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【発明の名称】 メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒の製造方法
【発明者】 【氏名】柾 朋博

【要約】 【課題】使用済みのメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒から、簡単かつ低コストに、未使用のものに対して90%以上の収率のメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を製造する。

【構成】セシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素とモリブデンを含有し、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用された使用済みヘテロポリ酸系触媒をpH1以上、pH8未満の水性媒体と接触させ、得られた分散液を液体成分と固体回収成分とに固液分離する分離工程と、前記固体回収成分を原料として、メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を調製する触媒調製工程とを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用されるヘテロポリ酸系触媒の製造方法において、
セシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素とモリブデンを含有し、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用された使用済みヘテロポリ酸系触媒をpH1以上、pH8未満の水性媒体と接触させ、得られた分散液を液体成分と固体回収成分とに固液分離する分離工程と、前記固体回収成分を原料として、メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を調製する触媒調製工程とを有することを特徴とするヘテロポリ酸系触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用されるヘテロポリ酸系触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用される触媒としてヘテロポリ酸系触媒がある。
このようなヘテロポリ酸系触媒としては、例えばモリブドリン酸、モリブドバナドリン酸など、カウンターカチオンがプロトンであるヘテロポリ酸と、そのプロトンの一部をセシウム、ルビジウム、タリウム、カリウムなどで置換し、ヘテロポリ酸塩にしたものとが知られている。ヘテロポリ酸は酸性度が高いため、これを単独で触媒として使用するとメタクリル酸の選択率が低くなる。そこで、プロトンの一部を部分中和することにより酸性度を調整したものを触媒とすることが特許文献1に記載されている。
【0003】
なお、カウンターカチオンがプロトンであるヘテロポリ酸は水溶性であるが、プロトンがセシウム、ルビジウム、タリウム、カリウムのうちの少なくとも1種で置換されたヘテロポリ酸塩は、一般に水に難溶性である。これら元素のカチオンのイオン半径は1.1Å以上であり、このことが難溶性と相関があるとされ、例えば特許文献2でもヘテロポリ酸の沈殿剤として記載されている。
以下、カウンターカチオンがプロトンだけであるヘテロポリ酸を「H−へテロポリ酸」と言い、カウンターカチオンがセシウム、ルビジウム、タリウム、カリウムのうちの少なくとも1種であるヘテロポリ酸塩を「難溶性ヘテロポリ酸塩」という場合がある。
【0004】
ヘテロポリ酸系触媒は、メタクリル酸製造時の熱や還元雰囲気などにより分解して分解生成物を生じ、その結果、経時的にメタクリル酸収率が低下することが知られている。そのため、このようにメタクリル酸収率が低下した使用済みのヘテロポリ酸系触媒を有効に使用して、新たなヘテロポリ酸系触媒を製造する技術について種々検討されている。
【0005】
特許文献3には、難溶性ヘテロポリ酸塩から水溶性のヘテロポリ酸や元素の回収をするために、使用済みのヘテロポリ酸系触媒を水に分散させた後、好ましくはpH8以上となる量の水酸化ナトリウム水溶液やアンモニウム水を加えた液を得て、さらに、酸を加えてpH6.5以下に調整して沈殿させる方法が記載されている。この方法は、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水を加えた液をイオン交換樹脂に通す工程やpH調整を繰り返し行う工程などが必要であり、工程が煩雑であった。このように煩雑な方法では、手間がかかるうえ消費エネルギーコストも高くなるため、使用済み触媒を有効に利用する技術としては好適ではなかった。
【特許文献1】特開平08−1005号公報
【特許文献2】特開平07−213922号公報
