トップ :: A 生活必需品 :: A23 食品または食料品;他のクラスに包含されないそれらの処理

【発明の名称】 加熱劣化臭抑制方法
【発明者】 【氏名】岡本 勝之

【氏名】中西 泰介

【氏名】山田 浩平

【要約】 【課題】飲食物及び医薬品の新規な加熱劣化臭抑制方法を提供すること。

【解決手段】含硫アミノ酸及び/又は不飽和脂肪酸を含有する飲食物又は医薬品の加熱劣化臭抑制方法であって、前記飲食物又は医薬品に、(1)グルコース重合度(DP)10以上の糖成分を含み、(2)30重量%の水溶液を4℃で1日間保存したときにゲル形成しない、という以上(1)及び(2)の特徴を有する糖組成物を含有させることにより飲食物又は医薬品の加熱劣化臭を抑制する加熱劣化臭抑制方法を提供する。該加熱劣化臭抑制方法は、簡便な方法であるため、種々の広範な分野への適用が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含硫アミノ酸及び/又は不飽和脂肪酸を含有する飲食物又は医薬品の加熱劣化臭抑制方法であって、
前記飲食物又は医薬品に、以下の特徴を有する糖組成物を含有させることにより飲食物又は医薬品の加熱劣化臭を抑制する加熱劣化臭抑制方法。
(1)グルコース重合度(DP)10以上の糖成分を含む。
(2)30重量%の水溶液を4℃で1日間保存したときにゲル形成しない。
【請求項2】
前記飲食物又は医薬品に対する前記糖成分の固形分含有量が0.5重量%以上となるように、前記飲食物又は医薬品に前記糖組成物を含有させることを特徴とする請求項1記載の加熱劣化臭抑制方法。
【請求項3】
前記飲食物又は医薬品の加熱による有臭化合物の生成を抑制することを特徴とする請求項1又は2記載の加熱劣化臭抑制方法。
【請求項4】
前記有臭化合物は、硫化化合物及び/又はケトンであることを特徴とする請求項3記載の加熱劣化臭抑制方法。
【請求項5】
前記硫化化合物は、ジメチルスルフィド及び/又はジメチルジスルフィドであることを特徴とする請求項4記載の加熱劣化臭抑制方法。
【請求項6】
前記ケトンは、2−ペンタノン、2−ヘプタノン、2−ノナノン、2−ウンデカノン、2−トリデカノンから選択された1以上の化合物であることを特徴とする請求項4記載の加熱劣化臭抑制方法。
【請求項7】
前記飲食物又は医薬品は、乳又は乳成分を含有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の加熱劣化臭抑制方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食物又は医薬品の加熱劣化臭抑制方法に関する。より詳しくは、含硫アミノ酸及び/又は不飽和脂肪酸を含有する飲食物又は医薬品に特定の物性を示す糖組成物を含有させることにより前記飲食物又は医薬品の加熱劣化臭を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
乳及び乳製品は、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルなどを含有し、栄養学的にバランスが取れた食品であり、主材として、または副資材として加工食品などに広く使用されている。
【0003】
前記乳及び乳製品を用いた加工食品又は医薬品の製造工程における加熱処理は、安全性及び品質保持の面から非常に重要な工程である。加熱処理を行うことで微生物汚染の防止や酵素を不活性化することにより、安全性と安定品質を確保している。
【0004】
例えば、牛乳の加熱殺菌法には、低温保持殺菌法(62〜65℃で30分)、高温短時間殺菌(72℃で15秒または、80℃で10〜15秒)、超高温短時間殺菌法(120〜130℃で2秒)、超高温殺菌法(135〜150℃で1〜4秒)などの加熱殺菌処理が行われている。
【0005】
一方、殺菌方法によってその風味が変わる場合があることも知られており、過度の加熱処理は食品として好ましくない風味(加熱劣化臭)を生じる場合があり、品質の低下を招く恐れがある。
【0006】
この加熱劣化臭の発生は(1)乳タンパク質中のポリペプチド鎖中の‐SH基を有するアミノ酸(シスチンやシステインなどの含硫アミノ酸)から生じる、ジメチルスルフィドやジメチルジスルフィドのような硫化化合物、(2)乳脂肪の酸化、分解により生じる、アルデヒド、ケトン、アルコール、及びギ酸をはじめとする有機酸、等に起因すると考えられている。
