からの有機汚染物質移動促進剤。
[2]更にリン酸イオン発生剤を含有することを特徴とする上記[1]に記載の有機汚染物質移動促進剤。
[3]有機汚染物質が多環芳香属化合物(PAHs)であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の有機汚染物質移動促進剤。
[4]有機汚染物質が残留性有機汚染物質(POPs)であることを特徴とする上記[1]〜[3]の何れかに記載の有機汚染物質移動促進剤。
[5]有機汚染物質で汚染された汚染土壌及び/又は汚染底泥に、上記[1]〜[4]の何れかに記載の有機汚染物質移動促進剤を混合することを特徴とする汚染土壌及び/又は汚染底泥から該汚染物質の移動を促進する方法。
[6]有機汚染物質で汚染された汚染土壌及び/又は汚染底泥を、上記[1]〜[4]の何れかに記載の有機汚染物質移動促進剤の存在下で、洗浄することを特徴とする汚染土壌または汚染底泥の浄化方法。
[7]有機汚染物質移動促進剤を含む洗浄水で洗浄することを特徴とする上記[6]に記載の浄化方法。
[8]超音波照射下で洗浄することを特徴とする上記[6]または[7]に記載の浄化方法。
[9]洗浄処理後、洗浄水に含まれる有機汚染物質を疎水性有機溶媒で抽出除去することにより、洗浄水を再生し、該再生洗浄水を有機汚染物質で汚染された汚染土壌及び/又は汚染底泥の洗浄処理に再利用することを特徴とする上記[7]または[8]に記載の浄化方法。
[10]有機汚染物質を含む疎水性有機溶媒から、疎水性有機溶媒を回収し、この疎水性有機溶媒を前記洗浄水に含まれる有機汚染物質の抽出溶媒として再利用することを特徴とする上記[9]に記載の浄化方法。
【発明の効果】
【0017】
ナフタレン、フェナントレン、ピレンなどの多環芳香属化合物(PAHs)や、ダイオキシン類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDTといった残留性有機汚染物質(POPs)などの有機汚染物質は、疎水性のため土壌等に強く吸着している。このため、水によりこれらの汚染物質を土壌等から離脱・移動させることが困難とされていたが、本願発明では、これらの有機汚染物質の土壌中や底質中での離脱・移動性を高めることができる。
【0018】
すなわち、本発明で用いるDNAまたはその誘導体の水溶液は、土壌中や底質中での前記有機汚染物質の離脱や移動性を高めることができるので、ナフタレン、フェナントレン、ピレンなどの多環芳香属化合物(PAHs)や、ダイオキシン類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDTといった残留性有機汚染物質(POPs)などの疎水性の有機汚染物質で汚染された汚染土壌や汚染底泥を、有機溶媒を使用することなしに水で洗浄することが可能となる。
また、本願発明の浄化剤は、汚染物質の移動が主要な役割果たす浄化技術、例えば、バイオレメディエーションや、エレクトロカイネティックレメディエーション、ファイトレメディエーションなどに適用しても浄化の促進効果が期待される。
【0019】
そして、本発明の浄化方法によれば、有機汚染物質で汚染された土壌や底質から有機汚染物質を効果的に洗浄浄化することができる。
更に、洗浄浄化後、該汚染物質を含有する洗浄水から、有機溶媒による抽出操作で該有機汚染物質を抽出除去し、有機汚染物質を含まない洗浄水を再生して再利用することが可能である。さらに、該抽出操作で使用した、有機汚染物質を含む有機溶媒は、蒸留等の操作で再生して再利用することができる。すなわち、本願発明の浄化方法では、土壌洗浄に用いられる洗浄水も、その洗浄水の再生に利用される有機溶媒も、繰り返し使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず、本発明の有機汚染物質で汚染された汚染土壌や汚染底泥中の汚染物質の移動性を高める汚染物質移動促進剤について説明する。
本発明の汚染物質移動促進剤はデオキシリボ核酸(DNA)またはその誘導体の水溶液を必須成分とすることを特徴としている。
【0021】
本発明の汚染物質移動促進剤とは、汚染土壌や汚染底泥に強く吸着し、水層に移動し難い疎水性有機汚染物質の溶解性を高め、移動しやすくする薬剤のことを言う。
【0022】
DNAは生物の遺伝情報を子孫に伝える重要な役割を担っている水溶性の生体高分子で、主鎖がポリリン酸からなる分子量が数億から数十億にもおよぶ巨大分子である。すなわち、デオキシリボースとリン酸が交互に結合した構造の主鎖を持ち、糖の部分に核酸塩基がついた高分子であり、二重らせん構造をとり、この二重らせん構造の核酸塩基層に芳香族化合物などが挿入され、層間化合物を作ることができるものである。
