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【発明の名称】 眼科装置
【発明者】 【氏名】大橋 裕一

【氏名】山口 昌彦

【氏名】溝上 志朗

【氏名】鈴木 崇

【氏名】川▲崎▼ 史朗

【氏名】加藤 千比呂

【氏名】伊藤 優作

【氏名】片岡 永

【要約】 【課題】被検眼を診断するために有用な温度情報を安定して取得する。

【構成】本発明の眼科装置は、被検眼からの赤外線を観察する赤外線撮像手段10と、赤外線撮像手段の光軸と同一光軸上に配置され、被検眼からの可視光又は近赤外領域の光を観察する可視光撮像手段12と、被検眼にアライメント光を投光するアライメント光学系26,24と、被検眼から反射されるアライメント光から被検眼と赤外線撮像手段とのZ方向の合焦状態を検出する合焦状態検出センサ32と、被検眼からの赤外線が赤外線撮像手段に入射する赤外線撮像状態と、被検眼からの可視光又は近赤外線領域の光が可視光撮像手段に入射する可視光撮像状態とに選択的に切り替える可動ミラー20と、被検者に対して固視を促す固視標27を備えている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼に対してXYZ方向に移動可能に設けられた検査部を備え、被検眼に対して検査部をアライメントした状態で被検眼を観察する眼科装置であって、
前記検査部が、
被検眼からの赤外線を観察する赤外線撮像手段と、
赤外線撮像手段の光軸と同一光軸上に配置され、被検眼からの可視光又は近赤外領域の光を観察する可視光撮像手段と、
被検眼にアライメント光を投光するアライメント光学系と、
被検眼から反射されるアライメント光から被検眼と赤外線撮像手段とのZ方向の合焦状態を検出する合焦状態検出センサと、
被検眼からの赤外線が赤外線撮像手段に入射する赤外線撮像状態と、被検眼からの可視光又は近赤外線領域の光が可視光撮像手段に入射する可視光撮像状態とに選択的に切り替える可動ミラーと、を有しており、
前記検査部又は検査部外に、被検者に対して固視を促す固視標をさらに備えていることを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記検査部は、被検眼にケラト光を投光するケラト光学系をさらに有しており、
可視光撮像手段で撮像されたケラト光の反射像から被検眼の曲率半径を算出する手段と、算出された被検眼の曲率半径を利用して赤外線撮像手段によって撮像された被検眼の温度分布画像を補正する補正手段とをさらに有していることを特徴とする請求項1の眼科装置。
【請求項3】
前記検査部をZ方向に移動させる駆動源と、その駆動源及び赤外線撮像手段を制御するコントローラと、赤外線撮像手段で撮像された被検眼の温度分布画像を画像処理する画像処理装置とをさらに備えており、
コントローラは、被検眼に対して検査部をZ方向に合焦した後、検査部をZ方向に移動させながら所定周期で赤外線撮像手段によって被検眼を撮像し、
画像処理装置は、(1)曲率半径算出手段で算出された被検眼の曲率半径を利用して、赤外線撮像手段によって撮像された複数の被検眼の温度分布画像から良合焦領域をそれぞれ抽出し、(2)抽出した温度分布画像を合成して被検眼の温度分布画像を作成することを特徴とする請求項2の眼科装置。
【請求項4】
前記検査部は、被検眼に多重リングパターン光を投光する多重リングパターン照明光学系をさらに有しており、
可視光撮像手段で撮像された多重リングパターン光の反射像から被検眼の曲率半径を算出する手段と、算出された被検眼の曲率半径を利用して赤外線撮像手段によって撮像された被検眼の温度分布画像を補正する補正手段をさらに有していることを特徴とする請求項1の眼科装置。
【請求項5】
前記検査部をZ方向に移動させる駆動源と、その駆動源及び赤外線撮像手段を制御するコントローラと、赤外線撮像手段で撮像された被検眼の温度分布画像を画像処理する画像処理装置とをさらに備えており、
コントローラは、被検眼に対して検査部をZ方向に合焦した後、検査部をZ方向に移動させながら所定周期で赤外線撮像手段によって被検眼を撮像し、
画像処理装置は、(1)曲率半径算出手段で算出された被検眼の曲率半径を利用して、赤外線撮像手段によって撮像された複数の被検眼の温度分布画像から良合焦領域をそれぞれ抽出し、(2)抽出した温度分布画像を合成して被検眼の温度分布画像を作成することを特徴とする請求項4の眼科装置。
【請求項6】
赤外線撮像手段によって撮像された被検眼の温度分布画像を眼球の解剖学的平均形状を利用して補正する補正手段をさらに有していることを特徴とする請求項1の眼科装置。
【請求項7】
前記検査部をZ方向に移動させる駆動源と、その駆動源及び赤外線撮像手段を制御するコントローラと、赤外線撮像手段で撮像された被検眼の温度分布画像を画像処理する画像処理装置とをさらに備えており、
コントローラは、被検眼に対して検査部をZ方向に合焦した後、検査部をZ方向に移動させながら所定周期で赤外線撮像手段によって被検眼を撮像し、
画像処理装置は、(1)眼球の解剖学的平均形状を利用して、赤外線撮像手段によって撮像された複数の被検眼の温度分布画像から良合焦領域をそれぞれ抽出し、(2)抽出した温度分布画像を合成して被検眼の温度分布画像を作成することを特徴とする請求項1又は6の眼科装置。
【請求項8】
前記検査部は、被検眼にケラト光を投光するケラト光学系をさらに有しており、
前記検査部をZ方向に移動させる駆動源と、その駆動源及び赤外線撮像手段を制御するコントローラと、赤外線撮像手段で撮像された被検眼の温度分布画像を画像処理する画像処理装置と、可視光撮像手段で撮像されたケラト光の反射像から被検眼の曲率半径を算出する手段と、をさらに備えており、
コントローラは、被検眼に対して検査部をZ方向に合焦した後、検査部をZ方向に移動させながら所定周期で赤外線撮像手段によって被検眼を撮像し、
画像処理装置は、(1)曲率半径算出手段によって算出された被検眼の曲率半径を利用して、赤外線撮像手段によって撮像された複数の被検眼の温度分布画像から良合焦領域をそれぞれ抽出し、(2)抽出した温度分布画像を合成して被検眼の温度分布画像を作成することを特徴とする請求項1の眼科装置。
【請求項9】
前記検査部は、被検眼に多重リングパターン光を投光する多重リングパターン照明光学系をさらに有しており、
前記検査部をZ方向に移動させる駆動源と、その駆動源及び赤外線撮像手段を制御するコントローラと、赤外線撮像手段で撮像された被検眼の温度分布画像を画像処理する画像処理装置と、可視光撮像手段で撮像された多重リングパターン光の反射像から被検眼の曲率半径を算出する手段と、をさらに備えており、
コントローラは、被検眼に対して検査部をZ方向に合焦した後、検査部をZ方向に移動させながら所定周期で赤外線撮像手段によって被検眼を撮像し、