【0007】
乳及び乳製品を用いた加工食品又は医薬品の加熱処理における前記硫化化合物の生成メカニズムは、以下の通りであると考えられている。
【0008】
すなわち、(1)乳タンパク質が、熱変性を受け、ポリペプチド鎖中の含硫アミノ酸残基のジスルフィド結合が開裂し、‐SH基が露出する。(2)溶存する酸素が、乳脂肪中の不飽和脂肪酸と反応してラジカル化された過酸化脂質が発生する。(3)乳タンパク質中のポリペプチド鎖中の‐SH基とラジカル化された過酸化脂質と反応し、硫化化合物が産生する。
【0009】
このため、脂肪分が多い乳製品では、特にラジカル化された過酸化脂質が多く発生しやすいために、硫化化合物の発生量が多くなり加熱劣化臭が発生しやすい。
【0010】
また、含硫化合物以外にケトン類(2‐ペンタノン、2‐ヘプタノン、2‐ノナノン、2‐ウンデカノン、2‐トリデカノン)等も、乳及び乳製品用いた加工食品又は医薬品の加熱処理によって生じる加熱劣化臭の原因成分として知られている。
【0011】
牛乳等の加熱劣化臭抑制方法として、牛乳等の溶存酸素を窒素ガスと置換し、加熱殺菌工程においてジメチルスルフィドやジメチルジスルフィドなどの生成を抑制する方法が知られているが、特殊な窒素ガス置換装置などを要する。
【0012】
これに対し、糖質、特に低分子の非還元糖質を乳及び乳製品に添加することにより、加熱劣化臭を抑制する方法が知られている。例えば、特許文献1には、乳又は乳製品にα−グリコシルトレハロースを含有せしめることを特徴とする乳加熱臭の生成抑制方法が開示されている。また、特許文献2には、乳及び乳製品に糖アルコールを添加し、乳タンパク質の遊離スルフヒドリルをブロックしてタンパク質の熱変性を防止するようにしたことを特徴とする乳および乳製品の加熱変性防止方法が開示されている。
【0013】
一方、DP値の高いデキストリンを主とする多糖類の乳及び乳製品への添加については、特許文献3又は4の例が開示されているが、その用途は、風味の調整や冷凍耐性の付与などであり、デキストリンを添加することによる乳及び乳製品の加熱劣化臭抑制効果については、開示されていない。
【特許文献1】特開2006−094856号公報。
【特許文献2】特開平11−46683号公報。
【特許文献3】特開平2004−337166号公報。
【特許文献4】特開平2006−34284号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記の低分子の非還元糖質を使用する乳及び乳製品の加熱劣化臭抑制方法は、牛乳中の溶存酸素を不活性な窒素ガスと置換するような特殊機械を必要とせず、簡便に出来る点でメリットがある。しかしながら、前記低分子の非還元糖質の多量摂取による下痢の誘発の可能性があるほか、甘みを呈する為、飲食物や医薬品への添加量や使用できる食品又は医薬品分野が限定されるというデメリットがある。
【0015】
そこで、本発明は、含硫アミノ酸及び/又は不飽和脂肪酸を含有し、加熱処理を行う飲食物又は医薬品の加熱劣化臭を、簡便に抑制できる方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、飲食物又は医薬品の加熱劣化臭の抑制方法について鋭意研究した結果、特定の物性を示す糖組成物を用いることにより、簡便に加熱劣化臭を抑制できる方法を新規に見出した。
【0017】
すなわち、本発明は、含硫アミノ酸及び/又は不飽和脂肪酸を含有する飲食物又は医薬品の加熱劣化臭抑制方法であって、前記飲食物又は医薬品に、(1)グルコース重合度(DP)10以上の糖成分を含み、(2)30重量%の水溶液を4℃で1日間保存したときにゲル形成しない、という以上(1)及び(2)の特徴を有する糖組成物を含有させることにより飲食物又は医薬品の加熱劣化臭を抑制する加熱劣化臭抑制方法を提供する。
本発明に係る加熱劣化臭抑制方法では、前記飲食物又は医薬品に対する前記糖成分の固形分含有量が0.5重量%以上となるように、前記飲食物又は医薬品に前記糖組成物を含有させれば、より確実に加熱劣化臭を抑制することができる。
本発明に係る加熱劣化臭抑制方法は、前記飲食物又は医薬品の加熱による有臭化合物の生成を抑制することにより加熱劣化臭を抑制するものである。
