トップ :: B 処理操作 運輸 :: B05 霧化または噴霧一般;液体または他の流動性材料の表面への適用一般

【発明の名称】 塗装方法および塗装装置
【発明者】 【氏名】村山 哲

【氏名】清水 正史

【要約】 【課題】二次タレの発生を抑制する塗装方法および塗装装置を提供する。

【構成】自動車ボディのような被塗装物3表面に電着塗装により塗膜を形成した後、塗膜を焼付乾燥する前に、被塗装物3の少なくとも一部を槽1内で液体2に浸漬した状態にて、被塗装物3を振動発生装置6により振動させる。被塗装物3の液体への浸漬は、水洗槽における水洗水への浸漬であることが好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物表面に電着塗装により塗膜を形成した後、塗膜を焼付乾燥する前に、被塗装物の少なくとも一部を槽内で液体に浸漬した状態にて、振動させることを含む、塗装方法。
【請求項2】
槽が洗浄槽であり、液体が洗浄液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塗膜が形成された被塗装物を浸漬する液体を入れる少なくとも1つの槽、および
被塗装物を振動させる装置
を含む、塗装装置。
【請求項4】
槽が洗浄槽である、請求項3に記載の装置。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料の二次タレを低減または防止し得る電着塗装方法および電着塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディ等の下塗り塗装の方法として、電着塗装が広く採用されている。電着塗装は、被塗装物を塗料液の中に浸漬し、被塗装物を電極として直流電流を通じさせることによって、被塗装物の表面に塗料固形分を付着させる塗装方法である。
【0003】
電着塗装の際、被塗装物には塗料固形分だけでなく、塗料液そのものも付着し、塗料液が付着した被塗装物をそのまま乾燥させると、正常な塗面が得られない。そこで、電気分解後、1または複数回の水洗工程を設け、単に付着した塗料液を落とす必要がある。水洗工程は、一般に塗料の限外濾過液または水をスプレーで吹き付けることにより実施する。
【0004】
しかし、スプレーによる水洗を行なっても、「板合わせ部」と呼ばれる部分からは塗料液を落とすことが難しく、そのためにタレ状不良が板合わせ部において生じやすいという不都合がある。図5に板合わせ部及びそこに生じたタレ状不良を平面図にて模式的に示す。板合わせ部53は、部品51に他の部品52が重ねられているときの重なり部分であり、この部分において、部品51と部品52との間には数百ミクロン以下の隙間が存在する。この隙間にはスプレーされた水があたりにくく、この隙間に入った塗装液は、水洗工程においても除去されにくい。除去されなかった濃厚な塗装液が、後の焼付乾燥工程において、沸騰して隙間から垂れることにより、塗装面にタレ状不良54を発生させる。このタレ状不良54は、一般の塗料タレと区別するために、「二次タレ」と呼ばれる。
【0005】
二次タレが発生すると、塗面に凸が生じることとなるので、これをヤスリ等で研いで表面が平らになるように修正する必要がある。この修正工程は多くの人手を要し、また、修正した部分の塗装性能に問題が生じることもある。さらに、部材によっては修正そのものができず、製品の廃棄という結果を招くこともある。さらにまた、電着塗装により下塗りをした後、中塗りおよび上塗りを実施する場合には、二次タレの研ぎ残しが凸不良になることがあり、あるいは二次タレを研ぎ過ぎると凹の段差が生じることがある。その他に、研ぎで発生する粉塵が中塗りおよび上塗りのブツ不良を招くという問題もある。
【0006】
この二次タレを根本的に防止する有効な手法は、板合わせ部53の隙間を完全に塞ぐことである。しかし、複雑な形状の被塗装物(例えば、自動車ボディ)に存在する板合わせ部を全て塞ぐことは実質的に不可能である。
【0007】
そこで、洗浄および焼付乾燥工程等において、二次タレを抑制するための方策が、提案され、実施されている。例えば、スプレーだけでなく、水洗槽内に入れた水に被塗装物を浸漬する、いわゆるディップ水洗を行い、板合わせ部に水洗水を浸入させて洗浄することも行なわれている。しかし、水洗水に被塗装物を浸漬しても、狭い隙間に入り込んだ塗装液は十分に水で置き換えられず、ディップ水洗によっても、二次タレの発生を有効に抑制するには至っていない。
