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【発明の名称】 液状食品用殺菌装置
【発明者】 【氏名】酒井 昇

【氏名】福岡 美香

【氏名】大島 由子

【氏名】今道 純利

【要約】 【課題】プレート型熱交換器やチューブ型熱交換器を用いた殺菌装置においては、殺菌処理中に変成物が生じ易い点と、変成物(汚れ)を洗浄し難い点である。

【構成】上側が開口している流路と、該流路の上流側に液状食品を供給する供給部と、該流路を流れる液状食品に赤外線を照射する赤外線放射体とを備え、該流路は上流側から下流側に向けて低くなるように傾斜している。前記流路の傾斜角αは1〜5度が好ましく、前記流路の底面の巾方向断面は直線状になっていることが好ましく、前記流路の底面の断面は凹凸を有していてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側が開口している流路と、該流路の上流側に液状食品を供給する供給部と、該流路を流れる液状食品に赤外線を照射する赤外線放射体とを備え、該流路は上流側から下流側に向けて低くなるように傾斜していることを特徴とする液状食品用殺菌装置。
【請求項2】
前記流路の傾斜角αが1〜5度であることを特徴とする請求項1に記載の液状食品用殺菌装置。
【請求項3】
前記流路の底面の巾方向断面が直線状になっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液状食品用殺菌装置。
【請求項4】
前記流路の底面の断面が凹凸を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液状食品用殺菌装置。
【請求項5】
前記流路上を流れる液状食品の厚さが0.5〜5mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液状食品用殺菌装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、流路内を薄層状態で流れる液状食品に赤外線を照射して連続的に殺菌する液状食品用殺菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
牛乳や液体調味料等の液状食品の加熱殺菌は、多くの場合プレート型熱交換器やチューブ型熱交換器を用いて液状食品を加熱殺菌する殺菌装置により行われている。
【0003】
プレート型熱交換器を用いた殺菌装置は、ステンレスプレート間隙に水蒸気及び液体食品を交互に通し、両者を熱交換して殺菌するものである。この殺菌装置による殺菌は低粘性食品が対象食品となる。
【0004】
チューブ型熱交換器を用いた殺菌装置は、チューブの外側に過熱水蒸気または蒸気を通し、加熱されたチューブ内に食品を流し間接的に殺菌するものである。この殺菌装置による殺菌は低粘性食品及び高粘性食品の両者が対象食品となる。
【特許文献1】特開2000−93136号公報
【非特許文献1】矢野俊正監修 食品工学基礎講座10 「食品反応工学第3章殺菌」光琳 1990年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの殺菌装置においては、プレート型熱交換器又はチューブ型熱交換器を介しての伝熱となるため、高温のプレート又はチューブ表面に食品が直接接触し、プレート又はチューブ表面で食品中のタンパク質等が変成し易く、プレート又はチューブ表面に変成物が汚れとして付着・堆積し易い。そして、付着・堆積した変成物は食品の流動中に剥がれて食品中に異物として混入し、食品の品質を低下させるおそれがある。
【0006】
また、プレート又はチューブ表面に変成物が付着・堆積するとプレート又はチューブの熱交換能を低下させる。また、殺菌装置の休止時に細菌が変成物(汚れ)のところで繁殖し、そのまま殺菌処理を再開した時に液状食品が細菌で汚染されるおそれがある。従って、これらの殺菌装置は定期的に洗浄する必要がある。
【0007】
しかし、これらの殺菌装置の構造は複雑で、しかも付着する汚れの量も多いので、洗浄作業が大変であり、かなりの洗浄コストがかかる。また、これらの殺菌装置を洗浄するには大量の洗浄水が必要であり、この洗浄水の手当のためにかなりのコストがかかる。更に、排出される洗浄水もかなりの量になるので、洗浄水の排水処理のためにもかなりのコストがかかる。
【0008】
この発明が解決しようとする問題点は、プレート型熱交換器やチューブ型熱交換器を用いた殺菌装置においては、殺菌処理中に変成物が生じ易い点と、変成物(汚れ)を洗浄し難い点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液状食品の過加熱による変成と、熱交換面への変成物の付着・堆積を避けるため、流路を流れる液状食品の上面を赤外線で直接的に加熱することを最も主要な特徴とする。
【0010】
本発明は、具体的には、上側が開口している流路と、該流路の上流側に液状食品を供給する供給部と、該流路を流れる液状食品に赤外線を照射する赤外線放射体とを備え、該流路は上流側から下流側に向けて低くなるように傾斜していることを特徴とするものである。
【0011】
ここで、前記流路の傾斜角αは1〜5度が好ましい。傾斜角αがこの範囲に有る場合は液状食品が未殺菌部分を生じることなく良く殺菌されるからである。また、前記流路の底面の巾方向断面は直線状になっていることが好ましい。また、前記流路の底面の断面は凹凸を有していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、液状食品の表面が赤外線放射体によって直接的に加熱され、流路内面は赤外線放射体によって直接的には加熱されないので、流路内面の温度は液状食品の表面の温度より低く、流路内面と液状食品との境界では液状食品の変成物が生成され難く、従って、流路内面に液状食品の変成物からなる汚れが付着・堆積し難いという効果がある。
【0013】
また、この発明は、プレート式殺菌装置やチューブ式殺菌装置と比べ、殺菌装置の構造がシンプルなので、殺菌装置を低コストで製造し、低価格で提供することができるという効果がある。
【0014】
