トップ :: B 処理操作 運輸 :: B05 霧化または噴霧一般;液体または他の流動性材料の表面への適用一般

【発明の名称】 フッ素系樹脂コーティング方法およびこの方法を用いた摺動部材、気体圧縮機
【発明者】 【氏名】高橋 徹

【氏名】渡壁 利夫

【氏名】松野 章

【要約】 【課題】過酷な負荷条件下での摺動に対しても剥離が起こらず、コーティング下地処理中に使用するショット材がコーティング層付近のアルミ合金等の母材に残留することがなくて残留ショット材がコーティング層等を傷付けるおそれのない、密着性が優れた良質なフッ素系樹脂コーティング方法を提供する。

【構成】コーティング対象物の表面にプラズマを照射して表面を微細に粗面化、活性化する。そして、このプラズマ照射後のコーティング対象物の表面にフッ素系樹脂塗装を施し、その塗装面を焼成する
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング対象物の表面にプラズマを照射して表面を微細に粗面化、活性化するプラズマ照射工程と、
上記プラズマ照射工程によりプラズマを照射されたコーティング対象物の表面にフッ素系樹脂塗装を施すフッ素樹脂塗装工程と、
上記フッ素樹脂塗装工程によりフッ素系樹脂塗装されたコーティング対象物の塗装面を焼成する焼成工程と、
を有することを特徴とするフッ素系樹脂コーティング方法
【請求項2】
上記プラズマ照射工程よりも前に、コーティング対象物の表面を粗面化・清浄化する粗面化・清浄化処理工程を付加したことを特徴とする請求項1記載のフッ素系樹脂コーティング方法
【請求項3】
上記粗面化・清浄化処理工程が、水溶性ショット材または気化性ショット材でコーティング対象物の表面をショットブラストするショットブラスト工程であることを特徴とする請求項2記載のフッ素系樹脂コーティング方法
【請求項4】
上記粗面化処理・清浄化工程が、コーティング対象物の表面をレーザ照射するレーザ照射工程であることを特徴とする請求項2記載のフッ素系樹脂コーティング方法
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のフッ素系樹脂コーティング方法により摺動面がフッ素系樹脂コーティングされたことを特徴とする摺動部材
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載のフッ素系樹脂コーティング方法により摺動面がフッ素系樹脂コーティングされた摺動部材を有することを特徴とする気体圧縮機
【請求項7】
摺動面がフッ素系樹脂コーティングされた上記摺動部材が、シリンダ室の端面を囲って、上記シリンダ室内で回転するロータおよびベーンと相対的に摺動するサイドブロックであることを特徴とする請求項6記載の気体圧縮機
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は、フッ素系樹脂コーティング方法およびこの方法を用いた摺動部材、気体圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、互いに摺動する部材間ではその摺動面に耐磨耗性、耐焼付性が要求される。一方、例えば、車載用気体圧縮機のように、その構成部材の軽量化の要求が強い場合が少なくなく、このような場合、部材としてアルミ合金等の軽量材料が使用される。
【0003】
アルミ合金等は、軽量であるけれども、互いに摺動する場合、耐磨耗性、耐焼付性が劣るので、一方の部材の摺動面にポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂をコーティングして用いることがある。このようにすると同種金属同士の摺動に起因する潤滑不良、磨耗、焼付きが回避される。
【0004】
このフッ素系樹脂コーティングにおいては、摺動による母材のフッ素系樹脂コーティング層の剥離が発生しないよう、アルミ合金等とフッ素系樹脂コーティング層との強い密着が要求される。密着性向上のためには、従来種々の発明がなされている。
【0005】
コーティング層自体をアルミ合金等と密着しやすい層とする発明として、例えば、斜板式圧縮機におけるAl合金製ピストンの表面にフッ素樹脂とバインダとのコート層を塗布して、バインダがAl合金とコート層とを強固に密着する発明が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−170657号公報 (段落番号0020、図2)
【0007】
