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【発明の名称】 アディポネクチン産生促進剤
【発明者】 【氏名】太田 光熙

【氏名】谷口 雅彦

【氏名】小笠原 和也

【氏名】大西 克典

【氏名】井上 賢一

【要約】 【課題】優れたアディポネクチン産生促進剤を提供すること。

【構成】本発明は、カルコン類を有効成分とするアディポネクチン産生促進剤を提供する。カルコン類としてアシタバ黄汁を用いることが特に好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルコン類を有効成分とする、アディポネクチン産生促進剤。
【請求項2】
カルコン類を含有するアシタバ黄汁を有効成分とする、アディポネクチン産生促進剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、アディポネクチン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチン(Adiponectin)は、244個のアミノ酸からなる脂肪組織から分泌されるホルモンであり、骨格筋および肝臓において、AMPキナーゼ(AMP-activated protein kinase:AMPK)を活性化することによって、脂肪の燃焼および糖の取り込みを促進することが知られている。このアディポネクチンは、小型脂肪細胞において多く分泌されるが、脂肪細胞が肥大化すると、その分泌量が減少することが知られている。
【0003】
アディポネクチンはまた、動脈硬化を抑制する善玉アディポサイトカインとして知られている。アディポサイトカインには、上記善玉アディポサイトカインの他、PAI−1、TNF−αなどの動脈硬化を促進させる悪玉アディポサイトカインがある。正常な状態においては、これらの善玉および悪玉アディポサイトカインの分泌量はバランスが保たれている。しかし、肥満などにより、脂肪細胞が肥大化すると、善玉アディポサイトカインの分泌量が減少する一方、悪玉アディポサイトカインが過剰に分泌される。その結果、両者のバランスが崩れ、2型糖尿病、動脈硬化症などの生活習慣病を発症する原因になると考えられている。
【0004】
このように、アディポネクチンは、肥満および肥満に伴う生活習慣病に関与し、このアディポネクチンを活性化することが、生活習慣病の予防または治療に有効であると考えられている。さらに、アディポネクチンは、肝線維化抑制効果、正常肝細胞増殖促進効果(特許文献1)、抗炎症効果(特許文献2)などを有することも知られている。
【0005】
このような背景の下、アディポネクチンの産生を促進する薬剤として、チアゾリジン誘導体が知られている。しかし、このチアゾリジン誘導体は、下痢、便秘、吐き気などの消化器症状、肝臓障害などの副作用を伴う場合がある。
【0006】
さらに、アディポネクチンの産生を促進する化合物または成分がいくつか提案されている。例えば、特許文献3には、N−アセチルシステインが脂肪細胞のアディポネクチンの発現量を増加させること、そしてアポサイニンが血漿中のアディポネクチン濃度を上昇させ、かつ脂肪組織中のアディポネクチンの発現量を増加させることが開示されている。特許文献4にはジンゲロール化合物が、そして特許文献5にはアムラー果実またはその抽出物がアディポネクチンの産生を増強させることが開示されている。しかし、これらのアディポネクチン産生促進効果は十分とはいえない。
【0007】
これら以外にも、優れたアディポネクチンの産生を促進する物質が望まれている。
【特許文献1】特開2002−363094号公報
【特許文献2】特開2000−256208号公報
【特許文献3】特開2005−232059号公報
【特許文献4】特開2006−45210号公報
【特許文献5】特開2006−56836号公報
【非特許文献1】馬場きみ江ら、Foods & Food Ingredients Journal of Japan, 1998年、No.178、p.52−60
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れたアディポネクチン産生促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、優れたアディポネクチン産生促進効果を有する物質について鋭意検討した結果、カルコン類、特にアシタバに由来するカルコン類が、アディポネクチン産生促進効果に優れることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、カルコン類を有効成分とする。
【0011】
