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【発明の名称】 ポリマー基体の表面修飾プロセス及び、そのプロセスから形成されるポリマー
【発明者】 【氏名】ヤーデイン・ワン

【氏名】ロベルト・フアン・ボクステル

【氏名】ステイーブン・チ・チヨウ

【要約】 【課題】ポリマー基体の表面を修飾し、semi−相互貫入高分子網目構造をもたらすことにより作製した表面を有するシリコーン眼内レンズを提供する。

【構成】a.シリコーン眼内レンズ表面に、膨潤性モノマーを吸収させて、眼内レンズを膨潤させること、b.膨潤性モノマーをシリコーン眼内レンズ表面に入り込ませること、c.膨潤性モノマーを一定時間重合させてシリコーン眼内レンズの表面においてsemi−相互貫入網目構造を形成すること、d.一定時間後に膨潤性モノマーからシリコーン眼内レンズをはずすこと、を含む前記眼内レンズであって、ヘパリン等の表面修飾剤がポリマーの表面に付着する能力を高めるのに使用することができるという点において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面修飾剤をカップリングするために、そこに相互貫入高分子網目構造を形成するための、ポリマー基体の表面修飾プロセスであって、該プロセスが:
ポリマー基体の表面に膨潤性モノマーを吸収させて、該ポリマー基体表面を膨潤させるステップ;
該ポリマー基体表面内で該吸収された膨潤性モノマーを重合し、該表面から伸張する官能基を含む自由端を有する、重合した膨潤性モノマーの相互貫入網目構造を形成するステップ;及び
表面修飾剤を、該伸張する官能基に結合させるステップ;
を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項2】
該ポリマー基体が、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、塩素化ポリ塩化ビニル、EPDMゴム、天然ゴム、ネオプレン、ニトリルゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、シリコーン、熱可塑性エラストマー、及びフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマーからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
該膨潤性モノマーが、アクリルアミド、メタクリルアミド、アリル架橋剤、アクリレート、メタクリレート、及びビニル架橋剤からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
該膨潤性モノマーが架橋剤を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
該膨潤性モノマーの該重合が、加熱、紫外線照射、電離放射線、または化学触媒のいずれかにより開始されることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
該化学触媒が、アゾ開始剤、過酸化物開始剤、及びUV/可視開始剤からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
該開始剤が10%またはそれ以下の濃度で存在することを特徴とする、請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
該重合ステップが、約10秒から72時間までの範囲の時間で実施されることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
該重合ステップが、約−78℃から150℃までの範囲の温度で実施されることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
該結合ステップが:
官能性モノマーを該伸張する官能基に結合させるステップ;及び
表面修飾剤を該結合された官能性モノマーに結合させるステップ;
からなる付加的なステップを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
該官能性モノマーが、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレート、メタクリレート、アリルモノマー、ビニルモノマー、及びスチレンモノマーからなる群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
該表面修飾剤がヘパリンであることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
