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【発明の名称】 嚥下障害改善剤および嚥下障害改善食品
【発明者】 【氏名】杉山直人

【氏名】渡瀬隆也

【氏名】志田英士

【氏名】鈴木敏博

【要約】 【課題】安全性が高く、塩分を含む食品にあっても咽喉頭が高い感受性を示し、誰にでも好まれ、繰り返し摂取しても効果があり、誤嚥防止効果を発揮する、嚥下障害改善剤およびこの改善剤を含有する嚥下障害改善食品を提供すること。

【構成】ショウガもしくはその抽出物または式(1)で表されるジンゲロール類を、そのまま、または食品に添加して、経口的に摂取させることにより、嚥下反射の誘発を促進させ、嚥下障害を改善する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウガの根茎またはその抽出物を有効成分とする嚥下障害改善剤およびこの改善剤を含有する嚥下障害改善食品。
【請求項2】
式(1)で表されるジンゲロール類( ただし、R1 およびR2 はそれぞれ水素原子または低級アルキル基を示し、R3 は1位にヒドロキシ基が置換していても良い炭素数3から14のアルキル基を示す) を含有する嚥下障害改善剤およびこの改善剤を含有する嚥下障害改善食品。
【化1】


【請求項3】
6−ジンゲロールを含有する嚥下障害改善剤およびこの改善剤を含有する嚥下障害改善食品。
【請求項4】
ジンゲロンを含有する嚥下障害改善剤およびこの改善剤を含有する嚥下障害改善食品。
【請求項5】
飲食に適した塩分を含む請求項1から4記載の嚥下障害改善剤および嚥下障害改善食品。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、安全かつ繰り返し使用できる嚥下障害改善剤およびこの改善剤を含有する嚥下障害改善食品に関する。
【背景技術】
【0002】
嚥下障害は、飲食物を飲み込むことが困難になる障害をいう。嚥下障害になると飲食物を十分量摂取することができずに脱水症や低栄養状態となったり、飲食物が気道へ入る誤嚥により肺炎を発症する危険性が高まる。高齢者の死因の1位は肺炎だが、その多くは誤嚥によるものではないかと推測されている。また、嚥下障害によって食べる楽しみが消失し、生活の質が著しく低下させられることからも、嚥下障害改善への社会的要望は大きいといえる。
【0003】
嚥下障害は、脳血管障害などの疾病や老化を原因として嚥下に関係する器官や機能が正常に働かなくなることで起きる。脳血管障害患者や高齢者で観察される嚥下反射の惹起遅延は、誤嚥の主要な原因となっている。嚥下反射の惹起遅延は食塊が咽頭に達しても嚥下反射が始まらない状態をいい、これは咽頭の知覚が低下していることが原因と考えられている。また、喉頭の知覚が低下していると、食塊が喉頭流入しても気道防御反射が正常に起きず、誤嚥の危険性が高まる。嚥下反射は延髄にある嚥下中枢が咽喉頭からの知覚入力によって一定の閾値をもって活性化されて起動される。このとき咽喉頭の知覚入力は飲食物からの刺激を受けて生じ、咽喉頭の知覚が脳血管障害や老化によって低下している場合、飲食物からの刺激が弱くて嚥下中枢を活性化するだけの知覚入力が発生せず、嚥下反射が起動しないと考えられる。このため、低下した知覚を補って嚥下反射を正常に起動させるためには、咽喉頭が高い感受性を示す食品成分を含む飲食物を提供することが有効と考えられる。
【0004】
従来からある嚥下障害者用に調製された嚥下補助食品(例えば、特許文献1参照)は、とろみを付与したり、ゲル状にするなど物性調節を主体とするもので、咽喉頭の知覚の低下を補う効果は明らかではない。また、蒸留水、レモン果汁(酸)、カプサイシン(唐辛子の辛味成分)につき、嚥下反射の誘発を促進する作用が報告されており(例えば、非特許文献2〜4参照)、これらは咽喉頭が高い感受性を示す食品成分と考えられる。しかし、蒸留水による作用は食塩の添加で抑制され、飲食物として適度な食塩濃度(0.8 〜1.2 %)では咽喉頭の感受性は消失する。レモン果汁は強酸性であるため、酸を誤嚥した場合の肺への侵襲性の問題が危惧される。また、カプサイシンの辛味は誰もが好むものではないうえ、脱感作と呼ばれる感受性を低下させる作用も知られており、繰り返し摂取したときの効果には疑問がもたれる。
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意探索と評価を重ねた結果、ショウガ(学名:Zingiber officinale Roscoe, 科名:Zingiberaceae )の根茎の抽出物に、嚥下反射の誘発を促進する作用を見出し、さらに、式(1)で表されるジンゲロール類が嚥下反射の誘発を促進する作用を見出した。
【0006】
【化1】