本発明のアディポネクチン産生促進剤はまた、カルコン類を含有するアシタバ黄汁を有効成分とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、カルコン類を有効成分とし、優れたアディポネクチン産生促進効果を有する。この効果は、他のポリフェノール化合物(例えば、エピカテキンガレート、カテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートなど)に比べて特に優れている。本発明のアディポネクチン産生促進剤は、糖尿病、肥満、動脈硬化症、およびこれらに起因する症状、例えば、糖尿合併症(糖尿病網膜症、糖尿病神経障害、糖尿病性腎症など)、脳梗塞、心筋梗塞、腎硬化症などの改善、治療、または予防に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、カルコン類を有効成分とする。カルコン類とは、植物に含有される天然色素であって、ベンザルアセトフェノンオキシ誘導体に属する黄色色素である。カルコン類としては、キサントアンゲロールまたは4−ヒドロキシデリシンが特に好適に用いられる。カルコン類は、単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
カルコン類は、カルコン類を含有する植物、例えばアシタバから上記キサントアンゲロール、4−ヒドロキシデリシンなどのカルコン類を単離し、またはこのような化合物を合成して用いられる。あるいは、カルコン類を含有する植物、この植物からの樹液、抽出液、それらの加工品などをそのまま利用してもよい。カルコン類を含有する植物として、キサントアンゲロールおよび4−ヒドロキシデリシンを多く含む点から、アシタバが好適に用いられる。アシタバの樹液(特にアシタバ黄汁)を用いることが特に好ましい。
【0015】
アシタバ(Angelica keiskei)は、わが国固有のセリ科の植物であり、房総半島、伊豆半島、三浦半島、伊豆諸島、大島、八丈島などに自生している。アシタバは、大きな羽状の三つ葉を有し、茎は太く、栽培を開始してから3年目の白い花が咲く頃には、150cmほどの高さに成長する。なお、本明細書および特許請求の範囲において、「アシタバ」というときは、セリ科Angelica属に属し、上記形質および性質を有しており、「明日葉」、「あしたば」などと標記される植物も含む。
【0016】
本発明において、アシタバ黄汁とは、発芽してから開花前までのアシタバの茎から滲出してくる黄色の樹液をいう。この色は上記カルコン類に由来する。アシタバ黄汁は、例えば、開花前のアシタバの茎を切断して滲出した樹液を回収することによって得られる。このアシタバ黄汁には、キサントアンゲロール、4−ヒドロキシデリシンなどの約10種類のカルコン類が約0.5〜11質量%含まれている。特にキサントアンゲロールおよび4−ヒドロキシデリシンが合計で0.5〜10質量%含まれている。これらのアシタバ黄汁由来のカルコン類は、抗菌作用、抗潰瘍・胃酸分泌抑制作用、トロンボプラスチンA生成阻害作用、抗アレルギー作用などを有することが報告されている(非特許文献1)。
【0017】
上記アシタバ黄汁は、必要に応じて、濾過、加熱殺菌などの処理を行ってもよい。加熱殺菌処理としては、当業者が通常行う方法が適用される。例えば、熱湯中に樹液が入った容器を浸漬し、容器内の樹液の温度が熱湯の温度と同じになってから数時間放置してもよく、あるいはオートクレーブで処理してもよい。加熱処理によりアディポネクチン産生促進効果は低下しないので、保存を考慮すると、加熱殺菌処理は有用である。
【0018】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、上記カルコン類を有効成分とし、必要に応じて種々の添加剤を含有する。本発明のアディポネクチン産生促進剤は、医薬品、食品、飼料などとして利用される。
【0019】
本発明のアディポネクチン産生促進剤を医薬品として用いる場合、その形態は特に制限されない。経口投与剤(経口固形製剤および経口液状製剤)および非経口投与剤のいずれにおいても利用可能である。
【0020】
