トップ :: B 処理操作 運輸 :: B01 物理的または化学的方法または装置一般

【発明の名称】 メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒の製造方法
【発明者】 【氏名】柾 朋博

【要約】 【課題】使用済みのメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒から簡単かつ低コストに、未使用のものと同程度またはそれを超える性能のメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を製造する。

【構成】モリブデンを含有し、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用された使用済みヘテロポリ酸系触媒をpH1以上、pH8未満の水性媒体と接触させ、液状物を調製する液状物調製工程と、前記液状物の液相に、セシウム塩、カリウム塩、タリウム塩、ルビジウム塩からなる群より選ばれる1種以上の塩を加え、液相から沈殿物を生成させる沈殿生成工程と、前記沈殿物を原料として、メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を調製する触媒調製工程とを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用されるヘテロポリ酸系触媒の製造方法において、モリブデンを含有し、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用された使用済みヘテロポリ酸系触媒をpH1以上、pH8未満の水性媒体と接触させ、液状物を調製する液状物調製工程と、前記液状物の液相に、セシウム塩、カリウム塩、タリウム塩、ルビジウム塩からなる群より選ばれる1種以上の塩を加え、前記液相から沈殿物を生成させる沈殿生成工程と、前記沈殿物を原料として、メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を調製する触媒調製工程とを有することを特徴とするヘテロポリ酸系触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用されるヘテロポリ酸系触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用される触媒としてヘテロポリ酸系触媒がある。
このようなヘテロポリ酸系触媒としては、例えばモリブドリン酸、モリブドバナドリン酸など、カウンターカチオンがプロトンであるヘテロポリ酸と、そのプロトンの一部をセシウム、ルビジウム、タリウム、カリウムなどで置換し、ヘテロポリ酸塩にしたものとが知られている。ヘテロポリ酸は酸性度が高いため、これを単独で触媒として使用するとメタクリル酸の選択率が低くなる。そこで、プロトンの一部を部分中和することにより酸性度を調整したものを触媒とすることが特許文献1に記載されている。
【0003】
なお、カウンターカチオンがプロトンであるヘテロポリ酸は水溶性であるが、プロトンがセシウム、ルビジウム、タリウム、カリウムのうちの少なくとも1種で置換されたヘテロポリ酸塩は、一般に水に難溶性である。これら元素のカチオンのイオン半径は1.1Å以上であり、このことが難溶性と相関があるとされ、例えば特許文献2でもヘテロポリ酸の沈殿剤として記載されている。
以下、カウンターカチオンがプロトンだけであるヘテロポリ酸を「H−へテロポリ酸」といい、カウンターカチオンがセシウム、ルビジウム、タリウム、カリウムのうちの少なくとも1種であるヘテロポリ酸塩を「難溶性ヘテロポリ酸塩」という場合がある。
【0004】
このようなヘテロポリ酸系触媒は、メタクリル酸製造時の熱や還元雰囲気などにより分解して分解生成物を生じ、その結果、経時的にメタクリル酸収率が低下することが知られている。そのため、このようにメタクリル酸収率が低下した使用済みのヘテロポリ酸系触媒を有効に使用して、新たなヘテロポリ酸系触媒を製造する技術について種々検討されている。
【0005】
特許文献3には、使用済みのヘテロポリ酸系触媒を水に分散させ、pH8以上となる量のアルカリ金属化合物やアンモニウム水を添加して、モリブデン、リン、ヒ素、カリウム、ルビジウム、セシウムなどを溶解した後に、混合液のpHを6.5以下に調整して沈殿させたモリブデン、リン、ヒ素などの沈殿物を触媒構成元素の原料として用いる方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、難溶性ヘテロポリ酸塩から水溶性のヘテロポリ酸や元素を回収するために、使用済みのヘテロポリ酸系触媒に水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水を加え、加熱分解したうえで、その溶液をイオン交換樹脂に通す工程や、pH調整を繰り返し行う工程などが必要であり、工程が煩雑であった。このように煩雑な方法では、手間がかかるうえ消費エネルギーコストも高くなるため、使用済み触媒を有効に利用する技術としては好適ではなかった。
