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【発明の名称】 脂質単分子膜の作製方法
【発明者】 【氏名】水谷 友海

【氏名】中村 幹彦

【要約】 【課題】再現性良く簡便に、金属プレート上に脂質単分子膜を作製する方法を提供する。

【構成】表面を酸で処理した金プレート6上に、直鎖状のアルカンチオール70からなる自己組織化単分子膜7を形成させ、該自己組織化単分子膜7にリポソームを接触させて、金プレート6上にリン脂質80からなる脂質単分子膜8を作製する。金プレートは、一対の電極間に板状圧電素子が挟まれてなる圧電素子の一方または双方の電極で、該一対の電極が、該電極間に電圧を印加するための回路および周波数測定装置に電気的に接続されているものが好適であり、電極間に電圧を印加して前記圧電素子を振動させ、該圧電素子の周波数変動を観測しながら、該電極上への自己組織化単分子膜7の形成および脂質単分子膜8の作製を行うことが好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属プレート上に自己組織化単分子膜を形成させ、該自己組織化単分子膜にミセルまたはベシクル調製物を接触させて、金属プレート上に脂質単分子膜を作製する方法であって、
前記自己組織化単分子膜を、酸で処理した前記金属プレート表面に形成させることを特徴とする脂質単分子膜の作製方法。
【請求項2】
前記ミセルまたはベシクル調製物が、リポソームを主成分とするものであることを特徴とする請求項1に記載の脂質単分子膜の作製方法。
【請求項3】
前記リポソームを、該リポソームを構成する脂質の相転移温度以上の温度で前記自己組織化単分子膜に接触させることを特徴とする請求項2に記載の脂質単分子膜の作製方法。
【請求項4】
前記リポソームが、相転移温度が30℃以下の脂質を構成成分としていることを特徴とする請求項2または3に記載の脂質単分子膜の作製方法。
【請求項5】
前記金属プレートが金または白金からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の脂質単分子膜の作製方法。
【請求項6】
直鎖状のアルカンチオール、分子末端にメチル基を有する直鎖状のアルケンチオール、および分子末端にメチル基を有する直鎖状のアルキンチオールのいずれかが、前記金属プレート表面に結合して、前記自己組織化単分子膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脂質単分子膜の作製方法。
【請求項7】
下記一般式(1)で表される直鎖状のアルカンチオールが前記金属プレート表面に結合して、前記自己組織化単分子膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脂質単分子膜の作製方法。
[化1]
2n+1SH (1)
(式中nは8〜30の整数を示す。)
【請求項8】
前記酸が、30%過酸化水素水/濃硫酸=1/3(v/v)、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸からなる群から選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の脂質単分子膜の作製方法。
【請求項9】
前記金属プレートが、一対の電極間に板状圧電素子が挟まれてなる圧電素子の一方または双方の電極であり、該一対の電極が、該電極間に電圧を印加するための回路および周波数測定装置に電気的に接続されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の脂質単分子膜の作製方法。
【請求項10】
前記圧電素子が、一対の電極間に水晶板が挟まれてなる水晶振動子であることを特徴とする請求項9に記載の脂質単分子膜の作製方法。
【請求項11】
前記電極間に電圧を印加して前記圧電素子を振動させ、該圧電素子の周波数変動を観測しながら、該電極上への自己組織化単分子膜の形成および脂質単分子膜の作製を行うことにより、電極上の自己組織化単分子膜形成量および脂質単分子膜作製量を観測しながら脂質単分子膜を作製することを特徴とする請求項9または10に記載の脂質単分子膜の作製方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は再現性良く簡便に、金属プレート上に脂質単分子膜を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜に代表される生体膜は、基本的に脂質二分子膜からなり、この脂質二分子膜の内部あるいは外表面には膜タンパク質と呼ばれる種々の機能を持つタンパク質が存在する。