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【発明の名称】 ガス吸蔵材料
【発明者】 【氏名】丹下 恭一

【氏名】水野 二郎

【要約】 【課題】バンドルを分散させてバンドル・サイズを小さくすることにより、単層カーボンナノチューブ間の密着状態を解除して空隙を確保し、ガス吸蔵能力を高めたガス吸蔵材料を提供する。

【構成】単層カーボンナノチューブがバンドル構造を形成しているガス吸蔵材料において、個々のバンドルを構成する単層カーボンナノチューブの本数が平均10本以下であることを特徴とするガス吸蔵材料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブがバンドル構造を形成しているガス吸蔵材料において、
個々のバンドルを構成する単層カーボンナノチューブの本数が平均10本以下であることを特徴とするガス吸蔵材料。
【請求項2】
請求項1において、上記単層カーボンナノチューブは、平均直径が1.5〜2nmであり、チューブの任意部位での断面積をSとし、周囲長をLとしたときにS/L比が1.0〜1.2であることを特徴とするガス吸蔵材料。
【請求項3】
請求項2において、上記S/L比が1.1〜1.2であることを特徴とするガス吸蔵材料。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、単層カーボンナノチューブがバンドル構造を形成しているガス吸蔵材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、チューブ内部空間およびチューブ間空隙にガスを吸着させることにより大きなガス吸蔵能力が得られる優れたガス吸蔵材として期待されている。例えば、自動車搭載用の燃料ガス(水素、メタン、天然ガス等)の貯蔵システムの構築に極めて有用である。
【0003】
カーボンナノチューブ内部空間での吸着について考慮すべきことは、ガス分子はチューブ内壁に直接吸着するだけでなく、チューブ内壁からの吸着作用が及ぶ範囲内で、吸着したガス分子上に更にガス分子が吸着し、更にその上にもガス分子が吸着する、ということが繰り返されることである。このように多重吸着することによりカーボンナノチューブの内部空間への吸着量が増大し、高いガス吸蔵効率が得られる。したがって、吸蔵対象とするガス分子が多重吸着できる大きな内部空間を確保できる十分な大きさのチューブ径が必要である。しかし、チューブ径が余り大きいとチューブ内空間の中心領域はチューブ壁からの吸着作用が及ばず無駄な空間となるため、吸蔵効率が低下する。そのため、高い吸蔵効率を得るには、吸蔵対象とするガス分子のサイズと吸着特性に応じて適切なチューブ径とする必要がある。
【0004】
上記の観点から、例えば前記の燃料ガスのうち分子サイズの最も小さい水素(分子径0.28nm)の吸蔵に適したチューブ径は1.5〜2nm程度である。これに対して、現在市販されている単層カーボンナノチューブは最大でも平均チューブ径1nm程度であり、このままでは高い吸蔵効率が得られない。そこで、カーボンナノチューブを大径化するため、真空中または不活性ガス雰囲気中で1500〜200℃程度に加熱してカーボンナノチューブ同士を融合させる方法が知られている。
【0005】
一方、カーボンナノチューブのチューブ間空隙での吸着について考慮すべきことは、複数のカーボンナノチューブがファンデルワールス力によって集合してバンドル構造を形成することである。バンドルを構成するカーボンナノチューブ間に適度な空隙を確保し、バンドル全体としてガス分子の吸着量を増加させることにより、バンドルの集合体としてのガス吸蔵材料のガス吸蔵効率を高めることができる。
【0006】
しかし、巨大なバンドルを構成する無数のカーボンナノチューブは密集しており、互いに密着している。この密集を解除し、チューブ同士を密着状態から解放して、チューブ間に適度な空隙を形成するには、結局、バンドル自体を分散させてバンドル・サイズを小さくする必要がある。
【0007】
特許文献1には、スーパーバンドルを形成するために、希酸または酸性溶液を溶媒として単層カーボンナノチューブ基材の懸濁液を作成し、これを超音波エネルギーにより攪拌すること、該基材として98%以上の単層カーボンナノチューブを用いることが開示されている。しかし、スーパーバンドルを分散させることについては何ら示唆がない。
【0008】
特許文献2には、グラファイト層間化合物(GIC)にアルカリ金属をドープしてミリング処理によりナノ構造化させることにより、GIC間に適度な空隙を設けてガスの吸着を可能とすることが開示されている。
【0009】
特許文献3には、カーボンナノチューブに欠陥を導入することにより、カーボンナノチューブの合体が促進され、大径化が容易になることが開示されている。
【0010】
特許文献4には、カーボンナノチューブに開孔部を形成し、開孔部のレーザラマン分光におけるD/G比を0.02〜0.10とすることにより、水素吸蔵能力を高めることが開示されている。
【0011】
特許文献5には、単層カーボンナノチューブに電子線を照射することにより比表面積を増加させ、水素吸蔵量を増加させることが開示されている。
【0012】
特許文献2〜5にも、バンドルを分散させることについては何ら示唆がない。
【0013】
【特許文献1】特表2003−520178号公報
