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【発明の名称】 カテーテル補強用の筒状編体、及びそれを用いたカテーテル
【発明者】 【氏名】谷本 好則

【氏名】中野 博

【要約】 【課題】高強度で操作性に優れ、耐繰返し疲労特性及び耐座屈性を具えるとともに、磁気現象による磁場の干渉や撹乱による種々問題を防止し得るカテーテル補強用の筒状網体と、それを用いたカテーテルの提供を目的とする。

【構成】扁平面を持つ微小金属の帯状細線の編組加工によって、細径筒状に成形されてなる網体であって、帯状細線は、質量%でC:≦0.06%,Si≦0.80%,Mn:3.00〜18.00%,Ni:2.00〜13.00%,Cr:15.00〜25.00%,N:0.10〜0.80%と、必要に応じてMo:0.40〜3.50%,Cu:0.08〜0.80%のいずれか1種以上を含んで構成され、かつ引張強さ(σ)1500〜3000MPa、透磁率:1.01以下の高強度非磁性特性を有する前記高MnN添加型ステンレス鋼でなるカテーテル補強用の筒状網体と、該網体によるカテーテル製品である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ50μm以下に押圧され扁平面を持つ帯状細線の編組加工によって、細径チューブ状の組物に成形されてなる筒状網体であって、
前記帯状細線はステンレス鋼であって、
組成が質量%で
C≦0.06%,
Si≦0.80%,
Mn:3.00〜18.00%,
Ni:2.00〜13.00%,
Cr:15.00〜25.00%,
N:0.100〜0.800% とからなる主部を含み、
かつ残部:Fe、及び不可避不純物により構成され、
又は前記主部に
Mo:0.40〜3.50%,
Cu:0.08〜0.80%の少なくとも1種以上を含ませ、
かつ残部:Fe及び不可避不純物により構成されるとともに、
該帯状細線は引張強さ(σ)が1500〜3000MPa、透磁率が1.01以下の高強度非磁性特性を有する高MnN添加型のステンレス鋼を用いたことを特徴とするカテーテル補強用の筒状網体。
【請求項2】
前記ステンレス鋼は、質量%で前記主部が、
C:≦0.03%,
Si≦0,50%,
Mn:5.00〜8.00%,
Ni:8.00〜12.00%,
Cr:19.00〜23.00%,
N:0.30〜0.60%、の範囲
かつこの主部に
Mo:1.00〜3.00%,
Cu:0.08〜0.80%の少なくとも1種以上を含ませ、
しかも残部:Fe及び不可避不純物で構成されたことを特徴とする請求項1に記載の前記筒状網体。
【請求項3】
前記ステンレス鋼は、質量%で前記主部が、
C≦0.06%,
Si≦0.50%,
Mn:12.00〜17.00%,
Ni:2.00〜5.00%,
Cr:16.00〜20.00%,
N:0.30〜0.60%、の範囲
かつこの主部に
Mo:0.40〜2.00%、
Cu:0.40〜0.70%の少なくとも1種以上を含ませ、
しかも、残部:Fe及び不可避不純物により構成したことを特徴とする請求項1に記載の前記筒状網体。
【請求項4】
前記不可避不純物は、Nb,Ti,A1,Oの少なくとも一種の元素で、かつその元素の含有量は質量%で、
Nb:0.020%以下,
Ti:0.030%以下,
Al:0.010%以下,
O:0.008%以下
であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の筒状網体。
【請求項5】
前記ステンレス鋼は、その元素の質量%が次の関係式を満足することを特徴とする請求項4記載の筒状網体。
Ni+1.05Mn+12.6N=(18.0〜25.0%)
≧0.65Cr+12.6C
【請求項6】
前記帯状細線は、固溶化熱処理後の冷間伸線加工と該伸線加工に続く冷問圧延加工によって、厚さ20μm以下で、かつ該厚さの2〜10倍の巾寸法を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の前記筒状網体。
【請求項7】
