| 【発明の名称】 |
神経細胞保護剤 |
| 【発明者】 |
【氏名】辻 晋司
【氏名】白澤 卓二
【氏名】清水 孝彦
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| 【要約】 |
【課題】神経細胞のミトコンドリア機能障害および酸化的ストレスを軽減することができる、神経細胞保護剤を提供すること。
【構成】本発明の神経細胞保護剤および神経変性疾患予防剤は、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルからなる。本発明の神経細胞保護剤は、特に、黒質のドーパミン作動性神経細胞または青斑核のノルアドレナリン作動性神経細胞の変性保護に有効であり、この神経細胞保護剤の摂取は、パーキンソン病の根本療法として期待される。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 アスタキサンチンおよび/またはそのエステルからなる、神経細胞保護剤。 【請求項2】 前記神経細胞が、黒質のドーパミン作動性神経細胞または青斑核のノルアドレナリン作動性神経細胞である、請求項1に記載の神経細胞保護剤。 【請求項3】 アスタキサンチンおよび/またはそのエステルからなる、神経変性疾患予防剤。 【請求項4】 前記神経変性疾患が、パーキンソン病である、請求項3に記載の神経変性疾患予防剤。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、神経細胞のミトコンドリア機能障害および酸化的ストレスを軽減することが可能な、新たな神経細胞保護剤に関する。 【背景技術】 【0002】 神経変性疾患は、特定の神経細胞が変性・脱落する進行性疾患である。疾患により変性の原因は異なるが、異常なタンパク質の蓄積が共通した病理所見として報告されている。このような疾患としては、アルツハイマー病、ポリグルタミン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などが挙げられる。 【0003】 パーキンソン病は、振戦、固縮、無動、および姿勢保持反射障害を四大症候とした運動障害を主訴とする神経変性疾患である。好発年齢は、50歳代後半から60歳代であり、20歳から80歳までの発症が知られている。 【0004】 パーキンソン病の主な病因は、中脳黒質のドーパミン作動性神経細胞が変性・脱落することによって中脳黒質から大脳基底核線条体へのドーパミンによる神経伝達が不十分になり、アセチルコリンによる神経伝達が優位になることとされている。しかし、責任病巣である黒質の神経細胞変性に関するメカニズムは未だ明らかにされていない。神経細胞変性のメカニズムについては、ドーパミン細胞内においてミトコンドリア機能障害およびこれに伴う酸化的ストレスが引き起こされ、これらが悪循環を呈しながら神経細胞死を誘導するという説が最も有力である(非特許文献1)。すなわち、ミトコンドリア機能障害および酸化的ストレスが神経細胞変性の中心的メカニズムであるとされている。 【0005】 パーキンソン病の症状としては、上記の運動障害以外にも色々な障害が出現し得ることが判明している。例えば、起立性低血圧、頻尿などの自律神経症状;嗅覚低下;不眠、レム睡眠行動異常、レストレスレッグ症候群などの睡眠障害;鬱状態;知的機能障害などが挙げられる。これらの障害に対応して、病変が、末梢の自律神経、迷走神経背側運動核、嗅球、青斑核、縫線核、マイネルト基底核、扁桃体、大脳皮質にまで及ぶ症例もある。 【0006】 パーキンソン病の有病率は、人口10万人当たり約100人であり、アルツハイマー病に次いで頻度の高い神経変性疾患である。そのため、根本的な治療法の開発が期待されている。しかし、現時点では、治癒または進行を阻止する薬は存在しない。現在行われているパーキンソン病に対する治療法は、ドーパミン細胞の変性を抑制する根本療法ではなく、ドーパミン生成の不全を補正しようとする対症療法である。食事、運動、生活様式、リハビリテーション、手術などによる治療法もあるが、主として薬物療法が行われている。 【0007】 パーキンソン病における薬物療法には、以下のアプローチがある:(1)線条体で低下しているドーパミンを補給する;(2)ドーパミンの伝達を賦活する;および(3)ほぼ正常レベルにあるアセチルコリンの機能を抑制して、ドーパミン−アセチルコリン間の不均衡を平衡に近づける。 【0008】 これらのアプローチのうち、最も有効かつ一般的なアプローチは(1)であり、代表的には、レボドパ療法である。レボドパ(L−ドーパ)は、ドーパミンの前駆体であり、脳内で代謝されてドーパミンになる。(2)のアプローチに沿う薬としては、ドーパミン受容体に直接作用するドーパミンアゴニスト、ドーパミンを代謝するモノアミン酸化酵素(MAO−B)を阻害するMAO−B阻害薬、およびドーパミン放出促進薬が挙げられる。(3)のアプローチに沿う代表的な薬は、抗コリン薬である。