| 【発明の名称】 |
閉鎖小胞の分離方法、製剤の製造方法および評価方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】吉野 敬亮
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| 【要約】 |
【課題】膜修飾された閉鎖小胞の分離方法、精製された製剤の製造方法および製剤の評価方法の提供。制御された所望の親水性高分子修飾率を有する閉鎖小胞の提供。
【構成】溶離液のイオン強度を経時的に変化させる濃度勾配を適用するイオン交換クロマトグラフィーにより膜修飾率の異なる閉鎖小胞を分離する、親水性高分子で膜修飾された閉鎖小胞の分離方法。該分離方法を閉鎖小胞の精製工程に利用する、所望の親水性高分子修飾率に精製された閉鎖小胞の製造方法。制御された所望の親水性高分子修飾率を有する閉鎖小胞、好ましくはリポソーム。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶離液のイオン強度を経時的に変化させる濃度勾配を適用するイオン交換クロマトグラフィーを用いて膜修飾率の異なる閉鎖小胞を分離する、親水性高分子で膜修飾された閉鎖小胞の分離方法。 【請求項2】 前記親水性高分子がポリエチレングリコールであり、前記閉鎖小胞がリポソームである請求項1に記載の分離方法。 【請求項3】 前記イオン強度がNaClのイオン強度である請求項1または2に記載の分離方法。 【請求項4】 前記イオン交換クロマトグラフィーが弱陰イオン交換クロマトグラフィーである請求項1〜3のいずれかに記載の分離方法。 【請求項5】 前記溶離液が緩衝剤を含むpH6〜10の水性溶媒である請求項4に記載の分離方法。 【請求項6】 前記閉鎖小胞が、該閉鎖小胞内に薬物を含む製剤である請求項1〜5のいずれかに記載の分離方法。 【請求項7】 親水性高分子で膜修飾された閉鎖小胞を準備し、 該閉鎖小胞を請求項1〜6のいずかの分離方法により、前記閉鎖小胞を前記親水性高分子の膜修飾率に応じて分離し、 所望の親水性高分子修飾率を有する閉鎖小胞を回収することより精製された閉鎖小胞を得る、閉鎖小胞の製造方法。 【請求項8】 前記膜修飾された閉鎖小胞がポリエチレングリコールで膜修飾されたリポソームである請求項7に記載の製造方法。 【請求項9】 閉鎖小胞の膜脂質に対する親水性高分子の修飾率が0.5mol%未満のものを含まない、親水性高分子で膜の外表面が修飾された閉鎖小胞。 【請求項10】 前記親水性高分子がポリエチレングリコールであり、前記閉鎖小胞がリポソームである請求項9に記載の閉鎖小胞。 【請求項11】 前記閉鎖小胞が内部に薬物を含む製剤である請求項9または10に記載の閉鎖小胞。 【請求項12】 請求項1〜6のいずれかに記載の分離方法を用いる、親水性高分子で膜修飾されかつ内部に薬物を含む閉鎖小胞の製剤を親水性高分子修飾率に基づき評価する方法。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、膜修飾された閉鎖小胞の分離方法、該分離方法を用いる精製された製剤の製造方法、制御された所望の親水性高分子修飾率を有する閉鎖小胞および製剤の評価方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、薬物を安全にかつ効率よく目的病巣部位に送達・分布させるドラッグデリバリーシステム(DDS)が盛んに研究されている。その方法のひとつとして、リポソーム、エマルジョン、リピッドマイクロスフェア、ナノパーテイクルなどの閉鎖小胞を薬物運搬体(担体)に利用することが検討されている。閉鎖小胞を用いるDDSの実用化に際しては克服すべき様々な課題がある。中でも、薬物を標的部位に送達させるためには、閉鎖小胞の生体側の異物認識機構からの回避および体内動態の制御、たとえば血液中のオプソニン蛋白質や血しょう蛋白質などとの相互作用(吸着)による凝集を防止し、肝臓、脾臓等の細網内皮系組織(RES)での捕捉を回避することが重要である。すなわち、閉鎖小胞の血中安定性(血中滞留性)が重要である。 【0003】 血中滞留性とは、薬物が血液中に存在する性質であり、血中滞留性を向上させれば、より少ない量での薬物投与が可能である。閉鎖小胞の血中滞留性を高めれば、腫瘍組織や炎症部位などの血管透過性が亢進した組織への受動的な集積が可能と考えられ、その結果、標的部位に高い選択性で到達させることが可能と考えられる。 【0004】 この課題を解決する方法として、閉鎖小胞を形成する膜を親水性高分子により修飾する技術が知られている。親水性高分子で表面修飾された閉鎖小胞は、血漿中のオプソニンタンパク質などが表面に吸着するのを防止してその血中安定性を高め、RESでの捕捉を回避することが可能となる。特にリン脂質からなる膜で形成されるリポソームでは、親水性高分子による膜修飾により血中滞留性が向上することが確かめられており、このような形態のリポソーム製剤の実用化が進められている(特許文献1〜3および非特許文献1〜3参照)。親水性高分子として、低毒性で、医薬品の安定化および体内動態の改善に広く応用されているポリエチレングリコール(以下、「PEG」とも表記)で膜修飾したリポソームは、各種薬物について製剤化が実現している。 【0005】 上記のような親水性高分子による閉鎖小胞膜修飾技術において、親水性高分子の修飾量およびその膜表面分布状態は、製剤の機能、すなわち製剤の血中滞留性および物理化学的安定性に係る重要な因子となる。特に、低毒性の確認されている親水性高分子であっても生体内への投与を考慮すれば少ないことが望ましく、また過度の膜修飾は膜の不安定化を起こしやすいため、期待される血中滞留性以前に、製剤の不良品化による製造コストの観点からも好ましくない。これら観点から、製剤における親水性高分子による修飾は必要最小量での実施が望まれる。 【0006】 従来、このような親水性高分子による修飾は、通常、仕込み量に基づいて論議されている。閉鎖小胞の膜修飾処理において、親水性高分子の導入量は、その仕込み量から、修飾処理後の除去処理で除去されなかった量を定量して求めるのが一般的である。 実際に導入されたミセルに組み込まれた水溶性高分子物質を直接分析する方法も提案されており、界面活性剤を含有する水性溶媒などで膜(ミセル)自体を可溶化した後、ゲルろ過クロマトグラフィーで分析する方法が提案されている(特許文献4参照)。 【0007】 また、ナノサイズ粒子の表面状態の理化学的分析としては、従来、粒子径、Zeta電位の測定などである。さらに、界面電気化学的手法により測定した、リポソーム膜表面に形成された固定水層厚さ(Fixed Aquaous Layer Thickness:FALT)、Aquaous Two-Phase System(水性二相分離)によりリポソーム膜表面におけるPEG分子の状態を推測し、これによりPEG修飾と血中滞留性増大との相関性についても言及することが報告されている(非特許文献5〜7参照)。 