トップ :: A 生活必需品 :: A61 医学または獣医学;衛生学




【発明の名称】 2液型接着剤
【発明者】 【氏名】川勝 雄太

【氏名】柏原 進

【氏名】菊地 武夫

【要約】 【課題】従来に比べて、接着時間の制御だけでなくゲル化反応率の制御に優れた生体組織接着用組成物を提供することを課題とする。

【構成】主剤と架橋剤からなる2液型接着剤であって、主剤は遺伝子組み換えアルブミンを含有し、架橋剤はトレハロースアルデヒド及びグルタルアルデヒドを含有し、主剤と架橋剤とを重量比で100:1〜100:40の割合で混合して使用するための2液型接着剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤と架橋剤からなる2液型接着剤であって、主剤は遺伝子組み換えアルブミンを含有し、架橋剤はトレハロースアルデヒド及びグルタルアルデヒドを含有し、主剤と架橋剤とを重量比で100:1〜100:40の割合で混合して使用するための2液型接着剤。
【請求項2】
架橋剤中のトレハロースアルデヒド及びグルタルアルデヒドの総含量が2〜45重量%である請求項1記載の2液型接着剤。
【請求項3】
主剤中の遺伝子組み換えアルブミン含量が10〜55重量%である請求項1または2記載の2液型接着剤。
【請求項4】
架橋剤中のトレハロースアルデヒド含量が1〜30重量%である請求項1〜3いずれか記載の2液型接着剤。
【請求項5】
架橋剤中のグルタルアルデヒド含量が1〜15重量%である請求項1〜4いずれか記載の2液型接着剤。
【請求項6】
架橋剤中のトレハロースアルデヒドとグルタルアルデヒドとが重量比で20:1〜1:2の割合である請求項1〜5いずれか記載の2液型接着剤。
【請求項7】
生体組織用の接着剤である請求項1〜6いずれか記載の2液型接着剤。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の2液型接着剤、および当該接着剤を手術時の組織の接着、閉鎖又は血液もしくは体液の漏出防止に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該接着剤に関する記載物を含む商業パッケージ。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、2液型接着剤に関するものである。より詳細には、止血性及び生体吸収性を有する生体組織接着用の2液型接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の外科用組織接着剤が用いられている。それらのうちシアノアクリレート、ゼラチン−ホルムアルデヒド組成物及びフィブリン系接着剤の三種が最も注目を受けてきた。
【0003】
シアノアクリレート接着剤は、手術用使用のために研究されてきた。例えば、あるイソブチルシアノアクリレート配合物は家畜治療への使用のために許可されてきた。典型的には、モノマー及び/又はモノマーの混合物が接着部位に塗布され、急速に重合して固体となる。シアノアクリレート接着剤の欠点の一つは、患部が乾燥している必要があることである。もう1つは、重合により得られる固体が体内に吸収されないことであり、これらの理由により、生体内に用いる場合はこの接着剤の有用性が低下する。また、重合は発熱を伴い、組織適合性が不良となった結果が報告されている(非特許文献1〜3参照)。
【0004】
ゼラチン−ホルムアルデヒド系接着剤は、ホルムアルデヒドにより架橋されたゼラチンに基づくものであり、1964年以来、主にヨーロッパにおいて実験的に使用されてきた。提案された配合物のうち、GRF(ゼラチン、レゾルシン、ホルムアルデヒド)が最も知られている。ゼラチンの加熱溶液を、ホルムアルデヒドを主とする溶液からなる硬化剤とその場で混合し、その混合物が急速に固化して組織に接着する。GRF接着剤については、ホルムアルデヒドを必須とすることが懸念されている。また、ゼラチンは加温下、例えば体温以上の温度で適用する必要がある。さらに、混合及び適用の技法は、GRFの臨床下において厳密には決定されていない(非特許文献4〜7参照)。
【0005】
