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【発明の名称】 膵島移植補助剤
【発明者】 【氏名】岡本 好司

【氏名】安波 洋一

【要約】 【課題】糖尿病に対する根治的治療法として期待される臨床膵島移植において、問題視される細胞の生着率の改善と必要とされる膵島細胞数の低減化を本願発明の課題とする。

【構成】主たる成分として活性化プロテインC(APC)を含有してなる、膵島移植に大きく貢献する膵島移植補助剤を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化プロテインCを主たる有効成分として含有することを特徴とする、膵島移植補助剤。
【請求項2】
膵島移植時の移植細胞拒絶反応抑制効果を有する請求項1記載の膵島移植補助剤。
【請求項3】
免疫抑制剤に併用され得る請求項1または請求項2記載の膵島移植補助剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本願発明は医療用医薬品の分野に属し、血液に由来する成分を有効成分とする医薬品に関する。詳細には血漿蛋白質の新たな用途に関する。さらに詳細には、活性化プロテインC(以下、APCと称することがある)を主たる有効成分として含有する移植のための医薬品に関し、とりわけ膵島移植患者における移植細胞の生着率を高め、その結果、とりわけ糖尿病患者に対するQOL、生存率等を改善し得る生命予後の改善に係る技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は代表的な生活習慣病であり、その患者数は本邦だけでも600万人以上と推定されている。糖尿病は、I型糖尿病(子供や若年者に多く、膵臓のランゲルハンス島β細胞からインスリンが殆ど分泌されない)とII型糖尿病(成人に多く、インスリンは分泌されるもののその作用、有効性が悪い)に分類される。インスリンは、血糖の上昇に合わせて、随時膵臓から分泌され血糖値を下げる機能を有しており、インスリン依存型糖尿病のうちI型糖尿病の頻度は4〜6%であることから、本邦でのI型糖尿病の患者数は24〜36万人と推定されている。I型糖尿病患者は子供の頃からのつらい食事制限とインスリン注射にもかかわらず、多彩かつ悲惨な合併症を併発して死に至る場合もあることから、膵(臓器)や膵島(ランゲルハンス島)の移植による根本的治療が待ち望まれている。糖尿病の合併症としては、神経障害に加えて,糖尿病性網膜症や腎症など、糖尿病に特有な細小血管障害を併発する患者が増加しており、加えて、心筋梗塞や脳卒中を発症させる危険因子として、糖尿病が大きな原因になっていることが知られている。本邦では、糖尿病性網膜症から失明に至るのは毎年5000人、糖尿病性腎症から透析導入となるのは毎年7000人を越えている。また、糖尿病に関連する医療費も増加の一途をたどっており、最近では1兆円を越えている。このように、糖尿病は社会的な大きな問題となっており、糖尿病撲滅は欧米と同様に本邦においても重要な課題となっている。
【0003】
I型糖尿病を根本から治療するには、膵島から、インスリンが正常に分泌されるように治療する必要がある。このような糖尿病の根治治療として期待されているのが移植である。膵臓移植は、I型糖尿病で内因性インスリンが枯渇した患者や腎不全を合併した患者を対象にして、膵臓単独移植(Pancreas Transplantation Alone: PTA、およびPancreas After Kidney transplantation: PAK)あるいは膵腎同時移植(Simultaneous Pancreas Kidney transplantation: SPK)を行ない、血糖の正常化、QOLの改善、二次性合併症の進展阻止を目的としている。このような膵の内分泌機構を補填する意味で行なわれている膵(臓器)移植は、理論上膵臓全体を必要とせず、内分泌に関係する膵島細胞の移植のみで目的を達せられるはずである。
【0004】
膵臓よりランゲルハンス島β細胞のみを取り出して移植する膵島移植は、膵島細胞に障害のある糖尿病患者にとって、理論的に優れた内分泌補充療法であり、1960年代後半から多くの実験的、臨床的研究が試みられてきた。この移植法の手技は、1)ドナーから摘出した膵臓を酵素処理し、2)細胞分離機で膵島細胞だけを取り出し、3)患者の門脈に膵島細胞を注入、移植するというものである。膵島細胞は門脈から肝臓に入ると肝臓内に張り巡らされた血管の中に生着して、インスリンを分泌するようになる。なお、臨床試験の成績から、膵島の移植に適している臓器は膵臓ではなく肝臓であることが示されている。膵島移植は膵島細胞を点滴輸注するだけの移植法であるので、臓器全体を移植する手術に比べて、開腹手術や血管吻合も必要とせず、また膵液処理も不要であるため、術式的には極めて安全で、リスクの高い患者にも実施できる利点を有している。また、拒絶反応が起こったとしても再摘出を必要とせず、患者への負担が極めて少ない移植法であるとの利点も併せ持っている。