また、これらとは別に、進行したパーキンソン病では中脳黒質にあるドーパミン細胞のみならず、橋の青斑核にあるノルアドレナリン作動性神経細胞の脱落も見られるので、これを補う薬としてドロキシドパがある。ドロキシドパはノルアドレナリンの前駆体であり、中等度以上のパーキンソン病患者に見られるすくみ足と呼ばれる歩行障害や突進現象と呼ばれる姿勢保持反射障害に対して効果がある。 【0009】 レボドパは、パーキンソン病に対する有効性が高いが、種々の副作用を併発することがあり、レボドパ療法の問題点になっている。レボドパ投与による副作用は、以下の(i)および(ii)の現象で特徴づけられる。 【0010】 (i)ウェアリング・オフ現象 長期にわたって投与を行っているうちに有効時間が短縮され、服薬後2〜3時間で急激に症状が再現する現象をいう。原因は、ドーパミン細胞が変性によりさらに減少し、脳内のレボドパがドーパミン細胞に保持されることなく、短時間のうちに他の細胞で代謝されるためと考えられている。言い換えれば、レボドパが短時間に大量のドーパミンになってドーパミン受容体に作用するため、ドーパミンの過剰作用による不随意運動(ジスキネジア)が出現する。その後は急激なドーパミン減少により無動となる。単純にレボドパ量を増加すると、症状が増悪することが多い。 【0011】 (ii)オン・オフ現象 服用期間や血中濃度に関係なく、急激に症状の軽快と増悪とが繰り返される現象をいう。レボドパの吸収・代謝過程やドーパミン受容体の感受性が変化することが原因と考えられているが、発症機序の詳細は不明である。 【0012】 このように、現在の最も一般的な薬物療法であるレボドパ療法には幾つかの問題点があり、ドーパミン細胞自体の変性を抑制する根本療法に適用可能な薬物の開発が急務である。 【0013】 抗酸化剤として知られるアスタキサンチンの投与により、脳虚血後の再潅流時にマウスの運動能力低下が抑制されるという結果が報告されている(非特許文献2)。非特許文献2では、この結果が、脳虚血により生じるフリーラジカルに対するアスタキサンチンの抗酸化作用に起因することを示唆すると解釈し、アスタキサンチンが神経細胞の保護に有効であると推論している。しかし、脳虚血によってどの神経細胞に変性が生じているか、および神経細胞が保護されているかどうかについての検証は行われていない。さらに、パーキンソン病などの神経変性疾患は、脳虚血に起因するものではないため、このような疾患に対する有効性は不明である。 【0014】 アスタキサンチンが血中の過酸化脂質を抑制することが明らかになっており、血中過酸化脂質が関与する疾患に有効であることが示唆されている(特許文献1)。この特許文献1には、血中過酸化脂質が関与する疾患として、種々の血管循環器系疾患とともにアルツハイマー病およびパーキンソン病が記載されている。しかし、血中の過酸化脂質が脳内の神経細胞に直接的に影響を及ぼすことは知られていないこと、過酸化脂質が脳血管関門を通過し得るかどうかについても不明であることなどを考慮すると、血中過酸化脂質抑制効果を有するアスタキサンチンが、本当にパーキンソン病などの神経変性疾患に有効であるかどうかは、特許文献1からは疑わしい。 【0015】 同様に、カロチノイド類似体が、反応性酸素種、反応性窒素種、ラジカルおよび/または非ラジカルの生成に関連する病気の発生を抑制しおよび/または改善することも示唆されている(特許文献2)。特許文献2では、カロチノイド類似体によって改善され得る病気としてあらゆる疾患が列挙されている。しかし、脳内の神経細胞についての変性に関しては、何ら検討されていない。そのため、特許文献1と同様に、これらの物質が本当にパーキンソン病などの神経変性疾患に有効であるかどうかは疑わしい。 【特許文献1】特開2006−8719号公報 【特許文献2】特表2006−517197号公報 【非特許文献1】P.M. Abou-Sleimanら、Nature Reviews Neuroscience, Vol.7, No.3, pp.207-219 (2006) 【非特許文献2】G. Husseinら、Biol. Pharm. Bull., Vol.28, No.1, pp.47-52 (2005) 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0016】 本発明の目的は、神経細胞のミトコンドリア機能障害および酸化的ストレスを軽減することができる、神経細胞保護剤を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0017】 本発明は、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルからなる、神経細胞保護剤を提供する。 【0018】 1つの実施態様では、上記神経細胞は、黒質のドーパミン作動性神経細胞または青斑核のノルアドレナリン作動性神経細胞である。 