該ポリマー基体がシリコーンであることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項14】
請求項13のプロセスにより形成されるヘパリン化シリコーンレンズ。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、ポリマーに表面修飾を形成するためのプロセスに関するものであり、詳細には、ポリマーに表面相互貫入高分子網目構造(surface interpenetrating polymer networks)を形成するプロセス、及びそのような表面相互貫入高分子網目構造を有するポリマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーは、加工が容易で、良好な機械的特性を備えている上に、許容可能なレベルの生体適合性を有していることから、医療用具の用途に使用されることが多い。特定の医療用具の用途においては、ポリマーの表面は体細胞や体液に接触するものである。従って、これらの用途の場合には、ポリマーの表面は、体細胞や体液に接触するのに有益な特定の特性を備えている必要がある。しかし、特定の用途にあるポリマーを用いた場合には、これらの特定の有益な特性を具現化できないことがあるであろう。そのような場合には、ポリマーのバルク特性のうちの有益な特性を維持したままで、これらの有益な特性を具現化できるように、ポリマーの薄い表面層を修飾することが必要になることもある。
【0003】
様々なタイプの表面修飾を有するポリマー及び、そのような表面修飾の調製法が数多く知られている。現在用いられているそのようなポリマーの表面修飾法は、ガスプラズマ法、放射線グラフト重合法、光誘導グラフト重合法、ゾル−ゲル処理法、表面エッチング法、及びポリアミン吸着法を含む。これらの既存の表面修飾法は、それらの目的にとって適切なものではあるが、それぞれ欠点を有している。例えば、ガスプラズマ法は、シリコーン等のポリマーに不均一な表面をもたらす傾向があり、これは、細胞吸着を低減するどころか、増大させてしまうことになりかねない。電離放射線法は、ポリマー材料を脆弱化し、退色させる可能性があり、これは、シリコーン製眼内レンズの場合、重大な欠点となる。光誘導グラフト重合法では、カップリング剤がポリマー基体表面と直接反応するため、このプロセスは、ポリマー基体の表面に存在する個々の反応性基に感受性を有する。ゾル−ゲル処理法で得られる修飾表面は長期安定性に欠ける。表面エッチング法は、ポリマーの骨格を切断するため、ポリマーの表面構造を脆弱化しかねない。
【0004】
ポリマーに表面修飾を作成する別の方法は、ポリマーの表面にカップリング剤を直接結合させるものである。この方法は、ポリマー基体の表面に存在する反応性基にカップリング剤を直接結合させる必要がある。従って、カップリング反応は、ポリマー基体の表面に存在する反応性基に依存するため、個々の反応性基に応じて特定の反応条件及びカップリング剤が必要になるであろう。
【0005】
別な既知の表面修飾法は、バルク相互貫入高分子網目構造を利用するものである。相互貫入高分子網目構造は、2種類のポリマーを組み合わせて網目構造の形態に為したものであり、そのうちの少なくとも1つのポリマーが、もう一方のポリマーの存在下で重合される。バルク相互貫入高分子網目構造は、ポリマーのバルク全体を重合することにより合成される。例えば、欧州特許第643,083号は、ソフトコンタクトレンズを製作するための、ポリジメチルシロキサンとポリアクリル酸からなるバルク相互貫入高分子網目構造を開示している。更に、米国特許第5,426,158号は、バルク相互貫入高分子網目構造から作成されたコンタクトレンズを開示している。
【0006】
これらのバルク相互貫入高分子網目構造は、意図通りに使用する際には充分なものであるが、それぞれ欠点を有している。例えば、バルク相互貫入高分子網目構造では、重合開始剤が、修飾すべきポリマーのバルク全体に一様に分配される。その中にバルク相互貫入高分子網目構造を有するポリマーは、ポリマー全体に隈無く網目構造が形成されているため、その物理的特性は、バルク相互貫入高分子網目構造を持たない同一のポリマーの物理的特性とは異なっている。従って、例えば、バルク相互貫入高分子網目構造を有する未処理の透明なポリマーが全体隈無く曇りを帯びることがあり、この場合、このポリマーを光学的用途に使用するのは好ましくない。更に、バルク相互貫入高分子網目構造を有するポリマーでは、重合プロセスで使用される官能性モノマーが、ポリマーのバルク全体に混合されるため、そのポリマーの表面を官能性化するのに使用されるのは、これらの分子の一部に過ぎない。
【0007】
