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【発明の名称】 ファントム
【発明者】 【氏名】川畑 健一

【要約】 【課題】異なる強度の超音波に対応可能な超音波ファントムの提供。

【構成】低沸点化合物を液滴化してゲル中に封入した超音波ファントム及びこれを用いた計測。これにより、液滴の成分、液滴のサイズ、サイズの異なる液滴の混合により超音波照射で液滴が気化する超音波強度を制御することが可能であり、その結果、異なる値の超音波強度に対してその強度を超える超音波が照射されたかどうかを可視化することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱不可逆性ゲルと、前記熱不可逆性ゲルの内部に収められた、超音波照射により液体から気体へ相変化する造影剤と、前記熱不可逆性ゲルと前記造影剤とを収める容器とを有するファントム。
【請求項2】
前記造影剤は揮発性液体を内部に含み、前記揮発性液体が液体のときの平均粒径が0.5μm以下の第1液滴と0.5μmより大きく20μm以下の第2液滴とからなることを特徴とする請求項1に記載のファントム。
【請求項3】
前記第2液滴は、前記造影剤の重量比50%以上の割合を占めることを特徴とする請求項1に記載のファントム。
【請求項4】
前記熱不可逆性ゲルは、前記超音波照射の焦点を含む第1領域と前記焦点を含まない第2領域とを含み、前記第1領域では、前記第2液滴は前記造影剤の重量比50%以上の割合を占めることを特徴とする請求項1に記載のファントム。
【請求項5】
前記熱不可逆性ゲルは、前記超音波照射の焦点を含む第1領域と前記焦点を含まない第2領域とを含み、前記第2領域では、前記第2液滴は前記造影剤の重量比0〜10%の割合を占めることを特徴とする請求項1に記載のファントム。
【請求項6】
前記造影剤は、界面活性剤および液滴安定化剤を含む外殻を有することを特徴とする請求項1に記載のファントム。
【請求項7】
前記揮発性液体は、フルオロトリクロロメタン、ジブロジフルオロメタン、2−ブロモー1,1,1−トリフルオロエタン、2−メチルブタン、パールフオロペンタン、1−ペンテン、ペンタン、2H,3H−パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、ヘキサン、1H−パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、ヘプタン、およびパーフルオロオクタンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のファントム。
【請求項8】
前記熱不可逆性ゲルの内部に収められた温度上昇指示剤をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のファントム。
【請求項9】
前記温度上昇指示剤はタンパク質であることを特徴とする請求項8に記載のファントム。
【請求項10】
前記造影剤は、超音波照射後の冷却によって、気体から液体へ相変化するものであることを特徴とする請求項1に記載のファントム。
【請求項11】
熱不可逆性ゲルと、前記熱不可逆性ゲルの内部に収められた、温度上昇指示剤及び超音波照射により液体から気体へ相変化しかつ前記超音波照射の後の冷却により気体から液体に相変化する造影剤とを具備するファントムに超音波を照射する工程と、
前記超音波照射により生じる前記温度上昇指示剤の変性と前記造影剤の液体から気体への相変化とを光学的に検出し、第1検出結果を得る工程と、
前記超音波を照射する工程の後に前記ファントムを冷却する工程と、
前記冷却する工程の後に前記造影剤の気体から液体への相変化を光学的に検出し、第2検出結果を得る工程と、
前記第1検出結果と前記第2検出結果とから前記造影剤の相変化の比較をし、前記比較の結果から前記超音波照射の照射条件を計測する工程とを有する超音波照射条件計測方法。
【請求項12】