また、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法において、加熱により生成する有臭化合物は特に限定されないが、一例としては、硫化化合物及び/又はケトンが挙げられる。さらに、前記硫化化合物の一例としては、ジメチルスルフィド及び/又はジメチルジスルフィド等が、前記ケトンの一例としては、2−ペンタノン、2−ヘプタノン、2−ノナノン、2−ウンデカノン、2−トリデカノン等がそれぞれ挙げられる。
本発明に係る加熱劣化臭抑制方法は、含硫アミノ酸及び/又は不飽和脂肪酸を含有する飲食物又は医薬品であれば、その種類は特に限定されないが、例えば、乳又は乳成分を含有する飲食物又は医薬品に用いることができる。
【0018】
ここで、本発明に関する技術用語の説明をする。「有臭化合物」とは、臭いを有する化合物を意味し、臭いを有する化合物全てを包含する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、含硫アミノ酸及び/又は不飽和脂肪酸を含有し、加熱処理を行う飲食物又は医薬品の加熱劣化臭を、簡便に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
まず、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法を使用できる飲食物、及び医薬品について説明する。
【0022】
本発明に係る加熱劣化臭抑制方法を使用できる飲食物は、含硫アミノ酸及び/又は不飽和脂肪酸を含有し、加熱処理を行うものであれば、その種類は特に限定されない。例えば、牛乳、ジュース、スポーツ飲料、お茶、コーヒー、紅茶などの飲料、醤油などの調味料、スープ類、クリーム類、各種乳製品類、アイスクリームなどの冷菓、各種粉末食品(飲料を含む)、保存用食品、冷凍食品、パン類、菓子類などの加工食品など、あらゆる飲食物に用いることができる。また、保健機能食品(特定保健機能食品、栄養機能食品、飲料を含む)や、いわゆる健康食品(飲料を含む)、濃厚栄養剤、流動食、乳児・幼児食にも用いることができる。
【0023】
さらに、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法は、牛、馬、豚などの家畜用哺乳類、鶏、ウズラなどの家禽類、爬虫類、鳥類あるいは小型哺乳類などのペット類、養殖魚類などの飼料にも使用することが可能である。
【0024】
本発明に係る加熱劣化臭抑制方法を使用できる医薬品は、含硫アミノ酸及び/又は不飽和脂肪酸を含有し、加熱処理を行うものであれば、その種類は特に限定されない。例えば、剤型成形のための賦形剤を用いることが多い錠剤、散剤、顆粒剤や、炭水化物源などを含有する経腸栄養剤等に使用することが可能である。
【0025】
次に、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法に用いる糖組成物について説明する。
【0026】
本発明で用いる糖組成物は、DP10以上の糖成分を含有し、かつ、30重量%水溶液を4℃で1日間保存したときゲル形成しないことを特徴とする。
【0027】
前記糖組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、澱粉又は多糖類を酵素的及び/又は化学的に分解、また、アミラーゼや枝つくり酵素などの酵素を必要に応じて組み合わせることによって得ることができる。また、その他の例としては、クロマトグラフィーや分画膜による分離、エタノールやメタノールなどの有機溶媒を用いた分画法を組み合わせることで、DP10以上の糖成分を濃縮してもよい。さらに、本発明に係る糖組成物を還元処理したものも使用できる。例えば、本発明に係る糖組成物にニッケル触媒などの金属触媒を使用し、高温高圧下で水素を反応させ、非還元糖質として使用することもできる。
【0028】
ここで、30重量%水溶液を4℃で1日間保存したときにゲル形成する糖組成物は、飲食品の加熱劣化臭抑制効果が低く、また、低温保存後の物性変化(例えば、糖組成物の高分子成分同士が会合し、濁りや離水などの老化現象)が大きいため、低温で保持が必要な飲食物や医薬品では品質低下を招く恐れがある。
【0029】
一方、本発明で用いる糖組成物は、30重量%水溶液を4℃で1日間保存したときにゲル形成しないため、低温保存においても物性が安定しており、低温で保持が必要な飲食物や医薬品においても、好適に用いることができる。