【0008】
二次タレの発生を抑制する別の方法として、板合わせ部の塗装液を加温することにより突沸させることなく緩やかに流し出す方法が種々提案されている。加温は、焼付乾燥を行なう装置において、所要の焼付温度よりも比較的低い温度で被塗装物を温めることにより、または焼付乾燥工程の前に、被塗装物を直接的または間接的に加温することにより実施される。被塗装物の間接的な加温は、例えば、被塗装物の周囲の雰囲気または水洗水を加温することにより実施される。
【0009】
さらに別の方法も提案されている。特許文献1は、電着塗装が終わった被塗物をオーバーヘッドコンベアのハンガーからフロアコンベアの台車に載せ換える際又は載せ換えた後に、被塗物の載せ換えを行なうトラバーサまたは被塗物を載せ換える台車を殴打して、そのトラバーサまたは台車に載せられた被塗物を震動させることを提案している。
【0010】
特許文献2は、電着塗装が終わった被塗物を乾燥炉に搬送するフロアコンベアの台車を、段付きレールで成るコンベアベルト上をノッキングさせながら走行させて、その台車に載せられた被塗物に震動を与え、それにより塗装液を小さな隙間から飛び出させることを提案している。
【0011】
特許文献3は、下塗り皮膜を形成した被塗物を洗浄液に浸漬し、浸漬中に被塗物の狭溢部に超音波を印加することにより、狭溢部に溜まった下塗り塗料を洗浄液内に流出させる方法を開示している。
【特許文献1】特開平5−86494号公報
【特許文献2】特開平5−86493号公報
【特許文献3】特開2005−13949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
二次タレの発生は電着塗装において重大かつ解決困難な問題であり、上記において提案された方法に代わる又はそれらとともに実施可能な別の方法を見出すことは、電着塗装の分野において常に求められている。本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、二次タレを有効に抑制する、新規な塗装方法および塗装装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、被塗装物表面に電着塗装により塗膜を形成した後、塗膜を焼付乾燥する前に、被塗装物を槽内で液体に浸漬した状態にて、振動させることを含む、塗装方法を提供する。この塗装方法は、塗膜が形成された被塗装物を、槽内で液体に浸漬しながら、振動させることを特徴とする。この被塗装物の振動により、前記板合わせ部に入り込んだ塗料液の一部または全部が、液体と置換されて、液体中に押し出されるので、二次タレを無くす又はその度合いを小さくすることができる。
【0014】
ここで、「槽」は、液体を保持するための容器またはタンクである。また、「液体」という用語は、水および各種有機溶媒のほか、溶液および懸濁液等、広く流動性を有する物質を包含する意味で使用される。被塗装物の振動は、被塗装物を1つの中心点付近を往復するように運動させるように実施され、単振動のほか、楕円軌道または他の曲線を描くように運動させることを含む。
【0015】
本発明において、槽は、電着塗装により形成した塗膜を洗浄するための洗浄槽であり、液体は洗浄液である。槽が洗浄槽である場合には、板合わせ部に入り込んだ塗料液のみならず、塗膜に付着している塗料液も洗い流すことができる。電着塗装で使用する洗浄槽は、一般的には、水または水を含む液体を洗浄液とする、水洗槽である。
【0016】
本発明はまた、この塗装方法を実施するための塗装装置として、
塗膜が形成された被塗装物を浸漬する液体を入れる少なくとも1つの槽、および
被塗装物を振動させる手段
を含む、塗装装置を提供する。槽は、前述のように、洗浄槽である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗装方法および塗装装置は、槽に入った液体に被塗装物の少なくとも一部を浸漬し、且つ被塗装物を振動させることを特徴とし、この特徴により、電着塗装の際に狭い部分に入り込んだ塗料液を被塗装物から離れさせる。したがって、本発明の方法または装置によって、焼付乾燥後の二次タレの発生が抑制された塗膜を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1に、本発明の塗装装置に含まれる、槽と、被塗装物を振動させる装置(以下、単に「振動発生装置」とも呼ぶ)を略断面図にて、模式的に示す。