フィブリン接着剤は、血液凝固系を利用して接着剤またはシーラント組成物を生成する。1種の市販の組成物は、Rugis, Franceから入手できるTussicol(登録商標)である。もう1種は、Osterreichisches Institut for Hasmoderirate, GMBH(Immuno GA, A-1220, Vienna, Austriaの傘下)から入手できるFibrin Sealant Kit 1.0である。フィブリン接着剤を使用した場合、2種類の成分により血液凝集体を形成する。成分の1つは、フィブリノーゲン及び血液凝固因子、例えば第XIII因子の溶液であり、もう1つはトロンビン及びカルシウムイオンの溶液である。フィブリン接着剤の欠点は、弱い引っ張り強さ(一般には50g/cm2以下)及び緩慢な硬化時間である。また、複数のヒトドナーからの血液製剤(フィブリノーゲン及び補助因子)を使用する際に、患者へのウイルス感染の恐れがある。フィブリンシーラントを調製するために自己血液を用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
タンパク質であるゼラチンが主剤、グルタルアルデヒド等が架橋剤として用いられる生体組織用接着組成物が知られている(特許文献2参照)。しかし、グルタルアルデヒド等のみではゲル化反応時間およびゲル化反応率をコントロールするには不十分である。例えば、ゲル化反応時間を短縮するために架橋剤濃度を増加させると主剤と架橋剤を混合した直後に固化し、十分な接着効果は期待できない。加えて架橋剤濃度を低下させると緩やかなゲル化反応が進行するが、完全なゲルを得ることができない。それは、血液などの水分によるタンパク質の溶出が起き、長期間の接着強度を担保できなくなる問題が生じるからである。
【0007】
これらの理由より、ゲル化完了時間の制御による用途に応じた接着時間および完全なゲル化による接着力保持を両立する技術はこれまで確立されていなかった。これらの技術は、主剤および架橋剤をデバイスにより自動的に混合して塗布するような場合の組成最適化において特に有用となる。
【0008】
遺伝子操作由来タンパク質と多官能性アルデヒドとの生体組織用接着剤が知られている(特許文献3参照)。実施例では、架橋剤にグルタルアルデヒドのみを用いている。また、コラーゲンタンパク部分加水分解物質と水溶性キチン誘導体を主剤、アルキレンジアルデヒドを架橋剤として用いる生体組織用接着剤が知られている(特許文献4参照)。実施例では、架橋剤にグルタルアルデヒドを用いている。さらに、特定のpH範囲内におけるタンパク質を主剤、変性ポリエチレングリコールを架橋剤として用いる接着剤シーラント組成物が知られている(特許文献5参照)。しかし、使用できるpHが制限されているためその汎用性が制限される。
【0009】
加えて、血漿タンパク質を主剤、多官能性アルデヒドを架橋剤とした接着剤組成物が知られている(特許文献6参照)。本特許文献には、トレハロースから誘導されたアルデヒドを用いた実施例が開示されている。しかし、トレハロースアルデヒド単体を架橋剤として用いていることから、接着硬化するまでの反応時間が1時間という長時間を要し、さらに1時間後の引裂強さは245g/cm2しかなく、手術用の接着剤として実用的ではない。
【特許文献1】特開昭57−149229号公報
【特許文献2】特開平6−70972号公報
【特許文献3】特開2000−288079号公報
【特許文献4】特開2000−290633号公報
【特許文献5】特許第3592718号公報
【特許文献6】特許第3483882号公報
【非特許文献1】Bonutti, P. et al., Clinical Orthopedics and Related Research, Vol. 229, pages 241-248 (1988)
【非特許文献2】Nelson, R. et al., Arch. Surg. Vol. 100, pages 295-298 (1970)
【非特許文献3】Celik, H., et al., “Nonsuture closure of arterial defect by vein graft using isobutyl-2-cyanoacrylates as a tissue adhesive”, Journal of Nearosurgical Sciences Vol. 35, No. 2 (April-June 1991)
【非特許文献4】Fabiani, et al., Ann. Thorac. Surg. 143-145 (1990)
【非特許文献5】Fabiani, et al., Supplement J. Circulation Vol. 80, No. 3 (September 1989)
【非特許文献6】Bachet, et al., J. Thorac. Cardiovasc. Surg. Vol. 83 (1982)