従って、先述の説明から、ポリマーの望ましい物理的特性を維持したままで、そのポリマーの表面が特定の望ましい特性を有するように修飾できるプロセスに対する明確なニーズがあることが理解されよう。表面修飾によりもたらされる望ましい特性のうちの1つは、そのポリマーの表面がヘパリン等の表面修飾剤と結合できるようになることである。このプロセスは、ポリマーのバルクにではなく、ポリマーの表面にのみ生じる相互貫入高分子網目構造をもたらすものでなければならない。また、相互貫入高分子網目構造のカップリング剤は、表面修飾を形成するプロセスがポリマー基体に存在する個々の反応性基に感受性を持たないように、ポリマー基体に存在するどんな反応性基とも化学的に結合すべきでない。更には、このプロセスは、ポリマーに均一な表面をもたらすものでなければならず、また、ポリマー材料を脆弱化したり、退色させるものであってはならず、更に、比較的簡単で且つ安価なものでなければならず、その上、長期安定性を有する表面修飾をもたらすものでなければならない。本発明は、これらのニーズに合致するものである。
【0008】
発明の概要
本発明により、ポリマーに表面修飾を形成するプロセスが提供される。本プロセスは、ポリマーの特性を、その表面部において修飾する。本プロセスは、ヘパリン等の表面修飾剤がポリマーの表面に付着する能力を高めるために使用することができる。ポリマーの表面は、鎖状(caternary)連結または他の様式の鎖の絡み合いで高分子網目構造をポリマー基体の表面に間接的に結合する表面相互貫入高分子網目構造で修飾される。ポリマー基体の表面に存在するどんな反応性基とも直接的に結合していないので、本プロセスは、ポリマー基体の表面に存在する個々の反応性基に感受性を持っていない。更に、本発明の表面修飾は、ポリマーのバルクにではなく、ポリマーの表面にのみ影響を及ぼす。従って、バルクポリマーの望ましい物理的特性が維持される。また、本プロセスは、ポリマーに均一な表面をもたらし、ポリマー材料を脆弱化したり、退色させることがなく、比較的簡単で安価であり、その上、長期安定性を有する表面修飾をもたらすことができる。
【0009】
本発明は、表面相互貫入高分子網目構造の利用を包含する、ポリマーの表面修飾プロセスを提供する。相互貫入高分子網目構造は、2種類のポリマーを組み合わせて網目構造の形態に為したものであり、そのうちの少なくとも1つのポリマーが、もう一方のポリマーの直接的存在下で重合される。相互貫入高分子網目構造は、以下の2つの点で、単純なポリマーブレンド、ポリマーブロック、またはグラフト重合と識別される:(1)相互貫入高分子網目構造は膨潤するが、溶媒に溶解しない;(2)クリープ及び流動性が抑制されている。
【0010】
一般的に、本発明の相互貫入高分子網目構造は、膨潤性モノマーをポリマー基体の表面に導入して、該ポリマー基体をその表面で膨潤させることにより調製される。膨潤は溶媒中で生じるが、該モノマーが、溶媒の助けを受けて、もしくは助けを受けずに、基体表面に拡散できるものであるため、溶媒は必ずしも必要ではない。膨潤プロセスは、特定の温度で特定の時間行われる。この時、膨潤性モノマーは、その反応混合物に導入されている開始剤の存在下で触媒される。膨潤性モノマーは、架橋モノマー、官能性モノマー、または両者の組み合わせであってよい。
【0011】
本発明の別の実施態様では、膨潤後、ポリマー基体を本発明の表面修飾プロセスから取り出し、官能性モノマー及び、ある場合には、溶媒を含有する反応媒質に移してもよい。この時、該官能性モノマーは、触媒、UV照射、加熱、あるいは電離放射線で開始されてよい重合反応により重合される。膨潤性モノマーと官能性モノマーの重合は、特定の温度で特定の時間行われる。反応が開始すると、可溶性ポリマーをもたらす溶液中で重合が進行する。しかし、ポリマー基体の表面界面には官能性モノマーと共に重合する膨潤性モノマーが存在しているため、該重合反応はポリマーの表面に相互貫入高分子網目構造をもたらす。
【0012】
ポリマー基体に形成される本表面相互貫入網目構造は非常に安定している。官能性モノマーとポリマーとの間の結合は間接的なものであり、そこに形成されている鎖状連結及び他の様式の鎖の絡み合いが、カップリング剤とポリマーの結合を担っている。官能性モノマーが基体と化学的に反応しないので、表面がある程度まで膨潤している限り、本相互貫入高分子網目構造プロセスは、基体表面に寧ろ非感受性を示す。従って、本表面相互貫入高分子網目構造を分解するためには、相互貫入高分子の共有結合を開裂しなければならない。また、例えそのような共有結合が開裂されたとしても、相互貫入高分子は尚もポリマー基体の表面内に捕捉され、従って、そのポリマー基体の表面修飾は実質的に完全な状態のまま残るであろう。
【0013】
本発明の表面修飾プロセスは、シリコーンポリマーの表面を修飾するのに有用である。従って、本発明のプロセスを用いて、シリコーン製眼内レンズや、シリコーン製コンタクトレンズ、クロマトグラフィーカラム用のシリコーン粒子、及び他の医療用具を形成することができる。更に、本表面修飾プロセスは、例えば、本発明の表面相互貫入高分子網目構造を有するシリコーン製レンズの表面に、ヘパリン等の表面修飾剤を付着させるのにも有用である。