【0019】
図1において、液が入った槽は、水洗水2が満たされた水洗槽1である。被塗装物3はハンガー4に吊り掛けられて、水洗水2に浸漬される。ハンガー4に吊り掛けられた被塗装物3はコンベアベルト5により搬送される。図示した形態において、振動発生装置6は、ハンガー4に接触して、ハンガー4および被塗装物3を、それらの進行方向と直交し且つ水面と平行な方向(図1および図2における左右方向)で小刻みに往復運動させる、即ち、振動させるようになっている。
【0020】
振動発生装置6により被塗装物3が振動させられると、被塗装物3の板合わせ部内の塗料液11が強制的に押し出されて、水洗水2へ押し出されて溶出するとともに、押し出された塗料液11が固形分濃度の低い水洗水2で置き換えられることとなる。その結果、二次タレ不良の原因となる板合わせ部内の塗料液11の固形分濃度が低下して、二次タレの発生が抑制される。
【0021】
振動発生装置6は、往復距離(被塗装物の任意の一箇所が最も前進した位置と最も後退した位置との間の距離;振幅に相当)、単位時間あたりの往復運動の回数(振動数に相当)、および時間を、被塗装物に応じて、適宜選択して、被塗装物を振動させる。一般に、往復距離が短すぎると、本発明の効果が十分に得られず、二次タレの発生が十分に抑制されないことがある。往復距離を大きくしすぎると、被塗装物の破損を招くことがあり、また、水洗槽1に被塗装物3が接触する可能性がある。振動数が小さいと、本発明の効果が十分に得られず、二次タレの発生が十分に抑制されないことがある。また、振動させる時間が短いと、塗料を十分に押し出すことができない。一例として、振動発生装置6は、往復距離を、例えば約1mm〜約3mmとし、振動数を、例えば約8000〜12000回/分として、約1分間以上にわたって被塗装物を振動させる。
【0022】
振動発生装置6は、所望の振動を発生させ得る限りにおいて任意の装置を使用して駆動してよい。振動発生装置6は、好ましくは、モータに軸を偏心させた錘を付け、遠心力によって振動を得る振動モータ装置で駆動される。
【0023】
図1において、振動発生装置6は、ハンガー4に接触して、ハンガー4を振動させることにより、それが吊り下げている被塗装物3に振動を伝えて、被塗装物3を振動させている。別の形態において振動発生装置6は被塗装物3に直接接触していてよい。振動発生装置6の数および設置位置は、被塗装物3を所望のように振動させる限りにおいて特に限定されず、1つの水洗槽1について、複数個設けられてよい。また、振動装置6は、被塗装物3の進行方向および水面と直交する方向(図1の上下方向)で、被塗装物3を振動させるものであってよい。さらに別の形態において、振動発生装置6は、水中に設けられてよい。
【0024】
図2に、被塗装物3が等速コンベア搬送方式により、連続的に水洗槽1内を移動させられる場合の好ましい形態を示す。図2において、図1で使用した符号と同じ符号は、同じ要素または部材を示す。図2に示す形態においては、振動発生装置6と接触するガイドバー7が2本、水洗槽1内に被塗装物3の進行方向と平行に延びるように設けられており、振動発生装置6は1つの水洗槽1に対して2つ設けられている。
【0025】
ガイドバー7は、ハンガー4および振動発生装置6と接触して、振動発生装置6により振動させられ、振動をハンガー4に伝える役割をする。ハンガー4に伝えられた振動は被塗装物3に伝えられる。ハンガー4は、水洗槽1内を進行している間、ガイドバー7と接触しているから、ガイドバー7が振動発生装置6により振動させられている間、ハンガー4もまた振動させられることとなる。よって、この形態は、等速コンベア搬送方式で搬送される被塗装物3を1つの水洗槽1内でより長い時間にわたって振動させることを可能にする。
【0026】
図3に、被塗装物3がタクトキャリア方式で搬送される場合の振動発生装置6の好ましい作動形態を示す。タクトキャリア方式で搬送される被塗装物3は、水洗槽1内で一定位置に所定時間の間維持されるので、振動発生装置6は、ハンガー4に対して脱着可能な機構を備えることが好ましい。具体的には、振動発生装置6は、図3(a)に示すように、被塗装物3(およびこれを吊り下げるハンガー4)が水洗槽1内にある間は、ハンガー4と接触し、図3(b)に示すように、被塗装物3が水洗槽1から次工程へ送られるときには、ハンガー4から離れるように構成されることが好ましい。