上記経口固形製剤としては、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、除放剤などが挙げられる。このような経口固形製剤は、例えば、賦形剤(デキストリン、乳糖、結晶セルロース、二酸化ケイ素、環状オリゴ糖、デンプン、乳糖、白糖、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなど)、結合剤(デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、アルギン酸、ゼラチン、ポリビニルピロリドンなど)、滑沢剤(ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムなど)、崩壊剤(カルボキシメチルセルロース、タルクなど)などと混合して常法により調製することができる。例えば、アシタバ黄汁と賦形剤とを、好適には、質量比で7:3〜5:5の割合で混合し、乾燥することによりカルコン類含有粉末(散剤)を得ることができる。混合には、均一な混合を行うために、エタノールなどの適当な溶媒を加えることも可能である。さらに、必要に応じて、オートクレーブ中で120℃程度の温度で20分程度殺菌してもよい。
【0021】
上記経口液状製剤としては、乳化剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。この経口液状製剤は、例えば、カルコン類、アシタバ黄汁、上記カルコン類含有粉末などを、水または水以外の薬学的に許容し得る溶媒に溶解または分散させ、必要に応じて、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、安定剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤などを添加し、通常の方法により調製される。
【0022】
上記非経口投与剤としては、注射剤、経皮吸収製剤、坐剤などが挙げられる。例えば、注射剤の場合、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油)、アルコール類(エチルアルコール)、ポリソルベート80などで希釈し、必要に応じて、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤などを添加して調製される。
【0023】
本発明のアディポネクチン産生促進剤を医薬品として利用する場合の投与量はその目的、投与対象者により適宜設定される。例えば、成人の体重1kgに対して、カルコン類が、好ましくは0.0001〜10mg/日、より好ましくは0.01〜1mg/日の割合となるように設定される。特に経口投与剤の場合は0.1〜10mg/日、非経口投与剤の場合は0.01〜1mg/日の割合となるように設定することが好ましい。
【0024】
本発明のアディポネクチン産生促進剤を食品として利用する場合、その形態は、溶液、懸濁物、粉末、固体成形物などの経口摂取可能であればよく、特に制限されない。具体的には、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ用食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレーシチューなどの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;冷凍食品、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;栄養食品;錠剤;カプセル剤などが挙げられる。
【0025】
食品の調製は、例えば、上記カルコン類またはアシタバの樹液(特にアシタバ黄汁)を飲料に含有させるか、あるいはビスケットのような固形の食品に含有させて健康食品あるいは機能性食品などとすることにより行われる。必要に応じて、栄養成分、希釈剤(油脂、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンなど)、バインダー(アラビアガム、デキストリンなど)、安定剤、保存料などが用いられる。
【0026】
上記栄養成分としては、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ナイアシン(ニコチン酸)、パントテン酸、葉酸などのビタミン類;リジン、スレオニン、トリプトファンなどの必須アミノ酸;カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅などのミネラル類;α−リノレン酸;EPA;DHA;月見草油;オクタコサノール;カゼインホスホペプチド(CPP);カゼインカルシウムペプチド(CCP);水溶性食物繊維;不溶性食物繊維;オリゴ糖などが挙げられる。栄養成分は単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明のアディポネクチン産生促進剤を食品として利用する場合の摂取量は、例えば、成人の体重1kgに対して、カルコン類が、0.1〜10mg/日の割合となるように設定することが好ましい。上記摂取量は、体調および食品の形態に応じて、1日当たり1回の割合で摂取してもよいし、あるいは数回にわけて摂取してもよい。