また、この発明は、プレート式殺菌装置やチューブ式殺菌装置と比べ、殺菌装置の構造がシンプルなので、殺菌装置の洗浄が容易であり、従って、殺菌装置の洗浄コストを低下させることができるという効果がある。
【0015】
また、この発明は、高温になったプレートやチューブのようなものが液状食品に直接的に接触しないので、液状食品の変性物の生成が少なく、流路内面への汚れの付着量が少なく、殺菌装置の洗浄のための洗浄水を少なくすることができ、従って、洗浄水を入手するためのコストを低下させることができるという効果がある。
【0016】
また、この発明は殺菌装置の洗浄のための洗浄水が上述のように少なくなるので、洗浄排水を処理する負担が小さくなり、従って、排水処理のためのコストを低下させることができるという効果がある。
【0017】
また、この発明は、前記流路の傾斜角αを1〜5度にした場合は、液状食品中の全ての菌が死滅する程度の速過ぎない速度で液状食品が層状に流れるので、液状食品を未殺菌部分を生じさせることなく良好に殺菌処理することができるという効果がある。
【0018】
また、この発明は、前記流路の底面の巾方向断面を直線状にした場合は、液状食品が層状に流れ、液状食品に赤外線が巾方向に均等に照射され、液状食品が巾方向に均等に殺菌処理され、未殺菌部分が下流まで流れないという効果がある。
【0019】
また、この発明は、前記流路の底面の長手方向断面に凹凸を設けた場合は、液状食品が凹凸によって攪乱して液状食品の表面部分及び内部部分が良く混ざり、内部部分の温度が殺菌温度まで上昇し、内部部分まで良く殺菌処理され、未殺菌部分が下流まで流れないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
液状食品の殺菌において、液状食品の熱変成により生成した変成物に起因する汚れの殺菌装置への付着・堆積を防止するという目的を、簡単な装置構成で、殺菌能力の低下をきたすことなく実現した。
【0021】
図1はこの発明に係る液状食品用殺菌装置の側面図、図2は図1の液状食品用殺菌装置の断面図である。
【0022】
これらの図において、10は流路であり、流路10の上側は開口し、断面略コ字状をしている。流路10は上流側から下流側に向かって低くなるように傾斜している。流路10は支持台12によって下方から支持されている。流路10の傾斜角αは角度調節ネジ14によって調節できるようになっている。なお、流路10の各所には図示しない温度センサーが取り付けられて、流路10の各所の温度が測定できるようになっている。
【0023】
流路10の上流側には流路10に液状食品を供給する供給部16が流路10と一体的に設けられ、供給部16から溢れた液状食品が流路10に連続的に薄層状に供給されるようになっている。供給部16の下方位置には液状食品を供給部16内に注入する食品注入管18が接続されている。
【0024】
流路10の上方には流路10を流れる液状食品に赤外線を照射する赤外線放射体20が流路10から所定距離をおいて、流路10に対して略平行に設けられている。赤外線放射体20は支持部材22を介して支持台12に支持されている。赤外線放射体20は図示しない電源に接続されている。
【0025】
ここで、流路10の傾斜角αは1〜5度が好ましい。傾斜角αがこの範囲に有る場合は液状食品中の全ての菌が死滅する程度の速過ぎない速度で液状食品が層状に流れるので、液状食品を未殺菌部分を生じることなく良好に殺菌処理をすることができる
【0026】
また、流路10の底面の巾方向断面は直線状になっていることが好ましい。流路10の底面の巾方向断面を直線状にした場合は、液状食品が層状に流れ、液状食品に赤外線が巾方向に均等に照射され、液状食品が巾方向に均等に殺菌処理され、未殺菌部分が下流まで流れないからである。
【0027】
また、流路10の底面の断面は凹凸が設けられていてもよい。前記流路の底面の断面に凹凸を設けた場合は、液状食品が凹凸によって攪乱して液状食品の表面部分及び内部部分が良く混ざり、液状食品の内部部分の温度が殺菌温度まで上昇し、内部部分まで良く殺菌処理され、未殺菌部分が下流まで流れないからである。
【0028】
次に、この殺菌装置を用いて液状食品を殺菌する場合について、図1、図2を参照しながら説明する。
【0029】
殺菌対象となる液状食品は食品注入管18を通って供給部16に注入される。液状食品の注入量の調整は、食品注入管18の前に取り付けたバルブ(図示せず)およびフローメータ(図示せず)により行われる。供給部16に注入された液状食品は供給部16の上部をオーバーフローして、流路10を薄層流状に流れる。このときの薄層流の流速および厚さの制御は、供給部16に注入される液状食品の量および流路10の傾斜角αを調節することにより行う。
【0030】
液状食品は、流路10を流れる間に赤外線放射体20から赤外線を照射され、所定温度まで加熱される。液状食品の最終到達温度は、赤外線放射体20の温度、赤外線放射体20と液状食品との距離、液状食品の滞在時間および厚さによって決まるので、これらの操作条件を適切に決める必要がある。
【0031】
本装置においては、無菌エリア内に流路10を開放された状態で作り、流路10内を均一な0.5mm〜5mmの薄層流で流し、この液状食品に赤外線を直接照射することにより、液状食品が必要以上に高温にならないようにして殺菌している。
【0032】
赤外線を熱源として連続的に液状食品を殺菌する場合、流動液の厚さが大きいと体積に対する伝熱面積が小さくなり、十分な殺菌が行えない。そのため、液状食品を薄層流状に流す必要があるが、水平面に流した場合その厚さの制御は難しい。本装置では、流路に適度な傾斜をつけることにより、最適な厚さとなるように工夫されている。
【実施例1】
【0033】
液状食品を所定の温度まで上昇させるための操作条件を検討した。液状食品としては、「めんつゆ」や「納豆のたれ」などの醤油ベースの調味液を想定し、目標到達温度を75℃とした。
【0034】
流量と流路の角度を変えて液膜の厚さを測定した結果を表1に示した。なお、この実験では赤外線は照射していない。表から、流量を変えても液膜の厚さは、あまり変化しないが、流路の角度は液膜の厚さに大きく影響し、その値は0.4mm〜5mmの範囲にあることがわかる。液膜の厚さは、加熱部の滞在時間に大きく影響するので、液状食品の温度制御において角度調整は重要な因子となる。
【0035】
【表1】


