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【発明の名称】 糸球体疾患治療剤
【発明者】 【氏名】中川 隆

【氏名】堰本 亮平

【氏名】豊泉 さや香

【氏名】伊菅 昌子

【氏名】鈴木 亜也乃

【要約】 【課題】進行性腎障害の糸球体部位においては、メサンギウム細胞の増殖及びメサンギウム基質の増生が見られることが、障害の進行において特に重大な問題とされている。更にその障害部位は糸球体のみならず、その周囲の尿細管や間質領域にも及んでいる場合が多い。そこで、糸球体疾患、特に進行性の慢性糸球体疾患、例えばIgA腎症、巣状糸球体硬化症、膜性腎症、膜性増殖性腎炎、糖尿病性腎症、又はネフローゼ症候群の予防又は治療に有効な医薬組成物を提供する。

【構成】ピリドキサミン又はその塩及びジラゼプ又はその塩を含有する糸球体疾患の予防又は治療剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリドキサミン又はその塩及びジラゼプ又はその塩を含有する糸球体疾患の予防又は治療剤。
【請求項2】
糸球体疾患が、IgA腎症、巣状糸球体硬化症、膜性腎症、膜性増殖性腎炎、糖尿病性腎症、又はネフローゼ症候群である請求項1記載の糸球体疾患の予防又は治療剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は糸球体疾患、特に進行性の慢性糸球体疾患の予防又は治療に有用な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、本邦では2千万人を超える糖尿病患者、糖尿病が疑われる患者及び糖尿病予備群が存在するといわれている。糖尿病を起因とした合併症のうち、糖尿病性腎症の発症率は年々増加の推移をたどり、すでに慢性糸球体腎炎の発症率を上回り第一位となっている。
【0003】
糖尿病性腎症が発症した場合における最大の問題点は、末期腎不全、即ち、透析への移行率が非常に高いことにある。
【0004】
糖尿病性腎症のみならず、慢性糸球体腎炎においても、その病態進展による透析への移行は、医療費高騰等社会的に大きな問題となっている。そこで、糖尿病性腎症及び慢性糸球体腎炎の進展に関わる抑制剤、または予防する薬剤が強く望まれている。
【0005】
これら進行性腎障害の糸球体部位においては、メサンギウム細胞の増殖及びメサンギウム基質の増生が見られることが、障害の進行において特に重大な問題とされている。更にその障害部位は糸球体のみならず、その周囲の尿細管や間質領域にも及んでいる場合が多い。
【0006】
糖尿病性腎症の障害因子として、糖化最終産物(Advanced Glycation End Products(AGE))の関与が近年注目されている(非特許文献1)。AGEは、主に糖と蛋白質との反応、即ちメイラード反応によって産生するとされている。
また、臨床においては、糖尿病に起因していない腎透析患者の血漿中にも多量のAGEが検出され、高血糖に由来しない新たなAGE生成系も多数報告されている(非特許文献2)。
【0007】
AGEは腎循環動態、糸球体基底膜濾過機構等、多数の腎機能に悪影響を及ぼすことが知られている。更に、AGEが、メサンギウム細胞等の腎構成細胞に多数存在するAGE関連受容体(例えば、Receptor for AGE:RAGE)に作用して、サイトカイン・増殖因子等の障害因子を産生させることも知られている。
【0008】
従って、AGEの生成を抑制することは、進行性腎障害の進展抑制に繋がると考えられており、その面からの薬剤の開発も進められている。その中で、ビタミンB6の一つである、ピリドキサミン(2−メチル−3−ヒドロキシ−4−アミノメチル−5−ヒドロキシメチルピリジン)及びその塩は、AGEの形成過程を阻害し、AGEの産生を抑制することで、糖尿病性腎症に有効であることが報告されている(特許文献1)。
【0009】
一方、糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎では、その病態が進行するに従い、全身血圧の上昇のみならず、ネフロン数の減少が起こる。その結果、全身血圧による残存ネフロンに対する負荷が増大し、糸球体毛細血管内圧の上昇が誘発される。その結果血管内皮細胞が機械的障害を受け、血小板の毛細血管内での凝集が誘発され、糸球体の荒廃が進む。こうして、ネフロン数はさらに減少し、また残存ネフロンに対する負荷がさらに増大し、悪循環が形成される。また、血管内皮細胞障害は糸球体係蹄壁での透過性を変化させることから(Charge barrier,Size barrierの破綻)、本来、血漿からタンパク成分以外を濾過分離する糸球体係蹄壁が障害され、タンパク成分の濾過も行われる。こうして濾過されたタンパクは、濾過後の第一通過器官である近位尿細管を含め、様々な腎臓構成器官に悪影響を及ぼす。
慢性糸球体腎炎のうちIgA腎症の治療剤として汎用されている塩酸ジラゼプは、抗血小板作用を有するとともに、糸球体係蹄壁における基底膜charge barrierの破綻を防御する作用を有することが示唆されている(非特許文献3)。
【0010】
しかしながら、ピリドキサミン及びジラゼプのいずれも単独では進行性腎疾患には十分な効果を示しておらず、更に優れた効果を示す新規薬剤の開発が切望されている。
【特許文献1】国際公開第97/09981号パンフレット
【非特許文献1】Am.J.Pathol.,164(4):1389−97,2004