アルミ合金等のコーティング下地を粗面化して密着性を向上する発明としては、エッチングによるもの(特許文献2、特許文献3参照。)が、また、更に、エッチングとコーティング層自体の改善を加えたもの(例えば、特許文献4参照。)が知られている。
【0008】
【特許文献2】特開平5−209300号公報 (特許請求の範囲)
【0009】
【特許文献3】特開平6−65799号公報 (段落番号0014〜0018、図3)
【0010】
【特許文献4】特開平5−84468号公報 (段落番号0008、図2)
【0011】
これらの密着性向上技術は、それなりの効果を発揮するが、過酷な負荷のもとで摺動する摺動面に適用するには、充分とはいえない。
【0012】
アルミ合金等のコーティング下地を粗面化して密着性を向上する発明としては、また、ショットブラストによるものが知られている(例えば、特許文献5参照。)。
【0013】
【特許文献5】特開2001−263226号公報 (段落番号0038〜0040)
【0014】
ショットブラストによる粗面化を行うフッ素樹脂コーティングは、一般に、図15に示した工程で行われる。
【0015】
図15において、下地処理工程中で、先ず、アルミ合金等の母材を洗浄し(第1の洗浄801)、この洗浄した母材に、粒径数十μmの微細で高硬度の酸化アルミニウム等のショット材を用いてショットブラストを施して(802)、表面を粗面化、清浄化する。この粗面化、清浄化により、母材とフッ素系樹脂コーティング層との密着性が向上する。
【0016】
次に、ショット材を落とし(砂落とし803)、洗浄して(第2の洗浄804)から、酸化防止等のために粗面化、清浄化した表面に化成処理を施し(805)、その後、洗浄(第3の洗浄806)した後、フッ素樹脂塗装を行い(807)、焼成して(808)、母材へのフッ素系樹脂のコーティングを完成する。
【0017】
ショットブラストは、ショット材が母材表面を叩いて微細な凹凸を形成し、フッ素系樹脂が微細凹部に入り込んで格段に密着性を向上する。
【0018】
ところで、上記ショットブラストに用いられるショット材は、ショットブラスト(802)時に母材の微小隙間に深く入り込み、その後の砂落とし工程(803)、第2の洗浄工程(804)でも取り除ききれないことがある。母材が鋳造品である場合は、微小隙間が多く、特にショット材が残留しやすい。
【0019】
そして、フッ素系樹脂コーティングされた母材に残留した高硬度のショット材は、製品、例えば、気体圧縮機等に組み込まれて使用されることになる。
【0020】
製品の使用中に、その運転動作(ロータの回転、内部の流体の噴流等)により、残留したショット材が母材から離脱する。離脱した高硬度のショット材は、製品の摺動部分等に入り込み、摺動部分等のコーティング層や金属部を傷付け、最終的には焼付を起こしたりして運転不能となる。
【0021】
以上のような、従来の、アルミ合金等の母材へのフッ素系樹脂コーティング技術では、長期間の使用によりコーティング層の剥離が起こりやすかった。このコーティング層の剥離は、特に、最大負荷が大きく、負荷変動サイクルの大きい場合や、起動時の潤滑状態がよくない場合に起こりやすい。例えば、ベーンタイプの気体圧縮機のロータ、シリンダ、サイドブロック、ベーンの摺動面剥離が起こりやすい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
この発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、以下のような密着性が優れた良質なフッ素系樹脂コーティング方法およびこの方法を用いた摺動部材、気体圧縮機を提供しようとするものである。
【0023】
(1)過酷な負荷条件下での摺動に対しても剥離が起こらない。
(2)コーティング下地処理中に使用するショット材がコーティング層付近のアルミ合金等の母材に残留することがなくて残留ショット材がコーティング層等を傷付けるおそれのない。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、請求項の発明方法は、コーティング対象物の表面にプラズマを照射して表面を微細に粗面化、活性化するプラズマ照射工程と、上記プラズマ照射工程によりプラズマを照射されたコーティング対象物の表面にフッ素系樹脂塗装を施すフッ素樹脂塗装工程と、上記フッ素樹脂塗装工程によりフッ素系樹脂塗装されたコーティング対象物の塗装面を焼成する焼成工程とを有する。
【0025】
