トップ :: B 処理操作 運輸 :: B03 液体による,または,風力テ−ブルまたはジグによる固体物質の分離;固体物質または流体から固体物質の磁気または静電気による分離,高圧電界による分離

【発明の名称】 疎水性化合物の起泡による分離法
【発明者】 【氏名】古崎 新太郎

【氏名】山本 進二郎

【要約】 【課題】

【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中で行う生体反応によって産生する疎水性化合物を分離する方法に於いて、気泡と水性媒体を接触させて水性媒体中に含まれる疎水性化合物を気泡界面に捕集した後、該気泡を水性媒体から分離する事を特徴とする疎水性化合物の分離方法。
【請求項2】
生体反応が、微生物、動物細胞、植物細胞、または酵素を利用したものである、請求項1に記載の疎水性化合物の分離方法。
【請求項3】
水性媒体中に気体を吹き込む事によって発生させた気泡を用いるものである、請求項1または2に記載の疎水性化合物の分離方法。
【請求項4】
気泡が水性媒体外で発生させたものであり、かつ気泡と水性媒体との接触を生体反応系外で行う請求項1または2に記載の疎水性化合物の分離方法。
【請求項5】
気泡として、ミリバブル、マイクロバブルまたはナノバブルを用いる請求項1から4の何れか一項に記載の疎水性化合物の分離方法。
【請求項6】
疎水性化合物がイチイ(Taxus cuspidata)の植物細胞培養によって産生されるパクリタキセルである、請求項1から5の何れか一項に記載の疎水性化合物の分離方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、水性媒体中で生体反応を利用して産生させた疎水性化合物を、気泡を用いる事によって該水性媒体から分離する方法に関するもので、従来のバイオ生産プロセスを簡略化するために好適に用いる事が出来る。
【背景技術】
【0002】
従来から、泡の持つ溶解または分散物質を濃縮する性質を活かして、一般的な起泡、即ち気泡を発生させる事による浮遊選別法(例えば、特許文献1参照)、泡沫分離法(例えば、特許文献2参照)、または加圧浮上法(例えば、非特許文献1参照)等が開発され、パルプやその他の汚濁液中の懸濁物質や浮遊物質を除去する廃水処理、トナーの分離、鉱山に於ける金属精錬や微粉炭の分離等を目的として実施されている。この様な泡の界面近傍に疎水性物質が濃縮される性質は、原理的には、疎水性相互作用、即ち、疎水性物質が水溶液の持つ電気的な相互作用を嫌い、親水基から遠ざかろうとして水媒体と気泡の気液界面に集まる性質に基づくものである(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照)。
【0003】
近年、バイオ生産技術の重要性が認識されて久しいが、バイオ工業に於いて目的生産物の回収分離に気泡を利用した生産プロセスは殆ど見あたらないのが実状である。強いて挙げれば、アミノ酸回収に於けるイオン交換樹脂の替わりに気泡を利用する試み(例えば、非特許文献4参照)等が僅かに見られるだけである。
【0004】
従来、疎水性物質を含むバイオ的な有用物質の生産では、目的物質を培養液から分離する際には、有機溶媒を利用する抽出法が一般的に用いられている。例えば、イチイ(Taxus cuspidata)細胞によるパクリタキセルの生産では、有機溶媒を用いてパクリタキセルを抽出し、さらに精製を行う必要がある。しかし、有機溶媒を大量に使用するため、その回収コストは無視出来るものでは無い。また、抽出または逆抽出等の手間によるプロセスの煩雑化や有機溶媒が環境へ漏出した場合の汚染も懸念される。
【0005】
【特許文献1】特開昭51−96702号公報
【特許文献2】特開2001−170617号公報
【非特許文献1】「造水技術ハンドブック」、(財)造水促進センター(1993年5月10日発行)
【非特許文献2】化学工学便覧 第6版 611頁(丸善(株)発行)
【非特許文献3】ながれ 23(2004)7−15.