前記引張強さ(σ)と0.2%耐力(τ)との耐力比{(τ/σ)×100}が、85〜98%であることを特徴とする請求項6に記載の前記筒状網体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の前記筒状網体の内外面に樹脂製材料を配して被包することにより形成したチューブ体を有することを特徴とするカテーテル。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は医療用のカテーテルにおいて補強用部材として樹脂材料に複合して使用される金属製の筒状網体に関し、さらに詳しくは、特に高強度で挿入操作性に優れるとともに、繰返し耐疲労特性、耐座屈性を具え、かつMRI、CTスキャンなどを使用する併用時にも磁場の干渉、撹乱による画像の歪みを減じうる非磁性特性を有する筒状網体、及びそれを用いたカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管内に挿入されるカテーテルは、例えば図6に示すように、可撓性の長尺筒状のチューブ体Aと、該チューブ体Aを基端側で固定する把手部Bと、チューブ体Aの先端側に配されるソフトチップCとを具え、把手部BからソフトチップCまで通る内孔cにより、種々な医療部材、薬剤を人体血管内の特定部位に供給する。
【0003】
このカテーテルは、その複雑に入り組みかつ分岐する前記血管内に沿って目的部位に円滑に進入できるよう、柔軟でかつ把手部BのトルクをソフトチップCまで伝達できるトルク伝達性、及び座屈に耐え変形がないなどの操作性とともに、小径の血管、例えば血管末梢部まで進入しうる細径化も求められている。
【0004】
しかもカテーテルでは前記細径化の反面、薬剤等の供給に支障がない程度の広さの内部通路を有すること、注入圧に耐える耐圧性を具えることも必要である。
【0005】
このため、同図に示すようにチューブ体Aの周面に沿ってその内部に金属細線aをブレード編み加工(編組)した筒状網体bを埋設したものが多用されている。
【0006】
こうしたブレード編組用の金属細線aは、その引張強さを増すことによって、カテーテル壁を薄くし、かつ可撓性を犠牲にすることなくキンクを防止しうる剛性を付与する提案がある(例えば特許文献1参照)。又筒状網体bに用いる線材として、焼鈍されたステンレス鋼線を幅0.26mm、厚さ0.06mmの扁平な帯板に圧延成形した平線を用いて編組加工することも提案されている(例えば特許文献2)。さらに特許文献3は、その一形態として特許文献2と同様に加工された平線であって、組成としてN、Nbを添加したオーステナイト系ステンレス鋼を用いることを提案している。
【0007】
【特許文献1】特開平7−194707号公報
【特許文献2】特開平8−317986号公報
【特許文献3】特開2002−282366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記各特許文献に示す金属細線において、通常のステンレス鋼線を冷間加工して加工硬化させたものでは、材料の剛性が増して組織的に不安定なものとなり、耐疲労特性が低下するばかりでなく、細径加工性及び編組作業性にも悪影響する。また逆に加工硬化の程度が小さいものでは強度不足からトルク伝達性、耐座屈性が低下して使用時の操作性に劣るとともに、薬液注入時の耐圧性の面からも好ましいものとは言い難い。
【0009】
なお、特許文献3はチューブの薄肉化の為により高強度にすることでトルク性、耐キング性を向上し、このような問題の一端を改善するものとして前記のようにN、Nbを添加したオーステナイト系ステンレス鋼を用いることを記載しているが、非磁性特性の改善についての配慮はない。
【0010】
ところで、近年の医療現場では、カテーテルは例えばMRI、CTスキャンなどの高度診断検査装置とともに用いられている。これら装置は体内の無数の水素原子核(プロトン)が小さい磁石であることを応用してその配列を磁気共鳴現象を用いて検出する。そのために、磁性特性を有するものは磁場の干渉、攪乱によって画像の歪みが生じやすい。
【0011】
このようにカテーテルは画像の歪みを生じることなく、かつその挿入状態を正確に把握でき、しかも取扱い性を向上するものでなければならず、そのためには、前記磁性材料からなるカテーテルはその課題を解決しうるものではない。
【0012】
そこで本発明は、特にカテーテル補強用の筒状網体として、特に高強度で操作性に優れ、耐繰返し疲労特性及び耐座屈性を具えるとともに、磁気現象による前記種々問題を防止し得るカテーテル補強用の筒状編体、及びそれを用いたカテーテルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本願請求項1に係る発明は、カテーテル補強用の筒状網体であって、厚さ50μm以下に押圧され扁平面を持つ帯状細線の編組加工によって、細径チューブ状の組物に成形されてなる筒状網体であって、前記帯状細線はステンレス鋼であって、組成は、質量%でC≦0.06%,Si≦0.80%,Mn:3.00〜18.00%,Ni:2.00〜13.00%,Cr:15.00〜25.00%,N:0.10〜0.80% とからなる主部を含み、かつ残部がFe、及び不可避不純物で構成され、又は前記主部にMo:0.40〜3.50%,Cu:0.08〜0.80%の少なくとも1種以上を含ませ、かつ残部がFe及び不可避不純物で構成されるとともに、該帯状細線は引張強さ(σ)が1500〜3000MPa、透磁率が1.01以下の高強度非磁性特性を有する高MnN添加型のステンレス鋼を用いたことを特徴とする。