【0014】
本発明の他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明を考察することにより明らかになるであろう。
【0015】
好適な実施態様の詳細な説明
本発明は、ポリマー基体に相互貫入高分子網目構造を形成する様式でポリマーに表面修飾をもたらすプロセスにより具体化される。本プロセスは、ヘパリン等の表面修飾剤がポリマーの表面に付着する能力を高めるのに使用することができるという点において有用である。本表面相互貫入高分子網目構造は、鎖状(caternary)連結または他の様式の鎖の絡み合いによる、高分子網目構造とポリマー基体の表面との間接的な結合をもたらす。ポリマー基体の反応性基との直接的な反応がないため、本発明のプロセスは、ポリマー基体の表面に存在する個々の反応性基に感受性を持っていない。更に、本発明の表面修飾は、ポリマーのバルクにではなく、ポリマーの表面にのみ影響を及ぼす。従って、バルクポリマーの望ましい物理的特性は維持される。また、本プロセスは、ポリマーに一様な表面をもたらすだけでなく、ポリマー材料を脆弱化したり、退色させたりせず、更に、比較的簡単且つ安価であり、その上、長期安定性を有する表面修飾をもたらすことができる。
【0016】
本発明により、ポリマー基体にそのような表面相互貫入高分子網目構造が形成される。ポリマーは、溶媒の助けを受けて、もしくは助けを受けずに、モノマーの吸収により膨潤するものであればどんなポリマーでも好適に使用することができる。好適には、本発明で使用されるポリマーは、以下のものからなるグループから選択される:
アクリル樹脂;
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー;
塩素化ポリ塩化ビニル;
EPDMゴム;
天然ゴム;
ネオプレン;
ニトリルゴム;
ポリエチレン;
ポリプロピレン;
ポリスチレン;
ポリウレタン;
ポリ塩化ビニル;
シリコーン;
熱可塑性エラストマー;及び
フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー。
【0017】
一般的に、これらのポリマーの表面は、未処理状態のときには疎水性である。本明細書で使用する場合、「疎水性」は、そのポリマーの表面にある水滴の接触角が90゜より大きいことを意味している。また、接触角が90゜未満の場合は、そのポリマーの表面が親水性であることを意味している。例えば、シリコーンの典型的な接触角は約100゜から110゜である。本発明の表面修飾プロセスを受けると、処理後のシリコーンの表面は、接触角が90゜未満になり、約40゜にも低くなることがある。本明細書で用いる接触角とそれらの測定法は、Adamsonによる「Physical Chemistry of Surfaces」(John Wiley & Sons)の341−343頁(1982年)に記載されている。
【0018】
本発明の表面修飾プロセスは、管理下でポリマー基体の表面に膨潤性モノマーを吸収させることから始まる。膨潤性モノマーは、少なくとも1つの架橋モノマー、少なくとも1つの官能性モノマー、もしくは少なくともそれらのそれぞれ1つの組み合わせのいずれかを含むことが好ましい。また、膨潤モノマーは、少なくともジ−またはマルチ−官能性剤を含んでいるのが好ましい。本発明に従って使用される膨潤性モノマーは、好適には、アクリルアミド、メタクリルアミド、アリル架橋剤からなるグループから選択される。
【0019】
ポリマー基体への膨潤性モノマーの吸収は、溶媒の存在下で実施してもよい。溶媒を使用しない場合でも、膨潤性モノマーは1つもしくはそれ以上のモノマーからなっていてよく、それらのモノマーは、架橋モノマー、官能性モノマー、または両者の組み合わせのいずれかである。本発明に従って使用される各特定のポリマー基体に対して、次の表1に示されているように、対応する好適なタイプの溶媒がある:
【0020】
【表1】


【0021】
溶媒の存在下におけるポリマー基体への膨潤性モノマーの吸収は、膨潤性モノマーが勾配を持ってポリマー内へ拡散するように、ポリマー基体内に充分拡散し、そのポリマー基体を膨潤させるものでなければならない。膨潤性モノマーによるポリマーの膨潤は、ポリマー内の間隙を開き、被晒する。
【0022】
ポリマー基体は、好適には、約−20℃から150℃までの範囲の温度で、約0から96時間までの範囲の時間、膨潤される。
【0023】
本発明の一つの実施態様においては、膨潤性モノマーは、本プロセスの膨潤ステップが終了した後に重合される。膨潤性モノマーは、好適には、開始剤の存在下で重合される。使用する開始剤のタイプ及び重合反応条件については、以下でもっと詳細に説明する。
【0024】