【0028】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、糖質代謝、脂質代謝などの重要な調節因子である、アディポネクチンの分泌を促進させ、体内、特に血中のアディポネクチン量を増加させる。このアディポネクチン産生促進効果は、他のポリフェノール化合物(例えば、エピカテキンガレート、カテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートなど)に比べて特に優れている。本発明のアディポネクチン産生促進剤は、糖尿病、肥満、動脈硬化症、およびこれらに起因する症状、例えば、糖尿合併症(糖尿病網膜症、糖尿病神経障害、糖尿病性腎症など)、脳梗塞、心筋梗塞、腎硬化症などの改善、治療、または予防に有効である。本発明のアディポネクチン産生促進剤は、医薬品、食品などとして利用される。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に制限されることはない。
【0030】
(調製例:キサントアンゲロールおよび4−ヒドロキシデリシンの調製)
アシタバ黄汁10gに、酢酸エチル10gを加えてよく振盪した後、静置して水層と酢酸エチル層とに分離した。酢酸エチル層を分取し、エバポレーターにて減圧濃縮して約1gの濃縮物を得た。この濃縮物を液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析したところ、13.7分付近に4−ヒドロキシデリシンの鋭いピークが見られ、16.2分付近にキサントアンゲロールの鋭いピークが見られた。これらのカルコン類の含有量を算出したところ、4−ヒドロキシデリシンが126.61mg/g濃縮物およびキサントアンゲロールが250.24mg/g濃縮物であった。なお、HPLCの条件は以下のとおりである。
【0031】
(液体クロマトグラフィーの条件)
カラム: STR−ODSII(4.6mm I.D.×250mm L、信和化工株式会社)
移動相: 80%(v/v)メタノール
カラム温度: 50℃
流速: 0.9mL/分
インジェクション量:10μL
【0032】
得られた濃縮物を、5mLのn−ヘキサンと酢酸エチルとの混合液(容量比(容積比)5:1)に溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて4−ヒドロキシデリシンおよびキサントアンゲロールを分離した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーの条件は以下のとおりである。
【0033】
(シリカゲルカラムクロマトグラフィーの条件)
カラムサイズ:25mm I.D.×800mm L
シリカゲル: PSQ100B(富士シリシア化学株式会社)
移動相: n−ヘキサンと酢酸エチルとの混合液(容量比(容積比)5:1)
流速: 8mL/分(自然落下)
温度: 室温
【0034】
得られた4−ヒドロキシデリシンの画分は、乾燥質量で118mgであり、キサントアンゲロールの画分は、乾燥質量で246mgであった。
【0035】
さらに、これらの画分を、SCL−10Aシステム(株式会社島津製作所)を用いてODSカラムクロマトグラフィーで精製した。ODSカラムクロマトグラフィーの条件は以下のとおりである。
【0036】
(ODSカラムクロマトグラフィーの条件)
カラム: STR−ODSII(20.0mm I.D.×250mm L、信和化工株式会社)
移動相: 4−ヒドロキシデリシン分離時は90%(v/v)メタノール、キサントアンゲロール分離時は85%(v/v)メタノールを使用
カラム温度: 50℃
流速: 8.0mL/分
インジェクション量:100μL
【0037】
得られた精製物をロータリーエバポレーターにて乾固し、4−ヒドロキシデリシン精製物66mgおよびキサントアンゲロール精製物138mgを得た。これらの精製物をHPLCで上記と同様の条件で分析したところ、純度はいずれも99%以上であった。
【0038】
(実施例1:キサントアンゲロールによるアディポネクチン産生促進効果の検討)
(1)3T3−L1細胞の培養および継代培養
3T3−L1細胞(マウス繊維芽細胞)を、10%ウシ胎児血清含有ダルベッコ改変イーグル培地(FCS−DMEM)で集蜜的な状態(confluent)に達するまで培養した後、培養シャーレ内の培地を除去し、PBS(−)で2回洗浄した。その後、0.1%trypsin-EDTA溶液を加えて細胞をシャーレ底面より剥離し、この剥離した細胞および0.1%trypsin-EDTA溶液を遠沈管に移した。これに等容量の10%FCS−DMEMを加え、1100rpmにて5分間遠心分離を行った。上清をデカンテーションで除去し、新しい10%FCS−DMEMを加え、さらに1100rpmにて5分間遠心分離を行う操作を2回繰り返した。その後、細胞を10%FCS−DMEM中に均一化させ、シャーレに播種し、COインキュベーターに入れて5%CO条件下、37℃にて培養した。