【非特許文献7】Braunwald, et al., Surgery Vol. 59, No. 6 (June 1966)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来に比べて、接着時間の制御だけでなくゲル化反応率の制御に優れた生体組織接着用の2液型接着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはトレハロースアルデヒドおよびグルタルアルデヒドからなる架橋剤と遺伝子組み換えアルブミンからなる主剤とを混合して用いることにより、接着速度を制御できるだけでなく、生体組織接着耐久性に重要となるゲル化反応率を制御できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のような構成を有する。
〔1〕 主剤と架橋剤からなる2液型接着剤であって、主剤は遺伝子組み換えアルブミンを含有し、架橋剤はトレハロースアルデヒド及びグルタルアルデヒドを含有し、主剤と架橋剤とを重量比で100:1〜100:40の割合で混合して使用するための2液型接着剤。
〔2〕 架橋剤中のトレハロースアルデヒド及びグルタルアルデヒドの総含量が2〜45重量%である前記〔1〕記載の2液型接着剤。
〔3〕 主剤中の遺伝子組み換えアルブミン含量が10〜55重量%である前記〔1〕または〔2〕記載の2液型接着剤。
〔4〕 架橋剤中のトレハロースアルデヒド含量が1〜30重量%である前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の2液型接着剤。
〔5〕 架橋剤中のグルタルアルデヒド含量が1〜15重量%である前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載の2液型接着剤。
〔6〕 架橋剤中のトレハロースアルデヒドとグルタルアルデヒドとが重量比で20:1〜1:2の割合である前記〔1〕〜〔5〕いずれか記載の2液型接着剤。
〔7〕 生体組織用の接着剤である前記〔1〕〜〔6〕いずれか記載の2液型接着剤。
〔8〕 前記〔1〕〜〔7〕いずれか記載の2液型接着剤、および当該接着剤を手術時の組織の接着、閉鎖又は血液もしくは体液の漏出防止に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該接着剤に関する記載物を含む商業パッケージ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の2液型接着剤は、従来の接着剤に比べて、接着時間の制御だけでなくゲル化反応率の制御も良好な用時調製型接着剤である。本発明における接着時間の制御は、2液型接着剤の用途に応じてゲル化完了時間を制御できることを意味し、本発明によれば、特に主剤と架橋剤の精密混合を可能とする2液混合デバイス等を用いた生体組織接着の際の接着時間の最適化に有用な材料を提供できる。また、本発明の接着剤は、ゲル化反応率の制御が良好なことから、接着耐久性を向上することができる材料を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の2液型接着剤は、主剤と架橋剤から構成される。
【0014】
前記主剤は、接着成分として遺伝子組み換えアルブミンを含有する。本発明における遺伝子組み換えアルブミンとは、遺伝子組み換え技術により製造されたものであって、天然由来のアルブミンを除くアルブミンをいう。好ましくは、遺伝子組み換え技術により得られたアルブミンを高度に精製して得られる遺伝子組み換え高純度ヒト血清アルブミン(γHSA)を用いる。かかる遺伝子組み換えアルブミンを用いることにより、血液から精製された天然のアルブミンと異なり、動物もしくはヒト由来のウイルスの汚染がなく、安全性及び品質安定性に優れた接着剤を提供することができる。
【0015】
前記遺伝子組み換えアルブミン及びγHSAは、自体公知の方法により製造することができる。すなわち、常法により遺伝子組み換えアルブミン又はγHSA産生宿主を得、それを公知の培養法により培養することにより目的とする遺伝子組み換えアルブミン又はγHSAを産生させた後、宿主関連成分又はその他の夾雑成分を除去する。着色を抑えるために、遺伝子組み換えアルブミン又はγHSAをさらに十分な精製工程に供することが好ましい。
【0016】
本発明で好適に使用されるγHSAの一般的な性状としては、分子量が約67,000の単一物質であり、二量体を始めとする重合体、又は分解物(分子量約43,000)を実質的に含まない。更に、γHSAは、産生宿主に由来する夾雑成分又は多糖類、特に抗原性を有する夾雑成分又は多糖類も実質的に含まない。
【0017】
主剤中の遺伝子組み換えアルブミンの含有量は、10〜55重量%であることが好ましく、より好ましくは16〜50重量%であり、さらにより好ましくは22〜47重量%、特に好ましくは27〜47重量%である。かかる範囲内であれば、十分な接着強度が得られ、かつ主剤の粘性も適性で取り扱いが容易であり、好ましい。