画像処理装置は、(1)曲率半径算出手段で算出された被検眼の曲率半径を利用して、赤外線撮像手段によって撮像された複数の被検眼の温度分布画像から良合焦領域をそれぞれ抽出し、(2)抽出した温度分布画像を合成して被検眼の温度分布画像を作成することを特徴とする請求項1の眼科装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は眼科装置に関する。詳しくは、被検眼からの赤外線を赤外線撮像手段で撮像し、被検眼の温度分布を測定する眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼を診断するために、被検眼から放射される赤外線を赤外線カメラで撮像し、被検眼の温度分布を測定する試みが行われている(例えば、非特許文献1)。この文献には、被検眼に対向して赤外線カメラを設置し、その赤外線カメラによって被検眼を撮像し、撮像した画像から温度分析を行ったことが報告されている。
【非特許文献1】平光忠久、馬嶋慶直、「眼科におけるサーモグラフィ的研究」、臨眼(1976年3月)、p.33−38
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した文献のように被検眼を実験的に赤外線カメラで撮像して温度分析を行った旨の報告はあるものの、被検眼を診断するために有用な温度情報を安定して取得できる眼科装置は実現されていない。
【0004】
本発明の目的は、被検眼を診断するために有用な温度情報を安定して取得することができる眼科装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の眼科装置は、被検眼に対してXYZ方向に移動可能に設けられた検査部を備え、被検眼に対して検査部をアライメントした状態で被検眼を観察する。この眼科装置の検査部は、被検眼からの赤外線を観察する赤外線撮像手段と、赤外線撮像手段の光軸と同一光軸上に配置され、被検眼からの可視光又は近赤外領域の光を観察する可視光撮像手段と、被検眼にアライメント光を投光するアライメント光学系と、被検眼から反射されるアライメント光から被検眼と赤外線撮像手段とのZ方向の合焦状態を検出する合焦状態検出センサと、被検眼からの赤外線が赤外線撮像手段に入射する赤外線撮像状態と、被検眼からの可視光又は近赤外線領域の光が可視光撮像手段に入射する可視光撮像状態とに選択的に切り替える可動ミラーと、を有している。そして、検査部又は検査部外に、被検者に対して固視を促す固視標をさらに備えている。
この眼科装置では、被検眼を検査する際は、まず、被検者に固視標を固視させる。次いで、被検眼にアライメント光を投光すると共に、被検眼からのアライメント光の反射像を可視光撮像手段で撮像し、そのアライメント光の反射像を利用して検査部をXYZ方向にアライメントする。被検眼に対して所望の位置に検査部をアライメントすると、可動ミラーを駆動して被検眼から放射される赤外線を赤外線撮像手段に導き、赤外線撮像手段で被検眼の赤外線像を観察する。
この眼科装置では、被検者に固視標を固視させることで、被検眼を安定した状態(移動しない状態)とすることができる。また、被検眼を可視光撮像手段で観察しながら検査部をXYZ方向にアライメントするため、被検眼の所望の位置(例えば、眼球の中心部又は結膜等の眼球の周辺部)の温度情報を取得することができる。したがって、被検眼を診断するために有用な温度情報を安定して取得することができる。また、赤外線撮像手段と可視光撮像手段が同一光軸上に配置されるため、両撮像手段と被検眼との正確なアライメントを実現することができる。
【0006】
ここで、赤外線撮像手段によって得られる赤外線像(温度情報)は、被写体の角度に依存して変化する。例えば、角膜の温度を測定する場合、角膜の形状が球体であるため、赤外線の放射角度が角膜の中心と周辺では異なり、そのままでは正確な温度情報を得ることができない。したがって、被検眼の正確な温度情報を得るためには、赤外線撮像手段によって得られる温度情報を被検眼の形状に応じて補正することが好ましい。
そこで、上記眼科装置では、検査部は被検眼にケラト光を投光するケラト光学系をさらに有し、可視光撮像手段で撮像されたケラト光の反射像から被検眼の曲率半径を算出する手段と、算出された被検眼の曲率半径を利用して赤外線撮像手段によって撮像された被検眼の温度分布画像を補正する補正手段とをさらに有していることが好ましい。
この眼科装置では、被検眼にケラト光を投光するケラト光学系を備え、ケラト光の反射像から被検眼の曲率半径(形状)を算出し、その曲率半径によって温度情報を補正する。このため、被検眼の正確な温度情報を得ることができる。
【0007】
あるいは、上記眼科装置では、検査部は被検眼に多重リングパターン光を投光する多重リングパターン照明光学系をさらに有し、可視光撮像手段で撮像された多重リングパターン光の反射像から被検眼の曲率半径を算出する手段と、算出された被検眼の曲率半径を利用して赤外線撮像手段によって撮像された被検眼の温度分布画像を補正する補正手段をさらに有していてもよい。
この眼科装置では、被検眼に多重リングパターン光を投光する多重リングパターン照明光学系を備え、多重リングパターン光の反射像から被検眼の曲率半径(形状)を算出し、その曲率半径によって温度情報を補正する。このような態様の眼科装置によっても、被検眼の正確な温度情報を得ることができる。
【0008】
さらには、上記眼科装置は、赤外線撮像手段によって撮像された被検眼の温度分布画像を眼球の解剖学的平均形状を利用して補正する補正手段をさらに有していてもよい。眼球の解剖学的平均形状を利用することで、赤外線撮像手段で撮像された温度情報を簡易に補正することができる。
【0009】
また、赤外線撮像手段によって精緻な赤外線像を撮像するためには、被写界深度を浅くする必要がある。このため、ピントが合う範囲が狭く、被検眼の全体をピントが合った状態とすることができなくなる。
そこで、上記眼科装置では、検査部は被検眼にケラト光を投光するケラト光学系をさらに有しており、検査部をZ方向に移動させる駆動源と、その駆動源及び赤外線撮像手段を制御するコントローラと、赤外線撮像手段で撮像された被検眼の温度分布画像を画像処理する画像処理装置と、可視光撮像手段で撮像されたケラト光の反射像から被検眼の曲率半径を算出する手段と、をさらに備えている。そして、コントローラは、被検眼に対して検査部をZ方向に合焦した後、検査部をZ方向に移動させながら所定周期で赤外線撮像手段によって被検眼を撮像し、画像処理装置は、(1)曲率半径算出手段によって算出された被検眼の曲率半径を利用して、赤外線撮像手段によって撮像された複数の被検眼の温度分布画像から良合焦領域をそれぞれ抽出し、(2)抽出した温度分布画像を合成して被検眼の温度分布画像を作成することが好ましい。
この眼科装置では、被検眼に対して検査部をZ方向に移動させながら被検眼の温度分布画像を取得する。そして、取得された温度分布画像から良合焦状態の領域を抽出し、その抽出した領域を合成して被検眼の温度分布を得る。このため、被検眼の温度分布をより正確に取得することができる。
【0010】
あるいは、上記眼科装置では、検査部は被検眼に多重リングパターン光を投光する多重リングパターン照明光学系をさらに有しており、検査部をZ方向に移動させる駆動源と、その駆動源及び赤外線撮像手段を制御するコントローラと、赤外線撮像手段で撮像された被検眼の温度分布画像を画像処理する画像処理装置と、可視光撮像手段で撮像された多重リングパターン光の反射像から被検眼の曲率半径を算出する手段と、をさらに備えている。そして、コントローラは、被検眼に対して検査部をZ方向に合焦した後、検査部をZ方向に移動させながら所定周期で赤外線撮像手段によって被検眼を撮像し、画像処理装置は、(1)曲率半径算出手段で算出された被検眼の曲率半径を利用して、赤外線撮像手段によって撮像された複数の被検眼の温度分布画像から良合焦領域をそれぞれ抽出し、(2)抽出した温度分布画像を合成して被検眼の温度分布画像を作成するようにしてもよい。
