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【発明の名称】 ラクトシルセラミドを有効成分とする医薬
【発明者】 【氏名】安部 博子

【氏名】仲山 賢一

【氏名】平島 光臣

【要約】 【課題】安価で有効かつ毒性の少ない抗炎症剤および、感染症治療および予防薬、さらには好中球活性化剤を提供する

【構成】ラクトシルセラミドを有効成分とするサイトカインの産生抑制剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトシルセラミドを有効成分とするサイトカインの産生抑制剤。
【請求項2】
前記サイトカインがTh1サイトカインおよび炎症性サイトカインからなる群から選ばれる、請求項1に記載のサイトカインの産生抑制剤。
【請求項3】
サイトカインがエンドトキシンによって産生されるものである、請求項1又は2に記載のサイトカインの産生抑制剤。
【請求項4】
前記サイトカインが、TNFα、IFNγおよびIL-12からなる群から選ばれる、請求項1〜3のいずれかに記載のサイトカインの産生抑制剤。
【請求項5】
ラクトシルセラミドを有効成分とする抗炎症剤。
【請求項6】
ラクトシルセラミドを有効成分とする好中球の遊走促進剤。
【請求項7】
ラクトシルセラミドを有効成分とする敗血症の予防ないし治療剤。
【請求項8】
ラクトシルセラミドを有効成分とするエンドトキシンショックの予防ないし治療剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、生物全般に広く分布する糖脂質であり、ガングリオ系、ラクト系、ネオラクト系、グロボ系などの多くの糖脂質の基となる構造を持った、ラクトシルセラミド(LacCer)の新たな薬効に関する。
【背景技術】
【0002】
グラム陰性菌感染症はショック、すなわち敗血症性ショックを引き起こし、多臓器傷害、多臓器不全を誘導する。その診断と治療の進歩にも関わらず死亡率が高く、米国では年間の死亡者が21万人にも及んでいると推定される、重要疾患の一つである(非特許文献1)。グラム陰性菌敗血症性ショックの原因物質として重要なエンドトキシンの多彩な作用はエンドトキシンによる直接的な作用によるものではなく、エンドトキシンの刺激を受けた種々の細胞から生産されるサイトカインなどの因子を介して引き起こされることが明らかになってきた。敗血症とは血液中に細菌が存在すること、あるいはエンドトキシンに代表される細菌毒素が存在することによって引き起こされる症状であるが、同様な症状は外傷、熱症、膵炎、出血性ショックなどの非感染性疾患、ウイルス、真菌感染などの細菌感染症でも認められる。現在、敗血性ショックの治療は感染症あるいは感染源に対する原因療法と強力な全身管理が必要であり、最近では抗サイトカイン療法や薬物によるmediatorのコントロールも行われている。このように敗血症や敗血症を引き起こす感染症に対して、これまで数多くの治療法の開発が試みられたが、満足のいく治療法は見出されていない。
【0003】
従来、炎症疾患や感染症の治療にはステロイドホルモンが用いられてきたが、ステロイドは副作用が強いことから問題が多い。一方、エンドトキシンの刺激によって生産されたTh1サイトカインは細胞障害性T細胞(CTL)の誘導にプラスに働き、菌の排除や抗ガン免疫に対するアジュバントとして機能することが分かっている。
【0004】
一方、ラクトシルセラミド(LacCer)は、LPS刺激によるIFNγなどのサイトカインの産生を著名に増強することが知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002-255824
【非特許文献1】Hotchkiss R. S. et al, N. Eng. J. Med., 348, 138-150 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
敗血症性ショックおよび自己免疫疾患などは、炎症性サイトカインの過剰な生産によって引き起こされる疾患である。また、細菌感染においても過剰な炎症性サイトカインの産生は細菌だけでなく、自己を破壊する効果もあわせ持つ。炎症反応を惹起するサイトカインとして中心的な役割を演じ、エンドトキシン致死活性のメディエーターである、TNF-αの炎症時における産生をいかに抑制するかが課題となってくる(Beutler B.and Cerami A.,Nature, 320, 584-588 (1986))。細菌感染におけるTh1反応の中心的サイトカインであるIFN-γはMacφやクッパー細胞によって生産されるIL-12によって誘導される。従って、IL-12の産生抑制は細菌感染によって引き起こされるTh1へのサイトカインバランスの傾きを抑制することにつながる。このことから、IL-12の生産抑制効果も併せてもつ治療法および、薬剤が必要である。また、細菌感染症の予防、治療において、原因菌の速やかな排除が重要であるが、生体内では好中球がその機能を持つことが知られている。この理由から、好中球の遊走活性を示す薬剤も感染症治療に有効であると考えられる。さらにこのような活性は免疫抑制剤などの治療によって、著しく減少した好中球を増加させるという目的にも使用できる。本発明により、安価で有効かつ毒性の少ない抗炎症剤および、感染症治療および予防薬、さらには好中球活性化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、生物全般に広く存在する糖脂質の一種であり、ガングリオ系、ラクト系、ネオラクト系、グロボ系などの多くの糖脂質の基となる構造をもつLacCerを投与することによって、エンドトキシンによって誘導されるTh1サイトカイン、炎症性サイトカインの産生を抑制することを発見し、マウスにおいて抑制効果を示す最適投与量までも決定するに至った。また、LacCerのマウス腹腔内投与によって好中球が大量に誘導されることから、細菌感染症における、速やかな細菌の排除効果を有すると推定される。LacCerは大量投与によってサイトカインの増強効果を有するが、より少量の投与では、サイトカインの抑制効果を有する。