【非特許文献4】化学工学会第30回秋季大会要旨集(1997年、L113)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、微生物を含む生体細胞が産生する有用な代謝産物の生産プロセスまたは酵素を用いる反応プロセスに於いて、培養液や酵素反応液等の水性媒体、即ち、水または水を含む媒体中に溶解または分散している有用な疎水性代謝産生物等を、有機溶媒による抽出操作を行う事なく或いは抽出の負荷を大きく低減し、簡単に分離できる方法の確立、並びに従来の有機溶媒を用いた分離法で必要な抽出・逆抽出の工程を省略或いは最小限に抑えプロセス及び装置の複雑化を避け、廃液処理等の環境負荷が小さい簡便な製造手段を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、イチイの細胞培養により生産される微量のパクリタキセルを含む培養液から、気泡との疎水性相互作用を利用して当該培養液外に分離出来る事を知った。これによって、有機溶媒による抽出および従来技術では不可欠であった溶媒の回収工程や後段の煩雑な複数の精製工程が不要或いは精製工程が最小限で済むために生産プロセスの大きな簡略化が出来る事、また有機溶媒を使用しない或いは最小限の使用で済むため、生産コストおよび生産に伴う環境負荷を低減できる事を知った。
【0008】
さらには、微生物、動物細胞、植物細胞の培養液や酵素反応液等の水性媒体に溶解または分散している有機化合物の分離に広く応用可能な事、特に、生産装置を培養系または酵素反応系と起泡系に分けた上、両者を組合せる事で培養時の生産物阻害を防ぎ得る事、酵素反応の平衡をずらす事が出来るので平衡反応率以上の収率が期待出来る事、また、イチイ細胞によるパクリタキセルの生産のみならず、例えば、クズ(Pueraria lobata)細胞によって産生されたイソフラボン、微生物または酵素によって産生された、ステロイド化合物やピロロキノリンキノン(PQQ)の様な補酵素類等の多種多様なバイオ生産物の分離に応用可能である事を知り、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)から(6)に示す、気泡を利用した水性媒体から疎水性物質を分離する方法に関するものである。
(1)水性媒体中で行う生体反応によって産生する疎水性化合物を分離する方法に於いて、気泡と水性媒体を接触させて水性媒体中に含まれる疎水性化合物を気泡界面に捕集した後、該気泡を水性媒体から分離する事を特徴とする疎水性化合物の分離方法。
(2)生体反応が、微生物、動物細胞、植物細胞、または酵素を利用したものである、(1)に記載の疎水性化合物の分離方法。
(3)水性媒体中に気体を吹き込む事によって発生させた気泡を用いるものである、(1)または(2)に記載の疎水性化合物の分離方法。
(4)気泡が水性媒体外で発生させたものであり、かつ気泡と水性媒体との接触を生体反応系外で行う(1)または(2)に記載の疎水性化合物の分離方法。
(5)気泡として、ミリバブル、マイクロバブルまたはナノバブルを用いる(1)から(4)の何れか一項に記載の疎水性化合物の分離方法。
(6)疎水性化合物がイチイ(Taxus cuspidata)の植物細胞培養によって産生されるパクリタキセルである、(1)から(5)の何れか一項に記載の疎水性化合物の分離方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、多様なバイオ生産プロセスに於いて有機溶媒を用いる事無く空気等の安価かつ使用も容易な気体を用いて起泡させ、得られた気泡と接触させることによって有用な疎水性バイオ生産物を培養液または酵素反応液から分離出来る。また、分離プロセスの簡略化、有機溶媒による環境汚染のリスク回避が期待でき、さらに、生産物が系外に移行するため生産物阻害や反応平衡に基づく限界を超えて反応を進行させる効果も期待出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、水性媒体を用いる微生物培養や動植物の細胞培養、または酵素反応に於いて、
水性媒体中に溶解、分散する生産物、特に目的生産物が疎水性物質である場合に好適である。気泡に対する当該疎水性物質の捕集量は、気泡表面積の大きさに依存する事から、水性媒体中に少量含まれる希少価値の高い疎水性物質の分離生産に適用すれば、有機溶媒による多段の精製工程を省略して効率的な生産プロセスを構築する事が出来る。
【0012】
本発明は、水性媒体を用いる発酵培養、細胞培養、酵素反応に於いて広く適用出来るため、対象となる目的物は多岐にわたる。例えば、タンパク質、多糖類、複合多糖類、アラキドン酸やDHA等の脂肪酸、カロチノイドやアスタキサンチン等のカロチン類、ヒノキチオール等のテルペン類、エピガロカテキンやテオフラビン等のポリフェノール類、アシタバ由来のカルコンやイソフラボン等のフラボノイド類、ステロイド配糖体やトリテルペン配糖体等のサポニン類、パクリタキセル(タキソール)等の抗ガン剤、ピロロキノリンキノン(PQQ)等のビタミン類、またはその他生薬成分等が挙げられ、その中でも特に細胞外に産生される疎水性物質が好ましい例として挙げられる。