前記冷却する工程では、前記ファントムを-20℃以上10℃以下の範囲の温度に冷却することを特徴とする請求項11に記載の超音波照射条件計測方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、計測、診断、治療等に用いられる超音波装置から照射される超音波の線量を表示するファントムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾病の治療に関し、施術後の患者の生活の質(Quality of life)を重視する方向にあり、がんのような重篤な疾病においても従来よりも侵襲性の低い治療法への社会的ニーズが高まっている。現在、低侵襲治療として臨床で主に用いられているのは、内視鏡手術や腹腔鏡手術といった、管状のガイドを体内に挿入するもの、あるいはラジオ波焼灼治療といった針状の治療機器を体内に挿入するものであり、いずれも体内への機器の侵襲を伴うものである。これに対し、超音波は、波長と体内減衰の関係に基づき、体内への機器の挿入なしに体外から体内の1cm角ないしはそれ以下の領域に収束させることが可能である。この特性を利用し、侵襲性の低い超音波治療法の臨床応用が始まっている。現在最も臨床的に進んでいる超音波治療は、子宮筋腫および乳がんを対象とした、高強度収束超音波(HIFU)を照射して患部温度を数秒の間にタンパクの凝固温度以上に上昇させて患部組織を焼灼させるHIFU治療である。超音波治療法としては、HIFU以外にも、増感物質と超音波との相互作用を用いて、音響キャビテーションと呼ばれる現象により生じる活性酸素を用いて腫瘍などの対象を焼灼させる音響化学治療、あるいは既存の薬剤と組み合わせ、その薬剤の患部への浸透性を上げることで薬剤効果の促進を行う超音波促進薬剤療法が挙げられる。
【0003】
これら超音波を用いる各治療に共通する点は、治療部位に超音波発生装置が接触していないため、画像診断装置等により治療が行われている部位をモニタリングする必要があることである。また、より確実に選択的な治療を行うには、モニタリングに加え、事前に治療計画を立て、治療部位に適切な量の超音波が照射され、かつ治療部位以外へ不適切に多い量の超音波が照射されないよう制御することも重要となる。
【0004】
治療計画は超音波を照射する部位をあらかじめ決定することである。計画の有効性および装置が想定通りに動作するかどうかを確認するには、人体へ適用する前に、まず生体を模擬でき、かつその内部に超音波の照射された程度を表示できるよう構成された超音波ファントムを用意し、超音波ファントムで照射状況を確認するべく、超音波ファントムに超音波を照射するという操作が必要となる。
従来、上述の超音波ファントムとしては、超音波のエネルギーそのものではなく、超音波により生じる二次的な作用を可視化するものが考案されてきた。例えば、可溶性のタンパクを指示剤として用い、超音波照射による温度上昇を検出するものが挙げられる(非特許文献1)。これは、タンパクが熱変性すると、凝固して凝集するため、変性前に比べて光学散乱強度が大きくなることを利用している。また、超音波照射により音響キャビテーションが生じる際に水酸基ラジカルなどの酸化力の大きい物質が生成されることを利用し、酸化反応に伴って呈色を起こす反応基質を指示剤として用いて超音波照射による化学作用の程度を検出するものもある(特許文献1)。
【0005】
【非特許文献1】C Lafon et al. Proc. IEEE Ultrasonics Symposium pp.1295-1298 (2001)
【特許文献1】特開平04-332541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来用いられていた超音波ファントムは、超音波照射に伴って生じる温度変化、化学作用などの二次的な作用を用いるものであった。これらの二次的な作用は、一般に1〜数秒の照射時間を要することから、短い超音波パルスに対して適用することが困難であった。また、検出をタンパクが変性したことあるいは化学反応が生じたことによって行うため、超音波照射が一定の量を超えたかどうかの判定を行うことしかできない。例えばタンパクの変性によって温度変化を検出する場合には、数秒でタンパクを変性できる温度(約70℃)以下であったか以上であったかのみしか判断できない。このため、患部に適切な量あるいはそれ以上の量の超音波を照射することを検出できても、患部以外の部分への照射量の程度、すなわち十分に少ない量の超音波が照射されたかどうかを検出することは困難であった。また、酸化力の大きい物質による酸化反応を指標とする場合においても、超音波照射により生じる酸化力の大きい物質はラジカルであり、酸化反応が連鎖的に進行することから、超音波により当初生じたラジカルの量が多くても少なくても、超音波照射から10分以上経過した最終的な反応進行度にはほとんど差が認められない。このため、超音波強度を変化させて照射を行っても、ラジカルが発生したかどうかの定性的な情報しか得られず、超音波強度に関する定量的な情報を得ることが困難であった。