【0018】
前記主剤は、接着成分以外に、溶媒を含有し、所望により医薬的に許容されうる添加剤を含んでいてもよい。前記溶媒としては、水、N-メチル-2-ピロリドンなどがあげられ、好ましくは蒸留水、注射用蒸留水である。
前記添加剤としては、アルブミンの安定剤であるN−アセチルトリプトファンナトリウム、カプリル酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムがあげられる。添加剤の添加量は、アルブミン濃度にもよるが本願発明においては0.00001〜0.1重量%が好ましい。
【0019】
本発明における架橋剤は、架橋成分としてトレハロースアルデヒド(TA)及びグルタルアルデヒド(GA)を含有する。架橋成分は、主剤中の接着成分である遺伝子組み換えアルブミンを重合させ、ゲル化させる作用を有するものである。
【0020】
本発明において、ゲル化とは主剤と架橋剤とを混合することにより、重合反応が起こり、接着成分の分子量が無限大となり、いかなる溶媒にも不溶な膨潤体となることを意味する。ゲル化に付随する反応をゲル化反応と呼ぶ。
【0021】
医学、生物学において、アルデヒド水溶液は生物組織の標本作製のための防腐、固定処理に広く用いられている。これはアルデヒドが、組織の細胞内外に浸透し、主に組織中の蛋白質に結合することで、蛋白質の立体構造を損なわせ、酵素活性、輸送、分泌などの様々な生物活性を阻害する作用のためであると考えられている。古来よりアルデヒドによる生体組織の固定化が行われ、中でもグルタルアルデヒド処理は顕微鏡観察を行う標本作製の準備段階として用いられてきた。グルタルアルデヒドに代表されるアルキレンジアルデヒドはその反応速度が非常に大きい。水溶液中で他ならない高い反応性を示し、分オーダーの接着時間を得るためにはアルキレンジアルデヒドの使用が不可欠である。
【0022】
生体組織用接着剤である先述のGRFの架橋剤としては、ホルムアルデヒド及びグルタルアルデヒドが用いられているが、近年それらの生体毒性が懸念されている。なぜなら、アルキレンジアルデヒドがもつアルデヒド基は生体を構成する酵素などのタンパク質と反応して疎水性のアルキレン基を分子内に導入して酵素活性などを消失する恐れがあり、未反応アルキレンジアルデヒドが残存すると先述のように生命活動を阻害するような毒性を招く恐れがあるからである。すなわち、手術時の縫合に生体組織用接着剤を併用する際には出来るだけゲル化時間が短い方が手術時間の短縮および患者負担の軽減といった観点からは好ましいが、アルキレンジアルデヒド類はその未反応物の生体安全性という点で問題がある。そこで、本発明者らは生体組織用接着剤の安全性向上について鋭意検討した結果、人体の生命活動に不可欠である糖類をアルデヒド化して用いることができれば、万が一未反応物が残存し生体内のタンパク質分子と反応したとしても、糖の持つ親水構造によりその影響を最小限に抑えることができると考え、糖アルデヒドに着目した。
【0023】
主剤と架橋剤とのゲル化反応において、架橋剤としてGAを単体で用いると反応性が高く速やかにゲル化反応は進行するが、架橋剤が残存した場合の毒性が懸念される。一方、架橋剤としてTA単体で用いる場合は生体に対する安全性は高まるが、GA単独と比較して反応性が低く、2液混合後早期にゲル化反応を完了させることは困難である。そこで、安全性の高いTAと反応性の高いGAを混合して用いることで、未反応物の残存を抑制しつつ制御された反応時間で硬化できることを見出した。
【0024】
本発明において、糖アルデヒドの糖鎖部分は繰り返し単位が1〜1000であることが好ましい。より好ましくは1〜100、さらにより好ましくは1〜10、最も好ましくは1〜2である。具体的には、糖鎖部分として、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン、スクロース、ラクトース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、トレハロース等があげられる。繰り返し単位が1000以下であれば、ゲル化反応が効率的に進行する。二糖類のトレハロースは、凍結あるいは乾燥時に細胞や細胞内物質を保護する作用を有しており、医薬、化粧品、食品等の分野で保存、安定剤等としての役割が期待されている物質であるため、原料として好ましい。以下、本発明においては、トレハロースアルデヒド(TA)を用いる。
【0025】
