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【発明の名称】 動物用生菌剤、飼料組成物、及びこれらの使用方法
【発明者】 【氏名】中川 良二

【氏名】長島 浩二

【氏名】阿部 健太郎

【氏名】三浦 俊治

【氏名】北村 亨

【氏名】古川 修

【要約】 【課題】単独の微生物であっても十分な動物の下痢軟便抑制効果及び体重増加効果を示し、動物に給与しても安全であり、家畜の生産性向上に寄与することができる生菌剤及び動物用飼料を提供する。

【構成】ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HOKKAIDO株を、飼料に混合しやすいように高濃度に調製し、動物用生菌剤とする。これを飼料に直接混合したり、スタータとして発酵飼料に用いることにより、動物の下痢軟便を抑制し、体重増加量の向上を達成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HOKKAIDO株(FERM P−19645)を含有する動物用生菌剤。
【請求項2】
生菌として実質的にラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus lantarum)HOKKAIDO株(FERM P−19645)のみを含有することを特徴とする請求項1に記載の動物用生菌剤。
【請求項3】
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HOKKAIDO株(FERM P−19645)が、動物由来材料を含まない培地で培養されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の動物用生菌剤。
【請求項4】
飲料と共に又はサプリメントとして動物に給与されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の動物用生菌剤。
【請求項5】
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HOKKAIDO株(FERM P−19645)を含有する飼料組成物。
【請求項6】
基礎飼料に請求項1又は2に記載の動物用生菌剤を添加して発酵させたものであることを特徴とする請求項5に記載の飼料組成物。
【請求項7】
代用乳であることを特徴とする請求項5又は6に記載の飼料組成物。
【請求項8】
牛を飼育するための飼料組成物であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の飼料組成物。
【請求項9】
動物の下痢又は軟便の治療又は予防のために、請求項1〜4のいずれか1項に記載の動物用生菌剤又は請求項5〜8のいずれか1項に記載の飼料組成物を使用する方法。
【請求項10】
動物の体重増加量の向上のために、請求項1〜4のいずれか1項に記載の動物用生菌剤又は請求項5〜8のいずれか1項に記載の飼料組成物を使用する方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)HOKKAIDO株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号:FERM P−19645)を含有する動物用生菌剤、この菌株を含有する飼料組成物、及び、動物の体重増加量の向上、下痢又は軟便の治療又は予防のためにこれらの生菌剤又は飼料組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛、豚、鶏等の家畜の飼養者にとって、家畜の健康維持促進を図って生産性を向上させることは重大な関心事である。例えば、体重が小さく疾病を発症しやすい幼動物では細菌感染や免疫力不足のために下痢が発生しやすく、特に子牛では斃死原因の62.1%が下痢や消化不良であると報告されている(USDA、2002)。従って、下痢や消化不良の治療や予防は、家畜の生産性向上のため不可欠な事項である。
【0003】
下痢や消化不良の治療や予防のために、飼料以外の様々な添加剤、例えば抗生物質が併給されてきた。しかし、近年抗生物質の多用により、多剤耐性菌の出現等の弊害が指摘され、消費者から健康的で安心安全な飼養技術が求められており、抗生物質の使用については世界的に規制が強化される傾向にある。一方、近年サルモネラ、ボツリヌス等、動物や畜産物から移行した有害微生物がヒトヘ重大な健康被害を引き起こす事例が増えている。従って、抗生物質に代わってこれら有害な微生物を抑制する作用を有する物質が飼料と共に動物に併給されるのが好ましい。
【0004】
一方、乳酸菌、特にプロバイオテック機能を有する乳酸菌は、上述の抗生物質の有する問題点を有さず、大腸菌等の増殖を抑制する作用を有する乳酸を生成し、下痢や消化不良の治療や予防の効果が期待されるため、これまで広く検討されてきた。