このような生体膜は、細胞内への物質の取り込み、細胞内外での物質の輸送、細胞の相互識別、ホルモン・生理活性物質などの生体情報分子が有する情報の受容・応答・伝達・変換など、種々の重要な機能を担っている。そして例えば、生体情報分子が有する情報が生体膜上で受容されたあとにどのように変換され、その結果細胞内でどのような変化が生じるのか、そのメカニズムを詳細に解析することで、種々の疾病の発病メカニズムを明らかにできるだけでなく、疾病を治療するための薬剤を開発することも可能と考えられている。
【0003】
しかし、実際の細胞膜を用いてこのような解析を行うことは、困難を伴うことが多い。したがって、例えば、センサーの基板上に、このような解析に最低限必要とされる生体膜のモデルとして、脂質二分子膜または脂質単分子膜を作製することができれば、これら脂質膜と生体情報分子との相互作用を検出することができ、非常に有用である。このようなセンサーを用いれば、例えば、疾病の発病メカニズム解析を効率的に行えるだけでなく、膨大な数の薬剤のスクリーニング等を簡便且つ効率的に行うことができるので、新薬の開発期間の短縮等に貢献できると考えられる。
【0004】
そこで、脂質二分子膜と生体情報分子との相互作用の有無を、表面プラズモン共鳴(SPR)等の光学的な手段により質量変化として検出できるように、自己組織化単分子膜を介して脂質二分子膜をセンサーの金属基板上に固定化する方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表平10−507126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法を始めとする従来の方法では、金属基板上への脂質膜の作製に再現性が得られずに脂質膜の作製量がばらつくことがあった。したがって、金属基板上に脂質膜を作製して得られたセンサーの品質にもばらつきが生じることがあるという問題点があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、再現性良く簡便に、金属プレート上に脂質単分子膜を作製する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、金属プレート上に自己組織化単分子膜を形成させ、該自己組織化単分子膜にミセルまたはベシクル調製物を接触させて、金属プレート上に脂質単分子膜を作製する方法であって、前記自己組織化単分子膜を、酸で処理した前記金属プレート表面に形成させることを特徴とする脂質単分子膜の作製方法である。
請求項2に記載の発明は、前記ミセルまたはベシクル調製物が、リポソームを主成分とするものであることを特徴とする請求項1に記載の脂質単分子膜の作製方法である。
請求項3に記載の発明は、前記リポソームを、該リポソームを構成する脂質の相転移温度以上の温度で前記自己組織化単分子膜に接触させることを特徴とする請求項2に記載の脂質単分子膜の作製方法である。
請求項4に記載の発明は、前記リポソームが、相転移温度が30℃以下の脂質を構成成分としていることを特徴とする請求項2または3に記載の脂質単分子膜の作製方法である。
請求項5に記載の発明は、前記金属プレートが金または白金からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の脂質単分子膜の作製方法である。
請求項6に記載の発明は、直鎖状のアルカンチオール、分子末端にメチル基を有する直鎖状のアルケンチオール、および分子末端にメチル基を有する直鎖状のアルキンチオールのいずれかが、前記金属プレート表面に結合して、前記自己組織化単分子膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脂質単分子膜の作製方法である。
請求項7に記載の発明は、下記一般式(1)で表される直鎖状のアルカンチオールが前記金属プレート表面に結合して、前記自己組織化単分子膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脂質単分子膜の作製方法である。
【0008】
[化1]
2n+1SH (1)
【0009】
(式中nは8〜30の整数を示す。)
【0010】
