トップ :: A 生活必需品 :: A61 医学または獣医学;衛生学




【発明の名称】 蛍光診断方法
【発明者】 【氏名】峰久 次郎

【氏名】金田 明

【要約】 【課題】蛍光診断を行うために必要なレーザ光照射条件等を規定する。

【構成】生体領域107に腫瘍に親和性のある光感受性物質として1mg/m以上10mg/m以下のタラポルフィンナトナリウムを投与して腫瘍に集積させる。生体領域107に対して7mW/cm以上70mW/cm以下の強度で半導体レーザ装置101の発生するレーザ光を照射して光感受性物質を励起する。レーザ光で励起された光感受性物質が発する蛍光を観察する。蛍光の強弱に基づいて腫瘍の存在部位を判断する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の標的領域中の腫瘍を蛍光によって診断する方法であって、
前記被検者に前記腫瘍に親和性のある光感受性物質として1mg/m以上10mg/m以下のタラポルフィンナトナリウムを投与して前記腫瘍に集積させ、
前記標的領域に7mW/cm以上70mW/cm以下の強度で中心波長が660nm以上664nm以下の半導体レーザの発生するレーザ光を照射して前記光感受性物質を励起し、
前記レーザ光で励起された前記光感受性物質が発する蛍光を観察し、前記蛍光の強弱に基づいて前記標的領域中の前記腫瘍の存在部位を判断する、
蛍光診断方法。
【請求項2】
前記蛍光の観察にカメラを使用し、かつ
前記カメラの最低被写体照度が0.5lux以上である、請求項1に記載の蛍光診断方法。
【請求項3】
前記被検者への前記光感受性物質の投与後12時間以上24時間以内に前記レーザ光で励起された前記光感受性物質が発する蛍光の観察を行う、請求項1に記載の蛍光診断方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍やその他病巣に親和性を持つ光感受性物質をあらかじめ生体へ投与し、腫瘍やその他病巣に集積した段階で、光感受性物質の吸収波長に合致した波長の光を照射して、光感受性物質を励起し、腫瘍やその他病巣からの蛍光を捉える光線力学的手法を用いた蛍光診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子を利用した半導体レーザ装置は、小型軽量であるため様々な産業分野で利用されている。また、他の発振方式、例えばダイレーザではレーザの波長の分布が広く、可視光波長帯を発振するダイレーザ装置で半値幅が十数nm以上になるのに対して、半導体レーザ装置を使用すれば半値幅が数nm(2nm〜3nm程度)と狭く、かつ波長の揃ったレーザ光を発振することができる。さらに、半導体レーザ装置は、レーザ光の波長を半導体レーザ素子の温度調整により容易に制御することができるという特徴を持つ。
【0003】
これらの特徴を有する半導体レーザ装置を用いた蛍光診断・治療装置が例えば特許文献1に記載されている。具体的には、特許文献1には、半導体レーザ素子の温度調整によって発振波長を制御することにより、光感受性物質の吸収波長と施術目的に適合した半値幅のレーザ光を得て、かかるレーザ光によって光感受性物質を効率良く励起することが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特許第2596221号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1を含め従来の蛍光診断に関する技術は、現実に蛍光観察を行うために必要なレーザ光照射条件、薬剤濃度等の条件を何ら示唆していない。例えば、光感受性物質としてタラポルフィンナトナリウムが知られている。従来、タラポルフィンナトナリウムを光感受性物質として使用する場合の投与量は40mg/m程度であった。タラポルフィンナトナリウムは高価であるので、投与量の低減に対する要求がある。しかし、光感受性物質としてタラポルフィンナトナリウムを使用し、かつその投与量を低減した場合におけるレーザ光照射条件等の蛍光観察に必要な条件は、従来の技術では何ら示唆されていない。
【0006】
本発明は、上記従来の問題に鑑み、現実に蛍光診断を行うために必要なレーザ光照射条件、薬剤濃度等の条件を規定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被検者の標的領域中の腫瘍を蛍光によって診断する方法であって、前記被検者に前記腫瘍に親和性のある光感受性物質として1mg/m以上10mg/m以下のタラポルフィンナトナリウムを投与して前記腫瘍に集積させ、前記標的領域に5mW/cm以上70mW/cm以下の強度で中心波長が660nm以上664nm以下の半導体レーザの発生するレーザ光を照射して前記光感受性物質を励起し、前記レーザ光で励起された前記光感受性物質が発する蛍光を観察し、前記蛍光の強弱に基づいて前記標的領域中の前記腫瘍の存在部位を判断する、蛍光診断方法を提供する。
【0008】
タラポルフィンナトナリウムの投与量が1mg/m以上10mg/mに低減されているが、標的領域中の腫瘍の存在部位を蛍光の強弱に基づいて特定できる。レーザ光の強度が70mW/cmを上回る場合にはレーザ光によって励起された光感受性物質が蛍光とともに活性酸素を発生し、周囲の生体組織へダメージを与えたり、自らの分子構造が変性し蛍光を発しなくなるフォトブリーチ現象が発生したりする。また、レーザ光の強度が7mW/cmを下回る場合には発生する蛍光が微弱になり観察が難しくなる。従って、レーザ光の強度は7mW/cm以上70mW/cm以下に設定される。
