| 【発明の名称】 |
HSV突然変異体を用いる癌の治療 |
| 【発明者】 |
【氏名】マックリーン,アラスデア,ローデリック
【氏名】ブラウン,スザンヌ,モワラ
【氏名】フレイザー,ニーゲル,ウイリアム
【氏名】ランダッツォ,ブルース,ポール
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| 【要約】 |
【課題】ウイルス変異体の抗癌剤としての使用、および該ウイルスを含有する癌治療用医薬組成物の提供。
【構成】長い繰り返し領域(RL)中のγ34.5遺伝子中で該γ34.5遺伝子が非機能的となるように修飾されており、機能的リボヌクレオチド還元酵素遺伝子を有する単純ヘルペスウイルス突然変異体の抗癌剤としての使用、およびウイルスを含有する癌治療用医薬組成物。該医薬組成物は、転移性腫瘍、特に、転移性黒色腫、転移性脳内腫瘍に有用である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 哺乳動物における腫瘍の治療に使用するための医薬の製造における、各長い繰り返し領域(RL)中のγ34.5遺伝子中に修飾を有し、その結果、各γ34.5遺伝子が機能的産物を発現しない単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 【請求項2】 単純ヘルペスウイルス突然変異体が、機能的リボヌクレオチド還元酵素遺伝子を有する、請求項1記載の使用。 【請求項3】 腫瘍が、哺乳動物の中枢神経系を起源としない、請求項1または2記載の使用。 【請求項4】 医薬が癌治療用である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。 【請求項5】 癌が黒色腫である、請求項4記載の使用。 【請求項6】 哺乳動物がヒトである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。 【請求項7】 腫瘍が転移性腫瘍である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。 【請求項8】 転移性腫瘍が脳内で生じる、請求項7記載の使用。 【請求項9】 腫瘍が転移性黒色腫である、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。 【請求項10】 単純ヘルペスウイルス突然変異体が単純ヘルペスウイルスタイプ1である、請求項1〜9のいずれか1項記載の使用。 【請求項11】 単純ヘルペスウイルス突然変異体が17株単純ヘルペスウイルスである、請求項10記載の使用。 【請求項12】 各RLリピートのBamHIs制限断片内に、0.1〜3kbの欠失を生じている、請求項10または11記載の使用。 【請求項13】 欠失が0.7〜2.5kbである、請求項12記載の使用。 【請求項14】 欠失が、γ34.5遺伝子中の759bpの欠失である、請求項13記載の使用。 【請求項15】 単純ヘルペスウイルス突然変異体が1716株である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の使用。 【請求項16】 各長い繰り返し領域(RL)中のγ34.5遺伝子中に修飾を有し、その結果、各γ34.5遺伝子が機能的産物を発現しない単純ヘルペスウイルス突然変異体を含有する、哺乳動物における腫瘍の治療に使用するための医薬組成物。 【請求項17】 単純ヘルペスウイルス突然変異体が、機能的リボヌクレオチド還元酵素遺伝子を有する、請求項16記載の医薬組成物。 【請求項18】 腫瘍が、哺乳動物の中枢神経系を起源としない、請求項16または17記載の医薬組成物。 【請求項19】 癌治療用である、請求項16〜18のいずれか1項に記載の医薬組成物。 【請求項20】 癌が黒色腫である、請求項19記載の医薬組成物。 【請求項21】 哺乳動物がヒトである、請求項16〜20のいずれか1項に記載の医薬組成物。 【請求項22】 腫瘍が転移性腫瘍である、請求項16〜21のいずれか1項に記載の医薬組成物。 【請求項23】 転移性腫瘍が脳内で生じる、請求項22記載の医薬組成物。 【請求項24】 腫瘍が転移性黒色腫である、請求項16〜23のいずれか1項記載の医薬組成物。 【請求項25】 単純ヘルペスウイルス突然変異体が単純ヘルペスウイルスタイプ1である、請求項16〜24のいずれか1項記載の医薬組成物。 【請求項26】 単純ヘルペスウイルス突然変異体が17株単純ヘルペスウイルスである、請求項25記載の医薬組成物。 【請求項27】 各RLリピートのBamHIs制限断片内に、0.1〜3kbの欠失を生じている、請求項25または26記載の医薬組成物。 【請求項28】 欠失が0.7〜2.5kbである、請求項27記載の医薬組成物。 【請求項29】 欠失が、γ34.5遺伝子中の759bpの欠失である、請求項28記載の医薬組成物。 【請求項30】 単純ヘルペスウイルス突然変異体が1716株である、請求項16〜29のいずれか1項に記載の医薬組成物。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、癌腫瘍、特に転移性か原発性腫瘍かを問わず脳又は神経系の癌腫瘍の治療に単純ヘルペスウイルス(HSV)突然変異体を使用することに関する。 【背景技術】 【0002】 単純ヘルペスタイプ1(HSV−1)のDNA配列が知られており(非特許文献13および24を参照)、約152k残基の長さを持つ直鎖状である。これは長鎖(L)と短鎖(S)と呼ばれる2つの共有結合したセグメントからなる。各セグメントは、1対の逆行する末端繰り返し配列と隣接するユニークな配列を含む。長い繰り返し(RL)と短い繰り返し(RS)が区別されている。ユニークな長い(UL)領域には遺伝子UL1からUL56までを含み,US領域には遺伝子US1からUS12までを含む。 【0003】 進行した癌を持つ患者の比較的多数が脳及び脊髄に転移病変を生じる。その結果、頭痛、麻痺、発作や認知の衰退を含む重症で衰弱させる神経系の余病をもたらすことが多い。中枢神経系(CNS)への転移病変のために米国で毎年7万人の癌死が起きていると推定されている。現在のところ、放射線照射とステロイドが主な治療であるが、これらは症状を軽減するだけで、また神経生理学的及び内分泌的な深刻な病気を引き起こすことが多い。離れた部位の転移は一般に手術で除去するが、これも治癒とならないことが多い(非特許文献1を参照)。 【0004】 癌の破壊にウイルス治療を用いるのは新しい概念ではない。パルボウイルスH−1、ニューカッスル病ウイルス、薬剤感受性遺伝子を含むレトロウイルス、及び単純ヘルペスウイルスタイプ1(HSV−1)を用いる各種の実験的腫瘍系の効果が示されている(非特許文献2−7を参照)。実験的腫瘍系での結果をウイルスが改良するメカニズムは複雑でよくわかっていない。脳腫瘍は、支持細胞の本質的に非分裂性の細胞集団中、及び末端で分化するニューロン中で起きる分裂性の細胞集団である。従って脳腫瘍治療の関連では、分裂細胞のみで、又は分裂細胞で優先的に複製するウイルスを選択することが合理的方法の1つである。このようなウイルスはCNS内の腫瘍細胞内のみで溶解感染することができ、究極的には周囲の脳に感染することなく、また宿主に有害な効果を与えることなく、腫瘍を破壊することができる。 【0005】 HSVを用いるパイオニア的実験では、突然変異体HSV−1 dlspTKで腫瘍内治療をした結果、頭蓋内ヒト神経膠腫をもつヌードマウスの生存率が用量依存的に改良されたことを示す(非特許文献3を参照)。このウイルスはウイルスチミジンキナーゼ(TK)遺伝子を欠失し(非特許文献8を参照)、マウスに比較的神経減衰した(neuro-attenuated)表現型を示す(非特許文献9を参照)。しかしながら、dlspTKで腫瘍をもつマウスを感染すると組織学的に明らかな脳炎を引き起こす(非特許文献3を参照)。HSV−1のTH-突然変異体をウイルス治療に用いると、これらのウイルスが臨床的に有効な抗ウイルス剤であるアシクロビル(acyclovir)及びガンシクロビル(ganciclovir)に耐性であるという点において固有の欠点ももっている(非特許文献10を参照)。 【0006】 HSV−1及びHSV−2ゲノムの長い繰り返し領域(RL)の末端の1kbは神経毒性を与える遺伝子を含む(非特許文献11―13を参照)。この遺伝子(γ34.5)の欠失又は突然変異は、多くの樹立されたセルラインの分裂細胞上で野生型ウイルスと同様に成長するが、非分裂細胞上では複製できない変異体をもたらす(非特許文献12−14を参照)。マウスでは、γ34.5のない(null)突然変異体は中枢神経系で複製できず、脳炎を引き起こさない(非特許文献12、15−16を参照)。 【0007】 γ34.5中の1000塩基対(bp)を欠失し、これが由来する野生型F株よりも少なくとも3x103倍大きいLD50(感染動物の50%を殺す最少用量)をもつ(非特許文献12を参照)R3616と呼ばれる突然変異体HSV−1は、頭蓋内のヒト神経膠腫をもつヌードマウスの結果を改良することが報告されている(非特許文献17を参照)。 【0008】 本明細書で示す発明において、我々は1716と呼ばれるHSV−1株17突然変異体ウイルスを用いたが、これはγ34.5の759bpを欠失する(非特許文献16を参照)。 