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【発明の名称】 ユビキチンリガーゼ阻害剤
【発明者】 【氏名】二川 健

【要約】 【課題】本発明は、ユビキチンリガーゼCbl-bによるIRS-1のユビキチン化を阻害剤の提供を目的とした。

【構成】大豆グリシニン組成物を加水分解して得られる、グリシニンペプチド混合物を有効成分とする組成物を摂取することで、ユビキチンリガーゼCbl-bによるIRS-1のユビキチン化を阻害できた。筋萎縮を予防又は軽減する効果を得られる可能性がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物を有効成分とする、ユビキチンリガーゼ阻害剤。
【請求項2】
食品または医薬品である、請求項1記載のユビキチンリガーゼ阻害剤。
【請求項3】
医薬品が経口摂取用である、請求項2記載のユビキチンリガーゼ阻害剤。
【請求項4】
大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物を有効成分として用いる、ユビキチンリガーゼ阻害方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物を有効成分とする、ユビキチンリガーゼCbl-bによるIRS-1のユビキチン化阻害剤を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮とは、筋肉の不使用、負傷、老化およびある種の神経筋疾患の結果として生じる筋肉の崩壊である。特に、筋萎縮は、骨折・捻挫などによるギブス固定、寝たきり状態、宇宙活動での無重力状態により誘導される。
【0003】
骨折などにより手足などを長期間ギブス固定した後、骨折したほうが反対の手足に比べて細くなっているのは、筋肉にかかる力が減少し、筋肉が萎縮するためである。この萎縮反応は、トレーニングなどによる筋肥大に要するよりも短期間で引き起こされる傾向がある。すなわち、筋肉は不活動に対してより適応しやすいと言える。
【0004】
すべての人間に関係する筋萎縮の最も身近な例は老化であり、特に骨折などにより寝たきりになった高齢者の場合、たとえ骨折が治ったとしても筋肉が萎縮し、歩行できなくなる場合もある。
【0005】
宇宙活動すなわち無重力状態により誘導される筋萎縮は、筋肉の量的減少だけでなく、ヒトの宇宙活動に大きな影響を与える。それゆえ、長期間の宇宙滞在が可能になった現在、かならず解決しなければならない重要な問題である。
【0006】
地球上で生活する我々は常に1Gという重力を受けており、身体の諸器官はこれに耐えられるように進化の過程で変化してきた。立ったり、歩いたりといった日常生活のほとんどの動作は重力に逆らうことである。一方、寝たり、横になると体にかかる重力の影響が無くなり、擬似的に無重力状態になったともいえる。長期にわたる寝たきり状態は、体力を著しく低下させ、健康に大きな弊害をもたらし、時にはその弊害が生命をも脅かす。
【0007】
微小重力下での筋萎縮は、速筋、遅筋の両者に見られるが、抗重力筋である遅筋に著しく見られる(非特許文献1、2)。この筋萎縮は長期的には筋蛋白質分解の亢進による。骨格筋には3つの主要な分解系(ユビキチン-プロテアソーム系、カルシウム・カルパイン系、リソソーム系)が存在し、微小重力下での骨格筋では、ユビキチン-プロテアソーム蛋白質分解系が亢進している(非特許文献3)。
【0008】
ユビキチン-プロテアソームシステムは、蛋白質の翻訳後修飾をつかさどるユビキチンシステムと蛋白質分解をつかさどるプロテアソームシステムからなり、細胞内の不要になった蛋白質や、ある特定のステージで壊れるべき蛋白質を高精度に見極めて分解除去する。
【0009】
ユビキチンは蛋白質分解のマーカー分子である。ユビキチンはC末端のグリシン残基を介して標的蛋白質の特定のリジン残基のε-アミノ基とイソペプチド結合し、さらにユビキチン分子内のリジン残基との重合反応を繰り返してポリユビキチン鎖が形成されると、これが蛋白質の分解シグナルとなる。この翻訳修飾反応はE1(活性化酵素),E2(結合酵素),E3(連結酵素)から構成された複合酵素系(ユビキチンシステム)で触媒される(非特許文献4)。E1によるユビキチンの活性化にはATPが消費される。E2は単独でユビキチンを蛋白質に結合させることができる酵素として発見されたが、多くの場合にはE3を必要とし、この場合にはE2は転移酵素として作用する。E3(別称:ユビキチンリガーゼ)は活性化されたユビキチンを標的蛋白質に受け渡すことができるために、基質の代謝安定性を規定する律速酵素と考えられている。E3が蛋白質を補足する機構としてはリン酸化,酸化,水酸化などによる基質蛋白質の修飾がシグナルとなる場合や、糖鎖付加がマーカーとなる場合もある。また、分子シャペロンや特異的なアダプター分子が基質の選別に働く場合もあり、その識別機構は多種多様である。