【0008】 【特許文献1】特表平5−505173号公報 【特許文献2】特公平7−20857号公報 【特許文献3】特許第2667051号公報 【特許文献4】特開平10−142214号公報 【非特許文献1】D.D. Lasic著「LIPOSOMES from Physics to Applications」,Elsevier,1993 【非特許文献2】Martin C.Woodle, Gerrit Storm編「Long Circulating Liposomes:Old Drugs, New Therapeutics」,Springer,1997 【非特許文献3】D.D.Lasic, D.Papahadjopoulos編「Medical Applications of LIPOSOMES」,Elsevier,1998 【非特許文献4】Yasuyuki Sadzuka編「Effects of mixed polyethleneglycol modification on fixed aqueous layer thickness and antitumor activity of Doxorubicin containing liposome」238, 2002, 171-180 【非特許文献5】Gregory Gregoriadis編「Liposome Technology 2nd Edition VolumeI」,1992 【非特許文献6】寺田弘編「ライフサイエンスにおけるリポソーム」,シュプリンガー・フェアラーク東京,1992 【非特許文献7】Colin Tilcock, Pieter Cullis, Tomas Dempsey, B.B.A 979(1989),208-214 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 上記のように閉鎖小胞の膜修飾は、必要最小量の親水性高分子での修飾が望まれ、特に閉鎖小胞膜外表面への必要最小量での均質な膜修飾が望まれる。すなわち、製剤全体でのバラツキが小さく、親水性高分子含有量として分析される平均値がほぼ閉鎖小胞粒子個々の含有量とみなせるものであれば、親水性高分子による効果をもっとも効率的に発現できると期待できる。特に平均値に対するバラツキが大きい場合には、全体平均でみれば所望の含有率であっても、親水性高分子を期待される量で含まない閉鎖小胞粒子が存在したり、あるいは反対に医薬的観点からみて不適切な過剰量で含む閉鎖小胞粒子が存在する可能性が高い。このため、閉鎖小胞製剤粒子個々についての親水性高分子による修飾状態を分析し得る方法が望まれ、またこれにより実際に有効な親水性高分子の修飾率を把握することが望まれる。しかしながら、上記従来の方法により測定される親水性高分子の修飾量は、いずれも測定サンプル全体での平均値として得られ、これら方法では、測定サンプル中の個々の閉鎖小胞に基づく修飾量は得られない。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明者は、上記に鑑みて、制御された所望の親水性高分子修飾率を有する閉鎖小胞を得るために、閉鎖小胞の外表面における親水性高分子修飾状態の違いを分析する方法を確立すべく検討を行ったところ、イオン交換クロマトグラフィーに溶離液のイオン強度を経時的に変化させる濃度勾配を適用することによって、親水性高分子の修飾率に応じて閉鎖小胞を分離できるという知見を得た。この閉鎖小胞は薬物を封入した製剤であってもよい。この分離方法であれば、これを製造プロセスに適用することにより所望の親水性高分子修飾率での均一性の高い閉鎖小胞(もしくは製剤)を得ることが可能であることに想到した。たとえば、準備した閉鎖小胞(製剤)の精製手段として、上記分離方法を直接実施することにより、あるいは閉鎖小胞(製剤)の分析方法として上記分離方法を適用し、その分析データを製造工程にフィードバックして製造条件を調整することにより、分布が狭く、所望の親水性高分子修飾率を高い均一性で有する閉鎖小胞(製剤)を製造することができる。 【0011】 さらに、上記分離方法により得られるクロマトグラムと、各親水性高分子修飾率の製剤に対応する別途に求めた血中持続性効果などとの対比により、製剤の親水性高分子修飾率と効果との相関関係を知ることができる。 親水性高分子で修飾された閉鎖小胞について、親水性高分子の修飾状態を直接分析する方法は知られていない。特に、閉鎖小胞をそのままで膜外表面の状態の違いによって分離することは報告されていない。したがって上記課題を解決するものとして以下のような本発明を提供する。 【0012】 (1)溶離液のイオン強度を経時的に変化させる濃度勾配を適用するイオン交換クロマトグラフィーを用いて膜修飾率の異なる閉鎖小胞を分離する、親水性高分子で膜修飾された閉鎖小胞の分離方法。 (2)親水性高分子がポリエチレングリコールであり、閉鎖小胞がリポソームである上記(1)の分離方法。 (3)イオン強度がNaClのイオン強度である上記(1)または(2)の分離方法。 (4)イオン交換クロマトグラフィーが弱陰イオン交換クロマトグラフィーである上記(1)〜(3)のいずれかの分離方法。 (5)溶離液が緩衝剤を含むpH6〜10の水性溶媒である上記(4)の分離方法。 (6)閉鎖小胞が、該閉鎖小胞内に薬物を含む製剤である上記(1)〜(5)のいずれかの分離方法。 【0013】 (7)親水性高分子で膜修飾された閉鎖小胞を準備し、 該閉鎖小胞を請求項1〜6のいずかの分離方法により、前記閉鎖小胞を前記親水性高分子の膜修飾率に応じて分離し、 所望の親水性高分子修飾率を有する閉鎖小胞を回収することより精製された閉鎖小胞を得る、閉鎖小胞の製造方法。 (8)前記膜修飾された閉鎖小胞がポリエチレングリコールで膜修飾されたリポソームである上記(7)に記載の製造方法。 (9)閉鎖小胞の膜脂質に対する親水性高分子の修飾率が0.5mol%未満のものを含まない、親水性高分子で膜の外表面が修飾された閉鎖小胞。 (10)前記親水性高分子がポリエチレングリコールであり、前記閉鎖小胞がリポソームである上記(9)に記載の閉鎖小胞。 (11)前記閉鎖小胞が内部に薬物を含む製剤である上記(9)または(10)に記載の閉鎖小胞。 【0014】 (12)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の分離方法を用いる、親水性高分子で膜修飾されかつ内部に薬物を含む閉鎖小胞の製剤を親水性高分子修飾率に基づき評価する方法。 (13)親水性高分子で膜修飾された閉鎖小胞を製造する工程、 製造された閉鎖小胞を請求項1〜6のいずかの分離方法で分析する工程を含み、 得られた分析データに基づいて、前記閉鎖小胞が所望の膜修飾率となるように前記製造工程の製造条件を調整し、親水性高分子の膜修飾率が所望の膜修飾率に制御された閉鎖小胞を得る、閉鎖小胞の製造方法。 