トップ :: B 処理操作 運輸 :: B04 物理的または化学的工程を行なうための遠心装置または機械

【発明の名称】 液体を内包する回転機械の設計方法
【発明者】 【氏名】吉住 文太

【要約】 【課題】遠心分離機のように液体を内包する回転体の自励振動の発生現象の解析を、短時間で高精度に行うことができる液体を内包する回転機械の設計方法を提案する。

【解決手段】流体の運動を浅水波近似する過程において、半径方向の移流項の効果を含めて計算すると共に、浅水波についての方程式の次元を低減する過程において、エネルギ的に最も信頼性の高い近似解が得られるガレルキン法を用いる。また、直接定常解が得られる調和バランス法による定常解の計算法を導入して、長時間の時刻歴解析を行うことを不要とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底の円筒体からなり、内部に液体を収容した状態で主軸を中心として回転する回転機械の設計方法において、
流体の運動を浅水波に近似する過程において、半径方向の移流項の効果を含めて計算することにより行うことを特徴とする液体を内包する回転機械の設計方法。
【請求項2】
浅水波についての方程式の次元を低減する過程において、ガレルキン法を用いることを特徴とする請求項1に記載の液体を内包する回転機械の設計方法。
【請求項3】
前記流体の運動を解析するに際して、調和バランス法により定常解の計算を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体を内包する回転機械の設計方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は、遠心分離機や冷却水等を収容した中空ロータ等のように液体を内包して回転する場合に、自励振動を生じる回転機械の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭の洗濯機のタンブラーから工業装置の遠心分離機等、液体を内包して種々の処理を行う中空回転機械は、様々な分野で利用されている。斯かる回転機械では、部分的に液体が内包された状態で軸の危険速度を超えた回転速度となる領域では、液体の波動による自励振動が発生することが知られている。このため、この種の回転機械を設計する際には、この現象の解析に基づいて、内包する液体の量等との関係から形状や寸法、回転速度等を決定する必要がある。
【0003】
この現象の検討のために多くの研究がなされており、当初は、微小じょう乱を仮定した線形問題として自由表面波の固有モードや回転体との連成系の不安定問題が検討された(非特許文献1〜4参照)。その後、定常応答を予測できるように非線形性を考慮した検討が行われてきた。例えば、浅水長波近似により回転場における後進波動のKdV方程式を導き、回転体との連成問題で自励振動の定常応答の予測を試み、実験と比較し(非特許文献5参照)、あるいは、自励振動中に発生する激しい波を跳水現象として捉え、波高や流体力について理論と実験を比較している (非特許文献6参照)。また、前記浅水長波近似の結果に跳水近似を適用して自励振動の定常応答を予測し、実験と比較している(非特許文献7参照)。また、浅水長波近似をもとにした時刻歴解析により自由表面波の非線形な挙動を検討している(非特許文献8、9参照)。このように、非線形性を導入して自励振動の定常応答を予測する試みがいくつか行われてきた。
【0004】
上述した例えば、非特許文献5に記載された解析方法によれば、半径に対して比較的液深が小さい場合を対象として浅水波近似を用い、フーリエ級数展開で液体の計算自由度を大幅に低減した上で、回転体に発生する自励振動を時刻の経過と共に逐次シミュレーションしていく手法(時刻歴解析)による。図31は逐次シミュレーションした結果の一例を示している。
【0005】
【非特許文献1】Miles, J. W., and Troesch, B. A., “Surface Oscillations of a Rotating Liquid”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 28, (1961), pp. 491-496
【非特許文献2】Wolf, J. A., Whirl Dynamics of a Rotor Partially Filled with Liquid, Transaction of the ASME, Journal of Applied Mechanics, Vol. 35, (1968), pp. 676-682