【0005】
膵臓より膵島を取り出す膵島分離法は1967年、Lacyらによりコラゲナーゼで膵臓を消化し膵島を取り出す方法が報告され、以後、膵島分離の標準的な方法となった(非特許文献1参照)。本法はマウスやラット等の小動物からの膵島分離を可能にしたが、人を含めた大動物膵からの膵島分離は困難であった。しかしながら、その後、Ricordiらによる独自の自動膵島分離装置の開発(非特許文献2参照)、UCLAのグループが考案した消化過程を温消化、冷消化のいわゆる2段階にする手法の導入、保存液の改良等によりヒトへの応用が可能となってきた。
【0006】
膵島移植は他の「臓器」移植と異なり、「細胞」移植の一種である為,精子バンク同様、膵島を半永久的に凍結保存することが可能で、必要なときに必要量の膵島を移植できるいわゆる膵島バンクを作ることができる。膵島の凍結保存の開発は、1977年、Rajotteらがラットの凍結解凍膵島を用いて糖尿病ラットの治療に成功して以来多くの膵島凍結保存の研究が行なわれてきており(非特許文献3参照)、現在では、プログラムフリーザーを用いた緩速凍結と急速解凍により行なう方法がヒト膵島凍結保存の標準的方法となっている。
【0007】
臨床的には1974年にミネソタ大学により初めてヒトへの膵島移植が行なわれたが、最近までその成績は他の臓器移植に比較して不良であった。しかしながら、2000年にアルバータ大学が考案したプロトコール(Edmonton Protocol:ステロイド剤を使用しない免疫抑制法を用いた臨床膵島移植のプロトコール)によって極めて高いインスリン離脱率が報告されるに至り(非特許文献4参照)、膵島移植がI型糖尿病に対する画期的な治療法として定着しつつある。このプロトコールは、(1)状態の良い脳死ドナーを選択、(2)膵臓摘出から膵島分離までの保存時間を短縮、(3)十分量の分離膵島を移植、(4)免疫抑制剤にrapamycinを採用するという特徴を有する。膵島は、肝臓内に生着する際、経時的に死滅していくため、質の高い膵島の大量移植が移植成功のポイントとなる。
国際膵島移植登録(International Islet Transplant Registry:ITR)の報告によると、2000年から2002年8月に行なわれた膵島移植185例中、膵島単独移植(Islet Transplant Alone:ITA)が120例、膵島腎同時移植(Simultaneous Islet-Kidney transplant:SIK)が23例、腎移植後膵島移植(Islet After Kidney transplant:IAK)が42例であった。移植後1週間以上インスリン離脱を達成した症例について検討すると、ITAで62%、IAKで45%、SIKで30%であり、ITAの成績が最も良かった。これは、2000年以降にITAに対してEdmonton Protocolを用いるようになったためである(非特許文献5参照)。
【0008】
このように糖尿病根治療法としての膵島移植の有用性は高まってきているが、移植を成功させるには、膵島細胞の生着率が低い、またこれに起因し大量の膵島細胞の輸注が必要なこと(少なくとも2名以上のドナーが必要)等の問題があり、更なる改善が望まれている。すなわち、通常の臓器移植では、ドナーが1人いれば、1人のレシピエントに対して移植が成立するが、現状では、膵島移植の場合、レシピエント1人に対して複数のドナーが必要であり、これが大きな問題となっている。これが解決され、ドナー:レシピエント間の比率が1:1まで改善されれば、移植は爆発的に広まり、糖尿病治療に大きな貢献をすることが期待される。
【0009】
本願発明における膵島移植の補助剤としての主たる有効成分であるAPCは、血中ではその前駆体のプロテインC(以下、PCと称することがある)として血管内を循環している。一旦凝固系が作動しトロンビンが形成されると、トロンビンは、血管内皮細胞上の膜蛋白質のトロンボモジュリン(以下、TMと称することがある)に結合し、PCを活性化してセリンプロテアーゼ活性を有するAPCに変換する。APCは、細胞膜リン脂質上で、血液凝固系の活性化第V因子や活性化第VIII因子を選択的に限定分解し失活化させ、強力な抗凝固作用を発揮する(非特許文献6、非特許文献7参照)。このAPCによる抗凝固作用はコファクターのプロテインS(以下、PSと称することがある)が存在すると増強される。なおPC、TM、PS等が関与する凝固制御機構をプロテインC抗凝固系という。
