| 【発明の名称】 |
生物由来スキャフォールドの作製方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】藤里 俊哉
【氏名】寺田 堂彦
【氏名】澤田 和也
【氏名】中谷 武嗣
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| 【要約】 |
【課題】生体適合性および生分解性を有し、石灰化なしに自己組織化および成長を許容する、生体由来の再生医療用スキャフォールドの作成方法を提供する。
【構成】生体軟組織を凍結乾燥後真空下加熱して部分的に架橋固定化し、次いで酵素エラスターゼと共にインキュベートして組織からエラスチンを選択的に除去する。軟組織を直接処理する代りに、超高静水圧印加により脱細胞処理してから、真空熱架橋次いでエラスチンの除去を行ってもよい。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)生体組織を凍結乾燥後、含まれるタンパク質を部分的に架橋固定化するため真空下100℃以上200℃以下の温度において加熱するステップ、 (b)部分的に架橋固定化した組織をエラスターゼと共にインキュベートし、選択的にエラスチンを除去するステップ、 を含む移植用スキャフォールドの作成方法。 【請求項2】 前記軟組織は主としてコラーゲンとエラスチンよりなる結合組織である請求項1の方法。 【請求項3】 ステップ(a)は、少なくとも温度120℃において24時間行われる請求項1の方法。 【請求項4】 ステップ(b)は、エラスターゼの至適pHを有する緩衝液中で実施される請求項1の方法。 【請求項5】 緩衝液はpH7.5ないし8.5のトリス緩衝液である請求項4の方法。 【請求項6】 ステップ(b)の後組織を洗浄するステップをさらに含む請求項1の方法。 【請求項7】 (a)生体軟組織を媒体中超高静水圧を印加することによって脱細胞するステップ、 (b)脱細胞した組織を凍結乾燥後、含まれるタンパク質を部分的に架橋固定化するため真空下100℃以上200℃の温度において加熱するステップ、 (c)部分的に架橋固定化した組織をエラスターゼと共にインキュべートし、選択的にエラスチンを除去するステップ、 を含む移植用スキャフォールドの作成方法。 【請求項8】 前記軟組織は主としてコラーゲンおよびエラスチンよりなる結合組織を含み、前記スキャフォールドは主としてコラーゲンよりなる請求項7の方法。 【請求項9】 ステップ(a)は、5000ないし15000気圧の圧力において行われ、超高静水圧を印加して処理した組織から脱離した細胞を洗浄除去することによって行われる請求項7の方法。 【請求項10】 ステップ(b)は、少なくとも温度120℃において24時間において24時間行われる請求項7の方法。 【請求項11】 ステップ(c)は、エラスターゼの至適pHを有する緩衝液中で実施される請求項7の方法。 【請求項12】 緩衝液はpH7.5ないし8.5のトリス緩衝液である請求項11の方法。 【請求項13】 ステップ(c)の後組織を洗浄するステップをさらに含んでいる請求項7の方法。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、再生医療技術の分野、詳しくは哺乳動物の軟組織から生物由来のスキャフォールドの作製方法に関する。 【背景技術】 【0002】 患者の欠損した器官を再生するため、人工デバイスによる置換、人工または生物由来のスキャフォールドを移植して自己組織化等により、失われた機能を回復させる医療が行われている。例えば、現在我国では、年間1万件を超える心臓弁置換術が行われているが、その約7割は機械弁による置換である。残りの3割はウシ、ブタ等の組織をグルタルアルデヒドで固定化した異種生体弁の移植である。機械弁置換後は継続して抗血栓剤の投与が不可欠であり、患者のクオーリティ・オブ・ライフを損ねる問題がある。移植した異種生体弁は石灰化などによって15年程度の耐久性しかなく、若年者では再度の移植を必要とする。 【0003】 グルタルアルデヒドで固定化した異種生体血管による血管置換術では、心臓弁置換術と同様に石灰化などによる耐久性の問題に加えて、生体組織の本来の機械的性質(強度および弾力性)が失われる問題がある。