【0009】
蛍光の観察にカメラを使用する場合、カメラの最低感度ないしは最低被写体照度が0.5lux以上であれば、光感受性物質としてのタラポルフィンナトナリウムの投与量を低減しても腫瘍の存在部位を蛍光の強弱に基づいて特定できる。
【0010】
光感受性物質の投与直後は血液中に高濃度の光感受性物質が存在する。そのため、光感受性物質の投与直後は標的領域にレーザ光を照射しても腫瘍のみでなくは血管からも強い蛍光が発せられるので、蛍光の強弱に基づいて標的領域中の腫瘍の存在部位を判断するのは困難である。具体的には、光感受性物質の投与後12時間未満は蛍光の強弱に基づく腫瘍の存在部位の判断が困難である。また、光感受性物質の投与から時間が経過するのに伴って光感受性物質が排泄されるので、光感受性物質の投与後長時間が経過すると、腫瘍からの蛍光が弱まって周辺とのコントラストが低下し、腫瘍の存在部位の判断が困難となる。具体的には、光感受性物質の投与後24時間を経過すると、蛍光の強弱に基づく腫瘍の存在部位の判断が困難となる。従って、前記被検者への前記光感受性物質の投与後12時間以上24時間以内に前記レーザ光で励起された前記光感受性物質が発する蛍光の観察を行うことが好ましい。
【0011】
光感受性物質を励起する光の波長はその物質ごとに定まっている。また、多くの光感受性物質は波長400nm付近に強い光の吸収帯を持っている。しかし、波長400nm付近の励起光は生体組織自体からの自然蛍光を発生し、光感受性物質からの蛍光のコントランスを低減する。また、血液中に含まれるヘモグロビンの吸収帯域は600nmから650nm以下の範囲にあり、波長650nm以下の光はヘモグロビンに吸収されやすく、生体組織への深達性に劣っている。また、光感受性物質にタラポルフィンナトナリウムを使用した場合には、生体内からの蛍光ピークは672nmであり、レーザ光波長がこのピーク波長に近い場合にはレーザ光と蛍光を分離することが困難になる。従って、半導体レーザ光の半値幅が数nmであることかから、ヘモグロビンの吸収帯域から外れ、蛍光ピーク以下の波長である660nm以上664nm以下でタラポルフィンナトナリウムを励起して蛍光観察を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、半導体レーザを光源として用い、かつ光感受性物質であるタラポルフィンナトナリウムの投与量を低減した場合の光線力学的手法による蛍光観察の条件が示されたので、当該腫瘍細胞を蛍光により特定し、切除ないし壊死させることにより癌等の治療効果の向上が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、実施の形態にかかる蛍光診断法で使用する医療用レーザ装置(蛍光診断装置)の一例を示すブロック図である。図1において、101は半導体レーザで、動作温度0℃における動作時の発振波長が664nm、半値幅±1nmの特性を持っている。102は半導体レーザ101が発振したレーザ光を導光する光ファイバ、103は光ファイバ102で導光されたレーザ光をコリメートし、レーザ光を平行光とするコリメートレンズ、104は平行光になったレーザ光のスペクトルから蛍光の波長成分を取り除く波長整形用のバンドパスフィルタで、波長662nmから波長665nmは透過率80%以上、波長666nm以上では透過率1%未満となっている。105はバンドパスフィルタ104を透過したレーザ光を観察領域である生体組織(被検者の標的領域)107へ均等に照射するための光学レンズ、106は光学レンズ105を透過したレーザ光を観察対象である光感受性物質が投与された生体組織107の方向へ反射させるための反射鏡、108は生体組織107の蛍光から励起レーザ光の波長成分を取り除くノッチフィルタ、109はノッチフィルタ108を透過した生体組織からの蛍光を結像させるための対物レンズ、110は対物レンズ110によって結像したイメージを撮影するCCDカメラであり、撮影された画像は画像表示装置111に表示される。
【0014】
以下、本実施の形態の蛍光診断法を説明する。
【0015】
まず、被検者に腫瘍との親和性を有する光感受性物質を投与し、生体組織107中の腫瘍に光感受性物質を集積させる。
【0016】
本実施の形態では光感受性物質としてクロリン系のタラポルフィンナトリウム(商品名レザフィリン;明治製菓株式会社製)を用いる。タラポルフィンナトリウムは極大吸収波長が664nmであり、672nmに蛍光の中心波長を持つ。また、本実施の形態では、1mg/m以上10mg/m以下のタラポルフィンナトナリウムを被検者に投与する。このように本実施の形態では従来(通常、40mg/m程度)よりもタラポルフィンナトナリウムの投与量を大幅に低減している。
【0017】
次に、半導体レーザ101の発生するレーザ光を照射して光感受性物質を励起する。そして、レーザ光で励起された光感受性物質が発する蛍光を観察し、蛍光の強弱に基づいて生体組織107中の腫瘍の存在部位を判断する。
【0018】