【特許文献1】特開平08−1005号公報
【特許文献2】特開平07−213922号公報
【特許文献3】特開2001−29799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、使用済みのメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒から簡単かつ低コストで、未使用のものと同程度またはそれを超えるメタクリル酸収率のメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を製造できる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のヘテロポリ酸系触媒の製造方法は、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用されるヘテロポリ酸系触媒の製造方法において、モリブデンを含有し、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用された使用済みヘテロポリ酸系触媒をpH1以上、pH8未満の水性媒体と接触させ、液状物を調製する液状物調製工程と、前記液状物の液相に、セシウム塩、カリウム塩、タリウム塩、ルビジウム塩からなる群より選ばれる1種以上の塩を加え、前記液相から沈殿物を生成させる沈殿生成工程と、前記沈殿物を原料として、メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を調製する触媒調製工程とを有することを特徴とする。
【0009】
前記沈殿生成工程は、前記液状物を固液分離して得られた液相に、前記塩を加える工程であってもよいし、固液分離されていない前記液状物に前記塩を加える工程であってもよい。
前記触媒調製工程は、前記沈殿物に追加成分を加える成分追加工程と、成分追加工程で得られた混合物を焼成する焼成工程とを有していることが好ましい。
製造される前記メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒は、下記式(1)で表される組成を有することが好ましい。
aMobcCudefgh (1)
(式中のMo、V、CuおよびOは、それぞれがモリブデン、バナジウム、銅および酸素を示し、Aはリン、ヒ素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Dはアンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、珪素、タングステンおよびホウ素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、マンガン、コバルト、バリウム、ガリウム、セリウムおよびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Zはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。a,b,c,d,e,f,g,およびhは各元素の原子比率を表し、b=12のときa=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用済みのメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒から簡単かつ低コストに、未使用のものと同程度またはそれを超えるメタクリル酸収率のメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用されるヘテロポリ酸系触媒の製造方法であって、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用された使用済みヘテロポリ酸系触媒(以下、単に使用済み触媒という。)を水などのpH1以上、pH8未満の水性媒体と接触させ、液状物を調製する液状物調製工程を有する。
【0012】
ここで使用済み触媒とは、モリブデンを含有し、メタクロレイン、イソブタン、イソ酪酸、イソブチルアルデヒドなどを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用されたものであれば制限はなく、メタクリル酸収率などの触媒性能が明確に低下していないものでもよい。反対に、メタクリル酸製造時の反応温度を上げるなどメタクリル酸収率に有利な反応条件変更を行っても、メタクリル酸収率の維持が困難となったような劣化の進行した触媒であってもよい。