【非特許文献3】斉藤忍、染谷常雄:液体を内蔵した中空回転軸の振動に関する研究(第1報、差分法による液体力の数値解)、日本機械学会論文集第44巻388号、1978、pp. 4115-4122
【非特許文献4】金子成彦、葉山眞治:回転円筒容器内に部分的に含まれた液体の自由表面波に関する研究(第1報、共振モードの可視化と非粘性理論による解析)、日本機械学会論文集C編、第49巻439号、1983、pp. 370-380
【非特許文献5】Berman, A. S., Lundgren, T. S., and Cheng A., “Asynchronous Whirl in a Rotating Cylinder Partially Filled with Liquid”, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 150, (1985), pp. 311-327
【非特許文献6】陣内靖介、荒木嘉昭、井上順吉、中島国継、上出修博:液体を部分的に含む中空回転軸の自励振動(第1報、軸振動による液体の波動)、日本機械学会論文集C編、第51巻467号、1985、pp. 1463-1471
【非特許文献7】Colding-Jorgensen, J., Rotor Whirl Measurement on a Long Rotating Cylinder Partially Filled with Liquid, Transaction of the ASME, Journal of Vibration and Acoustics, Vol. 115, (1993), pp. 141-144
【非特許文献8】笠原雅之、金子成彦、大下和弘、石井博:振れ回り運動をする回転円環内流体の挙動実験、日本機械学会Dynamics and Design Conference 2000 CD-ROM論文集、2000、No. 339
【非特許文献9】笠原雅之、金子成彦、石井博:流体バランサを有するロータの振動解析(第1報、振れ回り運動をする回転円環内流体の浅水スロッシング解析)、日本機械学会論文集C編、第66巻646号、2000、pp. 1762-1768
【非特許文献10】坂田勝、木村康治、内海雅彦:円筒タンク内の非線形液面揺動の非定常不規則応答解析、日本機械学会論文集C編、第49巻442号、1983、pp. 963-970
【非特許文献11】池田隆、堀正洋、中川紀壽:長方形水槽内のスロッシングによる構造物の非線形振動、日本機械学会論文集、第60巻573号、1994、pp. 1517-1525
【非特許文献12】Chester, W., Resonant Oscillations of Water Waves, Proceedings of the Royal Society of London, A306, (1968), pp. 5-22
【非特許文献13】深澤雅人、岩瀬浩之、後藤智明、飯田邦彦:ソリトン分裂波の砕波変形モデル、東海大学工学部紀要、Vol. 41, No. 2, 2001、pp. 93-98
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した解析方法では、振動が発生する範囲や最大応答が生じる回転数など、実験結果をある程度シミュレーションできているが、設計上重要な最大応答の予測についてはかなり過大評価となっている。また、時刻歴解析によるため、定常状態に達するまでのシミュレーションに要する時間を長くしなければならない。また、ある回転数域における応答をまとめて知りたい場合は、回転数をゆっくりとスウィープさせる応答解析を長時間行う必要がある。また、それにより得られた解も、あくまで近似的に定常状態とみなし得る解であり、定常状態の正解が得られるものではない。複数の回転数における定常状態の正解を得るには、回転数を固定して定常状態になるまでシミュレーションを行う作業を繰り返さなければならず、多大な解析時間と労力とを要するおそれがある。
【0007】
すなわち、上述した各文献に開示されている理論で推定される応答量にはまだ実験値との差が大きく、液体を内包する中空回転体の設計に際しては、理論値のみに基づいて設計できず、試作品を製作して試験を行う必要がある。試作品を製作することは製品のコストを上昇させると共に、液体を内包する中空回転体の製作に時間を要することになる。また、遠心分離機のように運転条件が異なる回転機械の場合ように、個別に設計されて製作される受注生産品では、試作品のコストが製品に付加されるため、高価なものとなってしまう。