【0007】
本発明では、一定の強度以上の超音波照射により光学的変化を生じ、かつ数波の短いパルスに対応可能であって、光学的変化を生じる超音波強度を任意に変化することが可能な超音波ファントムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における超音波ファントムは、揮発性の液体を含む液滴からなる気泡化成分と、該気泡化成分を均一に分散保持する母材から構成されることを特徴とする。本発明における超音波ファントムに含まれる液滴は上記揮発性液体を内部に含み界面活性剤および液滴安定化剤が外殻にある構造を有してもよい。あるいは、本発明の超音波ファントムは、揮発性の液体を含む液滴からなる気泡化成分と、温度上昇により不可逆的に光学的な変化を生じる温度上昇指示剤と、該気泡化成分および該温度上昇支持剤とを均一に分散保持する母材から構成されてもよい。
【0009】
すなわち、本発明は、熱不可逆性ゲルと、前記熱不可逆性ゲルの内部に収められた、超音波照射により液体から気体へ相変化する造影剤と、前記熱不可逆性ゲルと前記造影剤とを収める容器とを有するファントムを提供する。
【0010】
ある態様において、前記造影剤は揮発性液体を内部に含み、前記揮発性液体が液体のときの平均粒径が0.5μm以下の第1液滴と0.5μmより大きく20μm以下の第2液滴とからなる。この第2液滴は、前記造影剤の重量比50%以上の割合を占めることが好ましい。
【0011】
また前記熱不可逆性ゲルは、前記超音波照射の焦点を含む第1領域と前記焦点を含まない第2領域とを含み、前記第1領域では、前記第2液滴は前記造影剤の重量比50%以上の割合を占め、前記第2領域では、前記第2液滴は前記造影剤の重量比0〜10%の割合を占める。
【0012】
ある態様において、前記造影剤は、界面活性剤および液滴安定化剤を含む外殻を有する。また、前記造影剤は、超音波照射後の冷却によって、気体から液体へ相変化するものであってもよい。
【0013】
前記揮発性液体としては、フルオロトリクロロメタン、ジブロジフルオロメタン、2−ブロモー1,1,1−トリフルオロエタン、2−メチルブタン、パールフオロペンタン、1−ペンテン、ペンタン、2H,3H−パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、ヘキサン、1H−パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、ヘプタン、パーフルオロオクタンを挙げることができる。
【0014】
本発明のファントムは、前記熱不可逆性ゲルの内部に収められた温度上昇指示剤をさらに有していてもよい。ある態様において、前記温度上昇指示剤は、タンパク質である。
【0015】
本発明はまた、熱不可逆性ゲルと、前記熱不可逆性ゲルの内部に収められた、温度上昇指示剤及び超音波照射により液体から気体へ相変化しかつ前記超音波照射の後の冷却により気体から液体に相変化する造影剤とを具備するファントムに超音波を照射する工程と、前記超音波照射により生じる前記温度上昇指示剤の変性と前記造影剤の液体から気体への相変化とを光学的に検出し、第1検出結果を得る工程と、前記超音波を照射する工程の後に前記ファントムを冷却する工程と、前記冷却する工程の後に前記造影剤の気体から液体への相変化を光学的に検出し、第2検出結果を得る工程と、前記第1検出結果と前記第2検出結果とから前記造影剤の相変化の比較をし、前記比較の結果から前記超音波照射の照射条件を計測する工程とを有する超音波照射条件計測方法も提供する。なお、前記冷却工程では、たとえば前記ファントムを-20℃以上10℃以下の範囲の温度に冷却する。
【発明の効果】
【0016】