【非特許文献2】Diabetes Res.Clin.Pract.,61(3):145−153,2003
【非特許文献3】Am.J.Physiol.,249:F324,1985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、糸球体疾患、特に進行性の慢性糸球体疾患の予防又は治療に有効な医薬組成物を提供することにある。ここで、予防及び治療とは、当該疾患の進行抑制又は改善をも意味する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み鋭意研究した結果、AGE産生阻害剤であるピリドキサミン・2塩酸塩と抗血小板剤である塩酸ジラゼプとを併用したところ、単独で使用した場合に比べ顕著な腎疾患に対する進展抑制効果を示し、これらの薬剤の併用が進行性の慢性糸球体疾患の予防又は治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明は、ピリドキサミン又はその塩及びジラゼプ又はその塩を含有する糸球体疾患の予防又は治療剤を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、ピリドキサミン又はその塩及びジラゼプ又はその塩の有効量を投与する糸球体疾患の予防又は処置方法を提供するものである。
【0015】
更に、本発明は、ピリドキサミン又はその塩及びジラゼプ又はその塩の糸球体疾患の予防又は治療剤製造のための使用を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の糸球体疾患の予防又は治療剤は、IgA腎症、巣状糸球体硬化症、膜性腎症、膜性増殖性腎炎、糖尿病性腎症及びネフローゼ症候群等の糸球体疾患、特に進行性の慢性糸球体腎疾患の予防又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で使用するピリドキサミン(2−メチル−3−ヒドロキシ−4−アミノメチル−5−ヒドロキシメチルピリジン)又はその塩は、AGE産生阻害作用を有するビタミンB6である。塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、蓚酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩等の酸付加塩が挙げられ、リン酸塩、塩酸塩が好ましく、2塩酸塩が特に好ましい。
【0018】
本発明で使用するジラゼプ又はその塩は、糸球体基底膜のcharge barrierの陰性荷電の減少を抑制することによる抗タンパク尿効果、さらには腎障害の進展により亢進した血小板粘着能、凝集能を抑制し、かつ血小板ホスホリパーゼ活性の抑制及び血小板放出反応を抑制することで腎機能改善作用を有するものであり、医薬品(コメリアンRコーワ錠50、等)として入手し、使用することができる。塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、蓚酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩等の酸付加塩が挙げられ、塩酸塩が好ましい。
【0019】
また、ピリドキサミン又はその塩及びジラゼプ又はその塩には、水和物や医薬品として許容される溶媒との溶媒和物も含まれる。
【0020】
本発明の糸球体疾患の予防又は治療剤は、用法に応じ種々の剤形の医薬品製剤とすることができる。斯かる剤形としては、例えば、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤、錠剤、カプセル剤、注射剤等を挙げることができる。
【0021】
これらの製剤は、その剤形に応じて製剤学上使用される賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤等の医薬品添加物と適宜混合、希釈又は溶解し、常法に従い製造することができる。
【0022】
例えば、散剤の場合は、必須成分のほかに、必要に応じて適当な賦形剤、滑沢剤等を加えよく混和して調製すればよい。錠剤の場合は、必要に応じて適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等を加え、常法に従い打錠して調製すればよい。また錠剤は必要に応じてコーティングを施し、フィルムコート錠、糖衣錠等にすることができる。
【0023】
また、注射剤の場合は、液剤(無菌水又は非水溶液)、乳剤及び懸濁剤の形態とすることができる。これらに用いられる非水担体、希釈剤、溶媒又はビヒクルとしては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等の注射可能な有機酸エステルが挙げられる。また、該組成物には防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤等の補助剤を適宜配合することができる。
【0024】