【0008】
そこで、この発明は、試作品を製作することを要さず、自励振動が発生する波動解析を行うことにより中空回転体を製作することができるようにして、液体を内包する回転機械を、受注品であっても短時間で、安価に製作することができる液体を内包する回転機械の設計方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係る液体を内包する回転機械の設計方法は、有底の円筒体からなり、内部に液体を収容した状態で主軸を中心として回転する回転機械の設計方法において、流体の運動を浅水波に近似する過程において、半径方向の移流項の効果を含めて計算することにより行うことを特徴としている。
【0010】
自励振動の解析に用いられた従来の浅水長波近似を元に、移流項を補足することにより高精度の解析を行えるようにしたものである。
【0011】
また、請求項2の発明に係る液体を内包する回転機械の設計方法は、浅水波についての方程式の次元を低減する過程において、ガレルキン法を用いることを特徴としている。
【0012】
すなわち、通常のスロッシング問題と同様にガレルキン法により線形モードの連成問題として波動の非線形性を扱うことにより解析するようにしたものである。
【0013】
また、請求項3の発明に係る液体を内包する回転機械の設計方法は、前記流体の運動を解析するに際して、調和バランス法により定常解の計算を行うことを特徴としている。
【0014】
調和バランス法を採用して定常解の計算を行うことにより、定常解を直接得られるようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る液体を内包する回転機械の設計方法によれば、設計上重要となる自励振動の最大応答の計算精度を向上させることができる。
【0016】
また、請求項2の発明に係る液体を内包する回転機械の設計方法によれば、エネルギー的に最も信頼性の高い近似解が得られるため、より計算精度を向上させることができる。
【0017】
また、請求項3の発明に係る液体を内包する回転機械の設計方法によれば、回転数と定常応答との関係を求めて最大応答を推定するまでの計算時間を短縮することができる。
【0018】
すなわち、この発明に係る液体を内包する回転機械の設計方法によれば、定常状態となって自励振動を生じる回転数を短時間で高精度に解析することができる。このため、試作品等を製作することなく回転機械の製品化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明に係る液体を内包する回転機械の設計方法を具体的に説明する。
【0020】
この液体を内包する回転機械の設計方法を説明するのに先立って、液体を内包する回転機械と等価の運動系を図1に示してあり、図2に示すように、回転角速度Ωで回転する剛体の円筒容器が平行モードで触れ回り運動をしている状態での、容器内の液体の二次元流れを考えるものである。なお、同図に付した記号及び解析に用いる記号の説明を図3に一覧で示してある。
【0021】
〔基礎方程式と浅水長波近似〕
図1に示す運動系において、円筒容器1の内部の液体の運動方程式と連続式は、容器1に固定された座標系で表すとそれぞれ近似的に式(1)〜式(3)(図4参照)のように表される。式(1)は流体の周方向の運動方程式であり、式(2)は同じく半径方向の運動方程式、式(3)は流体の連続式である。
【0022】
これらの運動方程式と連続式は、液深が半径と比べて小さい場合を想定し、厳密な方程式に対し、半径方向および周方向の運動方程式で半径方向位置の関わる項の半径方向位置R−yを容器壁位置Rに近似し、また、半径方向の運動方程式における粘性項を無視している。式(3)の連続式では、曲率の影響を無視している。次に、自由表面の運動学的境界条件と力学的境界条件はそれぞれ式(4)及び式(5)(図5参照)のように表される。また、壁面の境界条件は式(6)(図5参照)により表される。
【0023】
一般に浅水長波近似では、半径方向の流速vは、浅水長波の仮定により、半径y方向に壁面(v=0)から自由表面にかけて線形的に変化するものとみなせることから、式(7)(図5参照)に示すように近似する。なお、前記式(6)はこれにより満足される。