【0036】
赤外線を照射しながら装置に水を流したときの上昇温度を図3に示した。この実験においては、赤外線放射体の表面温度を約650℃に一定としている。図中のパラメータは流路の角度で、0°から5°まで変化させた。
【0037】
図3に示された結果から、流量が小さいほど、また角度が大きいほど温度上昇は大きいことがわかる。角度が大きい、すなわち、液膜が薄いほど温度上昇が大きいことは、同じ流量でも、厚い液膜でゆっくり流すよりも薄い液膜で速く流したほうが温度上昇は大きいことを示す。このことは薄層流を用いることの大きなメリットである。
【0038】
液状食品を、室温から75℃まで昇温することを想定すると、温度上昇は55℃必要であり、図3から本装置でも十分達成が可能であることがわかる。
【実施例2】
【0039】
本殺菌装置を用いて、実際の菌が殺菌可能か検討した。醤油ベースの調味液を想定しているので、耐塩性の乳酸菌と耐塩性の酵母が殺菌の対象菌となる。ここでは、耐塩性の乳酸菌(Tetragenococcus halophillas)を用いた。
【0040】
赤外線を照射しないときとしたときの菌数測定結果を表2に、測定条件を表3に示した。表2中の0secは出口直後の採取試料を直ちに冷却して菌数を測定したことを表し、30secは試料採取後30秒その温度に保持したことを表す。この結果から、出口において菌数は0となり、この場合は、高温で保持せずとも本条件で殺菌が十分可能なことがわかる。
【0041】
【表2】