【発明の効果】 【0015】 本発明によれば、親水性高分子の修飾による膜表面状態の異なる閉鎖小胞(製剤も含む意)を分離することができる。該分離方法を閉鎖小胞の精製工程に利用する、制御された所望の親水性高分子修飾率を有する閉鎖小胞の製造方法を提供できる。この製造方法によれば、閉鎖小胞個々同士で均一性の高い膜修飾率を有する閉鎖小胞を得ることができる。特に、親水性高分子による膜修飾が体内動力学的に有効な修飾率に満たないものが排除され、有効な膜修飾率を有するもののみに精製された閉鎖小胞を提供することができる。 また本発明では、精密な(分布の狭い)表面修飾率を知ることができるため、表面修飾率と製剤効果との関係を正確に評価することができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0016】 以下、まず本発明に係る分離方法で分離される親水性高分子で膜修飾された閉鎖小胞およびその中に薬物を含む製剤、ならびにその製造方法を具体的に説明する。 本発明において、修飾または膜修飾とは、親水性高分子が閉鎖小胞を形成する膜の外表面に化学的、物理的または電気的に固定的に保持されている状態をいう。本発明における閉鎖小胞は、薬物を内封しうる粒子状膜構造体(担体)であれば特に制限されず、一般的にW/O/W型担体である閉鎖小胞に対し、W/O型担体として分類されるミセル、マイクロスフェアなどを広く含む意味で解することができる。なおWは水相、Oは油相である。 【0017】 閉鎖小胞としては、具体的にたとえばリポソーム、マイクロカプセル、リピッドマイクロスフェア、ナノパーテイクルなどを挙げることができる。これらは、球状またはそれに近い形態をとることができる。 閉鎖小胞の粒子径(粒子外径の直径)は、その種類によっても異なるが、通常0.01〜500μmである。たとえばリポソームの場合には、通常、0.02〜1μmであり、好ましくは0.05〜0.25μmである。マイクロカプセルの場合には、通常、1〜500μmであり、好ましくは1〜150μmである。リピッドマイクロスフェアの場合には、通常、1〜500μmであり、好ましくは1〜300μmである。ナノパーテイクルの粒子径は、通常、0.01〜1μmであり、好ましくは0.01〜0.2μmである。 上記粒子径は、動的光散乱法により測定される全粒子の直径平均値として求められる。 【0018】 本発明における閉鎖小胞は、内部に薬剤を高濃度封入することのできる潜在的機能を有するものが好ましく、上記のうちでもリポソームが好ましい。本発明では、この閉鎖小胞の内部に薬物を含むものを製剤という。 閉鎖小胞は、通常、疎水性基と親水性基とを含有する両媒性の脂質を膜材として形成される。以下には、主としてリポソームを例にとって具体的に説明する。 リポソームは、一般的に、リン脂質を主膜材とする脂質二重膜で形成される閉鎖小胞である。さらに詳しくは、リポソームは、疎水性基と親水性基とを含有するリン脂質が両方の極性に基づいて水性溶媒中で膜を生じ、当該膜が形成する閉鎖空間構造を有する。リポソームは、通常、この膜を隔てて、閉鎖空間内の内水相と外水相とが存在する懸濁液の状態で扱われる。 【0019】 なお、本明細書において、リポソームの語は、このリポソーム懸濁液を含む意味で使用される。また、リポソームに薬物を封入または内封するとは、この内水相として、または内水相中に薬物を含ませることをいい、リポソーム製剤とは、この薬物が封入(内封)されたリポソームをいう。この封入(内封)とは、薬物が膜に付着などにより保持されたものあるいは膜中に保持されたものも含むことを意味し、この場合には薬物が必ずしも内水相に存在するとは限らない。 【0020】 リン脂質は、一般的に、分子内に長鎖アルキル基より構成される疎水性基とリン酸基より構成される親水性基とを持つ両親媒性物質である。リン脂質としては、たとえば、フォスファチジルコリン(=レシチン)、フォスファチジルグリセロール、フォスファチジン酸、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトールなどのグリセロリン脂質;スフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質;カルジオリピンなどの天然または合成のジフォスファチジル系リン脂質およびこれらの誘導体;これらの部分または完全水素添加物(たとえば、水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC))などを挙げることができる。 これらのうちでも、水素添加大豆フォスファチジルコリンなどの水素添加されたリン脂質、スフィンゴミエリンなどが好ましく使用される。 リポソームは、主膜材として上記リン脂質の単一種または複数種を含むことができる。 【0021】 また、リポソームは、封入された薬物が保存時または血液などの生体中で容易に漏出しないように、また製造時に生体温度より高い温度(典型的に60℃程度)に晒される場合があることを考慮して、主膜材として相転移点が生体内温度(35〜37℃)より高いリン脂質を用いることが好適である。リポソームの主膜材の相転移点が50℃以上であるのは好ましい態様の1つである。 【0022】 リポソームは、上記リン脂質とともに他の膜構成成分を含むことができる。他の膜構成成分としては、たとえば、リン脂質以外の脂質およびその誘導体(以下、これらを「他の脂質類」と称することもある。)が挙げられる。リン脂質以外の脂質は、分子内に長鎖アルキル基などより構成される疎水性基を有し、リン酸基を分子内に含まない脂質をいう。当該脂質は特に限定されない。たとえば、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、コレステロールのようなステロール類、およびこれらの水素添加物などの誘導体を挙げることができる。ステロール類は、シクロペンタノヒドロフェナントレン環を有するものであれば特に限定されない。たとえば、コレステロールが挙げられる。これら他の脂質類を単一種または複数種含むことができる。 【0023】 リポソーム膜を構成する総脂質中、前記リン脂質は、通常、20〜100mol%であり、好ましくは40〜100mol%である。他の脂質類は、総脂質中、通常、0〜80mol%であり、好ましくは0〜60mol%である。 なかでも、上記のリン脂質と他の脂質類との混合脂質で膜形成されるリポソームは好ましい態様例である。 【0024】 またリポソームの脂質二重膜構造は、ユニラメラ小胞(Unilamellar Vesicle)でも、多重ラメラ小胞(Multilamellar Vesicle,MLV)のいずれでもよく、またユニラメラ小胞はSUV(Small Unilamellar Vesicle)でも、LUV(Large Unilamellar Vesicle)でもよい。