【特許文献3】特開2001−29799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、使用済みのメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒から、簡単かつ低コストに、未使用触媒に対して90%以上のメタクリル酸収率を発揮するメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のヘテロポリ酸系触媒の製造方法は、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用されるヘテロポリ酸系触媒の製造方法において、セシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素とモリブデンを含有し、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用された使用済みヘロポリ酸系触媒をpH1以上、pH8未満の水性媒体と接触させ、得られた分散液を液体成分と固体回収成分とに固液分離する分離工程と、前記固体回収成分を原料としてメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を調製する触媒調製工程とを有することを特徴とする。
【0008】
前記触媒調製工程は、前記固体回収成分に追加成分を加える成分追加工程と、成分追加工程で得られた混合物を焼成する焼成工程とを有していることが好ましい。
製造される前記メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒は、下記式(1)で表される組成を有することが好ましい。
aMobcCudefgh (1)
(式中のMo、V、CuおよびOは、それぞれがモリブデン、バナジウム、銅および酸素を示し、Aはリン、ヒ素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Dはアンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、珪素、タングステンおよびホウ素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、マンガン、コバルト、バリウム、ガリウム、セリウムおよびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Zはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。a,b,c,d,e,f,g,およびhは各元素の原子比率で表し、b=12のときa=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用済みのメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒から、簡単かつ低コストに、未使用触媒に対して90%以上のメタクリル酸収率を発揮するメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用されるヘテロポリ酸系触媒の製造方法であって、気相接触酸化によるメタクリル酸の製造に使用された使用済みヘテロポリ酸系触媒(以下、単に使用済み触媒という。)を水などのpH1以上、pH8未満の水性媒体と接触させ、得られた分散液を液体成分と固体回収成分とに固液分離する分離工程を有する。
【0011】
ここで使用済み触媒とは、セシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素とモリブデンを含有し、メタクロレイン、イソブタン、イソ酪酸、イソブチルアルデヒドなどを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用されたものであれば制限はなく、メタクリル酸収率などの触媒性能が明確に低下していないものでもよい。反対に、メタクリル酸製造時の反応温度を上げるなどメタクリル酸収率に有利な反応条件変更を行っても、メタクリル酸収率の維持が困難となったような劣化の進行した触媒であってもよい。
【0012】
使用済み触媒は、触媒活性成分であるH−ヘテロポリ酸と、そのプロトンの一部がプロトン以外のカチオンで置換された低活性成分のヘテロポリ酸塩とを含有する。
これらH−ヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩のポリ原子としては、少なくともモリブデンが含まれ、その他にはバナジウム、アンチモン、タングステン、ニオブなどを含んでいてもよい。また、使用済み触媒は、ヘテロ原子として、例えばリン、ヒ素、珪素、イオウ、窒素、テルル、アンチモン、セリウムなどヘテロ原子になり得る元素を少なくとも1種含有する。
【0013】
ヘテロポリ酸塩を構成するカウンターカチオンには、セシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素のカチオンが少なくとも含まれ、これらカチオンにより、H−ヘテロポリ酸のプロトンの一部が置換されている。置換体としては、例えば1置換体、2置換体、3置換体などがあり、これらが混在していることもある。また、場合によっては、カチオンとして、セシウム、カリウム、タリウム、ルビジウム以外のカチオン、例えばアンモニウムイオンなどが含まれる場合もある。