DNAは地球上に存在するあらゆる生物の細胞に存在し、遺伝情報が書き込まれている。DNAは、生体試料から酵素や試薬などを使って細胞の膜を壊し、さらに付着している脂質やタンパク質を取り除くことによって取り出すことができる。一方で、生命科学の研究の進展に伴い、DNAの合成が可能になり、現在では合成装置を用いて簡単に合成されるようになっている。
【0023】
DNAの核酸塩基層が汚染土壌や汚染底泥中の有機汚染物質を取り込むことにより、有機汚染物質が水層に移動し、移動しやすくなる。
【0024】
本発明で用いられるDNAは、核酸塩基層に有機汚染物質などが挿入された層間化合物を作ることができるものであればどのようなものでもよく、生物由来のDNAでも良いし、合成して得られたDNAであってもよい。また、生物由来のDNAの場合は、由来する生物によって限定されず、いかなる生物のものであってもよい。また、分子量や大きさによって限定されず、いかなる分子量や大きさのものであってもよいし、分子量や大きさの異なるものが共存しているようなものであってもよい。
【0025】
本発明におけるDNAは、安価で大量に提供されるものの使用が好ましい。この様なものの例として、これまで廃棄物として廃棄されていた、鮭の精巣やホタテのうろからとられるDNAがある。これらの海洋生物由来のDNAを取り出す方法においても、特に限定されず、コストパフォーマンスを考慮して最良の方法を選択すればよい。
【0026】
本発明におけるDNA誘導体とは、DNAの親水性を高めたり低めたりする目的や、安定性を増す目的、あるいは核酸塩基層への取り込みを高める目的などでDNAの化学的性質を変更するためにDNAを化学修飾したもののことを言い、基本的に二重らせん構造の核酸塩基層に有機汚染物質などが挿入された層間化合物を作ることができる、DNAの基本構造を備えるものであればどのような化学修飾物をも含むものであってもよい。
【0027】
本発明の有機汚染物質移動促進剤は、デオキシリボ核酸(DNA)またはその誘導体の水溶液を必須成分とするが、更にリン酸イオン発生剤を共存させることが好ましい。これにより、汚染土壌や汚染底泥中の汚染物質の移動性をさらに高めることができ、より効率的に洗浄浄化することが可能となる。
【0028】
リン酸イオン発生剤としては、水溶性のリン酸化合物であればよく、特に限定されないが、例えば、リン酸(H3PO4)の他、水中で加水分解してリン酸を生成する化合物、リン酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸2水素カリウム、ヘキサンメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等が挙げられる。これらのリン酸化合物は、単独又は混合物の形態で用いることができる。
【0029】
DNAとリン酸イオンの割合は特に制約されず、DNA濃度にも特に限定されず、リン酸イオンとして0.001〜10M、好ましくは0.005〜5M、より好ましくは0.01〜3M、さらに好ましくは0.05〜1Mである。
【0030】
なお、本発明でいう汚染土壌とは、後記する有機汚染物質で汚染された土壌を意味し、有機汚染物質が単独で存在するものであっても良いし、複数の有機汚染物質で汚染されているものであっても良い。さらに、重金属などの他の汚染物質でも汚染されている、複合汚染された土壌も含まれる。また汚染底泥とは、後記する有機汚染物質で汚染された河川、湖沼、海洋等水環境の水底の表層土を言い、有機汚染物質が単独で存在するものであっても良いし、複数の有機汚染物質で汚染されているものであっても良い。さらに、重金属などの他の汚染物質でも汚染されている、複合汚染された底質も含まれる。
【0031】
また、有機汚染物質とは、ナフタレン、フェナントレン、ピレンなどの多環芳香属化合物(PAHs)や、ダイオキシン類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDTといった残留性有機汚染物質(POPs)などの他、これらに属さない農薬等の疎水性有機汚染物質も含み、疎水性の有機汚染物質全般を意味する。
【0032】
つぎに、本発明の有機汚染物質で汚染された汚染土壌や汚染底泥中の有機汚染物質の移動促進方法について説明する。
本発明の有機汚染物質の移動促進方法は、上記汚染土壌や汚染底泥を、デオキシリボ核酸(DNA)またはその誘導体を必須成分とする汚染物質移動促進剤を混合することを特徴としている。
また、本発明の浄化方法は、上記汚染土壌や汚染底泥を、デオキシリボ核酸(DNA)またはその誘導体を必須成分とする汚染物質移動促進剤を含む洗浄水で洗浄処理することを特徴としている。
【0033】
具体的には、デオキシリボ核酸(DNA)またはその誘導体の水溶液を、有機汚染物質で汚染された汚染土壌や汚染底泥と混合する。