生分解性ポリマー、例えばポリ乳酸を用いた人工血管の移植は小児患者の静脈系で臨床応用されているが、狭窄等の問題も報告されており、また生分解は単純な加水分解によるため動脈系では破断のおそれがある。 【0004】 一方、生体組織から酵素や界面活性剤を用いて細胞を取り去り、細胞外マトリックスを残し、移植用スキャフォールドを作製する方法も知られている。しかし、脱細胞したままでは比較的高圧力に耐える必要のある部位への移植片としては破断強度が不足しており、その上移植後に石灰化を生じることもあり、未だ有効な治療方法とはなっていない。石灰化の主要因としては、組織内のエラスチンが関連しているという報告がある。 【0005】 従って、宿主に拒絶反応を誘発しないことおよび抗血栓性であることを含む生体適合性を有し、終局的には体内で分解されるが自己組織化されるまでの耐久性を有し、細胞の浸潤を妨げる石灰化なしに自己組織化および成長を許容する、生物由来のスキャフォールドの提供が望まれる。 【発明の開示】 【0006】 上記課題を解決するため、一面において本発明は、 (a)生体軟組織を凍結乾燥後、含まれるタンパク質を部分的に架橋固定化するため真空下100℃以上200℃以下の温度において加熱するステップ、 (b)部分的に架橋固定化した組織をエラスターゼと共にインキュベートし、選択的にエラスチンを除去するステップを含む移植用スキャフォールドの作製方法を提供する。 【0007】 他の面において本発明は、 (a)生体軟組織を媒体中超高静水圧を印加することによって脱細胞するステップ、 (b)脱細胞した生体軟組織を凍結乾燥後、含まれるタンパク質を部分的に架橋固定化するため100℃以上200℃以下の温度で加熱するステップ、 (c)部分的に架橋固定化した組織をエラスターゼと共にインキュベートし、選択的にエラスチンを除去するステップを含む移植用スキャフォールドの作成方法を提供する。 【0008】 本発明は、生体組織の構造タンパク成分であるエラスチンが石灰化に関与しているとの研究報告を基礎にしている。しかしながら組織からエラスチンを除去しただけでは他の要件、特に満足な機械的強度を保つためには不充分であるため、真空下での加熱による部分的な架橋による固定化を併用する。真空下での熱架橋は、組織内タンパク質のカルボキシル基あるいはヒドロキシル基とアミノ基との間の脱水縮合反応によって達成される。しかしグルタルアルデヒド等の化学架橋剤処理とは異なり、分子間に液体媒体が存在しないため部分的な反応にとどまり、一般的に架橋度は弱い。従って部分架橋された組織からのエラスターゼを作用させてエラスチンを選択的に除去することができる。 【0009】 また、真空熱架橋前に、組織を媒体中で超高静水圧印加によって脱細胞することにより、スキャフォールドの抗原性を減弱することができるばかりでなく、破断強度に代表される生体力学的性質を一層向上させることができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 本発明の処理対象となる生体軟組織は、主としてコラーゲン繊維とエラスチン繊維とを含む繊維性結合組織である。その起源はレシピエント自体(オート グラフト)、同種(アログラフト)または異種(ゼノグラフト)哺乳動物、特に異種哺乳動物の器官およびその一部、例えば血管である。 【0011】 真空下での加熱による組織の部分架橋は、上で述べたとおりタンパク質を構成するリジン等の塩基性アミノ酸のアミノ基と、グルタミン酸等の酸性アミノ酸のカルボシル基および/またはセリン、スレオニン等のヒドロキシル基を有するアミノ酸のヒドロキシル基との間の脱水縮合反応であるから、真空下での部分架橋前に組織を凍結乾燥によって絶乾状態にする必要がある。 【0012】 本発明の第1の具体例によれば、生体軟組織を直接凍結乾燥し、次に真空下100℃以上200℃以下の温度において加熱し、組織を部分架橋によって固定化する。この時分子間に液体媒体が存在しないため脱水縮合反応は部分的にとどまる。加熱は凍結乾燥した組織の重量損失が好ましくは2〜3%に達するまで継続される。この時間は例えば120℃において約24時間であるが、上の温度範囲内において低い温度域では比較的長時間を、高い温度域では比較的短時間を要するであろう。 【0013】 高真空下の加熱による部分架橋した組織は酵素エラスターゼと共にインキュベートし、選択的にエラスチンを除去する。