【0014】
本願請求項2に係る発明は、前記ステンレス鋼が、質量%で前記主部が、C:≦0.03%,Si≦0,50%,Mn:5.00〜8.00%,Ni:8.00〜12.00%,Cr:19.00〜23.00%,N:0.30〜0.60%であり、かつこの主部にMo:1.00〜3.00%,Cu:0.08〜0.80%の少なくとも1種以上を含ませ、しかも残部:Fe及び不可避不純物で構成されたことを特徴とする。
【0015】
本願請求項3に係る発明は、前記ステンレス鋼が、質量%で前記主部が、C≦0.06%,Si≦0.50%,Mn:12.00〜17.00%,Ni:2.00〜5.00%, Cr:16.00〜20.00%,N:0.30〜0.60% かつこの主部にMo:0.40〜2.00%、Cu:0.40〜0.70%の少なくとも1種以上を含ませ、しかも、残部:Fe及び不可避不純物で構成したことを特徴としている。
【0016】
本願請求項4に係る発明は、前記不可避不純物が、Nb,Ti,Al,Oの少なくとも一種の元素を含み、かつその元素の含有量は質量%で、Nb:0.020%以下,Ti:0.030%以下,Al:0.010%以下,O:0.008%以下であることを特徴としている。
【0017】
本願請求項5に係る発明は、前記ステンレス鋼が、その元素の質量%が次の関係式を満足することを特徴とする。
Ni+1.05Mn+12.6N=(18.0〜25.0%)
≧0.65Cr+12.6C
【0018】
本願請求項6に係る発明は、前記帯状細線が、固溶化熱処理後の冷間伸線加工と該伸線加工に続く冷問圧延加工によって、厚さ20μm以下で、かつ該厚さの2〜10倍の巾寸法を有することを特徴とし、かつ本願請求項7に係る発明は、前記引張強さ(σ)と0.2%耐力(τ)との耐力比{(τ/σ)×100}が、85〜98%であることを特徴とする。
【0019】
本願請求項8に係る発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の前記筒状網体の内外面に樹脂製材料を配して被包することにより形成したチューブ体を有することを特徴とするカテーテルである。
【発明の効果】
【0020】
本願請求項1に係る発明は、前記筒状網体に用いる帯状細線が、厚さ50μm以下に押圧された偏平面を有する横断面偏平形状をなし、かつ引張強さ1500〜3200MPaの高強度特性と、透磁率が1.01以下の非磁性特性とを持つ前記高MnかつN添加した特定組成のオーステナイト系ステンレス鋼を用いて構成し、これを編組加工によって筒状の筒状網体(ブレードメッシュ)としたものであるため、編粗形状の保持が容易となり、かつ高強度であって挿入操作性に優れ、曲げ、その繰り返しに対する高い疲労特性及び耐座屈性を具える。また該ステンレス鋼は、オーステナイト系の中でも特に高MnかつN添加した組成によってオーステナイト相の安定化を図り、高強度で非磁性を具えることから、これを例えばMRIなど磁気共鳴診断装置と併用する場合にも磁性の影響を抑え、画像の乱れを予防できる。
【0021】
また請求項2及び3に係る発明では、各々調整された前記ステンレス鋼の組成によって前記特性をさらに安定化したものとなり、特に請求項2に係る発明では耐食性の向上が可能となり、また請求項3の発明ではさらに弾性率、疲労特性を高めてより耐座屈性に優れた網体を提供できる。
【0022】
さらに請求項4及び5の発明によれば、Nb,Ti,Al,Oなどの酸化物や非金属介在物などの発生を防いで表面性状に優れ、さらにオーステナイト相を安定化して特性の向上を図るとともに、厚さの薄い金属帯状細線として、繰り返し疲労特性を高めたカテーテル用の網体が可能となり、非磁性特性をさらに向上する。
【0023】