【0024】
一方、弾性支持されている円筒容器の運動方程式は、式(8)及び式(9)(図6参照)で表される。なお、これらの式中において、
1:θ=0°方向の流体力
2:θ=90°方向の流体力
なお、θは容器に固定された周方向座標(θ=x/R)である。
【0025】
〔理論展開の手順〕
次に、理論展開を行う。この理論展開は、方程式の自由度を大幅に減らした後に、定常解を求める方程式を作成する。以下に、この手順を説明する。
【0026】
〔1.基礎方程式の一次元化〕
浅水長波近似を適用し、流体側の運動方程式を以下の手続を行って周方向に一次元化する。
1-i 式(7)を式(2)に代入して、その式(2)を、式(5)を踏まえてyについて0からhまで積分してpを求める。
1-ii 前記pをxで微分したものを式(3)、式(4)を踏まえて変形し、それを式(1)に代入してpを消去する。
1-iiipを消去した式(1)の両辺をyについて0からhまで積分してhで除し、周方向に一次元化された運動方程式を得る。
式(7)式を式(2)に代入すると、式(10)(図7参照)を得る。これを式(5)を考慮してyについてyからhまで積分して式(4)を代入すると、式(11)(図7参照)を得る。ただし、式(11)中のAは、図23として記載した表1に示す。これをxで微分して式(12)(図7参照)を得る。また、式(3)、式(7)より、式(13)(図7参照)となり、これと式(4)を、式(12)の∂A/∂x より後、(RΩ2)(∂h/∂x)より前の各項に代入して整理すると、式(14)(図7参照)を得る。
次に、式(1)の左辺のν に式(7)を代入し右辺に式(14)を代入したものを、両辺y について0 からh まで積分してh で割り、さらに式(4)を代入すると、周方向に一次元化された式(15)(図8参照)の運動方程式を得る。なお、式(15)中のBは図23の表1に示してある。ここで、式(15)の右辺の最後から2項目の壁面摩擦力に非特許文献12の定式化を用い、右辺最後の項であるレイノルズ反応については渦動粘性モデルを用いて、それぞれ式(16)、式(17)(図8参照)で表す。
ただし、渦動粘性係数νTについては、波高と波速(R|σ|)に比例する非特許文献13のモデルを用い、波高は全周波高の実効値で代表させ、式(18)(図9参照)のように定式化する。
一方、前記連続式(3)は、この変形である式(13)に自由表面の境界条件式(4)を代入して、式(19)(図9参照)のようになる。
【0027】
〔2.方程式の無次元化と流体力の計算〕
前記連続式(19)と一次元化された運動方程式(15)に式(20)(図10参照)の無次元化処理を施す。長さはh0、時間は1/Ω、質量はρを用いて無次元化する。(h0’=1、Ω’=1)
ただし、以下では無次元量を表す「’」は省略する。
また、式(8)、式(9)における円筒容器にかかる流体力F1、Fは、式(21)〜式(26)(図11参照)のように計算される。
【0028】
〔3.〕
周方向流速uと波高ηの運動は無限の自由度をもつが、これらを式(27)、式(28)(図12参照)のように線形モードの重ね合わせ表現し、自由度を大幅に低減する。
【0029】
式(27)、式(28)を連続式(19)と一次元化された運動方程式(15)をそれぞれ無次元化したものに代入し、ガレルキン法を適用する。ここで、円筒回転体の質量Mが流体の質量よりもかなり大きい場合を想定して微小量ε=πρR2/Mを導入し、Am、Bm、Cm、Dm、X、Yのオーダー仮定を以下のように置き、方程式中でO(ε2)まで保存するように展開する。
Am、Bm、Cm、Dm 〜O(ε)
X、Y〜O(ε2)
ガレルキン法を適用したのち、連続式側から、O(ε 2)まで保存しつつAn、Bnを消去する。また、式(27)、式(28)を、式(8)、式(9)の円筒容器側の運動方程式にかかる流体力の計算式にも代入する。すると、最終的に、式(29)〜式(35)(図13、図14参照)のように大幅に自由度を減らした連成系の運動方程式が得られる。なお、式(29)、式(30)(図13参照)は流体側の方程式であり、式(31)〜式(35)(図14参照)は容器側の方程式である。これらのうち、式(29)〜式(32)を用いて、過渡応答の時刻歴解析を行うことができる。
ここで、Nは計算で考慮する最高のモード次数である。
【0030】