【0039】
(2)脂肪細胞への分化誘導
3T3−L1細胞を10%FCS−DMEM中で培養し、集蜜的な状態(confluent)に達した日から2日後に、分化培地1に培地交換してさらに2日間培養した。次いで、分化培地2に培地交換して2日間培養した後、さらに10%FCS−DMEMに培地交換し、90%以上の細胞に油滴が確認される状態になるまで4〜6日間培養して分化を誘導した。なお、分化培地1および2およびこれらの調製方法は、以下の通りである。
【0040】
分化培地1は、10%FCS、0.5mMイソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX)、1μMデキサメタゾン(DEX)、および1μMインスリンを含むDMEMである。分化培地1の調製は、100μMインスリンと、500mM IBMXと、1mM DEXとの混液を10%FCS−DMEMで希釈することによって行った。
【0041】
分化培地2は、10%FCSおよび1μMインスリンを含むDMEMである。分化培地2の調製は、100μMインスリンを10%FCS−DMEMで希釈することによって行った。
【0042】
(3)アディポネクチン産生促進効果の評価
脂肪細胞への分化が完了した後、0.5%BSA−DMEMに培地交換して、24時間培養した。その後、調製例で得られたキサントアンゲロール精製物を希釈系列(0μM、0.0159μM、0.159μM、および1.59μM)で添加して、さらに37℃にて24時間インキュベートした。培養上清を採取して、上清中のアディポネクチン量を以下のアディポネクチンELISA測定法を用いて測定した。
【0043】
まず、洗浄緩衝液(50mMトリス塩酸塩、200mM塩化ナトリウム、10mM塩化カルシウム、および0.2%トリトンX100含有(pH7.0))、ブロッキング緩衝液(10mM炭酸水素ナトリウム、10mM炭酸ナトリウム、および0.5%BSA含有(pH9.3))、および試料緩衝液(BSAを1%含む洗浄緩衝液)を調製した。
【0044】
次いで、96穴マイクロタイタープレートの各ウェルに、固相化抗アディポネクチンIgG抗体溶液(R&D社、10mM炭酸緩衝液で0.25μg/mLに希釈)を100μL/wellずつ加えて、室温にて緩やかに振盪させながら2時間保持して吸着させた。ウェルをブロッキング緩衝液200μL/wellで2回洗浄した後、さらにブロッキング緩衝液200μL/wellずつ加えて室温にて緩やかに振盪させながら1時間保持して非特異的結合部分をブロックした。ブロッキング緩衝液を捨て、上記培養上清を、試料緩衝液で希釈した希釈検体を100μL/wellずつ加えて、室温にて緩やかに振盪させながら2時間反応させた。ウェルを洗浄緩衝液で4回洗浄した後、ビオチン標識抗体希釈溶液(R&D社)を100μL/wellずつ加えて、室温にて緩やかに振盪させながら1時間反応させた。ウェルを洗浄緩衝液で4回洗浄した後、ストレプトアビジン−HRP希釈溶液(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を100μL/wellずつ加えて、室温にて緩やかに振盪させながら1時間反応させた。そしてウェルを洗浄緩衝液で4回洗浄した後、TMB発色液(Kirkegaad & Perry Laboratories社)を100μL/wellずつ加えて約20分間反応させた。その後、1.7M リン酸を100μL/wellずつ加えて反応を停止させ、プレートリーダーを用いて450nmおよび620nm(ブランク用)の波長にて吸光度を測定した。
【0045】
得られた希釈検体の吸光度からアディポネクチン量を算出した。なお、算出に際して、上記希釈検体の代わりに、スタンダード溶液(Pepro Tech社、アディポネクチン0〜4000pg/mL)を用いて吸光度を測定し、これらの吸光度から作成した検量線を用いた。上記測定を4回行い、アディポネクチン量の平均値および標準偏差を求めた。結果を図1に示す。
【0046】
(実施例2:4−ヒドロキシデリシンによるアディポネクチン産生促進効果の検討)
キサントアンゲロールの代わりに、調製例で得られた4−ヒドロキシデリシン精製物を0μM、0.0185μM、0.185μM、および1.85μMの希釈系列で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、培養上清中のアディポネクチン量を測定し、平均値および標準偏差を求めた。結果を図2に示す。
