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【発明の名称】 乾燥麺用酵素製剤及びそれを用いる乾燥麺の製造方法
【発明者】 【氏名】山田 律彰

【氏名】小川 哲平

【氏名】岡本 武

【氏名】若林 秀彦

【要約】 【課題】ゆで時間や湯戻し時間が短縮され、かつゆで伸びや湯伸びが抑制された麺類を提供する。

【解決手段】麺類の製造に、トランスグルコシダーゼ含有製剤を用いる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスグルコシダーゼを用いる乾燥麺の製造方法。
【請求項2】
乾燥麺が乾燥パスタ又は即席麺である請求項1記載の方法。
【請求項3】
トランスグルコシダーゼの量が原料粉1g当り1.5〜300,000Uである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
トランスグルコシダーゼを含有することを特徴とする乾燥麺用製剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスグルコシダーゼを含有する乾燥麺用酵素製剤及びそれを用いる乾燥麺の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
麺類のゆで上げには、例えば通常の1.8mm径の乾パスタで約9分、太いものでは15分を超える時間を要する。 調理に要する時間が短縮化されている現代の家庭においては、このように長い時間を要する調理工程は好まれず、また外食店においても調理時間の短縮は最大の課題となっている。これを解決する為、これまでに様々な試みがなされており、例えば焙焼により発泡化させ内部に空胞構造を作る方法(特許文献1)、油脂α化澱粉を配合する方法(特許文献2)、フラクトオリゴ糖を配合する方法(特許文献3)、分岐オリゴ糖を配合する方法(特許文献4)、アルギン酸カルシウムの凝固性被膜を形成させる方法(特許文献5)などが挙げられる。しかし、これらの方法によりゆで時間や湯戻し時間は短縮されるものの、同時にゆで伸びが起こりやすくなるという欠点があった。
【0003】
一方、ゆで伸びを防止する方法としては、ヒドロキシプロピルセルロースを配合する方法(特許文献6)、卵白の酵素加水分解物を配合する方法(特許文献7)、牛乳を配合する方法(特許文献8)などが知られているが、逆に長いゆで時間を要するといった課題があった。このように、ゆで時間や湯戻し時間の短縮とゆで伸びや湯伸びの抑制は逆行する事象であり、これらを同時に実現するのは容易ではないが、これを実現した事例が幾つか報告されている。例えば、カードランを配合する方法(特許文献9)、ジグリセリン脂肪酸エステルと有機酸を配合する方法(特許文献10)、澱粉加水分解酵素と卵を配合する方法(特許文献11)、粒径が20マイクロ以下の原料粉を用いる方法(特許文献12)などがある。これらのうち、酵素を利用した方法は上記特許文献11のみであるが、澱粉加水分解酵素がゆで時間短縮に、卵がゆで伸び抑制に寄与しており、1種の酵素でゆで時間短縮とゆで伸び抑制を同時に実現した例は未だ報告されていない。
【0004】
特許文献13には、トランスグルコシダーゼを用いた麺類の品質向上方法について開示されているが、乾燥麺の品質向上について具体的な開示はなく、トランスグルコシダーゼにより乾燥麺のゆで時間や湯戻し時間が短縮され、かつ、茹で上がり後のゆで伸びや湯伸びが抑制されるという後述する本発明の効果について開示されていない。
【特許文献1】特開2006-149336号公報
【特許文献2】特開2005-34104号公報
【特許文献3】特開2000-316505号公報
【特許文献4】特開2006-115792 号公報
【特許文献5】特開平2-145162号公報
【特許文献6】特開2006-311849号公報
【特許文献7】特開2001-112425号公報
【特許文献8】特開平7-107933号公報
【特許文献9】特開2006-141278号公報
【特許文献10】特開平9-163945号公報
【特許文献11】特開昭53-124641号公報
【特許文献12】特開平8-200号公報
【特許文献13】WO2005/096839
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ゆで時間や湯戻し時間が短縮され、かつ、ゆで上がり後のゆで伸びや湯伸びが抑制される乾燥麺を製造する為の製剤及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、トランスグルコシダーゼを用いて乾燥麺を製造することにより上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
(1)トランスグルコシダーゼを用いる乾燥麺の製造方法。
(2)乾燥麺が乾燥パスタ又は即席麺である(1)記載の方法。
(3)トランスグルコシダーゼの量が原料粉1g当り1.5〜300,000Uである(1)又は(2)記載の方法。