このとき、あらかじめ水溶液にDNAまたはその誘導体を溶解させたものを用いても良いし、始めにDNAまたはその誘導体を汚染土壌や汚染底泥に固体で散布し、その後で水を加えるなど、いかなる方法で土壌や底質に誘導してもよい。
【0034】
DNAと土壌や底質を混合する行程としては、カラム等に汚染土壌や汚染底泥を詰めたものに洗浄水を通水しても良いし、汚染土壌を移動させることなく原位置で洗浄水を通水するなどいずれの方法でも良く、洗浄水をDNAまたはその誘導体を含む水溶液に換えるだけで、通常の土壌浄化で行われている土壌洗浄法のいずれの方法を採用しても良い。
【0035】
また、汚染土壌や汚染底泥を洗浄容器にとり、そこにデオキシリボ核酸(DNA)またはその誘導体の水溶液を加えて洗浄することができる。この際、回転または振動を与えるなどして固液接触を高める方法とることが好ましい。この場合の洗浄においても、やはり洗浄水をDNAまたはその誘導体を含むものに換えるだけで、通常の土壌浄化で行われている土壌洗浄法のいずれの方法を採用しても良い。
【0036】
DNAまたはその誘導体を含む水溶液で土壌洗浄する際のDNA濃度は特に限定されない。土壌の種類、汚染物の種類及びレベル等、さらには使用するDNAの分子量に応じて適宜決められればよいが、一般的には、0.01〜60%、好ましくは0.05〜20%、より好ましくは0.1〜10%の範囲内である。DNAの濃度が低すぎれば、洗浄効果はあまり期待できないし、濃すぎると、洗浄後、洗浄水から有機溶媒で有機汚染物質を抽出する際、有機溶媒と水の分離に障害が生ずることがある。
【0037】
また、本発明の浄化方法は、デオキシリボ核酸(DNA)またはその誘導体を有機汚染物質移動促進剤として用いることを要件とするが、さらにリン酸イオンの共存下で行うことで洗浄効果を高めることができる。
リン酸イオンを存在させるためにリン酸イオン発生剤を添加すればよい。リン酸イオン発生剤としては、前記リン酸イオン発生剤の項で説明したものと同様な水溶性のリン酸化合物が用いられる。これらのリン酸化合物は、単独又は混合物の形態で用いることができる。
【0038】
DNAとリン酸イオンの割合は特に制約されず、DNA濃度にも特に限定されず、リン酸イオンとして0.001〜10M、好ましくは0.005〜5M、より好ましくは0.01〜3M、さらに好ましくは0.05〜1Mである。
【0039】
汚染土壌や汚染底泥にDNAまたはその誘導体とリン酸イオン発生剤を添加する順序は、先に前者を添加して後者を後に添加してもよいし、その逆でもよい。また、両者を同時に添加してもよいし、両者の混合物を添加してもよい。
【0040】
本願発明において、汚染土壌や汚染底泥を洗浄する際、超音波照射下で行うことができる。
本発明に使用する超音波の周波数としては、一般的には、1KHz〜1,000KHzの範囲であるのがよいが、好ましくは、10KHz〜600KHzの範囲、より好ましくは、20KHz〜200KHzの範囲、さらに好ましくは、10KHz〜100KHzの範囲がよい。超音波の照射時間は、汚染土壌や汚染底泥によっても変わり、特に限定されないが、一般的には、約30秒間〜5時間、好ましくは、約1分間〜3時間、より好ましくは、約10分間〜1時間の範囲であるのがよい。
【0041】
洗浄液の温度は、通常、常温であるが、必要に応じて加温(例えば40〜50℃)又は冷却(例えば0〜10℃)することもできる。
【0042】
汚染土壌や汚染底泥の洗浄処理後に生じる洗浄水には、多環芳香属化合物(PAHs)や、残留性有機汚染物質(POPs)など、疎水性の有機汚染物質がDNAの核酸塩基層にインタカレートされた状態で含まれている。
これらの有機汚染物質は疎水性の有機溶媒で抽出することができ、抽出後、有機層を分離することにより、該有機汚染物質を含まない洗浄水が再生される。この再生洗浄水は、汚染土壌や汚染底泥の洗浄に再利用することでき、洗浄水の繰り返し使用が可能となる。
【0043】
洗浄処理後の洗浄水から疎水性有機溶媒により有機汚染物質を抽出する装置としては、特に制約されず、一般にこれらの操作に用いられている装置を使って行うことができる。
【0044】
また、有機汚染物質を含む有機溶媒層からは、蒸留等の操作を行うことで疎水性の有機溶媒を回収することができる。回収された疎水性の有機溶媒は、前記有機汚染物質を含む洗浄水からの有機汚染物質の抽出溶媒として再利用される。
【0045】
有機溶媒の回収操作を行う装置としては、特に制約されず、蒸留操作で有機溶媒を回収する場合は、一般に蒸留操作に用いられている装置を使って行えばよい。
【0046】