【0019】 本発明はまた、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルからなる、神経変性疾患予防剤を提供する。 【0020】 1つの実施態様では、上記神経変性疾患は、パーキンソン病である。 【発明の効果】 【0021】 本発明によれば、神経細胞のミトコンドリア機能障害および酸化的ストレスを軽減することができる、新たな神経細胞保護剤が提供される。ミトコンドリア機能障害および酸化的ストレスは、パーキンソン病における神経細胞変性の中心的メカニズムであると考えられているため、本発明の神経細胞保護剤は、パーキンソン病の根本療法として適用することが期待できる。そのため、この神経細胞保護剤は、神経変性疾患の予防剤として用いられ得る。本発明の神経細胞保護剤は、非常に毒性が低いため、安全性が高く、長期にわたって摂取できる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0022】 本発明の神経細胞保護剤に含まれるアスタキサンチンおよび/またはそのエステルは、以下の式: 【0023】 【化1】
【0024】 (ここで、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または脂肪酸残基である)で示されるカロテノイドの一種である。アスタキサンチンのエステルとしては、特に限定されないが、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、あるいはオレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸のモノエステルまたはジエステルが挙げられる。これらは単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。アスタキサンチンは、β−カロチンの骨格の両端にオキソ基とヒドロキシ基とを余分に有する構造であるため、β−カロチンとは異なり、分子の安定性が低い。これに対し、両端のヒドロキシ基が不飽和脂肪酸などでエステル化されたエステル体(例えば、オキアミ抽出物)はより安定である。 【0025】 本発明に用いられるアスタキサンチンおよび/またはそのエステルは、化学的に合成されたものであっても、あるいは天然物由来のもののいずれであってもよい。後者の天然物としては、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを含有する赤色酵母;ティグリオパス(赤ミジンコ)、オキアミなどの甲殻類の殻;緑藻類などの微細藻類などが挙げられる。本発明においては、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルの特性を利用できるものであれば、どのような方法で生産されたアスタキサンチンおよび/またはそのエステルを含有する抽出物をも使用することができる。一般的には、これらの天然物からの抽出物が用いられ、抽出エキスの状態であっても、また必要により適宜精製したものであってもよい。本発明においては、このようなアスタキサンチンおよび/またはそのエステルを含有する粗抽出物や破砕粉体物、あるいは必要により適宜精製されたもの、化学合成されたものを、単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。化学的安定性を考慮すると、好ましくはエステル体が用いられる。 【0026】 本発明の神経細胞保護剤は、神経細胞の進行性変性を保護し得る。神経細胞としては、例えば、中脳黒質、迷走神経背側運動核、嗅球、青斑核、縫線核、マイネルト基底核、扁桃体、大脳皮質、および末梢の自律神経に存在する細胞が挙げられる。特に、黒質のドーパミン作動性神経細胞および青斑核のノルアドレナリン作動性神経細胞に対して好適に適用される。 【0027】 本発明の神経細胞保護剤は、神経細胞変性が関与する疾患または症状を予防するのに有用であり得、神経変性疾患予防剤として用いられ得る。このような神経変性疾患としては、パーキンソン病、アルツハイマー病、および筋萎縮性側索硬化症が挙げられる。特に、パーキンソン病に対して好適に適用される。 【0028】 本発明の神経細胞保護剤または神経変性疾患予防剤の投与経路は、経口投与または非経口投与のいずれであってもよい。その剤形は、投与経路に応じて適宜選択される。例えば、注射液、輸液、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、腸溶剤、トローチ、内用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤、湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤、坐剤、経腸栄養剤などが挙げられる。これは、症状に応じてそれぞれ単独でまたは組み合わせて使用することができる。