【0010】
筋萎縮を仲介するユビキチンリガーゼとしてMuRF-1やAtrogin-1が知られており、その発現はインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1;IGF-1)により調節されている。
【0011】
IGF-1は細胞膜上にあるIGF-1受容体(IGF-1R)と結合し骨格筋などの標的組織に作用する。IGF-1がIGF-1Rに結合した後のシグナルは、レセプターチロシンキナーゼの基質であるIRS-1(insulin receptor substrate)を介し、Aktキナーゼにより転写因子であるFoxoをリン酸化する。リン酸化されたFoxoは細胞質内に留まり、核内に移行することはないが、このシグナルが長期に断たれてしまうと、Foxoが脱リン酸化され核内に移行し、筋ユビキチンリガーゼMuRF-1やAtrogin-1の転写を亢進する。それにより筋細胞の萎縮が進行する。
【0012】
一方、ユビキチンリガーゼCbl-bは、E2からユビキチンを直接標的蛋白質に付加させるRING型ユビキチンリガーゼである。Cbl-bはIRS-1の分解を亢進することで、IGF-1のシグナル伝達を阻害し、寝たきりによる運動器(骨、筋)萎縮を引き起こす(非特許文献6)。
【0013】
よって、この分解経路を制御することで、筋萎縮の予防又は軽減ができる。しかしながら、ユビキチンリガーゼの阻害剤は、従来知られておらず、文献も皆無である。一方、分解の最終段階であるプロテアソームの阻害剤は公知であるが、プロテアソーム阻害剤は非常に毒性が強く、癌末期などの治療薬としてしか実用化されていない。経口摂取できる安全性の高いユビキチンリガーゼ阻害剤を得ることができれば、骨格筋内のユビキチン依存性蛋白質分解経路を制御し、筋肉の代謝を改善することで、筋萎縮の予防又は軽減効果を得られる可能性がある。
【0014】
ところで、大豆蛋白質は、動物性蛋白質に匹敵する良質蛋白質供給源である。大豆可溶性蛋白質は、pH4.5付近で沈殿し比較的簡単に分離できる、貯蔵蛋白質が主体の酸沈殿性蛋白質画分と、貯蔵蛋白質以外の可溶性成分が主体の、酸可溶性蛋白質画分に分けることができる。この酸沈殿性蛋白質画分を回収したものが分離大豆蛋白質であり、現在広く食品工業に利用されている。
【0015】
分離大豆蛋白質を構成する蛋白質は、大豆の主要貯蔵蛋白質であるβ-コングリシニン(7Sグロブリン)とグリシニン(11Sグロブリン)、そして、細胞膜をはじめプロテインボディーやオイルボディー等の膜を構成する極性脂質との親和性の高い雑多な蛋白質(以降「脂質親和性蛋白質」(Lipophilic Proteins)として、「LP」と略記することがある)がある(非特許文献7)。
【0016】
一方、大豆蛋白質を加水分解して得られるペプチド混合物(以降、大豆ペプチドとして略記することがある)の生理機能として、アンジオテンシンI・変換酵素(ACE)の阻害活性が知られている(非特許文献8)。ACEの活性阻害剤は、本態性高血圧の有効な治療薬であり、天然食品成分由来の大豆ペプチドは副作用が少なく、長期間連用し得る安全な抗高血圧性飲食品となりうる。
【0017】
一方、大豆ペプチドのユビキチンリガーゼ活性阻害効果については、従来知られておらず、文献も皆無である。
【0018】
【非特許文献1】Ilyina-Kakueua, E.I. et al.: Space flight effects on the skeletal muscles of rats. Aviat. Space Environ. Med., 47: 700-703, 1976
【非特許文献2】Musacchia, X.J. et al. :Skeletal muscle atrophy in response to 14 days of weightlessness: vastus medialis. J. Appl. Physiol., 73: 44S-50S, 1992