【0009】 突然変異体ウイルス1716の構築については公開特許公報WO92/13943(特許文献1を参照)に記載されており、その内容をここに参照として包含する。しかしながら、この公開特許は突然変異体1716をそれ自体ワクチンとして、あるいは抗原をコードする異種遺伝子を含むベクターワクチンとして使用することのみに関する。 【0010】 黒色腫はよくある悪性腫瘍である。黒色腫をもつ患者の75%で大脳への転移が起きており、最も多い死因の1つである(非特許文献118−22を参照)。現在のところ,CNS黒色腫をもつ患者の余命は2〜7ヶ月と短い(非特許文献23を参照)。 【特許文献1】WO92/13943 【非特許文献1】Feun, L.G.ら、Cancer, 50: 1656-1663, 1982. 【非特許文献2】Markert, J.M.ら、J. Neurosurg, 77: 590-594, 1992. 【非特許文献3】Martuza, R.L.ら、Science, 252:854-856, 1991. 【非特許文献4】Ram, Z.ら、Cancer Res, 53:83-88, 1993. 【非特許文献5】Takamiya, Y.ら、J. Neurosurg, 79: 104-110, 1993. 【非特許文献6】Reichard, K.W.ら、J. Surg. Res., 52:448-453, 1992. 【非特許文献7】Dupressori, T.ら、Cancer Res, 49: 3203-3208, 1989. 【非特許文献8】Coen, D.M.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:4736-4740, 1989. 【非特許文献9】Tenser, R.B.ら、Intervirology, 32: 76-92, 1991. 【非特許文献10】Coen, D.M.ら、J. Virol, 53: 477-488, 1985. 【非特許文献11】Ackermann, M.ら、Virology, 150: 207-220, 1986. 【非特許文献12】Chou, J.ら、Science, 250:1262−1266, 1990. 【非特許文献13】McGeoch, D.J.ら、J. Gen. Virol, 69: 1531-1574, 1991. 【非特許文献14】Bolovan, C.A.ら、J. Virol, 68:48, 1994. 【非特許文献15】Javier, R.T.ら、J. Virol, 61: 1978-1984, 1987. 【非特許文献16】MacLean, A.R.ら、J. Gen. Virol, 72: 631-639, 1991. 【非特許文献17】Markert, J.M.ら、J. Neurosurgery, 32: 597-603, 1993. 【非特許文献18】Einhorn, L.H.ら、Cancer Res, 34: 1995-2011, 1974. 【非特許文献19】Amer, M.H.ら、Cancer, 42: 660-668, 1978. 【非特許文献20】Budman, D.R.ら、Eur. J. Cancer, 14: 327-330, 1978. 【非特許文献21】Patel, J.K.ら、Am. J. Surg, 135:807-810, 1978. 【非特許文献22】delaMonte, S.M.ら、Cancer Res, 43: 3427-3433, 1983. 【非特許文献23】Balch, C.M.ら、J. Clin. Oncol, 1:126-132, 1983. 【非特許文献24】McGeoch, D.J.ら、J. Gen. Virol, 69: 1531-1574, 1988. 【発明の開示】 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明の目的は、癌腫瘍の治療のためのHSV−に基づく改良されたウイルス治療を提供することである。 【0012】 本発明はある面において、長い繰り返し領域(RL)のγ34.5遺伝子中で該遺伝子が非機能的となるように修飾された単純ヘルペスウイルス突然変異体を抗癌剤として使用することを提供する。 【0013】 本発明はまた、抗癌的有効量の単純ヘルペスウイルス突然変異体を哺乳動物(ヒト又は動物)に投与することによる哺乳動物中の癌を治療する方法に関する。 【発明を実施するための最良の形態】 【0014】 本発明は以下の特徴を有する。 [1] 長い繰り返し領域(RL)中のγ34.5遺伝子中で、該γ34.5遺伝子が非機能的となるように修飾されている単純ヘルペスウイルス突然変異体の抗癌剤としての使用。 [2] ウイルスが実質的に非神経毒性である[1]の単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [3] ウイルス突然変異体がHSV−1突然変異体、HSV−2突然変異体又はその誘導体から選択される[1]又は[2]の単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [4] ウイルスに対する修飾が、RL末端繰り返しのBamHI s制限酵素断片内で行われる[1]〜[3]のいずれかの単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [5] 修飾が0.1〜3kb、特に0.7〜2.5kbの欠失である[4]の単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [6] 欠失がγ34.5遺伝子中における759bpの欠失である[5]の単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [7] 抗−脳腫瘍剤としての[1]〜[6]のいずれかの単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [8] 脳及び神経系内で発生した原発性腫瘍に対する[7]の単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [9] 転移性腫瘍、特に黒色腫の転移に対する[7]の単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [10] 哺乳動物、特にヒトに使用する[1]〜[9]のいずれかの単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [11] 単純ヘルペスウイルス突然変異体が1716突然変異体である[1]〜[10]のいずれかの使用。 [12] 哺乳動物、特にヒトの癌の治療用薬剤の製造における、[1]〜[11]のいずれかの単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [13] 哺乳動物、特にヒトの脳腫瘍の治療用薬剤の製造における、[12]の単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [14] 脳及び/又は神経系内で発生した原発性腫瘍の治療用薬剤の製造における、[12]又は[13]の単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [15] 転移性腫瘍、特に黒色腫の転移に対する治療用薬剤の製造における、[12]〜[14]のいずれかの単純ヘルペスウイルス突然変異体の使用。 [16] 長い繰り返し領域(RL)中のγ34.5遺伝子中で、該γ34.5遺伝子が非機能的となるように修飾されている単純ヘルペスウイルス突然変異体を含む医薬製剤を投与することによって、哺乳動物、特にヒトの癌を治療する方法。 [17] 医薬製剤を腫瘍に直接投与することによる、[16]の哺乳動物、特にヒトの癌を治療する方法。 [18] 医薬製剤を血流に非経口的に投与して腫瘍に送る、[16]の哺乳動物、特にヒトの癌を治療する方法。 【0015】 本発明の目的にとって、“非機能的”の語は、遺伝子を欠失、付加又は置換(あるいは転位などのDNA中のその他の変更)することによって修飾して、遺伝子が正常な産物又は機能的に均等な産物を発現しないようにすることを意味する。遺伝子が非機能的になる効果は、ウイルスの患者に対する神経毒性が実質的になくなることである。 【0016】 従って、本発明は、γ34.5遺伝子を非機能的にすることが、分裂性腫瘍細胞を破壊するのに特に有効なHSV突然変異体を提供し、同時にこのHSV突然変異体は正常な非腫瘍細胞中で複製しないという発見に基づく。従って、本発明は安全な抗癌治療を提供する。 【0017】 HSV−1とHSV−2の2つの型の単純ヘルペスウイルスが知られており、これらのいずれも本発明のHSV突然変異体を作成するのに使用できる。両方の型由来のDNAを含むインタータイプの組換え体も使用できる。 【0018】 修飾はγ34.5遺伝子中のあらゆる便宜的な点で行うことができ、このような点は一般に制限酵素部位に対応する。修飾部位はRL末端繰り返し(0−0.02及び0.81−0.83muに対応する)のBamHI s制限断片内であってよい。修飾は典型的には0.1−3kb、特に0.7−2.5kbの欠失である。本研究では、HSV−1突然変異体でγ34.5内の759bpを欠失させ、これを1716と命名した。 