リポソームの安定性の面から、粒子径0.05〜0.25μmのLUVが好ましい。 【0025】 上記のような脂質膜を修飾する親水性高分子は、特に制限されず、公知の親水性高分子を挙げることができる。親水性高分子としては、具体的に、ポリエチレングリコール類、ポリグリセリン類、ポリプロピレングリコール類、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアスパルトアミド、合成ポリアミノ酸などが挙げられる。さらに、グルクロン酸、シアル酸、デキストラン、プルラン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンなどの水溶性多糖類およびその誘導体、たとえば糖脂質が挙げられる。 【0026】 上記のうちでも、親水性高分子は、−CH2CH2O−、−CH2CH2CH2O−、−CH2CH(OH)CH2O−、−CH2CH(CH2OH)O−からなる群から選ばれる少なくとも1つの単位を含むものが好ましい。親水性高分子は、これら単位の1種類の繰り返しからなるホモポリマー、2種類以上の単位を含むコポリマーでもよい。コポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、ターポリマーなど、いずれの形態でもよい。 これらの中でも、ホモポリマーが好ましく、特には、リポソーム製剤の血中滞留性を向上させる効果が確認されているポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリセリン(PG)、ポリプロピレングリコール(PPG)が好ましい。 【0027】 これら親水性高分子は、リポソーム製剤の血中滞留性向上効果を発現しうる分子鎖となる分子量を有していれば特に限定されないが、PEGの分子量は、通常、500〜10,000ダルトンであり、好ましくは1,000〜7,000ダルトン、より好ましくは2,000〜5,000ダルトンである。PGの分子量は、通常100〜10,000ダルトンであり、好ましくは200〜7,000ダルトン、より好ましくは400〜5,000ダルトンである。PPGの分子量は、通常100〜10,000ダルトンであり、好ましくは200〜7,000ダルトン、より好ましくは1,000〜5,000ダルトンである。 【0028】 上記親水性高分子は、通常脂質誘導体として膜修飾に使用される。なお、親水性高分子の分子末端は通常水酸基であるが、脂質誘導体における脂質に結合していない親水性高分子の末端側は、保存安定性の面からアルコキシ化(たとえば、メトキシ化、エトキシ化、プロポキシ化)されていてもよい。本発明の分離方法では、親水性高分子の分子末端がアルコキシ基あっても分離することができる。 親水性高分子の脂質誘導体を形成する脂質は、リポソームの膜に親和性の疎水性部分を有する化合物であれば特に制限されない。通常、該膜成分と同じもしくは類似のリン脂質、ステロールなどの他の脂質類、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシプロピレンアルキル、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。中でも、リン脂質が好ましい態様の一つである。 【0029】 リン脂質としては、上記の親水性高分子と結合可能であれば特に制限されないが、たとえばフォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルグリセロール、フォスファチジルセリンなどが挙げられる。これらのうちでもフォスファチジルエタノールアミンが好ましい態様の一つである。リン脂質に含まれるアシル鎖は、通常、C14−C20、好ましくはC16−C18の鎖長をもつ飽和脂肪酸であることが望ましい。アシル鎖としては、たとえばジパルミトイル、ジステアロイル、パルミトイルステアロイルなどが挙げられる。 【0030】 親水性高分子の脂質誘導体における親水性高分子と脂質との組み合わせは、特に限定されない。たとえば親水性高分子がPEGである場合には、通常、リン脂質またはコレステロール誘導体が好ましい態様例として挙げられる。このような親水性高分子の脂質誘導体は公知の方法によって製造することができ、また市販品として入手できるものもある。たとえばPEGのジステアロイルフォスファチジルエタノールアミン誘導体(PEG-DSPE)は、入手容易な汎用化合物である。 本発明におけるリポソーム(閉鎖小胞)は、上記親水性高分子の脂質誘導体の1種または2種以上で膜修飾されていてもよい。 【0031】 親水性高分子によるリポソーム修飾率は、脂質膜(総脂質)に対する親水性高分子量の割合として、通常0.1〜10mol%、好ましくは0.1〜5mol%、より好ましくは0.2〜3mol%である。なお、この総脂質には、親水性高分子の脂質誘導体中の脂質も含まれる。 【0032】 上記親水性高分子の膜修飾状態は、主として、膜の内外にランダムに分布している態様と、膜表面の外側に選択的に分布している態様とがあるが、本発明では、後者は後者が望ましい。後者の態様の製造方法は後述するが、膜表面の外側に選択的に親水性高分子が分布しているリポソームは、親水性高分子が膜の内外にランダムに分布しているリポソームに対して、半分の親水性高分子量でその効果を発現することができ、存在効率およびその存在による脂質膜の安定性に与える影響が少ないため有利であるだけでなく、親水性高分子が内水相のpHに影響を受けにくくリポソーム製剤が安定であるため好ましい。このような親水性高分子の膜修飾における修飾効率および製剤の安定性の点とともに、本発明の分離方法による分離効果を考慮して、本発明におけるリポソーム製剤は、前者の膜の外側が選択的に親水性高分子で修飾された形態が好ましい。 【0033】 本発明では、上記膜構成成分による膜構造を保持しうるものであってリポソームが含むことができるものであれば、さらに他の成分を任意に含むことができる。具体的には、親水性高分子誘導体以外の表面修飾剤たとえば、塩基性官能基を有する化合物;酸性官能基を有する化合物などの荷電物質が挙げられる。荷電物質は、通常、脂質誘導体の形態である。脂質は親水性高分子の脂質誘導体と同様のものが挙げられる。 【0034】 塩基性官能基は、たとえばアミノ基、アミジノ基、グアジニノ基などであり、これら官能を有する化合物もしくはその脂質誘導体(カチオン化脂質)としては、たとえば特開昭61−161246号公報に記載されたDOTMA、特表平5−508626号公報に記載されたDOTAP、特開平2−292246号公報に記載されたトランスフェクタム(Transfectam)、特開平4−108391号公報に開示されたTMAG、国際公開第97/42166号パンフレットに記載された3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩、DOSPA、DOTAP、TfxTM−50、DDAB、DC−CHOL、DMRIEなどが挙げられる。 