本発明で使用される疎水性有機溶媒としては、水に溶けず、ナフタレン、フェナントレン、ピレンなどの多環芳香属化合物(PAHs)や、ダイオキシン類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDTといった残留性有機汚染物質(POPs)などの有機汚染物質を抽出できるものであれば特に限定されない。
このような疎水性の有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ドデセン、セタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、フェニルシクロヘキサン、ビシクロヘキシル、ベンゼン、トルエン、キシレン、アミルベンゼン、アミルトルエン、ジフェニルエタン、テトラリン、デカリン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼン、クメン、第2−ブチルベンゼン、ベンジン、ミネラルスピリット、石油エーテル等の炭化水素系溶剤、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモホルム、塩化メチレン、塩化エチレン、塩化エチリデン、トリクロルエタン、トリクロルエチレン、テトラクロルエタン、パークロルエチレン、ペンタクロルエタン、ヘキサクロルエタン、塩化プロピレン、トリクロルプロパン、塩化ブチル、ジクロルブタン、ヘキサクロルプロピレン、ヘキサクロルブタジエン、塩化アミル、ジクロルペンタン、塩化2−エチルヘキシル、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、クロルトルエン、ジクロルトルエン、トリクロルモノフルオルメタン、1,1,2−トリフルオル−1,2,2−トリクロルエタン、テトラクロルジフルオルエタン、ジブロモジフルオルエタン、パーフルオロトリブチルアミン、クロルニトロエタン、クロルニトロプロパン、ジクロルイソプロピルエーテル等のハロゲン化炭化水素、イソブタノール、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、エチルブチルアルコール、ヘプチルアルコール、メチルアミルカルビノール、3−ヘプタノール、ジメチルペンタノール、オクチルアルコール、エチルヘキシルアルコール、イソオクチルアルコール、ジイソブチルカルビノール、n−デシルアルコールなどのアルコール類、イソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、ブチルエーテル、アミルエーテル、ヘキシルエーテル、ブチルフェニルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテルなどのエーテル類、ブチロン、メチルアミルケトン、メチルヘキシルケトン、バレロン、アセトフェノンなどのケトン類、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸メチルアミル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸フェニル、酢酸ベンジル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸アミル、酪酸ブチル、シュウ酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ベンジルなどのエステル類や二硫化炭素、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジオクチル、リン酸トルクレジル塩素化パラフィン、ヒマシ油などが挙げられ、これらを単独で、又は2種以上を併用して用いられる。
なかでも、クロロホルム、エーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ジクロロメタン、石油エーテル、酢酸エチルおよびベンゼン等の一般的有機溶媒のいずれか、もしくはこれらの2種以上からなる混合物から適宜選択して用いるとよい。
【実施例】
【0047】
次に本発明の実施例に基づきさらに詳細に説明する。なお、以下の例においては、%は重量%を意味する。
DNAは、鮭の精巣由来のDNA−Naで、分子量5万〜20万のものを用いた。
【0048】
(実施例1)
ピレン汚染土壌(500ppm)を調整し、土壌洗浄実験をおこなった。すなわち、ピレン汚染土壌0.2gを50mlの三角フラスコに取り、それに純水、500ppmのDNA溶液、1000ppmのDNA溶液を、それぞれ10ml加え2時間の振とう抽出をおこなった。抽出後、抽出液を遠心分離(3000rpm)し、その5mlを同体積のヘキサンで抽出した。このヘキサン層をGCMSで分析し、ピレンの濃度を求め、洗浄による土壌からピレンの除去率を求めた。その結果、純水による洗浄で除去できたピレンは1%程度に留まったが、500ppmのDNA溶液では、土壌中の11%のピレンが除去され、1000ppmのDNA溶液では、14%のピレンが一回の洗浄で除去された。