本発明による超音波ファントムによれば、数波の短いパルス超音波から連続波まで広い範囲に対応し、かつ異なる強度の超音波強度に感応して照射された超音波の強度を可視化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
従来の超音波ファントムにて、超音波強度などの照射条件に応じて定量的な変化を可視化することができないのは、そのファントムの原理そのものの特性である。タンパクの変性による凝集を可視化するタイプでは、水溶性のタンパクを数秒で凝集させるのに必要な温度はほぼ60〜70℃の範囲であり、それ以下あるいはそれ以上の温度で凝集させようとしても凝固の程度が低く、有用性が低い。また、酸化性の大きい物質の生成量を可視化する場合も、ラジカル反応であることから、超音波強度等の条件の違いにより超音波照射時の生成量が異なっていても、超音波停止後も反応が連鎖的に続き反応基質がなくなるまで反応が継続されてしまうため、超音波条件の違いに基づく差異を可視化することが困難である。
【0018】
このため、我々は、課題の解決には、従来と原理を異にするファントムが必要であるとの観点に立ち、検討を行った。我々が着目したのは、液体から気体への相変化に伴う光学的な変化である。液体媒質中に、媒質とは異なる液体を内包した微粒子が存在している状態で、微粒子中の液体分子が気体へ変化すると、一般に物質の液体状態と気体状態とでは密度が約3桁異なることから、約3桁の体積膨張が生じる。微粒子はほぼ球状を仮定できるので、体積は直径の3乗に比例することになる。このため、体積が約3桁大きくなると、微粒子の直径は約1桁大きくなることになる。散乱強度を決定する指標である散乱断面積は半径の二乗に比例することから、超音波照射により液体を含む微粒子を気体へ相変化させることができれば、その散乱断面積増大により超音波照射部位のみが可視化できることに思い至った。超音波により液相から気相への相変化を生じるのには、過熱現象を用いるのが適しているとわかった。ケルビンの式:
log(p_r/p)=−2γM/ρrRT
(pは水平表面の蒸気圧、p_r は半径rの微粒子の蒸気圧、Mはモル質量、γは表面張力、ρは液体の密度、Tは絶対温度)に示されるように、微粒子として存在するときには、液体の蒸気圧は、その半径が小さいほど小さいことから、みかけの沸点は半径が小さいほど高くなる。しかしながら、みかけの沸点が高くなった状態を外部エネルギーで崩すことができれば蒸気圧は通常状態に戻る。このことを利用すると、揮発性の液体を沸点よりも十分に低い温度にて界面活性剤を用いて液滴化し、沸点付近あるいはそれ以上の温度にて超音波を照射することにより、液滴を気泡化することが可能である。さらにこの気泡化を液滴を封入した透明性の高い媒体中にて生じることにより、目的とする超音波ファントムを得ることができることに想到した。
【0019】
すなわち、本発明における超音波ファントムは、揮発性の液体を含む液滴からなる気泡化成分と、該気泡化成分を均一に分散保持する母材から構成されることを特徴とする。本発明における超音波ファントムに含まれる気泡化成分における揮発性の液体は母材中にて液滴を安定して維持させることが好ましい。この観点から、気泡化成分として好ましい揮発性液体の一例を表1に示す。本発明における超音波ファントムに含まれる液滴は上記揮発性液体を内部に含み界面活性剤および液滴安定化剤が外殻にある構造を有することを特徴とする。界面活性剤の種類については特に制限はなく低分子・高分子アニオン性、カチオン性、ノニオン性の界面活性剤およびリン脂質あるいはタンパクを用いることもできる。本発明における超音波ファントムの母材としては、上述の液滴を空間的に均一に配置することができれば特に液体でも固体でも制限はない。液体としては、高粘性の多価アルコールが好ましい。また、本発明における超音波ファントムの母材としてゲルを用いることもできる。ゲルは調製時に加熱・冷却等の温度を変化させる操作を要する熱可逆性ゲルと要しない熱不可逆性ゲルとに分類されるが、本発明においてはゲル内部に揮発性液体を含む液滴を保持することから、後者の熱不可逆性ゲルが適している。
【0020】
【表1】


【0021】