【0019】 HSVゲノムにはウイルスの正常な培養に本質的でない多数の他の遺伝子も含む。もちろん、突然変異体が自己複製でき突然変異体のストックを組織培養で増殖できるように、HSV突然変異体内に突然変異体を培養する能力を維持することが必要である。HSV突然変異体を培養する能力を除去するようなゲノムの致死的修飾は受け入れられない。 【0020】 しかしながら、RL領域のγ34.5遺伝子に対する一次的修飾に加えて、非本質的遺伝子内において1以上の二次的な非致死的修飾をHSV突然変異体に含めることも有利である。 【0021】 本発明はまた、一次的修飾に加えて二次的な非致死的修飾(例えばVmw65内で)を含むHSV突然変異体を新規生産物として含む。突然変異体はHSV−1又はHSV−2から誘導できる。 【0022】 同様にして、その他の二次的修飾には、潜伏関連転写物(latency associated transcript:LAT)プロモーターを非機能的にしてその転写を妨げるように該プロモーターを修飾することを含む。 【0023】 単純ヘルペスウイルスは脳及び神経系に感染する。このHSV突然変異体は脳及び神経系で発生した原発性腫瘍に対して有効であるが、別の場所で発生した癌細胞が脳又は神経系(特に中枢神経系(CNS))に居着いた転移性腫瘍に対して特に有効である。脳への転移は種々のヒト癌(例えば黒色腫)でよく生じることであり、現在のところそのような場合には致死的となることが避けられない。 【0024】 HSV突然変異体を用いる本発明の治療の有効性は、治療を開始する腫瘍発生後の期間によるであろうが、例えば1から30日といった初期治療では有効性が改善される。 【0025】 マウスについての1716突然変異体のLD50(感染動物の50%を殺すウイルスの最少投与量)は、この突然変異体が由来する野生型17+ウイルスのLD50よりも106倍大きい。従って、野生型と比較して1716の神経毒性は実質的に除去されている。 【0026】 HSV突然変異体の有効な非毒性的投与量は当業者が日常的実験によって定めることができ、動物の種及び腫瘍の進行度を含む多数の要因に依存する。本明細書中の実施例からその指針は得られる。 【0027】 本発明は別の面では、HSV突然変異体を含む医薬製剤を哺乳動物、特にヒトに投与することからなる哺乳動物、特にヒトの癌を治療する方法を提供する。従って、治療方法は、HSV突然変異体を含む医薬製剤を腫瘍に直接注射するか、あるいは非経口的に血流に投与して腫瘍に送ることができる。 【0028】 通常は担体又は賦形剤、例えば生理的食塩水や蒸留水などの注射可能な担体を含む医薬製剤として用いる。製剤は慣用法を用いて調製できる。 【0029】 本発明の態様を実施例によって説明する。 【実施例】 【0030】 実施例−第1節材料及び方法 動物: 雌C57B1/6マウス(4〜6週齢、体重約20g)はThe Jackson Laboratory(BarHarbor,ME)から入手した。 腫瘍細胞: S91クラウドマン(Cloudman)黒色腫細胞はATCC(Rockville,MD)から入手した。B16、及びハーディング−パッセイ(Harding-Passey)黒色腫細胞はDorothee Herlyn(Wistar Institute,Phila,PA)から恵与された。細胞をペニシリン、ストレプトマイシン、及び5%ウシ血清を含むAUTO−PAW培地中、プラスティックフラスコで増殖した。入手した全てのセルラインが増殖したときに、95%ウシ血清/5%DMSO中で凍結し、全ての実験を同じ継代数の細胞で開始できるようにした。頭蓋内注入の日に、サブコンフルエント単層に培養した細胞をEDTA中の0.25%トリプシン溶液に通し、細胞培養培地で1回洗浄し、血清不含培地に適当な濃度で再懸濁し、氷上に保持した。 頭蓋内腫瘍産物: マウスをI.M.ケタミン/キシラジン(87mg/kgケタミン/13mg/kgキシラジン)で麻酔した。頭部を70%EtOHで消毒した。頭部皮膚に小さな中央線切開を行って頭蓋を露出した。小さい動物用のステレオタクティック装置(Kopf Instruments,Tujunga,CA)を用いて腫瘍細胞懸濁液をステレオタクティックに(三次元的に正確に)注入した。注入はハミルトンシリンジで使い捨て用28ゲージの針を用いて行った。針を前頂の2mm尾側で中央線の1mm左に配置した。針の露出部分の長さを0.5mmに限定するシールドをつけた別の27ゲージの針を用いて、頭蓋を適当な大きさに割いた。注入針を穴から頭蓋に頭蓋表面から2mm深さに挿入し、次いで0.5mm深さに戻して十分な空間を作った。1分かけて2μLの全容量中の1x105の細胞を注入した。注入後、針をそのまま3分おいておき、それからゆっくり引き抜いた。皮膚を縫合して閉じた。 ウイルス: ウイルスストックを作製するために、ベビーハムスター腎臓21クローン13(BHK)細胞のサブコンフルエント単層をin1814、1716、dlspTK又は野生型17+中のHSV株で感染した。ウイルスを培養物から濃縮し、文献(28)記載の方法でプラークアッセイにより滴定した。全てのウイルスストックをウイルス培養培地(ペニシリン及びストレプトマイシン含有AUTO−POW培地)中、−70℃で冷凍して保存し、使用直前に急速解凍した。 ウイルス接種: マウスをI.M.ケタミン/キシラジンで麻酔し、頭部を70%EtOHで消毒した。30ゲージの使い捨て用針を付けたハミルトンシリンジで適当量のウイルス(2μL中の104−106PFU)を、腫瘍細胞注入で用いたのと同じステレオタクティックな位置に中央線切開部を通して注入した。1分かけて注入を行い、注入後、針をそのまま3分おいておき、それからゆっくり引き抜いた。 磁気共鳴画像: ペンシルバニア大学MRI施設の病院にある内径30cm、1.9テスラの動物用MRIシステムでマウスの画像を撮った。動物用をI.M.ケタミン/キシラジン(87mg/kgケタミン/13mg/kgキシラジン)で麻酔した。次いで各動物にGd(DTPA)10ユニットを尾静脈から注入した。動物をプレクシグラスグラジエントコイル内に固定して画像を撮った。 免疫組織化学: HSV−感染した細胞を、間接アビジン−ビオチン免疫パーオキシダーゼ法(Vectastain ABC Kit,Vector Labs,Burlingam,CA)によって、製造者の指示に従いこれを少し修飾して検出した。簡単に述べると、組織セクションを脱パラフィン化し、再水和し、過酸化水素(H2O2)中で抑え(quench)、3.5%ヤギ血清(Sigma Chem.Co.,St.Louis,MO)でブロックした。組織セクションを4℃で、1:1000の希釈で用いる一次抗体であるHSV−1に対するウサギ抗血清(Dako Corp.,Carpinteria,CA)とともに一晩インキュベートした。次いで、組織を室温でビオチン化ヤギ抗−ウサギIgG、アビジン−ビオチンホースラディッシュパーオキシダーゼ複合体及び最後にAEC基質とともにインキュベートした。セクションをヘマトキシリンで対比染色し、光学顕微鏡で調べた。 【0031】 免疫染色の特異性の対照として、一次HSV−1抗血清に代えて非免疫ウサギ血清を用いる以外は上述のようにして組織を処理した。 腫瘍及び脳からのウイルスの滴定: 麻酔薬を致死注射することによりマウスを殺した。in situの腫瘍をもつ脳又はもたない脳を無菌的に切除し、液体窒素中で瞬間冷凍し、−70℃で保存した。各組織を37℃の水浴中で急速解凍し、組織をPyrex Ten Broeck組織グラインダーを用いて10%w/vで、ウイルス培養培地中でホモジェナイズした。ホモジェネートを3000xgで4℃、10分遠心した。各組織ホモジェネートの上清を培地中で対数的に希釈し、それぞれのウイルスカ価をBHK細胞上のプラークアッセイ(28)によって決定した。 統計: 標準偏差、t−検定(2サンプル間の分散が等しくないと仮定して)は、Apple Maclntoshコンピューター(Cupertino,CA)でMicrosoft Excel(Redmond,WA)を用いて計算した。 実施例1:黒色腫細胞の溶解 我々の当初の研究では、HSV−1野生型と突然変異体ウイルスの各種ネズミ黒色腫細胞を溶解する相対的能力をin vitroで直接決定することを目指した。また、HSV−1の増殖と力価測定に用いられる標準的セルラインであるベビーハムスター腎臓(BHK)細胞と比較して、これらの黒色腫細胞が如何に効率よくHSV−1によって溶解されるかを比較することを目指した。細胞を5x104細胞/ウエルの密度で24ウエルの組織培養プレート中に接種した。ウイルスを対数的に希釈し、細胞単層を三重試験で感染した。培養72時間後に、単層の完全な破壊がまだ起きる最高のウイルス希釈を各ウイルス−細胞の組み合わせのために記録した。データは各ウイルス−細胞の組み合わせから得られたウイルスのPFU数で表す。 【0032】 表1に示すように、種々の突然変異体ウイルスが黒色腫細胞及びBHKを野生型17+と同様の効率で溶解する。クラウドマンS−91、及びH−P黒色腫細胞はBHKと比較して効率よく溶解された。 実施例2:腫瘍の作製 次に各黒色腫セルラインが頭蓋内腫瘍を産生する能力を評価した。各セルライン用に、10匹のC57B1/6マウスの右大脳半球に5x104の細胞をステレオタクティックに(三次元的に正確に)注入した。マウスを毎日観察し、瀕死に見えた時点で、又は無症状なままならば6週後に殺した。