TAの調製方法は特に限定されるものではないが、一例として糖類を酸化分解する方法があげられる。酸化分解に用いる酸化剤としては塩素、次亜塩素酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過ヨウ素酸、硝酸、オゾンなどがあるが、本発明においては取り扱い性の点や優先的にアルデヒドを生成できる点から、過ヨウ素酸又はその塩が好ましい。過ヨウ素酸の塩としては、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カルシウムがあげられる。
【0026】
架橋剤中のTA含量は1〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜28重量%であり、さらにより好ましくは7〜26重量%、特に好ましくは9〜23重量%である。かかる範囲内であれば、ゲル化反応が十分進行し、かつアルデヒドの毒性が発揮されないので、好ましい。
【0027】
架橋剤中のGA含量は1〜15重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜12重量%であり、さらにより好ましくは2〜10重量%、特に好ましくは3〜6重量%である。かかる範囲内であれば、ゲル化完了時間が適切でゲル化反応率も十分となる。また、残留アルデヒドによる毒性の恐れが低減される。
【0028】
本発明においては、生体に対する安全性とゲル化完了時間の短縮ひいては手術時間の短縮という相反する特性を高次元で両立するため、上記のように、架橋剤としてTAとGAを特定の割合で混合して用いることが好ましい。架橋剤に含まれるTAとGAの総含量は、安全性と反応性を両立させる観点から、2〜45重量%であることが好ましく、5〜30重量%がより好ましく、7〜30重量%がさらにより好ましく、12〜28重量%が特に好ましい。
【0029】
架橋剤中のTAとGAとの割合は、重量比で20:1〜1:2であることが好ましい。TA濃度が低すぎると、ゲル化の完了が早すぎて塗布前にゲル化が完了して接着能力を発揮できないといった問題が生ずる場合がある。また、架橋剤中のTA濃度が高すぎると、ゲル化の完了が遅すぎることで接着時間を余分に要し、手術時間が遅延するといった問題が生ずる場合がある。上記観点から、TAとGAとの割合は重量比で、より好ましくは20:1〜2:3であり、さらにより好ましくは20:1〜1:1、特に好ましくは10:1〜1:1である。
【0030】
前記架橋剤は、架橋成分(TAとGA)以外に、溶媒を含有し、所望により医薬的に許容されうる担体を含んでいてもよい。前記溶媒としては、水、エタノールがあげられ、好ましくは蒸留水、注射用蒸留水である。
【0031】
本発明の2液型接着剤は、使用直前に、上記主剤と架橋剤とを重量比で100:1〜100:40の割合で混合して用いることを特徴とする。架橋剤が寄与する接着強度と架橋剤のGAが残存する可能性を低減させる観点から、混合比は100:3〜100:35が好ましく、100:5〜100:30がより好ましい。かかる混合比の範囲内であれば、接着時間(ゲル化反応時間)とゲル化反応率の制御に優れた接着剤が形成される。
【0032】
本発明において、ゲル化完了時間は接着時間と同義で用いられ、30秒以上120秒未満が好ましい。35秒以上110秒未満がより好ましく、40秒以上100秒未満がさらに好ましい。ゲル化完了時間が早すぎると適用部位に塗布するまでにゲル化が進行してしまうため接着力が消失してしまう可能性がある。ゲル化完了時間が遅すぎると接着までに長時間を要する為、手術時間が遅延してしまうことがある。前記ゲル化完了時間は、実施例に記載の方法により測定した値である。
【0033】
本発明において、ゲル化反応率は80重量%以上が好ましい。82重量%以上がより好ましく、85重量%以上がさらに好ましい。ゲル化反応率が低すぎると接着後も水分などによる溶出の結果として接着部位の剥離の問題が生じる。前記ゲル化反応率は、実施例に記載の方法により測定した値である。
【0034】
本発明の2液型接着剤は、アルブミンを構成成分とすることから、生体組織用の接着剤として使用されることが好ましい。生体組織に使用した場合、一定期間経過後生体に吸収される。生体組織に使用する場合、手術時の組織の接着、閉鎖又は血液もしくは体液の漏出防止に好適に使用される。
【0035】
一例として、本発明の2液型接着剤の生体組織への適用方法を説明する。適用する生体組織に主剤を十分量添加した後、架橋剤を必要最少量だけ加え、直後均一に混合し、ゲル化が完了するまで待機することにより適用部位を接着することができる。
【0036】