また、我々は上述の熱不可逆性ゲルに封入した液滴(造影剤)を超音波照射により相変化させ気泡を形成したのち、さらに冷却を行うことで、生じた気泡が液滴に戻ることを発見した。この発見を基に、我々は、照射された超音波の強度を計測する線量計であって、かつ超音波照射による温度上昇も測定可能な超音波ファントム及びこれを用いた線量計測が実現可能であることに想到した。ここで、母材には、温度上昇により不可逆的に光学的な変化を生じる温度上昇指示剤を加えることもできる。これにより、温度変化の前後のファントム計測から、照射量の分布的状況と温度変化の分布的状況とを対比させて確認することができる。このように、超音波強度および超音波による温度上昇を測定するための超音波ファントムは、揮発性の液体を含む液滴からなる気泡化成分と、温度上昇により不可逆的に光学的な変化を生じる温度上昇指示剤と、該気泡化成分および該温度上昇支持剤とを均一に分散保持する母材から構成されてもよい。上記温度上昇により不可逆的に光学的な変化を生じる温度上昇指示剤は、気泡化成分および母材と均一に混和可能であれば特に制限はないが、熱変性により白変を生じるタンパクが適している。具体的には、アルブミンや、卵白あるいは血清などのタンパクを多く含む溶液(特定のタンパクを分離したものであってもしないものであってもよい)を用いることもできる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の試験例および実施例を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0023】
リン脂質を外殻として調製しかつパーフルオロカーボンを含む液滴を、ポリアクリルアミドゲルに含み、超音波を照射したときの変化に関する試験を行った。ここで、パーフルオロカーボン及び同様の性質を含む液滴を造影剤と呼ぶ。予め、以下に沿って試験用サンプルたるファントムを調製した。
【0024】
(液滴の調製)
温度を4℃に保った状態で以下の成分を一緒に添加し、そして20mlのリン酸バッファ(pH=7.4)をゆっくり添加しながら、ULTRA−TURRAX T25(Janke&Knukel、Staufen Germany)中にて9500rpmで氷温にて1分間ホモジナイズした。
【0025】

グリセロール 2.0g
α―トコフェロール 0.02g
コレステロール 0.1g
レシチン 1.0g
パーフルオロペンタン 0.2g
【0026】
このエマルションを、Emulsiflex−C5(Avestin、Ottawa Canada)中で20MPaにて高圧乳化処理を1分間行い、5ミクロンのメンブレンフィルターによりろ過した。さらに、5000G×5分間の遠心分離を行い、上澄みを除去した後、除去された上澄みと等量のリン酸バッファ(pH=7.4)を加え、30秒間ボルテックスミキサーにて再分散を行った。得られたエマルション液滴の粒径分布をLB−550(堀場製作所、東京)にて測定した。結果の一例を図1に示す。平均粒径1.18μmのエマルション液滴が得られた。なお、用いるメンブレンフィルターのポアサイズおよび遠心処理の重力と時間、および両者の回数を変更することにより平均粒径約0.1μmから約5μmのエマルション液滴を得ることができる。また、上述の高圧乳化処理を20MPaではなく0.1MPa(大気圧)で行うことにより、平均粒径約5μmから約20μmのエマルション液滴を得ることができた。なお、エマルション液滴に含まれるパーフルオロペンタンの濃度はガスクロマトグラフィG-6000(日立ハイテク、茨城)(カラム:Gaskuropack54 80/100)にて測定した。また、レシチンに変えて、ドデシル硫酸ナトリウム、Triton−X100、を用いて調製を行い、ほぼ同等の粒径分布を有するエマルション液滴を得た。
【0027】
(ゲルへの液滴封じ込め)
(1)温度上昇指示剤を含まないゲルの調製
以下の作業は全て4℃において行った。上述の平均直径1.18μmの液滴を含むエマルション(パーフルオロペンタン濃度: 10mM)5mlを水86.5mlとアクリルアミド40%溶液(アクリルアミド:ビスアクリルアミド=39:1)25mlとをよく混合し、直方体型容器に流し込む。スターラーにてゆるやかに攪拌しながら、過硫酸アンモウム10%溶液7.5mlおよびN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン10mlをすばやく添加し、均一に混ざったら、攪拌を停止し、スターラーバーを除去して直方体容器にカバーをして20分間放置する。以上の操作により、ほぼ透明なゲルを調製した。