各脳を固定し、セクションにして、染色し、腫瘍を組織学的に試験した。H−P及びB−16はいずれも10匹のC57B1/6マウスのうちの10匹に頭蓋内腫瘍を形成したが、クラウドマンS−91は10匹のマウスのうちの1匹のみに腫瘍を形成した。 【0033】 H−P細胞は関連のあるHSV−1突然変異体による溶解に感受性であり、脳腫瘍を効率よく形成するので、H−Pモデルを採用することに決定した。 【0034】 続く実験によって、H−P細胞をC57B1/6マウス脳にステレオタクティックに注入すると動物の100%に腫瘍を樹立することを確認した。このシステムの技術的に有利な点は、脳腫瘍の存在を治療前に磁気共鳴画像(MRI)で、あるいは一般に細胞注入の5日後に腫瘍部位の上の頭蓋に着色領域を観察するだけで確認できることである。約2週間で神経症状からマウスが瀕死になるようなサイズまで腫瘍は大きくなった。 実施例3:HSV−1突然変異体1716による脳腫瘍の治療 C57B1/6マウスの右大脳半球に5x104のハーディングパッセイ黒色腫細胞をステレオタクティックに注入した。10日後(図1a)又は5日後(図1b)に、5x105PFUのHSV1716を同じステレオタクティックな位置で注入した。腫瘍細胞の注入とマウスが瀕死になった時点との間に経過した日数をX軸に示す。対照マウスには適当な時点で等量のウイルス培養培地を注入した。 【0035】 図1aに示すように、樹立10日後の脳腫瘍にHSV−1突然変異体1716をステレオタクティックに注入すると、マウスが瀕死になるまでの期間の長さに統計的に有意な増加が得られた(P(T<=t)1テイル:1.016x10-4)。しかしながら、長期間生存マウスは観察されなかった。腫瘍樹立の5日後に実施したウイルス治療(図1b)では、再び治療群で有意な結果の改善が見られ(P(T<=t)1テイル:7.707x10-3)、治療マウスの2/10が治癒した。ウイルス感染の39日後に1匹の長期間生存マウスを殺した。脳の連続セクションを顕微鏡観察したところ、腫瘍は全く残っていなかった(データ示さず)。2匹目のマウスは生存し続け。治療後150日以上無症状であった。瀕死になった治療したマウスを組織セクションで観察したところ、脳腫瘍の進行を示した。 実施例4:腫瘍細胞及び非腫瘍細胞における1716の複製 免疫組織化学的観察によると、1716の複製は実際腫瘍細胞に限定されており、周囲の脳では起こらない。有意な数の腫瘍内の黒色腫細胞が、感染の3日後及び6日後にHSV−1に対するポリクローナル抗血清で染色された。また、1716で治療した腫瘍保持マウスでは、試験した全てのセクションで、腫瘍に隣接する脳組織又はその他の領域でHSV−1抗原染色が観察されなかった。さらに、どの時点でも1716治療したマウスのいずれにも脳炎を示す組織学的証拠が観察されなかった。これとは対照的に、野生型17+ウイルスで感染した腫瘍保持マウスは、腫瘍内及び周囲や離れた脳でもHSV−1の免疫組織化学染色によって複数の病巣領域を示した。多型核白血球、核ダスト(dust)、及び赤血球細胞の溢血によって特徴付けられる深刻な脳炎が試験したあちこちのセクションで観察された。対照実験では、ウイルスを受け取らなかったマウスの腫瘍又は脳、あるいは一次抗−HSV−1抗体に代えて正常ウサギ血清を用いる免疫組織化学プロトコルに付したウイルスで感染した脳腫瘍セクションでは抗−HSV−1による免疫組織化学的染色が観察されなかった(データ示さず)。 実施例5:腫瘍細胞及び非腫瘍細胞における複製速度 免疫組織化学によって1716の複製が驚くほど腫瘍に限定されることを示したので、次に感染性ウイルスの滴定によって1716の腫瘍中における複製の速度と程度を定量し、これを1716又は17+で感染された非腫瘍保持マウス脳からの滴定データと比較することを試みた。 【0036】 脳腫瘍中の1716複製の程度を調べるために、C57B1/6マウスにハーディングパッセイ黒色腫細胞を中央線の右側に注入した。7日後に各マウスに同様のステレオタクティックな位置に5x105PFUの1716を注入した。図示する時点でマウスを殺し、脳を液体N2で冷凍し、−70℃に保存した。標本を急速に解凍し、ホモジェナイズし、BHK細胞上の三重試験でウイルス滴定を行った(黒四角)。これらのデータは各時点での4匹のマウスの平均を示す。 【0037】 腫瘍のない脳中における1716及び野生型17+の増殖特徴を確認するために、マウスに5x105PFUの1716(白四角)又は1x103PFUの17+(黒三角)を頭蓋内注入した。マウスを図示する時点で殺し、上述したように処理した。各点は2匹のマウスの平均である。 【0038】 図2に示すように、野生型17+ウイルスは非腫瘍保持マウス脳中で効率よく複製した。これとは対照的に、非腫瘍保持マウスの脳中で1716は全く複製しなかった。回収したウイルスの力価は時間とともに減衰し、感染性1716は接種後3日間だけ単離できた。しかしながら、1716を脳腫瘍に注入したところ、接種1日後に一定量の感染性1716の回収によって示されるように有意な複製が起こり、これは接種した量よりも実質的に多い。これらの条件下で、接種後5日間は腫瘍保持マウスから感染性1716が単離できたが、7日目には単離できなかった。これらの結果は、HSV−1突然変異体1716が腫瘍細胞中で自由に複製する(そしてその破壊に至る)が、非腫瘍細胞中では複製しない(従って害を与えないままである)ことを明瞭に示す。 【0039】 【表1】
実施例−第2節 材料及び方法 ウイルスストック ウイルスストックを調製するために、ベビーハムスター腎臓21クローン13(BHK)細胞のサブコンフルエント単層をHSVの1716、in1814株又は親株である17+で感染した。in1814株はVP16遺伝子(UL領域に位置する;図3A)中に突然変異(挿入)をもち、1716株はγ34.5遺伝子中に突然変異(欠失)をもつ(突然変異体;図3C)。培養物からウイルスを濃縮し、BHK細胞上でプラークアッセイにより力価測定し、ウイルス培養培地(ペニシリン及びストレプトマイシン含有AUTO−POW培地)0.5ml中、−70℃で保存し、使用直前に急速解凍した(30、34)。 腫瘍細胞の培養とNT2の分化 文献(28、29)記載の方法でNTera−2(クローンD1)細胞(ここではNT2細胞と呼ぶ)を培養した。簡単に述べると、5%ウシ胎児血清(FBS)及びペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)を含むOptiMEM中に、1週間に2回、1:3で通した。髄芽細胞腫セルライン、D283 MED及びDAOYは、10%FBS、1%P/S及び1%グルタミンを含むRPMI1640中で培養した。BHK細胞は5%FBS、1%P/S及び1%グルタミンを含むAUTO−POW中で培養した。NT2細胞はT75フラスコ中に2.0x106の密度で入れて、10%FBS、1%P/S及び10-5Mレチノイン酸を補充したDMEM−HGを1週間に2回、5週間添加した。分化したNT2N細胞を文献(29、35)記載の方法で非ニューロン性細胞から分離した。頭蓋内注入の日に、サブコンフルエント単層培養のNT2細胞を回収し、バッファーで3回洗浄し、ヌードマウスの脳に注入するまで氷上に保持した。 プラークアッセイ NT2、BHK、DAOY及びD283 MED細胞を24ウエルの組織培養プレートに105細胞/ウエルの密度で入れた。関心のあるウイルスを対数的に希釈し、細胞単層を10〜0.01の感染多重度(MOI)で三重試験で感染した。培養物を定期的に観察してウイルスの細胞変性効果(CPE)の程度を観察し、各MOIについて記録した。 細胞培養物由来のウイルスの滴定 細胞をMOI=1で感染し、感染の4、24及び48時間後に回収し、−70℃に保存した。サンプルを−70℃から37℃に2回凍結融解し、3000xgで40℃、10分遠心し、上清を培地中で対数的に希釈し、各サンプルのウイルス力価をBHK細胞上のプラークアッセイによって決定した(34)。 腫瘍及び脳由来のウイルスの滴定 腫瘍及び脳におけるウイルス接種物を滴定するために、ヌードマウスに1x106PFUの17+株又は6.25x104PFUの1716株を頭蓋内に接種し、麻酔剤(ケタミン/キシラジン)を致死注射してマウスを殺した。ウイルス接種後の異なる日(0、1、3、5及び7日目)にマウスから脳と腫瘍を切除し、液体窒素中で急速冷凍し、−70℃で保存した。異なる時点から得た脳及び腫瘍サンプルを37℃の水浴中で急速に解凍し、Pyrex Ten Broeck組織グラインダーを用いて、10%w/vの割合でウイルス培養培地中でホモジェナイズした。ホモジェネートを3000xgで4℃、10分遠心し、上清を培地中で対数的に希釈し、各サンプルのウイルスカ価をBHK細胞上のプラークアッセイで決定した(34)。 大脳内移植片の移植 雌ホモ接合のヌードマウス(4〜6週齢)をHarlan Spraque Dawley(Indianapolis,IN)から入手し、マウスを筋肉内(IM)ケタミン/キシラジン(87mg/kgケタミン/13mg/kg/キシラジン)で麻酔し、小さい動物用ステレオタクティック装置(Kopf Instruments,Tujunga,CA)、10μLのハミルトンシリンジ及び30ゲージの使い捨て針を用いて文献(35)記載の方法で腫瘍細胞懸濁液をステレオタクティックに注入した。