容器の運動が1軸方向のときは、容器内の流体にとっては、1軸方向の加振振幅の半分の振幅で円運動の加振を受けていることに相当する。κは、それを踏まえた、容器のふれ回りの自由度に依存する係数であり、容器が軸に直角の面内で2軸方向にふれ回り運動(円運動)するときはκ=1、ふれ回りが1軸方向に限定されているときはκ=1/2である。
また、式(28)〜式(32)を用いて時刻歴解析を行う際、σを求めるのにωが必要となるが、各時間ステップにおいて、その符号は{Y(上ドット)}/Xにより、大きさは式(36)(図15参照)により求められる。なお、上記Y(上ドット)その他、本明細書中で文言により記述した表記が意味する記号については、図31の一覧表に示す。
【0031】
〔4.〕
定常解を得るために、液体波動の各モードの変位Cn、Dn、円筒容器の変位X、Yの解を式(37)〜式(40)(図16参照)のように仮定して、調和バランス法を適用する。
ここで、Cn、Dn、X、Yの振幅cn、dn、{X(上バー)}、{Y(上バー)}はCn、Dn、X、Yと同じオーダーである。また、cn、dn、{X(上バー)}、{Y(上バー)}は緩やかに変化すると仮定し、時間に関して1階微分するたびにO(ε)だけ小さくなるとする。これらを式(29)〜式(32)に代入すると、結局、定常解を求める式(41)〜式(44)が得られる。なお、式(41)、式(42)(図17参照)は流体側の方程式であり、式(43)、式(44)(図18参照)は容器側の方程式である。ただし、式(40)、式(41)では、式(45)、式(46)(図19参照)の通りである。
【0032】
定常応答である周期解は、式(41)〜式(44)の各式の時間微分項を0とおいてcn、dn、{X(上バー)}、{Y(上バー)}、ωを解けば求められる。ただし、この系は自励系であり位相には任意性がある。そこで、実際に解く場合には、{Y(上バー)}=0と位相を固定して未知変数をcn、dn、{X(上バー)}、ωとして解く。周期解を求める場合、安定な解(現実に発生する解)、と不安定な解(現実には発生しない解)、が区別なく求められる。そのため、その解が実際に実現するかという安定性を求める必要がある。周期解からの微小変化を用いる方法で安定判別を行う。周期解とその変分を式(47)(図20参照)のように置く。
これら式(47)を式(41)〜式(44)に代入して、γn、δn、δ{X(上バー)}、δ{Y(上バー)}の一次の項までを考慮し、またcn=cn0、dn=dn0、{X(上バー)}={X(上バー)}0、{Y(上バー)}={Y(上バー)}0が周期解であることを考慮すれば、結局式(48)〜式(51)(図21参照)を得る。これらの式の複素固有値問題を解き、固有値の実部の正負から安定判別が行える。ただし、この問題は自励系であるので、固有値のうち一つは0となるため、その一つは除外して判別を行う。
【0033】
〔計算手順〕
以下の手順を実行して計算を行う。
(1) 計算条件として、円筒容器の半径Rや液深h0、単位奥行き長さあたりの質量M、固有振動数ω0、構造的な減衰定数ζ0、液体密度ρ、動粘性係数ν、応答計算を行う運転回転数Ωの範囲を読み込む。
(2) 応答を求める運転回転数Ωを設定し、{Y(上バー)}=0と固定したうえで、cn、dn、{X(上バー)}、ωの解の探索初期値を与えて、式(41)〜式(44)の各式の時間微分項を0とおいた非線形方程式を解く。解の探索には、ニュートン・ラプソン法が適当である。
(3) 得られた定常解を式(48)〜(51)に代入して複素固有値問題を解き、一つの0の固有値を除くすべての固有値について、その実部が正でなければ安定な解(現実に発生する解)、ひとつでも実部が正のものがあれば不安定な解(現実には発生しない解)と判別される。
(4) 運転回転数Ωを変化させて、順次(2)と(3)の作業を繰り返し行う。
なお、計算の際の注意点としては、以下のようなことがある。
(a) 応答が生じない回転数領域では、解は収束しにくいため、計算をはじめる運転回転数Wは、自励振動が大きく生じる回転数から始めるのがよい。自励振動が生じる中心的な運転回転数として、振動の原因となる後進波動が共振する式(52)(図22参照)の回転数Ω(非特許文献1あるいは4による。)を目安にすればよい。
ただし、γは式(53)(図22参照)の通りである。
(b) 探索初期値を適宜変更して与えても解が収束しない場合は、式(29)〜式(32)で表される時刻歴解析を行って定常状態を求め、それを探索初期値とすると簡単に収束する。