請求項の発明方法は、請求項において、上記プラズマ照射工程より前にコーティング対象物の表面を粗面化・清浄化する粗面化・清浄化処理工程を付加して、より強固なフッ素系樹脂コーティングを得る。
【0026】
請求項またはの発明方法は、請求項において、上記粗面化・清浄化処理工程として、水溶性ショット材または気化性ショット材でコーティング対象物の表面をショットブラストし、または、コーティング対象物の表面をレーザ照射する。
【0027】
請求項またはの発明は、摺動部材、特に、気体圧縮機の摺動部材を上記コーティング対象物として上記発明方法のコーティング処理を施して、摺動部分の耐剥離性、耐磨耗性、耐久性が優れた、信頼性の高い摺動部材、気体圧縮機を得ることができる。
【0028】
この発明において「レーザ照射の照射率」とは、照射対象面積に対する実際にレーザが照射されたドット面積の率を意味する。例えば、図3(a)のように、照射ドットRが照射対象面に対して前後左右に等ピッチpで方形状配置になるように照射する場合は、単位照射面積U=p×pの中に照射ドットの1/4が4個存在することになり、照射率=S/Uとなる。
【発明の効果】
【0029】
この発明方法によれば、コーティングする母材表面の下地処理工程においてコーティング対象物の表面にプラズマを照射して表面を清浄化するとともに原子レベルで微細に粗面化し、これにより活性化して著しく密着性、接着性が向上した表面にフッ素系樹脂塗装を施すようにした。そのため、フッ素樹脂コーティングが剥れにくくなり、また、フッ素系樹脂コーティング層付近の母材にショット材が残留することがなく、残留ショット材が他の部材と擦れたとき移動してコーティング層や母材を傷付けるおそれがなくなる。これに加えて更に、従来必須であった化成処理が不要となり、化成処理の際発生する有害な廃水を処理するための廃水処理設備を設置する必要がなくなった。故に、大幅なコスト低減を実現し、しかも、廃水漏出などによる環境汚染のおそれも皆無となる。プラズマ照射工程はフッ素系樹脂コーティングの工程中に組み込むことができ、生産能率も大幅に向上する。
【0030】
上記コーティング方法により摺動面がフッ素系樹脂コーティングされた摺動部材、摺動面がフッ素系樹脂コーティングされた摺動部材を有する気体圧縮機は、長寿命となり、信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、この発明の実施形態について、図1〜図14を参照して説明する。
【0032】
図1は、フッ素系樹脂コーティング方法(本発明を説明する上での一参考例)の処理フローを示す。
【0033】
図1においては、車載用気体圧縮機のサイドブロックとなるアルミ合金の母材の摺動面となる面にフッ素系樹脂コーティングを行うものである。
【0034】
先ず、アルミ合金の母材全体を洗浄する(第1の洗浄101)。この洗浄した母材の摺動面となる面に、重炭酸ナトリウムNaHCOのショット材でショットブラストを行い、表面を粗面化し、清浄化する(102)。この重炭酸ナトリウムのショット材は硬度は酸化アルミニウムよりも低いが、水溶性である。
【0035】
従って、次の第2の洗浄工程103で、ショット材は洗浄液に溶解し、母材の隙間に入り込んだショット材も流れ出して外部に完全に排出される。従来のように「砂落とし」の工程は不要である。
【0036】
表面を粗面化し、清浄化され、完全にショット材が除去された母材は、以下、常法により、酸化防止等のための化成処理(104)、第3の洗浄(105)、フッ素樹脂塗装(106)、焼成(107)の工程を経て、フッ素系樹脂コーティングを完成する。
【0037】
このようにすると、残留ショット材は全く存在しないから、気体圧縮機運転中に内部にショット材が流れ出て摺動部分等を傷付けることがなく、気体圧縮機は耐久性を増し、長寿命となり、信頼性が向上する。
【0038】
水溶性のショット材としては、重炭酸ナトリウムNaHCOの他、燐酸カルシウムCa(PO等を使用することができる。また、残留ショット材がなければよいのであるから、気化性のショット材、例えば、微粒状のドライアイスCOのショット材を使用することもできる。
【0039】
図2は、フッ素系樹脂コーティング方法(本発明を説明する上での他の参考例)の処理フローを示す。
【0040】
図2においては、ショットブラスト工程102に代えてレーザ照射工程202が入る点を除けば、図1と同様である。
【0041】
レーザ照射工程202では、図1のショットブラスト工程102同様、母材の摺動面となる面を粗面化、清浄化して、フッ素系樹脂との密着性、接着性を向上するものである。ショット材は使用しないから、もちろん残留ショット材は存在しない。