【0007】
本発明は、以下の発明に関する。
項1. ラクトシルセラミドを有効成分とするサイトカインの産生抑制剤。
項2. 前記サイトカインがTh1サイトカインおよび炎症性サイトカインからなる群から選ばれる、項1に記載のサイトカインの産生抑制剤。
項3. サイトカインがエンドトキシンによって産生されるものである、項1又は2に記載のサイトカインの産生抑制剤。
項4. 前記サイトカインが、TNFα、IFNγおよびIL-12からなる群から選ばれる、項1〜3のいずれかに記載のサイトカインの産生抑制剤。
項5. ラクトシルセラミドを有効成分とする抗炎症剤。
項6. ラクトシルセラミドを有効成分とする好中球の遊走促進剤。
項7. ラクトシルセラミドを有効成分とする敗血症の予防ないし治療剤。
項8. ラクトシルセラミドを有効成分とするエンドトキシンショックの予防ないし治療剤。
【発明の効果】
【0008】
Lipopolysaccharide (LPS)をマウス腹腔内に投与すると、血清中のTh1サイトカインの産生が増強され、炎症が誘発されるが、LPSと同時にラクトシルセラミドを投与すると、LPS単独投与群に比してTh1サイトカインであるTNF-α、IL-12およびIFN-γの産生減少が認められた。さらにこの効果はLacCerを可溶化できる溶媒を変えても確認することができ、より生体に与える影響の少ない溶媒で可溶化した場合、DMSOで可溶化するよりも、少ない投与量で同効果を得ることができた。また、LPSと同時にLacCerを投与するとLacCerのみの投与に比して、好中球の滲出は減少した。
【0009】
また、LacCer単独投与ではサイトカインの変動は観察されないが、多数の好中球の滲出が確認される。好中球は、大腸菌などの細菌の排除に重要な機能をもつことから、LacCerの単独投与によって感染防御を行うことができると考えられる。以上のことから、LacCerが細菌感染などによって誘導されるTh1サイトカインの生産を抑えること、また好中球の誘導を通じて菌の排除を行うなど、早期の防御システムに有効な効果を示す可能性が示唆された。
【0010】
さらに、上記の投与量の約10倍量のLacCerをLPSと同時に投与することにより、TNF-αおよびIFN-γの生産が増強することが分かった。我々は、生体内に豊富に存在する糖脂質の一種であるLacCerの投与により炎症誘導時における炎症性サイトカイン産生を抑制すること、さらには投与量を増加させることによって、このようなサイトカインの生産量を増加させることを見出した。
【0011】
上記の結果より、LacCerは、炎症および炎症性疾患に対する治療剤、特に抗炎症剤、細菌感染症、菌血症、さらには、免疫賦活剤および免疫力を強化するアジュバントとして効果的に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、ラクトシルセラミド(LacCer)は、サイトカインの産生を抑制する量で使用される。後述に実施例に記載されるように、マウスにおいて、0.25μg〜2μg程度投与した場合には、LacCerは、Th1サイトカイン、炎症性サイトカインなどの産生を抑制する。一方、マウスにおいて1日あたり20μgを投与すると、特許文献1に記載のように、逆にサイトカインの産生を増強する。本発明は、LacCerをサイトカインの産生抑制有効量で使用することに特徴を有する。成人の1日あたりのサイトカインの産生抑制有効量は、マウスを使用した実施例の記載を参照して、当業者であればルーチンの実験により容易に決定することができる。LacCerは、1日1回又は数回に分けて投与することができる。なお、LacCerの投与量は患者の症状、年齢、体重、投与経路、LPSなどの自然免疫刺激剤の有無等により適宜増減してもよい。
【0013】
本発明では、LacCerは、LPS(細菌)を含む自然免疫刺激剤の存在下で特にサイトカインの産生を抑制することができるので、LPS(細菌)などの自然免疫刺激剤を有する患者に投与することが望ましい。
【0014】
本発明において、有効成分として使用されるラクトシルセラミド(LacCer)は、公知物質であり、市販品として入手可能である。
【0015】
本明細書において、Th1サイトカインとしては、IL-2、IL-12、IFNγ、TNFα、TNFβなどが挙げられ、炎症性サイトカインとしては、IL-1、TNFα、IL-6、GM-CSF、IFNγ、RANTES、IL-8、MCP-1などが挙げられる。本発明の有効量のLacCerは、これらの産生を抑制することができ、抗炎症剤、あるいは、菌血症ないし敗血症(敗血症性ショックを含む)、エンドトキシンショックなどの治療薬として有用である。
【0016】
LacCerは、敗血症、菌血症などにおいて、敗血症性ショック、多臓器障害、エンドトキシンショックなどになる可能性がある場合には、予防的に投与し、敗血症性ショック、エンドトキシンショックの発症を抑制することができる。
【0017】