請求項6の発明では、該帯状細線は固溶化熱処理後の冷間伸線加工で一旦加工硬化したものを用い、これを冷間圧延するものであることから、高強度化できるとともに巾側面部での微小凹凸を防いで寸法安定性に優れた帯状細線が可能となり、したがって、これを用いた網体では、繰返し疲労による折損を防いで長寿命の筒状網体となり、又請求項7に係る発明のきように、引張強さに対する耐力の比が大きいものでは筒状網体としての弾性向上が可能となり、脆性破断や形状変化を抑えた前記網体となる。
【0024】
さらに請求項8に係る発明では、筒状網体の内外面には樹脂製膜材を配して被包することから、前記請求項に係る発明の筒状網体を用いるカテーテルは、その特性を大きく改良することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係わるカテーテル補強用の筒状網体1(以下、単に筒状網体ということもある)の最良の形態を図面に基づき説明する。筒状網体1は、図6に示したカテーテル2におけるチューブ体Aに用いられ、該筒状網体1の内外面に樹脂製膜を配して被包することにより長尺かつ可撓性の該チューブ体Aを形成している。なおカテーテル2は、図6においては、このチューブ体Aと、該チューブ体Aを基端側で固定する把手部Bと、チューブ体Aの先端側に配されるソフトチップCとを具え、把手部BからソフトチップCまで通る内孔cにより、種々な医療部材、薬剤を人体血管内の特定部位に供給する。
【0026】
筒状網体1は図1に示すように、帯状細線4を筒状に織成してなり、この帯状細線4は、図2に例示するように、例えば冷間圧延加工により各上下を偏平面3,3としかつ厚さtを50μm以下とした断面偏平形状に形成されている。なお前記帯状細線4として厚さtが50μmを超えるときは、前記チューブ体Aの肉厚が大となって可撓性を欠き、また筒状網体1を細径化することが困難となる。そのため、好ましくは厚さtを10〜35μm、より好ましくは15〜30μm程度とする。
【0027】
また、帯状細線4の巾wと、厚さtとの比(w/t)を2〜10倍程度、例えば巾wとして0.1〜2mm程度とする。w/tを過度に大とすることは圧延加工の歩留まりを低下しかつ編成を困難にする。
【0028】
帯状細線4は、偏平面3、3を、本例では交互に接して交差させながら所定のピッチp、間隙gを保持しつつ筒状に編組することにより前記筒状網体1を形成している。又筒状網体1は、組物またはブレードメッシュなどと呼ばれ、カテーテルの仕様に応じて例えば外径0.5〜2mm程度の太さに成形される。又織成加工は公知の例えば編組加工機、ブレーダーなどによって実施することができ、帯状細線4は、筒状網体1の中心軸線1Aに対して傾斜角度αで傾斜させつつバイアス配置する。これにより、特に捻りに対するトルク伝達性及び柔軟性を高める。なおその織構成は、例えば平織りや綾織りなど任意の構成が選択され、又筒状網体1の使用目的に応じて、帯状細線4の仕様とともに、前記ピッチp,本数及び帯状細線4間の間隙gなどが設定される。なお、ピッチp,間隙g等は、前記筒状網体1の中心軸線1A上で平面視して測定される。又前記間隙gは、カテーテルが十分な柔軟性が求められ、また間隙gを通る樹脂材料により一体に被包されることから、通常は例えば0.3〜0.8mm程度とする。又傾斜角度αは例えば40〜70°、ピッチpは前記間隙g、傾斜角度α、帯状細線4の巾wなどから設定される。
【0029】
さらに筒状網体1の帯状細線4は、以下の組成の高MnN添加型のステンレス鋼を用いる。これにより、カテーテルとして使用する際には、高強度と非磁性の特性を具え、トルク伝達性や可撓性、耐圧性、耐座屈性等の特性向上とともに、環境磁場の干渉や撹乱による検査機器の画像の歪みを防止して、また前記樹脂材料の剥離などの問題も改善できる(組成は質量%を用いている)。
【0030】
即ち、前記ステンレス鋼は、質量%で
C≦0.06%,
Si≦0.80%,
Mn:3.00〜18.00%,
Ni:2.00〜13.00%,
Cr:15.00〜25.00%,
N:0.10〜0.80% とからなる主部を含み、
かつ残部:Fe、及び不可避不純物で構成され、
又は前記主部に
Mo:0.40〜3.50%,
Cu:0.08〜0.80%の少なくとも1種以上を含ませ、
かつ残部:Fe及び不可避不純物で構成されている。
【0031】
このように、主部として、Mnを3.00〜18.00%,N:0.10〜0.80%含有することによりオーステナイト相の安定化を図り高強度化、非磁性化をもたらすとともに、さらに必要に応じて添加されるMo,Cuの第三元素によって、例えば耐食性、靭性を向上することができる。
【0032】
ここで前記ステンレス鋼の各元素の成分分量を限定する理由を説明する。