これらの製剤には、必要に応じて、賦形剤、結合剤、防腐剤、酸化安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤などの医薬の製剤技術分野において通常用いられる補助剤が用いられる。 【0029】 本発明の神経細胞保護剤または神経変性疾患予防剤の投与量は、投与の目的や投与対象者の状況(性別、年齢、体重など)に応じて異なり、神経細胞保護に有効な量でまたは神経変性疾患の予防に有効な量で投与される。通常、成人に対して、アスタキサンチンフリー体換算で、経口投与の場合、1日あたり0.1mg〜2g、好ましくは4mg〜500mg、一方、非経口投与の場合、1日あたり0.01mg〜1g、好ましくは0.1mg〜500mgで投与され得る。 【0030】 本発明の神経細胞保護剤または神経変性疾患予防剤は、上記のような医薬品としてだけでなく、医薬部外品、化粧品、機能性食品、栄養補助剤、飲食物などとして使用することができる。医薬部外品または化粧品として使用する場合、必要に応じて、医薬部外品または化粧品などの技術分野で通常用いられている種々の補助剤とともに使用され得る。あるいは、機能性食品、栄養補助剤、または飲食物として使用する場合、必要に応じて、例えば、甘味料、香辛料、調味料、防腐剤、保存料、殺菌剤、酸化防止剤などの食品に通常用いられる添加剤とともに使用してもよい。また、溶液状、懸濁液状、シロップ状、顆粒状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状などの所望の形状で、あるいは必要に応じて成形して使用してもよい。これらに含まれる割合は、特に限定されず、使用目的、使用形態、および使用量に応じて適宜選択することができる。 【実施例】 【0031】 (調製例1:MnSOD欠損マウスの作成) チロシン水酸化酵素(TH:tyrosine hydroxylase)は、L−チロシンからレボドパ(L−ドーパ)を生成するカテコールアミン生合成系の第一段階において働く酵素である。THは、その終末産物であるドーパミン、ノルアドレナリン、およびアドレナリンによってフィードバック抑制を受けるため、この生合成系における律速酵素であり、カテコールアミン、すなわちドーパミン、ノルアドレナリン、およびアドレナリンを含有する細胞に必須である。これらのTHを含む細胞をチロシン水酸化酵素陽性細胞といい、中枢神経系ではドーパミン細胞およびノルアドレナリン細胞がこれに相当する。 【0032】 生体で発生する活性酸素種(ROS)は、主に細胞内のミトコンドリアから漏出するとされており、ROSの1つであるスーパーオキサイド(O2・)をミトコンドリア内でH2O2に変換する酵素がMnSODである。したがって、このMnSOD欠損マウスは、黒質のドーパミン細胞および青斑核のノルアドレナリン細胞において特異的にMnSODが欠損していると考えられるため、スーパーオキサイドの攻撃を直に受ける。ゆえに、ミトコンドリアの機能障害が誘導されて、神経細胞の機能が侵されること、ならびに細胞死(アポトーシスまたはネクローシス)が引き起こされることが予想される。 【0033】 中枢神経系において黒質のドーパミン細胞および青斑核のノルアドレナリン細胞でMnSODを特異的に欠損させた神経変性モデル遺伝子改変マウスとして、チロシン水酸化酵素(TH)陽性細胞特異的MnSOD欠損マウスを、特許文献2に記載の方法に基づいて作成した。具体的には、まず、ホモ接合体のMnSOD floxマウス(lox/lox,+/+)とTH(tyrosine hydroxylase)プロモーターによって制御されたTH−Creトランスジェニックマウスとの交配により、TH−Creトランスジーンを持つヘテロ接合体マウス(lox/w,Cre/+)を得た。次に、このヘテロ接合体マウスとMnSOD floxマウスとを交配することによって、目的のTH陽性細胞特異的MnSOD欠損マウス(lox/lox,Cre/+)を得た。 【0034】 TH陽性細胞特異的MnSOD欠損マウス(lox/lox,Cre/+)(以下、KOマウスと表記することがある)および対照マウス(MnSOD floxマウス(lox/lox,+/+);以下、F/Fマウスと表記することがある)の選別は、ジェノタイピングによって行った。具体的には、出生直後の各マウスのテイル溶解液について、MnSOD floxアリル(lox)を認識するプライマーセット(配列番号1および2または配列番号1および3)ならびにTH−Creアリル(Cre)を認識するプライマーセット(配列番号4および5)を用いてPCRを行った後、それぞれのジェノタイプに対応して増幅される遺伝子断片を電気泳動で確認した。 【0035】 ジェノタイピングの電気泳動写真を図1に示す。図1の上の写真は、loxアリル検出プライマーを用いた場合の結果であり、そして下の写真はCreアリル検出プライマーを用いた場合の結果である。図1中のMは、分子量マーカーを示す。