【0027】
図示した形態はそれぞれ、いずれも本発明の一例を示すものであり、これらには種々の変更を加えてよい。例えば、振動発生装置6は、2以上の水洗槽において設けられていてよい。また、被塗装物3は図1に示すように全体が水洗水2に浸漬されてよく、あるいは板合わせ部を含む一部分のみが水洗水2に浸漬されてよい。
【0028】
さらに別の形態において、振動発生装置は水洗槽を振動させるものであってよい。その場合、振動発生装置は水洗槽と接触して、水洗槽を、被塗装物と接触しないように振動させる。
【0029】
いずれの形態で本発明の装置または方法を実施する場合でも、公知の二次タレ防止方法を組み合わせて実施してよい。その場合、二次タレをより抑制することが可能となる。
【実施例】
【0030】
図4の(a)および(b)に示すように、金属板41および金属板42を留め具43でつなぎ合わせて、板合わせ部が形成された試料40を作成した。試料40は、幅70mm、長さ250mmであった。また、試料40において、2つの板の間には約0.2mmのクリアランスが形成されていた。この試料40に電着塗装によりエポキシ樹脂系の電着塗料から成る塗膜を形成した後、純水で満たした水洗槽に縦向きで浸漬した。浸漬の間、試料を、振幅約2mm、振動数約10000回/分で、モータ振動機で駆動される振動発生装置を用いて、1分間、試料の厚さ方向に対して垂直な方向で振動させた。その後、水洗槽から試料を取り出し、5分間、水切りした後、焼付乾燥を行なった。比較のために、電着塗装により塗膜を形成した後、振動させることなく1分間純水に浸漬し、焼付乾燥した試料を用意した。焼付け乾燥後の2つの試料を撮影した写真を、図6a(本発明の方法により塗装した試料)および図6b(従来の方法により塗装した試料)に示す。
【0031】
図6aおよび図6bに示す写真からも明らかなように、純水に浸漬している間、振動させた試料においては、二次タレが少なく、振動させなかった試料においては二次タレが顕著に発生した。この結果より、電着塗装により塗膜を形成した被塗装物を、液体に浸漬した状態で振動させることが、二次タレの発生防止に有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、自動車ボディ等の下塗り塗装等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の塗装方法の一形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の塗装方法を等速コンベア搬送方式にて実施する形態を模式的に示す上面図である。
【図3】(a)および(b)は、本発明の塗装方法をタクトキャリア方式にて実施する形態を模式的に示す上面図である。
【図4】(a)および(b)は、それぞれ実施例で使用した試料を示す斜視図および側面図である。
【図5】二次タレの生じた被塗装物を模式的に示す平面図である。
【図6a】本発明の塗装方法により塗装した試料を示す写真である。
【図6b】従来の塗装方法により塗装した試料を示す写真である。
【符号の説明】
【0034】
1 水洗槽
2 水洗水
3 被塗装物
4 ハンガー
5 コンベアベルト
6 振動発生装置
7 ガイドベルト
11 塗料液
41 金属板
42 金属板
43 留め具
51 部品
52 部品
53 板合わせ部
54 タレ状不良(二次タレ)
【出願人】 【識別番号】000230054
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
【出願日】 平成18年7月3日(2006.7.3)
【代理人】 【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦

【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵


【公開番号】 特開2008−12374(P2008−12374A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2006−183081(P2006−183081)