【0013】
使用済み触媒は、触媒活性成分であるH−ヘテロポリ酸を少なくとも含有するものであればよく、そのプロトンの一部がプロトン以外のカチオンで置換された低活性成分のヘテロポリ酸塩をさらに含有するものであってもよい。
これらH−ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩のポリ原子としては、少なくともモリブデンが含まれ、その他にはバナジウム、アンチモン、タングステン、ニオブなどを含んでいてもよい。また、使用済み触媒は、ヘテロ原子として、例えばリン、ヒ素、珪素、イオウ、窒素、テルル、アンチモン、セリウムなどヘテロ原子になり得る元素を少なくとも1種含有する。
【0014】
また、使用済み触媒が低活性成分のヘテロポリ酸塩をさらに含有するものである場合には、通常、そのカウンターカチオンには、セシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素のカチオンが少なくとも含まれ、これらカチオンにより、H−ヘテロポリ酸のプロトンの一部が置換されている。置換体としては、例えば1置換体、2置換体、3置換体などがあり、これらが混在していることもある。また、場合によっては、カチオンとしてアンモニウムイオンなどが含まれる場合もある。
【0015】
さらに、使用済み触媒には、その触媒の製造工程に由来するヘテロポリ酸を構成しないフリーの化合物や、メタクリル酸製造時の熱や還元雰囲気などにより生成した分解生成物も通常は含まれる。分解生成物としては、ヘテロポリ酸系触媒を構成している金属元素の酸(モリブデン酸の他、例えばリン酸、バナジン酸、ヒ酸などであり、以下、金属酸ともいう。)がある。
【0016】
液状物調製工程において、このような使用済み触媒を水などの水性媒体と接触させた場合、使用済み触媒に含まれるH−ヘテロポリ酸や分解生成物である上述の金属酸、フリーの化合物などは水性媒体に溶解する。
使用済み触媒と水性媒体との接触方法としては、使用済み触媒を水性媒体に加える方法、水性媒体を使用済み触媒に加える方法、使用済み触媒に水性媒体を噴霧する方法などが挙げられる。
水性媒体としては、水、水溶液、含水アルコールなどが挙げられるが、酸性から中性pH領域でH−ヘテロポリ酸が安定であることから、pHは1以上、8未満であることが必要であり、1〜7であることが好ましく、より好ましくは1〜6である。pHの調整は、例えば水に硝酸などの酸を加える方法、水道水をイオン交換処理する方法などにより行うことができるが、後者が簡便である。
一方、使用済み触媒にセシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムのヘテロポリ酸塩、すなわち難溶性ヘテロポリ酸塩が含まれる場合、これらは水に難溶性であるために、水性媒体にはほとんど溶解しない。よって、液状物調製工程で調製された液状物の液相には、H−ヘテロポリ酸、金属酸、フリーの化合物などが主に存在し、難溶性ヘテロポリ酸塩はほとんど存在しない。
【0017】
液状物調製工程において、水などの水性媒体とこれと接触させる使用済み触媒との比率には特に制限はなく、この触媒の水性媒体に対する分散性や溶解性の他、液状物の撹拌性や、使用済み触媒が加水分解しにくいような比率であること(例えば、日本化学会誌、1985(12),p.2237〜2245参照)などを勘案して決定すればよいが、水性媒体100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲が好ましい。さらに液状物の粘度や、この液状物を固液分離する場合の効率性などを考慮すると、より好ましくは1〜30質量部である。
また、水性媒体と使用済み触媒とを接触させる際のスケールにも特に制限はなく、100g程度の小スケールから数10mの工業スケールまで、いかなるスケールで実施してもよい。
【0018】
水性媒体と使用済み触媒とを接触させる際の温度にも特に制限はなく、その環境温度などに応じて決定すればよいが、加熱をしない常温付近であってもH−ヘテロポリ酸や金属酸などの水溶性成分は水性媒体に十分に溶解する点、90℃以下であっても水性媒体の温度が高くなるとヘテロポリ酸系触媒が加水分解する可能性がある点(例えば、日本化学会誌、1986(2),p.120〜125参照)などから、1〜40℃が好ましい。
【0019】
液状物調製工程の後には、液状物の液相に、セシウム塩、カリウム塩、タリウム塩、ルビジウム塩からなる群より選ばれる1種以上の塩を加え、液相から沈殿物を生成させる沈殿生成工程を行う。