【非特許文献3】Ilemoto, M. et al.: Space shuttle flight (STS-90) enhance degradation of rat myosin heavy chain in association with activation of ubiquitin-proteasome pathway. FASEB J., 15: 1279-1281, 2001
【非特許文献4】Pickart, C.M.: Mechanisms underlying ubiquitination. Ann. Rev. Biochem., 70: 503-533, 2001
【非特許文献5】Frost, R.A., Lang, C.H.: Regulation of insulin-like growth factor-I in skeletal muscle and muscle cells. Minerva Endocrinol 28: 53-73, 2003
【非特許文献6】二川健 et al.: Unloading による筋・骨萎縮におけるユビキチン・システムの重要性:ユビキチンリガーゼの結合タンパク質の解析を中心に. 第27回 日本分子生物学会年会、神戸、2004. 発表抄録集 p.372.
【非特許文献7】Herman, E.M.: Immunogold localization and synthesis of an oil-body membrane protein in developing soybean seeds. Planta 172: 336-345, 1987
【非特許文献8】Lo, W.M., Li-Chan, E.C.: Angiotensin I converting enzyme inhibitory peptides from in vitro pepsin-pancreatin digestion of soy protein. J. Agric. Food Chem., 53: 3369-3376, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、ユビキチンリガーゼ阻害剤の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、試験管内でユビキチンリガーゼCbl-bによるIRS-1のユビキチン化反応系を再構築し、大豆蛋白質及び大豆蛋白質の構成物であるβ-コングリシニン組成物,グリシニン組成物,LP組成物を加水分解して得たペプチド混合物を添加し、ユビキチンリガーゼCbl-bによるIRS-1のユビキチン化阻害活性を測定した。その結果、グリシニン組成物を加水分解して得たペプチド混合物に強いユビキチン化阻害活性を見出し本発明を完成するに到った。
即ち、本発明は、
(1)大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物を有効成分とする、ユビキチンリガーゼ阻害剤。
(2)食品または医薬品である、(1)記載のユビキチンリガーゼ阻害剤。
(3)医薬品が経口摂取用である、(2)記載のユビキチンリガーゼ阻害剤。
(4)大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物を有効成分として用いる、ユビキチンリガーゼ阻害方法。
である。
【発明の効果】
【0021】
本発明である、大豆グリシニン組成物を加水分解して得たペプチド混合物を用いることで、ユビキチンリガーゼCbl-bによるIRS-1のユビキチン化阻害を行う事ができた。これにより、骨格筋内のユビキチン依存性蛋白質分解経路を制御し、筋肉の代謝を改善することで、筋萎縮の予防又は軽減効果を得られる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
まず、大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物について説明する。該グリシニン組成物は公知の方法によりβ-コングリシニンとグリシニンを含む通常の分離大豆蛋白質や豆乳からグリシニンを分画して得ることができる。
【0023】