【0005】
例えば、特表2001−519144号公報(特許文献1)は、ウマ腸でコロニー形成する能力を有するラクトバチルス・プランタラムJI:1 DCM 11520株等を含むウマ飼料製品を開示しており、抗生物質による治療時の副作用である胃腸障害がこの飼料製品のウマへの給与により改善されたこと等が記載されている。しかしながら、ウマ以外の畜種に対する記述がなく、またウマの体重増加量の向上については明らではない。
【0006】
また、特開2002−238465号公報(特許文献2)は、ソルビン酸とプロバイオテック活性を有する微生物の培養菌を含有する飼料用添加物を開示している。プロバイオテック活性を有する微生物自体については、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ラムノーサス等の極めて多くの乳酸菌や酵母が羅列されているだけで、それぞれの菌種については詳細な記載はない。
【0007】
さらに、特開2005−224133号公報(特許文献3)は、動物用乳酸発酵大豆タンパク質性飼料成分の調製方法を開示している。この方法では、大豆に含まれる鼓腸誘発性オリゴ糖をグルコシターゼで処理して発酵性糖類に加水分解して無害化する際に、乳酸生産性培養物で発酵性糖類を処理して加水分解速度を向上させている。しかしながら、乳酸生産性培養物についてはラクトバチルス・プランタラム、ストレプトコッカス・クレモリス等の非常に多くの一般的な乳酸菌が羅列されているだけで、乳酸菌株自体の動物に対する機能性については明らかにされていない。
【0008】
また、特開2005−224224号公報(特許文献4)は、新規な乳酸菌株ラクトバチルス・プランタラムHOKKAIDO株(FERM P−19645。以下、「HOKKAIDO株」という)、及び、それを用いた発酵豆乳を開示している。特許文献4は、HOKKAIDO株が単一菌として優れた発酵力を有し、HOKKAIDO株をスタータとして風味の優れた豆乳が得られることを開示している。また、“食品と開発,4(7),70〜71(2006)”(非特許文献1)は、HOKKAIDO株のヒトへの摂取試験において、糞便中からHOKKAIDO株が主要な乳酸菌として検出され、乳酸菌数及びビフィズス菌が増加したことを記載している。しかしながら、これらの先行技術文献では、HOKKAIDO株がヒト以外の動物に対する機能性を有するかどうかについては明らかにされていない。
【0009】
さらに、複数の種類の微生物を含有する複合生菌剤に関する情報や市販製品が流通しており、ラクトバチルス・プランタラムを含む複合生菌剤も存在する(例えば、「ボバクチン」(株式会社ミヤリサン製))。
【0010】
【特許文献1】特表2001−519144号公報
【特許文献2】特開2002−238465号公報
【特許文献3】特開2005−224133号公報
【特許文献4】特開2005−224224号公報
【非特許文献1】食品と開発,4(7),70〜71(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、プロバイオテック活性を有する微生物による動物の下痢軟便抑制及び体重増加に対する効果、飼料効率に対する効果は一般には不明瞭であり、ラクトバチルス・プランタラムについても単独菌株で明瞭な動物の下痢軟便抑制効果と体重増量効果とを有するものは知られていない。従って、ラクトバチルス・プランタラムの単独菌株を用いて、動物の増体促進や下痢抑制により健康的に動物を飼育したり、家畜の生産性を良好に維持できる機能性飼料を提供することはできなかった。
【0012】
また、複数の種類の微生物を含む複合生菌剤については、菌どうしの科学的な因果関係や生菌剤自体の作用メカニズムが必ずしも明確でない上に、複合生菌剤の製造には複数段の培養工程が含まれる等、製造工程、管理工程が複雑であり、経済的にも不利である。
【0013】
従って、本発明の目的は、単独の微生物であっても十分な動物の下痢軟便抑制効果及び体重増加効果を示し、動物に給与しても安全であり、家畜の生産性向上に寄与することができる生菌剤及び飼料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは上記の課題を解決するため、広範な有用微生物素材について鋭意研究を行なった結果、食味が非常に良好な古漬けから分離されたHOKKAIDO株が、単独でも十分な動物の下痢軟便抑制効果及び体重増加効果を示し、この菌株を用いることで上記課題を解決できることを発見し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明はまず、HOKKAIDO株を含有する動物用生菌剤に関する。この生菌剤に使用するHOKKAIDO株は、BSE対策上、動物由来材料を含まない培地で培養されるのが好ましい。尚、本発明において、「動物」とは、ヒト以外の脊椎動物を意味し、牛、馬、豚、羊、鶏等の家畜、サル、犬、猫、ハムスター、小鳥等の愛玩動物の他、魚等も含まれる。