【0011】
さらには、上記眼科装置は、検査部をZ方向に移動させる駆動源と、その駆動源及び赤外線撮像手段を制御するコントローラと、赤外線撮像手段で撮像された被検眼の温度分布画像を画像処理する画像処理装置とをさらに備える。そして、コントローラは、被検眼に対して検査部をZ方向に合焦した後、検査部をZ方向に移動させながら所定周期で赤外線撮像手段によって被検眼を撮像し、画像処理装置は、(1)眼球の解剖学的平均形状を利用して、赤外線撮像手段によって撮像された複数の被検眼の温度分布画像から良合焦領域をそれぞれ抽出し、(2)抽出した温度分布画像を合成して被検眼の温度分布画像を作成するようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
下記の実施例に記載の技術の主要な特徴について列記する。
(形態1) 赤外線撮像手段から出力される赤外線画像(温度分布画像)を補正するための温度補正板を有している。
(形態2) 可動ミラーを所定の時間間隔で駆動することにより、略同一のタイミングで被検眼の可視光画像と赤外線画像を撮像する。メモリは、撮像された可視光画像と赤外線画像とを関連付けて記憶する。
(形態3) 被検眼の可視光画像と赤外線画像は、開瞼してから所定の時間間隔で複数回撮像される。撮像された複数の赤外線画像から、開瞼直後の状態からの温度変化量、あるいは、温度変化速度を算出する。
(形態4) 被検眼の可視光画像からまつげを特定する。その可視光画像と関連付けられた赤外線画像において、まつげをアーチファクトとして認識又は除外する。
(形態5) 被検眼の赤外線画像から眼瞼を特定する。その赤外線画像と関連付けられた可視光画像において眼瞼縁を認識する。
(形態6)可視光画像において領域を指定する。その可視光画像と関連付けられた赤外線画像内において、その指定領域内における温度勾配を算出する。
(形態7)可視光画像から形状変化の大きい領域を特定する。その可視光画像と関連付けられた赤外線画像内において、その特定領域を認識する。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を具現化した一実施例に係る眼科装置について説明する。本実施例の眼科装置は、被検者の頭部が固定される顎台と、顎台に固定された被検者の被検眼100を観察・検査する検査部70と、被検眼100に対して検査部70を移動させる駆動装置34とを備えている。
【0014】
図1,2は検査部70の光学系の構成を示す模式図である。図1は可視光画像を撮像する時の状態を示しており、図2は赤外線画像を撮像する時の状態を示している。図1,2に示すように検査部70は、可動ミラー20と、光軸上に配置されたアライメント光源26と、光軸周りの同一円周上に配置された複数個の点光源からなるケラト光源28と、光軸上に配置された可視光カメラ12及び赤外線カメラ10とを有している。
【0015】
可視光カメラ12は、被検眼100で反射されたアライメント光源26の光(アライメント光の反射像)及びケラト光源28の光(ケラト光の反射像)を撮像する。本実施例の可視光カメラ12には、各画素位置にCCD素子を配置したCCDカメラが用いられている。各画素位置のCCD素子は、受光した光の強度に応じた電気信号を出力する。各CCD素子から出力された電気信号はそれぞれデジタルデータに変換され、変換されたデジタルデータ群が可視光カメラ12から出力される。
【0016】
赤外線カメラ10は、被検眼100から放射される赤外線像を撮像する。本実施例の赤外線カメラ10には、各画素位置に赤外線検出素子(例えば、マイクロボロメータ)を配置した赤外線カメラが用いられている。各画素位置の赤外線検出素子は、入射した赤外線の強度に応じた電気信号を出力する。各赤外線検出素子から出力された電気信号はそれぞれデジタルデータに変換され、変換されたデジタルデータ群が赤外線カメラ10から出力される。
なお、赤外線検出素子から出力される電気信号は、赤外線検出素子自身の温度や配置された位置、また、測定対象物の形状等によって相違する。したがって、本実施例では、赤外線カメラ10から出力されるデジタルデータに種々の補正を行っている。この温度補正については、後で詳述する。
【0017】
可動ミラー20は、可視光を反射する反射面20aと回動軸20cを備えている。可動ミラー20は回動軸20c回りに回動可能とされており、回動軸20cの一端にはモータ20b(図4に図示)が接続されている。モータ20bが回転すると回動軸20cが回転し、可動ミラー20も回転する。可動ミラー20が回転すると、被検眼100からの可視光が可視光カメラ12に入射する第1状態(図1の状態)と、被検眼100からの赤外線が赤外線カメラ10に入射する第2状態(図2の状態)とに切り替えられる。
【0018】
可動ミラー20と赤外線カメラ10(詳細には、赤外線レンズ14)の間には可動プレート18が配されている。可動プレート18の裏面18c(赤外線レンズ14側の面)には黒体が塗布されている。このため、可動プレート18の裏面18cからは安定した赤外線の放射が行われる。また、可動プレート18には、温度センサ18a(図4に図示)が取付けられている。温度センサ18aは、可動プレート18の温度を検出する。
可動プレート18は、被検眼100から赤外線カメラ10への赤外線の入射を遮断する遮断位置(図1に示す位置)と、被検眼100から赤外線カメラ10への赤外線の入射を許容する開放位置(図2,3に示す位置)との間をスライド可能となっている。可動プレート18の移動は、モータ18b(図4に図示)によって行われる。可動プレート18が遮断位置に移動すると、図示省略したレンズ鏡筒と可動プレート18と赤外線カメラ10によって閉空間が形成される。閉空間が形成されると、可動プレート18の裏面18cが赤外線カメラ10と対向し、また、この閉空間の外部から内部に赤外線が入射することが防止される。したがって、可動プレート18が遮断位置に位置する状態では、赤外線カメラ10には閉空間内の各部から放射された赤外線が入射する。
【0019】
また、検査部70の光学系には固視標光源27が備えられている。固視標光源27の光は、図示しないピンホール及びコリメートレンズ29を透過することで略平行光線となり、アライメント光源26とハーフミラー22の間に配置されたハーフミラー31で反射され、ハーフミラー22を透過して可動ミラー20の反射面20aに入射する。反射面20aに入射した固視標光源27の光は、反射面20aで反射され、被検眼100に投影される。固視標光源27の光を被検者に固視させることで、被検眼100を安定した状態(移動しない状態)とすることができる。
【0020】
上記の検査部70において、被検眼100と検査部70とのアライメントを行うとき(すなわち、アライメント光源26の光を被検眼100に投影するとき)や、被検眼100の可視光像を撮像するとき(例えば、ケラト光源28からの光を被検眼100に投影するとき)は、可動ミラー20が第1状態とされる。図1に示すように、第1状態では、可動ミラー20の反射面20aが光軸上に配置される。