【0028】
(2)温度上昇指示剤を含むゲルの調製
以下の作業は全て4℃において行った。上述の平均直径1.18μmの液滴を含むエマルション(パーフルオロペンタン濃度: 10mM)5mlを牛血清アルブミン5%溶液86.5mlとアクリルアミド40%溶液(アクリルアミド:ビスアクリルアミド=39:1)25mlとをよく混合し、直方体型容器に流し込む。スターラーにてゆるやかに攪拌しながら、過硫酸アンモウム10%溶液7.5mlおよびN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン10mlをすばやく添加し、均一に混ざったら、攪拌を停止し、スターラーバーを除去して直方体容器にカバーをして20分間放置する。以上の操作により、ほぼ透明なゲルを調製した。
【0029】
<試験例1>音響強度を変えた超音波を照射した際の効果
上述のゲル調製法(1)に従って調製したゲルを37℃に保温した状態で、直径24mm、F数1の収束超音波トランスデューサを密着させ音響強度を0から300W/cm2まで変化させて4MHzの超音波を4周期分照射した際のゲルの概観の一例を図2に示す。図2は、超音波照射後のゲルを黒い板に載せ、写真を撮影した後に画像処理により二値化したものである。音響強度0(超音波照射なし)の場合には、ゲルは黒いままであり、ゲルが光学的にほぼ透明であることを示している。これに対し、超音波を照射した際には、焦点付近が白くなる現象が見られた。この白くなる領域は超音波強度が高いほど大きいことがわかる。このことより、本試験例にて用いたゲルが一定の超音波強度(図2の場合、音響強度50W/cm)以上の超音波を照射された部位が白くなるという特徴を示すことが明らかである。なお、超音波照射の長さが4周期から10秒(約4×10周期相当)まで変化させてもほぼ同様の効果が見られた。なお、上述のゲル調製法(2)により調製したゲルを用いて、ほぼ同様の結果を得た。
【0030】
<試験例2>液滴サイズを変えた際の超音波感受性変化に関する試験
上述のごとく、液滴サイズは調製条件により変更可能である。平均粒径が異なる液滴をゲルに封入した場合の図2に示すゲルの変化が生じる超音波強度の依存性を調べた結果の一例を図3に示す。超音波照射の条件は試験例1と同じである。図3の横軸は平均粒径を対数表示したものであり、縦軸は図2に示されるゲルの変化が生じる最小の超音波強度(超音波強度閾値)をそれぞれ示す。平均粒径が0.5μm以下の場合には、超音波強度閾値は約130-160W/cm2と高い値を示し、0.5μmを超える平均粒径の場合には、粒径に対する依存性はほとんどなく、約40W/cm2という値を示した。この結果より、本試験で用いたゲルにおいて粒径を0.5μmよりも小さくするか大きくするかで超音波感受性を変化させることができることが明らかである。(なお、上述のゲル調製法(2)により調製したゲルを用いて、ほぼ同様の結果を得た。
【0031】
<試験例3>異なる粒径の液滴を混合した際の超音波感受性に関する試験
粒径が異なると、図3に示すごとく超音波への感受性は変化する。ただし、その変化は粒径に対して急激なものである。超音波感受性を細かく変化させるため、超音波感受性の低い小粒子液滴(例として粒径0.2μm)と当該小粒子液滴よりも粒径が大きくかつ超音波感受性の高い大粒子液滴(例として粒径1μm)とを比率を変更して混合した液滴群を用い、それ以外は試験例1、2と同一の実験系において、試験例2と同様に超音波強度に関する閾値を求めた結果の一例を図4に示す。図4の横軸は液滴全体に占める大粒子の割合を、縦軸は図2と同じく液滴を封じ込めたゲルが変化を起こす超音波強度をそれぞれ示している。図から、大粒子の割合が重量比で0〜50%の間の場合には、大粒子の割合に依存して超音波強度閾値が変化し、割合が高いほど閾値が低いことがわかる。その変化は、割合の変化に対して十分緩やかであり、割合を調合することで、ゲルの超音波感受性を細かく制御できることがわかる。なお、同様の効果が、大粒子液滴のサイズを0.7μm以上20μm以下の間で変化させて行った実験でも得られた。小粒子液滴のサイズを0.1μm以上0.5μm以下の範囲で変化させて行った場合も同様であった。また、液滴内のパーフルオロペンタンをパーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタンに変更して同様の実験を行い、ほぼ同様の結果を得た。なお、上述のゲル調製法(2)により調製したゲルを用いて、ほぼ同様の結果を得た。