【0013】
当該目的物質を生産する手段としては、微生物による発酵生産系や動植物細胞を用いた組織培養系、または酵素触媒を用いる水性媒体での加水分解反応、エステル交換反応、エステル化反応系等である。前記した当該生産系は、通常、微生物発酵槽や細胞培養槽、培地調整槽、菌体分離器、イオン交換塔、乾燥器等からなる典型的なバイオリアクターシステムで行う事が出来る。
【0014】
発酵生産の場合、種々のミネラルや添加物を含む、いわゆる液体培地や有機化合物を含む事のある水溶液中で当該物質の生産を行う事が一般的である。当該生産時の反応条件を一概に規定する事は多岐に渡るため困難であるが、一般的な培養手順に従う。より具体的には、炭素源としてグルコース、フルクトース等の単糖類、シュークロース等の二糖類、デンプン、コーンスターチ等の多糖類、廃糖蜜やパルプ廃液、オリーブ油やパラフィン等の油脂類、メタノールやエタノール等のアルコール類、酢酸等の有機酸類、アセトン等のケトン類の様な微生物や動植物細胞が資化できるものであればよい。窒素源として尿素、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、トリプトン、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、麦芽エキス等の無機または有機体窒素源を、また燐酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩類を用いる。
培養条件は、対象とする生物種によっても異なるが、培養液の初期pHは3から10、温度は10から50℃で、必要に応じ通気撹拌しつつバッチまたは連続下に培養を行う。
【0015】
酵素反応の場合も、発酵生産の場合と同様な装置を用いて実施する事が出来る。当該反応における水性媒体は水または水を含む媒体が好ましく、反応の種類に応じ至適な組成の緩衝液を選択して使用すればよい。また、連続的に酵素反応を行う様な場合は、酵素と水性媒体の分離をし易くするため、ビーズ等の担体に担持させた固定化酵素を利用するのが好ましい。なお、酵素の反応速度を上げるため、Zn、Mn、Fe、Cu等の金属イオンや界面活性剤、有機溶媒等を用いてもよい。
【0016】
本発明では、細胞培養または酵素反応終了後、目的産物を分離するため、同一培養槽(反応槽)に空気を吹き込む事が最も簡便な手段である。なお、通気撹拌しながら好気的に培養する系では、通気によって生じた気泡を目的産物の分離に併用する事も出来る。
気泡のサイズは、その気液接触面積の大きさが目的生産物の捕集量を左右する事からサイズは小さい方が好ましく、例えば最近その安定的な発生が可能となったミリサイズ、マイクロサイズまたはナノサイズの気泡を用いる事が出来る。気泡への捕集効率を上げるために界面活性剤を系に添加しても良く、当然ながら必要に応じて空気以外の窒素等の気体を導入しても良い。なお、上記した通気量、気泡サイズ、温度等の条件は一概に規定する事は難しく、最適な条件を予め決定した上でそれに従い実施する必要がある。
【0017】
細胞培養または酵素反応を同一培養槽(反応槽)内で続けると生産物による反応物阻害(プロダクトインヒビション)を生じる事がある。この様な場合、起泡を別装置で行い、培養槽(反応槽)より抜き出した液を当該装置に移送し、発生した気泡と接触させる事が好ましい。気泡に捕集された生産物は、堰を溢れさせる等の手段によって系外に分離すれば生産阻害や平衡反応率以上に反応を進行させる事が出来る。
【0018】
本発明を、植物細胞培養によるイチイ(Taxus cuspidata)カルスからのパクリタキセルの生産に適用した場合についてさらに説明する。通常、パクリタキセルの生産はバッチまたは連続によるカルス培養工程、カルス細胞を培養液から分ける分離工程、分離培養細胞の破砕工程、有機溶剤による抽出工程、廃細胞の分離工程、溶剤濃縮工程、精製工程、および分離工程で得られた培養液からパクリタキセルを抽出し濃縮する工程等からなり、かなり複雑なプロセスとなる(図1参照)。
本発明では、基本的に、培養、気泡分離、洗浄、および乾燥工程のみで良く、従来のパクリタキセル生産工程で使用される溶剤抽出、濃縮、および分離に係わる煩雑な工程操作が不要となりプロセスの大幅な簡略化が可能となる(図2,3参照)。またこの様にして得られたパクリタキセルは、通常、充分な化学純度を有するが、必要に応じさらに精製を行い医薬用途に使用可能な高純度なものとする事が好ましい。
【実施例】
【0019】
本発明を、さらに詳細に実施例および比較例をもって説明する。当然ながら本発明は、これらの例のみに限定されるものではない。
【0020】
実施例1
パクリタキセルの気泡による分離(無細胞系)