請求項8に記載の発明は、前記酸が、30%過酸化水素水/濃硫酸=1/3(v/v)、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸からなる群から選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の脂質単分子膜の作製方法である。
請求項9に記載の発明は、前記金属プレートが、一対の電極間に板状圧電素子が挟まれてなる圧電素子の一方または双方の電極であり、該一対の電極が、該電極間に電圧を印加するための回路および周波数測定装置に電気的に接続されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の脂質単分子膜の作製方法である。
請求項10に記載の発明は、前記圧電素子が、一対の電極間に水晶板が挟まれてなる水晶振動子であることを特徴とする請求項9に記載の脂質単分子膜の作製方法である。
請求項11に記載の発明は、前記電極間に電圧を印加して前記圧電素子を振動させ、該圧電素子の周波数変動を観測しながら、該電極上への自己組織化単分子膜の形成および脂質単分子膜の作製を行うことにより、電極上の自己組織化単分子膜形成量および脂質単分子膜作製量を観測しながら脂質単分子膜を作製することを特徴とする請求項9または10に記載の脂質単分子膜の作製方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、再現性良く簡便に、金属プレート上に脂質単分子膜を作製できるので、金属プレートとして圧電素子の電極等を用いれば、脂質単分子膜と検出対象物質との相互作用を高精度に検出できるセンサーが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、詳しく説明する。
自己組織化単分子膜(Self−Assembled Monolayers、以下、SAMと略記する)とは、疎水性部位を規則的に金属表面から外側に向けて、金属表面に規則的に並んで結合した有機化合物の分子からなる単層の膜である。ここで有機化合物としては、金属と容易に反応する官能基を好ましくは分子末端に有する、主鎖が直鎖状のものが挙げられ、用いる金属プレートの種類に応じて適宜選択すれば良い。例えば、金属プレートが金からなる場合には、このようなものとして、メルカプト基を分子末端に有する直鎖状のチオール化合物が挙げられる。なかでも、直鎖状のアルカンチオール、分子末端にメチル基を有する直鎖状のアルケンチオール、および分子末端にメチル基を有する直鎖状のアルキンチオールのいずれかが好ましく、下記一般式(1)で表される直鎖状のアルカンチオールがより好ましい。そして、下記一般式(1)で表される直鎖状のアルカンチオールのなかでも、炭素数が18〜22のものが特に好ましい。
【0013】
[化1]
2n+1SH (1)
【0014】
(式中nは8〜30の整数を示す。)
【0015】
前記アルケンチオールおよびアルキンチオールは、不飽和結合が分子末端になければ、不飽和結合の数および場所は特に限定されないが、不飽和結合の数が少ない方が好ましく、不飽和結合が分子末端近傍にないことが好ましい。そして、炭素数は8〜30であることが好ましく、18〜22であることがより好ましい。
【0016】
このようなチオール化合物を用いると、例えば、電極材料として汎用される金に対して、チオール化合物中の硫黄原子が結合して、金プレート表面にSAM膜を形成する。金−硫黄結合は比較的安定なので、形成されるSAMも安定である。
図1は、直鎖状のアルカンチオールを用いて、金プレート上にSAMを形成した様子を示す縦断面図である。金プレート6の表面に、直鎖状のアルカンチオール70の一端にある硫黄原子72が結合し、アルカンチオール70のアルキル鎖71は、その末端が硫黄原子72を挟んで金プレート6とは反対側に向くように配向している。このようにして形成されたSAM7は、その厚み(H)が均一になっていることが必要であり、これは後述する金プレートの酸処理によって達成される。厚み(H)が不均一で、SAM7の表面に凹凸が生じると、後の工程で脂質単分子膜を再現性良く作製することができない。ここでは、直鎖状のアルカンチオールおよび金プレートを用いた場合について説明したが、SAMを構成する他の有機化合物、他の金属プレートを用いた場合も同様である。
【0017】
SAMは、すべて同種の分子からなることが好ましい。
【0018】
金属プレート上にSAMを形成する時は、従来公知の方法を適用すれば良い。例えば、SAMを構成する分子を溶解した溶液に、金属プレートを浸漬させる方法、あるいは前記溶液を金属プレートに添加する方法等が挙げられる。
【0019】