液状物の液相には、上述したようにH−ヘテロポリ酸、分解生成物である金属酸、フリーの化合物などが含まれ、これらのうちH−ヘテロポリ酸は、セシウム塩、カリウム塩、タリウム塩、ルビジウム塩からなる群より選ばれる1種以上の塩との反応により、そのプロトンがセシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムなどで置換された難溶性ヘテロポリ酸塩となり、沈殿する。一方、分解生成物である金属酸、フリーの化合物などは、通常、塩とは反応しないため液相に留まる。液相に留まった分解生成物は、使用済み触媒の質量を100質量%とした場合、通常、1〜70質量%である。
【0020】
なお、ここで使用済み触媒が難溶性ヘテロポリ酸塩を含まず、水溶性成分のみからなる場合には、液状物調製工程で得られた液状物はほぼ液相のみからなるため、沈殿生成工程においては、この液状物そのものに対して、セシウム塩、カリウム塩、タリウム塩、ルビジウム塩のうちの1種以上の塩を加えればよい。
一方、使用済み触媒が難溶性ヘテロポリ酸塩を含むものである場合には、液状物調製工程で得られた液状物は、H−ヘテロポリ酸などの水溶性成分が溶解した液相に、難溶性ヘテロポリ酸塩が分散した分散液の状態となっている。この場合、液状物そのものに対して塩を加えてもよいし、あらかじめ液状物を液相と固相に固液分離し、得られた液相に対して、塩を加えてもよい。固液分離後の液相に加える後者の方法によれば、固液分離の手間がかかるものの、最終的に得られるヘテロポリ酸系触媒のメタクリル酸収率は、未使用のものを超える程高くなる。よって、より高収率な触媒を製造したい場合には、固液分離後の液相に塩を加える方法が好ましい。
【0021】
液状物の液相に、セシウム塩、カリウム塩、タリウム塩、ルビジウム塩のうちの1種以上の塩を加える際には、塩をあらかじめ水に溶解させ、水溶液の形態としておくことが好適である。塩を好ましくは水溶液の形態で加えた後には、5〜24時間程度放置し、十分に沈殿物を生成させることが好ましい。
セシウム塩、カリウム塩、タリウム塩、ルビジウム塩のうちの1種以上の塩としては、水溶性の塩が好ましく、硝酸セシウム、亜硝酸セシウム、硝酸カリウム、亜硝酸カリウム、硝酸タリウム、亜硝酸タリウム、硝酸ルビジウム、亜硝酸ルビジウムなどが好ましい。
こうして生成した沈殿物は非常に細かく、通常、平均粒子径が500nm以下である。
【0022】
沈殿生成工程において、液相に加える塩の量は、液相中のH−ヘテロポリ酸との化学量論量以下であることが好ましい。化学量論量以下とすることによって、セシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムの塩が未反応のまま余剰し、これが最終的に得られるヘテロポリ酸系触媒の性能を低下させるなどの悪影響を抑えることができる。より好ましい使用量は化学量論量である。化学量論量であれば、液相中のH−ヘテロポリ酸のほぼ全量を難溶性ヘテロポリ酸塩として沈殿させることができるとともに、未反応の塩が余剰することもない。化学量論量は、液状物の液相をICP発光分析などで元素分析し、ヘテロポリ酸の主構成成分であるリン、ヒ素、モリブデン量を分析することにより求められる。
【0023】
沈殿生成工程の後には、生成した沈殿物を回収し、これを原料として使用して、メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を調製する触媒調製工程を行う。
沈殿物の回収方法としては、ろ過法、遠心分離法、自然沈降法など、通常の固液分離法のなかから適宜採用すればよいが、固液分離を迅速に行えることからろ過法や遠心分離法が好ましい。遠心分離法を採用する場合、その条件としては、例えば回転数12,000〜18,000rpmで、1〜20分間などの条件が好適である。
【0024】
なお、上述したように、使用済み触媒が難溶性ヘテロポリ酸塩を含むものである際に、沈殿生成工程において、固液分離されていない液状物そのものに対して塩を加えた場合は、回収された沈殿物に沈殿生成工程で生成した難溶性ヘテロポリ酸塩とともに、使用済み触媒に含まれていた難溶性ヘテロポリ酸塩も混在することとなるが、とくに分離の必要はない。
【0025】
回収された沈殿物は、そのまま触媒調製工程に供してもよいが、この沈殿物には、沈殿生成工程で余剰となったセシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムの塩や、液状物の液相中の分解生成物(金属酸)、フリーの化合物などが付着している可能性がある。よって、沈殿物を洗浄水で洗浄してこれらを除去してから、触媒調製工程に供することが、最終的に得られるヘテロポリ酸系触媒のメタクリル酸収率向上の点から好ましい。