酵素としてエラスターゼを選択することにより、石灰化の要因となるエラスチンを選択的に除去することができる。 【0014】 部分架橋した組織からのエラスチンの選択的除去は、エラスターゼの至適pHにおいて実施される。本発明者らはpH8.0のトリスバッファー中37℃でインキュベーションを行って満足な結果を得た。勿論トリス以外の緩衝液を用いて特定のエラスターゼ供給者の推奨するpH範囲例えばpH7.5ないし8.5の範囲で実施することも本発明の範囲内である。酵素濃度は一般に300〜10000U/L、好ましくは600U/Lが適当であり、インキュベーション時間は37℃において1日ないし1週間、好ましくは2ないし7日である。 【0015】 エラスターゼ処理の終った組織は、純水、生理食塩水、緩衝液などを用いてリンスし、移植に使用されるまでPBSその他の保存液中で保存される。 【0016】 本発明の第2の具体例は、凍結乾燥した組織の真空下での加熱ステップ前に、組織を超高静水圧の適用により脱細胞するステップを含むことを除き、第1の具体例と同じである。 【0017】 超高静水圧印加による生体組織の脱細胞は、本発明者らの特開2004−97552公報およびWO2004/024170A1に記載されている。この方法の利点は、トリプシンや界面活性剤を使用する脱細胞方法と違って組織の構造および生体工学的性質をインタクトに保った状態で脱細胞が可能なこと、および細菌の死滅、ウイルスの不活性化が同時に達成できることである。この超高静水圧印加による脱細胞を組合せることにより、組織を直接凍結乾燥後真空下で加熱処理する第1の具体例の場合に比較して得られるスキャフォールドの強度が格段に向上する。超高静水圧印加による脱細胞技術自体は既に文献に記載されており、その詳細はここでは記載しないが、本発明の目的に対しては組織へ無菌水のような液体媒体中5,000〜10,000気圧の超高静水圧を10分印加した後、純水、生理食塩水、緩衝液などで細胞を洗い出して用いるのが好ましい。その後の処理ステップは第1の具体例と同じでよい。 【0018】 いずれの具体例によるにせよ、エラスターゼ処理によりエラスチンを除去した後に得られるスキャフォールドの主成分はコラーゲンである。本発明による真空下加熱による組織の部分架橋固定化は主にコラーゲンに対して起こり、エラスターゼによるエラスチンの選択的除去には実質上影響せず、またはコラーゲンを主体とするスキャフォールドのコラーゲナーゼによる被酵素分解性も真空熱架橋によって阻害されないことが実験により確認されている。これはエラスチンを構成するアミノ酸の大部分は電荷を持たない非芳香族アミノ酸であるため、カルボキシル基やヒドロキシルと脱水縮合するアミノ基を持つリジン残基を持たないためであると信じられる。さらにコラーゲンにおいて脱水縮合による架橋が起っても部分的にとどまるため、移植後体内で完全に分解されるものと考えられる。 【実施例】 【0019】 以下の実験は、(株)ジャパンファームから購入したブタ大動脈を用い、温度条件を変えて真空熱架橋処理し、処理後の組織をエラスターゼ(3.85U/mg,フナコシ)150mg/L(0.57u/ml)を添加した0.01Mトリスバッファー(pH8.0)中で37℃72時間の一定条件でインキュベートした。なお%は重量基準による。 【0020】 実施例1 ブタ大動脈血管を直接凍結乾燥し、これをそれぞれ100℃、120℃、160℃および180℃で真空オーブン中24時間加熱し、凍結乾燥後の絶乾重量と真空熱架橋後の重量との差から重量損失率(%)を算出した。結果を図1のグラフに示す。 【0021】 この実験の結果、120℃で24時間の真空熱架橋が最適と判断されたので、これを上の条件(37℃、72時間)で、0.01Mトリスバッファー中エラスターゼ0.57u/ml,0.10mM CaCl2,0.02%NaN3を含む酵素液でインキュベートし、その後生理食塩水でリンスした。 【0022】 実施例2 実施例で用いたものと同様なブタ大動脈血管を無菌水と共に超高静水圧印加装置(神戸製鋼所製ドクターシェフ)へ入れ、圧力10000気圧で10分間超高静水圧を印加し、取出したブタ大動脈血管を無菌水で充分に洗浄し、脱細胞処理した。 【0023】 このように脱細胞処理したブタ大動脈血管を凍結乾燥し、実施例1と同じ条件(120℃、24時間)で真空熱架橋し、次いで同じ条件(37℃、72時間)でエラスターゼ処理してエラスチンを除去した。 