金属プレートの材質は、導電性でかつその表面上に自己組織化単分子膜を形成できるものであれば特に限定されないが、電極材料として汎用されるものを用いれば、脂質単分子膜を作製した金属プレートをそのままセンサーの電極として用いることができ好適である。このような好ましい材質として、耐腐食性金属である金、白金が挙げられる。
また、金属プレート表面の脂質単分子膜を作製する部位は、平坦であることが好ましい。
【0020】
金属プレート上に厚みが均一なSAMを形成するためには、金属プレート表面を酸で処理することにより、金属プレート表面から異物を除去し、金属プレート表面を平坦にすることが必要である。
金属プレート表面を処理する酸は、金属プレート表面の異物を除去できるものであれば特に限定されないが、強酸が好ましく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、30%過酸化水素水/濃硫酸=1/3(v/v)(以下、ピランハ溶液と略記する)等を挙げることができる。なかでもピランハ溶液がより好ましい。
これら酸で金属プレート表面を処理する方法としては、例えば、金属プレートに酸をマウントして5分間静置した後、蒸留水で洗浄する操作を2回繰り返す方法が挙げられる。
また、本発明においては、一種の酸で金属プレート表面を処理しても良いし、異なる種類の酸を用いて、順次金属プレート表面を処理しても良い。
【0021】
本発明において、ミセルまたはベシクル調製物とは、両親媒性分子からなる小胞を主成分として含むものであり、リポソームを主成分とするものが好ましい。そしてリポソームとしては、一重膜リポソームであるユニラメラのものが好ましい。ユニラメラのリポソーム内にさらに同様のリポソームが含まれるいわゆるマルチラメラのものは、SAM上に脂質単分子膜を形成し難い。
そして、ユニラメラのリポソームの中でも、直径100nm以下のもの(Small Unilamella Vesicle、以下、SUVと略記する)が好ましい。
【0022】
前記ミセルまたはベシクル調製物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて主成分以外の成分を含んでいても良い。例えば、リポソームを用いる場合は、リン脂質以外に生体膜に存在する分子である糖脂質、あるいはタンパク質またコレステロール等の非両親媒性分子を含んでいても良いので、生体膜と生体情報分子との相互作用を解析したい場合などに好適である。
【0023】
ミセルまたはベシクル調製物は、主成分の小胞を構成する両親媒性分子を、液中で懸濁させた後、超音波処理して小胞を形成させることで得られる。例えば、リポソームを調製する場合には、リン脂質をクロロホルム等の有機溶媒に溶解させた後、窒素雰囲気下で溶媒を留去した後、緩衝液を添加して撹拌することで、リン脂質の懸濁液が得られるので、これを超音波処理すれば良い。そしてさらに遠心分離して上清を回収すれば、脂質単分子膜の作製に不向きなLarge Unilamella Vesicle(LUV)を除去することができる。前記緩衝液としては、例えば、PBS、HEPES、Tris等を挙げることができる。
【0024】
ミセルまたはベシクル調製物をSAMに接触させる時の温度は適宜調整すれば良いが、リポソームを用いる時は、リポソーム溶液を、該リポソームを構成する脂質の相転移温度(T)以上の温度で接触させることが好ましい。このようにすることで、脂質単分子膜をより再現性良く作製することができる。
【0025】
前記リポソームとしては、例えば、リン脂質を構成成分とするものが挙げられ、リン脂質としては種々の相転移温度(T)のものを用いることができる。例えば、卵黄由来の3−sn−ホスファチジルコリン(以下、EggPCと略記する、T;−7〜15℃)、ジミリストイルホスファチジルコリン(以下、DMPCと略記する、T;24℃)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC、T;−22℃)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC、T;41℃)等を挙げることができる。本発明においては、相転移温度(T)が低い脂質を構成成分とするリポソームを用いると、脂質単分子膜をより再現性良く作製することができる。そこで、リン脂質としては、相転移温度(T)が30℃以下のものが好ましく、このような好ましいものとして、EggPC、DMPCおおよびDOPCを挙げることができる。このようなリン脂質からなるリポソームを用いる場合も、リポソーム溶液をSAMに接触させる時の温度は、リン脂質の相転移温度(T)以上とすることが好ましく、このように前記接触温度を設定することも容易である。