【0026】
洗浄水としては水を使用してもよいが、例えば硝酸水溶液など、pHが1〜6の酸性水溶液を使用してもよい。酸性水溶液を使用すると、さらに沈殿物が微粒子化することを抑制できる傾向にある。また、酸性水溶液を使用すると、沈殿物である難溶性ヘテロポリ酸塩の酸化・還元状態が還元状態から酸化状態へと変化する傾向にある。一方、水を洗浄水として使用すると、酸性水溶液を使用した場合に比べて、最終的に得られるヘテロポリ酸系触媒のメタクリル酸収率が若干向上する傾向にある。よって、洗浄水の種類を使い分けることにより、目的に応じたメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒の設計も可能となる。洗浄方法としては、沈殿物に対してその1〜50倍の質量の洗浄水を加えて撹拌後、沈降させ、再度固液分離して沈殿物を回収する方法が好ましい。この操作を繰り返して精製してもよいし、1回洗浄でもよい。
【0027】
こうして回収された沈殿物は、カウンターカチオンがセシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムからなる群より選ばれる1種以上である難溶性ヘテロポリ酸塩を主成分とするものである。触媒調製工程では、このような沈殿物に対して、触媒として高活性な成分、好ましくはH−ヘテロポリ酸を追加成分として加えてから(成分追加工程)、この成分追加工程で得られた混合物を必要に応じて乾燥し(乾燥工程)、焼成する(焼成工程)ことが好ましい。なお、成分追加工程の前には、沈殿物を40〜160℃に保持された乾燥機などで一昼夜程度乾燥してもよい。
【0028】
成分追加工程を実施するにあたっては、実際には、回収された沈殿物をICP発光分析法、蛍光X線分析法、原子吸光分析法などで元素分析し、得られた元素分析結果に応じて、追加すべき追加成分を決定することが好ましい。より好ましくは、製造されるヘテロポリ酸系触媒の組成が下記式(1)で表される組成となるように、追加成分を追加することが好ましい。式(1)のような組成のヘテロポリ酸系触媒であれば、メタクロレインからメタクリル酸を高収率で得ることができる。
【0029】
aMobcCudefgh (1)
(式中のMo、V、CuおよびOは、それぞれがモリブデン、バナジウム、銅および酸素を示し、Aはリン、ヒ素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Dはアンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、珪素、タングステンおよびホウ素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、マンガン、コバルト、バリウム、ガリウム、セリウムおよびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Zはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。a,b,c,d,e,f,g,およびhは各元素の原子比率で表し、b=12のときa=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【0030】
なお、ICP発光分析法、蛍光X線分析法、原子吸光分析法などで元素分析する際には、まず、試料約0.1gと、25〜28質量%アンモニア水0.5mlと、純水約20mlとを超音波照射しながら混合し、試料が完全に溶解した溶液を調製する。そしてこれを適当な倍率に希釈して、上記分析法に供することが好適である。
【0031】
成分追加工程における追加成分の追加方法としては、追加成分が水などの水性媒体中に溶解または分散した追加成分含有液を調製し、これを沈殿物と混合してスラリーとする湿式混合法でもよいし、固体状の追加成分を沈殿物と混合する乾式混合法でもよい。しかしながら、追加成分と沈殿物とが良好に分散し、表面の化学状態や酸点などが均質なヘテロポリ酸系触媒が得られやすいことから、追加成分含有液を沈殿物と混合する湿式混合法がより好適である。H−ヘテロポリ酸を湿式混合法で沈殿物に追加して得られたヘテロポリ酸系触媒によれば、H−ヘテロポリ酸の有する高活性点と、沈殿物中の難溶性ヘテロポリ酸塩の有する低活性点とが高分散し、メタクロレインの燃焼反応が抑制された適度な活性を実現できる。
【0032】
H−ヘテロポリ酸を追加成分とする場合には、公知の方法でH−ヘテロポリ酸を合成し、これを沈殿物に追加すればよい。H−ヘテロポリ酸の合成方法としては、これを構成する元素の塩、酸などを原料とし、これを水に溶解し、その後加熱撹拌しながら蒸発乾固する蒸発乾固法の他、水熱合成法、固相反応法などがある。
【0033】