【0042】
【表3】


【実施例3】
【0043】
3%食塩水に乳酸菌を10CFU/mlの濃度で懸濁させ、この食塩水を流路に流し、この食塩水に赤外線放射体から赤外線を照射して食塩水を加熱し、加熱前(入口)と加熱後(出口)の食塩水中の生菌数を測定した。このときの食塩水の流量は240ml/min、流路の傾斜角αは1度、赤外線放射体から食塩水までの距離は50mmとした。
【0044】
結果は、食塩水の入口温度が29.8℃、出口温度が87.6℃であり、出口において食塩水中に生菌は検出されなかった。
【実施例4】
【0045】
本発明装置において、流路の複数部位、すなわち図4の(1)〜(6)に示す部位に温度センサーを取り付け、赤外線放射体から食塩水までの距離を60mmとし、その他の条件は実施例3と同様とし、流路の各部位における温度と、その部位における食塩水中の生菌数を調べた。
【0046】
流路の各部位における温度、生菌数は、表4及び図5に示す通りであった。この結果から、加熱始め位置から360mm下流の(4)部位で生菌が全て死滅していること、そして、この(4)部位の温度が71.8℃であることがわかる。
【0047】
【表4】


【産業上の利用可能性】
【0048】
殺菌装置の設置面積に限度が有ることを考えると、流路の面積を大きく採ることは困難であり、大量に処理する必要がある牛乳のような被処理液を殺菌する用途には適しないが、少量を殺菌処理すれば足りる被処理液、例えば調味液等を殺菌する用途には効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明に係る液状食品用殺菌装置の側面図である。
【図2】この発明に係る液状食品用殺菌装置の断面図である。
【図3】流路を流れる液状食品の流量と液状食品の上昇温度との関係を示すグラフである。
【図4】流路を流れる食塩水の温度及び生菌数を測定した部位を示す説明図である。
【図5】流路を流れる食塩水の温度変化と、生菌の生存率の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
10 流路
12 支持台
14 角度調節ネジ
16 供給部
18 食品注入管
20 赤外線放射体
22 支持部材
【出願人】 【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
【出願日】 平成18年7月18日(2006.7.18)
【代理人】 【識別番号】100090402
【弁理士】
【氏名又は名称】窪田 法明


【公開番号】 特開2008−22717(P2008−22717A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2006−195619(P2006−195619)