【0042】
レーザ照射工程202で使用するレーザ光の強度は、母材表面を若干融解して粗らす程度とし、図3(a)に示すように、直径dの浅い凹み(照射ドット)Rが2次元方向にほぼ等ピッチpで並ぶように形成した。この凹みRの配置形成の方法をより具体的に説明すると、図3(b)および(c)に示すように、気体圧縮機のサイドブロック7をその中心Cの回りに矢印Aのように回転し、レーザ光のビームをサイドブロック7の半径方向Bに移動する。レーザ光のビームが上記中心Cを中心としてサイドブロック7の表面を等ピッチの渦巻き状にスキャンするために、この渦巻き状スキャンの周速がほぼ一定になるように、サイドブロック7の回転速度を制御するとともに、レーザ光のビームの移動速度を、中心Cに近づくにつれて速くなるように制御する。一方で、レーザ光をQスイッチングによって所定の発振周波数で点滅制御し、サイドブロック表面を局所的に加熱溶融して粗面化して図3(a)のような凹みRを配置形成する。
【0043】
図3(a)の場合、レーザ照射の照射率は、照射ドット面積S(=πd/4)/単位照射面積U(=p)となる。
【0044】
凹みRの配置形成の方法は、この他にもいろいろ可能であって、例えば、サイドブロック7を静止したままレーザ光を渦巻き状に回転して、この渦巻き状回転の周速を一定にしたり、サイドブロック7またはレーザ光を一定速度で回転しながらレーザ光の点滅周波数を変化させたりしてもよい。また、粗面化、清浄化が行われる範囲で、凹みRの直径(ドット径)dやピッチ(ドット間隔)pも適宜選択してもよく、必ずしも全面均一の分布にする必要もない。
【0045】
例えば、図4のように、照射ドットRを千鳥状に配置してもよい。図4の例では、千鳥状配置のドット同士が互いに接し、重ならないように、同一個所の2度照射を避けながら効率よく照射して、レーザ照射の照射率を上げている。因みに、図3(a)に示すパターンで照射した場合でd=pのときの照射率は約78.5%であり、図4に示すパターンで照射した場合でd=pのときの照射率は約90.7%である。
【0046】
レーザ照射の照射率と、母材とフッ素系樹脂との密着性、接着性との関係を実験により確かめたところ、照射率を44%以上にすると、密着性、接着性が向上して、高負荷での摺動摩擦に耐え、優れた耐久性が得られるとの結論を得た。以下に、図5〜図8を参照して、この実験について説明する。
【0047】
図5は、母材とフッ素系樹脂との密着面の耐久性試験に使用したテスト装置の概要を説明する説明図である。図6は、テストに使用したフッ素系樹脂コーティング付きアルミ平面部材のテスト結果を、横軸にレーザ照射ドット径、縦軸にドット間隔を取ったグラフ上にプロットした説明図である。なお、図6は図3(a)のパターンで照射したもので、ドット径とドット間隔からレーザ照射の照射率(照射密度)を算出したものである。図7は、図6を、横軸にドット面積、縦軸に単位照射対象面積を取ってプロットしなおした説明図、図8は、レーザ出力とドット径との関係を示す説明図である。
【0048】
図2に示したレーザ照射工程を含むフッ素系樹脂コーティング方法により、フッ素系樹脂コーティング付きアルミ平面部材T1を製造し、図5に示すテスト装置によりテストした。図5に示すように、潤滑油中でコーティングのないアルミ平面部材T2と対向接触させる。この接触面に対して垂直方向に荷重Lを加え、荷重を段階的に増やしながら、アルミ平面部材T2を回転摺動して、コーティングの剥がれ、焼付きが生じるかをテストした。
【0049】
フッ素系樹脂コーティング付きアルミ平面部材T1(直径50mm、コーティング厚15μm)は、個々にレーザ照射条件を変えて、表1のテスト部材として製作した。レーザ照射条件以外はいずれのテスト部材も同一の条件で製造した。
【0050】
表1の発明品および比較品について、次のテスト条件で、耐久性テストを行った。
【0051】
付加荷重と時間: 500Nのまま5min、次に+500N、すなわち、1000Nのまま5min、‥‥と500Nずつ増加して5000Nまで、計50min
回転数: 4000rpm
この条件下でのテストでは、発明品、比較品とも焼付きを生じたものはなかった。5000N、5minまでのテスト終了後、フッ素樹脂コーティング面を観察し、コーティングの剥がれ量を調べて、剥がれ量が、ショットブラストによる現行品サイドブロックよりも少なければ、OK(○)、多ければNG(×)と判断した。
【0052】