〔C〕は、その添加によって結晶を微細化して機械的特性、特に高強度化するのに有効である。しかし、0.06%を超えるものではその製造過程で行われる熱処理などに伴って有害な炭化物の原因となり、細径化する場合の加工性、繰り返し曲げに伴う疲労寿命において問題があり、好ましくは0.03%以下とし、さらに好ましくは0.010〜0.03%とする。
【0033】
〔Si〕は、溶製時に必要な脱酸成分であり、その添加によって疲労,強度及び寿命特性を向上するが、0.80%を超えるとσ相生成をもたらす原因となり、より好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.05〜0.50%とする。
【0034】
〔Mn〕は、ニッケルとともに熱間加工性を改善し、オーステナイト相を安定化することから有効であり、またその増加によって、多量のN添加ができることから3.00%以上とし、一方18.00%を超える程増加してもその効果は飽和する。好ましくは3.50〜17.50%とする。特に後記するNiやNとの分量に応じて、例えばNiが8.0〜12.0%では、5.00〜8.00%とし、それより少量のNi、例えば2.00〜5.00%のNiの場合は、逆に12.0〜17.00%に増加することが好ましい。
【0035】
〔Ni〕は、基質を安定なオーステナイト組織にする為に必要であり、またクロムの耐酸化性を助長して加工性を改善するのに有効な元素であり、また非磁性に有効なNを添加する関係から、2.00〜13.00%とする。特に2.00%未満ではその効果が期待されにくく、13.00%を超えるものではNの多量添加が困難となり、またコストアップともなる。好ましくは、2.50〜12.50%とし、さらに前記Mn及びNの分量との関係から下記一例に示すように8.00〜12.00%又は2.00〜5.00%とする。
【0036】
〔Cr〕は、本合金材料の生地に固溶することで耐食性及び機械的特性を向上し、例えば15.00%以上でその効果を有するものとなるが、25.00%を超えるものでは鍛造性に影響して疲労が低下する。好ましくは14.50〜24.00%とし、さらに前記Mn,Ni及びNの分量に応じて下記一例に示すように19.00〜23.00%又は16.00〜20.00%とする。
【0037】
〔N〕は、強力なオーステナイトの生成元素であって、結晶粒を微細化してじん性及び降伏点を上昇させる作用を有する。その効果は、本発明のステンレス鋼では少なくとも0.10%以上で有効であるが、0.80%を超えると窒化物が形成しやすくなって加工性が低下するものとなる。より好ましくは、0.30〜0.60%とする。
【0038】
さらに、必要に応じて添加される前記第三元素には次のものがある。
(1) 〔Mo〕は、少なくとも0.40%添加によって強度及び耐食性を向上し有効であるが、3.50%を超えると加工性が低下し、また効果も飽和してかえってコストアップの原因となることから、好ましくは0.45〜3.45%としている。とし、さらに下記一例に示すようにMn,Niに応じて1.00〜3.00%又は0.40〜2.00%にするのがよい。
(2) 〔Cu〕は、ステンレス鋼の生地を強化するが、じん性を損ない熱間加工性を低下することとなることから0.08〜0.80%とするが、前記Moの場合と同様に他の成分元素との関係から次の一例に示すように0.40〜0.7%とすることも好ましい。またこのMo及びCuは必要に応じて少なくともその一種を添加することができる。
【0039】
さらにこうした組成のより好ましい形態のステンレス鋼として、例えば次の2種類を提示することができ、特性的にも好ましいものである。
【0040】
その一つは、質量%で、C:≦0.03%,Si≦0.50%,Mn5.00〜8.00%,Ni:8.00〜12、00%,Cr:19.00〜23.00%,Mo:1.00〜3.00%,Cu:0.08〜0.80及びN:0.30〜0.60%を含み、残部Fe及び不可避不純物で構成されたものである。
【0041】
他の一つは、質量%で、C:≦0.06%,Si≦0.50%,Mln:12.00〜17.00%,Ni:2.00〜5.00%,Cr:16.00〜20.00%,Mo:0.40〜2.00%、N:0.30〜0.60%及びCu:0.40〜0.70%を含み、残部Fe及び不可避不純物で構成されたものである。
【0042】
さらに該帯状細線4は、前記厚さtとともに所定の引張強さを1500〜3000MPaとしている。1500MPa未満では、操作性及び耐座屈性が得られず、一方、3000MPaを超える程高強度にしたものでは靭性に劣り、疲労寿命の向上が困難となる。より好ましくは、2000〜2800MPa、さらに好ましくは2100〜2600MPaとする。