【0016】
この生菌剤は、HOKKAIDO株以外の生菌を含むこともできるが、HOKKAIDO株が単独でも十分な動物の下痢軟便抑制効果及び体重増加効果を示すため、生菌として実質的にHOKKAIDO株のみを含有する動物用生菌剤とするのが好ましい。このことにより、生菌剤の製造が容易かつ安価になる。
【0017】
この生菌剤は、飲料と共に動物に給与することができ、又はサプリメントとして動物に給与することもできる。
【0018】
本発明はまた、HOKKAIDO株を含有する飼料組成物に関する。尚、本発明において、「飼料組成物」には、家畜に給与される飼料組成物の他、上述の動物に一般に供与される飼料組成物も含まれる。HOKKAIDO株が単独でも十分な動物の下痢軟便抑制効果及び体重増加効果を示すため、本発明の飼料組成物は、家畜や愛玩動物の健康維持促進のために効果的であり、家畜の生産性を向上させることができる。
【0019】
本発明の飼料組成物は、例えば動物への給与の直前に基礎飼料に上述の動物用生菌剤を添加することにより製造しても良く、また、基礎飼料に上述の動物用生菌剤を添加して発酵させることにより製造することもできる。尚、本発明において、「基礎飼料」とは、一般に食用として動物に給与される飼料(例えば穀類、野菜、牧草、食品加工副産物、農産加工副産物等)であって、HOKKAIDO株を含まないものを意味する。
【0020】
本発明の飼料組成物は、安全であり、また、明確な動物の下痢軟便抑制効果及び体重増加効果を示すため、体重が小さく疾病を発症しやすい幼動物に対する代用乳の形態であるのが好ましく、また、動物一般に対して給与することができるが、好ましくは、牛、羊、豚、犬、猫、鶏に対して給与するのが好ましく、特に牛に対して、中でも下痢や消化不良のために斃死することが多い子牛に対して給与するのが好ましい。
【0021】
本発明はまた、動物の下痢又は軟便の治療又は予防のために、上述の動物用生菌剤又は上述の飼料組成物を使用する方法、及び、動物の体重増加量の向上のために、上述の動物用生菌剤又は上述の飼料組成物を使用する方法を提供する。尚、「体重増加量の向上」とは、HOKKAIDO株を含まない基礎飼料を動物に給与した場合と比較して体重増加量が増えることを意味する。
【発明の効果】
【0022】
HOKKAIDO株を使用することにより、安全で明瞭な下痢軟便抑制効果や体重増量効果を有する動物用生菌剤及び飼料組成物が得られる。従って、本発明により動物を健康的に飼育したり、安全かつ効率的に畜産物を生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、具体的かつ詳細に説明する。
【0024】
本発明において使用されるHOKKAIDO株の培養には、一般的なMRS培地、GYP培地、BLB培地等の乳酸菌用培地の他、果汁、野菜等の搾り汁、乳製品、牧草や穀物等の熱水抽出液、加水して加熱殺菌した糟糠類分散物等、乳酸菌の増殖を抑制せず、安全な素材であれば基本的に使用することができる。家畜用には、BSE対策上、動物由来材料を含有していない培地の使用が望ましい。また、培地は、接種前に滅菌することが望ましいが、物理的、化学的、生物学的な要因により、目的の菌株以外の微生物の生育を抑制できる場合には、必ずしも滅菌する必要はない。
【0025】
培養条件は、HOKKAIDO株の生残性が良好であれば特に限定されないが、一般に、温度は25℃〜42℃の範囲が好ましく、30℃〜37℃の範囲がより好ましい。培地のpHは、6〜8の範囲に制御されるのが好ましく、6〜7の範囲に制御されるのがより好ましい。菌株の接種量は、培地の重量又は体積に対して接種源が0.01%〜10%の濃度が好ましく、0.1〜5%の濃度がより好ましい。初発菌数は、104〜1010CFU/gの範囲が好ましく、106〜108CFU/gの範囲がより好ましい。培養時間は、10時間〜10日の範囲が好ましく、1〜4日の範囲がより好ましい。これ以外の条件でも、培地等他の条件を組み合わせて実施することができる。
【0026】
本発明では、上述の培養液そのものを懸濁液状の生菌剤とすることができる。また、培養液を濃縮することにより生菌剤とすることもできる。濃縮は、ろ過法や遠心分離法等の公知の方法で行うことができる。また、培養液を希釈することにより生菌剤とすることができる。希釈には、水、果汁、野菜等の搾り汁、乳製品、牧草や穀物等の熱水抽出液、加水して加熱殺菌した糟糠類分散物等を使用することができる。
【0027】
また、培養液を遠心分離して菌体を採集し、滅菌した生理食塩水等で洗浄した後、通風乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥、流動層乾燥、真空凍結乾燥等の公知の方法により乾燥し、乾燥粉末の形態の生菌剤とすることもできる。乾燥に先立って、菌株を基材に固定することもできる。基材は、HOKKAIDO株の生存に影響を与えない限り、有機物でも無機物でも良く、多糖類、澱粉、炭酸カルシウム、スキムミルク等の乳製品の他、市販の豆乳等も使用することができる。基材への固定は、培養液やその濃縮物又は希釈物を基材に混合、塗布、被覆、浸透、又は噴霧すること等により行うことができる。