この判断結果を図6および図7にプロットした。図6および図7から理解できるように、照射密度(照射率)が44%以上の発明品であれば、フッ素樹脂コーティング層の密着性、接着性が強く、耐久性が優れている。44%未満の比較品では、耐久性は向上しなかった。
【0053】
【表1】


【0054】
ところで、図6および図7に示すように、前後左右に等ピッチpで方形状配置になるようにレーザ照射する場合に照射密度(照射率)を44%以上にするに当たっては、ドット径dとドット間隔pとの関係をp≦1.336×dとしなければならない。また、図4に示すような千鳥状の等ピッチpで三角形状配置になるように照射する場合に照射密度(照射率)を44%以上にするには、ドット径dとドット間隔pとの関係をp≦1.436×dとしなければならない。ドット径dを大きくするには、図8に示すように、レーザ出力を大きくする必要がある。
【0055】
そこで、上記発明品1〜9および11では、YAGレーザを使用した。YAGレーザは、出力を大きくでき、サイドブロック摺動面のような比較的面積が大きく、荷重変動、最大荷重が大きい過酷な摺動条件で使用される摺動面のフッ素樹脂コーティング下地粗面化用レーザ照射を、能率よく行うのに好適である。
【0056】
レーザ照射を用いる上記第2の実施の形態においては、ショットブラストを用いる第1の実施の形態よりも粗面の状態を目標の状態に合わせやすいという利点がある。特に、レーザ照射の照射密度(照射率)を44%以上にすると、密着性が向上して、過酷な使用条件での摺動部材に適用できる。
【0057】
図9は、この発明のフッ素系樹脂コーティング方法の第の実施形態の処理フローを示す。
【0058】
図9においては、図1と同様に、第1の洗浄工程101、重炭酸ナトリウムNaHCOのショット材でショットブラストを行い、表面を粗面化し、清浄化するショットブラスト工程(102)、第2の洗浄工程(103)を順次行う。
【0059】
表面を粗面化し、清浄化され、完全にショット材が除去された母材に、次に、プラズマ照射を施す(904)。このプラズマ照射は、プラズマ発生装置(図示省略)で生成されたプラズマ粒子流をコーティング予定の粗面化、清浄化された母材表面に照射して、表面に原子レベルの微細な凹凸を形成して粗面化し、同時に、洗浄して活性化するものである。この原子レベルの微細な凹凸とは、上述したショットブラストによる凹凸よりも細かい凹凸である。
【0060】
このプラズマ照射により、母材の表面は、母材と異なる材質であるフッ素系樹脂との密着性、接着性が顕著に高まる。
【0061】
その後、図1と同様に、フッ素樹脂塗装(106)、焼成(107)の工程を経て、フッ素系樹脂コーティングを完成する。
【0062】
このようにすると、アルミ合金の母材の摺動面となる面とそこにコーティングされたフッ素系樹脂との結合が非常に強固になり、強い摺動等の負荷を受けても、フッ素系樹脂コーティング層の剥離、離脱は起こらなくなる。
【0063】
また、図1の場合と同様に、ショット材は洗浄液で流し出されて完全に母材から分離されているから、残留ショット材は全く存在せず、気体圧縮機運転中に内部に残留ショット材が流れ出て摺動部分等を傷付けることもなくなる。
【0064】
従って、このコーティングを施された摺動部材や気体圧縮機は、耐久性を増し、長寿命となり、信頼性が向上する。
【0065】
この図9の方法によれば、従来用いられていた、有害な廃水を発生する化成処理工程は必要なく、化成処理に必須の大掛かりで高価な特別の設備が不要となり、化成処理工程に代わるプラズマ照射工程は、ライン内に組み込みやすく、ひとつのコーティング処理ラインで一貫してコーティングを完了することができる。
【0066】
図10は、この発明のフッ素系樹脂コーティング方法の第の実施形態の処理フローを示す。
【0067】
図10は、図9のショットブラスト工程102に代えてレーザ照射工程202を入れるものである。このレーザ照射工程202で使用するレーザ光の強度は、母材表面を若干融解して粗らす程度とし、パルスレーザを照射面全面にスキャンする。レーザ照射の照射率は、44%以上が好ましい。
【0068】
レーザ照射を用いると、ショットブラストを用いる場合よりも粗面の状態を目標の状態に合わせやすいという利点がある。
【0069】
図10におけるプラズマ照射工程904では、前工程のレーザ照射工程202で形成される凹みの深さよりも浅い原子レベルの微細な凹凸が、更に母材表面に形成される。
【0070】
このプラズマ照射により、母材の表面は、母材と異なる材質であるフッ素系樹脂との密着性、接着性が顕著に高まる。