本発明は、本発明の2液型接着剤、および当該接着剤を手術時の組織の接着、閉鎖又は血液もしくは体液の漏出防止に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該接着剤に関する記載物を含む商業パッケージを提供する。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0038】
(ゲル化完了時間測定)
動的粘弾性測定機(HAAKE社RS1)を用いて行った。ディスポーザブルパラレルプレートセンサーシステムを用い、応力;100Pa、周波数;1Hz、 測定温度;20℃、ギャップ;1 mmの条件下で実施した。測定サンプルは以下のように調製した。主剤をパラレルプレート上に添加し、その上に架橋剤を実施例に示す分量加えた。それをスパチュラで5秒間混合した直後に測定を開始した。ゲル化時間は弾性項(G’)と粘性項(G’’)が交差する位置(G’=G’’)、すなわちゲルポイントで評価した。ゲルポイントが40秒以上100秒未満を良好とし、40秒未満および100秒以上を不良とした。
【0039】
(ゲル化反応率測定)
20mLのガラス製バイアル内に主剤および架橋剤を実施例に示す分量加えてスパチュラにて10分間両者の混合を継続した。混合によって得られたゲルに生理食塩水20mLを加え、37℃にて振とうインキュベートを24時間実施した。インキュベート後のゲルを取り出し−5℃で24時間かけて凍結を行い、減圧乾燥機にて48時間の凍結乾燥を実施した。インキュベート後の乾燥重量値を、混合前の主剤と架橋剤の理論乾燥重量値の和で割ることによりゲル化反応率を算出した。このゲル化反応率が80重量%以上を良好とし、80重量%未満の場合は不良とした。
【0040】
(引張強度測定)
直径60mmのプラスチック製シャーレ内に主剤、続いて架橋剤を実施例に示す分量添加し、それらをスパチュラにて5秒間混合した後、羊毛試験片(0.3×10×50mm)の末端10×10mmの範囲内に塗布し、別の試験片の先端と接着した後50gの錘で2分間押圧した。その後、引っ張り試験機による評価を行った。引張試験機はオートグラフAGS-50NJ形(島津製作所)を用いて行った。試験条件は以下のとおりである。ロードセルは5kgのものを用い、クロスヘッドスピードは30mm/min、チャック間距離は7cmで実施した。平均値(n=5)をデータとして用いた。
【0041】
(細胞毒性試験)
厚生労働省事務連絡 医療機器審査No.36(「生物学的安全性試験の基本的考え方に関する参考資料について」平成15年3月19日)およびISO 10993-5(Test for In Vitro Cytotoxicity , May 15, 1999)のガイドラインに準拠して以下の手順で実施した。
主剤と架橋剤とを反応させた後のゲル化物1gに対し10mlの割合の培地で37℃、24時間抽出を行った抽出液を試験液とした。試験液を種々の濃度範囲で希釈し、それぞれの濃度でV79細胞を6日間、37℃-CO2インキュベーター内で培養した。培養結果から、培地のみの陰性対照に対する各試験群のコロニー形成率を求め、コロニー形成率を50%阻害する濃度(IC50値)を求めた。
【0042】
(製造例1) 架橋剤の製造
(トレハロースアルデヒドの合成)
60℃(矢沢製作所製ウォーターバスを使用)にて2mmHg(島津製作所製真空ポンプGDH−60を使用)の条件で2時間減圧乾燥したα,α−トレハロース二水和物(エンドトキシンフリー)(Hayashibara)19.27gを、イオン交換水(キシダ化学)200mLに溶解し、2L四つ口フラスコに仕込んだ。過ヨウ素酸二水和物(Aldrich)48.75gをイオン交換水(キシダ化学)400mLに溶解し、前記四つ口フラスコに仕込んだ。前記四つ口フラスコにイオン交換水200mLを仕込んだ。前記四つ口フラスコを遮光下に攪拌(野中理科器製攪拌器PC−30を使用)しつつ、21℃(東京理科器械製低温高温槽CA−1111を使用)で22時間保持した。イオン交換樹脂(AmberliteIRA96SB:オルガノ)1Lをイオン交換水500mLで3回洗浄した。反応液を2Lビーカーに移し、攪拌(アドバンテック製マグネティックスターラーSRS710AAを使用)しつつ、イオン交換樹脂を添加した。イオン交換樹脂600mLを添加し、水層のpH(アドバンテック製試験紙UNIV)が中性であることを確認した。イオン交換樹脂を濾別(アドバンテック製濾紙No.2)するとともにイオン交換水400mLで4回洗浄した。上記濾液および洗浄液をナス型フラスコに移し、35−40℃(矢沢製作所製ウォーターバスを使用)にて2mmHgで減圧濃縮・乾燥することによりトレハロースアルデヒド(TA)16.61gを得た。
【0043】
(架橋剤濃度の調整)