【0014】
さらに、使用済み触媒には、その触媒の製造工程に由来するヘテロポリ酸を構成しないフリーの化合物、メタクリル酸製造時の熱や還元雰囲気などにより生成した分解生成物も通常は含まれる。分解生成物としては、ヘテロポリ酸系触媒を構成している金属元素の酸(モリブデン酸の他、例えばリン酸、バナジン酸、ヒ酸などであり、以下、金属酸ともいう。)がある。
【0015】
分離工程において、このような使用済み触媒を水性媒体と接触させた場合、使用済み触媒に含まれるH−ヘテロポリ酸や分解生成物である上述の金属酸、フリーの化合物などは水性媒体に溶解しやすいが、セシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムのヘテロポリ酸塩は水に難溶性であることが多く、水性媒体にはほとんど溶解しない。
よって、使用済み触媒を水性媒体と接触させ、得られた分散液を液体成分と固体回収成分とに固液分離することにより、カウンターカチオンがセシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムからなる群より選ばれる1種以上のヘテロポリ酸塩を主に含有し、H−ヘテロポリ酸や分解生成物をほとんど含有しない固体回収成分を得ることができる。通常、固体回収成分のうちの80質量%以上が難溶性ヘテロポリ酸塩である。
水性媒体としては、水、水溶液、含水アルコールなどが挙げられるが、pHは1以上、8未満であることが必要であり、1〜7であることが好ましく、より好ましくは1〜6である。pHの調整は、例えば水に硝酸などの酸を加える方法、水道水をイオン交換処理する方法などにより行うことができるが、後者が簡便である。
【0016】
分離工程において、水などの水性媒体とこれと接触させる使用済み触媒との比率には特に制限はなく、この触媒の水性媒体に対する分散性や溶解性の他、分散液の撹拌性や、使用済み触媒が加水分解しにくいような比率であること(例えば、日本化学会誌、1985(12),p.2237〜2245参照)などを勘案して決定すればよいが、水性媒体100質量部に対して使用済み触媒0.1〜50質量部の範囲が好ましい。さらに分散液の粘度や分離工程の効率性などを考慮すると、より好ましくは1〜30質量部である。
また、水性媒体と使用済み触媒とを接触させる際のスケールにも特に制限はなく、100g程度の小スケールから数10mの工業スケールまで、いかなるスケールで実施してもよい。
【0017】
水性媒体と使用済み触媒を接触させる際の温度にも特に制限はなく、その環境温度などに応じて決定すればよいが、加熱をしない常温付近であってもH−ヘテロポリ酸や金属酸などの水溶性成分は水性媒体に十分に溶解する点、90℃以下であっても水性媒体の温度が高くなるとヘテロポリ酸系触媒が加水分解する可能性がある点(例えば、日本化学会誌、1986(2),p.120〜125参照)などから、1〜40℃が好ましい。
【0018】
使用済み触媒を水性媒体と接触させる方法としては、使用済み触媒を水性媒体に加える方法、水性媒体を使用済み触媒に加える方法、使用済み触媒に水性媒体を噴霧する方法などが挙げられる。また、使用済み触媒と水性媒体を接触させてから、得られた分散液を液体成分と固体回収成分とに固液分離するまでの間、撹拌装置により撹拌してもよい。撹拌時間には特に制限はないが、30分間以下で十分である。
【0019】
分散液を固液分離する方法としては、ろ過法、遠心分離法、自然沈降法など、通常の固液分離法のなかから適宜採用すればよいが、小スケールの場合には、固液分離を迅速に行えることから遠心分離が好ましく、遠心分離の条件としては、例えば回転数12,000〜18,000rpmで、1〜20分間などの条件が好適である。一方、工業スケールの場合には、消費エネルギーが少なくて済むことから、自然沈降法を採用し、上層の液体成分を抜き出した後、底部に溜まった固体回収成分を回収する方法が好ましい。この場合、固体回収成分をそのまま次の触媒調製工程に使用してもよいし、ろ過法により液体成分を十分に除去してから使用してもよい。
【0020】
触媒調製工程は、分離工程で得られた固体回収成分を原料として使用して、メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を調製する工程である。
ここで固体回収成分は、上述したように、カウンターカチオンがセシウム、カリウム、タリウム、ルビジウムからなる群より選ばれる1種以上である難溶性ヘテロポリ酸塩を主成分とするものであって、触媒としては低活性な成分である。
よって、触媒調製工程では、このような固体回収成分に対して、触媒として高活性な成分、好ましくはH−ヘテロポリ酸を主とする成分を追加成分として加えてから(成分追加工程)、この成分追加工程で得られた混合物を必要に応じて乾燥し(乾燥工程)、焼成する(焼成工程)ことが好ましい。なお、成分追加工程の前には、固体回収成分を40〜160℃に保持された真空乾燥機などで一昼夜程度乾燥してもよい。
【0021】