これらの結果から、図1の上段に示すように、F/FはMnSOD floxアリルのホモ接合体マウス、すなわちMnSOD floxマウス(lox/lox,+/+)(F/Fマウス)由来、F/WはMnSOD floxアリルのヘテロ接合体マウス由来、d/WはMnSOD欠損アリルのヘテロ接合体マウス由来、そしてd/dはMnSOD欠損アリルのホモ接合体マウス、すなわちMnSOD欠損マウス(KOマウス)由来のDNAであることが確認された。 【0036】 得られたTH陽性細胞特異的MnSOD欠損マウス(KOマウス)は、寿命、体重、行動などの指標において明らかに表現型の異常を認めた(以下の実施例1の対照群を参照のこと)。 【0037】 次に、組織特異的MnSOD欠損を確認するために、4週齢のTH陽性細胞特異的MnSOD欠損マウス(KOマウス)および対照マウス(MnSOD floxマウス(lox/lox,+/+);F/Fマウス)から脳を摘出し、凍結切片にして、TH抗体およびMnSOD抗体による免疫組織染色を行った。MnSOD抗体による免疫組織染色の結果を図2に示す。 【0038】 KOマウスは、黒質および青斑核のどちらにおいてもTH抗体に対する反応性が見られ、TH陽性細胞の細胞死は確認できなかった。しかし、図2の矢印で示す部分の比較から明らかなように、抗MnSOD染色では、青斑核におけるノルアドレナリン細胞の染色性が著しく低下していた。また、青斑核ほどではないが、黒質のドーパミン細胞でも染色性が低下していることが確認された。さらに、青斑核および黒質におけるMnSODの欠損や細胞死をより詳しく解析するために、TH抗体およびMnSOD抗体による蛍光二重免疫染色を行った。TH抗体で染色される部位とMnSOD抗体で染色される部位とが、F/Fマウスにおいては重複していたが、KOマウスにおいては、青斑核においてTHの発現とMnSODの発現とが一致していないことが明確に確認された。このことから、KOマウスでは、青斑核のノルアドレナリン細胞においては明らかにMnSODが欠損していることが示された。また、KOマウスにおいては、ノルアドレナリン細胞自体の脱落も確認された。すなわち、ノルアドレナリン細胞が活性酸素種によってミトコンドリア障害を受けている可能性が示唆された。さらに、黒質においても同様の傾向を確認することができた。上記の事象から、青斑核のノルアドレナリン細胞および黒質のドーパミン細胞が機能障害を受けていることは明らかである。 【0039】 パーキンソン病は、ドーパミン細胞およびノルアドレナリン細胞のミトコンドリアにおける機能障害と、これに伴う酸化的ストレスが原因になって発症すると考えられているので、このKOマウスは、パーキンソン病の解明とその治療薬のスクリーニングのための有用なモデル動物となり得る。 【0040】 (調製例2:アスタキサンチンの調製) アスタキサンチンを次のように調製した。ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)K0084株を、25℃にて光照射条件下で3容量%CO2を含むガスを通気しながら栄養ストレス(窒素源欠乏)をかけて培養し、シスト化した。シスト化した細胞を、当業者が通常用いる手段によって破砕し、エタノールでアスタキサンチンを含む油性画分を抽出した。抽出物を減圧濃縮してエタノールを留去し、アスタキサンチンをフリー体換算で8質量%含むトリグリセリド主体の抽出物を調製した。このアスタキサンチン含有抽出物を、以下、YAX(Yamaha AstaXanthin)と称する。 【0041】 (実施例1:アスタキサンチン投与によるKOマウスへの影響の検討) 上記調製例1で得たKOマウスにアスタキサンチンを摂取させて、体重推移、寿命、および行動についてアスタキサンチンの影響を検討した。 【0042】 アスタキサンチンとして上記調製例2で調製したYAXを用い、混餌によって投与した。すなわち、YAXを粉末飼料(CRF−1粉末:オリエンタル酵母株式会社製)に10質量%濃度になるように添加して均一になるまで混練したものを、離乳直後の時期(4週齢)から自由に摂食させた。この投与量を体重換算すると、約1,500mg/kg/日となる。対照のKOマウス群には、YAXを添加していない粉末飼料を与えた。なお、対照として、YAXを含んでいない通常食を摂取させたKOマウスの群(対照群)についても同様に観察した。 【0043】 体重は、週に1回の頻度で測定し、スチューデントのt−検定を行った。寿命は、カプラン・マイヤー法を用いて解析した。カプラン・マイヤー法の検定には、Log−rank検定を適用した。行動は、フットプリンティング・テストで解析した。フットプリンティング・テストとは、運動異常による歩行障害を評価するための手法である。具体的には、マウスの後足にインクを塗って歩行させ、残った足跡の幅を解析する。フットプリンティング・テストの検定には、スチューデントのt−検定を適用した。 【0044】 図3に、YAX群5匹および対照群10匹についてのそれぞれの体重の推移を示す。