アライメント光源26の光は、図示しないピンホール及びコリメートレンズ24を透過することで略平行光線となり、ハーフミラー31,22を透過して、可動ミラー20の反射面20aに入射する。反射面20aに入射したアライメント光は、反射面20aで反射され、被検眼100に投影される。また、ケラト光源28の光は、図示しないピンホール及びコリメートレンズを透過することで略平行光線となり、被検眼100に投影される。なお、アライメント光源26にはLED等を用いることができ、ケラト光源28にもLED等を用いることができる。
【0021】
被検眼100で反射されたアライメント光源26の光及びケラト光源28の光は、可動ミラー20の反射面20aで反射される。反射面20aで反射された光は、さらに、ハーフミラー22で反射され、可視光レンズ16を透過して可視光カメラ12に導かれる。可視光カメラ12は、可視光レンズ16を透過した光(すなわち、アライメント光の反射像及びケラト光の反射像)を撮像する。
なお、被検眼100に投影されたアライメント光源26の光の反射像は、合焦センサ32によっても受光される。すなわち、合焦センサ32は、光軸に対して斜めに配置されている。アライメント光源26の光の被検眼100からの反射像は、レンズ30を介して合焦センサ32の受光面に入射する。合焦センサ32は、検査部70と被検眼100とのZ方向(すなわち、被検眼100と検査部70が近接・離間する方向)のアライメント状態を検出する。
【0022】
一方、被検眼100の赤外線像を撮像するときは、可動ミラー20及び可動プレート18が図2の状態とされる。図2に示す状態では、可動ミラー20の反射面20aが光軸上から退避されると共に可動プレート18が開放位置に配置され、被検眼100と赤外線カメラ10との間には赤外線レンズ14以外は何も配置されていない。このため、被検眼100から放射される赤外線は、赤外線レンズ14(ゲルマニウムレンズ)を通って赤外線カメラ10に導かれる。赤外線カメラ10は、入射する赤外線像を撮像する。
【0023】
上記検査部70を駆動する駆動装置34は、検査部70をX方向(水平方向)に駆動するモータと、Y方向(垂直方向)に駆動するモータと、Z方向(被検眼100に近接・離間する方向)に駆動するモータをそれぞれ備えている。これらのモータが駆動されると、検査部70はX方向,Y方向及びZ方向に移動するようになっている。
【0024】
上述した眼科装置の制御系の構成について説明する。図4は本実施例に係る眼科装置の制御系の構成を示している。図4に示すように、眼科装置の制御は制御装置40によって行われる。制御装置40には、CPU,ROM,RAM等を備えたマイクロコンピュータを用いることができる。
制御装置40は、赤外線カメラ10、可視光カメラ12、連続撮影スイッチ42、詳細撮影スイッチ44、温度センサ18a、合焦センサ32と接続されている。制御装置40には、赤外線カメラ10で撮像された赤外線画像(温度分布を表すデジタルデータ群)と、可視光カメラ12で撮像された可視光画像(可視光の強度分布を表すデジタルデータ群)が入力する。制御装置40は、入力した可視光画像から被検眼100の角膜形状を算出し、算出した角膜形状を用いて赤外線画像の温度を補正する等の種々の演算を行う。連続撮影スイッチ42及び詳細撮影スイッチ44は、検査者によって操作される。連続撮影スイッチ42及び詳細撮影スイッチ44が操作されると、これらのスイッチ42,44からの信号が制御装置40に入力する。連続撮影スイッチ42が操作されると、制御装置40は、被検眼100の可視光画像及び赤外線画像を所定の時間間隔(例えば、1秒間隔)で所定回数(例えば、10回)だけ撮像する。また、詳細撮影スイッチ44が操作されると、制御装置40は、検査部70のZ方向の位置を変えながら被検眼100の可視光画像と赤外線画像を複数回撮像し、撮像した複数の赤外線画像を合成して精緻な赤外線画像が作成される。連続撮影スイッチ42及び詳細撮影スイッチ44が操作されたときの制御装置50の処理については、後で詳述する。また、制御装置40には、温度センサ18aからの信号と合焦センサ32からの信号が入力する。制御装置40は、温度センサ18aからの信号に基づいて可動プレート18の温度を検出し、合焦センサ32からの信号に基づいて検査部70と被検眼100とのZ方向の合焦を検出する。
また、制御装置40には、駆動装置34、モータ20b,18b、アライメント光源26、ケラト光源28、固視標光源27が接続されている。制御装置40は、駆動装置34を駆動して検査部70をX,Y,Z方向に駆動し、被検眼100に対するアライメントを行う。また、制御装置40は、モータ20bを駆動して可動ミラー20の位置を切り替え、モータ18bを駆動して可動プレート18の位置を切り替える。さらに、制御装置40は、アライメント光源26、ケラト光源28及び固視標光源27のON/OFFを切替える。
さらに、制御装置40には、メモリ37及び画像処理装置35が接続されている。制御装置40は、赤外線カメラ10から出力された赤外線画像と可視光カメラ12から出力された可視光画像をメモリ37に記憶し、また、これらの画像をメモリ37から読み出し、あるいは、これらの画像を画像処理装置35に出力する。画像処理装置35は、入力された画像を処理し、モニタ36に表示する。
【0025】
(A)連続撮影スイッチ操作時の動作
次に、上述した眼科装置を用いて被検眼100を検査する手順について説明する。まず、連続撮影スイッチ42が操作されたときの眼科装置の動作を説明する。図5は連続撮影スイッチ操作時の眼科装置の動作手順を示すフローチャートである。
図5に示すように、連続撮影スイッチ42が操作されると(ステップS10)、連続撮影スイッチ42からの信号が制御装置40に入力する。連続撮影スイッチ42からの信号が入力すると、制御装置40は、可動ミラー20を第1状態とし、可動プレート18を遮断位置に移動させる(図1に示す状態)。また、制御装置40は、アライメント光源26及び固視標光源27を点灯する。固視標光源27が点灯すると、検査者は、被検者に瞬目してから開瞼し、固視標を固視するように促す。被検者に瞬目してから開瞼させることで、被検眼100の表面に涙液層が形成される。また、被検者に固視標を固視させることで、被検眼100を安定した状態(移動しない状態)とすることができ、被検眼100の撮影を良好に行うことができる。
次に、制御装置40は、被検眼100に対して検査部70をX,Y,Z方向に移動させて、被検眼100に対する検査部70のアライメントを行う(ステップS12)。具体的には、可視光カメラ12で被検眼100に投影したアライメント光の反射像を撮像し、撮像した反射像の位置が撮像した画像内の所定の位置(例えば、中央)に位置するように検査部70をX,Y方向に移動させる。これによって、検査部70のX,Y方向のアライメントが完了する。また、制御装置40は、検査部70を被検眼100にZ方向に移動させながら、合焦センサ32の出力から検査部70がZ方向に合焦したか否かを判断する。検査部70がZ方向に合焦したと判断すると、駆動装置34の駆動を停止する。これによって、検査部70のZ方向のアライメントが完了する。検査部70のX,Y,Z方向のアライメントが完了すると、制御装置40はアライメント光源26をOFFする。