【特許文献2】特開2004−181383号公報
【特許文献3】特開2005−324971号公報
【特許文献4】特開2004−290793号公報
【特許文献5】特開2003−26413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、バンドルを分散させてバンドル・サイズを小さくすることにより、単層カーボンナノチューブ間に空隙を確保し、ガス吸蔵能力を高めたガス吸蔵材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明のガス吸蔵材料は、単層カーボンナノチューブがバンドル構造を形成しているガス吸蔵材料において、個々のバンドルを構成する単層カーボンナノチューブの本数が平均10本以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、バンドルを構成する単層カーボンナノチューブの本数を平均10本以下に制限してバンドル・サイズを小さくしたことにより、バンドル内のチューブ間に適度な空隙が確保された状態となり、比表面積の大きいガス吸蔵材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
既に述べたように、一般にバンドル・サイズが大きいとバンドル内のカーボンナノチューブは密集状態になっており、互いに密着している。この密集を解除し、チューブ同士を密着状態から解放して、チューブ間に適度な空隙を形成するには、結局、バンドル自体を分散させてバンドル・サイズを小さくする必要がある。
【0018】
その具体的な手段として、本発明においては、バンドルを構成する単層カーボンナノチューブの本数を平均10本以下に制限した。この範囲内のバンドル・サイズとすることにより、多数のバンドルの集合体であるガス吸蔵材料の比表面積が格段に増大する。
【0019】
本発明の望ましい実施形態においては、単層カーボンナノチューブは、平均直径が1.5〜2nmであり、チューブの任意部位での断面積をS、周囲長をLとしたときにS/L比が1.0〜1.2である。平均チューブ径が1.5〜2nmであると水素ガスおよび同等の比較的小さい分子サイズの吸蔵用に適しており、チューブS/L比が1.0〜1.2であるとチューブ断面形状が真円から外れた不定形となりチューブ間空隙の確保に有利である。更に、S/L比が1.1〜1.2であると、ガス吸着に有効な細孔容積の確保に有利である。
【実施例】
【0020】
〔実施例1〕
市販の単層カーボンナノチューブを出発材料として、下記の2段熱処理を行なった後、種々の特性を調べた。
【0021】
出発材料としてCNI社製の単層カーボンナノチューブを用いた。受け入れたままの状態では不純物として、カーボンナノチューブ生成に用いた触媒の構成成分であるFeが20〜30wt%残留している。そのため、60℃のHCl溶液(HCl:HO=1:2)中で3時間処理して残留Feを溶解して除去した。その後、純水洗浄を行い、次いで10Pa程度の真空中で200℃に加熱する真空乾燥を行なった。
【0022】
次に、前段熱処理として、10〜3Paの高真空中にて、1100〜1600℃の範囲の種々の温度で12時間保持した。昇温速度は20℃/分とした。
【0023】
更に、後段熱処理として、同じ昇温速度で1800℃に加熱し2時間保持した。比較のために、前段熱処理なしのサンプルについても後段熱処理のみを行った。この後段熱処理は単層カーボンナノチューブの融合によりチューブ径を拡大するための熱処理である。一般に市販の単層カーボンナノチューブはチューブ径1nm程度であるが、この処理により2nm近くまで拡径される。
【0024】
得られたサンプルについて下記の測定・解析を行なった。
【0025】
(1)比表面積の測定
全自動ガス吸着量測定装置(カンタローム社製オートソーブ)を用い、BET法(温度77K、窒素吸着)により比表面積を測定した。
【0026】
(2)純度の測定
TGA法(Thermogravimetric Analysis:熱重量解析)により純度を測定した。
【0027】
(3)チューブ断面の解析
透過電子顕微鏡により数十視野について、チューブ断面を観察し、バンドル・サイズ(バンドル構成チューブ本数)を測定した。バンドル毎の構成チューブ本数に大きなバラツキがない場合、代表的な5視野を選定し、下記(I)、(II)のバンドル解析を行なった。なお、バンドルが分散した場合、チューブ単独になるかあるいは構成チューブ本数が極端に減少するので、焦点を移動させて各視野内のバンドルの見落としを防止した。
【0028】
(I)各視野内のバンドル毎の構成チューブ本数の計測
(II)チューブ断面形状の評価:各チューブの任意部位において断面積Sと周囲長Lとを計測し、S/L比を求めた。S/L比は、真円で約1.4であり、真円から外れるほど減少する。
【0029】
図1に、種々の前段熱処理の温度についてバンドル当りの平均構成チューブ本数(N)および比表面積(A)を示す。前段熱処理せずに後段熱処理のみを行った場合についても同図の左端に示した。前段熱処理を1100〜1400℃で行った場合に、バンドル当りの平均構成チューブ本数(N)は10本以下となり、これに対応して比表面積(A)が顕著に増大して1400〜1450m/g程度となっている。特に前段熱処理温度が1100〜1200℃の場合には、バンドル当りの平均構成チューブ本数(N)が2〜4本と著しく少ない。