追加成分の追加を湿式混合法で行った場合には、得られたスラリーを蒸発乾固し、その水分の大部分を除去した後、乾燥工程を行う。乾燥方法は特に限定されず、例えば蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法などの方法が挙げられる。この際に使用する乾燥機の機種や乾燥温度などの条件は特に限定されず、所望する乾燥品の形状や大きさにより適宜選択することができる。そして、乾燥工程で得られた乾燥品を空気などの酸素含有雰囲気下、200〜500℃、好ましくは300〜450℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜40時間の条件で焼成する(焼成工程)ことにより、メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を製造することができる。
追加成分の追加を乾式混合法で行った場合には、得られた混合物に対して、必要に応じて上述の乾燥工程を実施した後、焼成工程を実施すればよい。
なお、焼成工程の前には、沈殿物と追加成分との混合物やその乾燥品を顆粒状に整粒してもよい。整粒の方法としては、混合物や乾燥品を加圧成形した後破砕し、さらに篩分して、特定の範囲に分級された顆粒のみを採用する方法が挙げられる。また、成型品にしてもよく、その場合は、例えば、得られた乾燥品を打錠成型機により、外径5mm、内径2mm、長さ5mmのリング状に成型する。そして、この成型品を空気流通下、380℃にて12時間焼成することにより、メタクリル酸製造用触媒を得ることができる。
【0034】
こうして得られるメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒は、未使用のものと同程度またはそれを超えるメタクリル酸収率を発揮する。
また、以上説明した製造方法は、使用済み触媒を水性媒体と接触させ、液状物を調製する液状物調製工程と、得られた液状物の液相に特定の塩を加えて、液相から沈殿物を生成させる沈殿生成工程と、得られた沈殿物を原料としてメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を調製する触媒調製工程とを有する簡単かつ低コストな方法である。
【0035】
このような方法により、メタクリル酸収率の高いヘテロポリ酸系触媒が得られる理由については、沈殿生成工程で生成した沈殿物(難溶性ヘテロポリ酸塩)が非常に細かい微粒子であることに起因すると考えられる。
すなわち、適度な活性を有し、燃焼反応が抑制されたヘテロポリ酸系触媒を製造するためには、高活性であるH−ヘテロポリ酸のプロトンの一部をセシウム、ルビジウム、タリウム、カリウムなどで置換して、H−ヘテロポリ酸と難溶性ヘテロポリ酸塩とを混在させることが有効であることはすでに述べたが、特に、難溶性ヘテロポリ酸塩からなるコアをH−ヘテロポリ酸からなるシェルが均質に覆ったコア−シェル構造のヘテロポリ酸系触媒であれば、より一層、活性と燃焼反応とのバランスが良好な触媒を構成しやすいと考えられる。このような観点から見れば、沈殿生成工程で沈殿物として生成した難溶性ヘテロポリ酸塩は、上述のように非常に細かい微粒子であるため、触媒調製工程でH−ヘテロポリ酸が追加成分としてこれに加えられた場合には、難溶性ヘテロポリ酸塩の周囲をH−ヘテロポリ酸が均質に覆う良好なコア−シェル構造のヘテロポリ酸系触媒が得られやすいと考えられる。そのために、このような方法によれば、未使用のものと同程度またはそれ以上の性能のヘテロポリ酸系触媒を製造できると予想できる。なお、このようにして得られたコア−シェル構造のヘテロポリ酸系触媒のBET法による表面積は、コアである難溶性ヘテロポリ酸塩の数倍程度となる。
また、このような方法において、メタクリル酸製造時の熱や還元雰囲気などにより生成した分解生成物はセシウムなどの塩と反応して難溶化することはない。そのため、これら分解生成物は、沈殿生成工程で生成した沈殿物にはほとんど混入せず、最終的に得られるヘテロポリ酸系触媒中にもほとんど含まれない。この点も、以上説明した方法により優れた性能のヘテロポリ酸系触媒が得られる理由の1つと考えられる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例を用いて説明する。
実施例において、「部」は質量部であり、含有元素の定量分析はICP発光分析法、原子吸光分析法より行った。ヘテロポリ酸塩の生成の確認はX線回折により行った。
また、メタクリル酸の製造における原料ガスと生成物の定量分析はガスクロマトグラフィーにより行った。
なお、メタクロレインの反応率、生成するメタクリル酸の選択率および単流収率は以下のように定義される。