(c) 渦動粘性係数にかかる係数a0の値は、経験的な係数であるが、a0=0.1〜1.6あたりで非特許文献5及び非特許文献7の実験と対応することを確認したが、解の収束が容易な1.6かその数倍程度で行うとよい。
(d) 運転回転数Ωを変化させたときの解の探索の初期値は、直前のΩで得られた定常解にすればよい。運転回転数Ωを変化させたときの解の収束が思わしくないときは、Ωの変化の刻みを小さくすればよい。
(e) 考慮するモード数Nとしては、N=16程度とすればよい。
【0034】
〔適用範囲〕
(a) 浅水長波近似のため、流体の液深比(液深h0/半径R)が小さいことが必要である。目安として、0.3以下である。
(b) 円筒容器側の構造的な減衰ζ0が小さいと、計算が応答を過大評価することがある。非特許文献7の実験と比較したところ、目安として、式(54)で表される質量減衰パラメータScが1.0以下になると計算が過大評価を与える。
【0035】
まず、回転体を強制的に加振したときの波動の応答計算を行った。これにより、流体力の計算精度を確認する。計算は、{Y(上バー)}=0、{X(上バーand上ドット)}={Y(上バーand上ドット)}=0とし、{X(上バー)}に加振振幅を与え、式(41)と式(42)のみを用いて行う。
次いで、前述した説明に基づいて、図24に示す表2に掲げた条件に従って計算を行った。なお、同表中条件(a)は非特許文献6に、条件(b)は非特許文献8に対応した実験条件である。
〔 最大波高差の応答〕
条件(a)のh0=20mm、X=1mm について、自由表面の波形の最高地点と最低地点の差である最大波高差Δηを求めて実験値と比較したものを図25に示す。Δηが、係数a0=1.6 より0.4 の方が大きくなっているが、これはのちの波高形状に示すようにa0=0.4では高次のモードが励起され波状段波のような波高形状となっているためである。各条件とも、Ω/ω=1を起点として前進、後進波動が立ち上がる回転数は再現されている。実験では跳躍現象が顕著に見られ、解析ではa0=0.4である程度再現しているが、跳躍点には差が見られる。
【0036】
〔 波高形状〕
条件(a)のh0=20mm、X=1mm と条件(b)について、波高形状を実験と比較したものを図26(1)、(2)に示す。ふれ回り位相角がθ=0方向に一致した瞬間を描いている。図26(1)では、流体力の位相が同じになる回転数の計算結果を描画している。図26(2)の条件(b)の実験値は、報告されている波高の時間変化を、ふれ回り速度を基に場所θに対する波高変化に置き換え、a0=0.4の計算と波高最大のθ位置を合わせて描画している。図26(1)、(2)とも、計算でa0が小さいと、高次モードの成分が現れ、波状段波のような波高形状となる。図26(1)の条件(a)では、実験の波高形状は振動的でなく、a0=1.6の計算が実験とよく対応している。一方、図26(2)の条件(b)では、実験の波高形状は振動的である。最大波高に差はあるものの、a0=0.4の計算で波高の峰の数が実験とよく対応しており、わずかな回転数の変化で波高形状が複雑に変化する様子を再現している。
以上のように、実験では、液深比がh0/R=0.132(R/h0=7.6)である条件(a)よりh0/R=0.083(R/h0=12.0)である条件(b)で高次モードが励起されている様子から、液深比h0/Rの違いが波高形状に影響していると推察される。それに対応して、実験と対応する係数a0も異なっているものと考えられるが、適切なa0の値を選択すれば波高形状を良く再現できると言える。
【0037】
〔 流体力の応答〕
条件(a)のh0=20mm、X=1mmおよび条件(b)で、a0=0.4と1.6で計算した流体力を図27(1)、(2)に示す。無次元の流体力FR,I’は、容器単位奥行き当たりの力をFR,I として、FR,I’=FR,I/(ρh03 Ω2)と無次元化したものである。a0が小さいと、図25の波高差と同様に流体力の応答も複雑となる。しかし、両条件とも、流体力の最大値に与えるa0 の影響は小さい。
条件(a)の後進波動について、加振振幅X=1mmで液深を変化させたときの流体力を図28(1)に、h0=20mmで加振振幅を変化させたときの流体力を図28(2)に示す。これらの図では、容器全体に作用する流体力FRL、FIL(L:容器の奥行き長さ、L=49mm)を図示している。図28(1)、(2)ともに、最大波高差と同様に流体力でも実験と計算で跳躍点には差が見られる。差異が生じる理由として、単純な渦動粘性モデルでは、砕波を伴う激しい波を十分には表現できないことが考えられる。しかし、励振力となる虚部が最大となるときの実部、虚部それぞれの大きさに着目すると、液深を変化させたときに虚部で若干過大評価となっているが、全般に実験値をよく再現できており、励振源である流体力の大きさが、精度よく求められることが確認された。