本発明の別の実施態様では、ポリマー基体が膨潤ステップを受けた後、その膨潤したポリマーが、官能性モノマーと開始剤を含有する溶液に移される。この溶液は、界面反応媒質または反応混合液と呼ばれることもある。この界面反応媒質は溶媒を含んでいてもよいが、溶媒が必ずしも存在している必要はない。
【0025】
膨潤性モノマーと官能性モノマーの重合反応は、この界面反応媒質内で起こる。重合反応は、好適には、約−78℃から150℃までの範囲の温度で、約10秒から72時間の範囲の時間、実施される。
【0026】
膨潤性モノマーと重合させるため、本発明に従って数多くの異なる官能性モノマーを使用することができる。官能性モノマーは、少なくとも1つのアミン、ヒドロキシル、またはカルボキシル基を有するものが好ましい。例えば、好適な官能性モノマーは、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アリルモノマー、ビニルモノマー、及びスチレンモノマーからなるグループから選択される。
【0027】
上記のモノマーの他、上記のモノマーと同様な重合可能な官能基を有するオリゴマーやポリマーも、本発明に従って使用することができる。
【0028】
必要な場合には、官能性モノマーとの重合反応(または、以上で説明したように、膨潤性モノマーの重合)は、開始剤の形態で開始される。本プロセスに使用される幾つかのモノマー及び架橋剤は、熱−または光−感受性である。これらの熱−または光−感受性モノマー及び/又は架橋剤を使用するプロセスでは、重合は、紫外線または加熱で開始することができる。更に、重合反応は、電離放射線で開始してもよい。他のプロセスでは、触媒開始剤で重合が開始される。触媒開始剤が用いられるモノマーの場合、触媒開始剤は、界面反応媒質中に約0.01%から10%までの範囲の濃度で存在するのが好ましい。
【0029】
また、界面反応媒質中に溶媒が存在していてもよい。界面反応媒質に使用される溶媒は、使用する特定のポリマー基体に対して上記表1に示した溶媒であることが好ましい。溶媒は、ポリマー基体内の相互貫入高分子網目構造の深さを増すことができるという利点をもたらす。
【0030】
反応が開始すると、可溶性ポリマーをもたらす溶液中で重合が進行する。しかし、架橋剤が存在しているため、該重合は、ポリマーの表面に相互貫入高分子網目構造をもたらす。溶媒系の表面/界面でのみ該重合が起こるように、2種類の溶媒の相互可溶度は低くなければならない。
【0031】
触媒開始剤を使用する場合(即ち、官能性モノマー及び/又は膨潤性モノマーが熱−または光−感受性でない場合、及び、電離放射線を使用しない場合)には、開始剤は、アゾ開始剤、過酸化物開始剤、及びUV/可視開始剤からなるグループから選択するのが好ましい。
【0032】
以下は、ポリマー基体に表面相互貫入高分子網目構造を形成するための本発明のプロセスの実施例である。
【実施例1】
【0033】
シリコーンシートをエチレングリコールジメタクリレート中で15時間室温で膨潤させる。次いで、このシートを、2−アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド(20%)と2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド(0.5%)を含有する水溶液に移す。その反応を、60℃で1.5時間実施する。修飾されたこのシリコーンシートで72゜の接触角が得られる。
【実施例2】
【0034】
シリコーンシートをビス(2−メタクリルオキシエチル)ホスフェート中で15時間室温で膨潤させる。次いで、このシートを、2−アミノエチルメタクリレートヒドロクロリド(20%)と2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロポノン(1%)を含有する水溶液に移す。その反応を、UV照射(366nm、中間(medium)強度)しながら、室温で10分間実施する。修飾されたこのシリコーンシートで58゜の接触角が得られる。
【実施例3】
【0035】
47゜の接触角を有するAcrySof眼内レンズ(Alcon Laboratoriesで作成されたソフトアクリルレンズの商標)を、ビス(2−メタクリルオキシエチル)ホスフェートに1時間浸漬し、次いで水に20分間浸漬した。その後、このレンズを、20%の2−アミノエチルメタクリレートヒドロクロリドと1%の2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンを含有する水溶液に入れた。そのレンズを含有する溶液に、366nmのUVを10分間照射した。接触角の測定値は、抽出前が56゜で、抽出後は72゜であった。
【0036】
上記3つの各実施例の場合、本プロセスを受けたシリコーン基体材料は、いつでもヘパリン化することができる。