皮質の腫瘍を作るために、シリンジ針を前頂の2mm吻側で中央線の1mm右に配置した。頭蓋を70%エタノールで消毒し、27ゲージの針で穿孔し、付属の針を付けたハミルトンシリンジを頭蓋の穴を通して硬膜から1.5mm深さに挿入し、5分かけて2μLの全容量中の3x104のNT2細胞を注入した。移植前に、NT2細胞をDMEM/HGに懸濁し、氷浴中、40℃で維持した。約5x105の細胞を含むNT2N細胞懸濁液を正確に5μLとり、前記と同じ位置に注入した。注入後、針をそのままの場所に5分おいておき、それから2分かけてゆっくり引き抜き、表面の皮膚を縫合して閉じた。マウスを回復させ、病気の兆候がないか毎日観察した。 【0040】 体重とカリパスによる頭蓋の測定を毎週行った。極度の(inextremis)疾患徴候を示したマウスは全て殺して脳を組織化学検査用に調製した。ケージ中で観察していないときに死亡した数匹のマウスの組織も回収して組織化学検査用に固定した。ヌードマウスを用いた実験を表2にまとめた。 ウイルス接種 対照マウス及び予め腫瘍細胞を接種しておいたマウスを上述の方法で麻酔し、頭部を70%エタノールで消毒した。30ゲージの使い捨て針を付けたハミルトンシリンジを用いて、以前に腫瘍細胞を注入したときと同じステレオタクティックな位置に中央線の切開部から適当量のウイルス(5μL中104−106PFU)を注入した。注入後、針を3分おいておき、それから1分かけてゆっくり引き抜いた。対照マウスには等量のウイルス培地を接種した。 磁気共鳴画像 選択したマウスの脳を内径30cm、1.9テスラの動物用磁気共鳴画像(MRI)システム(General Electric)を用いて画像を撮った。これを行うには、腫瘍細胞の移植及び腫瘍部位にウイルスを接種した後の様々な時点で上述した方法でマウスを麻酔した。次いで各動物に10ユニットの増強剤であるDTPA担体(Magnevist)との錯体にしたガドリニウムを尾静脈から注入した。次いで動物をプレクシガラスRFコイルに固定して画像を撮った。 免疫組織化学的方法 マウスを経心臓潅流し、等張の生理食塩水(150 nM NaCl,pH 7.4)中の70%エタノールまたは4%パラホルムアルデヒド(0.1M PBS,pH 7.4)で固定し、脳並びに複数の他の組織(即ち、三叉神経節、心臓、近位空腸、肝臓、脾臓、左腎臓、大腿骨及び椎体)の試料を切断し、組織学的及び免疫組織化学的分析に供した。 【0041】 組織加工及び光学顕微鏡免疫組織化学的分析の方法は、別の文献に記載されたものと同様のものであった(35,36)。ニューロン及び神経膠の細胞骨格タンパク質に対するモノクローナル及びポリクローナル抗体、並びにニューロン及び神経膠表現型の分子サインとなることが示されているその他のポリペプチドを、頭蓋内同種異系移植片の免疫組織化学的特徴づけのために使用した(35,37)。ウイルスエンベロープに存在する主要なグリコプロテイン及び少なくとも1つのコアタンパク質を検出する、HSV-1に対するウサギポリクローナル抗血清(Dako Corp.;Carpinteria,CA)を1:1000の希釈度で使用して、複製するウイルスを検出した(38)。ヒトNCAMに特異的な神経細胞接着分子(NCAM)に対するマウスモノクローナル抗体(MOC-1)を1:100の希釈度で使用してNT2とNT2N細胞を検出し、マウス脳細胞からそれらを区別した(35)。中間分子量神経フィラメント(NF-M)タンパク質の齧歯動物特異的エピトープを認識し、ヒトNF-Mと交差反応しないもう一つのモノクローナル抗体、RMO93(1:10)を使用して、NT2N移植片の同一性を確認した(35)。ヒト特異的NF-Mを認識するモノクローナル抗体のRMO301(1:100)を、NT2N移植片を確認するために使用した。ヒト微小管関連タンパク質-2(MAP2)を認識するマウスモノクローナル抗体、M13を1:500の希釈度で使用した。マウスミエリン塩基性タンパク質(MBP)に特異的なウサギポリクローナル抗体は1:1000の希釈度で使用した(A.McMorrisからの寄贈物)。M1B-1(細胞周期特異的抗原(Ki-67)を認識するマウスモノクローナル抗体、1:20の希釈度で使用、AMAC,West brook,ME)による染色のための組織切片は、以前に記載された(39)ようにして10 mMのクエン酸ナトリウム中での超音波処理により前処理した。屠殺に先立ち、何匹かの対照マウスには、5mg/g体重のブロモデオキシウリジン(BrdU)(150 mM NaCl、7 mM NaOH中)を腹腔内注射し、以前に記載されたようにして(37)、移植片中の細胞分裂しているNT2細胞を標識した。近位腸のセグメントを、細胞分裂サイクル中の細胞についての陽性対照として同じマウスから除去した。BrdU陽性の細胞はBrdU抗体BU-33(1:250)を使用して同定した。抗原を発現している細胞は、間接的なアビジン-ビオチン免疫ペルオキシダーゼ(Vectastain ABC kit,Vector Labs,Burlingam,CA)またはパーオキシダーゼ抗パーオキシダーゼ検出系システムによって、3,3-ジアミノベンズアジン(DAB)を発色源として検出した。すべての動物中の移植片及びウイルスの広まりは、脳全体を通して10個目毎の切片をMOC-1、MIB-1及びHSV抗体でスクリーニングすることによってモニターした。 HSV-1特異的遺伝子発現のためのin situハイブリダイゼーション 潅流及び固定された組織の切片をスライド上にマウントし、以前に記載されたようにしてin situハイブリダイゼーションを行い、ウイルスの遺伝子発現を検出した(26,33,40)。連続的な組織切片を、35S-標識HSV LAT特異的プローブ(BstEII-BstEII、図1E)、35S-標識HSV特異的チミジンキナーゼプローブ(tk ;初期遺伝子産物)、あるいはビオチン化HSV特異的gC(後期遺伝子産物)プローブとハイブリダイズさせた。 35S-標識ニックトランスレーションプローブの調製 BamHI Bの潜伏性関連転写産物(LAT)プローブBstEII-BstEIIサブ断片(0.9kb)を、制限消化物からゲル電気泳動により単離し、GeneClean(Bio 101 Inc.;LaJolla,CA、図3を参照)によって精製した(30)。tk遺伝子をコードしている3.4kb BamHI断片は以前に記載されたように単離した(41)。DNAプローブをニックトランスレーションし、セファデックスG-50スピンカラム(Pharamacia)を通すことにより、取り込まれていないヌクレオチドから分離した(33)。そのプローブの比活性は約1〜5 x 108c.p.m/μgDNAであった。 35S−標識ポリ(dT)プローブの調製 ポリ(dT)の21-マーを合成し、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)による標識化の基質として使用した。反応混合物は、2μlのTdT、1μlのポリ(dT)(6μg/μl)、5μlの5X TdTバッファー、6μlのCoCl2(2.5 mM)、10μlの35S-dTTP(1μl)、1μlのddH2Oからなるものとした。混合物を30分間37℃でインキュベートし、セファデックスG-25スピンカラムを通すことにより、取り込まれていないヌクレオチドから分離した。in situハイブリダイゼーションを上記の通り行ったが、ハイブリダイゼーション及び洗浄は25 %のホルムアミド中37℃で行った(42)。露出時間工程を、非感染、擬似感染、野性型ウイルス感染及びRNアーゼ処理組織切片について行い、実験的組織切片についての陽性及び陰性対照として使用した(43を参照)。 活性なウイルス複製を検出するためのビオチン化gCプローブ ビオチン化テイル[5'-(TAG)2-BBB-3']により3'末端に結合した21 bpアンチセンスgCプローブ(gC 転写産物の中の核酸199-219、CGGGGCGGGGGTGGCCGGGGG、K.Montoneからの寄贈物、図3F)を使用して、同位元素を使用しないin situハイブリダイゼーションを行った。プロトコルは、マウス脳組織についてわずかに変更を加えた以外はWang及びMontoneのものと本質的に同じものであった。 TUNEL法によるDNAニック末端標識化 ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)dUTP-ビオチンニック末端標識(TUNEL)法を、以前に記載されたように行った(37)。簡単に以下に説明する。まず、パラフィンを除去し、再水和したスライドを、0.1M トリス(pH=8)中のプロテイナーゼKの20μg/mlで室温において15分消化した。洗浄の後、その切片を、20 mM ビオチン化dUTP、0.3 U/μl ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ、1.5 mM塩化コバルト、200 mMカコジル酸ナトリウム、25 mM トリス、0.25 mg/mlウシ血清アルブミンを含む混合物(pH=6.6)中で、37℃で45分インキュベートした。2x SSC中で15分洗浄することによって反応を停止し、結果物を、ストレプトアビジンを抱合するアルカリホスファターゼにより可視化し、ファストレッド(Fast Red)基質で現像した。出産後8日のラットの脳の冠状切片をこのTUNEL法の陽性対照としてとして使用した。