YAXを摂取していない対照群では、成長期の体重増加が鈍く、生後50日目付近から体重の減少が見られた。これに対して、YAX群では、50日目、70日目、および80日目において、対照群と比較して有意に体重が増加しており(p<0.05)、体重減少が抑制されていた。特に、50日目においては、p<0.01で有意に体重が増加しており、発育異常によって生じる低体重が、YAXの摂取により抑制されることが明らかになった。 【0045】 図4に、YAX群5匹および対照群10匹についてのそれぞれの寿命解析の結果を示す。対照群では寿命が短く、徐々に生存率が低下していた。YAX群では、寿命が有意に延長しており(p<0.05)、生存率が高い状態が延長されていた。このように、アスタキサンチンの投与は、寿命を延長するだけでなく、生存率も上昇させることがわかる。 【0046】 図5に、YAX群のKOマウス、対照群のKOマウス、およびF/Fマウス(対照マウス)の各1匹についての、約16週齢(約110日)におけるフットプリンティング・テストの結果を示す。なお、対照マウスは、通常食を摂取させたF/Fマウスである。図5のAはストライド長(歩長幅)、およびBは後肢幅(左右幅)について、それぞれ5ポイントずつ測定した平均値を示す。KOマウス(対照群)は、対照のF/Fマウスに比べて、ストライド長、すなわち歩行の際の歩長幅が明らかに小さくなっていた。一方、後肢幅は広くなっており、これは、体を足で支えにくくなったため、左右の足幅が広がったと思われる。YAX投与KOマウス(YAX群)では、ストライド長については対照群と同様であったが、後肢幅については対照群より小さくなっていることがわかる。このように、YAX投与により、パーキンソン病モデルとなり得るマウスに対して、運動異常が改善することがわかった。 【0047】 以上から、アスタキサンチンが、TH陽性細胞特異的MnSOD欠損マウスで、特にパーキンソン病において主病因とされる活性酸素種からの障害に対して、強力な神経保護作用を有することが示された。このように、アスタキサンチンを経口摂取するのみで、神経細胞保護効果が期待できることがわかった。 【産業上の利用可能性】 【0048】 本発明によれば、神経細胞のミトコンドリア機能障害および酸化的ストレスを軽減することができる、新たな神経細胞保護剤が提供される。この神経細胞保護剤は、神経変性疾患の予防剤として用いられ得る。特に、ミトコンドリア機能障害および酸化的ストレスは、パーキンソン病における神経細胞変性の中心的メカニズムであると考えられているため、本発明の神経細胞保護剤または神経変性疾患予防剤は、パーキンソン病の根本療法として適用することが期待できる。本発明の神経細胞保護剤または神経変性疾患予防剤であるアスタキサンチンおよび/またはそのエステルは食経験が長く、非常に毒性が低いため、安全性が極めて高い。したがって、医薬品として使用されるだけでなく、健康食品などとして日常的に予防的に用いられ得る。 【図面の簡単な説明】 【0049】 【図1】対照マウス(F/Fマウス)およびTH陽性細胞特異的MnSOD欠損マウス(KOマウス)の選別のためのジェノタイピングの結果を示す、電気泳動写真である。 【図2】対照マウス(F/Fマウス)およびTH陽性細胞特異的MnSOD欠損マウス(KOマウス)の青斑核を含む脳凍結切片における、MnSOD抗体による免疫組織染色の顕微鏡写真である。 【図3】YAX群および対照群のKOマウスについての体重の推移を示すグラフである。 【図4】YAX群および対照群のKOマウスについての寿命解析の結果を示すグラフである。 【図5】YAX群のKOマウス、対照群のKOマウス、およびF/Fマウス(対照マウス)の各1匹についてのフットプリンティング・テストの結果を示すグラフである。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000010076 【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社 【識別番号】594053121 【氏名又は名称】財団法人 東京都高齢者研究・福祉振興財団
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| 【出願日】 |
平成19年5月30日(2007.5.30) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100104673 【弁理士】 【氏名又は名称】南條 博道
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| 【公開番号】 |
特開2008−19242(P2008−19242A) |
| 【公開日】 |
平成20年1月31日(2008.1.31) |
| 【出願番号】 |
特願2007−143507(P2007−143507) |
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