【0024】 図2aは、未処理状態(ネイティブ)のブタ大動脈血管の外観写真である。図2bは、本発明により作製されたブタ大動脈血管の外観写真である。すなわち、真空熱架橋処理を施した後に、エラスターゼを用いてエラスチンを酵素的に分解除去した、コラーゲン構造の保存された血管組織である。見られるように、エラスチンを除去することによって、静脈組織と同様に円筒形状は保持できなくなる。 【0025】 図3は、未処理状態(ネイティブ)のブタ大動脈血管及びブタ肺動脈血管と、本発明により作製されたブタ大動脈血管スキャフォールドの引張試験により得られた応力歪み曲線を示す。引張方向は血管円周方向である。見られるように、本発明により作製された血管組織の引張強さは、未処理状態のブタ大動脈血管には劣るが、未処理のブタ肺動脈よりは強い。すなわち、静脈組織と同様に形状は保てないものの、静脈組織以上の強度を有することがわかる。臨床では、小児患者を対象として、自己肺動脈弁組織を大動脈位に移植するロスという術式があり、肺動脈導管以上の強度を有していれば大動脈導管として使用可能であると考えられる。 【0026】 図4は、未処理状態(ネイティブ)のブタ大動脈血管と、本発明により作製されたブタ大動脈血管スキャフォールドとをエラスチカ・ワンギーソン染色法により染色した組織切片写真である。エラスチカ・ワンギーソン染色とは、生体組織内のエラスチン繊維を黒紫色に、コラーゲン繊維を赤色に染め分ける染色法である。図のように、未処理状態では血管壁全体にエラスチン繊維が多く存在しているのに対し、本発明により作製されたブタ大動脈血管スキャフォールドではエラスチン繊維は完全に分解除去され、コラーゲン主体の細胞外マトリックスのみが残存している。 【0027】 図5は、実施例1と同じ引張試験により得られた応力歪み曲線である。図中(a)はブタ大動脈を実施例2に従って処理して得られたスキャフォールド、(b)は実施例1に従って処理して得られたスキャフォールド、(c)は未処理(ネイティブ)のブタ大動脈である。見られるように、超高水圧印加による脱細胞処理を、真空熱架橋とエラスターゼによるエラスチン除去と組合せることにより、直接真空熱架橋およびエラスチン除去処理する場合よりも格段(約6倍)に引張強度を向上させることができた。 【図面の簡単な説明】 【0028】 【図1】凍結乾燥したブタ大動脈血管を温度を変えて24時間真空熱架橋した時の重量損失率(%)を示すグラフ。 【図2】ブタ大動脈血管の未処理状態(a)および本発明による処理後(b)の外観写真。 【図3】未処理のブタ大動脈血管(b)および未処理のブタ肺動脈血管(c)と比較した、本発明に従ってブタ大動脈血管から作成されたスキャフォールド(a)の応力歪み曲線のグラフ。 【図4】未処理(a)および本発明による処理後のブタ大動脈血管組織(b)のエラスチカ・ワンギーソン染色による組織観察写真。 【図5】未処理(c)および実施例1による処理(b)と比較した実施例2に従って処理したブタ大動脈血管から作成したスキャフォールド(a)の応力歪み曲線のグラフ。
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| 【出願人】 |
【識別番号】803000056 【氏名又は名称】財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
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| 【出願日】 |
平成18年7月31日(2006.7.31) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100060368 【弁理士】 【氏名又は名称】赤岡 迪夫
【識別番号】100124648 【弁理士】 【氏名又は名称】赤岡 和夫
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| 【公開番号】 |
特開2008−29653(P2008−29653A) |
| 【公開日】 |
平成20年2月14日(2008.2.14) |
| 【出願番号】 |
特願2006−207384(P2006−207384) |
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