これは、この時期がアポトーシス活性のピークが認められた発生段階であるからである(44)。 薄い切片の電子顕微鏡観察 潅流マウス脳からの腫瘍組織の部分を、0.1 M カコジル酸ナトリウム(pH=7.4)中の1%グルタルアルデヒド及び4%パラホルムアルデヒドで4℃で一晩固定し、カコジル酸ナトリウムバッファーで洗浄し、以前に記載されたようにしてEM用に加工した(37)。 統計処理 BMDP統計ソフトウェア(ed.WJ Dixon;リリース7.0; 1993)を使用して生存及び体重についての統計処理を行った。対照及び処理群の生存数の差異を、一般化されたWilcoxon(Breslow)分析を使用して比較した。体重の相違は、t検定とMann-Whitney検定を使用して比較した。統計的分析においては、瀕死の動物は屠殺してケージ中で死亡した動物と同様に処理した。 実施例6 HSV-1株1716はin vitroでヒト神経細胞系由来の腫瘍単層上で溶解し広まる 親株17+と比較して、HSV-1株1716がどれだけ効率的に迅速に分裂するNT2を溶解するかを測定するために、NT2細胞を24ウェルプレートにまき、1日後にこれらの2種の株を、10、1及び0.1の感染多重度(MOI)で感染させた。10のMOIでは、両方のウイルスがNT2細胞を1日以内に溶解し、これはHSV感染と関連する特徴のある形態上の変化(丸くなること、相の輝度、サイトメガロ的プラーク形成及び接着性の減少)も示した。in vitroにおける低MOI(0.1)でのウイルスの挙動により、in vivoで腫瘍内に広まるウイルスの能力が予測され得るので、MOI-0.1での感染について研究した。株1716は、広まってNT2細胞の単層を破壊する効率が17+よりも低かった(1716は単層を3日間で溶解したのに対し、17+は2日間で溶解した)。これらのウイルスの挙動は、2種の異なるヒト髄芽細胞腫細胞系(D283 MED 及びDAOY)におけるものと同様であり、株1716が多くの異なる脳腫瘍細胞系を溶解することができることを示唆している。 【0042】 次に、NT2N細胞(NT2細胞のニューロン様レチノイン酸分化誘導体)にこれらのウイルスを感染させた。株1716は、これらの細胞における細胞毒性について株17+と比較して弱毒化されており、上記のウイルスに感染したNT2N細胞について行った細胞毒性に関する乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)アッセイにより、両方のウイルスが感染後12時間以内に非特異的毒性を引き起こすことが示された(データは示していない)。興味深いことに、感染細胞培養物からのウイルスの力価測定により、株1716がNT2N細胞中での複製能を欠いていることが示された(データは示していない)。株1716は他の製造された株より激しくマウス中で神経的に弱毒化されたので(26,30)、in vitro誘導NT2N細胞の移植片を有するか有しないヌードマウス、あるいは移植NT2細胞から確立された腫瘍を有するヌードマウスのCNSに接種された株1716と17+ウイルスについてin vivo で調べた。表2を参照。 実施例7 脳内接種後のマウスCNS中にはHSV-1株1716の複製は検出されない SCIDマウスを使用した以前の結果(26)と一致して、ヌードマウスに株1716の5×106プラーク形成単位(PFU)を脳内(IC)接種しても、接種後4か月にわたって臨床的症状を起こさず、これらのマウスの脳の組織学的分析でも脳炎は見出されず、主要な器官(例えば肝臓、脾臓、骨髄等)における複製も見られなかった(表2、研究I)。株1716とは異なり、株17+の100PFU未満のIC接種により5〜10日以内にヌードマウスは死亡し、組織病理学的分析によれば、これらのマウス中の大規模な細胞毒性傷害(例えば核内封入体、細胞死等)が明らかになった(示していない)。 【0043】 株1716と株17+をIC接種した後の脳内におけるウイルスの複製をモニターするために、ウイルスの力価測定アッセイを行った(表2、研究II)。いずれのウイルスについても、0日の回収は注射された接種物中のウイルスよりも低かった。これは、おそらく脳ホモジネート中の膜へのウイルス粒子の吸着又は融合、及び回収の間のウイルスの失活によるものであろう。図4は、株17+の力価が経時的に指数関数的に増加し、接種されたマウスの罹患と死亡をもたらしたことを示す。これに対して、株1716の力価はヌードマウスの脳では急激に低下し、接種の3日後にはウイルスは検出されなくなった。さらに、株1716に感染したマウスにおいては免疫組織化学的に脳炎が確認されず、また肝臓、脾臓、腎臓、空腸及び骨髄の試料中に免疫組織化学的にウイルスが存在しないことが確認されたことにより、そしてHSV特異的転写産物についてのin situハイブリダイゼーションにより(データは示していない)確かめられたように、CNSの外部における株1716のウイルスの検出可能な広まりはなかった。同様に、株1716の肝臓又は静脈内注射による直接の接種は、ヌードマウスの罹患と死亡を引き起こさなかった。株1716とは異なり、株17+感染マウスは脳炎と腫瘍溶解の証拠を示した(図4を参照)。 実施例8 HSV-1 株1716はNT2腫瘍中で細胞溶解的に複製するが、マウスCNS中の移植NT2N細胞中ではしない 1716株をNT2腫瘍に注射すると、3日までに投与接種物よりもウイルスの力価が増加したことにより、7日間有意な複製が起こることが示された(図4)。これは、NT2腫瘍細胞中で、それらが存在してウイルス複製を支持している場合を除いて、これらのマウスの脳中に検出可能な1716株が存在しなかったことを示す免疫組織化学的データ及びin situハイブリダイゼーションデータと一致している(下記参照)。 【0044】 マウスにおける力価測定アッセイによる定量により、NT2細胞腫瘍中で株1716が複製していることが示されたことから、これらの腫瘍の緩解を誘導する株1716の能力を試験した(表2、研究IV)。これを行うために、5 x 105 PFUを含む株1716の5 μlを、3 x 106のNT2細胞のIC移植の後に、ヌードマウスの脳中に形成した腫瘍に注射した。移植されたNT2細胞の運命をモニターするために、ウイルスの接種後、マウスを異なる時点で屠殺し、その脳及び器官を免疫組織化学及びin situハイブリダイゼーションによって分析した。100%のマウスで神経及び上皮組織でNT2細胞が腫瘍を形成し、これらの腫瘍は移植後5週間以内で致死的なものであった(図5A、5B)。BrdU標識化、細胞周期抗原の免疫組織化学的検出及びそれらの急速な増殖によって示されるように、これらの腫瘍は多量の増殖細胞を含んでいた(図5C、5D)。図5E、F、G及びHは、株1716によるNT2腫瘍の感染が感染後(pi)3日において均一でないことを示している。これは、注射の部位が局所的なものであることを反映しているか、株1716による感染と溶解に対する細胞の脆弱さにおける細胞タイプ特異的な差異によるものであろう。それでも、注射部位の近くの腫瘍細胞タイプは、ほとんどが5日までに免疫活性なウイルスを有していた。 【0045】 感染後のその後においてはより多くの細胞が感染したが、おそらくは感染腫瘍細胞の溶解の後のウイルスの消失のために、腫瘍におけるウイルスに対する免疫反応性は弱まった(図5)。 【0046】 図5Hに見られるように、ウイルスの抗原は腫瘍に限定されている。高い倍率では、感染腫瘍細胞はHSV-1感染の特徴、即ち核内封入体と多核巨細胞形成を示した(図5F)。ウイルス抗原の染色は、これらのマウスの周囲の脳中、あるいは対照非処理のマウスの脳中に見られなかった。これは、グリコプロテインC(gC)に対するビオチン化プローブを使用した同位体不使用のin situハイブリダイゼーションプロトコル及び放射性標識チミジンキナーゼ(TK)プローブ(急性感染においてのみ発現される後期及び初期遺伝子産物)により、活性なウイルスの複製を連続的な切片で検出することによって確認した(図5J)。このように、遺伝子発現によって立証されるようにウイルスの複製も腫瘍細胞に限定されている。これに対して、株17+を接種した腫瘍担持マウスは、腫瘍と脳の両方でウイルスの複製を示した(図5K、5L)。1716による腫瘍移植物のウイルス処理の18日後に回収したマウス脳は、腫瘍のサイズの著しい減少を示した。実際には、いくらかのマウスに残留する繊維形成痕跡が観られ、ウイルス抗原はその痕跡の残っている細胞に厳密に限定されていた(図5M、N、O)。 【0047】 脳腫瘍の緩解を誘導する株1716の能力を調べるために、ヌードマウスの脳中のNT2腫瘍に、NT2細胞の移植後12日に株1716を定位注射した。処理マウスには腫瘍移植部位で株1716の5×105PFU(5μl中)を接種し、対照マウスには5μlの培地のみを投与した。MRI走査により、これらのマウスが移植後11日までに検出可能な腫瘍を発生させたことが判った。すべての擬似処理された腫瘍担持マウスでは、腫瘍が急速に大きさを増し、致死的なものであった(図6A〜D)。すべての処理されたマウスにおいて、株1716の感染により、当初の接種部位で腫瘍の検出可能な緩解が誘導された(図6E〜G)。 【0048】 移植されたNT2N細胞がHSV複製を許容するかどうかを調べるため、2.5 x 105の細胞をヌードマウスの脳実質または脳室に移植した(表1、研究III)。