TAを注射用蒸留水(大塚製薬株式会社)に溶解することによって濃度を調整した。グルタルアルデヒド(GA)は市販の25重量%溶液を注射用蒸留水で希釈することによって濃度を調整した。二種の架橋剤を混合して用いた場合、例えば、「10%TA+4%GA」という表記は架橋剤中に10重量%のTAと4重量%GAが共存することを意味する。
【0044】
(製造例2) 主剤の製造
γHSA25%水溶液(遺伝子組み換えアルブミン、株式会社バイファ)を凍結乾燥し、γHSA粉末を得、所定量を注射用蒸留水(大塚製薬株式会社)に溶解することによって、γHSA水溶液からなる主剤を調製した。
【0045】
(実施例1)
製造例2の主剤0.5g、21%TA+4%GAの架橋剤0.05gを用いて、各種測定を実施した。
【0046】
(実施例2)
製造例2の主剤0.5g、10%TA+5%GAの架橋剤0.05gを用いて、各種測定を実施した。
【0047】
(実施例3)
製造例2の主剤0.5g、21%TA+4%GAの架橋剤0.05gを用いて、各種測定を実施した。
【0048】
(比較例1)
製造例2の主剤0.5g、21%TA+4%GAの架橋剤0.25gを用いて、各種測定を実施した。
【0049】
(比較例2)
製造例2の主剤0.5g、21%TA+4%GAの架橋剤0.0025gを用いて、各種測定を実施した。
【0050】
(比較例3)
製造例2の主剤0.5g、5%GAの架橋剤0.25gを用いて、各種測定を実施した。
【0051】
(比較例4)
製造例2の主剤0.5g、2.5%GAの架橋剤0.25gを用いて、各種測定を実施した。
【0052】
(比較例5)
製造例2の主剤0.5g、10%GAの架橋剤0.0025gを用いて、各種測定を実施した。
【0053】
(比較例6)
製造例2の主剤0.5g、2.5%GAの架橋剤0.0025gを用いて、各種測定を実施した。
【0054】
(比較例7)
製造例2の主剤0.5g、24.5%TA+0.5%GAの架橋剤0.25gを用いて、各種測定を実施した。
【0055】
(比較例8)
製造例2の主剤0.5g、6%TA+19%GAの架橋剤0.25gを用いて、各種測定を実施した。
【0056】
(比較例9)
製造例2の主剤0.5g、24.5%TA+0.5%GAの架橋剤0.0025gを用いて、各種測定を実施した。
【0057】
(比較例10)
製造例2の主剤0.5g、6%TA+19%GAの架橋剤0.0025gを用いて、各種測定を実施した。
【0058】
(比較例11)
製造例2の主剤0.5g、10%GAの架橋剤0.05gを用いて、各種測定を実施した。
【0059】
結果を表1に示す。ゲル化完了時間およびゲル化反応率測定の結果、実施例では良好なゲル化反応率を維持した状態でゲル化完了時間を制御することができたが、比較例においてはGAが高濃度の場合はゲル化反応率は高いもののゲル化完了時間が早すぎる問題があり、GAが低濃度の場合はゲル化完了時間は好適であるがゲル化反応率が低くなる問題が生じる結果となった。また、実施例の接着剤は、引張強度も十分で細胞毒性も問題なかった。
【0060】
【表1】


【0061】
本発明において、TAとGAを組み合わせた架橋剤を主剤と所定の割合で用いることで非常に短時間でゲル化が完了し、さらに良好なゲル化反応率を有する生体組織接着用組成物が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の2液型接着剤は、従来の接着剤に比べて、接着時間の制御だけでなくゲル化反応率の制御に優れた材料を提供することができる。接着時間の制御は、接着剤の用途に応じてゲル化速度を制御できることを意味する。さらには、主剤・架橋剤の精密混合を可能とする2液混合デバイス等用いた生体組織接着の際の接着時間の最適化に特に有用な材料を提供できる。また、ゲル化反応率の制御により、接着耐久性を向上することができる材料を提供できる。
【出願人】 【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡績株式会社
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
【出願日】 平成18年8月30日(2006.8.30)
【代理人】 【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一


【公開番号】 特開2008−54858(P2008−54858A)
【公開日】 平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願番号】 特願2006−234446(P2006−234446)