【0049】
(実施例2)
実勢例1において、純水、500ppmのDNA溶液、1000ppmのDNA溶液の各洗浄液(10ml)に0.3MのKH2PO4を加えた以外は実施例1と同じ操作を行った。その結果、純水による洗浄で除去できた値は1%程度で違いが認められなかったが、500ppmのDNA溶液では土壌中の19%のピレンが除去され、1000ppmのDNA溶液では、36%のピレンが一回の洗浄で除去された。
【0050】
(実施例3)
実勢例1において、0.1%、0.5%、1%、2.5%、5%のDNA溶液を、それぞれ10ml加えた以外は実施例1と同じ操作を行った。その結果、各洗浄で除去できたピレンの量は、それぞれ、14%、58%、72%、92%、100%であった。すなわち、一回の洗浄でほぼ100%のピレンを洗浄除去することも可能であることが明らかになった。
【0051】
(実施例4)
ピレン、アントラセン、フェナントレン各100mgで汚染された土壌を調整し、土壌洗浄実験を行った。汚染土壌0.2gを50mlの三角フラスコに取り、それに純水、1000ppmのDNA溶液、5000ppmのDNA溶液を、それぞれ10ml加え2時間振とう抽出をおこなった。抽出後、抽出液を遠心分離(3000rpm)し、その5mlを同体積のヘキサンで抽出した。このヘキサン層をGCMSで分析し、ピレン、アントラセン、フェナントレンの濃度を求め、洗浄による土壌からこれらの除去率を求めた。その結果、1000ppmのDNA溶液による洗浄で除去できたのは、ピレン、アントラセン、フェナントレン、それぞれ、19%、6%、20%であった。5000ppmのDNA溶液では、ピレン、アントラセン、フェナントレンの除去率は、それぞれ53%、14%、39%であった。
【0052】
(比較例1)
実施例4において、DNA溶液の代わりに、同濃度のγ−シクロデキストリン溶液を加えた以外は実施例4と同じ操作を行った。その結果、1000ppmのγ−シクロデキストリン溶液による洗浄で除去できたのは、ピレン、アントラセン、フェナントレン、それぞれ、4%、3%、14%であった。5000ppmのγ−シクロデキストリン溶液では、ピレン、アントラセン、フェナントレンの除去率は、それぞれ10%、5%、17%であった。
【0053】
(実施例5)
ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)、ポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン(PCDDs)、コプラナポリ塩化ビフェニル(コプラナPCBs)で汚染された実汚染底泥10gをジクロロメタン100mlで抽出し、遠心分離後、GC/MSで分析し毒性等量(TEQ)を求めた。その結果、該底質の毒性等量は13.7647pg−TEQ/mlであった。次にこの汚染底泥10gを1%DNA溶液50mlで1時間振とう抽出し、遠心分離後、上澄み40mlを同体積のヘキサンで抽出し、抽出液を、GC/MSで分析し毒性等量(TEQ)を求めた。その結果、0.2pg−TEQ/mlが1%DNA溶液の1回の抽出で抽出された。
【0054】
(実施例6)
PCBで汚染された実汚染土壌5gをアセトン50mlで抽出し、遠心分離後、GC/MSで分析しものと、該汚染土壌5gを50mlの1%DNA溶液で抽出後その25mlを同体積のヘキサンで抽出したもののGC/MS分析のピーク面積の比較から、アセトン抽出に対する抽出割合を求めた。その結果1%DNA溶液単独ではほとんど抽出されなかったが、1%DNA溶液の抽出を超音波照射下でおこなったところ、アセトン抽出量の約6%のPCBが一回の抽出で抽出された。
【0055】
(実施例7)
実施例4の5000ppmのDNA溶液を使用した洗浄実験を2度行い、ヘキサン抽出後の水層を一緒にして、再び汚染土壌の洗浄に供し、実施例4と同じ操作をおこなったところ、DNA溶液によるピレン、アントラセン、フェナントレン抽出量は1回目の抽出量とほとんど差はなかった。

【出願人】 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【出願日】 平成18年6月26日(2006.6.26)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−731(P2008−731A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−175187(P2006−175187)