【0007】
ショウガの根茎は、香辛料あるいは薬味料として、古来より日本人に親しまれ、好んで用いられている。また、ショウガの根茎は、健胃作用、鎮痛作用、鎮吐作用、発汗作用を有することから古くから生薬として用いられており、安全性が確立されている。さらに、ショウガの根茎には、抗菌作用、抗酸化作用、抗変異原性、免疫賦活作用、肝障害抑制作用、唾液分泌作用、脂肪燃焼作用等の生理作用も知られている。本発明者らは、ショウガの根茎またはその抽出物が、飲食物として適度な塩分を含む食品にあっても咽喉頭が高い感受性を示し、また、繰り返し摂取してもその感受性の低下が少ないため、繰り返し使用しても嚥下反射を誘発する作用が持続し、嚥下障害を改善すること、さらにこのような作用は式(1)で表されるジンゲロール類( ただし、R1 およびR2 はそれぞれ水素原子または低級アルキル基を示し、R3 は1位にヒドロキシ基が置換していても良い炭素数3から14のアルキル基を示す) であることを知見し、さらに検討を加えて本発明を完成するに至った。
【特許文献1】特開2004-283073
【非特許文献2】日本味と匂学会誌,Vol.12(3),pp.251-254,2005
【非特許文献3】川崎医療福祉学会誌,Vol.14(2),pp.349-357,2005
【非特許文献4】Ebihara T., et al,The Lancet,Vol.341,p.432,1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、飲食物として適度な塩分(0.8 〜1.2 %)を含む食品にあっても咽喉頭が高い感受性を示し、安全性が高く、誰にでも好まれ、繰り返し摂取しても効果があり、誤嚥防止効果を発揮する、嚥下障害改善剤およびこの改善剤を含有する嚥下障害改善食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の嚥下障害改善剤および嚥下障害改善食品は、ショウガの根茎またはその抽出物を有効成分とすることを特徴として成るものである。
【0010】
請求項2記載の嚥下障害改善剤および嚥下障害改善食品は、式(1)で表されるジンゲロール類( ただし、R1 およびR2 はそれぞれ水素原子または低級アルキル基を示し、R3 は1位にヒドロキシ基が置換していても良い炭素数3から14のアルキル基を示す) を含有することを特徴として成るものである。
【0011】
請求項3記載の嚥下障害改善剤および嚥下障害改善食品は、6−ジンゲロールを含有することを特徴として成るものである。
【0012】
請求項4記載の嚥下障害改善剤および嚥下障害改善食品については、ジンゲロンを含有することを特徴として成るものである。
【0013】
請求項5記載の嚥下障害改善剤および嚥下障害改善食品については、前記請求項1、2、3または4記載の要件に加えて、飲食に適した塩分を含むことを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の嚥下障害改善剤およびこの改善剤を添加した食品は、安全性が高く、誰にでも好まれ、繰り返し摂取しても効果があり、飲食用に適度な塩分(0.8 〜1.2 %)を含んでいても咽喉頭が高い感受性を示すので、脳血管障害や老化により低下した咽喉頭の知覚を補強して正常な嚥下反射を誘発させて、嚥下障害を改善することにより誤嚥の防止効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態は、以下述べる実施例をその一つとするものであると共に、この技術思想に基づく種々の改良した実施例も含まれるものである。