ラクトシルセラミドは経口、非経口のいずれでも投与することができる。投与剤型としては錠剤、カプセル剤、トローチ剤、散剤、顆粒剤、注射剤、坐剤、経皮吸収剤、点眼剤等が挙げられる。これらは通常の賦形剤、滑沢剤、結合剤等の添加物とともに、公知の製剤技術により製造できる。また、注射により非経口投与する場合有効量を皮下、静脈内注入、点滴静注するのがよい。
【実施例】
【0018】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
実施例1:LacCerのLPS誘導時におけるTh1サイトカイン産生の抑制効果
マウスの系統の一種であるBALB/Cマウス(雌、6週齢)を用いてLacCerの薬効について解析した。大腸菌LPS (Sigma)12μg /500μl、Porcine LacCer(MATREYA LLC) 2μg/500μlおよびLPSとLacCerの混合液 /500μl (LPS 12μg、LacCer 2μg/DMSO)をマウス腹腔内に投与(i.p.)した時の血清中のサイトカイン濃度を測定した。投与はそれぞれの条件において3匹のマウスに行い、サイトカイン濃度は3匹の平均値で表している。TNF-αはi.p.投与時と投与後1時間の血清のELISA解析 (Mouse TNF-α Immunoassay Kit, BIOSOURCE)にて測定した。IL-12はi.p.投与時と投与後3時間、6時間の血清のELISA解析 (Mouse IL-12 ELISA Kit, PIERCE ENDOGEN)にて測定した。IFN-γはi.p.投与時と投与後6時間、12時間の血清のELISA解析 (Mouse IFN-γ ELISA Kit, PIERCE ENDOGEN)にて測定した。吸光度はプレートリーダー(Thermo、Endpoint mode、450nm-570nmでバックグラウンド補正) を用いて測定した。図1に示すように、LPSのみのi.p.投与に比して、LacCerの付加により上記サイトカインの産生量が抑制された。また、LacCerのみのi.p.投与ではサイトカインの変動はなく、毒性を示さないことが明らかとなった。
【0020】
実施例2:LacCerのTh1サイトカイン産生抑制効果を示す最適量の決定
実施例1の効果を示すLacCerの最適投与量を決定するために、LacCer 0.6μg、2μg、6μgをLPS 12μgとそれぞれ混合し、PBSで 500μlにした後i.p.投与した。投与はそれぞれの条件において3匹のマウスに行い、サイトカイン濃度は3匹の平均値で表している。血清中のサイトカイン濃度を経時的に測定した結果、TNF-α、IL-12、IFN-γのいずれのサイトカインにおいてもLacCerの2μg 投与が最もTh1サイトカインの産生を抑制することが分かった(図2)。
【0021】
実施例3:LacCerのTh1サイトカイン産生抑制効果を示す最適量の決定
実施例1および2ではLacCerをDMSOにて溶解したものをストック溶液として用いていたが、溶媒をより生体への影響が少ないと考えられるvehicle(0.5% tween80/PBS)に変えたときのTh1サイトカイン産生抑制効果とその最適量を調べた。LacCer 0.25μg 、0.5μg、20μg、をLPS 16μgとそれぞれ混合し、PBSで 200μlにした後i.p.投与した。投与はそれぞれの条件において4匹のマウスに行い、サイトカイン濃度は4匹の平均値で表している。血清中のサイトカイン濃度を経時的に測定した結果、TNF-α、IL-12、IFN-γのいずれのサイトカインにおいてもLacCerの0.25μg 投与が最もTh1サイトカインの産生を抑制することが分かった(図3)。一方、LacCerの20μg投与では逆にTNF-αおよびIFN-γの産生を増強させた(図4)。
【0022】
実施例4:LacCerの好中球の誘導活性
LacCer 2μgのi.p.投与した時から腹腔内に滲出してくる細胞種の経時的変化を調べた。細胞種の分類はそれぞれの細胞が示す表面マーカーを染色した後に、FACS解析にて分類した。投与後3時間でマウス腹腔内に好中球が滲出してくることが分かった(図5)。このことから、LacCerには好中球の遊走活性があることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】LacCerのLPS誘導時におけるTh1サイトカイン産生の抑制効果
【図2】LacCerのTh1サイトカイン産生抑制効果を示す最適量の決定
【図3】LacCerのTh1サイトカイン産生抑制効果を示す最適量の決定
【図4】LacCerのTh1サイトカイン産生抑制効果を示す最適量の決定
【図5】LacCerの好中球の誘導活性
【出願人】 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
【出願日】 平成18年9月14日(2006.9.14)
【代理人】 【識別番号】100065215
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 英二

【識別番号】100076510
【弁理士】
【氏名又は名称】掛樋 悠路

【識別番号】100099988
【弁理士】
【氏名又は名称】斎藤 健治


【公開番号】 特開2008−69111(P2008−69111A)
【公開日】 平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願番号】 特願2006−250053(P2006−250053)