【0035】 酸性官能基を有する化合物としては、たとえば、フォスファチジン酸、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルグリセロール、カルジオリピンなどの酸性リン脂質;オレイン酸、ステアリン酸などの飽和あるいは不飽和脂肪酸;ガングリオシドGM1、ガングリオシドGM3などのシアル酸を有するガングリオシド類;N−アシル−L−グルタミンなどの酸性アミノ酸系界面活性剤などが挙げられる。 【0036】 本発明において、上記のようなリポソーム(閉鎖小胞)中に含まれる薬物は、治療および/または診断のための薬物であれば特に制限されない。薬物としては、たとえば、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体、抗癌剤、抗生物質、酵素剤、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、抗炎症剤、ステロイド剤、血管拡張剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖・遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、ケミカルメデイエーターの遊離阻害剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、メイラード反応抑制剤、アミロイドーシス阻害剤、一酸化窒素合成阻害剤、AGEs(Advanced glycation endproducts)阻害剤、ラジカルスカベンジャー、タンパク質、ヘモグロビン溶液、ペプチド、グリコサミノグリカンおよびその誘導体、オリゴ糖および多糖およびそれらの誘導体など;X線造影剤、超音波診断剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、核磁気共鳴診断用診断薬などが挙げられる。 【0037】 また、本発明に係るリポソーム製剤は、投与経路次第で医薬的に許容される安定化剤および/または酸化防止剤を含むことができる。安定化剤としては、特に限定されないが、たとえば、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、ラクトースまたはシュクロースのような糖類が挙げられる。酸化防止剤としては、特に限定されないが、たとえば、アスコルビン酸、尿酸、α、β、γまたはδトコフェロール同族体(たとえば、ビタミンE)が挙げられる。 【0038】 また、通常、懸濁液の形態であるリポソーム製剤の懸濁媒体すなわちリポソームの外水相は、投与経路次第で医薬的に許容されるものであれば特に制限されず、たとえば、水、生理食塩水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、PBSまたは生体内分解性ポリマーなどの水溶液、無血清培地などが挙げられる。 これらのうちでも、水、生理食塩水が好ましい。また、これら媒体は、医薬添加物として許容される界面活性剤または生体内で許容し得る生理的pHの緩衝剤を含んでいてもよい。 【0039】 上記のような親水性高分子により膜修飾された形態のリポソーム(閉鎖小胞)およびリポソーム製剤は、公知の方法を採用して製造することができる。膜表面の外側に選択的に親水性高分子が分布している態様のリポソーム(閉鎖小胞)は、一旦リポソームを形成した後に、親水性高分子の脂質誘導体を添加して修飾する2段工程により得ることができる。リポソーム形成方法自体は、たとえばエタノール注入法、薄膜法、逆相蒸発法、凍結融解法、超音波法、高圧吐出法(「ライフサイエンスにおけるリポソーム」寺田、吉村ら編;シュプリンガー・フェアラーク東京(1992)参照:ここでの記載を引用して本明細書の記載されているものとする)、エクストリュージョン法などの各種の技術が知られており、上記した膜構成成分である脂質を用い、これらのうちから適宜の方法を採用して、リポソームを製造することができる。 【0040】 さらに公知のサイジング技術、たとえばG.Gregoriadis編「Liposome Technology Liposome Preparation and Related Techniques」2nd edition,Vol.I-III、CRC Press(ここでの記載を引用して本明細書に記載されているものとする)を適用して、リポソームを所望のサイズにすることもできる。 またリポソームのユニラメラ化方法も公知(たとえば上記文献(「ライフサイエンスにおけるリポソーム」など)であり、適宜採択することができる。 【0041】 次に、上記で形成されたリポソームに、脂質誘導体など、リポソームを修飾可能な親水性高分子を添加することにより、親水性高分子をリポソームの膜の外側に選択的に分布させることができる。 薬物は、薬物の種類に応じて適宜の工程、すなわち、リポソーム形成工程において、リポソーム形成工程後、または膜修飾工程後に、公知の導入方法を適宜採択して封入することができる。 薬物導入後、リポソーム内に封入されなかった薬物は、公知の除去方法により通常除去される。 【0042】 本発明の分離方法は、親水性高分子で膜修飾された閉鎖小胞の分離方法であり、特に本発明では、上記のように、親水性高分子により膜表面の外側が選択的に修飾された構造のリポソームに代表される閉鎖小胞を直接分離することができる。閉鎖小胞内部に存在する親水性高分子は、本分離方法では評価することができず、また望まれる機能を果たさない。また本発明の分離方法は、同一の親水性高分子種で修飾された閉鎖小胞間の分離に好適である。本発明では、具体的に、溶離液のイオン強度を経時的に変化させる濃度勾配を適用するイオン交換クロマトグラフィー(IECとも表記する)により膜修飾率の異なる閉鎖小胞を分離する。 【0043】 IECは、イオン交換樹脂粒子の表面で解離し、荷電表面を生じる分子を化学的に結合したイオン交換樹脂を用いて対イオンを分離する公知の方法であり、表面荷電状態により陽イオン交換と陰イオン交換に大別される。陰イオン交換には、通常、第4級アンモニウム、ジエチルアミノエチル基などのカチオン残基を導入した樹脂が用いられ、陽イオン交換には、通常、スルホプロピル基などのアニオン残基を導入した樹脂が用いられる。本発明では、陰イオン交換によるIECが好ましく、なかでもジエチルアミノエチル基などによる弱陰イオン交換によるIECがより好ましい。イオン交換樹脂は、多孔性粒子、非多孔性粒子のどちらでもかまわない。これらイオン交換樹脂を充填したカラムは市販されており、本発明の分離に用いることができる。弱陰イオン交換樹脂カラムとしては、DEAE−5PW(東ソー(株)製)、YMC−Pack IES−AX((株)ワイエムシイ製)などの市販品がある。 