【0026】
検査部70のアライメントが完了すると、制御装置40は、赤外線カメラ10によって可動プレート18の裏面18cを撮像する(ステップS14)。既に説明したように、可動プレート18が遮断位置にあると、赤外線カメラ18は閉空間内に位置し、その閉空間には外部からの赤外線の侵入が遮断される。このため、ステップS14で撮像された赤外線画像は、閉空間内の各部から放射された赤外線を撮像したものとなる。ステップS14で撮像された赤外線画像は、メモリ37に格納される。同時に、制御装置40は、温度センサ18aで検出された温度も赤外線画像と関連付けてメモリ37に格納する。ステップS14の赤外線カメラ10の撮像が終わると、可動プレート18を開放位置に移動させる。
次に、制御装置40は、タイマをセットしてスタートし(ステップS16)、タイマが所定時間(例えば、1秒)をカウントしたか否かを判定する(ステップS18)。タイマが所定時間をカウントしていない場合(ステップS18でNO)は、タイマが所定時間をカウントするまで待機する。
一方、タイマが所定時間をカウントしている場合(ステップS18でYES)は、ケラト光源28を点灯し、ケラト光源28からの光を被検眼100に投影する。これと同時に、制御装置40は、可視光カメラ12によって被検眼100に投影したケラト光の反射像を撮像する(ステップS20)。この際、被検者は固視標を固視しているため、被検眼100は安定した状態(移動しない状態)となっており、被検眼の所望の位置を撮像することができる。可視光カメラ12によって撮像された可視光画像はメモリ37に格納される。
可視光画像を撮像すると、制御装置40は、可動ミラー20を第2状態とする(ステップS22)。これによって、検査部70の光学系は図2に示す状態となり、被検眼100からの赤外線が赤外線カメラ10に導かれる。
被検眼100からの赤外線が赤外線カメラ10に導かれる状態となると、制御装置40は、赤外線カメラ10によって被検眼100からの赤外線を撮像する(ステップS24)。この際、被検者からは固視標が見えない状態となるが、ステップS22及び次に説明するステップS26の可動ミラー20の切り換えが短時間に連続して行われるため、被検者には固視標が常に点灯しているように見える。このため、被検眼100は安定した状態(移動しない状態)となっており、被検眼の所望の位置を撮像することができる。赤外線カメラ10によって撮像された赤外線画像は、ステップS20で撮像された可視光画像と関連付けてメモリ37に格納される。なお、ステップS20で可視光画像が撮像されてから、ステップS24で赤外線画像が撮像されるまでの時間(本実施例では40m秒)は極めて短いため、ステップS20で撮像された可視光画像とステップS24で撮像された赤外線画像とは略同一のタイミングで撮像されたものとみなすことができる。
ステップS24で赤外線画像を撮像すると、制御装置40は、可動ミラー20を第1状態とする(ステップS26)。これによって、検査部70の光学系は図3に示す状態となり、被検眼100からの可視光が可視光カメラ12に導かれる。
【0027】
次に、制御装置40は、被検眼100の可視光画像と赤外線画像を所定回数(例えば、10回)だけ撮像したか否かを判定する(ステップS28)。被検眼100の可視光画像と赤外線画像を所定回数撮像している場合(ステップS28でYES)は、ステップS30に進む。一方、被検眼100の可視光画像と赤外線画像を所定回数撮像していない場合(ステップS28でNO)は、ステップS16に戻って、ステップS16からの処理が繰り返される。これによって、被検眼100の可視光画像と赤外線画像が所定の時間間隔(例えば、1秒間隔)で所定回数撮像されることとなる。これによって、メモリ37には、経過時間毎に、その経過時間のときに撮像された可視光画像と赤外線画像とが関連付けて記憶される。
【0028】
ステップS30に進むと、制御装置40は、メモリ37に記憶されている可視光画像から被検眼100の角膜形状を算出する。すなわち、各可視光画像には、ケラト光源28からの光の反射像(いわゆる、ケラト像)が含まれている。したがって、制御装置40は、まず、ケラト像の位置から角膜形状を楕円近似したときの楕円形状を特定する。そして、特定された楕円形状から、強主経線と弱主経線の角膜曲率半径及びその方向を算出する。なお、ケラト像から角膜曲率半径及びその方向を算出する手順については公知であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
ここで、被検眼100の角膜曲率半径をより正確に算出するためには、曲率が一定な模擬眼を複数用意し、これらの模擬眼に対して計測を行い、その計測データをキャリブレーションデータとして利用するようにしてもよい。例えば、複数の曲率が一定な模擬眼(例えば、計測有効な曲率半径の最小値、中央値、最大値の3つの曲率の模擬眼)に対してケラト光源28からの光を投光し、その反射像(ケラト像)を可視光カメラ12で撮像しておく。次いで、撮像した各可視光画像内のケラト像の位置を特定し、その特定した位置をキャリブレーションデータとして記録しておく。そして、被検眼100を実際に撮像した際には、撮像した画像内のケラト像の位置を記憶しておいたキャリブレーションデータで補正し、被検眼100の角膜形状を算出する。これによって、より正確に被検眼100の角膜形状を算出することができる。
【0029】
次に、制御装置40は、メモリ37に記憶されている各赤外線画像の温度(詳しくは、赤外線カメラ10の各画素位置の赤外線検出素子から出力されるデータ)を補正する(ステップS32)。本実施例では、赤外線カメラ10の各赤外線検出素子から出力されるデータを、(1)赤外線検出素子の温度、(2)赤外線検出素子の位置、(3)赤外線カメラ10の光学系の熱放射、(4)被検眼100の角膜形状を考慮して補正する。
【0030】
(1)赤外線カメラ10(赤外線検出素子)の温度に基づく補正
赤外線カメラ10から出力されるデータは、赤外線カメラ10自身の温度によって変化する。すなわち、被写体が同一温度であっても、赤外線カメラ10自身の温度(雰囲気温度)が変わると、赤外線カメラ10から出力されるデータも変化する。したがって、赤外線カメラ10自身の温度の影響を排除するためには、赤外線カメラ10から出力されたデータを、赤外線カメラ10が所定の温度(例えば、25度)であれば出力されたであろうデータに変換(補正)する必要がある。そこで、本実施例では、温度センサ18aで検出した温度(可動プレート18の温度)を赤外線カメラ10の温度として、赤外線カメラ10から出力されたデータを補正する。なお、赤外線カメラ10の温度に基づく補正は、従来公知の方法で実施することができる。
【0031】
(2)赤外線カメラ10の赤外線検出素子の位置による補正