【0071】
上記サイドブロック7を使用するこの発明の気体圧縮機を、以下、図11〜図14を参照して説明する。
【0072】
図11は、この発明になる気体圧縮機の一実施形態を示す縦断面図、図12は、図11のXII−XII断面図で、シリンダ室の内部を示す。図13は、図11のXIII−XIII断面図で、フロント側のサイドブロックのシリンダ室に接する面を示す。図14は、図11のXIV−XIV断面図で、リア側のサイドブロックのシリンダ室に接する面を示す。
【0073】
この実施の形態の気体圧縮機は、周知のベーンロータリ型で、吸気室1を有するヘッド部2、上記吸気室1から圧縮前の気体を導入して圧縮する圧縮機本体部3、この圧縮機本体部3によって圧縮され吐出される気体を収容する吐出室4を有するリア部5からなる。
【0074】
圧縮機本体部3には、シリンダブロック6内に形成され、端面をサイドブロック7A、7Bで囲われたシリンダ室8がある。このシリンダ室8内にロータ9が回転自在に収容されている。このロータ9には、ロータ9の回転に伴ってシリンダブロック6の内壁面6aに先端が摺接しながら出没自在の複数枚のベーン10、10が備えられている。シリンダ室8は、これらのロータ9、ベーン10、10に仕切られて複数の圧縮室11、11に分割されている。これらの各圧縮室11が順次吸気室1から気体を吸入し、ロータ9の回転により気体を圧縮して吐出室4に吐出する。
【0075】
なお、ロータ9には、ヘッド部2に設けられた伝動プーリ12、電磁クラッチ13とロータ軸14を介して自動車のエンジンシャフト(図示省略)の回転動力が伝えられて回転するようになっている。上記ロータ軸14は、ロータ9と電磁クラッチ13の従動部13aの各中心を貫通して固定し、両サイドブロック7A、7Bの軸受部7j、7jに回転自在に支承されている。
【0076】
ロータ9が回転する際は、ベーン10の先端とシリンダブロック6の内壁面6aとが摺動する。ロータ9の外周面9aとシリンダブロック6の短径部内壁面6aaとが摺動する。ロータ9のベーン溝9bの側面とベーン10の側面とが摺動する。ロータ9の両端面9c、9cと両サイドブロック7A、7Bのシリンダ室対向面7x、7xとが摺動する。また、ベーン10の両端面と両サイドブロック7A、7Bのシリンダ室対向面7x、7xとが摺動する。しかも、これらのシリンダブロック6、両サイドブロック7A、7B、ロータ9およびベーン10は、軽量化のためにアルミ合金製になっている。
【0077】
これらの摺動面には、潤滑油が供給されるようになっている。しかし、順次吸入圧縮を繰り返すひとつの圧縮室11と他の圧縮室11との間の圧力差は大きく、この大きい圧力差により圧縮室間で気体リークを生じるとリーク分だけ動力損となり、圧縮効率が低下する。それ故、各摺動面の隙間は極力小さくしてあり、潤滑油膜が切れて固体接触を生じやすい。
【0078】
そこで、これらの摺動面では、摺動するいずれか一方の面にポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂をコーティングして、このコーティング面と相手のアルミ合金の摺動面とを対向させて、耐磨耗性、耐焼付性を向上させる対策が従来から取られている。
【0079】
圧縮機運転中のフッ素系樹脂の剥離、離脱を防ぐためには、アルミ合金とフッ素系樹脂とを強固に密着、接着させる必要があり、密着性、接着性を向上するために、先に従来の技術の項で説明した図15のような下地処理を含む工程が採用されてきた。
【0080】
この実施の形態では、両サイドブロック7A、7Bとロータ9、ベーン10との摺動負荷の大きい摺動面のコーティング層を特に強固に母材に密着、接着するために、次のようにコーティングした。すなわち、両サイドブロック7A、7Bのシリンダ室対向面7x、7xに、図1、図2、図9あるいは図10に示したコーティング方法を用いてポリテトラフルオロエチレンをコーティングした。シリンダ室対向面7xには、図13および図14に示すように、ベーン背圧印加用の凹所15や孔等があり、これらの凹所や孔等の表面にもショットブラスト等のコーティング下地処理が及ぶことがあるが、ショット材残存のおそれがないから、凹所や孔等も洗浄工程で完全に清浄化される。
【0081】
図1または図9の重炭酸ナトリウムショット材、ドライアイスショット材を用いる工程、図2または図10のレーザ照射を用いる工程、のいずれの場合にも、残留ショット材が皆無で、しかも、アルミ合金に強固に密着、接着したポリテトラフルオロエチレンコーティング層が得られ、実用に供することができた。