(4)トランスグルコシダーゼを含有することを特徴とする乾燥麺用製剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の効果として、ゆで時間や湯戻し時間が短縮され、かつ、ゆで上がり後のゆで伸びや湯伸びが抑制される乾燥麺を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明による乾燥麺の製造方法には、トランスグルコシダーゼを含有する製剤を用いる。トランスグルコシダーゼは糖転移能を有するα-グルコシダーゼ酵素である。α-グルコシダーゼとは非還元末端α-1,4-グルコシド結合を加水分解し、α-グルコースを生成する酵素である。尚、グルコアミラーゼはα-グルコシダーゼと類似の反応を起こすが生成するグルコースはα-グルコースではなく、β-グルコースである。さらに、本発明に用いるトランスグルコシダーゼは単に分解活性を有するのみではなく、水酸基を持つ適当な受容体がある場合、グルコースをα-1,4結合よりα-1,6結合へと転移させ、分岐糖を生成する糖転移活性を有するものであることが特に重要である。従来の麺類の物性改良剤に含まれる酵素は澱粉分解酵素であり、糖転移酵素ではない。尚、トランスグルコシダーゼL「アマノ」という商品名で天野エンザイム(株)より市販されている酵素が、トランスグルコシダーゼの一例である。
【0009】
乾燥麺とは、天日乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、フライ(油揚げ)等により水分含量20%未満、好ましくは15%以下まで低水分化させた麺、すなわち乾麺、フライ麺を指し、乾燥パスタ、乾燥そうめん、乾燥冷麦、乾燥米麺や、うどん、日本そば、中華麺、やきそば等の即席麺が挙げられるが、市場規模やニーズ等と照らし合わせると、乾パスタや各種即席麺等に作用させるのが特に有効であると考えられる。パスタとしては、一般的にロングパスタと呼ばれるスパゲッティ、スパゲッティーニ、フェデリーニ、カペッリーニ、リングイネ、ブカティーニ、タリアテッレ等に限らず、マカロニやペンネ等のショートパスタや、セメチコリア、オレッキエッテ、ラザーニャなどあらゆるパスタ類が考えられる。
【0010】
乾燥麺用製剤は、トランスグルコシダーゼを含有していればよく、他の酵素や物質(デキストリン、澱粉、加工澱粉等の糖類、畜肉エキス等の調味料、植物蛋白、グルテン、卵白、卵黄、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質、蛋白加水分解物、蛋白部分分解物、乳化剤、クエン酸塩、重合リン酸塩等のキレート剤、グルタチオン、システイン等の還元剤、アルギン酸、かんすい、色素、酸味料、香料等その他の食品添加物等)を含有しても、しなくてもよい。乾燥麺用製剤中のトランスグルコシダーゼの配合量は0.0001〜100%が好ましい。
【0011】
本発明の乾燥麺用製剤は、乾燥工程以前であれば、麺の製造工程のどの段階で作用させてもかまわない。すなわち原料混合時に製剤を添加してもよいし、混合後に酵素を振りかけて作用させてもよい。製剤の添加量は、小麦粉、米粉等の原料粉1gに対してトランスグルコシダーゼが1.5U以上、好ましくは1.5〜300,000U 、より好ましくは15〜150,000Uとなる量が適正である。尚、酵素活性については1mM α-メチル-D-グルコシド1mlに0.02M酢酸バッファー(pH5.0)1mlを加え、酵素溶液0.5ml添加して、40℃、60分間を作用させた時に、反応液2.5ml中に1μgのブドウ糖を生成する酵素量を1Uと定義した。
【0012】
酵素の反応時間は、酵素が基質物質に作用することが可能な時間であれば、非常に短い時間でも逆に長時間作用させても構わないが、現実的な作用時間としては5分〜24時間が好ましい。麺類を製造する際、酵素反応の為の寝かし工程を取ってもよいが、特に寝かし工程を取らなくても製造中に反応が進めばよい。また、反応温度に関しても、酵素が活性を保つ範囲であればどの温度であっても構わないが、現実的な温度としては0〜80℃で作用させることが望ましい。
【0013】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、この実施例により何ら限定されない。
【実施例1】
【0014】
デュラム粉「DF」(日清製粉社製)2kgに、「トランスグルコシダーゼL」(天野エンザイム社製)(以下TGL)を添加し十分に混合した。試験区分は、酵素を添加しないコントロール区分、TGLを原料小麦粉1gに対して108.3U添加した区分の2試験区とした。上記混合原料に市水540gを加え、混練機「真空ミキサーVU-2」(尾久葉鐵工所社製)にて15分間(混練機設定の速度100)混練した。混練後、パスタマシン「真空押出機FPV-2」(ニップンエンジニアリング社製)にて、1.8mmのロングパスタ用ダイスを用いて押し出し製麺を行った。押し出した麺線は、乾燥機「恒温恒湿槽LH21-13P」(ナガノ科学機械製作所社製)にて乾燥し、乾パスタとした。乾パスタは、沸騰水にて3分、6分、9分、12分の4通りの時間にてゆでた後、直ちにゆで後の重量を測定し、ゆで前の重量と比較することで歩留まりを求めた。各試験区、各ゆで時間での歩留まりを図1に示す。尚、乾パスタは、歩留まりが240〜250%程度となるゆで時間が適当とされている。
【0015】
図1に示す通り、TGLを添加することで歩留まりが向上し、表1に示すとおり、一般的に適当とされる歩留まり240〜250%の範囲においては、約1〜2分のゆで時間の短縮が見られた。また、1.8mmパスタの一般的なゆで時間とされる9分付近までは、TGL処理区において歩留まり上昇スピードが速く、逆にそれ以降は遅くなることから、ゆで上がり時間帯が拡大されていると言える。以上の通り、TGLを添加することにより、ゆで時間が短縮されることが明らかとなった。
【0016】
【表1】