成分追加工程を実施するにあたっては、実際には、分離工程で得られた固体回収成分をICP発光分析法、蛍光X線分析法、原子吸光分析法などで元素分析し、得られた元素分析結果に応じて、目的とする組成から追加すべき追加成分を決定することが好ましい。より好ましくは、製造されるヘテロポリ酸系触媒が下記式(1)で表される組成となるように、追加成分を追加することが好ましい。式(1)のような組成のヘテロポリ酸系触媒であれば、メタクロレインからメタクリル酸を高収率で得ることができる。
【0022】
aMobcCudefgh (1)
(式中のMo、V、CuおよびOは、それぞれがモリブデン、バナジウム、銅および酸素を示し、Aはリン、ヒ素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Dはアンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、珪素、タングステンおよびホウ素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yは鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、マンガン、コバルト、バリウム、ガリウム、セリウムおよびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Zはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。a,b,c,d,e,f,g,およびhは各元素の原子比率で表し、b=12のときa=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0〜2、e=0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【0023】
蛍光X線分析法は乾燥粉で測定できるが、ICP発光分析法、原子吸光分析法などで元素分析する際には、まず、試料約0.1gと、25〜28質量%アンモニア水0.5mlと、純水約20mlとを超音波照射しながら混合し、試料が完全に溶解した溶液を調製する。そしてこれを適当な倍率に希釈して、上記分析法に供することが好適である。
【0024】
成分追加工程における追加成分の追加方法としては、例えば追加成分が水などの水性媒体中に溶解または分散した液状物を調製し、これを固体回収成分と混合してスラリーとする湿式混合法や、固体状の追加成分を固体回収成分と混合する乾式混合法が挙げられる。しかしながら、追加成分と固体回収成分とが良好に分散し、表面の化学状態や酸点などが均質なヘテロポリ酸系触媒が得られやすいことから、追加成分を液状物として固体回収成分と混合する湿式混合法がより好適である。特にH−ヘテロポリ酸及び/またはその前駆体であるアンモニウムのヘテロポリ酸塩を湿式混合法で固体回収成分に追加して得られたヘテロポリ酸系触媒によれば、H−ヘテロポリ酸の有する高活性点と、固体回収成分中の難溶性ヘテロポリ酸塩の有する低活性点とが高分散し、メタクロレインの燃焼反応が抑制された適度な活性を実現できる。
【0025】
H−ヘテロポリ酸を追加成分とする場合には、公知の方法でH−ヘテロポリ酸を合成し、これを固体回収成分に追加すればよい。H−ヘテロポリ酸の合成方法としては、これを構成する元素の塩、酸などを原料とし、これを水に溶解し、その後加熱撹拌しながら蒸発乾固する蒸発乾固法の他、水熱合成法、固相反応法などがある。
【0026】
追加成分を湿式混合法で追加した場合には、例えば、得られたスラリーを蒸発乾固し、その水分の大部分を除去した後、乾燥する。乾燥方法は特に限定されず、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法などの方法が挙げられる。この際に使用する乾燥機の機種や乾燥温度などの条件は特に限定されず、所望する乾燥品の形状や大きさにより適宜選択することができる。そして、乾燥工程で得られた乾燥品を空気などの酸素含有雰囲気下、200〜500℃、好ましくは300〜450℃で0.5時間以上、好ましくは1〜40時間の条件で焼成する(焼成工程)ことにより、メタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を製造することができる。
追加成分の追加を乾式混合法で行った場合には、得られた混合物に対して、必要に応じて上述の乾燥工程を実施した後、焼成工程を実施すればよい。
なお、焼成工程の前には、固体回収成分と追加成分との混合物やその乾燥品を顆粒状に整粒してもよい。整粒の方法としては、混合物や乾燥品を加圧成形した後破砕し、さらに篩分して、特定の範囲に分級された顆粒のみを採用する方法が挙げられる。また、成型品にしてもよく、その場合は、例えば、得られた乾燥品を打錠成型機により、外径5mm、内径2mm、長さ5mmのリング状に成型する。そして、この成型品を空気流通下、380℃にて12時間焼成することにより、メタクリル酸製造用触媒を得ることができる。
【0027】
こうして得られたメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒は、使用済み触媒のうち、活性が低く不要成分であると考えられていた難溶性ヘテロポリ酸塩を原料としているにもかかわらず、未使用触媒の収率と比較した収率、すなわち再生率が90%以上の良好な性能を発揮する。