メタクロレインの反応率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸の選択率(%)=(C/B)×100
メタクリル酸の単流収率(%)=(C/A)×100
(ここで、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。)
【0037】
[参考例1]
酸化モリブデン5000部、メタバナジン酸135部、85質量%リン酸1000部を水10000部に分散させ、昇温しながら、60質量%ヒ酸680部、硝酸セシウム500部、28質量%アンモニア水1800部、硝酸ジルコニウム17部、硝酸銅70部、硝酸鉄60部のそれぞれを加えて、加熱攪拌しながら蒸発乾固した。
得られた固形物を130℃で16時間乾燥したものを加圧成型後破砕し、篩の目開き0.85mm篩い上と1.70mm篩い下の範囲のものを分取して、空気流通下にこれを380℃で5時間焼成してヘテロポリ酸系触媒(未使用触媒1)を得た。
この未使用触媒1の金属成分の組成はPAsMo120.3Cu0.1Fe0.Zr0.02Cs1.3であった。
この未使用触媒1を充填した反応管に、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の混合ガスを反応温度270℃、接触時間3.6秒の反応条件で通じ、メタクロレインの気相接触酸化反応によるメタクリル酸の製造を行った。
その結果、表1に示すように、初期のメタクロレイン反応率は71.1%、メタクリル酸選択率は87.2%、メタクリル酸単流収率は62.1%であった。
【0038】
[実施例1]
未使用触媒1を用いて上記参考例1の反応条件で3100時間反応を続けた後、使用済み触媒を抜き出した。これを使用済み触媒1とする。
ついで、この使用済み触媒1の50部を、水道水をイオン交換処理したpH5.5の水1000部に分散させて液状物(分散液)を得た後、液状物を日立工機株式会社製高速冷凍遠心分離機CR22Fによる遠心分離(16,000rpm×5分間)(以下遠心分離という。)をして、液相と固相とに固液分離した。
ついで、得られた液相100質量部に対して、濃度1mol/Lの硝酸セシウム水溶液 50質量部を加えて8時間放置し、沈殿物を生成させた。なお、ここで加えた硝酸セシウム水溶液の量は、液相中のH−ヘテロポリ酸に対する化学量論量とした。なお、化学量論量は、ICP発光分析などによる元素分析から得られた、ヘテロポリ酸の主構成成分であるリン、ヒ素、モリブデン量により求めた。
8時間放置した後、遠心分離により、生成した沈殿物を回収し、さらに、回収された沈殿物10質量部に対して30質量部の水を洗浄水として加えて撹拌後沈降させ、再度同条件にて遠心分離し、沈殿物を回収した。
そして、得られた沈殿物を60℃で8時間真空乾燥させた。
この沈殿物は、元素分析及びX線回折によればセシウムのヘテロポリ酸塩であり、金属成分の元素組成はP0.5As0.5Mo120.3Cu0.1Fe0.1Zr0.0Cs(=P0.22As0.22Mo5.20.13Cu0.04Fe0.04Zr0.02Cs1.3)であった。
この沈殿物の元素組成と未使用触媒1の上記元素組成とを比較し、セシウム以外の各元素成分を追加成分として追加することで、未使用触媒1と同じ組成の再生触媒1を製造した。
具体的には次のように行った。
酸化モリブデン60部、メタバナジン酸1部、85質量%リン酸6部を水600部に分散させ、昇温しながら、60質量%ヒ酸16部、28質量%アンモニア水50部、硝酸銅1部、硝酸鉄1部のそれぞれを加えて、加熱攪拌し、ヘテロポリ酸の液状物を得た。
この液状物と回収された固体回収物とを混合したものを蒸発乾固し、得られた固形物を130℃で16時間乾燥した。ついで、この乾燥品を加圧成型して破砕し、篩の目開き0.85mm篩い上と1.70mm篩い下の範囲のものを分取して、空気流通下にこれを380℃で5時間焼成した。
こうして得られたヘテロポリ酸系触媒の金属成分の組成を確認したところ、PAsMo120.3Cu0.1Fe0.1Zr0.02Cs1.3であった。
【0039】
この触媒(再生触媒1)を用いて、参考例1と同じ反応条件でメタクロレインの気相接触酸化反応によるメタクリル酸の製造を行った。初期の反応成績や、この触媒のBET法による表面積を表1に示す。
【0040】
[実施例2]
回収された沈殿物を洗浄する洗浄水として、水の代わりにpH1の硝酸水溶液を使用して実施例1と同じ組成の沈殿物を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同組成のヘテロポリ酸系触媒を製造した。
この触媒(再生触媒2)を用いて、実施例1と同じ反応条件でメタクロレインの気相接触酸化反応によるメタクリル酸の製造を行った。初期の反応成績や、この触媒のBET法による表面積を表1に示す。