例えば、Thanh & Okubo & Shibasaki, Isolation and Characterization of the Multiple 7S Globulins of Soybean Proteins. Plant Physiol. 56, 19-22(1975)、Thanh, V. H. and Shibasaki, K., Major proteins of soybean seeds. A straightforward fractionation and their characterization. J. Agric. Food Chem., 24, 1117- 1121 (1976)、及び、Nagano, T., Hirotsuka, M., Mori, H., Kohyama, K. and Nishinari, K., Dynamic viscoelastic study on the gelation of 7S globulin from soybeans. J. Agric. Food Chem., 40, 941-944(1982)等の方法に従って行なうことができる。
【0024】
あるいは、酸沈殿性大豆蛋白質の内、β-コングリシニンとグリシニンが選択的に低変性の状態となっている、PDIが40以上80未満であって、含まれる蛋白質のうちLPが選択的に水不溶化された加工大豆若しくは加工脱脂大豆を原料に用いることができる。該大豆から、水やアルカリ水溶液などの水系溶媒で抽出し、遠心分離により豆乳とオカラに分離して、可溶性画分を回収する。得られた豆乳に還元剤、例えば亜硫酸水素ナトリウムを0.01〜0.1%程度添加し、pH5.2〜6.4に調整し、生成する不溶性画分をグリシニン組成物として回収することができる。この際、上澄をpH4〜5.5に調整し40〜65℃で加熱後、pHを5.3〜5.7に調整することで、LP組成物を不溶物として回収し、更に酸でpH4〜5に調整し、β-コングリシニン組成物を不溶物として回収することができる。
【0025】
尚、「PDI」は蛋白質分散性指数(Protein Dispersibility Index)の略であり、AOCS公式法(Ba10-65)として記載されている、大豆製品中の溶解分散する(Dispersible)蛋白質を一定条件下で測定することにより得られる指数である。
【0026】
若しくは、遺伝的にβ-コングリシニンを欠損させたβ-コングリシニン欠損大豆から、公知な方法で抽出して得ることもできる。
【0027】
このようにして得られたグリシニン組成物の純度測定法は、一般的な蛋白質組成の測定方法であるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)後、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色し、検出されたすべての蛋白質をデンシトメーターにより測定し、全蛋白質に対するグリシニンの割合として算出する。なお、大豆グリシニン組成物中のグリシニン純度は50重量%以上、好ましくは80重量%以上であることが望ましい。50重量%未満の純度では、筋萎縮の予防又は低減効果が発揮できない。
【0028】
このようにして調製した大豆グリシニン組成物は、抽出液のまま、或いは乾燥物とした上で再度水溶液として、以下の分解を行なうことができる。分解は、上記グリシニン組成物スラリーまたは水溶液を基質とし、酸分解またはプロテアーゼによる酵素分解が選択できるが、遊離アミノ酸や反応による不溶化物を過剰に作らず、ペプチド収率が高い点から、プロテアーゼ処理が好ましい。ここで用いるプロテアーゼは、プロテアーゼの分類において「金属プロテアーゼ」,「酸性プロテアーゼ」,「チオールプロテアーゼ」,「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼの中から、1種類以上、好ましくは2種類以上、さらに好ましくは3種類以上の異なった分類に属する酵素を、順次もしくは同時に作用させることができる。
【0029】