【0044】 高速液体クロマトグラフ(HPLC)に、これら適宜のカラムを備えつけることより、IECを測定することもできる。この測定データを後述するように薬物の評価に利用することもできる。 【0045】 本発明では、扱われる閉鎖小胞は溶媒により変性する可能性があることを考慮して、有機溶媒を全く含まない溶離液が好適である。また、IECでは、イオン交換樹脂の種類によって最適なpH範囲が異なり、荷電状態にも影響を与えるため、溶離液(移動相とも表記する)のpHを適切に調整することが望まれる。イオン交換樹脂の性質上から、溶離液のpHは、一般的にpH2〜11の範囲が好ましく、さらに閉鎖小胞、特にリポソームの安定性の観点からはpH4〜10が好ましい。陰イオン交換樹脂を用いるIECの場合には、溶離液のpHは、6〜10が好ましく、6〜9がより好ましい。 溶離液は、たとえばリン酸緩衝剤、トリス塩酸緩衝剤、酢酸緩衝剤で緩衝化されていてもよい。緩衝剤の濃度は、通常10〜50mM が適当である。 【0046】 本発明では、IECにおいて、溶離液に濃度勾配をつける。濃度勾配には、主として、溶離液の溶媒組成を変化させる方法、イオン強度を経時的に変化させる方法があるが、閉鎖小胞は溶媒により変性する可能性があることを考慮して、本発明ではイオン強度を経時的に変化させる方法が好適である。 本発明において、イオン強度を調整するためには、通常、NaClや硫酸アンモニウムなどが用いられ、これらのうちでもイオン強度の調整しやすさからNaClが用いられる。イオン強度を選択する際には、閉鎖小胞の構造に影響を及ぼさない範囲を選択することが望ましい。具体的には、リポソームの場合、膜透過を引き起こさないイオン強度の選択が好ましく、具体的に最高濃度でもNaClで2mol/L以下が望ましい。 【0047】 濃度勾配方法は、イオン強度が一定割合で変化するリニア型、カーブ型(凹型・凸型勾配溶出)および段階的に変化させるステップワイズ型などの変化方法があり、特に限定されないが、コントロールのしやすさからリニア型が好適である。イオン強度をリニア型に濃度勾配させる方法そのものは公知の方法を利用することができる。このリニア型濃度勾配を模式的に図1に示す。 【0048】 本発明における分離方法において、濃度勾配の速度は重要であり、同一流速下においては勾配を小さくすれば分離能が向上する。このことは後述の実施例に示す。 たとえばNaClに基づく濃度勾配(0→0.5M)を適用したIECによるPEG修飾リポソーム製剤の分離例では、最終イオン強度が同一であっても、濃度勾配を遅くするほど、PEG修飾率に基づく分離能が向上することが確かめられた。特に35分かけて濃度勾配をもたせた場合には、PEG修飾率が約0.5mol%、約0.25mol%および無修飾のリポソーム製剤であれば、各分離ピークが明確に分離されたクロマトグラムを得ることができることが確認された。すなわち、各PEG修飾率のリポソーム製剤は、各別々にIEC分画として分離回収できることができ、これにより幅広い分布の混合物から、所望PEG修飾率を有するリポソーム製剤を精製分離することができる。所望PEG修飾率を有するリポソーム製剤に対応する流出時間近辺での分画時間の設定により、分布の広さを調整することもできる。 【0049】 なお、したがって濃度勾配を上記例よりも一層遅くすれば、PEG修飾率が1mol%以上のものでも分離可能であるが、現実的な実施効率を考慮すれば、分離所要時間は短いことが望ましい。また後述の実施例および以下にも説明するとおり、リポソーム製剤におけるPEG修飾効果の評価にけるPEG修飾率の効果に対する知見から、約0.5%までのPEG修飾率のリポソーム製剤を精製することができればPEG修飾の主目的は達成できる。このような観点からは、通常、長くても180分程度で分離を行うことができる。 IECによる分離条件は、上記したようなカラムの選択および移動相の溶媒種ならびに濃度勾配を用いる点以外は、特に制限されず、一般的なIECの条件から適宜に選択して行うことができる。移動相の流速は、カラム径φ2.0mmのカラムで、通常0.05〜0.1mL/分であるが、カラムにパックされるゲルの最大圧力を考慮して設定する必要がある。 【0050】 本発明では、上記分離方法により、従来のリポソーム製剤(閉鎖小胞)のPEG修飾率の分析方法に対し、より厳密に親水性高分子による閉鎖小胞(製剤)の修飾効果を評価することができる。特に従来の分析方法で測定される閉鎖小胞(製剤)の表面修飾率は、測定サンプル全体の平均値であるため、たとえば表面修飾率が0.25mol%であっても、端的には0mol%と0.5mol%のものの混合物であるものと区別できなかった。この場合、表面修飾率の血中滞留性効果は厳密な評価ができず、またそれを検証することも困難であったが、本発明の分離方法であれば、各表面修飾率ごとに分離できるため、少なくとも製造された閉鎖小胞の表面修飾がどのような分布(ばらつき幅)をもつかを知ることができる。また、分画幅の選択により所望の表面修飾率の高度に精製された製剤を得ることができるため、表面修飾効果を厳密に評価することができる。たとえば分離精製されたリポソーム製剤と、該製剤の試験(AUC)結果との相関をみることができる。さらに、IECの各製剤ピーク上に、該当するAUCを対応させることにより表面修飾による効果を評価することもできる。 【0051】 また、本発明の分離方法を、親水性高分子で修飾した閉鎖小胞(もしくは製剤)の製造プロセスに適用して所望修飾率に高度に精製された閉鎖小胞(製剤)を得ることもできる。たとえば、親水性高分子で膜修飾され、かつ内部に薬物を含む閉鎖小胞(製剤)の精製工程として、上記分離方法を適用し、閉鎖小胞(製剤)を前記親水性高分子の膜修飾率に応じて分離し、分離された閉鎖小胞(製剤)のうちから所望の親水性高分子修飾率を有する閉鎖小胞(もしくは製剤)を回収することができる。このような製造方法により、体内動態的に有効性の小さい親水性高分子の修飾率のもの、具体的には閉鎖小胞の膜脂質に対する親水性高分子の修飾率が0.5mol%未満のものを含まない、親水性高分子で膜の外表面が修飾された閉鎖小胞を得ることができる。本発明において、特に修飾率が0mol%のものを排除することも容易である。 したがって、本発明では、このような所望修飾率に高度に精製された閉鎖小胞(製剤)を提供できる。この膜修飾された閉鎖小胞がポリエチレングリコールで膜修飾されたリポソーム(もしくは製剤)である態様は、本発明の好ましい態様である。 【0052】 また親水性高分子で膜修飾された閉鎖小胞(もしくは製剤)の分析方法として上記分離方法を適用し、得られた分析データを、上記閉鎖小胞(もしくは製剤)の製造工程にフィードバックすることにより、製造工程の製造条件を調整して、所望の修飾率となるように制御する方法により、所望の親水性高分子修飾率に高度に調整された閉鎖小胞(もしくは製剤)を得ることもできる。 