図2は、腫瘍ないしは病変組織での光感受性物質の濃度C1と、腫瘍の周辺の正常組織での濃度C2を模式的に示す。光感受性物質の投与直後は血液中に高濃度の光感受性物質が存在する。そのため、光感受性物質の投与直後は生体組織107にレーザ光を照射しても腫瘍のみでなくは血管からも強い蛍光が発せられるので、蛍光の強弱に基づいて標的領域中の腫瘍の存在部位を判断するのは困難である。具体的には、光感受性物質の投与後12時間未満は蛍光の強弱に基づく腫瘍の存在部位の判断が困難である。また、光感受性物質の投与から時間が経過するのに伴って血液中から光感受性物質が排泄されるので、光感受性物質の投与後長時間が経過すると、腫瘍からの蛍光が弱まり、蛍光の検出が困難になるのと同時に周辺とのコントラストが低下し、腫瘍の存在部位の判断が困難となる。具体的には、光感受性物質の投与後24時間を経過すると、蛍光の強弱に基づく腫瘍の存在部位の判断が困難となる。そのため、レーザ光の照射及び蛍光の観察は、被検者への光感受性物質の投与後12時間以上24時間以内に実行される。
【0019】
以下、レーザ光の照射及び蛍光の観察について詳述する。
【0020】
本実施の形態では、半導体レーザ101は中心波長664nm、半値幅2nm(663nm〜665nm)のレーザ光を発振する。レーザ光は光ファイバ102によってコリメートレンズ103へ導光される。コリメートレンズ103は光ファイバ102から照射されたレーザ光を平行光にコリメートする。
【0021】
コリメートされたレーザ光はバンドパスフィルタ104に入射する。図3はバンドパスフィルタ104の透過率特性を、励起されたレーザ光および蛍光の波長特性と共に模式的に示したものである。201は励起用レーザ光の強度を、202は前記励起用レーザ光の波長成分の一部を除去するバンドパスフィルタ104の透過率の波長特性を、203は励起された光感受性物質が発する蛍光強度の波長特性をそれぞれ示している。バンドパスフィルタ104によってレーザ光の波長的に拡がっている裾野がカットされる。具体的には、コリメートされたレーザ光はバンドパスフィルタ104により波長660nm未満および波長666nm以上の成分が1/100以下に減光される。
【0022】
バンドパスフィルタ104を透過したレーザ光は光学レンズ105と反射鏡106によって生体組織107に照射される。生体組織107に照射されるレーザ光の強度は7mW/cm以上70mW/cm以下である。レーザ光強度が15mW/cm以上の場合にはレーザ光によって励起された光感受性物質が蛍光とともに活性酸素を発生し、周囲の生体組織へダメージを与えたり、自らの分子構造が変性し蛍光を発しなくなるフォトブリーチ現象が発生したりする。従ってパワー密度が高くなることは蛍光観察には適さなくなる。また、7mW/cm未満の場合では発生する蛍光が微弱になり観察が難しくなる。励起用レーザ光で照射された光感受性物質が投与された生体組織107からはその蓄積した光感受性物質の濃度に対応した強度の蛍光が発生する。
【0023】
生体組織107から発生した蛍光および生体組織107で反射された励起用レーザ光はノッチフィルタ108を取り付けたCCDカメラ110によって撮影され、画像表示手段111に表示される。この画像中での蛍光の強弱に基づいて生体組織107内の腫瘍の存在部位が判断される。
【0024】
図4はノッチフィルタ108の波長特性を、レーザ光および蛍光と共に模式的に示したものである。301は励起レーザ光強度の波長特性を、302は励起レーザ光により励起された光感受性物質が発する蛍光強度の波長特性を、303は励起用レーザ光をカットするノッチフィルタの透過率の波長特性をそれぞれ示している。ノッチフィルタ108によって蛍光からレーザ光がカットされる。具体的には、レーザ光301および蛍光302のうち波長660nm〜波長666nmの領域が1/1000以下(光学濃度OD3以上)に減光される。一方、波長666nmよりも長波長の蛍光成分はほとんど減光されずにノッチフィルタ108を透過する。レーザ光はバンドパスフィルタ104で波長660nm未満および波長666nm以上の波長成分は1/100以下に減光されているため、既に蛍光よりも十分に強度が弱くなっている。このように励起レーザ光の波長成分を取り除かれた蛍光は対物レンズ109を取り付けたCCDカメラ110によって蛍光画像として撮影される。
【0025】
本実施の形態では、前述のように光感受性物質としてのタラポルフィンナトナリウムの投与量を1mg/m以上10mg/m以下に低減している。この投与量の低減により励起される蛍光の強度は弱まる傾向にある。しかし、CCDカメラ110の最低感度ないしは最低被写体照度が0.5lux以上であれば、腫瘍の存在部位を蛍光の強弱に基づいて確実に特定できる。
【0026】
なお、CCDカメラ110を肉眼でも観察することができ、この場合は観察者の視力など必要に応じて対物レンズ109を取り外してもよく、交換してもよい。また、CCDカメラをより感度の高いカメラを使用してもよい。
【0027】
下記の表1および図5は、光感受性物質の濃度と励起レーザ光の強度の積と蛍光の強度の関係を示す。この表1および図5に示すように、光感受性物質の濃度の増加、および励起レーザ光の強度の増加に伴って蛍光の強度が増加する。また、光感受性物質の濃度と励起レーザ光の強度は補完的な関係にある。例えば光感受性物質の濃度を半分に低減した場合、励起レーザ光の強度を約2倍にすると蛍光の強度はほぼ一定に維持される。逆に、励起レーザ光の強度を半分に低減した場合、光感受性物質の濃度を約2倍にすると蛍光の強度はほぼ一定に維持される。
【0028】
【表1】