【0043】
また透磁率は導磁率とも呼ばれ、磁界の強さHと磁束密度Bとの関係を、B=μHで表した時の比例定数μで示すものであって、直流磁化特性試験装置(メトロン技研株式会社)、その他種々の透磁率測定装置で測定する.なおその場合、帯状細線4は厚さが50μm以下の微細なものであり、測定値のバラツキが大きくなる可能性があることから、その測定にあたっては例えば10〜1000本程度の多本数を束ねた束体を用い、最終的にその測定試料の有効断面積で除した値を用いることができる.そしてこの値が1.010エルステッド以下の非磁性のものとしている。前記組成のステンレス鋼では、冷間加工に伴う磁性の上昇は極めて低く、前記非磁性特性をうることができる。
【0044】
こうしたステンレス鋼の中で、例えばNb,Ti,A1,Oの少なくとも一種が、Nb:0.020%以下,Ti:0.030%以下,Al:0.010%以下,O:0.008%以下に規制したものでは、ステンレス鋼生地中に介在物や酸化物などの種々形態の析出物を抑えて良好な特性をもたらすことができ、より好ましくはその合計が0.050%以下になるように設定される。また、その他不純物として例えばP≦0.045%,S≦0.030%にすることも好ましい。
【0045】
すなわち、これら不純物の中で特にNb,Ti,Al及びOは、ステンレス鋼生地中に介在物や酸化物などの発生をもたらす要因となり、本発明のように厚さ50μm以下の微小金属帯状細線ではこのような組織異常は直接その強度や疲労面において重大な影響を及ぼすことから、これら不純物量をその特性に応じて制御する。
【0046】
また、前記帯状細線4の特性をさらに高める上で、該ステンレス鋼の各元素の関係が、次の条件を満足するように調整することが好ましい。
Ni+1.05Mn+12.6N=(18.0〜25.0%)≧0.65Cr+12.6C
【0047】
この関係は本発明者らの実験によるものであって、前記筒状網体1のように微小な金属の帯状細線4を網加工して用い、かつ高強度化と非磁性の両特性を具えるものにあっては、オーステナイト相の安定化による非磁性化と、加工硬化による高強度化を兼備するものが好ましい。すなわち、オーステナイト相の安定化に影響する前者元素Ni,Mn,Nの合計値を18.0〜25.0%にすること、かつ高強度特性に影響する後者Cr,Cの合計値より大きくすること、より好ましくは前者合計が後者合計の1.3〜2.2倍になるように設定する。こうした関係によって、前記引張強さと非磁性の両特性を得ることができることが判明した。
【0048】
またさらに必要ならば、次式Aに示す計算値が26〜40%の範囲になるように調整する。これにより、前記オーステナイト相の安定化を促進して耐食性などの化学的特性を向上し、かつその後の処理過程で発生する例えば水素脆性の問題を解釈することも好ましい。
A=Ni+0.65Cr+0.98M0+1.05Mn+0.35Si+12.6C
【0049】
また本発明に用いるステンレス鋼の帯状細線4は、例えば固溶化熱処理後に所定厚さになるように冷問圧延で加工されるが、特に厚さ20μm以下でかつその厚さの4〜8倍程度の広巾に一度に強加工したものでは、圧延加工に伴ってその巾側面部に微小凹凸d(図2に示す)を生じさせ、巾寸法のバラツキを大きくし、例えば局部的な凹部での切欠き現象による折損などを招く。
【0050】
この現象を抑制するため、例えば900〜1100℃での固溶化熱処理後に、一旦加工率40〜95%程度の冷問伸線加工を行って、該ステンレス鋼中の結晶組織をその長手方向に延びる繊維組織とし、これを軟質処理することなく更に冷間圧延する、いわゆる、2段階加工法を採用すくことにより解消することができる。冷間圧延加工の圧下率は、所定厚さとなる例えば50%以上で行なわれる。
【0051】
すなわち、このような2段階加工法の採用によって、圧延加工時の巾方向への広がりを滑らかにかつ均一化して巾側面部での凹凸を防ぎ寸法バラツキを抑えるとともに、さらに伸線加工による加工硬化の利用によって、単に圧延加工だけでは得られない高強度化を得ることができる。
【0052】
このことは、両加工は押圧加工であるものの、伸線加工では純粋に絞り加工されることより高い加工硬化が得られるのに対して、圧延加工では、拘束されていない巾方向に逃げ、部分的な加工量の違いから強度上昇率は非常に小さいのが通例であるのに対して、本態様ではこれを改善できる。また同時に、前記引張強さ(σ)と0.2%耐力との耐力比{(τ/σ)×100}が、85〜98%の弾性に富んだ帯状細線4ともなることから、カテーテル用として繰返し疲労や耐座屈性に対して優れたものとなる。