【0010】
加えて、APCは血管内皮細胞あるいは血小板由来の組織プラスミノーゲン・アクチベーター・インヒビター(以下、PAIと称することがある)を中和することにより(非特許文献8、非特許文献9参照)、また抗線溶因子のThrombin Activatable Fibrinolysis Inhibitor(以下、TAFIと称することがある)の活性化を抑制することにより(非特許文献10参照)、線溶系の亢進に関与しているとも考えられている。
【0011】
さらに、APCはヒヒ敗血症モデルにおいても有効性が示されていること(非特許文献11参照)、また白血球からのサイトカイン産生を抑制する作用も有することから(非特許文献12参照)、抗炎症作用を有することが示唆されている。臨床的にもEli Lilly社が実施した重症敗血症患者を対象にした大規模臨床試験において、組換えAPC製剤投与により死亡率が有意に低下すること、また、炎症性サイトカインのIL-6レベルが投与一日目から有意に低下することが示された(非特許文献13参照)。
【0012】
プロテインC抗凝固系は敗血症、播種性血管内凝固症候群(以下、DICと称することがある)等の血栓性の疾患で低下していることが知られているが、拒絶反応を起こした患者でも低下することが示された。すなわち、同種腎移植を受けた患者について9ヶ月間モニターし、拒絶反応を起こす際にはプロテインC抗凝固系(PC,PS,TM)の機能が低下していることを示し、拒絶反応の早期診断に有用であることが報告された(非特許文献14参照)。
【0013】
【特許文献1】日本国特許第3043558号
【特許文献2】特開昭61-205487号
【特許文献3】特開平1-002338号
【特許文献4】特開平1-085084号
【非特許文献1】Lacy et al., Diabetes, vol.16, p.342-353, 1967
【非特許文献2】Ricordi et al., Diabetes, vol.37, p.413-420, 1988
【非特許文献3】Rajotte et al., Cryobiology, vol.14, p.116-120, 1977
【非特許文献4】N Engl J Med, vol. 343, p.230-238, 2000
【非特許文献5】移植, vol.38, p.122-125, 2002
【非特許文献6】Biochemistry, vol.16, p.5824-5831, 1977
【非特許文献7】J. Biol. Chem., vol. 258, p.1914-1920, 1982
【非特許文献8】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 82, p.1121-1125, 1985
【非特許文献9】J. Biol. Chem., vol. 276, p.15567-15570, 2001
【非特許文献10】Blood, vol. 88, p.2093-2100, 1996
【非特許文献11】J. Clin. Invest., vol.79, p.918-925, 1987
【非特許文献12】Am. J. Physiol., p.L197-L202, 1997
【非特許文献13】N. Engl. J. Med., vol. 344, p699-709, 2001
【非特許文献14】J. Exp. Med., vol. 175, p81-90, 1992
【非特許文献15】Blood, vol. 63, p.115-121, 1984
【非特許文献16】Kisiel et al., J. Clin. Invest., vol. 64, p.761-769, 1979
【非特許文献17】J. Clin. Invest., vol. 79, p.918-925, 1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年、膵島移植の技術は飛躍的な進歩を遂げているとはいえ、細胞の生着率の向上を要すること及び大量の膵島細胞の輸注が必要であることという、上述の問題点は十分に克服されておらず、膵島移植による糖尿病根治療法の更なる向上が切望されている。かくして、膵島移植時の細胞の生着率の改善と必要とされる膵島細胞数の低減化を本願発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者らは、上記の諸背景を鑑み、移植した膵島細胞の生着率の改善に着眼し、これを満足させる薬剤を見出すべく鋭意研究した結果、驚くべきことに、従来試みられることのなかった抗凝固薬のAPC投与により、移植膵島細胞の生着率を著しく改善する効果があることを見出し、これらの知見に基づいて本願発明を完成するに至った。