【0026】
また、リポソームとしては、複数種類のリン脂質を構成成分とするもの、あるいは先に述べた通りリン脂質以外の成分を含んでいるものも用いることができる。したがって、相転移温度(T)が30℃を超えるリン脂質も、相転移温度(T)が低いリン脂質と併用してリポソームとすることで、あるいはリン脂質の相転移温度(T)を下げる効果を有するコレステロールなどをリン脂質に混合してリポソームとすることで、再現性良く脂質単分子膜を作製することができる。この時も、リポソーム溶液をSAMに接触させる時の温度は、リン脂質の相転移温度(T)以上とすることが好ましい。
【0027】
なお、コレステロールをリン脂質に混合して、リン脂質の相転移温度(T)を下げる手法については、例えば、文献「大西俊一、生体膜の動的構造、東京大学出版会(1980)、第二版」、「寺田弘、吉村哲朗、ライフサイエンスにおけるリポソーム実験マニュアル、シュプリンガー・フェアラーク東京(1994)、第一版」、「J.Sujatha and A.K.Mishra,Langmuir,14,2256(1998)」に詳しい。また、相転移温度(T)が低いリン脂質を混合することでリン脂質の相転移温度(T)を下げる手法については、例えば、文献「J.Sujatha and A.K.Mishra,Langmuir,14,2256(1998)」に詳しい。本発明においては、これらの手法を適用して、適宜所望の相転移温度(T)に調整したリン脂質を用いることができる。
【0028】
相転移温度(T)が30℃を超えるリン脂質を構成成分とするリポソームを用いる場合は、単にリポソーム溶液をSAMに接触させる時の温度をリン脂質の相転移温度(T)以上とするだけでも良いが、この時は、本発明の効果を損なわない範囲で接触温度を設定する必要がある。具体的には、例えば、リポソーム溶液などに含まれる成分が、変性あるいは破壊されないように前記接触温度を設定する必要がある。したがって、リポソーム溶液など、脂質単分子膜の作製に用いるものの種類に応じて、適宜接触温度を調整することが好ましい。
【0029】
SAM上に作製する脂質単分子膜の量は、目的に応じて適宜調整すれば良い。そして、脂質単分子膜の作製量は、SAM形成量、あるいはミセルまたはベシクル調製物使用量で調整することができる。
【0030】
金属プレート上に形成されたSAMに、前記ミセルまたはベシクル調製物を接触させると、ミセルまたはベシクル調製物中の小胞が破れて両親媒性分子の疎水性部位が、SAM表面の疎水性部位と疎水結合すると共に、親水性末端を外側に向けて、脂質単分子膜が形成される。
図2は、図1に示したSAMに、ミセルまたはベシクル調製物としてリポソームを接触させて脂質単分子膜を作製した時の様子を示す縦断面図である。SAM7のうち疎水性であるアルキル鎖71の末端近傍と、リポソームを構成していたリン脂質80の疎水性部位81の末端近傍とが疎水結合することで、親水性部位82を表面に向けて脂質単分子膜8が金プレート6上に作製される。この時、金プレート6の表面は、前記酸処理によって異物が除去され平坦となっているので、SAM7は厚み(H)が均一となっている。したがって、脂質単分子膜8が再現性良く作製される。本発明においては、前記酸処理によるSAM表面の平坦化効果が大きく、本効果により初めて脂質単分子膜が再現性良く作製される。ここでは、金プレート上に直鎖状のアルカンチオールで形成されたSAM、およびリポソームを用いた場合について説明したが、他のSAM、ミセルまたはベシクル調製物を用いた場合も同様である。
【0031】
金属プレートを圧電素子の電極として、本発明の脂質単分子膜の作製方法を適用すると好適である。すなわち、圧電素子の電極上に脂質単分子膜を再現性良く作製できるので、例えば、脂質単分子膜と検出対象物質との相互作用の様子を質量変化として簡便に観測することができる。検出対象物質として生体情報分子を用いれば、生体膜と該生体情報分子との相互作用の解析モデルとして利用できる。ここで生体情報分子とは、例えば、各種ホルモンおよび各種生理活性物質等であり、特に限定されない。
【0032】
ここでいう圧電素子とは、具体的には、一対の電極間に板状圧電素子が挟まれてなるものであり、該一対の電極が、該電極間に電圧を印加するための回路および周波数測定装置に電気的に接続されているものである。脂質単分子膜は、前記一対の電極のうちの一方または双方の電極に作製される。