【0030】
本発明の糖組成物中のDP10以上の糖成分は、加熱劣化臭の発生を抑制する有効成分であるが、低甘味で、高温下でも安定性が高く、メイラード反応も比較的起こし難いため、前記糖組成物中に高濃度で含有させることができる。また、還元処理されたものは更に安定性が高く、メイラード反応も生じない。
【0031】
本発明に係る糖組成物中のDP10以上の糖成分の含有量は、特に限定されないが、幅広い食品分野及び医薬分野への適性を考慮すると30重量%以上が好適である。
【0032】
本発明に係る糖組成物の飲食物又は医薬品への有効添加量は、特に限定されないが、より高い加熱劣化臭抑制効果を発揮するためには、好ましくは、DP10以上の糖成分を、飲食物又は医薬品に対して固形分で0.5重量%以上、より好ましくは固形分で1重量%以上含有させると良い。
【0033】
添加の上限は、DP10以上の糖成分の含有量や飲食品又は医薬品の種類によって大きく異なるが、使用する飲食物又は医薬品の基本物性を大きく妨げない程度まで添加することができる。
【0034】
なお、糖組成物の性状は、特に限定されず、加熱劣化臭を抑制しようとする飲食物又は医薬品に合わせて、液状のものや粉末のものを選択することができる。また、粉末の場合には、溶解しやすいように造粒処理などの粉体形状を加工することもできる。
【0035】
また、本発明に係る糖組成物は、糖質以外のその他の副資材を含有させることもできる。その他の副資材としては、特に限定されないが、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸などのpH調整剤、塩化ナトリウムや塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸塩などの塩類、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、トレハロース、グリコシルトレハロースなどの非還元糖質、また、各種調味料、乳化剤、安定剤、香料などを必要に応じて併用することができる。
【0036】
本発明に係る加熱劣化臭抑制方法において、液体又は粉体の糖組成物又はその他副資材が添加された糖組成物の飲食物又は医薬品への添加方法は、特に限定されず、添加する飲食物又は医薬品により、加熱処理前に添加する方法、加熱処理後に添加する方法のいずれかの方法を選択することができる。熱処理した後に添加する方法でも、加熱劣化臭の抑制効果はあるが、加熱処理前に添加する方が加熱劣化臭抑制効果は高い。
【0037】
本発明の加熱劣化臭抑制方法に係る糖組成物は、加熱劣化臭抑制効果が安定的に得られるため、できるだけ均一に存在させるのが好ましい。例えば、飲食物又は医薬品が液状またはペースト状である場合、粉状または液状の前記糖組成物を添加し、攪拌することにより、均一に存在させることができる。
【0038】
次に、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法のメカニズムについて、以下、説明する。
【0039】
本発明に係る加熱劣化臭抑制方法は、飲食物又は医薬品の加熱により、臭いを有する化合物(以下「加熱劣化有臭化合物」と称する。)が生成するのを抑えることで、加熱劣化臭を抑制するものである。このような加熱劣化臭を抑制する作用は、前記糖組成物が食品成分を分子レベルで覆うことで熱から護ること(保護作用)に依ると推定される。さらに、熱処理した後に本発明の糖組成物を添加しても、加熱劣化臭を抑制できることから、加熱劣化有臭化合物との相互作用により、揮発を抑制している可能性も考えられる。
【0040】
前記糖組成物のゲル形成性と加熱劣化臭抑制方法との関係は、以下のように推察される。DP10以上の糖成分を含み、ゲル形成する糖組成物は、食品成分の熱に対する保護作用に比べて、糖組成物の高分子同士の分子間相互作用が強いため(ゲル形成性が強い為)、相対的に加熱劣化を抑制する効果が低くなると考えられる。一方、DP10以上の糖組成物を含み、ゲル形成しない糖組成物では、ゲル形成する糖組成物より高分子同士の分子間相互作用は弱くなる。従って高分子同士の分子間相互作用に比べて、食品成分の熱に対する保護作用が強くなるため、加熱劣化を抑制する効果が高くなる。また、DP10未満の糖成分はゲル形成しないものの、食品成分の熱に対する保護作用も弱くなるため、加熱劣化の抑制効果は低くなる。