すなわち、本願発明は、APCを主たる有効成分として含有することを特徴とする、膵臓移植の生着率、好ましくは膵島移植の生着率改善剤に関する。本願発明の膵臓移植の生着率改善剤は、糖尿病の根治療法として期待される膵臓移植、膵島移植に際して投与することにより著しく生着率を高め、インスリン分泌を正常化し、その結果、血糖値のコントロールを可能にするうえで特に有効である。
【発明の効果】
【0016】
APCの効果は同種異系膵島移植でも得られることが判明した。臨床膵島移植に於いて、拒絶反応が制御されれば、APCの投与により移植膵島障害が軽減され、生着率の向上が期待される。また、臨床膵島移植では現在1人の糖尿病レシピエントの治療に複数回(2〜3回)の移植が行なわれている。すなわち、1人の治療に2〜3人のドナーが必要ということを意味している。APCが臨床応用され、1人のドナーより、1人のレシピエントへの移植が実現すれば、画期的成果となる。
本願発明によりもたらされた知見により、膵島移植の成功率が著しく改善される。すなわち、従来では移植できなかった少量の細胞数での移植、状態の悪い細胞や異種動物由来の細胞での移植を可能にすることにより、膵島移植の実用化において最大の課題であったドナー細胞の確保を容易にすることができる。本願発明は、斯くも顕著な作用効果を発揮するものであり、斯界に貢献すること誠に多大な意義のある発明であると確信する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本願発明で提供される、免疫抑制剤に併用され得る膵島移植補助剤は、APCをその主たる有効成分とすることに特徴を有する。
本願発明の膵島移植補助剤として用いる際の免疫抑制剤については、例えば、rapamycin、抗CD4抗体、FK506等の汎用的な薬剤が例示されるが、これらに限定されるものではなく、またこれら薬剤の多剤併用も本願発明の技術思想の範囲に含まれる。また、本願発明の膵島移植補助剤の投与態様についても特段の制約はなく、例えば、膵島細胞移植直前から、移植後1週間にわたって投与されるのが好適な態様と考えられる。
【0018】
本願発明の膵島移植補助剤の本態でありこれに使用されるAPCを製造する方法は特に限定されるものではないが、例えばヒト血液より分離した、あるいは遺伝子組換え技術により得られたPCを活性化する方法、ヒト血液よりAPCを分離する方法、あるいは遺伝子組換え技術により直接APCを調製する方法などによって製造することができる。PCからAPCへの活性化の方法には特に制約はなく、例えばヒトやウシなどの血液より分離したトロンビンにより活性化する方法、あるいは組換えトロンビンにより活性化する方法などにより実施できる。
【0019】
血液由来のAPCの製法としては、以下の方法が挙げられる。例えば、特許第3043558号による方法(特許文献1参照)、あるいは、ヒト血漿から抗PC抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製されたPCを、ヒトトロンビンで活性化した後、陽イオンクロマトグラフィーを用いて精製する方法(非特許文献15参照)、Kisielによる、ヒト血漿からクエン酸Ba吸着・溶出、硫安分画、DEAE-セファデックスカラムクロマトグラフィー、デキストラン硫酸アガロースクロマトグラフィー及びポリアクリルアミドゲル電気泳動の工程により精製して得られたPCを活性化してAPCとする方法(非特許文献16参照)、市販のPCを含有する第IX因子複合体製剤を出発材料にして抗PC抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製されたPCを活性化してAPCとする方法(非特許文献17参照)などがある。
【0020】
また、遺伝子組換え技術を用いてAPCを調製する方法としては、例えば特開昭61-205487号、特開平1-002338号あるいは特開平1-085084号などに記載された方法などがある(特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