【実施例】
【0016】
本発明の嚥下障害改善剤の有効成分としては、ショウガの根茎またはその抽出物であれば特に制限はなく、例えば、新ショウガ、ヒネショウガ、ショウキョウ、カンキョウまたはそれらの抽出物等が用いられる。
本発明においては、ショウガの根茎またはその抽出物等を用いる。ショウガ等の根茎は、生でも良いが、たとえば、70℃で8 時間程度乾燥した乾燥物を用いるのが良く、そのまま、または粉砕して用いてもよい。また、これらの溶媒抽出物を使用することもできる。
【0017】
抽出は、慣用の方法、例えば水またはエタノール等の水性溶媒などの抽出溶媒によりショウガの根茎から期待する作用を有する成分を抽出することより得ることができる。また、例えば、水、メタノール、エタノール等の水性溶媒、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、超臨界二酸化炭素等の溶媒類またはこれらの混合物を使用して、有効成分を抽出・単離しても良い。抽出操作は、適当な温度、例えば、10℃〜溶媒の還流温度で行うのが良い。抽出溶媒により抽出された抽出液はそのまま使用してもよく、水などで希釈してもよく、濃縮して濃縮物としても使用できる。また、これらをスプレードライ、凍結乾燥などの方法により乾燥粉末化して使用してもよい。
【0018】
上記ショウガの根茎またはその抽出物は、期待する作用を発現する有効量であればよい。例えば、水抽出液を用いる場合には100ml 中に25mg〜400mg 、好ましくは50mg〜200mg の乾燥ショウガ根茎量からの抽出成分を含むのが良い。また、食品100g中に25mg〜400mg 、好ましくは50mg〜200mg の乾燥ショウガ根茎量またはその抽出成分を含むように使用される。
【0019】
有効成分として式(1)で表されるジンゲロール類を用いる場合には、たとえば3−ジンゲロール、4−ジンゲロール、5−ジンゲロール、6−ジンゲロール、8−ジンゲロール、10−ジンゲロール、1 2−ジンゲロール、1 4−ジンゲロール、ジンゲロン等のジンゲロール類を単独または組み合わせて用い、溶液または食品100ml またはg 中に0.01〜200mg 、望ましくは0.1 〜80mg程度添加して用いる。たとえば、6−ジンゲロールの場合には、溶液または食品100ml またはg 中に0.075 〜1.2mg 、望ましくは0.15〜0.6mg 程度添加して用いる。ジンゲロンの場合には、溶液または食品100ml またはg 中に10〜160mg 、望ましくは20〜80mg程度添加して用いるのが良い。これらの添加量は、各成分本来の呈味量以下で十分であり、無味無臭で、食品の風味に影響しない。ジンゲロール類は抽出物でも良いし、化学的に合成したものを用いても良い。0.1 %ショウガ抽出液中の6−ジンゲロール濃度は0.003 〜0.006mg/ml程度である。また、ジンゲロール類は澱粉類、糖類、食塩等で希釈したものを用いて、食品に添加しても良い。なお、R1 およびR2 はそれぞれ水素原子またはメチル,エチル等の低級アルキル基を示し、R3 は1位にヒドロキシ基が置換していても良い炭素数3から14のアルキル基を示す。
【0020】
【化2】