このプロテアーゼの分類は、酵素化学の分野に於て通常行なわれている、活性中心のアミノ酸の種類による分類方法であり、各々の代表として「金属プロテアーゼ」にはBacillus中性プロテイナーゼ,Streptomyces中性プロテイナーゼ,Aspergillus中性プロテイナーゼ,サモアーゼ等、「酸性プロテアーゼ」にはペプシン,Aspergillus酸性プロテイナーゼ,スミチームAP等、「チオールプロテアーゼ」にはブロメライン,パパイン等、「セリンプロテアーゼ」にはトリプシン,キモトリプシン,ズブチリシン,Streptomycesアルカリプロテイナーゼ,Aspergillusアルカリプロテイナーゼ,アルカラーゼ,ビオプラーゼ等が挙げられるが、これ以外の酵素でも作用pHや阻害剤との反応性により、その分類を確認することができる。活性中心が異なる酵素間では、基質への作用部位が大きく異なる為に、「切れ残り」を減らし、効率よくペプチド混合物を得ることができる様になる。
【0030】
或いは異なった起源(起源生物)の酵素を併用することで、更に効率良くペプチド混合物を製造することができる。2種以上、好ましくは3種以上の異なった起源の酵素を、順次もしくは同時に作用させることができる。また、2種以上の分類の異なる酵素に、同分類で起源の異なる酵素を1種以上併用することも製造効率の点で好ましい。
【0031】
これらプロテアーゼはエキソ活性が少ないものが好ましい。また、粗酵素や酵素製剤は複数種のプロテアーゼを含んでいる場合があるが、この際は実質的な活性を示すプロテアーゼが、それぞれ別々に存在するものとして扱うことができる。またそれぞれのプロテアーゼは活性中心や起源により分類することができる。
【0032】
反応pHや反応温度は、それぞれのプロテアーゼの至適条件、或いは活性の得られる条件であり、特に2種以上のプロテアーゼを同時に用いる際は、共に活性が得られる条件を選択する。通常反応pHや反応温度は各々の酵素の至適pH,至適温度付近である。反応時間もpHや温度により変化するので特には限定しないが、概ね5分〜24時間が適当である。反応後、反応液は60℃〜100℃で加熱することで残存酵素活性を失活させる。
【0033】
反応液はそのまま乾燥を行なうこともできるし、任意のpHに調整することもでき、またpH調整時に発生する沈澱物や懸濁物を遠心分離や濾過等により除去することもできる。また、この後に活性炭や吸着樹脂により、精製を行なうこともできる。
【0034】
大豆グリシニン組成物の分解の程度は、使用する酵素の種類や反応条件等の影響を受けるために一概には規定できないが、分解の下限としては、例えば15%トリクロロ酢酸(TCA)可溶率として、概ね20%以上が適当であり、50%以上が更に好ましい。15%TCA可溶率は、1重量%濃度の試料水溶液に、30重量%のTCA水溶液を等量添加し、3,000rpm,10分間遠心分離する。得られた上澄中の窒素をケルダール法にて測定し、別途ケルダール法にて測定した試料中窒素に対する割合として算出する。
【0035】
分解程度の上限については、例えば遊離アミノ酸含量として測定することができる。概ね50%以下が適当であり、20%以下が更に好ましい。遊離アミノ酸含量の測定は種々の方法があるが、アミノ酸分析機によって遊離アミノ酸を直接測る方法,ゲル濾過により最低分子量画分である遊離アミノ酸量を測定する方法,ニンヒドリンで発色する方法等が挙げられる。
【0036】
この様にして得られた、大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物には、その中にユビキンリガーゼに対して強い阻害活性を有するオリゴペプチドを含むために、ユビキチンリガーゼ阻害剤として使用することができる。
【0037】
本発明のユビキチンリガーゼ阻害剤は、前記ペプチド混合物を有効成分として食品または医薬品とすることができる。例えば、錠剤,粉末状,顆粒状,固形状,流動物状,液状等の形態とすることができる。
【0038】
本発明の阻害剤が食品の場合は、飲料のような液体食品やプロテインバーのような固形食品とすることができる。また一般の食品に本発明の前記ペプチド混合物を混合して食することもできる。即ち、大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物のみからなる食品でもよく、大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物以外の成分を含む商品でもよい。
【0039】
その他にも例えば、いわゆる栄養補助食品(サプリメント)として、大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物を含む錠剤,顆粒剤,散剤,ドリンク剤等を挙げることができる。