【0041】
本発明に係る加熱劣化臭抑制方法により生成を抑制し得る加熱劣化有臭化合物は、特に限定されないが、例えば、硫化化合物又は/及びケトンが挙げられる。
【0042】
そして、前記硫化化合物は、特に限定されないが、一例としては、ジメチルスルフィド及び/又はジメチルジスルフィド等が挙げられる。また、前記ケトンについても、特に限定されないが、一例として、2−ペンタノン、2−ヘプタノン、2−ノナノン、2−ウンデカノン、2−トリデカノン等が挙げられる。
【0043】
本発明に係る加熱劣化臭抑制方法を用いることができる飲食物及び医薬品としては、前記で示した通り、特に限定されないが、乳又は乳成分を含有するものに特に好適に用いることができる。脂肪分が多い乳又は乳成分を含有する飲食物及び医薬品では、ラジカル化された過酸化脂質が多く発生しやすいために硫化化合物の発生量が多くなり、加熱劣化臭が発生しやすい。そのため、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法を用いることによって、効果的に加熱劣化臭を抑制することができる。
【0044】
前記乳又は乳成分を含む飲食物は、特に限定されないが、例えば、生乳牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、チーズ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、練乳、全粉乳、脱脂粉乳、加糖粉乳、調整粉乳、濃縮ホエイ、ホエイパウダー等が挙げられる。また、前述の乳や乳成分を原料として使用した飲食品全般に用いることができ、例えば、発酵乳や乳製品を含んだ清涼飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、果汁入り飲料、ゼリー、ムース、ババロア、プリン、クリーム類、ホワイトソース等が一例として挙げられる。
【0045】
前記乳又は乳成分を含む医薬品は、特に限定されないが、例えば、乳由来たんぱく質、乳由来脂質、乳由来カルシウム、乳由来ビフィズス菌等を含有した医薬品などが挙げられる。また、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法は、最終的な医薬品の加熱劣化臭を抑制するのみでなく、製造段階での加熱劣化臭抑制にも好適に用いることができる。
【実施例1】
【0046】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1では、各種糖組成物の調製を行い、各種糖組成物の物性特性を分析した。
【0048】
<糖組成物の調製>
(1)糖組成物1
10重量%炭酸カルシウムでpH5.8に調整した30重量澱粉スラリーに、対固形分0.2%のα‐アミラーゼ(ターマミル(登録商標)、ノボザイムズジャパン株式会社製)を加え、ジェットクッカー(温度110℃)で液化した。この液化液にα‐アミラーゼを対固形分0.1%添加し、経時的にDE(デキストロース当量)を測定した。DEが約25になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸によって反応を停止させた。DE約25の糖化液を噴霧乾燥して糖組成物1を調製した。
(2)糖組成物2
糖組成物1の調製工程で得られるDE約25の糖化液を、活性炭・イオン精製処理後、濃縮し、クロマト分離装置に供して分画した。分画した画分を高速クロマトグラフィーで分析し、DP10以上の糖成分が約70重量%になるように画分を混合、噴霧乾燥して糖組成物2を調製した。
(3)糖組成物3
糖組成物2と同様の方法で、DP10以上の糖成分が約80重量%になるように画分を混合、噴霧乾燥して糖組成物3を調製した。
(4)糖組成物3’
上記で得られた糖組成物3を濃度50重量%で溶解し、対固形分4%のラネーニッケル触媒の存在下で、水素圧50kg/cm2、温度110℃にて反応時間90分で還元した。還元処理した溶液を、活性炭・イオン精製処理後、濃縮した。該濃縮液を噴霧乾燥して糖組成物3’を調製した。
(5)糖組成物4
糖組成物1と同様の方法で、DE約10の糖化液を調製し、これを噴霧乾燥して糖組成物4を調製した。
(6)糖組成物5