【0041】
[参考例2]
酸化モリブデン5000部、メタバナジン酸135部、85質量%リン酸1000部を水10000部に分散させ、昇温しながら、硝酸セシウム500部、28質量%アンモニア水1800部、硝酸ジルコニウム17部、硝酸銅70部、硝酸鉄60部のそれぞれを加えて、加熱攪拌しながら蒸発乾固した。
得られた固形物を130℃で16時間乾燥したものを加圧成型後破砕し、篩の目開き0.85mm篩い上と1.70mm篩い下の範囲のものを分取して、空気流通下にこれを380℃で5時間焼成してヘテロポリ酸系触媒(未使用触媒2)を得た。
この未使用触媒2の金属成分の組成はPMo120.3Cu0.1Fe0.1Zr0.02Cs1.3であった。
この未使用触媒2を用いて参考例1と同様の反応条件でメタクロレインの気相接触酸化反応によるメタクリル酸の製造を行った。
その結果、表1に示すように、初期のメタクロレイン反応率は67.2%、メタクリル酸選択率は87.6%、メタクリル酸単流収率は58.8%であった。
【0042】
[実施例3]
未使用触媒2を用いて上記参考例2の反応条件で3000時間反応を続けた後、使用済み触媒を抜き出した。これを使用済み触媒2とする。
ついで、この使用済み触媒2の50部を、水道水をイオン交換処理したpH5.5の水1000部に分散させて液状物(分散液)を得た後、液状物を遠心分離して、液相と固相とに固液分離した。
ついで、得られた液相100質量部に対して、濃度1mol/Lの硝酸セシウム水溶液 5質量部を加えて8時間放置し、沈殿物を生成させた。なお、ここで加えた硝酸セシウム水溶液の量は、液相中のH−ヘテロポリ酸に対する化学量論量とした。なお、化学量論量は、ICP発光分析などによる元素分析から得られた、ヘテロポリ酸の主構成成分であるリン、ヒ素、モリブデン量により求めた。
8時間放置した後、遠心分離により、生成した沈殿物を回収し、さらに、回収された沈殿物10質量部に対して30質量部の水を洗浄水として加えて撹拌後沈降させ、再度同条件にて遠心分離し、沈殿物を回収した。
そして、得られた沈殿物を60℃で8時間真空乾燥させた。
この沈殿物は、元素分析及びX線回折によればセシウムのヘテロポリ酸塩であり、金属成分の元素組成はPMo120.3Cu0.1Fe0.1Zr0.01Cs(=P0.43Mo5.20.13Cu0.04Fe0.04Zr0.005Cs1.3)であった。
この沈殿物の元素組成と未使用触媒2の上記元素組成とを比較し、セシウム以外の各元素成分を追加成分として追加することで、未使用触媒2と同じ組成の再生触媒3を製造した。
具体的には次のように行った。
酸化モリブデン61部、メタバナジン酸1.24部、85質量%リン酸4部を水600部に分散させ、昇温しながら、28質量%アンモニア水50部、硝酸ジルコニウム0.20部、硝酸銅0.91部、硝酸鉄1.51部のそれぞれを加えて、加熱攪拌し、ヘテロポリ酸の液状物を得た。
この液状物と回収された固体回収物とを混合したものを蒸発乾固し、得られた固形物を130℃で16時間乾燥した。ついで、この乾燥品を加圧成型して破砕し、篩の目開き0.85mm篩い上と1.70mm篩い下の範囲のものを分取して、空気流通下にこれを380℃で5時間焼成した。
こうして得られたヘテロポリ酸系触媒の金属成分の組成を確認したところ、PMo0.3Cu0.1Fe0.1Zr0.02Cs1.3であった。
【0043】
この触媒(再生触媒3)を用いて、参考例1と同じ反応条件でメタクロレインの気相接触酸化反応によるメタクリル酸の製造を行った。初期の反応成績や、この触媒のBET法による表面積を表1に示す。
【0044】
【表1】


【出願人】 【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
【出願日】 平成18年6月23日(2006.6.23)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男

【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和

【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義

【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉

【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦


【公開番号】 特開2008−710(P2008−710A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−174015(P2006−174015)