赤外線カメラ10の各赤外線検出素子から出力されるデータは、赤外線検出素子の位置によって変化する。すなわち、赤外線カメラ10と対向する被写体の全面が平坦で、かつ、同一温度であっても、赤外線検出素子の位置が異なると、その赤外線検出素子から出力されるデータが変化する。したがって、赤外線検出素子の位置の影響を排除するためには、各赤外線検出素子から出力されたデータを、その赤外線検出素子が所定の位置(例えば、赤外線カメラの中心の画素位置)に配置されていたのであれば出力されたであろうデータに変換(補正)する必要がある。そこで、本実施例では、各赤外線検出素子から出力されたデータを、その赤外線検出素子の位置を考慮して補正する。なお、赤外線検出素子の位置に基づく温度補正は、従来公知の方法で実施することができる。
【0032】
(3)光学系の熱放射による補正
熱をもつ全ての物質は、何らかの赤外線を放射している。したがって、赤外線カメラ10に入射する赤外線も、被検眼100から放射される赤外線だけではなく、検査部70の光学系の各部位から放射される赤外線が含まれる。このため、被検眼100から放射される赤外線だけを検出するためには、光学系の各部位から放射される赤外線をキャンセルする必要がある。そこで、本実施例では、ステップS22で撮像された各赤外線画像(各赤外線素子から出力されたデータ)よりステップS14で撮像された赤外線画像(各赤外線素子から出力されたデータ)を減算する。これによって、光学系の各部位から放射される赤外線の影響を低減する。
【0033】
(4)被検眼の角膜曲率半径に基づく補正
赤外線カメラ10で計測される温度は、赤外線カメラ10に対する被写体の角度(すなわち、被写体からの赤外線の放射角度)の影響を受ける。被検眼100は球体であるため、被検眼100からの赤外線の放射角度は、被検眼100の中心と周辺では異なることとなる。そこで、被検眼100の角膜形状に基づいて、赤外線カメラ10の各赤外線検出素子から出力されたデータを補正する。
具体的には、まず、均一な曲率半径の黒体表面を有する模擬眼を複数用意し、これらの模擬眼を赤外線カメラ10で撮像し、各赤外線素子から出力されるデータを計測する。例えば、計測対象とする最小曲率半径の模擬眼と、最大曲率半径の模擬眼と、その中間の曲率半径の模擬眼の3種類を用意し、これらの模擬眼に対して計測を行う。
次に、計測したデータから模擬眼表面の法線ベクトルの角度をパラメータとし、各赤外線検出素子から出力されるデータと実際の被写体(模擬眼)の温度との関係を表す関数を取得する。すなわち、曲率半径が異なると各赤外線検出素子に対する模擬眼表面の法線ベクトルが異なり、これによって、赤外線検出素子から出力されるデータも変化する。このため、法線ベクトルの角度をパラメータとし、赤外線素子から出力された温度(データ)と、模擬眼表面の実際の温度との関係を表す変位関数を取得する。変位関数を取得すると、その変位関数を逆変換した補正関数を取得する。補正関数は、各模擬眼に対してそれぞれ取得する。取得した各補正関数はメモリ37に記憶する。
そして、実際に測定された赤外線画像に対しては、まず、ステップS30で算出された角膜形状から法線ベクトルの角度を算出する。次いで、算出された法線ベクトルの値と赤外線画像のデータとメモリ37に記憶した各補正関数を用いて、それらを補間計算することで、赤外線画像の各画素の補正データ(補正温度)を算出する。
【0034】
上述した(1)〜(4)の補正は、例えば、次の手順で実施することができる。すなわち、まず、ステップS22で撮像された赤外線画像の各画素のデータから、ステップS16で撮像された赤外線画像の対応する画素のデータを減算する(上記(3)の補正)。次に、減算後のデータに、上記(2)の補正を行い、次いで、上記(1)の補正を行う。最後に、上記(4)の補正を行い、赤外線画像の各画素のデータを算出する。
なお、上述した(1)〜(4)の補正は全てを行う必要はなく、測定対象の性質や測定精度等に応じて適宜選択した補正のみを行うようにしてもよい。例えば、光学系の影響が小さい場合等には、上記(1),(2),(4)の補正のみを行うことができる。
【0035】
上述した赤外線画像の温度補正が終了すると、次に、制御装置40は、ステップS32で修正した赤外線画像と、ステップS18で撮像した可視光画像をモニタ36に表示する(ステップS34)。すなわち、制御装置40は、これらのデータを画像処理装置35に出力する。画像処理装置35は、制御装置40から入力されたデータを基に計測結果をモニタ36に出力する。
ここで、モニタ36には、被検眼100の可視光画像と赤外線画像が表示されるため、検査者は被検眼100のどの部分の温度が表示されているかを知ることができる。また、モニタ36には、被検眼100が開瞼してから1秒間隔で撮像された赤外線画像(温度分布画像)が表示される。したがって、被検眼100の温度分布画像の経時変化から、被検眼100の表面に形成された涙液層の経時変化を客観的に把握することができる。これによって、被検眼100のドライアイの病状等を定量的に評価することができる。
なお、画像処理装置35は、入力された可視光画像及び赤外線画像を解析し、被検眼100の状態を客観的に評価するための指標を算出する処理を行う。この処理については、後で詳述する。
【0036】
(B)詳細撮影スイッチ操作時の動作
次に、詳細撮影スイッチ44が操作されたときの眼科装置の動作を説明する。まず、詳細撮影スイッチ44の意義について説明する。
赤外線カメラ10で被検眼100を撮像する場合、絞りを開いて明るい光学系とすることが好ましい(例えば、光学系の明るさをF1程度とすることが好ましい。)。明るい光学系とすると被写界深度が浅くなり、被検眼100の全体にピントを合わせることが困難となる。特に、観察対象である被検眼100は球体であり、また、被検眼100を接写することから、その全体にピントを合わせることは困難である。すなわち、被検眼100の中心にピントを合わすと周辺部がピントボケとなり、周辺部にピントを合わせると中心がピントボケになる。そこで、本実施例では、被検眼100の全体にピントが合った赤外線画像を得ることを目的として、詳細撮影スイッチ44を設けている。以下、詳細撮影スイッチ44が操作されたときの眼科装置の動作を説明する。
【0037】
図6は詳細撮影スイッチ操作時の眼科装置の動作手順を示すフローチャートである。図6に示すように、詳細撮影スイッチ42が操作されると(ステップS36)、制御装置40は、可動ミラー20を第1状態とすると共に可動プレート18を遮断位置に移動させ(図1に示す状態)、アライメント光源26及び固視標光源27を点灯する。
次に、制御装置40は、被検眼100に対して検査部70をX,Y,Z方向に移動させて、被検眼100に対する検査部70のアライメントを行う(ステップS38)。ステップS38によって、検査部70は被検眼100の中心にピントが合った状態とされる。
検査部70のアライメントが完了すると、制御装置40は、赤外線カメラ10によって可動プレート18の裏面18cを撮像し(ステップS40)、可動プレート18を開放位置に移動させる。次いで、被検眼100を可視光カメラ12で撮像する(ステップS42)。ステップS40及び42で得られた画像は、メモリ37に格納される。
次に、制御装置40は、可動ミラー20を第2状態とし(ステップS44)、赤外線カメラ10によって被検眼100からの赤外線を撮像する(ステップS46)。これによって、被検眼100の中心にピントが合った赤外線画像が取得される。赤外線画像を撮像すると、制御装置40は、可動ミラー20を第1状態とし(ステップS48)、赤外線画像を所定回数撮像したか否かを判断する(ステップS50)。