【0053】
なおその場合、前記帯状細線4の側面部はその上下方向からの前記圧延加工によって、例えば図2に見られるように側部方向への張出によって、前記偏平面3よりも粗大な表面粗さを有する。例えば長手方向に沿って計測した10点の平均表面粗さ(Rz)を求め、例えばRz=0.04〜0.1μm程度の粗さとする。この程度の表面凹凸は該帯線自体の品質性能には影響しない微細なものであり、しかもカテーテルとしてその表面に樹脂材料を被包する場合には両者の結合をより強固にして一体化を高めることができる。
【0054】
前記筒状網体1は、図6に示す前記したカテーテル2において、可撓性を持つ微細長尺な前記チューブ体A、従ってカテーテル2を補強している。前記チューブ体Aは、例えば図3に示すように、外径0.5〜3mmかつ膜厚さ0.2〜0.8mm程度の長尺の筒状成形品であって、捻りトルクを伝達するトルク伝達性、可撓性,耐圧性、耐座屈性を高める為に前記筒状網体1を具え、その内面の内樹脂層7Aと、外面の外樹脂層7Bとからなる樹脂層7によって被包し、一体化している。
【0055】
なお前記内樹脂層7A及び外樹脂層7Bに用いる樹脂材料の種類及び被覆方法などについては、生体用として安全性・適合性を具えるものであれば特に制限するものではなく、例えば従来から使用されているポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニール、ポリエステル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリカーボネート、フッ素樹脂、シリコン樹脂、シリコンゴム,天然ゴムなど種々の樹脂材料を用いうる。なお熱可塑性樹脂材料を用いて筒状網体1の網目を通して一体成形することもでき、さらには、前記内樹脂層7Aと外樹脂層7Bのいずれか一方を省略し、又は前記内樹脂層7Aと外樹脂層7Bのいずれか一方、双方をそれぞれ複数層により形成することもできる。又前記内樹脂層7Aと外樹脂層7Bとを異なる樹脂を用いてもよく、さらには筒状網体1を跨る中間層を介して内外樹脂層7A,7Bを形成するなど、種々変形できる。
【実施例1】
【0056】
表1に示す5種類の本発明に係る組成を持つステンレス鋼線である試料A1〜A5とし、かつ一般的な硬質用線材であるSUS304、SUS304N材、及びSUS316を、比較例の試料B1〜B3として選択した。その成分組成を合わせて表1に示す。
【0057】
【表1】


【0058】
表1に示す試料A1〜A6のステンレス鋼線を各々ダイヤモンドダイスによる湿式伸線加工(加工率75%)して0.05mmの硬質素線(実施例A1〜A5)を得た。得られた各硬質素線は、いずれも平滑で光輝な表面状態を持ち、円滑に伸線加工を行うことができた。そこで、この素線を極細圧延機にセットして、該細線の引張強さの5〜20%の逆張力を付加しながら上下2方向から圧下する冷間圧延加工を行い、厚さ20μm×幅100μmの帯状細線4を得た。なおその間の熱処理は行っていない。得られた帯状細線4は表面良好で、かつ幅寸法のバラツキ、線状不良もほとんどなく、問題視されるような欠陥は認められなかつた。但し、その側面部を顕微鏡で観ると、押圧面より粗大化した微小凹凸が確認されたが、その程度は、10点の平均表面粗さで0.04〜0.09μm程度のものであり、実質的な影響はない。この冷問圧延後の機械的特性と繰り返し曲げ試験の結果を表2に示す。又比較例の試料B1〜B3についても同様に硬質素線(比較例B1〜B3)を得、その結果を表2に合わせて示している。
【0059】
【表2】


【0060】
機械的特性も、JIS−Z2201「金属材料引張試験」に基づくチャート付の細線用引張り試験機で標点間距離50mmで行ない、歪と応力とのチャート結果から求めている。ヤング率は該チャートの中で比例限領域内での傾きを示している。また、透磁率は帯状細線50本を束ねた束体で、環境温度20℃での透磁率(μ)について前記直流磁化特性試験装置(メトロン技研(株))で測定し、これを単位面積に換算したものである。これら結果から明らかなように、本実施例の帯状細線は、いずれも比較例の帯状細線と同等以上の高強度を有し、しかもいずれも1.01エルステッド以下の非磁性であることが分かる。
【0061】