圧電素子としては、一対の電極間に電圧を印加した時に固有の周波数で共振する板状圧電素子を用いたものであれば、いずれも用いることができる。このようなものとして、例えば、水晶振動子、APM(Acoustic Plate Mode Sensor)デバイス、FPW(Flexural Plate−Wave Sensor)デバイス、SAW(Surface Acoustic−Wave Sensor)デバイス等を挙げることができる。これらのなかでも水晶振動子が好ましい。
【0033】
図3は、本発明により作製された、脂質単分子膜を電極上に有する水晶振動子の一例を示す図であり、(a)は容器中の液体に浸漬された状態の斜視図、(b)は正面図であり、(c)は、A−A線における断面図である。
符号2は水晶板であり、第一電極3aおよび第二電極3bからなる一対の電極3に挟まれており、水晶振動子1が構成されている。そして、第一電極3aには第一接続電極31aの一端が接続され、第二電極3bには第二接続電極31bの一端が接続されている。さらに、水晶板2はその第一電極3a側の平面が外部に露出するように、また、第一電極3aはその水晶板2との接触面と対向する面が外部に露出するように、それぞれ樹脂製のカートリッジ4に収納されている。また、第一接続電極31aおよび第二接続電極31bは、これらの他端311aおよび311bが外部に露出するように、カートリッジ4に収納されている。すなわち、カートリッジ4に、これら水晶板2、第一電極3a、第二電極3b、第一接続電極31aおよび第二電極3bが収納されて、検出ユニット5が形成されている。そして、検出ユニット5は、検出装置(図示略)内において着脱可能とされており、装着した場合には、第一接続電極31aの他端311aおよび第二接続電極31bの他端311bがそれぞれ、第一電極3aおよび第二電極3b間に電圧を印加するための回路(図示略)に電気的に接続される。さらに、第一電極3aおよび第二電極3b間に電圧が印加された時の水晶振動子1の振動の周波数を検知するための周波数測定装置(図示略)に、該回路は電気的に接続されている。このような構成とすることで、検出ユニット5を交換することにより水晶振動子1を容易に交換することができる。
なお、ここではこのように水晶振動子1等がカートリッジ4に収められているものを示しているが、必ずしもカートリッジに収められていなくても良い。さらに、ここに示すように第一電極3aおよび第二電極3bを、第一接続電極31aおよび第二接続電極31bと接続せず、第一電極3aおよび第二電極3b間に電圧を印加するための回路に配線を介して直接接続しても良い。
【0034】
第一電極3aおよび第二電極3bはプレート状であり、その一方の面がそれぞれ、水晶板2と接触して設けられている。そして、第一電極3aの水晶板2との接触面と対向する面に、前述の方法に従って、SAMを介して脂質単分子膜(図示略)が形成されている。
【0035】
水晶振動子1としては、従来公知のものを用いることができるが、水晶振動子1の振動時の周波数は、水晶板2の構造およびサイズによって決まるので、目的に応じて必要とされる周波数を考慮して水晶板2の構造およびサイズを決めれば良い。
例えば、脂質単分子膜と生体情報分子との相互作用の検出には、27MHz程度の高周波数で水晶振動子1を振動させることができれば好適である。したがって、第一電極3aおよび第二電極3bのサイズおよび形状は、このような振動を可能とするものであれば良く、水晶板2は直径8.7mm、厚さ60μmの円板状であることが好ましく、第一電極3aおよび第二電極3bは直径2.5mm、厚さ100〜150nmの円板状であることが好ましい。
【0036】
脂質単分子膜は、例えば、水晶振動子1等がカートリッジ4に収納されていない場合等は、第一電極3aおよび第二電極3bの双方に作製されていても良い。
【0037】
第一電極3aおよび第二電極3bから水晶板2に電圧が印加されると、水晶板2に変形が生じ、水晶板2の構造およびサイズによって決まる周波数で水晶振動子1が振動する。この時、第一電極3a上の脂質単分子膜に検出対象の物質が受容されると、受容された検出対象物質の量に応じて、該水晶振動子1の振動の周波数が減少する。すなわち、例えば、1Hzの周波数減少を伴う検出対象物質の受容量が既知であれば、検出対象物質の受容前後における水晶振動子1の周波数変動量から、検出対象物質の受容量が算出される。なお、水晶振動子1を振動させる際は、振動の周波数を高くするほど検出対象物質の検出感度は向上する。また、水晶振動子1の周波数は、水晶板2の構造およびサイズによって決まるので、水晶振動子1の周波数を変更したい場合には、異なる水晶板2を用いれば良い。