【0038】
次に、回転体と流体波動の連成計算を図29の表3に示す条件で行った。この条件は、非特許文献5の実験条件である。その結果を、図30に示してある。解析による最大応答が、実験値より若干過大評価となっているが、従来の計算方法による図32と比べて予測精度が大幅に向上している。しかも、定常解を直接求めることによるため、計算に要する時間が従来の場合と比べてはるかに短縮化された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明に係る液体を内包する回転機械の設計方法によれば、予測精度が大幅に向上することにより、試作品を極力製作することなく、実機を製作することができると共に、解析時間を短縮することができることにより、中空回転機械の製作の簡便化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】液体を内包する回転機械と等価の運動系を示す図である。
【図2】解析に際して、回転機械の円筒容器に固定された座標系を説明する図である。
【図3】明細書中及び図中に示す記号と解析に用いる記号を説明する一覧表である。
【図4】式(1)〜式(3)を示す図である。
【図5】式(4)〜式(7)を示す図である。
【図6】式(8)〜式(9)を示す図である。
【図7】式(10)〜式(14)を示す図である。
【図8】式(15)〜式(17)を示す図である。
【図9】式(18)及び式(19)を示す図である。
【図10】式(20)を示す図である。
【図11】式(21)〜式(26)を示す図である。
【図12】式(27)及び式(28)を示す図である。
【図13】式(29)及び式(30)を示す図である。
【図14】式(31)〜式(35)を示す図である。
【図15】式(36)を示す図である。
【図16】式(37)〜式(40)を示す図である。
【図17】式(41)及び式(42)を示す図である。
【図18】式(43)及び式(44)を示す図である。
【図19】式(45)及び式(46)を示す図である。
【図20】式(47)を示す図である。
【図21】式(48)〜式(51)を示す図である。
【図22】式(52)〜式(54)を示す図である。
【図23】式(1)〜式(53)に用いられる値の関係式を示す一覧表である。
【図24】解析条件を示す表である。
【図25】この発明に係る設計方法に基づき、図24に示す条件(a)のh0=20mm、X=1mm について、自由表面の波形の最高地点と最低地点の差である最大波高差を求めて実験値と比較した図である。
【図26】この発明に係る設計方法に基づき、図24に示す条件(a)のh0=20mm、X=1mm と条件(b)について、波高形状を実験と比較した図である。
【図27】この発明に係る設計方法に基づき、図24に示す条件(a)のh0=20mm、X=1mmおよび条件(b)で、a0=0.4と1.6で計算した流体力を示す図である。
【図28】この発明に係る設計方法に基づき、図24に示す条件(a)の後進波動について、加振振幅X=1mmで液深を変化させたとき、およびh0=20mmで加振振幅Xを変化させたときの流体力を示す図である。
【図29】回転体と流体波動の連成計算を行う際の条件を示す表である。
【図30】この発明に係る設計方法に基づきシミュレーションした結果を示す図である。
【図31】明細書中で使用した表記と、その意味している記号との一覧表である。
【図32】非特許文献5による従来の設計方法に基づきシミュレーションした結果を示す図で、図30に相当する図である。
【符号の説明】
【0041】
1 円筒容器
【出願人】 【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
【出願日】 平成19年5月22日(2007.5.22)
【代理人】 【識別番号】100091591
【弁理士】
【氏名又は名称】望月 秀人


【公開番号】 特開2008−289950(P2008−289950A)
【公開日】 平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願番号】 特願2007−134929(P2007−134929)