図4に示すように、外部ガラス容器(容量650mL)の中に、内部ガラス容器(容量150mL)を設置し、さらにこの内部ガラス容器の中に、気泡を発生させるためのガラス製ボールフィルターと細胞を保持するためのセルロース製多孔質バッグを設置した。
内部ガラス容器にパクリタキセルを0.4mg/Lの濃度で溶解させたB5培地(カサミノ酸3g/L,α−ナフタレン酢酸2mg/Lを含む)120mLを入れ、25℃の温度条件下で除菌フィルターを通過させた空気を毎分0から500mLの範囲で6時間通気し内部ガラス容器から溢流する泡沫を採取することによってパクリタキセルを系外に分離し、ジクロロメタンで抽出することによりパクリタキセルを回収した。その際、外部容器の壁、ゴム栓、内部容器の外壁などをジクロロメタンで洗浄し回収パクリタキセルに加えた。また、内部ガラス容器中のB5培地中に残存するパクリタキセルもジクロロメタンを用いて抽出回収した。このようにして、通気量および通気時間とパクリタキセルの回収率との関係を求めたところ、B5培地中の残存パクリタキセル量は時間と共に減少し、2時間の通気で初期のパクリタキセル量の50%以上が、6時間で74%以上が気泡によって除去分離された(表1)。
なお、B5培地中のパクリタキセルは、サンプリングした培地にジクロロメタンを1対1の割合で添加し攪拌した後、氷冷下で静置し分離したジクロロメタン相を採取する方法を取った。この操作を3回繰り返し、得られた全量のジクロロメタンを遠心エバポレーターで濃縮した後、メタノール125μLで溶解し、HPLCで分析した。また、HPLCの移動相はメタノール:水:アセトニトリル=20:56:24、固定相はシアノプロピル基を有するシリカゲルを用いた。
【0021】
比較例1
通気しない場合(無細胞系)
培地に対する空気の吹き込みを行わなかった事以外は実施例1と同様に操作した。培地中に含まれていたパクリタキセル濃度に変化は見られず、パクリタキセルの分離に気泡を用いた方法が非常に有効である事が示された(表1)。
【0022】
表1.培地中のパクリタキセル残存率(%)および6時間後の回収率(%)
通気 空気吹き込み量(mL/分)
時間 (0) (50) (100) (200) (400) (500)
0時間 100 100 100 100 100 100
1時間 100 50 50 35 33 25
2時間 100 40 44 20 32 23
4時間 100 32 31 23 26 15
6時間 100 26 24 20 12 10
回収率 0 74 76 80 88 90
【0023】
実施例2
気泡分離しながら培養した場合のパクリタキセル生産量
図5に示す装置を用い、内部ガラス容器(容量650mL)内に設置したセルロース製多孔質バッグにB5培地(120mL)とイチイ(Taxus cuspidata)の細胞1.2gを入れ、25℃で通気量を毎分50mlとして14日間培養した。通気することによって溢流した泡沫中のパクリタキセル濃度および培地(0.25mL)を経時的にサンプリングしてパクリタキセル量を測定した(表2)。
【0024】
表2.気泡分離しながら培養した場合のパクリタキセル生産量の経日変化
培養日数 0 3 7 10 14
生産量(μg) 0 3 4 5 9
【0025】
比較例3
気泡分離しないで培養した場合のパクリタキセル生産量
起泡分離操作に替えて振とう培養した場合以外は実施例2と同様にして培養しパクリタキセルの生産量を経日的に測定した。気泡分離しなかった場合のパクリタキセルの生産量は著しく低く気泡分離による生産物の系外への移動によって生産量を著増できる事が示された(表3)。
【0026】
表3.気泡分離しないで培養した場合のパクリタキセル生産量の経日変化
培養日数 0 3 7 10 14
生産量(μg) 0 2.4 2.3 4 4
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、バイオ生産物の効果的な分離法およびバイオ生産プロセスの簡略化に広く適用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】有機溶媒抽出分離法による従来のバイオ生産プロセスを示す。
【図2】起泡分離によるバイオ生産プロセス(培養、分離は同一槽)を示す。
【図3】起泡分離によるバイオ生産プロセス(培養、分離は別装置)を示す。
【図4】無細胞系に於ける起泡分離
【図5】細胞培養系に於ける起泡分離
【出願人】 【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
【出願日】 平成18年8月23日(2006.8.23)
【代理人】 【識別番号】100117891
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 隆


【公開番号】 特開2008−49243(P2008−49243A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2006−226780(P2006−226780)