糖組成物1と同様の方法で、DE約8の糖化液を調製し、これを噴霧乾燥して糖組成物を調製した。
【0049】
<糖組成の測定>
調製した各種糖組成物1〜5中のDP10以上の糖成分の含量は、高速液体クロマトグラフィー用カラムMCI GEL CK04S(三菱化学工業社製)で分離した後、示差屈折計で検出する高速液体クロマトグラフィーシステムにより測定した。溶出溶媒として水を用い、流速0.35ml/分、カラム温度60℃にて分析した。
【0050】
<糖組成物のゲル形成性評価>
調製した各種糖組成物1〜5について、20重量%および30重量%溶液を調製し、これを直径5cm、高さ2.5cmの金枠に流し込み、水分が放出しないように密閉し、4℃で1日間保存した。1日保存したサンプルを30度に傾斜した板の上に置き、金枠を外しても30秒間流れ落ちない状態をゲル形成している状態とした。
【0051】
各種糖組成物1〜5のゲル形成性及びDP10以上の含有量を表1に示す。ゲル形成性は、ゲル化しないものを○、ゲル化するものを×とした。
【表1】


【実施例2】
【0052】
実施例2では、実施例1で調製した各種糖組成物1〜5を飲食物に含有させ、加熱劣化臭の抑制効果を官能評価により検討した。飲食物の一例として、牛乳を用いた。
【0053】
<乳飲料の調製>
実施例1で調製した各種糖組成物1〜5を、市販の牛乳に、各2重量%になるように添加、溶解し、密栓した。各種糖組成物1〜5が溶解した牛乳を80℃、40分間加熱処理し、乳飲料1〜5を調製した。調製した乳飲料1〜5を、官能評価まで4℃で保存した。各種糖組成物の替わりに砂糖を用いたものを対照区とした。
【0054】
<加熱劣化臭の抑制効果(官能評価)>
官能評価は10名のパネラーで行い、砂糖を2重量%添加した対照区1との比較で、加熱劣化臭が抑制されている、やや抑制されている、抑制されていない、の3段階の評価を実施した。総合評価は、半数以上が「抑制されている」または「やや抑制されている」と解答したものを○、半数以下の場合を×とした。
【0055】
官能評価の結果を、表2に示す。
【表2】


【0056】
表2に示す通り、DP10以上の糖成分を含有し、30重量%水溶液を4℃で1日間保存したときゲル形成しない糖組成物1、2、3を用いた乳飲料1、2、3の加熱劣化臭の抑制効果が高かった。また、20重量%水溶液を4℃で1日間保存したときゲル形成しないが、30重量%水溶液を4℃で1日間保存したときにはゲル形成する糖組成物4を用いた乳飲料4の加熱劣化臭の抑制効果は低いものであった。
【0057】
実施例2では、DP10以上の糖成分を含有し、ゲル形成しない糖組成物を飲食物に含有させることにより、加熱劣化臭を抑制することが分かった。また、ゲル形成の指標は、30重量%水溶液を4℃で1日間保存した時を基準とすべきことが確認できた。
【実施例3】
【0058】
実施例3では、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法における糖組成物の好適な含有量を検討した。
【0059】
<乳飲料の調製・加熱劣化臭の抑制効果(官能評価)>
具体的には、実施例1で調製した糖組成物3を用い、実施例2に示した方法に従い、牛乳に対するDP10以上の糖成分量がそれぞれ、0.2、0.5、1.0、2.0、5.0、10.0重量%となるように糖組成物3の添加量を変化させた。そして、糖組成物3を含有させた牛乳の加熱処理を行って乳飲料を調製した。その後、実施例2に示した方法に従い、官能評価を行った。
【0060】
官能評価の結果を表3に示す。
【表3】


【0061】
表3に示す通り、DP10の糖成分が0.5重量%以上となるように糖組成物を添加した乳飲料で加熱劣化臭の抑制効果が見られ、1重量%以上添加した乳飲料(3−3〜3−6)では、半数以上で抑制されているとの結果が得られた。
【0062】
実施例3では、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法において、より効果的に加熱劣化臭を抑制するためには、飲食物に対するDP10の糖成分が、0.5重量%以上となるように糖組成物を含有させればよいことが分かった。
【実施例4】
【0063】
実施例4では、糖組成物の添加のタイミングによる効果の違いを確認した。
【0064】
<調製乳の調整>