【0030】
前段熱処理の温度が上記範囲外すなわち1000℃、1500〜1600℃の場合および前段熱処理なしの場合には、バンドル当りの平均構成チューブ本数(N)はそれぞれ15〜20本および25本程度であり、比表面積(A)は1100m/g程度である。
【0031】
図2に、種々の前段熱処理の温度について平均チューブ径(D)および断面形状(S/L比)を示す。前段熱処理せずに後段熱処理のみを行った場合についても同図の左端に示した。
【0032】
ここで「平均チューブ径」とは、真円に近い場合には任意の2箇所以上の平均値であり、真円から外れている場合には最長部と最短部との平均値である。図2に示したように、平均チューブ径は前段熱処理温度によって大きな変化は無く、1.5〜2nmであった。
【0033】
断面形状(S/L比)は、前段熱処理温度が1100〜1400℃の場合に1.1〜1.2であり、それ以外の温度および前段熱処理なしの場合には1.3〜1.4であった。1.4よりやや大きいS/L比(図2中の「R」)で断面形状は真円になるので、S/L比が1.1〜1.2である前段熱処理温度1100〜1400℃の場合は真円から大きく外れていることが分かる。ただし、S/L比が1.0未満になると真円から外れすぎてしまい、有効な細孔容積を得ることが困難になるためS/L比は1.0以上とすることが望ましい。したがって、望ましいS/L比の範囲は1.0〜1.2である。また、S/L比を1.1〜1.2とすると有効な細孔容積が確実に得易くなるので、更に望ましい。
【0034】
〔実施例2〕
上記の実施例1において比表面積の顕著に増大した前段熱処理1100℃+後段熱処理1800℃のサンプルについて、カーボンナノチューブ先端のキャップ開放を行なった。キャップ開放は大気中で420℃に加熱して部分酸化させることにより行なった。キャップ開放後のサンプルについて、前述と同じ条件でBET法による測定行い、比表面積として1920m/gを得た。
【0035】
現状のところ、キャップ開放と共に純度が低下する傾向がみられる。TGA測定の結果によると、約30wt%ものグラファイト起因の不純物を含んでいた。一般に、このようなグラファイトはチューブ径拡大処理(通常1800℃で熱処理)により生じることが知られている。しかし本実施例のサンプルの場合、キャップ開放前の状態でTGA測定により確認すると、グラファイト量が20wt%であった。したがって、キャップ開放時の部分酸化処理時にチューブが燃焼したことにより更にグラファイトの割合が増加したものと考えられる。このような不純物を抑制することは今後の課題である。
【0036】
仮に、純度が100%となったと想定した場合、比表面積はほぼグラフェンの理論比表面積である2770m/gとなるはずであり、その意味で本発明は非常に顕著な効果を奏すると言える。この場合、チューブの外表面でN吸着が起きていると考えられる。
【0037】
上記キャップ開放したサンプルについて、圧力30MPa、室温での水素吸蔵量を測定したところ、1.7mass%が得られた。
【0038】
得られたサンプルは、典型的には、この後、高密度成形され、水素および天然ガスの吸蔵材料として、主として自動車用高圧吸蔵タンクとして利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、バンドルを分散させてバンドル・サイズを小さくすることにより、単層カーボンナノチューブ間に空隙を確保し、ガス吸蔵能力を高めたガス吸蔵材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、2段熱処理したサンプルについて、種々の前段熱処理の温度に対してバンドル当りの平均構成チューブ本数(N)および比表面積(A)を示すグラフである。ただし、同グラフ中の左端にプロットした各データは、前段熱処理せずに後段熱処理のみを行った場合の結果を示す。
【図2】図2は、2段熱処理したサンプルについて、種々の前段熱処理の温度に対して平均チューブ径(D)および断面形状(S/L比)を示すグラフである。ただし、同グラフ中の左端にプロットした各データは、前段熱処理せずに後段熱処理のみを行った場合の結果を示す。
【出願人】 【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
【出願日】 平成18年6月30日(2006.6.30)
【代理人】 【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤

【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬

【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次

【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康

【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏


【公開番号】 特開2008−6399(P2008−6399A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−181121(P2006−181121)