これらの細胞は一体化されて1年以上生存し、充分に成熟した出産後ヒトCNSニューロン表現型を獲得した(27)。次に株1716を、移植6週後に同じ定位部位に接種した。その移植片は、神経細胞接着分子(MOC1)又は神経フィラメントタンパク質(RM0301、RM093)に対するヒト特異的(MOC1及びRMO301)及びマウス特異的(RM093)抗体を使用して同定し、マウス細胞から区別した。NT2腫瘍とは異なり、ウイルス接種後1、3、5、7、9、21及び50日後にウイルス抗原についての免疫組織化学的染色が見られなかったことにより示されるように、これらの長期的なNT2N移植片は株1716の複製を許容しなかった。 実施例9 HSV株1716はNT2腫瘍細胞に非アポトーシス死亡を起こす 株1716感染マウスの選択群と非感染腫瘍対照からの腫瘍切片を、NT2細胞腫瘍中の細胞死の型式を特性化するためのEM分析用に調製した。H&E染色において感染細胞は、HSV感染細胞に典型的な特徴を有していた(図5F)。ウイルスの組立ドメインは、感染細胞の核中に見られた。EMによっては、ウイルス感染腫瘍細胞中の細胞死のアポトーシス性メカニズムの証拠は得られなかった(図7)。ウイルス粒子を有する腫瘍細胞は、核とオルガネラ並びに縮合し及び縁のある(marginated)DNAの断片化及び溶解を示した。ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)dUTP-ビオチンニック末端標識化(TUNEL)及びDNAゲル電気泳動による分析では、アポトーシスを示すDNA断片化の証拠は得られなかった(データは示していない)。これらの所見を合わせると、in vitro及びin vivoにおいて、株1716がNT2細胞における特徴的な溶菌感染を誘導することを示している。 実施例10 HSV株1716で処理された腫瘍担持マウスの長期間生存 上記の研究の結果に基づいて、ウイルスで処理された腫瘍担持マウスと処理されない腫瘍担持マウスの同齢集団の生存について分析した(表2、研究V及びVI)。 【0049】 これにより、株1716での処理の長期間の結果についても調べることができた(下記参照)。20匹のマウスに3 x 106 NT2細胞を接種し、数日後にマウスを2つの群に分けた。対照マウスには培養培地を投与し、処理されたマウスには株1716の5 x 106 PFUを投与した。第1の生存実験(表2、研究V)では腫瘍細胞接種の12日後にウイルス処理をした。この群においては1匹(10%)しか長期間生存動物が見られず、対照(研究VA)と処理動物(研究VB)との間に生存率の有意な差はなかった(p=.63、図8A)。何匹かの対照及び処理動物の組織学的検査により、ウイルスが腫瘍中で複製していたことが判った。処理動物においては、腫瘍が既に増殖して広がっており、一回のウイルス処理では腫瘍の緩解を誘導するのに十分でないようなサイズになっていたようである(データは示していない)。腫瘍細胞接種後7日にウイルス処理すると、マウスの44%が長期間生存し、対照マウスは10週間以内に100%死亡した(表2、研究VI、図6B)。これは、生存について統計学的に有意な差となった(p<.03 ;中央値生存期間(対照)=44.75+/-5.24:中央値生存期間(処理)= 101.78+/-22.69)。 【0050】 生存実験中に、模擬処理された腫瘍担持マウス(表2、研究VIA)及び株1716で処理された腫瘍担持マウス(表2、研究VIB)の両方の下位個体群で有意な体重減少が観察された。これらの2つの群の平均体重には違いがなかったので(図8C)、処理群(研究VIB)を2つの下位群(高度応答(HR)-長期間生存マウス(4匹のマウス)及び死亡した低度応答(LR)マウス(5匹のマウス)図8C)に分けた。標準的t検定を使用して、群HRとLRとの間、及び群LRと1716処理マウス(研究1)との間で、6週間における体重減少に有意な相違があることが判った(p<0.01)(図8D)。これらのデータは研究Vにおける体重減少の先の観察を確認するものであり、体重減少は腫瘍増殖、緩解又は溶解の有毒な生理的効果によるものであり得、脳のウイルス感染の直接の効果によるものではないことを示唆している。特に、死亡した処理マウスの何匹かは、移植部位から脳室と柔膜への腫瘍細胞の漏れを示した。これが脳脊髄液の流れの障害を起こすので、これらの処理マウスの何匹かが対照マウスに類似した生存カイネティックスを示すことは驚くにあたらない(図8A)。また、脳腫瘍を有する対照マウスの頭蓋内容積は25%を超える増加を示すが(腫瘍増殖を示す)、処理マウスの頭蓋内容積は有意に増加しなかった(図6を参照)。長期生存動物も同様に頭蓋内容積に有意な増加を示さなかった(データは示していない)。これらの解釈は、株1716のみを接種されたマウスが研究を通じて脳炎の臨床的または組織学的特徴を何ら示さなかったという事実により支持される。 【0051】 研究V及びVI(表2)からの長期間生存動物は、臨床的症状、頭蓋内容積の通常のものではない増加、及び体重減少のいずれをも示さなかった(図8C)。これらのマウス及び株1716のみを接種されたマウスを屠殺し、免疫組織化学及びin situハイブリダイゼーションにより病理学とウイルス複製について分析した。生存動物においては、繊維形成痕跡組織及び異栄養性石灰化の証拠のみが見出され、残留生存腫瘍細胞の証拠は見られなかった(図9A、B、C)。細胞周期抗原についての免疫組織化学的染色(例えばMIB-1を使用する)も陰性であり、脳中に増殖サイクルにあるNT2細胞が欠如していることを示した。さらに、これらのマウスの脳はヘルペス抗原について陰性であり、複製ウイルスの欠如を示したが、何匹かのマウスでは、in situハイブリダイゼーションにより海馬における潜在的なHSVの存在が示された(図9D)。驚くべきことに、株1716(のみ)に感染しているマウスの海馬にも潜伏ウイルスが見出された。しかし、HSV及びヒトNT2細胞(MOC-1、RMO301)に特異的な抗体を使用した全ての生存動物の脳の代表的な頭側から尾部へのレベルの検査では、活性なウイルスの複製あるいは残留生存腫瘍細胞の証拠はいずれも示されなかった。脱髄のような、HSV-1株の他の可能性がある有毒な続発症の起こり得る発生を排除するために、ミエリン塩基性タンパク質に対する抗体を使用してマウスの脳からの切片をプロービングした。株1716のみを注射したマウス及び長期生存動物の検査では、脱髄の証拠は見られなかった(図9E)。最後に、放射性標識ポリ(dT)プローブを使用したin situハイブリダイゼーションによりポリ(A)+RNAのレベルをモニターしてニューロンの全体的な代謝健全性を調べたところ(31,32)、長期生存動物のLAT-陽性の細胞と、同じ動物及び非感染対照マウスの反対の非LAT陽性の細胞との間に、ポリ(A)+RNA のレベルの定量可能な相違は見られなかった(図9F)。 【0052】 【表2】
結論 HSVタイプI(HSV-1)株1716はγ34.5神経毒性遺伝子を欠失しており、これがそれをマウスCNSにおいて無毒にするものであり、我々は腫瘍細胞とニューロンの選択的な溶解を誘発するその能力についてin vitro及びin vivoで調べた。ヒトテラトカルシノーマ誘導胎児カルシノーマ細胞(NT2細胞)を使用して、親HSV-1株17+及び作成した株1716を調べた。これらの細胞はニューロン前駆体細胞に似ており、レチノイン酸によりニューロン(NT2N)細胞に分化するように誘導され得る。ヌードマウスの脳へのNT2細胞の脳内移植片は致死的な脳腫瘍を生じるが、NT2N細胞の移植片は新生物形成転換を起こすことなく一体化しNT2N細胞の成熟をもたらす。in vitroでの研究により、株1716がNT2細胞の単層中で複製し、その上に広がり、これらの細胞の溶解をもたらすことが示された。しかし、株1716はin vitroでNT2N細胞中で複製しなかった。in vivoにおいては、ウイルス抗原についての免疫組織化学的染色、HSV特異的転写物についてのin situハイブリダイゼーション、及びこれらのマウスにウイルスを頭蓋内注射した後の腫瘍による脳からのウイルスの力価測定により示されるように、株1716はNT2腫瘍中で優先的に複製した。NT2腫瘍細胞とは異なり、移植されたNT2N細胞は株1716複製を許容しなかった。磁気共鳴イメージングにより、株1716により処理されたマウスにおけるNT2腫瘍の一時的な緩解がin vivoで示された。電子顕微鏡観察及びDNA断片化試験により、株1716処理マウスにおけるNT2脳腫瘍の緩解は、主として、非アポトーシス性の、溶解形態の細胞死滅に依るものであったことが示唆された。株1716処理されたNT2腫瘍担持マウスは、擬似処理された腫瘍担持マウスの2倍長く生存し、生存におけるこれらの差異(25週対9週)は、統計学的に有意なものであった(p〈.03)。これらの研究から、株1716は、複製コンピテントであり、HSV-1の非神経毒性変異体であり、ヌードマウスの脳に形成されたヒト神経性腫瘍の緩解を誘導し、その結果マウスの延長された生存期間を生じるものと我々は結論する。これらの結果は、HSV-1γ34.5変異体がin vivoでのヒト脳腫瘍の治療の候補物であることを示している。