被検眼100の赤外線画像を所定回数撮像している場合(ステップS50でYES)は、ステップS52に進む。一方、被検眼100の赤外線画像を所定回数撮像していない場合(ステップS50でNO)は、制御装置40は、検査部70を被検眼100から接近する方向に所定量だけ移動させる(ステップS56)。これによって、被検眼100の周辺にピントが合った状態となる。検査部70を所定量だけ移動させると、制御装置40はステップS42に戻って、ステップS42からの処理を繰返す。これによって、被検眼100の赤外線画像がピント位置を中心から外側に変えながら複数取得される。
【0038】
ステップS52に進むと、まず、制御装置40は、撮像した複数の赤外線画像を画像処理装置35に出力する。画像処理装置35は、入力された赤外線画像のそれぞれから良好にピントが合った領域を切り出し、それら切り出した領域を合成して1枚の赤外線画像を作成する。
具体的には、撮像された赤外線画像では、その赤外線画像が撮像されたときの検査部70の位置と、被検眼100の角膜形状から、どの領域にピントが合っているかを算出することができる。したがって、画像処理装置35は、まず、各赤外線画像から、ピントが合っている領域を算出し、そのピントが合った領域のみを切り取る。なお、被検眼100の角膜形状の値は、上述した連続撮影スイッチ42の操作時と同様にケラト光の反射像の位置から算出した値を用いることができ、あるいは、眼球の解剖学的平均形状を用いてもよい。
各赤外線画像からピントが合った領域を切り取ると、画像処理装置35は、切り取った各領域について、その領域が撮像されたときの検査部70の位置に応じて倍率補正を行う。すなわち、赤外線画像を撮像したときの検査部70の位置が異なると、撮像された画像の倍率も異なることとなる。そこで、切り取った各領域に倍率補正をすることで、各赤外線画像の倍率を同一とする。各領域について倍率補正を行うと、各領域を合成して1枚の赤外線画像を作成する。
図7〜11を用いて、画像処理装置35による画像合成処理の一例を説明する。図7は合成する前の赤外線画像を示している。なお、赤外線画像には眼瞼縁50及びケラト輝点52等は表示されないが、図7では説明の便宜のために表示している(以下、図8〜11においても同様に表示する。)。
画像処理装置35は、まず、1番最初に撮像した赤外線画像(図8に示す赤外線画像)からピントが合っている領域54を切り取る。最初に撮像した赤外線画像は、被検眼100の中心にピントが合っているため、切り取る領域も被検眼100の中心となっている。なお、被検眼100は球体であるため、ピントが合った領域は円形となっている。
次に、画像処理装置35は、2番目に撮像した赤外線画像(図9に示す赤外線画像)からピントが合っている領域56を切り取り、同様に、3番目に撮像した赤外線画像(図10に示す赤外線画像)からピントが合っている領域58を切り取る。検査部70を被検眼100から接近する方向に移動させながら赤外線画像を撮像しているため、2番目の赤外線画像のピントが合った領域56は1番最初に撮像した赤外線画像(図8)のピントが合っている領域54の外側に位置するリング状の領域となり、3番目の赤外線画像のピントが合った領域58は2番目に撮像した赤外線画像(図9)のピントが合っている領域56の外側に位置するリング状の領域となっている。
画像処理装置35は、各赤外線画像からピントが合っている領域54,56,58を切り取ると、それらの倍率を補正し、補正した各画像を合成する。合成した赤外線画像を図11に示している。図11に示すように、合成した赤外線画像のピントが合っている領域60は、被検眼100の略全域となっている。
【0039】
各赤外線画像を合成して1枚の赤外線画像を作成すると、画像処理装置35は、その合成した赤外線画像をモニタ36に表示する(ステップS54)。これによって、被検眼100の略全域にピントの合った赤外線画像がモニタ36に表示されることとなる。検査者は、モニタ36に表示される赤外線画像から被検眼100の全体を診察することができる。
【0040】
なお、詳細撮影スイッチ44が操作されたときも、上述した連続撮影スイッチ42が操作されたときと同様、撮像された赤外線画像に対して種々の温度補正(図5のステップS32の補正)を行うようにしてもよい。
【0041】
(C)その他
本実施例の眼科装置では、被検眼100の可視光画像と赤外線画像の両者を撮像し、これらの画像に対して画像処理装置35において種々の解析を行っている。画像処理装置35で行われる画像解析処理の一例を図12に基づいて説明する。
図12に示すように、画像処理装置35は、まず、メモリ37から可視光画像と赤外線画像を読み込む(ステップS58)。次に、画像処理装置35は、読み込んだ可視光画像から「まつげ」の領域を特定し(ステップS60)、その可視光画像と関連付けられている赤外線画像上で「まつげ」の領域を特定し、その特定した領域をアーチファクトとして除外又は認識する。すなわち、赤外線画像だけでは「まつげ」か否かを特定できないが、可視光画像では「まつげ」が黒い線として表示されるため「まつげ」を特定することができる。したがって、可視光画像で「まつげ」を特定することによって、赤外線画像において「まつげ」の領域をアーチファクトとして除外又は認識することができる。
次に、画像処理装置35は、読み込んだ可視光画像から眼瞼を特定する(ステップS62)。すなわち、被検眼100に炎症等がある場合、白目と黒目と眼瞼の境界を赤外線画像から認識することは困難となる。一方、可視光画像では、炎症の有無に関らず、白目と黒目と眼瞼の境界を分離することができる。したがって、読み込んだ可視光画像から眼瞼縁を特定することができる。
まつげと眼瞼縁が特定されると、画像処理装置35は、残った領域を眼球表面として認識する(ステップS64)。
【0042】
次に、画像処理装置35は、連続撮影スイッチ42を操作することで得られた複数の赤外線画像について、最初に撮影された赤外線画像を基準として、各赤外線画像について出力データの変化量(すなわち、最初の撮影時からの温度差)を算出する(ステップS66)。各画素の出力データの変化量を算出することで、被検眼100の表面から涙液層が消失する程度を客観的に評価することができる。これによって、ドライアイか否かの診断を的確に行うことができる。
次に、画像処理装置35は、連続撮影スイッチ42を操作することで得られた複数の赤外線画像について、各画素の出力データの変化速度(温度の変化速度)を算出する(ステップS68)。各画素の温度の変化速度を算出することによっても、被検眼100の表面から涙液層が消失する速度を客観的に評価することができ、ドライアイの診断を的確に行うことができる。
【0043】
次に、画像処理装置35は、撮像された赤外線画像に所定の指定領域が存在するか否かを判断する(ステップS70)。すなわち、検査者は、被検眼100の可視光画像から被検眼100の眼球表面に傷等があるか否かを判断することができる場合がある。すなわち、被検眼100の表面の形状が大きく変化している領域があれば、その領域に傷があると判断することができる。このような場合に、本実施例の眼科装置は、検査者が可視光画像上で傷のある領域等を指定することができるようになっている。したがって、ステップS70では、検査者によって特に詳細に評価する領域が指定されているか否かを判断する。