【0040】
また、本発明の阻害剤が医薬品として投与される場合は、大豆グリシニン組成物を加水分解して得られるペプチド混合物である有効成分を単独で、又は薬学的に許容される担体と混合して各種の投与形態に調製して投与することができる。いずれの場合もこれらは適当な薬学的に許容される担体を用いて通常の方法に従い製剤化できる。ここで用いられる担体としては通常の薬剤に汎用される各種のもの、例えば充填剤,結合剤,崩壊剤,界面活性剤,滑沢剤等の希釈剤乃至賦形剤等を例示できる。投与形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択できるが、例えば経口的投与の場合には、錠剤,丸剤,散剤,液剤,懸濁剤,乳剤,顆粒剤,硬カプセル剤,軟カプセル剤,ドリンク剤,シロップ剤等の形態で投与できる。簡易性の点から経口的投与が望ましい。
【0041】
本発明に関わる食品および医薬品を、ヒトを対象として用いる場合、その使用量は特に限定しないが、例えば1日1人当り、100mg〜20g程度が例示できる。また、本発明に関わる食品および医薬品はヒトを対象とするものであることはいうまでもないが、ヒトに限定されるものではなく、広く動物全般を対象とすることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の有効性を実施例と共に示すが、これらの例示によって本発明の技術思想が限定されるものではない。尚、例中の%は特に断らない限り重量基準を意味するものとする。
【0043】
[製造例1]大豆グリシニン組成物
脱脂大豆(PDI:83、水分7.0%)1kgを相対湿度90%以上の雰囲気下で脱脂大豆の品温が75℃になるように密閉容器の外側を加熱し、30分維持した。容器から脱脂大豆を取り出し、加工脱脂大豆を調製した。このPDIは73であった。加工脱脂大豆1部を水8部に溶解し、水酸化ナトリウムでpH8.0に調整した。攪拌下で1時間抽出を行い、オカラを遠心分離で除いて脱脂豆乳を得た。得られた脱脂豆乳に0.01%になるように亜硫酸水素ナトリウムを加え、硫酸でpHを5.8に調整し、遠心分離で沈殿物を回収し、水酸化ナトリウムで中和後、高温殺菌及び噴霧乾燥を行って大豆グリシニン組成物を得た。また、上澄は比較製造例1の原料とした。なお、大豆グリシニン組成物中のグリシニンの純度は、90%であった。
【0044】
[製造例2]グリシニンペプチド
製造例1で調製した大豆グリシニン組成物を基質にして、以下の方法に従いペプチドを調製した。すなわち、大豆グリシニン組成物の8%溶液に対し、サモアーゼ(起源;Bacillus thermoproteolyticus, 金属プロテアーゼ, 大和化成)を対蛋白質あたり2%加え、pH9.0, 58℃で60分間作用させた。次にビオプラーゼ(起源;Bacillus sp. セリンプロテアーゼ, ナガセケムテック)を対蛋白質あたり1%加え、pH7.5,58℃で60分作用させた。スミチームFP(起源;Aspergillus sp., 金属プロテアーゼ,新日本化学工業)を対蛋白質あたり1%加え、pH7.5,58%で60分作用させた。以上の処理の後、90℃, 20分で反応を停止させた。得られたグリシニンペプチドの15%TCA可溶率は93%であった。また、アミノ酸分析機を用いて測定した遊離アミノ酸含量は、8.2%であった。
【0045】
[比較製造例1]β-コングリシニンペプチド,LPペプチド
製造例1の上清を硫酸でpHを5.0に調整し、55℃で15分加温した後、水酸化ナトリウムでpHを5.5に調整し、遠心分離後、沈殿物であるLP組成物を回収した。上清を硫酸でpH4.5に調整し、遠心分離後、沈殿物であるβ-コングリシニン組成物を回収した。各分画物は水酸化ナトリウムで中和後、高温殺菌及び噴霧乾燥を行った。このようにして調製したβ-コングリシニン組成物、LP組成物を基質にして、製造例2の方法に従い、β-コングリシニンペプチド、LPペプチドを調製した。得られたβ-コングリシニンペプチド,LPペプチドの15%TCA可溶率は、それぞれ91%,93%であった。
【0046】
[比較製造例2]分離大豆蛋白質ペプチド