以上の試験例より、本発明における液滴を封入したゲルが制御された超音波感受性を有し、一定の強度以上の超音波を照射することによって光学的な変化を生じることが明らかになった。
【0032】
<試験例4>温度上昇指示剤を含むゲルを用いて超音波強度に関する情報と温度上昇に関する情報を得る工程に関する試験例
上述のゲル調製法(2)に従って調製したゲルを37℃に保温した状態で、直径24mm、F数1の収束超音波トランスデューサを密着させ音響強度300W/cm2の4MHzの超音波を1msあるいは2s照射した直後に4℃へ冷却した。1時間4℃に保ったあと常温に戻した際のゲルの概観の一例を図5に示す。図5は、超音波照射後のゲルを黒い板に載せ、写真を撮影した後に画像処理により二値化したものである。超音波照射時間にかかわらず、超音波照射直後は焦域に相当する部位に白変領域が観察される。超音波照射時間が2sの場合には、4℃で処理しても超音波の照射された部位は白いままであり、超音波照射によりタンパクの変性温度(約65℃)に達したことがわかる。これに対し、超音波照射時間が1msの場合には、照射直後に観察された白変は4℃処理によりほぼ消失しており、この場合には温度上昇はなかったことがわかる。以上の結果より、本発明における超音波ファントムを超音波照射直後に光学的に観察し、さらにより低温へ冷却した後に光学的に観察することにより超音波強度および温度上昇に関し情報が得られることが明らかである。なお、低温処理の温度を−20℃以上10℃以下に変化させ、また、処理時間を10分から3時間まで変化させて実験を行い、ほぼ同様の結果を得た。
【0033】
<実施例1>超音波焦域およびその前後で超音波感受性の異なるゲルを含むファントムの例
以下、本発明の一実施例について、図6および図7を用いて説明する。図6はファントムの外枠を示す図である。外枠本体1、超音波照射用音響窓2、超音波照射結果観察用窓3、超音波反射防止層4からなる。図7は液滴を封入したアクリルアミドゲルであり、ファントム本体である。焦域前用ゲル5、焦域用ゲル6、焦域後用ゲル7からなる。使用時は、まず、ゲル5,6,7を調製し、図6に示す外枠にはめ込み、図示されないふたにより密閉する。ファントムとしての使用時は、線量を測定する超音波照射源を超音波照射用音響窓2に密着させ超音波を照射し、超音波照射結果観察用窓3より結果を観察する。超音波照射源と超音波照射用音響窓2とを密着させられない場合、ファントムおよび超音波照射源を水槽に入れて超音波を照射することもできる。また、超音波照射用音響窓2と超音波照射源との間を音響ゼリーなどの音響カップリング剤で満たして照射することもできる。本実施例の形態として、超音波照射源の焦域(超音波の焦点を含む領域)においては目標とする超音波強度よりも高い超音波強度が照射され、焦域の前および後ろでは目標とする超音波強度以下が照射されることを確認する用途を考えると、例えば焦域前用ゲル5、焦域後用ゲル7には試験例3における大粒子径液滴の割合が重量比で50%以上の組成のものを、焦域用ゲル6には試験例3における大粒子径液滴の割合が重量比0〜10%の組成のものを用いることにより焦域において超音波強度が概ね100W/cm以上で、焦域の前と後ろで40W/cmよりも低いことを調べることが可能となる。
【0034】
<実施例2>超音波焦域の超音波強度を推定するためのファントムの例
以下、図8および図9を用いて本発明の一実施例について説明する。図8はファントムの外枠を示す図である。外枠本体1と超音波照射用窓2とから構成されている。図9は、液滴を封入したゲルであってファントム本体であるものを示す図である。超音波感受性の異なるゲル8−1〜2nが層状に積み重なった形状となっている。使用時には、図9に示すゲルを図8に示す外枠にはめ込み、図示されないふたにより密閉する。ファントムとしての使用時は、測定対象となる超音波照射源を超音波照射用音響窓2に密着し、超音波感受性の高いゲルから順に超音波を照射しつつ超音波照射源を移動する。超音波感受性を変更するには、試験例4に示したように、大粒子液滴と小粒子液滴との割合を変更したゲルを調製することにより達成可能である。