具体的には、実施例1で調製した糖組成物3と市販の牛乳を用い、無添加(対照区2)、加熱冷却後添加(試験区1)、加熱前添加(試験区2)に分けて比較した。添加量は試験区1で2及び5重量%とし、試験区2では2重量%とした。加熱条件は80℃、40分間とし、何れも、官能評価まで4℃で保存した。
【0065】
<加熱劣化臭の抑制効果(官能評価)>
官能評価は10名のパネラーで行い、無添加(対照区2)との比較で、加熱劣化臭が抑制されている、やや抑制されている、抑制されていない、の3段階の評価を実施した。総合評価は、半数以上が「抑制されている」又は「やや抑制されている」と解答したものを○、半数以下の場合を×とした。
【0066】
官能評価の結果を表4に示す。
【表4】


【0067】
表4に示す通り、加熱する前に添加した試験区2の方が、加熱冷却後に添加した試験区1より抑制効果は高かった。しかし、加熱処理後でも添加量を増やせば、ある程度の加熱抑制効果は得られることがわかった。
【0068】
実施例4では、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法において、より効果的に加熱劣化臭を抑制するためには、糖組成物を加熱処理前に添加することが好適であることが分かった。
【実施例5】
【0069】
実施例5では、実施例4の対照区2と試験区2の乳飲料について、加熱劣化有臭化合物の質量分析を行い、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法のメカニズムを調べた。
【0070】
具体的には、加熱劣化有臭化合物である硫化化合物(ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド)とケトン(2‐ペンタノン、2‐ヘプタノン、2‐ノナノン、2‐ウンデカノン、2‐トリデカノン)のガスクロマトグラフ質量分析を行った。
【0071】
<ガスクロマトグラフ質量分析>
ガスクロマトグラフ質量分析は、以下の手順で行った。
(1)固相マイクロ抽出法(Solid Phase Micro Extraction、以下「SPME」と称する。)による前処理を行った。SPME法は、まず、20mlバイアル(SUPELCO社製)に、調製した10mlの加熱処理乳飲料を入れ、セプタムキャップ(SUPELCO社製、テフロン(登録商標)シールされたもの)で密栓し、60℃、30分間、予備加熱した。次に、前記バイアルのヘッドスペース部分に、SPMEファイバーを30分間投入し、揮発成分の抽出を行った。SPMEファイバーは、肥厚75μmのCarboxen/PDMS(ポリジメチルシクロキサン)ファイバー(SUPELCO社製)を用いた。
【0072】
(2)次に、ガスクロマトグラフ質量分析装置による分析を行った。同分析装置のサンプル注入口に、抽出成分を含有するSPMEファイバーを入れ、各加熱劣化臭成分の定量を行った。ガスクロマトグラフ質量分析装置は、GCMS−GP5050A(株式会社島津製作所製)を用いた。キャピラリーカラムは、TC−FFAP(ジーエルサイエンス株式会社製)を用いた。キャリアガスにはヘリウムガスを用い、流量は1ml/minに設定した。サンプル注入口の温度は250℃に設定し、カラムの温度は、40℃で2分間の後、5℃/minで200℃まで昇温させ、200℃で4分間、維持した。キャピラリーカラムへの抽出成分の導入は、スプリットレス方式により行った。質量分析は、30〜400m/zの範囲で行った。
【0073】
結果を図1に示す。図1に示す通り、試験区2の加熱処理乳飲料は、対照区2の加熱処理乳飲料に比べ、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、2‐ペンタノン、2‐ヘプタノン、2‐ノナノン、2‐ウンデカノン、2‐トリデカノンを、それぞれ31、50、30、21、54、32、17%抑制していた。特にジメチルジスルフィドや2-ノナノンにおいては、抑制効果は大きいことが明らかとなった。
【0074】
実施例5では、本発明の糖組成物が、飲食物中に揮発可能な状態で存在する前記の種々の加熱劣化有臭化合物を減少させる効果があることが分かった。
【実施例6】
【0075】
実施例6では、本発明に係る加熱劣化抑制効果の有効性について、アイスクリームをモデルとして確認した。
【0076】
<アイスクリーム試作品の調製>