脱脂大豆に15重量倍の水を加え、水酸化ナトリウムで中性にpHを調整し、攪拌抽出したあと豆乳を塩酸でpH4.8にして大豆蛋白質を沈殿させ、遠心分離後、沈殿物である大豆蛋白質を回収した。水酸化ナトリウムで中和後、高温殺菌及び噴霧乾燥を行って、分離大豆蛋白質を得た。なお、分離大豆蛋白質中の、グリシニンの純度は、35%であった。このようにして調製した分離大豆蛋白質を基質にして、製造例2の方法に従い、分離大豆蛋白質ペプチドを調製した。得られた分離大豆蛋白質ペプチドの15%TCA可溶率は、93%であった。
【0047】
[製造例3]大豆グリシニンペプチド
脱脂大豆1部を水10部に溶解し、水酸化ナトリウムでpH7.0に調整した。攪拌下で1時間抽出を行い、オカラを遠心分離で除いて脱脂豆乳を得た。得られた脱脂豆乳に0.1%の亜硫酸水素ナトリウムを加え、塩酸でpH6.4とした。脱脂豆乳を2〜5℃で6時間静置し、遠心分離で沈殿物を回収し、水酸化ナトリウムで中和後、高温殺菌及び噴霧乾燥を行って大豆グリシニン組成物を得た。なお、グリシニンの純度は、95%であった。このようにして調製したグリシニン組成物を基質にして、製造例2の方法に従いペプチドを調製した。
【0048】
[試験例]
○Cbl-bとIRS-1の精製
Heck293細胞を直径10cmのディッシュ2枚に培養した。それぞれにCbl-bとIRS-1の遺伝子を含むプラスミドを導入し、Cbl-bとIRS-1を強発現させ、それぞれの抗体による免疫沈降により精製した。
【0049】
○Cbl-bによるIRS-1のユビキチン化のCell free系での再構築
精製したユビキチン化システムの各成分(E1,E2,E3(Cbl-b),ユビキチン)に基質であるIRS-1を加え、37℃で4時間反応させた。
【0050】
○ペプチド混合物によるCbl-bのユビキチンリガーゼ活性阻害測定
上記反応系に、製造例2および比較製造例1〜2で調製したペプチド混合物を終濃度5μg/μlなるように加え、反応終了後、SDS-PAGEに供した。CBB染色後、ユビキチン化されたIRS-1の割合をデンシトメーターにより測定した。
【0051】
○(結果)
図1に示すように、試験管内で再構築されたCbl-bによるIRS-1のユビキチン化において、反応系にグリシニンペプチドを加えた場合、IRS-1のユビキチン化を強く阻害することが確認された(図1,レーン6)。β-コングリシニンペプチドも阻害活性を有していたが、軽度であった(図1,レーン5)。一方、グリシニン含量の低い、分離大豆蛋白質及びLPを加水分解して得られたペプチド混合物では、阻害効果は殆ど見られなかった(図1,レーン3,4)。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のユビキチンリガーゼCbl-bによるIRS-1のユビキチン化を阻害効果を有するペプチド混合物は、筋萎縮を予防又は軽減する効果を有する食品素材,食品若しくは医薬品として実施できる可能性がある。将来的には、食品産業や医薬品産業において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ペプチド混合物によるIRS-1のユビキチン化阻害効果を分析した図であって、精製したユビキチン化システムの各成分と基質(IRS-1)を反応させ、SDS-PAGE後、膜に転写し、IRS-1の抗体でウエスタンブロット解析を行った図である。レーン1. ペプチド,E1,E2なし(ネガティブコントロール)レーン2. ペプチドなし(コントロール)レーン3. 分離大豆蛋白質ペプチド混合物を含むレーン4. LPペプチドを含むレーン5. β-コングリシニン(7S)ペプチドを含むレーン6. グリシニン(11S)ペプチドを含む
【0054】
【図2】図1に示される各レーンのユビキチン化されたIRS-1の割合をデンシトメーターにより測定したグラフである。ユビキチン化酵素(E1,E2)を加えていないレーン1を基準とした相対値で示した。
【出願人】 【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油株式会社
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
【出願日】 平成18年7月5日(2006.7.5)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−13468(P2008−13468A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2006−185089(P2006−185089)