【0035】
<実施例3>超音波ファントムと組み合わせ超音波強度と温度上昇に関する情報を取得する装置の例
以下、図10を用いて本発明の一実施例について説明する。本実施例における超音波ファントムと組み合わせて用いる装置は、ファントム保持部9、温度調整部10、温度調整制御部11、ファントム撮影部12、装置制御部13、表示部14から構成される。ファントム保持部9は図7あるいは図9に示されるようなファントムを保持し、超音波を照射できるよう構成されている。温度調整部10は、−10℃から40℃の範囲でファントム保持部10内に置かれたファントムの温度を制御できるよう構成されており、温度調整制御部11により制御される。ファントム撮影部12はファントム全体を撮影できるよう構成されており、撮影結果は装置制御部13に転送される。装置制御部13は、温度調整制御部11およびファントム撮影部12の制御を行い、かつファントム撮影部12により撮影されたファントム画像を保持し、二値化、重ね合わせなどの画像処理を行えるよう構成されている。表示部14は、ファントム画像を表示できるよう構成されている。制御部13はユーザからの入力により超音波照射時の温度、低温処理時の温度および時間を設定できるよう構成されており、超音波照射後および低温処理終了時にファントム撮影部12に撮影を開始する制御信号を送信する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明による超音波ファントムによれば、数波の短いパルス超音波から連続波まで広い範囲に対応し、かつ異なる強度の超音波強度に感応して照射された超音波の強度を可視化することができる。本発明は医療分野における各種診断、治療において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の超音波ファントムに用いる液滴の粒径分布の一例を示す図。
【図2】本発明の超音波ファントムに用いる液滴をゲルに封入して収束超音波を照射した後の光学像の一例を示す図。
【図3】本発明の超音波ファントムに用いるゲル中の液滴の粒径を変化させた場合にゲルが光学的変化を生じる超音波強度閾値を測定した結果の一例を示す図。
【図4】本発明の超音波ファントムに用いるゲル中に大粒子液滴(粒径1μm)と小粒子液滴(粒径0.2μm)とを割合を変化させて混合して封入した場合に、ゲルが光学的変化を生じる超音波強度閾値を測定した結果の一例を示す図。
【図5】本発明の超音波ファントムに用いゲルに超音波を照射した直後および低温処理した後のファントムを示す図。
【図6】本発明の超音波ファントムの一実施例の外枠を示す図。
【図7】本発明の超音波ファントムの一実施例のファントム本体ゲルを示す図。
【図8】本発明の超音波ファントムの一実施例の外枠を示す図。
【図9】本発明の超音波ファントムの一実施例のファントム本体ゲルを示す図。
【図10】本発明の超音波ファントムと組み合わせて用いる装置の一例を示す図。
【符号の説明】
【0038】
1:ファントム外枠本体
2:超音波照射用窓
3:超音波照射結果観察用窓
4:超音波吸収材
5:焦域前用ゲル
6:焦域用ゲル
7:焦域後用ゲル
8:ゲル
9:ファントム保持部
10:温度調整部
11:温度調整制御部
12:ファントム撮影部
13:装置制御部
14:表示部
【出願人】 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【出願日】 平成18年6月21日(2006.6.21)
【代理人】 【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔


【公開番号】 特開2008−281(P2008−281A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−171744(P2006−171744)