【図面の簡単な説明】 【0053】 【図1】図1は、実施例3で詳細に記載する実験の結果を示す生存曲線の図である。 腫瘍注入後10日(図1b)及び5日(図1b)にHSV−1突然変異体1716を注射した腫瘍をもつマウス。 【図2】図2は、実施例5で詳細に記載する実験の結果を示すHSV−1突然変異体の相対複製率を示す図である。脳腫瘍におけるHSV−1突然変異体1716の相対複製率(黒四角);ならびに腫瘍のない脳における1716と野生型17+の相対複製率(それぞれ白四角及び黒三角)。 【図3】図3は、HSV−1のゲノム地図を示す図である。γ34.5、2kbの潜伏関連転写物(LAT)及び近辺遺伝子のおよその位置を示すHSV−1ゲノム。A.152kbのHSV−1の17+株ゲノムであって、内部繰り返し(IR)及び末端繰り返し(TR)領域(箱で示す)によって結合された、ゲノムのユニークな長短セグメント、UL及びUS(線)を示す。線で示した個所はVP16、チミジンキナーゼ(TK)及び糖タンパク質C(gC)遺伝子の位置を示す。B.ゲノムのUL/US領域の拡大図、γ34.5、ICPO及びICP4 mRNAの位置、ならびに急性及び潜伏性感染で発現する2.0kbのLATの位置。C.1716株中の759bpの欠失位置。D.HSV特異的遺伝子発現のin situ検出に用いたLAT特異的BstEII−BstEIIプローブの位置。ヌクレオチドの位置はPerry and McGeoch(45)のDNA配列分析に基づいている。 【図4】図4は、IC接種後のヌードマウス脳中における感染ウイルスの定量結果を示す図である。脳腫瘍における1716株の複製度を知るために、ヌードマウスにNT2細胞を注入した。12日後に各マウスに同じステレオタクティックな(三次元的に正確な)位置で1716株を5x105PFU感染させた(白丸)。図に示す時期にマウスを殺し、脳を液体N2中で冷凍し、−70℃で保存した。標本を急速に解凍し、ホモジェナイズし、BHK細胞上で滴定を三重試験で行った。腫瘍のない脳での1716株及び親株である17+の増殖特徴を確かめるために、マウスに1716株5x104PFU(黒丸)又は17+株1x106PFU(黒三角)のいずれかを頭蓋に注入した。図に示す時期にマウスを殺し、方法の項に記載したように処理した。各点は2匹のマウスの平均を標準偏差(SEM)のバーとともに示す。 【図5】図5は、免疫組織化学及びin situハイブリダイゼーションによる複製ウイルスの検出結果を示す図である。ヌードマウスに3x104のNT2細胞をIC注入した。14日後に1716株5x105PFUを接種した。A.14日後の腫瘍をもつ対照マウス。B.腫瘍は組織学的には極めて様々である。矢印:小管構造。C.MOC−1抗体はNT2腫瘍細胞を特異的に同定する。D.MIB−1抗体は細胞周期を進行しつつある細胞(cycling cell)を同定する。小管構造に標識細胞の数は少ないことに注意されたい(星印)。E.1716株の注入3日後の14日腫瘍。矢印は強度の腫瘍溶解と壊死の領域を示す。F.感染された細胞は核内封入体形成、巨大細胞及び壊死のようなヘルペスに感染された細胞の特徴を示す。G.ヘルペス抗原は腫瘍細胞に限定される。H.抗−HSV抗体を用いて示した、腫瘍と宿主脳の境界面における腫瘍細胞でのウイルス複製。I.抗−HSV抗体で示すように、周囲の非小管細胞と比較して小管構造では、ウイルス複製の速度は感染3日後に遅くなる。矢印は珍しいHSV抗原陽性の小管細胞を示す。これらの小管構造は感染後の遅い時期に溶解する。J.ヘルペス遺伝子の発現はin situハイブリダイゼーションにおいても腫瘍に限定されている(黒い粒子)。K及びL.野生型ウイルス(17+)は脳と腫瘍で複製し、脳全体に広がる。M.1716株で感染18日後における14日目腫瘍のH&E。腫瘍サイズの小さいことに注意されたい。N.ウイルス抗原及びO.ウイルス遺伝子発現は残っている腫瘍のかたまりに驚くほど限定されている。略記号:T=腫瘍;B=宿主脳。(スケールバー=Aでは1.2mm;=B,C,Dでは62.5μm;=E及びGでは2.0mm;=Fでは12μm;=H,M,N,Oでは450μm;=Iでは90μm;=Jでは200μm;=K及びLでは900μm)。 【図6】図6は、処理及び未処理NT2腫瘍のMRI分析結果を示す図である。ヌードマウスに3x104のNT2細胞をステレオタクティックに注入し、11日後に(腫瘍細胞移植後11日)T1で強調し、ガドリウムで増強したMRI(A、E)を行った。腫瘍(T)の存在がマウスの上方右半球に白い増強病巣の画像によって確認できる。複数のセクションの観察から、横断面に最大の腫瘍のかたまりが見られた。翌日マウスに5x105PFUの1716株又は培地のいずれかを接種した。対照マウスでは、時間とともに腫瘍は進行し、IC容積は劇的に増加した(B:腫瘍移植後32日;C及びD:腫瘍移植後41日)。1716株で処理したマウスでは、腫瘍は退行し、脳中に生きた腫瘍細胞又はウイルスが見られなかった(F及びG:腫瘍移植後36日)。(スケールバー:=D及びGでは2.77mm)。 【図7】図7は、電子顕微鏡による観察結果を示す図である。疑似接種又は1716株を接種したヌードマウス由来の腫瘍を回収し、電子顕微鏡用に処理した。A:未感染の腫瘍細胞の電子顕微鏡写真。B:感染初期のNT2腫瘍細胞の電子顕微鏡写真。DNA縮合とウイルスドメインが見られる(白矢印)。C:感染後期のNT2腫瘍細胞。縁のあるクロマチン(星印)とウイルス粒子(矢印)が観察される。D:感染された分裂細胞。矢印:核膜、c:細胞質、n:核(元の倍率2500x)。 【図8】図8は、1716株で処理したNT2腫瘍保持マウスの生存延長の結果を示す図である。A:生存性実験(表1、研究V)−20匹のヌードマウスに3x104のNT2細胞をステレオタクティックに注入した。12日後に、10匹のマウスに5x105PFU/5μLの1716株(処理、黒丸)を、10匹のマウスに5μLのウイルス培養培地(疑似、黒三角)をステレオタクティックに注入した。B:生存性実験(表1、研究VI)−17匹のヌードマウスに3x104のNT2細胞をステレオタクティックに注入した。10日後に、9匹のマウスに5x105PFU/5μLの1716株(処理、黒丸)をステレオタクティックに注入し、8匹のマウスに5μLのウイルス培養培地(疑似、黒三角)を疑似注入した。C:体重グラフ−研究VI(表1;図6B)からの対照マウス(黒三角)及び処理マウス(黒丸)の体重。D:1716株のみで処理したマウス(研究1、表1;黒三角)と比較した、長期間生存マウス(HR、黒丸)と死亡マウス(LR、黒四角)に分けた処理群の体重。標準偏差(SEM)バーを含む。 【図9】図9は、免疫組織化学及びin situハイブリダイゼーションによる長期間生存マウスにおけるウイルスの検出結果を示す図である。長期間生存マウスを殺し脳とその他の器官を固定し、セクションにして、NT2細胞とHSVの免疫組織化学的検出に、またHSVのin situ検出に用いた。A:矢印は腫瘍移植部位に残る瘢痕を示す。B:組織学的には脳には腫瘍細胞(矢印)又は複製ウイルスを示す証拠は何もないことを示す。C:残る瘢痕は異常成長した石灰化部分からなる。これはBで矢印で示した領域を高倍率で見たものである。D:生存マウス(感染後4カ月)の海馬(星印)には潜伏ウイルスが観察され、挿入写真はLAT陽性細胞の核に局在するシグナルを示す。E:MBP染色によると、これらのマウスの脳全体には脱髄の証拠が何も見られなかった。F:LAT陽性細胞(星印)の代謝健常度の測定として全ポリ(A)+RNAを検出するために、放射性標識したポリ(dT)プローブを用いて行ったin situハイブリダイゼーションの暗視野光学顕微鏡写真である。実験組織(7Dからの連続セクション)を未感染組織、疑似感染した組織、及びRNAse処理した組織と比較した。LAT陽性領域と近くの連続セクションとの間には検出しうるシグナルの差はなかった。(スケールバー:=A,B,Eでは1.2mm;=Dでは113μmで挿入写真では90μm;=Fでは113μm;=Cでは45μm)。
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| 【出願人】 |
【識別番号】507265742 【氏名又は名称】ザ ユニバーシティー コート オブ ザ ユニバーシティー オブ グラスゴー 【識別番号】507265650 【氏名又は名称】ザ ウィスター インスティチュート
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| 【出願日】 |
平成19年8月6日(2007.8.6) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100091096 【弁理士】 【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183 【弁理士】 【氏名又は名称】石井 貞次
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| 【公開番号】 |
特開2008−37869(P2008−37869A) |
| 【公開日】 |
平成20年2月21日(2008.2.21) |
| 【出願番号】 |
特願2007−204520(P2007−204520) |
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