【0047】
(比較例1〜4)
キサントアンゲロールの代わりに、エピカテキンガレート、カテキン、エピガロカテキン、およびエピガロカテキンガレートをそれぞれ各希釈系列で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、培養上清中のアディポネクチン量を測定し、平均値および標準偏差を求めた。結果を図3〜6に示す。
【0048】
図1から明らかなように、キサントアンゲロールを0.0159μM以上となるように添加した場合のアディポネクチン量(0.913μg/mL以上)は、キサントアンゲロールを添加しない場合のアディポネクチン量(0.107μg/mL)に比べて、約8.5倍以上多かった。特にキサントアンゲロールが1.59μM添加した場合のアディポネクチン量は、添加しない場合の約22倍に達した。
【0049】
図2から明らかなように、4−ヒドロキシデリシンを0.0185μM以上となるように添加した場合のアディポネクチン量(0.853μg/mL以上)は、キサントアンゲロールを添加しない場合のアディポネクチン量(0.300μg/mL)に比べて、約2.8倍以上多かった。特にキサントアンゲロールが0.185μMの添加した場合のアディポネクチン量は、添加しない場合の約3.7倍に達した。
【0050】
これに対して、図3〜6から明らかなように、カルコン類と同じポリフェノールに属するエピカテキンガレート、カテキン、エピガロカテキン、またはエピガロカテキンガレートの場合、それぞれ最大で8.89μM〜13.8μMの範囲で添加したが、添加しない場合と比べてアディポネクチン産生量に大きな差がなかった。すなわちエピカテキンガレートを用いる場合(図3)、無添加の場合に比べて高々1.2倍であった。カテキンおよびエピガロカテキンの場合(図4および図5)、無添加の場合と差がなかった。そしてエピガロカテキンガレートの場合(図6)、無添加の場合に比べて高々1.4倍であった。さらにこれらのアディポネクチン産生量の増加について濃度依存性は見られなかった。
【0051】
図1〜図6の結果から、カルコン類(キサントアンゲロールまたは4−ヒドロキシデリシン)を添加することによって、アディポネクチン産生が促進されることがわかる。このアディポネクチン産生促進効果は、他のポリフェノール(エピカテキンガレート、カテキン、エピガロカテキン、またはエピガロカテキンガレート)では得られない優れた効果である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、カルコン類を有効成分とし、優れたアディポネクチン産生促進効果を有する。この効果は、他のポリフェノール化合物(例えば、エピカテキンガレート、カテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートなど)に比べて特に優れている。本発明のアディポネクチン産生促進剤は、糖尿病、肥満、動脈硬化症、およびこれらに起因する症状、例えば、糖尿合併症(糖尿病網膜症、糖尿病神経障害、糖尿病性腎症など)、脳梗塞、心筋梗塞、腎硬化症などの改善、治療、または予防に有効である。本発明のアディポネクチン産生促進剤は、医薬品、食品などとして利用される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】キサントアンゲロールの添加濃度に対する脂肪細胞のアディポネクチン産生量の変化を示すグラフである。
【図2】4−ヒドロキシデリシンの添加濃度に対する脂肪細胞のアディポネクチン産生量の変化を示すグラフである。
【図3】エピカテキンガレートの添加濃度に対する脂肪細胞のアディポネクチン産生量の変化を示すグラフである。
【図4】カテキンの添加濃度に対する脂肪細胞のアディポネクチン産生量の変化を示すグラフである。
【図5】エピガロカテキンの添加濃度に対する脂肪細胞のアディポネクチン産生量の変化を示すグラフである。
【図6】エピガロカテキンガレートの添加濃度に対する脂肪細胞のアディポネクチン産生量の変化を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】397026458
【氏名又は名称】株式会社日本生物科学研究所
【出願日】 平成18年7月28日(2006.7.28)
【代理人】 【識別番号】100104673
【弁理士】
【氏名又は名称】南條 博道


【公開番号】 特開2008−31076(P2008−31076A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2006−205708(P2006−205708)