【実施例】 【0053】 次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例、試験例に限定されるものではない。 (調製例1) (1)リポソームの作製 水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)(分子量790、リポイド(Lipoid)社製SPC3)7.021gおよびコレステロール(Chol)(分子量386.65、ソルベイ(Solvay)社)2.927gに、無水エタノール(和光純薬社製)10mLを加えて68℃に加温し、完全溶解後、250mM硫酸アンモニウム(和光純薬製)水溶液を90mLを加え、68℃の恒温槽にて15分間膨潤したのち、ボルテックス撹拌し、リポソーム粗分散液を調製した。次いで、エクストルーダ(The ExtruderT.100,Lipex biomembranes Inc.製)に取り付けたフィルター(孔径0.2μm×5回、0.1μm×10回、Whatman社製)に順次通し、リポソーム分散液(以下、リポソームとも記す)を得た。 【0054】 (2)PEG修飾 ポリエチレングリコール(分子量5000)−フォスファチジルエタノールアミン(PEG5000−DSPE)(分子量6075、日本油脂社)を蒸留水で希釈して、36.74mg/mLのPEG5000−DSPE水溶液を調製した。 8mLずつ取り分けた上記リポソームを含む各容器に、このPEG5000−DSPE水溶液を、(PEG5000−DSPE/総脂質)×100として算出されるPEG修飾率(mol%)が0(後述のリポソーム製剤1)、0.25(同製剤2)、0.5(同製剤3)、0.75(同製剤4)、1(同製剤5)または2(同製剤6)mol%の所定濃度に対応する理論量(無添加、0.55、1.09、1.64、2.18または4.37mL)で加え、60℃で30分撹拌した後、氷冷した。 【0055】 (3)外水相置換 10mM Tris(pH9.0)10%スクロースに置換したカラム(セファロース(Sepharose)4FF)を用いて、上記で得られたPEG修飾リポソームをゲルろ過し、外水相を置換した。 【0056】 (4)薬物導入 ゲルろ過後のサンプルについて、リン脂質定量キット(和光純薬工業株式会社製リン脂質Cテストワコー(コリン定量))を用いてHSPC濃度(mg/mL)を定量分析し、このHSPC濃度をもとに、総脂質量(mM)を算出した。ここでの総脂質量は、HSPC、CholおよびDSPEの合計量を意味する。 塩酸ドキソルビシン(Dox:分子量579.99)を、10mM Tris(pH9.0)10%スクロース10mL中に、上記総脂質量に対し、Dox/Total Lipid(mol/mol)=0.16となる所定量でそれぞれ含ませ、上記外水相置換された各PEG修飾リポソームに加え、撹拌しながら60℃で60分加熱することにより、Doxの導入を行った。 (5)後処理 薬物導入後のリポソームを氷冷した後、10mMヒスチジン(pH6.5)10%スクロースで置換したゲルカラム(Sepharose4FF)でゲルろ過し、リポソーム未封入の薬物を除去した。 次いで、滅菌フィルター(MINISART PLUS 0.2μm)を通すことにより滅菌処理し、PEG修飾ドキソルビシン内封リポソーム(以下、リポソーム製剤)1〜6を得た。 【0057】 (6)分析 <PEG修飾率> 上記で得られた各リポソーム製剤について、高速液体クロマトグラフ(カラム:フェニル基を化学結合した多孔性シリカゲル,移動相:Buffer/MeOH/EtOH混液)により、検出器として示差屈折計を用いて、脂質(HSPC、CholおよびPEG5000−DSPE)の濃度(mg/mL)を定量分析した。得られた分析値から算出した総脂質濃度(Total Lipid/mM)、PEG修飾率(mol%)を、PEG5000−DSPE仕込み量の理論mol%とともに表1に示す。ここで求められるPEG修飾率の実測値は、測定サンプル全体の平均値である。 【0058】 <薬物濃度> 塩酸ドキソルビシン(Dox)濃度(mg/mL)は、480nmにおける吸光度に基づいて検量法により定量分析した。Doxを各所定濃度mg/mL)で含む生理食塩水を検量線サンプルとして用いた。吸光度は、サンプル40μLを2mLの蛍光分析用メタノールに分散させて測定した。 各リポソーム製剤について、Dox濃度(mg/mL)から、mM換算値、総脂質に対するモル比(Dox/Total Lipid)を求めた。これら各値を表1に示す。 【0059】 <粒子径> リポソーム製剤20mLを生理食塩水で3mLに希釈し、Zetasizer3000HS(Malvern Instruments.製)で平均粒子径(nm)を測定した。結果を表1に示す。 【0060】 【表1】
*PEG修飾率(mol%)=(PEG5000-DSPE/Total Lipid)×100 【0061】 (実施例1) 陰イオン交換カラムを備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて、調製例1で作成されたリポソーム製剤1〜6について、移動相のNaCl濃度勾配法を適用して測定した。測定条件を以下に示す。 移動相:20mM Tris(pH9.0)中のNaCl濃度を、以下の3とおりの条件1〜3で0M〜0.5Mの間で変化させた。すなわち、20mM Tris中のNaCl濃度を流出開始0.5分から下記の時間まで直線的に濃度勾配(0→0.5M)させた後、0.5MNaCl濃度を5分間持続した。その後、NaCl濃度を含まない20mM Tris(pH9.0)を20分間流出させた。これら条件を、図1(A:条件1,B:条件2,C:条件3)に示す。 条件1:0.5〜15分(0→0.5M)+5分間(0.5M)+20分間(0M) 条件2:0.5〜25分(0→0.5M)+5分間(0.5M)+20分間(0M) 条件3:0.5〜35分(0→0.5M)+5分間(0.5M)+20分間(0M) 【0062】 流速:1mL/分 カラム:DEAE−5PW(カラム:径φ2.0mm,長さ75cm)(東ソー(株)製 陰イオン交換HPLC用多孔性親水ポリマーゲルカラム)をあらかじめ20mM Tris(pH9.0)で置換して使用した。 カラム温度:設定せず(環境温度28〜32℃) 注入量:10μL(上記条件3にて、5μLおよび20μLについても測定し、ピーク位置は10μLと同じであることを確認(図示せず)。) 測定吸収波長:254nm(条件1)または280nm(条件2および3) 【0063】 調製例1で作成されたPEG修飾率の異なるリポソーム製剤1〜6について、それぞれ上記各NaCl濃度条件下で測定した。個々の測定チャートを、同一のNaCl濃度条件同士を紙面上で重ね合わせた。各条件ごとのデータを合成したチャートを、図2(条件1)、図3(条件2)および図4(条件3)に示す。 