アイスクリーム試作品は表5記載の配合で調製した。具体的には、無塩バター以外の材料を合わせ、攪拌しながら70℃まで昇温して溶解させた。実施例1で調製した糖組成物3を用い、対照区3は本発明に係る糖組成物のかわりに昭和産業株式会社製のマルトリッチを用いた。無塩バター以外の材料を溶解したスラリーに、湯せんで溶解させた無塩バターを加え、攪拌しながら85℃まで昇温させた。85℃で1時間保持した後、流水で室温まで冷却し、TKホモミキサーで8000rpm、5分間、予備乳化させた。予備乳化後、重量を測定し、加熱により減った水分を補充し、高圧ホモジナイザーを用い、15MPaで均質化した。一昼夜4℃で保管した均質化したスラリーをアイスクリーム製造機に供し、アイスクリーム試作品を調製した。
【表5】


【0077】
<加熱劣化臭の抑制効果(官能評価)>
官能評価は10名のパネラーで行い、−40℃で3日間保管したアイスクリーム試作品を用いて実施した。官能評価は実施例2の方法に従った。
【0078】
官能評価の結果を表6に示す。
【表6】


【0079】
表6に示す通り、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法を用いた試験区3では、対照区3と比較して顕著に乳加熱劣化臭が抑制されているとの結果が得られた。
【0080】
実施例6では、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法を用いることにより、アイスクリームの加熱劣化臭を抑制できることが分かった。
【実施例7】
【0081】
実施例7では、本発明に係る加熱劣化抑制効果の有効性について、乳飲料(ミルクティー)をモデルとして確認した。
【0082】
<乳飲料(ミルクティー)の調製>
ミルクティー試作品は表7記載の配合で調製した。試験区4には糖組成物3’を用い、対照区は本糖組成物の替わりにマルチトール(日研化学株式会社、マルビット(登録商標))を用いた。具体的には、表7記載の材料を混合し、均質化し、重曹を添加してpH6.8に調整した。この溶液を缶に充填し密閉した後、オートクレーブ(121℃、20分)を行い、ミルクティー試作品を調製した。
【表7】


【0083】
<加熱劣化臭の抑制効果(官能評価)>
官能評価は10名のパネラーで実施した。官能評価の方法は実施例1の方法に従った。
【0084】
官能評価の結果を表8に示す。
【表8】


【0085】
表8に示す通り、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法を用いた試験区4では、対照区4と比較して顕著に乳加熱劣化臭が抑制されているとの結果が得られた。
【0086】
実施例7では、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法を用いることにより、乳飲料(ミルクティー)の加熱劣化臭を抑制できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、飲食物及び医薬品の加熱処理により生じる加熱劣化臭を抑制する技術として有用である。本発明に係る加熱劣化臭抑制方法を用いることにより、加熱処理を行う飲食物及び医薬品の加熱劣化臭を、簡便な方法で抑制することができる。
【0088】
また、本発明に係る加熱劣化臭抑制方法は、特定の物性を示す糖組成物を含有させるだけの簡便な方法であるため、該当組成物により悪影響を及ぼさない限り、飲食物及び医薬品に限らず、化粧品分野等への幅広い応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施例4に係るガスクロマトグラフ質量分析結果のグラフである。
【出願人】 【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
【出願日】 平成19年5月30日(2007.5.30)
【代理人】 【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫


【公開番号】 特開2008−295335(P2008−295335A)
【公開日】 平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願番号】 特願2007−143413(P2007−143413)