【0037】
本発明のプロセスにより製作される表面相互貫入高分子網目構造は、数多くの利点をもたらす。例えば、本プロセスは、少なくとも1つのアミン、ヒドロキシル、及び/又はカルボキシル基を有するもの等の、異なる官能性を有するモノマーを用いて高分子網目構造を形成することができる、という意味での多能性という利点をもたらす。従って、これらの基はポリマー表面の一部になり、これにより、ポリマー表面でのアミン基(amine group)へのヘパリンの付着等、表面修飾剤によるこれらの付加された基への付着が可能になる。
【0038】
更に、本発明の表面修飾は、従来の表面修飾では得られない利点をもたらす。従来は、図1に示されているように、ポリマー基体の表面にカップリング剤が直接結合される。従って、カップリング剤とポリマー基体の表面にある反応性基のうちの1つとの間に共有結合が存在する。カップリング剤とポリマー基体の反応性基との反応は、使用するカップリング剤及びポリマー基体に応じて特定の反応条件が必要になるであろう。別な表現をすれば、使用するポリマー基体によって反応条件及びカップリング剤が変わることになるため、この従来の表面修飾法は基体感受性である。従来法は、カップリング剤とポリマー基体表面との間に、開裂するのが困難な共有結合をもたらす、という意味で比較的安定している。しかし、カップリング剤とポリマー基体表面との間のこの共有結合が一旦開裂すると、そのカップリング剤分子は表面修飾として消失する。
【0039】
本発明の場合には、表面相互貫入網目構造のポリマーは、ポリマー基体に直接的には結合しない。その代わりに、ポリマーは、鎖状連結や他の様式の鎖の絡み合いにより、基体と間接的に結合する。カップリング剤が基体に直接結合しないので、本相互貫入高分子網目構造は、図2に示されているように、基体表面に対して寧ろ非感受性である。更に、本発明の表面相互貫入高分子網目構造は非常に安定もしている。ポリマー基体の表面から本相互貫入高分子を分解するためには、相互貫入高分子自体の共有結合を開裂しなければならない。しかし、そのような結合が開裂されたとしても、本相互貫入高分子の残りの部分はポリマー基体と絡み合ったままであろう。従って、本相互貫入高分子の共有結合が開裂しても、本相互貫入高分子の残りの部分は絡み合ったままポリマー基体内に残り、表面修飾として利用できるので、本発明の表面相互貫入高分子網目構造は、従来の表面修飾法よりもずっと安定している。
【0040】
基体における本相互貫入高分子の安定性は、赤外減衰全反射法、即ちATRIR法を用いて実証されている。ATRIR法は、材料の表面構造を明らかにする分析法である。例えば、図3は、本発明に使用するための非修飾シリコーン基体のATRIRスペクトルを示しており、シリコーン基体のIR吸収ピークが示されている。
【0041】
図4は、本発明の相互貫入高分子網目構造プロセスを受けた後の上記シリコーン基体のATRIRを示すグラフである。本発明のプロセス後、このシリコーンのIR吸収ピークは、基体のピークだけでなく、相互貫入高分子網目構造のカルボニル伸縮ピークを表す1725cm−1に新たなピークも示す。
【0042】
シリコーン基体に形成された相互貫入高分子網目構造の安定性を確かめるため、図4に示されている処理後のシリコーン基体を、エタノールで3日間室温で抽出した。相互貫入高分子網目構造を有する抽出後のシリコーン基体のATRIRが図5に示されている。グラフ2に示されている抽出前のシリコーンのカルボニル伸縮ピークは、抽出後のシリコーン基体を表す図5にも尚存在している。ATRIRにこのピークが存在し続けているということは、このシリコーン基体の相互貫入高分子網目構造が恒久性のものであることを示している。
【0043】
本発明の表面修飾の別の利点は、本表面修飾が、ヘパリン等の表面修飾剤と結合できることである。本発明の表面相互貫入高分子網目構造を有するポリマー基体のヘパリン化は、以下の実施例に示されている如くに実施することができる。
【実施例4】
【0044】
相互貫入高分子網目構造を有する基体のヘパリン化
この実施例では、ヘパリン溶液を以下のように調製する。100mlの脱イオン水に、0.25gのヘパリンナトリウムと1.0gのクエン酸を加える。5MのNaOHでpHを約2から5の範囲に調整するが、3.8が好ましい。このヘパリン溶液に、0.016gのNaCNBHを加える。次いで、予め本発明の相互貫入網目構造プロセスで処理されているポリマー基体材料をこの溶液に加える。その反応を50℃で2時間実施する。その後、このポリマー材料を、脱イオン水と0.025Mのホウ酸ナトリウムですすぐ。これで、このポリマー基体はヘパリン化されている。
【0045】