本発明の糸球体疾患の予防又は治療剤の投与量は、患者の体重、年齢、性別、疾患の程度等により適宜決定される。好ましい投与量として、経口投与の場合には、ピリドキサミン又はその塩は、成人1日あたりとして50〜2000mg、ジラゼプ又はその塩は、成人1日あたりとして100〜300mgである。経口投与は、1日に3回投与するのが好ましい。ピリドキサミン又はその塩とジラゼプ又はその塩との配合の割合は、両薬剤の投与量が上記範囲内であれば特に制限されない。経口投与は、1日に1回又は数回に分けて投与するのが好ましい。また、両薬剤は、共に配合して1つの剤形にして経口又は非経口にて投与しても良く、別々の剤形にして経口又は非経口にて投与してもよい。両薬剤を別々の剤形にして投与する場合には、同じ又は異なった剤形にして同時に投与する他、時間差で投与することもできる。
【0025】
実施例に記載するとおり、腎疾患モデルとしてピューロマイシンアミノヌクレオシド(PAN)負荷ラットを用い、生後9週齢時にPANを50mg/kg(体重)の用量で単回静脈内投与し、同日より薬剤の投与を開始し、7日間の反復投与による評価において、本発明のピリドキサミン・2塩酸塩と塩酸ジラゼプとの併用投与は、それぞれの単独投与に比べ、優れた結果を与えた。即ち、腎障害における主要サロゲートマーカーの一つである尿中アルブミン排泄量に対して、併用投与群は、それぞれの単独投与群に比べ、強い抑制作用を示した。本ラットは進行性の腎障害モデルの中でも高度タンパク尿を呈することが明らかになっており(Eup.J.Pharmacol.236:337−338,1993)、臨床的にはネフローゼ症候群と類似の腎障害症状を呈する重篤なモデルの一つである。このような重症モデルにおいて、尿中アルブミン排泄量に対する強い抑制作用が、ピリドキサミン・2塩酸塩と塩酸ジラゼプを併用することにより認められたことは、臨床的にも利用性が大いに高まるものとして、有用な実験成績と考えられる。
従って、本発明で用いるピリドキサミン又はその塩及びジラゼプ又はその塩は、IgA腎症、巣状糸球体硬化症、膜性腎症、膜性増殖性腎炎、糖尿病性腎症及びネフローゼ症候群等の糸球体疾患、特に進行性の慢性糸球体腎疾患の予防又は治療剤として有用である。
【0026】
本発明の組み合わせは、1型及び2型糖尿病性腎症を初めとする、IgA腎症、巣状糸球体硬化症、膜性腎症及び膜性増殖性腎炎といった慢性糸球体腎疾患の進展予防又は治療剤として有用である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1 PANラットに対する効果
雄性Wistarラット(9週齢)を無麻酔下でラット用保定装置にて固定し、尾静脈より、生理食塩水にて用事溶解したPAN(Sigma社製)を、50mg/kgの用量にて単回投与し、腎障害を発症させた。PAN投与後、直ちに以下に示す群構成に従って各薬剤の投与を開始し、7日間の反復投与を行った。即ち、対照群(非薬剤投与群、蒸留水を1日2回、経口投与:N=8)、ピリドキサミン・2塩酸塩投与群(1g/L遮光下飲水処置:N=8)、塩酸ジラゼプ投与群(25mg/kg腹腔内投与、1日2回投与:N=8)及びピリドキサミン・2塩酸塩(1g/L遮光下飲水処置)と塩酸ジラゼプ(25mg/kg腹腔内投与、1日2回)との併用群(N=8)の計4群を設定した。
ピリドキサミン・2塩酸塩は精製水に溶解し、ラットに自由飲水させた。塩酸ジラゼプは生理食塩水に溶解させ腹腔内投与により投与を実施した。
投与開始7日後にメタボリックケージを用いて18時間の蓄尿を実施し、尿中アルブミン濃度を免疫比濁法(機種名:DCA2000、バイエルメディカル株式会社製)により測定し、得られた尿量から尿中アルブミン排泄量を算出した。
【0029】
図1に、尿中アルブミン排泄量に対するピリドキサミン・2塩酸塩単独投与、塩酸ジラゼプ単独投与及びこれらの併用投与による効果を示す。対照群(非薬剤投与群)と比較して、ピリドキサミン・2塩酸塩及び塩酸ジラゼプをそれぞれ併用投与した群において、強い尿中アルブミン排泄量に対する抑制作用が認められ、その作用は対照群と比較して、統計学的に有意なものであることが認められた。その結果、ピリドキサミン・2塩酸塩と塩酸ジラゼプを併用することにより進行性腎障害に対する抑制作用が強く認められることが実験的に確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ピューロマイシンアミノヌクレオシド(PAN)負荷腎障害ラットにおける尿中アルブミン排泄量を示す図である。
【出願人】 【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
【出願日】 平成19年8月6日(2007.8.6)
【代理人】 【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所

【識別番号】100068700
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 三幸

【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄

【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫

【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹

【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人


【公開番号】 特開2008−63328(P2008−63328A)
【公開日】 平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願番号】 特願2007−203719(P2007−203719)