上述の方法で調製されたAPCの活性を最大限に維持するために、本願発明で使用するAPCは好適な安定化剤と共に凍結乾燥して保存する。本願発明では、有効成分としてのAPCと公知の適当な賦形剤を組み合わせ、公知の方法で本願発明の膵島移植補助剤とすることができる。本願発明のAPCを本態とする薬剤の投与量については、患者の年齢、病態等により適宜変動し得るものであるが、例えば、100μg〜10mg/kg体重/日の1〜6日間の持続投与は好適な態様と考えられる。
【0021】
以下に実施例を挙げて本願発明を具体的に説明するが、本願発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
なお、今回の実施例に使用した血液由来のAPCは、マウス及びイヌでの単回静脈内投与試験、マウス、イヌおよび幼若イヌでの反復静脈内投与試験、マウス生殖試験、局所刺激性試験、一般薬理試験(ビーグル犬を用いた呼吸循環系に及ぼす影響)、ウイルス不活化試験などによりその安全性が確認されている。
【実施例1】
【0022】
(I型糖尿病マウスに対する膵島細胞の同種同系移植)
C57BL/6マウスにストレプトゾシンを投与し、ランゲルハンス島β細胞の機能を特異的に低下させることで作製したI型糖尿病マウスモデルに、C57BL/6マウスから分離した膵島細胞400個(2匹のマウス膵臓から調製可能な細胞数)を経門脈的に肝内に移植したところ、移植後に血糖値は正常化したが(図1)、膵島細胞200個(1匹のマウス膵臓で調製可能な細胞数)の移植では、血糖値は正常化しなかった(図2)。しかしながら、200個の膵島移植でも移植直前、移植2時間後、4時間後にAPCを各40μg尾静脈より静注すると全てのマウスの血糖値は正常化した(図3)。APCが移植後膵島グラフトの障害を防ぎ、生着した膵島数を増加させ、血糖値をコントロールすることが示された。
【実施例2】
【0023】
(I型糖尿病マウスに対する膵島細胞の同種異系移植)
BALB/c マウスの膵島細胞400個を、実施例1で用いた糖尿病C57BL/6マウスに経門脈的に肝内に移植すると血糖値は2〜3日以内に正常化するが、同種拒絶反応により移植膵島が破壊され、レシピエントの血糖値は移植後10日前後で再上昇する(図4)。そこで、免疫抑制剤の抗CD4抗体を移植時に200μg腹腔内に1回投与すると拒絶反応は抑制され、レシピエントは移植後正常血糖で推移した(図5)。しかしながら、BALB/c マウスの膵島細胞200個を糖尿病C57BL/6マウスに移植したときは、抗CD4抗体非投与下では、血糖値は移植後全く正常化せず、グラフトの破壊、リンパ球の集積があり、拒絶反応が確認された(図6)。しかしながら、抗CD4抗体投与下でも移植部位の肝臓に膵島グラフトが存在、拒絶反応は制御されたが、生着膵島数が少なく、血糖値の正常化には到らなかった(図7)。
【実施例3】
【0024】
(I型糖尿病マウスに対する膵島細胞の同種異系移植に対するAPCの効果)
BALB/c マウスの膵島細胞200個を糖尿病C57BL/6マウスの経門脈的に肝内に移植する直前、移植2時間後、4時間後に各40μgのAPCを尾静脈より静注すると、200個の同種膵島でも血糖値は正常化した。また。通常移植後1週間以内に現れる拒絶反応が遅延し2週間後に出現した。その結果、移植後16〜17日で血糖値が再上昇した(図8)。BALB/c マウスの膵島細胞200個を糖尿病C57BL/6マウスに移植する際、抗CD4抗体(移植時に200μg腹腔内に1回投与)およびAPC(移植直前、移植2時間後、4時間後に各40μgのAPCを尾静脈より静注)を投与すると血糖値が正常化した(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0025】
糖尿病根治療法として期待される膵島移植であるが、本願発明で提供される膵島移植補助剤は、移植時の細胞生着率の向上、及びこれに伴う移植細胞数の軽減を現実のものとし、社会の要求、とりわけ医療経済面での要望に応えるものである。また、新たな免疫抑制剤としての可能性を拓くものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウスに対する同種同系膵島移植の系での術後血糖値の推移を示す図である。ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウス(n=10)に、同種同系マウス(C57BL/6)から単離した膵島400個を、経門脈的肝内移植したもの。同系移植(Isografts )であり、この系では同種移植拒絶反応は発現しない。縦軸は非空腹時血糖値、横軸は移植後日数を示す。一匹のマウス膵島より単離可能膵島数は200個、よって、2匹分の膵島をドナーとして用いた場合、移植後に血糖値は正常化することを示している。