指定領域が存在しない場合(ステップS70でNO)はステップS74に進み、指定領域が存在する場合(ステップS70でYES)は、画像処理装置35は、指定領域内において温度勾配を算出する(ステップS72)。温度勾配を算出することで、傷の炎症の程度を客観的に評価することができる。すなわち、眼球の表面に傷等があると、その傷の部分が炎症となり、その周りとは温度が異なる場合がある。したがって、温度勾配を算出することで、眼球表面の傷の程度(炎症の程度)を評価することが可能となる。
ステップS74に進むと、画像処理装置35は、ステップS66,68,72で算出した結果をモニタ36に表示する。モニタ36に表示された各値によって、検査者は被検眼100の状態を客観的に評価することができる。
【0044】
上述した説明から明らかなように、本実施例の眼科装置では、被検眼100の可視光画像と赤外線画像を略同一のタイミングで撮像する。したがって、可視光画像の情報を利用して赤外線画像を解析することができ、また、赤外線画像の情報を利用して可視光画像を解析することができる。これによって、被検眼100の状態を客観的に評価することができる。例えば、病変による局部的な温度差を見つけることによって病変の特定を行うことができる。また、治療開始前の赤外線画像と治療開始後の赤外線画像を比較することで、治療効果の評価等を行うことが可能となる。
また、連続撮影スイッチ42を操作したときは、被検眼100の赤外線画像が所定の時間間隔で連続して撮像されるため、被検眼100の涙液層の経時変化を客観的に評価でき、ドライアイ等の診断を的確に行うことができる。
さらに、詳細撮影スイッチ44を操作することで、被検眼100の略全域にピントの合った赤外線画像(温度分布画像)を得ることができる。このため、被検眼100の全体を正確に診断することができる。
【0045】
以上、本発明の好適ないくつかの実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
例えば、連続撮影スイッチ42を操作したときも、詳細撮影スイッチ44を操作したときのように、各撮像タイミング(1秒後、2秒後、・・10秒後)において、検査部70のZ方向の位置を変えて複数の赤外線画像を撮像し、それらの赤外線画像内の良好ピント領域を合成するようにしてもよい。
また、上述した眼科装置では、制御装置40によって検査部70のX,Y,Z方向の駆動、角膜形状の算出、並びに赤外線画像の温度補正を行う一方で、画像処理装置35で複数の赤外線画像から良好ピント領域を切り出し、それらを合成する等の処理を行っていた。しかしながら、これらの処理を1つのプロセッサ等によって実行させることもできる。
また、被検眼100の角膜形状を算出するために被検眼100に投影する光には、近赤外領域の光を用いることができる。また、被検者に固視を促す固視標光源は検査部の外に配置するようにしてもよい。
また、上述した実施例では、固視標光源27を検査部70内に配置したが、固視標光源は検査部70の外に配置することができる。検査部70の外に配置することで、赤外線カメラによる撮影時も被検者に固視標を固視させることができる。
【0046】
また、赤外線画像を補正等するために必要となる角膜形状としては、眼球の解剖学的平均形状を用いることもできる。例えば、角膜の曲率半径については、Gullstrand模型眼の値を用いることができる。
あるいは、被検眼にリングパターン光を投影し、投影したリングパターン光の反射像から眼球の形状を算出するようにしてもよい。被検眼に投影するリングパターン光は、1つであってもよいし、複数であってもよい。図13は複数のリングパターン光を投影する例を示している。図13に示すように、検査部70の光学系には被検眼100に複数のリングパターン光を投光するリングパターン光源70が設けられ、これらリングパターン光の反射像を解析することで被検眼100の形状を算出している。図14は複数のリングパターン光を被検眼100に投光したときに撮像される可視光画像を模式的に示している。図14から明らかなように、被検眼100に複数のリングパターン光が投影されると、各リングパターン光の反射像62は被検眼100の広い領域に投影される。このため、各リングパターンについて被検眼100の曲率半径を算出することで、被検眼100の各部位での曲率半径が算出され、より正確に赤外線画像の温度補正を行うことができる。
さらには、被検眼に投影する光のパターンはリングパターンに限られず、角膜形状が算出できるパターンであれば、どのような種類のパターンを投影してもよい。例えば、グリッドパターンの光を投影するようにしてもよい。
【0047】
なお、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】眼科装置の検査部の光学系の概略構成を示す図である(可視光画像撮影時で可動プレートが遮断位置)。
【図2】検査部の光学系の概略構成を示す図である(赤外線画像撮影時)。
【図3】検査部の光学系の概略構成を示す図である(可視光画像撮影時で可動プレートが開放位置)。
【図4】眼科装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図5】連続撮影スイッチ操作時の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】詳細撮影スイッチ操作時の動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】赤外線画像の良好ピント領域を合成する処理を説明するための図。
【図8】赤外線画像の良好ピント領域を合成する処理を説明するための図。
【図9】赤外線画像の良好ピント領域を合成する処理を説明するための図。
【図10】赤外線画像の良好ピント領域を合成する処理を説明するための図。
【図11】赤外線画像の良好ピント領域を合成する処理を説明するための図。
【図12】画像処理装置の処理を説明するためのフローチャートである。
【図13】本実施例の眼科装置の変形例の光学系の概略構成を示す図である。
【図14】図13に示す眼科装置で撮像される可視光画像を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10・・赤外線カメラ
12・・可視光カメラ
18・・可動プレート
20・・可動ミラー
26・・アライメント光源
27・・固視標
32・・合焦センサ
40・・制御装置
100・・被検眼
【出願人】 【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
【出願日】 平成18年7月4日(2006.7.4)
【代理人】 【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所


【公開番号】 特開2008−11983(P2008−11983A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2006−184583(P2006−184583)