また繰り返し曲げ試験については図4に示すように、得られた各帯状細線をそれぞれ標点間距離80mmで把持具d,dで把持し、その一方を180゜の角度範囲で繰り返し曲げしながら破断に至るまでの曲げ回数を測定したものであり、結果は曲げ角度90゜分を1回と数えたもので示しているが、比較例に比してほぼ良好であることが分かる。また耐食性は、アノード分極曲線による孔食電位(VVSAg/Agcl)を100μA/cm2 の条件で評価したものであって、優を◎、良を○、またそれより劣るものを△,×で示している。特に試料A1,A2が良好であった。
【0062】
次に,前記低温熱処理の効果を見るために、実施例A1(試料A1)及び比較例B1(試料B1)の各硬質細線をストランド型の低温熱処理炉を用いて温度400〜600℃×15〜60minの条件で処理し、得られた帯状細線の特性を調査した。結果は図5に示しているように、本発明に係わるステンレス鋼帯状細線は、処理温度とともに強度が増加し、例えば温度450℃で処理したものでは引張強さを100〜200PMa程度高強度化でき、また前記耐力比も96%と非常に優れたものであった。
【実施例2】
【0063】
次に、前記実施例1とは異なるプロセスを採用し、試料B1〜B3の組成を持つステンレス鋼線を温度1150℃で固溶化熱処理して0.1mmの原材料線材とした(比較例B1〜B3)。そして、これを前記冷間圧延機にセットして各々70%の圧下率で圧延し、厚さ30μm×幅260μmの微細断面の帯状細線を得た。
【0064】
この帯状細線の特性は、引張強さ1500〜1800MPa、ヤング率170〜200GPaであり、圧延加工性は良好であったが、外観状態については実施例Aのものに比して、側面部の寸法バラッキがやや大きいものであった。
【実施例3】
【0065】
次に、前記実施例1の実施例A1及びA3の金属帯状細線を用いて、外径1.4mm、ピッチ4mm、配線間隔0.42mmで平織りの編組加工してメッシュの筒状網体を得た。編組加工は、予め準備したの棒状芯材の表面に厚さ0.3mmのポリテトラフルオロエチレン樹脂を被覆した膜体を形成し、その上に8本の前記帯状細線を用いて交互編みブレーダーによって80ピック/インチ密度で編組加工したものであり、さらに、その表面に前記樹脂材料を再度被覆することでチューブ状の細管を形成し、最後に前記芯材は引抜かれた。網体は、非常にフレキシブルでかつ高弾性であり、しかも優れた非磁性を持つものであった。
【0066】
こうして得られた被覆カテーテルの性能を評価する為に、長さ100mmの試料を採取してトルク伝達性と耐圧性、座屈性能を調査した。トルク伝達性は試験試料の一端を捻った時の他端側の捻り力を感覚で求め、また耐圧性は該カテーテル内に注射器で薬液を注入した時の破裂有無で評価したものである。さらに耐座屈性は試料の一端を机上に当ててその上から押付けることで行い、座屈した時の応力の大小で評価した。その結果、本発明に係わるカテーテルはいずれの性能にも優れ、従来型のカテーテルに比して2〜3割程度の特性向上を図ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の帯状細線を編組加工した筒状網体の一形態を例示する正面図である。
【図2】本発明に係る極細帯状細線を例示する斜視図である。
【図3】(A)はカテーテルのチューブ体の一形態を例示する横断面図、(B)は外樹脂層、筒状網体を順次取り除いて示す正面図である。
【図4】繰り返し曲げ試験の方法を示す略図である。
【図5】低温熱処理に伴う機械的特性の変化を示す線図である。
【図6】カテーテルの一形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0068】
1 筒状網体
2 カテーテル
3 偏平面
4 帯状細線
7 樹脂層
7A 内樹脂層
7B 外樹脂層
【出願人】 【識別番号】000231556
【氏名又は名称】日本精線株式会社
【出願日】 平成18年7月21日(2006.7.21)
【代理人】 【識別番号】100082968
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 正

【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎


【公開番号】 特開2008−23110(P2008−23110A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2006−199744(P2006−199744)