また、以上説明した製造方法は、使用済み触媒を水性媒体と接触させ、得られた分散液を液体成分と固体回収成分とに固液分離する分離工程と、固体回収成分を原料としてメタクリル酸製造用ヘテロポリ酸系触媒を調製する触媒調製工程とを有する簡単かつ低コストな方法である。
【0028】
このように使用済み触媒中の難溶性ヘテロポリ酸塩を原料とすることで、未使用触媒のメタクリル酸収率に対して90%以上の収率のヘテロポリ酸系触媒が得られる理由については、難溶性ヘテロポリ酸塩が、H−ヘテロポリ酸よりも耐熱性に優れていることに起因すると考えられる。
すなわち、ヘテロポリ酸系触媒をメタクリル酸の製造に使用した場合、熱や還元雰囲気などにより、H−ヘテロポリ酸が分解して触媒性能低下を引き起こすが、難溶性ヘテロポリ酸はほとんど分解せず、未使用時の状態を維持していると推測できる。よって、このような良好な状態を維持している難溶性ヘテロポリ酸を回収し、これを原料とすることで、未使用のものと同程度の性能のヘテロポリ酸系触媒が得られると考えられる。
このように難溶性ヘテロポリ酸塩が未使用時の状態を維持し、H−ヘテロポリ酸が主に分解されているという推測は、難溶性ヘテロポリ酸の元素分析組成が、使用前後で変わらないこと及び、使用済み触媒中の水溶性成分(すなわち、主にH−ヘテロポリ酸)のヘテロポリ酸が一部分解していたことから裏付けられる。
また、このような方法では、分離工程において、メタクリル酸製造時の熱や還元雰囲気などにより生成した分解生成物は水溶性成分として固体回収成分から分離され、製造されたヘテロポリ酸系触媒中にこれら分解生成物がほとんど混入しない。この点も、優れた性能のヘテロポリ酸系触媒が得られる理由の1つと考えられる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について、実施例を用いて説明する。
実施例において、「部」は質量部であり、含有元素の定量分析はICP発光分析法、原子吸光分析法より行った。ヘテロポリ酸塩の生成の確認はX線回折により行った。
また、メタクリル酸の製造における原料ガスと生成物の定量分析はガスクロマトグラフィーにより行った。
なお、メタクロレインの反応率、生成するメタクリル酸の選択率および単流収率は以下のように定義される。
メタクロレインの反応率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸の選択率(%)=(C/B)×100
メタクリル酸の単流収率(%)=(C/A)×100
(ここで、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。)
【0030】
[参考例1]
酸化モリブデン5000部、メタバナジン酸135部、85質量%リン酸1000部を水10000部に分散させ、昇温しながら、60質量%ヒ酸680部、硝酸セシウム500部、28質量%アンモニア水1800部、硝酸ジルコニウム42部、硝酸銅70部、硝酸鉄60部のそれぞれを加えて、加熱攪拌しながら蒸発乾固した。
得られた固形物を130℃で16時間乾燥したものを加圧成型後破砕し、篩の目開き0.85mm篩い上と1.70mm篩い下の範囲のものを分取して、空気流通下にこれを380℃で5時間焼成してヘテロポリ酸系触媒(未使用触媒1)を得た。
この未使用触媒1の金属成分の組成はPAsMo120.3Cu0.1Fe0.Zr0.05Cs1.3であった。
この未使用触媒1を充填した反応管に、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の混合ガスを反応温度270℃、接触時間3.6秒の反応条件で通じ、メタクロレインの気相接触酸化反応によるメタクリル酸の製造を行った。
初期のメタクロレイン反応率は71.1%、メタクリル酸選択率は87.2%、メタクリル酸単流収率は62.1%であった。
【0031】
[実施例1]
未使用触媒1を用いて参考例1の反応条件で3100時間反応を続けた後、使用済み触媒を抜き出した。これを使用済み触媒1とする。
ついで、この使用済み触媒1の50部を、水道水をイオン交換処理したpH5.5の水1000部に分散させて分散液を得た後、この分散液を日立工機株式会社製高速冷凍遠心分離機CR22Fによる遠心分離(16,000rpm×5分間)(以下遠心分離という。)をして、液体成分と固体回収成分とに固液分離した。
得られた固体回収成分を60℃で8時間真空乾燥させた。
この固体回収成分は、元素分析とX線回折によればセシウムのヘテロポリ酸塩であり、金属成分の元素組成はP0.5As0.5Mo120.3Cu0.1Fe0.1Zr.02Cs(=P0.325As0.325Mo7.80.195Cu0.065Fe0.06Zr0.013Cs1.3)であった。
この固体回収成分の元素組成と未使用触媒1の上記元素組成とを比較し、セシウム以外の各元素成分を追加成分として追加することで、未使用触媒1と同じ組成の再生触媒1を製造した。
具体的には次のように行った。