【実施例2】
【0017】
実施例1にて製造した2試験区の乾パスタを、沸騰水にて9.5分ゆでた。ゆでたパスタは直ちに蓋付容器へ移し、テクスチャーアナライザー「TA-XT plus」(Stable Micro Systems社製)にて90%圧縮試験を行った。テクスチャーアナライザーでの測定は、ゆで直後から30分後まで連続して行い、最大応力値の経時変化の平均曲線を求めた。その結果を図2に示す。図2に示す通り、コントロール区分は経時的にパスタ内部の応力が減少しているが、TGL処理区ではゆで直後の応力がほぼそのまま保持されていた。このことから、TGLを添加することにより、ゆで伸びが抑制されることが明らかとなった。
【実施例3】
【0018】
市水35gに、TGLを添加し溶解させた。試験区分は、酵素を添加しないコントロール区分、TGLを原料小麦粉1gに対して5000U添加した区分の2試験区とした。デュラム粉「DF」(日清製粉社製)100gを混練機(HORBAT社製)にて混合しながら、上記酵素溶液を添加し、混練機設定のスピード1にて3分間、同スピード2にて7分間混練した。その後、恒温恒湿槽「LH21-12P」(ナガノ科学機械製作所社製)を用いて55℃、湿度85%にて2時間寝かせ、パスタマシン「R.M.」(IMPERIA社製)を用いてバラ掛け、複合、圧延、切り出しを行った。圧延はパスタマシン設定の厚さ6、切り出しは裁断幅4mmのパスタマシン付属のカッター「R.220」(IMPERIA社製)にて行った。製麺された生麺を、恒温恒湿槽を用いて40℃、湿度90%で30分の乾燥後、18時間後に湿度65%となる勾配設定にて乾燥させ、乾パスタを製造した。乾パスタを沸騰水にて5分、10分、20分、30分、45分の5通りのゆで時間でゆでた後、氷水にて1分間冷却し、水切りをした。ゆでパスタはカッターにて切断し、断面を撮影、観察した。
【0019】
図3に示すとおり、ゆで時間10分程度までは、中心部に白く残る芯の面積がTGL処理区において早期に減少していた。やがて白い芯部分は消滅するが、外側の軟部と内側の硬部が色調ではっきりと区別できる。ゆで時間30分以上が経過すると、コントロール区において内側の硬部の面積が減少すると同時に色が薄くなり、外側の軟部との差が不明瞭となるが、TGL処理区では内側の硬部が明瞭化したまま維持されていた。以上のように、TGL処理により初期の吸水速度は上昇し、後期の内部軟化速度は低下することから、ゆで時間短縮およびゆで伸び抑制が同時に可能となることが明らかとなった。
【実施例4】
【0020】
準強力粉「特ナンバーワン」(日清製粉社製)850g、加工澱粉「松谷桜」(松谷化学工業社製)150gを混練機「真空ミキサーVU-2」(尾久葉鐵工所社製)にて2分間(90rpm)予備混合した。市水200gに食塩15g、かんすい「粉末かんすいX」(日本コロイド社製)2g、チキンエキス「アジエキス」チキンL-1(味の素社製)0.5gを加えた溶液、および市水130gに酵素を溶解した溶液を、上記混合原料に全量加え、上記混練機にて15分間(90rpm;1分、45rpm;14分)混練した。試験区分は、酵素を添加しないコントロール区分、TGLを原料小麦粉(準強力粉)1gに対して127.5U添加した区分の2試験区とした。混練後、製麺機(富士製作所社製)にてバラ掛け、複合、圧延し、厚さ1mmの生地を得た。10分間静置した後、#16の切り刃を用いて切り出し、蒸し機(富士製作所社製)にて95〜98℃で3分間蒸した。型枠取りをした後、フライヤー「コンパクトオートフライヤーKCAF-187EL-T」(北沢産業社製)にて145℃で75秒間フライし、フライ麺を得た。得られたフライ麺に熱湯を注いだ後、1分ごとに官能評価を行い、フライ麺の湯戻り状態を確認した。官能評価は、「評価不可能」を0点、「非常に湯戻り不足」を1点、「湯戻り不足」を2点、「やや湯戻り不足」を3点、「良好」を4点、「やや湯伸び」を5点、「湯伸び」を6点とした評点法にて、評価人数4人で行った。結果を図4に示す。
【0021】
図4に示す通り、TGLを添加することで良好な食感に至るまでの湯戻り時間が短縮され、その後の湯伸びが抑制される傾向が確認された。湯戻り性評点の3.5〜4.5点を良好な喫食範囲とすると、3.5点に至るまでの湯戻し時間がTGLにより約1分短縮され、4.5点の湯伸び開始時間が約0.3分延長されたことから、好ましい喫食時間帯が拡大されたと言える(表2)。以上の通り、TGLを添加することにより、湯戻し時間が短縮されると同時に湯伸びが抑制されることが明らかとなった。
【0022】
【表2】