【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の蛍光診断法は、神経膠腫(しんけいこうしゅ;グリオーマ)をはじめとする悪性腫瘍の領域検出に利用することができる。すなわち、正常部位へ浸潤した腫瘍細胞からの蛍光を捉えることで、当該腫瘍細胞を切除ないし壊死させることができ、癌などの治療効果の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態にかかる蛍光診断法で使用する蛍光診断装置の一例を示すブロック図。
【図2】光感受性物質についての投与後の経過時間と濃度の関係を示す模式的なグラフ。
【図3】レーザ光および蛍光の波長分布とバンドパスフィルタの波長特性を示す模式図。
【図4】レーザ光および蛍光の波長分布とノッチフィルタの波長特性を示す模式図。
【図5】光感受性物質の濃度と励起レーザ光の強度の積と蛍光の強度の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0031】
101 半導体レーザ
102 光ファイバ
103 コリメートレンズ
104 バンドパスフィルタ
105 光学レンズ
106 反射鏡
107 生体組織
108 ノッチフィルタ
109 対物レンズ
110 CCDカメラ
201 励起レーザ光強度の波長特性
202 バンドパスフィルタ104の透過率の波長特性
203 蛍光強度の波長特性
301 励起レーザ光強度の波長特性
302 蛍光強度の波長特性
303 ノッチフィルタの透過率の波長特性
【出願人】 【識別番号】000005821
【氏名又は名称】松下電器産業株式会社
【出願日】 平成18年7月11日(2006.7.11)
【代理人】 【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二

【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄

【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫

【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司

【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之


【公開番号】 特開2008−17899(P2008−17899A)
【公開日】 平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願番号】 特願2006−190081(P2006−190081)