酸化モリブデン17部、メタバナジン酸0.3部、85質量%リン酸2部を水50部に分散させ、昇温しながら、60質量%ヒ酸6部、28質量%アンモニア水15部、硝酸ジルコニウム0.22部、硝酸銅0.24部、硝酸鉄0.45部のそれぞれを加えて、加熱攪拌し、ヘテロポリ酸塩の液状物を得た。
この液状物と回収された固体回収成分とを混合したものを蒸発乾固し、得られた固形物を130℃で16時間乾燥した。ついで、この乾燥品を加圧成型して破砕し、篩の目開き0.85mm篩い上と1.70mm篩い下の範囲のものを分取して、空気流通下にこれを380℃で5時間焼成した。
こうして得られたヘテロポリ酸系触媒の金属成分の組成を確認したところ、PAsMo120.3Cu0.1Fe0.1Zr0.05Cs1.3であった。
【0032】
この触媒(再生触媒1)を用いて、参考例1と同じ反応条件でメタクロレインの気相接触酸化反応によるメタクリル酸の製造を行った結果、初期のメタクロレイン反応率は65.3%、メタクリル酸選択率は89.2%、メタクリル酸単流収率58.3%であり、未使用触媒1の収率と比較した再生率は94%となり、良好な性能が発揮された。
【0033】
[参考例2]
酸化モリブデン5000部、メタバナジン酸135部、85質量%リン酸1000部を水10000部に分散させ、昇温しながら、硝酸セシウム500部、28質量%アンモニア水1800部、硝酸ジルコニウム42部、硝酸銅70部、硝酸鉄60部のそれぞれを加えて、加熱攪拌しながら蒸発乾固した。
得られた固形物を130℃で16時間乾燥したものを加圧成型後破砕し、篩の目開き0.85mm篩い上と1.70mm篩い下の範囲のものを分取して、空気流通下にこれを380℃で5時間焼成してヘテロポリ酸系触媒(未使用触媒2)を得た。
この未使用触媒2の金属成分の組成はPMo120.3Cu0.1Fe0.1Zr0.05Cs1.3であった。
この未使用触媒2を用いて参考例1と同様の反応条件でメタクロレインの気相接触酸化反応によるメタクリル酸の製造を行った。
初期のメタクロレイン反応率は68.4%、メタクリル酸選択率は87.6%、メタクリル酸単流収率は59.9%であった。
【0034】
[実施例2]
未使用触媒2を用いて参考例2の反応条件で3000時間反応を続けた後、使用済み触媒を抜き出した。これを使用済み触媒2とする。
ついで、この使用済み触媒2の50部を、水道水をイオン交換処理したpH5.5の水1000部に分散させて分散液を得た後、この分散液を遠心分離して、液体成分と固体回収成分とに固液分離した。
得られた固体回収成分を60℃で8時間真空乾燥させた。
この固体回収成分は、元素分析とX線回折によればセシウムのヘテロポリ酸塩であり、金属成分の元素組成はPMo120.3Cu0.1Fe0.1Zr0.02Cs(=P0.65Mo7.80.195Cu0.065Fe0.065Zr0.013Cs1.3)であった。
この固体回収成分の元素組成と未使用触媒2の上記元素組成とを比較し、セシウム以外の各元素成分を追加成分として追加することで、未使用触媒2と同じ組成の再生触媒2を製造した。
具体的には次のように行った。
酸化モリブデン17部、メタバナジン酸0.34部、85質量%リン酸1部を水50部に分散させ、昇温しながら、28質量%アンモニア水15部、硝酸ジルコニウム0.22部、硝酸銅0.24部、硝酸鉄0.39部のそれぞれを加えて、加熱攪拌し、ヘテロポリ酸塩の液状物を得た。
この液状物と回収された固体回収成分とを混合したものを蒸発乾固し、得られた固形物を130℃で16時間乾燥した。ついで、この乾燥品を加圧成型して破砕し、篩の目開き0.85mm篩い上と1.70mm篩い下の範囲のものを分取して、空気流通下にこれを380℃で5時間焼成した。
こうして得られたヘテロポリ酸系触媒の金属成分の組成を確認したところ、PMo0.3Cu0.1Fe0.1Zr0.05Cs1.3であった。
【0035】
この触媒(再生触媒2)を用いて、参考例2と同じ反応条件でメタクロレインの気相接触酸化反応によるメタクリル酸の製造を行った結果、初期のメタクロレイン反応率は62.1%、メタクリル酸選択率は88.5%、メタクリル酸単流収率54.9%であり、未使用触媒2の収率に比較した再生率は92%となり、良好な性能が発揮された。
【0036】
【表1】


【出願人】 【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
【出願日】 平成18年6月23日(2006.6.23)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男

【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和

【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義

【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉

【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦


【公開番号】 特開2008−709(P2008−709A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−174014(P2006−174014)