[参考例1]
【0023】
小麦粉1gに対し、TGL500U、市水0.35gを添加して調製したドウを15℃で1時間寝かし、酵素を作用させた後、圧延を行い、TGL処理麺帯を得た。また、TGLを添加しないことを除いて同じ方法でTGL未処理麺帯を得た。酵素処理品及び未処理品に含まれる各種糖類の量を液体クロマトグラフィ(Dionex社製)にて測定した結果を表3に示す。
【0024】
【表3】


【0025】
ところで、特開2006−115792号公報には、分岐オリゴ糖を20〜70%程度含有する糖類の添加により、ゆでの伸びの抑制された生麺について記載されているが、ゆで伸び抑制効果を発現する分岐オリゴ糖の添加量を計算すると麺乾物重量の0.4%以上に相当する。表2に示す糖のうち、特開2006−115792号公報で分岐オリゴ糖と定義されているのはパノース、イソマルトース、イソマルトトリオースであるが、表2に示すとおり、TGL処理により、イソマルトトリオースは0.10%増加するも、マルトースは0.11%減少しており、それら分岐オリゴ糖全体としては0.01%減少していた。また、未知のピークにはTGL処理後増加しているものはなかった。よって、TGL処理により分岐オリゴ糖量が増えることはなく、本発明は、分岐オリゴ糖の増加によりゆで伸び抑制効果が発現したのではないと推察される。従って、本発明は、特開2006−115792号公報の発明とは明らかに異なるものであり、また特開2006−115792号公報の発明より容易に想到するものでもない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によると、乾燥麺のゆで時間や湯戻し時間が短縮され、かつ、ゆで上がり後のゆで伸びや湯伸びも抑制されるので、食品分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】パスタのゆで時間と歩留まりについての結果である。(実施例1)
【図2】パスタのゆで伸びについての結果である。(実施例2)
【図3】パスタ断面における硬部および芯部面積率の推移である。(実施例3)
【図4】即席麺の湯戻り性および湯伸びについての結果である(実施例4)
【出願人】 【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
【出願日】 平成20年2月28日(2008.2.28)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−245639(P2008−245639A)
【公開日】 平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願番号】 特願2008−47740(P2008−47740)