【0021】
本発明の嚥下障害改善剤または嚥下障害改善食品が効果を発現するためには、有効成分が咽喉頭に接触する必要がある。そのため通常、経口的に摂取するのが望ましく、食品に添加して飲食物として使用する。食品の種類は特に限定されないが、嚥下障害者用に物性が調節された嚥下補助食品も含まれる。
【0022】
以下に試験例および実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
本発明の嚥下障害改善剤による嚥下反射の誘発に対する作用について、ラットの咽喉頭部を繰り返し刺激したときの嚥下反射回数および嚥下反射開始までの時間(潜時)を指標に検討した。
【0023】
[試験例1]
試験には、ウレタン麻酔したWistar系雄ラット(300g前後)を使用した。気管と食道にそれぞれチューブを挿入し、呼吸の確保と飲み込んだ刺激溶液の排出を行った。刺激溶液には、乾燥ショウガ粉末111mg または対照として乾燥トウガラシ粉末111mg に蒸留水100ml を加えて60℃で10分間抽出した後、フィルターでろ過したろ液9 部に対して9 %食塩水1 部を加えたものを室温(25℃)で用意した。刺激溶液は、口腔へ固定したガイドチューブにストッパーのついた注入用チューブを挿入し、ポンプを用いて1 秒間に3 μLの速さで9 秒間注入した。この方法では、機械的刺激を最小限にし咽喉頭のみを溶液刺激することが可能である。溶液刺激は7 回繰り返して行った。溶液刺激の間隔は6 分としてその間に、0.9 %食塩水で咽喉頭内の洗浄を行った。嚥下の確認は、顎舌骨筋から導出した筋電図の発火を指標とし、注入開始から10秒間の嚥下反射の回数と潜時を測定した。繰り返し刺激したときの嚥下反射回数の推移を図1に、潜時の推移を図2に示す。比較として刺激溶液に蒸留水を用いたときの結果も併せて示す。
【0024】
図1〜2に示すように、乾燥ショウガ粉末抽出液は、0.9%食塩を含んでいても嚥下反射を誘発する作用があり、また、カプサイシンを含むトウガラシに比べ、繰り返し使用しても脱感作による嚥下反射回数の低下および潜時の延長が有意に少なく、嚥下障害改善剤として優れた効果が認められた。
【0025】
[試験例2]
刺激溶液に、0.9%食塩を含む6−ジンゲロール(0.01mM)、ジンゲロン(2mM )、6−ショーガオール(0.02mM)水溶液を用い、試験例1と同じ試験方法で嚥下反射の誘発作用を評価した。繰り返し刺激したときの嚥下反射回数の推移を図3に、潜時の推移を図4に示す。対照として試験例1で用いた0.1%乾燥ショウガ粉末抽出液(0.9%食塩を含む)の結果も併せて示す。
【0026】
図3〜4に示すように、6−ジンゲロールおよびジンゲロンは、0.9%食塩を含んでいても嚥下反射を誘発する作用があり、繰り返し使用しても脱感作による嚥下反射回数の低下および潜時の延長が少なく、乾燥ショウガ粉末抽出液と同様に嚥下障害改善剤として優れた効果が認められた。一方、6−ショーガオールは、乾燥ショウガ粉末抽出液に比べ、繰り返し使用による有意な嚥下反射回数の低下と潜時の延長が認められ、嚥下障害改善効果は本発明の嚥下障害改善剤に比べて劣るものであった。
以下、本発明の好ましい実施例を記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
〔実施例1:みそ汁ゼリー〕
みそ汁600ml に乾燥ショウガ粉末0.6gを加えてミキサーにかける。これを80℃に加温し、ゲル化剤(ゼラチン:キサンタンガム:ローカストビーンガム=98:1:1)9.6gを加え、撹拌、溶解する。その後、容器に分け入れ、ふたをして冷蔵庫などに入れて冷やし固め、嚥下補助用みそ汁ゼリーを調製した。
【0028】
〔実施例2: 溶液〕
乾燥ショウガ粉末111gを蒸留水10リッターを用いて60℃で10分間抽出し、フイルターでろ過したろ液9 部に9%食塩水1 部を加えた溶液を調製した。
【0029】
〔実施例3: 経口濃厚流動食〕
カゼイン2.4kg 、大豆蛋白質0.3Kg 、デキストリン8.5Kg 、精製白糖0.9Kg を70℃の温湯30リッターに添加して溶解させた後、適量の乳化剤及び油性ビタミン混合物1.5gを含む食用油1.3Kg を添加し、高圧均質機を用いて予備乳化した。これにミネラル混合物0.4Kg 、水性ビタミン混合物14g およびジンゲロン23g を添加して溶解させた後、1Kcal/ml となるように調整し、高圧均質機を用いて均一な乳化液を得た。この乳化液を200ml ずつアルミパウチに充填密封し、オートクレーブ内で121 ℃で20分間レトルト殺菌し、液状の経口濃厚流動食を得た。
【0030】
〔実施例4:とろみ調整食品〕
デキストリン33kg、キサンタンガム18kg、グアーガム5kg 、6−ジンゲロール5.6gを撹拌し、均一な混合物とした後、流動層造粒機によって造粒を行った。この造粒物を3gずつアルミ蒸着フィルムでスティック包装し、とろみ調整食品を得た。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ラット咽喉頭を乾燥ショウガ粉末抽出液で繰り返し刺激したときの嚥下反射回数の推移を示すグラフである。
【図2】ラット咽喉頭を乾燥ショウガ粉末抽出液で繰り返し刺激したときの嚥下反射開始までの時間(潜時)の推移を示すグラフである。
【図3】ラット咽喉頭を6−ジンゲロール、ジンゲロン、6−ショーガオール水溶液で繰り返し刺激したときの嚥下反射回数の推移を示すグラフである。
【図4】ラット咽喉頭を6−ジンゲロール、ジンゲロン、6−ショーガオール水溶液で繰り返し刺激したときの嚥下反射開始までの時間(潜時)の推移を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
【出願日】 平成18年6月20日(2006.6.20)
【代理人】 【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦

【識別番号】100071951
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 八寿夫


【公開番号】 特開2008−5(P2008−5A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−169564(P2006−169564)