【図2】ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウスに対する同種同系膵島移植の系での術後血糖値の推移を示す図である。図1と同様の条件において同系膵島の移植個数を200個にした時のデータ。移植後に血糖値は全く正常化しなかった(n=10)。200個では生着膵島数が十分でないことを示している。
【図3】ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウスに対する同種同系膵島移植時のAPCの効果を示す図である。図2と同様の条件において、APC40μgを、移植前1回、移植後2、4時間,の計3回静脈投与したもの。全てのマウス(n=4)の血糖値が正常化した。膵島移植後の障害を防ぎ、生着した膵島数が増加し、血糖値に反映したと考えられる。
【図4】ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウスに対する同種異系膵島移植の系での術後血糖値の推移を示す図である。ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウス(C57BL/6)に、同種異系であるBALB/c マウス由来の膵島400個を経門脈的肝内移植したもの。血糖値は2、3日以内に正常化するが、同種異系拒絶反応により移植された膵島が破壊され、全レシピエント(n=4)の血糖値は移植後10日前後で再上昇する。同系では十分な膵島量でも異系ではうまく行かない。
【図5】ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウスに対する同種異系膵島移植の系での術後血糖値の推移を示す図である。図4と同様の条件において、移植時に免疫抑制剤の抗CD4抗体200μgを腹腔内投与したもの。拒絶反応は抑制され、全てのレシピエント(n=6)の血糖値は移植後正常で推移した。
【図6】ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウスに対する同種異系膵島移植の系での術後血糖値の推移を示す図である。図4と同様の条件において、膵島数を200個にしたもの。全てのレシピエント(n=5)の血糖値は移植後全く正常化しなかった。組織学検索でグラフトの破壊、リンパ球の集積があり、拒絶反応が確認された。
【図7】ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウスに対する同種異系膵島移植の系での術後血糖値の推移を示す図である。図6と同様の条件(膵島数200個)において、抗CD4抗体を移植時1回投与腹腔内に投与(200 μg/injection)したもの。全てのレシピエント(n=4)の血糖値は正常化しなかった。組織学検索で移植部位の肝臓に膵島グラフトが存在した。拒絶反応は制御されたが、生着膵島数が少なく、血糖値は正常化しなかった。
【図8】ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウスに対する同種異系膵島移植時のAPC投与の影響を示す図である。図6と同様の条件(膵島数200個)において、APC40μgを、移植前1回、移植後2、4時間、の計3回静脈投与したもの。200個の同種膵島で血糖値は下がったが、拒絶反応により移植後16〜17日で再上昇した(n=3)。
【図9】ストレプトゾトシン誘発I型糖尿病マウスに対する同種異系膵島移植時の免疫抑制剤併用においてAPC投与の効果を示す図である。図6と同様の条件(膵島数200個)だが、抗CD4抗体を移植時1回投与腹腔内に投与(200 μg/injection)、APC40μgを、移植前1回,移植後2、4時間,の計3回静脈投与したもの。全てのレシピエント(n=4)の血糖値は移植後正常化した。
【出願人】 【識別番号】000173555
【氏名又は名称】財団法人化学及血清療法研究所
【出願日】 平成16年10月29日(2004.10.29)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−24591(P2008−24591A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2004−316449(P2004−316449)