【0038】
例えば、直径8.7mm、厚さ60μmの円板状の水晶板を、直径2.5mm、厚さ100〜150nmの円板状の電極で挟み込んだ構造の水晶振動子を用いて、基本周波数27MHzにて発振した場合、脂質単分子膜への検出対象物質の受容量が30pgの時に、水晶振動子の周波数が1Hz減少する。
【0039】
本発明においては、脂質単分子膜への検出対象物質の受容量を直接測定することができるため、検出にあたっては検量線等の作成を行う必要がなく、簡便且つ迅速に検出を行うことができる。
【0040】
圧電素子の電極上に脂質単分子膜を作製する時は、電極間に電圧を印加して圧電素子を振動させ、該圧電素子の周波数変動を観測しながら、電極上へのSAMの形成および脂質単分子膜の作製を行うことにより、電極上のSAMの形成量および脂質単分子膜の作製量を観測しながら脂質単分子膜を作製することが好ましい。このようにすることで、より精度良く脂質単分子膜を作製することができる。そして、検出対象物を高精度に検出できる信頼性の高いセンサーを再現性良く得られる。この場合、電極の洗浄は、圧電素子の振動を開始する前に終了しておく必要がある。
【実施例】
【0041】
以下、具体的な実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
(SAMの形成)
金プレート(SAM形成面の表面積;4.9×1012nm、厚み;100〜150nm)にピランハ溶液をマウントして5分間静置した後、蒸留水で洗浄する操作を2回繰り返して、金プレート表面を洗浄した。
続いて、図3に示す水晶振動子を作製し、基本周波数27MHzにて該水晶振動子を振動させて周波数変動を観測しながら、該水晶振動子に濃度2mMのn−デカンチオールのエタノール溶液約20〜50μLを添加して、金プレート表面にSAMを形成させた。この時の周波数変動の様子をグラフ化したものを図4に示す。
【0042】
(リポソームの調製)
EggPC10mgにクロロホルム約1mLを添加してEggPCを溶解させた後、窒素雰囲気下で溶媒を留去して脂質薄膜を形成させた。そして、PBS1mlを添加して撹拌し、得られた脂質懸濁液を30分間超音波処理した後、さらに超遠心分離処理を行い、上清を回収してSUV溶液を得、これをリポソーム溶液とした。
【0043】
(脂質単分子膜の作製)
電極上にSAMを形成した水晶振動子を、基本周波数27MHzにて振動させて周波数変動を観測しながら、25℃でSAM上にリポソーム溶液を約5μL添加して、金プレート上に脂質単分子膜を作製した。この時の周波数変動の様子をグラフ化したものを図4に示す。
【0044】
(周波数変動量の確認)
図4から明らかなように、金プレート上へのSAM形成時に周波数減少が認められ、さらにSAM上への脂質単分子膜作成時には約300Hzの周波数減少が認められた。
本実施例では、SAM上への結合時においてEggPC1分子がSAM平面方向に占める凡その最大面積(図5に示すS);0.66nm、および金プレートのSAM形成面の表面積;4.9×1012nmとから、SAM上へ結合し得るEggPC分子数の理論値を算出した。ここで図5は、EggPCの構造を示す模式図である。そしてこの算出値と、EggPCの平均分子量;770とから、脂質単分子膜作成時に観測される周波数減少の理論値を算出すると約300Hzとなり、上記観測値とほぼ一致した。すなわち、本発明の製造方法により、脂質単分子膜はSAMを介して金プレート上に均一に作製されていることが確認された。また、脂質単分子膜は再現性良く作製された。
【0045】
[実施例2〜8]
n−デカンチオールの代わりに、炭素数8、12、14、16、18、20、22の直鎖状アルカンチオールをそれぞれ用いてSAMを形成させたこと以外は、実施例1と同様にして脂質単分子膜を作製した。その結果、いずれのアルカンチオールを用いた場合でも、再現性良く脂質単分子膜が作製され、SAM形成時の周波数減少および脂質単分子膜作製時の周波数減少(約300Hz)も観測することができた。なかでも、炭素数18、20、22のアルカンチオールを用いた場合に、再現性がより高かった。
【0046】
[実施例9]
EggPCの代わりにDMPCを用い、リポソーム懸濁液を35℃で添加したこと以外は、実施例1と同様にして脂質単分子膜を作製した。その結果、再現性良く脂質単分子膜が作製され、SAM形成時の周波数減少および脂質単分子膜作製時の周波数減少(約300Hz)も観測することができた。
【0047】
[実施例10〜15]