【0064】 これら図に示されるとおり、リポソーム製剤は、NaCl濃度勾配法の適用により、PEG修飾率に応じて流出時間が異なることがわかった。すなわち、PEG修飾リポソーム製剤を、PEG修飾率の違いにより分離することが可能であることがわかった。さらに、NaCl濃度勾配を緩やかにすることによって分離能が高まることが明らかになった。 特に、PEG5000で表面修飾されたリポソーム製剤では、修飾率0.5mol%までを高精度に分離することができる。この0.5mol%は、後述する試験例に示されるとおりリポソームの動力学的に有効な修飾率であることから、本発明の方法がPEG修飾リポソーム製剤の製造において極めて有用であることを意味する。 したがって、0.5mol%以下の修飾率のものの分離が容易な上記方法により、たとえば0.5mol%に満たないものを回収せず、0.5mol%以上の修飾率のものを回収することによって、リポソームの動力学的に有効な修飾率のもののみに高度に精製することができる。また、添加したPEG5000−DSPEの理論修飾率と最大修飾率はほぼ等しいと考えられるので、たとえば1mol%となるように添加した場合は、0.5mol%未満を含まないように、0.5mol%以上の修飾率のものを回収すれば、0.75±0.25mol%の修飾率のリポソーム製剤が得られる。 【0065】 (実施例2) 調製例1で製造したPEG修飾リポソーム製剤1〜6を当量ずつ取り、混合した。この混合サンプルについて、上記NaCl濃度勾配条件3を適用して、実施例1と同様に液体クロマトグラフィーを測定した。結果を図5に示す。 図5に示されるとおり、リポソーム製剤混合物は、PEG修飾率の違いごとに分離することができた。また、各ピーク位置は図4で示された位置と一致した。これらから、本発明の方法がPEG修飾率の異なるリポソーム製剤の混合物から修飾率の相違するリポソーム製剤を分離することができることが確かめられた。 【0066】 (試験例1) 調製例1で作製されたリポソーム製剤1〜6(総脂質量として10μmol/2mL/kg)を、マウスの尾静脈より投与し、血中濃度推移を調べた(各群3匹)。 投与後1,3,6,24,48時間目に尾静脈よりヘパリン(1000単位/mL,アベンティスファーマ)を添加した25G翼付静注針(テルモ)と、ツベルクリン用1mL注射筒(テルモ)とを用いて約0.5mLの採血を行った。血液は氷浴上に起き、採血終了後、遠心処理(BECKMAN GS-15R,10000rpm,4℃,10分)し、血漿を分離した。血漿中ドキソルビシン濃度は、励起波長(Ex)=500nm,蛍光波長(Em)=580nmにて蛍光強度を測定した。 【0067】 注射後の各採血時の投与量に対する残存率(%)を、投与時点(0)の残存率を100%と概算して求めた。経過時間に対する“% of dose”として図6に示す。 図6に示すとおり、PEG未導入のリポソームは、投与初期の時点で他のリポソームに比べ血中濃度が低く、他のリポソームの2/3以下であった(6h経過時)。また、PEG修飾率(mol%)が高くなるほど血中滞留性が高くなるが、0.5mol%を超えると血中濃度の推移はあまり変わらなくなり、24hの“% of Dose”は約30%、48hの“% of Dose”は約17%であった。これらから、PEG修飾の効果は、PEG修飾率がほぼ0.5mol%であれば充分であるといえる。 【0068】 また、PEG修飾率をAUC(Area under the curve,吸収曲線下面積)の観点から評価した。各リポソーム製剤のPEG修飾率(実測値)に対する注射時間後の血中濃度から求められる吸収率に基づくAUCを図7に示す。 なお、AUC=X(吸収率)/Vd(分布容積)×Kel(消失速度) 分母の因子VdおよびKelは薬物により定まっており、AUCは吸収率に比例するとみなされる。 図6に示す結果と同様、PEG修飾率0.5mol%までは、PEG修飾率が高くなるほどAUCは増大するが、PEG修飾率0.5mol%を超えるとAUCの増大はあまりみられず、ほぼ0.5mol%で飽和することがわかった。 【0069】 図4において、各PEG修飾率のピーク位置(時間軸)に、上記で求めたAUC(図7参照)の各PEG修飾率に対応する値(平均値)を適用し、AUCと高速液体クロマトグラムにおける保持時間との関係をみた。図8に示す。 図8に示されるとおり、AUCと高速液体クロマトグラムにおける保持時間との間には、負の相関があることがわかった。 これら結果から、本発明の方法は、リポソーム製剤の表面をPEG修飾率について解析できるだけでなく、リポソーム製剤の血中滞留性を理化学的に確認できることが明らかになった。 【図面の簡単な説明】 【0070】 【図1】(A)〜(C)は、本発明の方法における測定条件を示す図である。 【図2】本発明の方法における条件1によるPEG修飾リポソーム製剤の分析例(分離状態)を示す高速液体クロマトグラムである。 【図3】本発明の方法における条件2によるPEG修飾リポソーム製剤の分析例(分離状態)を示す高速液体クロマトグラムである。 【図4】本発明の方法における条件3によるPEG修飾リポソーム製剤の分析例(分離状態)を示す高速液体クロマトグラムである。 【図5】本発明の方法による混合物の分離例を示す高速液体クロマトグラムである。 【図6】PEG修飾率の異なる各種リポソーム製剤注射後の血中滞留性試験における採血時間と“% of Dose”との関係を示す図である。 【図7】リポソーム製剤のPEG修飾率と、対応するAUCとの関係を示す図である。 【図8】高速液体クロマトグラムの各PEG修飾率のリポソーム製剤の保持時間と、各PEG修飾率のリポソーム製剤に対応するAUCとの関係を示す図である。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000109543 【氏名又は名称】テルモ株式会社
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| 【出願日】 |
平成18年7月3日(2006.7.3) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100080159 【弁理士】 【氏名又は名称】渡辺 望稔
【識別番号】100090217 【弁理士】 【氏名又は名称】三和 晴子
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| 【公開番号】 |
特開2008−13444(P2008−13444A) |
| 【公開日】 |
平成20年1月24日(2008.1.24) |
| 【出願番号】 |
特願2006−183282(P2006−183282) |
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