【0082】
図9または図10のプラズマ照射を用いる工程が入ると、両サイドブロック7A、7Bのシリンダ室対向面7x、7xは、プラズマ照射によって原子レベルで微細に粗面化、清浄化され、表面が活性化して、ポリテトラフルオロエチレンを非常に強固に密着、接着することができた。
【0083】
この発明のフッ素系樹脂コーティングに用いることのできるフッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレンの他、低分子量四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂等がある。
【0084】
上述の実施の形態では、フッ素系樹脂塗装工程前に化成処理工程またはプラズマ照射工程を入れたが、摺動負荷が比較的小さい摺動部分や、第2の洗浄工程の母材の表面が清浄化された直後で表面に汚れを生じる前にフッ素系樹脂塗装を行うことができる場合は、化成処理工程やプラズマ照射工程を省くこともできる。化成処理工程は、特別の設備で行わなければならないものであるから、この化成処理工程省略は、ひとつのコーティング処理ラインで一貫してコーティングを完了することにつながるものである。
【0085】
更に、粗面化した母材の表面をプラズマ照射等によって微細に粗面化、清浄化する微細粗面化・清浄化処理工程を付加すれば、母材とフッ素系樹脂との密着性、接着性が一層向上し、強固で、耐久性に優れ、信頼性の高いフッ素系樹脂コーティングを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】フッ素系樹脂コーティング方法(本発明を説明する上での一参考例)の処理フロを示す説明図。
【図2】フッ素系樹脂コーティング方法(本発明を説明する上での他の参考例)の処理フローを示す説明図。
【図3】図2に示す処理フロー中のレーザ照射工程によるレーザ照射面を説明する図で、(a)は、レーザ照射面の拡大平面図、(b)は、レーザ照射面の平面図、(c)は、(b)の側断面図。
【図4】他のレーザ照射面の拡大平面図。
【図5】母材とフッ素系樹脂との密着面の耐久性試験に使用したテスト装置の概要を説明する説明図。
【図6】テストに使用したフッ素系樹脂コーティング付きアルミ平面部材のテスト結果を、横軸にレーザ照射ドット径、縦軸にドット間隔を取ったグラフ上にプロットした説明図。
【図7】テストに使用したフッ素系樹脂コーティング付きアルミ平面部材のテスト結果を、横軸にドット面積、縦軸に単位照射対象面積を取ってプロットした説明図。
【図8】レーザ出力とドット径との関係を示す説明図。
【図9】この発明に係るフッ素系樹脂コーティング方法の第1の実施形態の処理フローを示す説明図。
【図10】この発明に係るフッ素系樹脂コーティング方法の第2の実施形態の処理フローを示す説明図。
【図11】この発明になる気体圧縮機の一実施形態を示す縦断面図。
【図12】図11のXII−XII断面図。
【図13】図11のXIII−XIII断面図。
【図14】図11のXIV−XIV断面図。
【図15】従来のフッ素系樹脂コーティング方法の処理フローを示す説明図。
【符号の説明】
【0087】
1 吸気室
2 ヘッド部
3 圧縮機本体部
4 吐出室
5 リア部
6 シリンダブロック
6a 内壁面
6aa 短径部内壁面
7、7A、7B サイドブロック
7j 軸受部
7x シリンダ室対向面
8 シリンダ室
9 ロータ
9a 外周面
9b ベーン溝
9c 端面
10 ベーン
11 圧縮室
12 伝動プーリ
13 電磁クラッチ
13a 従動部
14 ロータ軸
15 凹所
d ドット径(照射ドットRの直径)
p ドット間隔(ピッチ)
R 照射ドット(レーザ照射による凹み)
S 照射ドット面積
U 単位照射対象面積
【出願人】 【識別番号】504217742
【氏名又は名称】カルソニックコンプレッサー株式会社
【出願日】 平成19年7月27日(2007.7.27)
【代理人】 【識別番号】100069431
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 成則

【識別番号】100130410
【弁理士】
【氏名又は名称】茅原 裕二


【公開番号】 特開2008−12534(P2008−12534A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2007−196257(P2007−196257)