n−デカンチオールの代わりに、炭素数12、14、16、18、20、22の直鎖状アルカンチオールをそれぞれ用いてSAMを形成させたこと以外は、実施例9と同様にして脂質単分子膜を作製した。その結果、いずれのアルカンチオールを用いた場合でも、再現性良く脂質単分子膜が作製され、SAM形成時の周波数減少および脂質単分子膜作製時の周波数減少(約300Hz)も観測することができた。なかでも、炭素数20、22のアルカンチオールを用いた場合に、再現性がより高かった。
【0048】
[比較例1]
酸による洗浄効果が得られていない金プレートを用い、n−デカンチオールの代わりにn−オクタデカンチオールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして脂質単分子膜を作製した。その結果、10回の試行で脂質単分子膜作製時に観測された周波数減少量は再現性が低く、約200〜500Hzの間で大きなばらつきが見られた。すなわち、脂質単分子膜を再現性良く作製することができなかった。
【0049】
[比較例2]
酸による洗浄効果が得られていない金プレートを用い、n−デカンチオールの代わりにn−オクタンチオールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして脂質単分子膜を作製した。その結果、10回の試行で、脂質単分子膜作製時に観測された周波数減少量は再現性が低く、約100〜600Hzの間で大きなばらつきが見られた。すなわち、脂質単分子膜を再現性良く作製することができなかった。
【0050】
[比較例3]
酸による洗浄効果が得られていない金プレートを用い、n−デカンチオールの代わりにn−オクタデカンチオールを用い、EggPCの代わりにDMPCを用い、リポソーム溶液を35℃で添加したこと以外は、実施例1と同様にして脂質単分子膜を作製した。その結果、10回の試行で、脂質単分子膜作製時に観測された周波数減少量は、いずれも一定値に収束せずに大きなばらつきが見られた。すなわち、脂質単分子膜を再現性良く作製することができなかった。
【0051】
[比較例4]
酸による洗浄効果が得られていない金プレートを用い、n−デカンチオールの代わりにn−オクタンチオールを用い、EggPCの代わりにDMPCを用い、リポソーム溶液を35℃で添加したこと以外は、実施例1と同様にして脂質単分子膜を作製した。その結果、10回の試行で、脂質単分子膜作製時に観測された周波数減少量は、いずれも一定値に収束せずに大きなばらつきが見られた。すなわち、脂質単分子膜を再現性良く作製することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、生体膜と生体情報分子との相互作用解析、薬剤のスクリーニング等に好適であり、新薬の開発等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】直鎖状のアルカンチオールを用いて、金プレート上にSAMを形成した様子を示す縦断面図である。
【図2】図1に示したSAMにリポソームを接触させて脂質単分子膜を作製した時の様子を示す縦断面図である。
【図3】本発明により作製された、脂質単分子膜を電極上に有する水晶振動子の一例を示す図であり、(a)は容器中の液体に浸漬された状態の斜視図、(b)は正面図、(c)はA−A線における断面図である。
【図4】実施例1における、金プレート上へのSAMの形成からSAM上への脂質単分子膜の作製までの水晶振動子の周波数変化を示すグラフである。
【図5】EggPCの構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1・・・水晶振動子、2・・・水晶板、3・・・電極、6・・・金プレート、7・・・自己組織化単分子膜、70・・・アルカンチオール、8・・・脂質単分子膜、80・・・リン脂質
【出願人】 【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
【出願日】 平成18年7月6日(2006.7.6)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和

【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾


【公開番号】 特開2008−12444(P2008−12444A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2006−186650(P2006−186650)