その後、このポリマー基体に2回目のヘパリン化を行ってもよい。1回目のヘパリン化処理を行ったポリマー材料を、0.6%のポリエチレンイミンを有する0.025Mのホウ酸ナトリウム溶液に入れ、室温で1時間放置する。その後、この材料を取り出し、脱イオン水ですすぐ。次いで、その材料をヘパリン溶液に戻し、50℃で3時間、反応を実施する。この後、そのサンプルを、0.025Mのホウ酸ナトリウム溶液と脱イオン水ですすぐ。2回目のヘパリン化後、この材料は、典型的には、20゜の接触角を有している。
【0046】
本発明の表面相互貫入高分子網目構造は、バルク相互貫入高分子網目構造とは異なっており、それでは得られない利点をもたらす。例えば、バルク相互貫入高分子網目構造では、バルク重合用の開始剤がポリマーのバルクに分配される。しかし、本発明の表面相互貫入高分子網目構造では、開始剤は別の相、即ち水性相であり、従って、該開始剤はポリマーの表面に限定される。バルク相互貫入高分子網目構造で処理されたポリマーは、該ポリマーがそのバルク内に第二の高分子網目構造を有しているため、未処理のポリマーとは異なった特性を持っている。バルクプロセスで起こり得るこれらの異なる特性は、これらの異なるバルク特性がシリコーン等のポリマーが曇ったり、硬化したりする原因になりかねず、その場合には、そのポリマーを光学的用途に使用する際の適合性が低減される、という欠点を有している。しかし、本発明の表面相互貫入高分子網目構造で処理されたポリマーは、修飾が表面でのみ起こるため、そのバルク特性を維持することができる。従って、表面相互貫入高分子網目構造を有するシリコーンポリマーは、その表面相互貫入高分子網目構造が薄いことにより、光学的用途に充分な透明性を有することができる。更に、バルク相互貫入高分子網目構造では、官能性モノマーがバルクに混合され、従って、バルク相互貫入高分子網目構造の表面の官能性に利用できるのは、官能性モノマーのうちの一部に過ぎない。一方、本発明の表面相互貫入高分子網目構造では、ポリマーの表面の官能性に官能性モノマーを有効に利用することができる。これは、該官能性モノマーが、反応中、水性相にあり、従って、重合中、ポリマーの表面にのみ付着し、反応後も該ポリマーの外層に残る、という事実によるものである。
【0047】
本発明のプロセスを用いて数多くの有用な物品を形成することができる。例えば、本プロセスの有用な適用例の一つが、レンズ表面のヘパリン化を可能にする、シリコーン製眼内レンズの表面修飾である。更に、シリコーン製コンタクトレンズや、クロマトグラフィーカラムに使用するためのシリコーン粒子も、本発明の表面相互貫入高分子プロセスを用いて作成することができる。
【0048】
本発明の特定の形態について説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を為し得ることは明らかであろう。即ち、図面に開示し、また、以上で詳細に説明したこの特定の実施態様で本発明を制限することは意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】カップリング剤の一端をシリコーン製レンズ表面の反応性基に結合する従来の表面修飾法を示す概略図である。
【図2】本発明の表面相互貫入高分子網目構造分子の一例を示す概略図である。
【図3】非修飾シリコーン基体の赤外減衰全反射スペクトル(ATRIR)を示すグラフである。
【図4】本発明のプロセスにより修飾されたシリコーン基体の赤外減衰全反射スペクトル(ATRIR)を示すグラフである。
【図5】本発明のプロセスで修飾し、エタノールで3日間抽出したシリコーン基体の赤外減衰全反射スペクトル(ATRIR)を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】506234985
【氏名又は名称】アドバンスド・メデイカル・オプテイクス・ウプサラ・アー・ベー
【出願日】 平成19年8月3日(2007.8.3)
【代理人】 【識別番号】100062007
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 義雄

【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠

【識別番号】100140523
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 千尋

【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教

【識別番号】100103920
【弁理士】
【氏名又は名称】大崎 勝真

【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明


【公開番号】 特開2008−29851(P2008−29851A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2007−202602(P2007−202602)