【0028】
乾燥粉末は、公知の方法により、造粒しても良く、押出成形、打錠成形等によりペレット化しても良く、またマイクロカプセル化した生菌剤としても良い。カプセル化のためには、ゼラチン、レシチン、ステアレート類、アルギナート類、トラガカンス、アラビアゴム、変性澱粉、セルロース、パルミチン等を使用することができる。
【0029】
本発明の生菌剤には、他の有用な菌株が含まれていても良い。例えば、プロバイオテック機能を有する乳酸菌や酵母、例えば、バチルス・セレウス、バチルス・サブチリス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ガゼイ、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ストレプトコッカス・インファンタリアス、サッカロミセス・セレビシエ、及びこれらの混合物等が含まれていても良い。この場合には、これらの菌株を別々に培養した後、HOKKAIDO株と混合するか、又は、菌株どうしの相性の良い場合には最初から混合培養することもできる。しかしながら、HOKKAIDO株は単独でも優れた動物への機能性を示すため、本発明の生菌剤には、生菌として実質的にHOKKAIDO株のみが含まれているのが好ましく、この場合には製造が容易かつ安価になる。
【0030】
また、本発明の生菌剤には、酵素を混合することもできる。使用可能な酵素としては、例えば、セルラーゼ、フィターゼ、β−グルコシターゼ、リパーゼ、アミラーゼ、β−グルカナーゼ、ペントサナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、プロテアーゼ、ペプチターゼ、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
さらに、本発明の生菌剤には、酸化防止剤(クエン酸、アスコルビン酸、ビタミンE等)、乳化剤(ショ糖、脂肪酸エステル、レシチン等)、増粘剤(寒天、グルコマンナン、ゼラチン等)、ビタミン類(ビタミンA、B1、B2等)、ミネラル類(カルシウム、マグネシウム、マンガン等)、糖類(キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等)、フレーバー(ハーブ、ベリー、オレンジ等)等の各種成分を混合することもできる。
【0032】
本発明の生菌剤は、水道水、ミネラル含有水等の飲料に分散させて動物に飲用として給与しても良く、またサプリメントとして飼料とは別に供与しても良い。
【0033】
本発明の生菌剤に含有されるHOKKAIDO株は、飼料組成物として動物に給与されるのが好ましい。この飼料組成物は、例えば動物への給与の直前に基礎飼料に上述の動物用生菌剤を添加することにより製造しても良く、また、基礎飼料に上述の動物用生菌剤を添加して発酵させることにより製造することもできる。
【0034】
基礎飼料は、清潔で品質の優れたものであれば、種類は特に限定されない。基礎飼料としては、青刈り牧草、貯蔵牧草、穀類、野菜類、根菜類、スキムミルク等の乳製品の他、澱粉粕、オカラ、カボチャワタ等の未利用、低利用の食品加工副産物、及び、リンゴ果汁絞り粕、ポテトパルプ、ビール酵母等の農産加工副産物も使用することができる。食品加工副産物及び農産加工副産物を使用することにより、飼料自給率を向上させることができる。また、幼動物には、それぞれの動物に応じて粗たんぱく質、粗脂肪、粗繊維、粗灰分、ミネラル等が調製された公知の代用乳を基礎飼料とすることができる。
【0035】
長期保存用の飼料組成物のためには水分含量が低い基礎飼料を使用するのが望ましいが、水分含量が高い基礎飼料を使用する場合には、給与直前に本発明の生菌剤を混合して使用するか、HOKKAIDO株をスタータとしてサイレージや、リキッドフィード等の発酵飼料に加工・調製すれば問題ない。
【0036】
これらの発酵飼料の調製条件は、HOKKAIDO株の増殖と他の雑菌の抑制が可能な条件であれば、特に制限がない。例えば、オカラなどの基礎飼料に、HOKKAIDO株を飼料1gあたり104〜1010CFU、好ましくは106〜108CFUの生菌量になるように添加し、発酵させることができる。基礎飼料への添加は、乾燥形態の生菌剤を混合することにより、又は懸濁液形態の生菌剤を混合、塗布、被覆、浸透、又は噴霧することにより行うことができる。
【0037】
発酵の条件は、HOKKAIDO株の生存に影響しない条件であれば、特に限定がない。一般に、発酵温度は10℃〜35℃の範囲が好ましく、発酵時間は10時間〜30日の範囲が好ましい。これ以外の条件でも、基礎飼料等他の条件を組み合わせて実施することができる。
【0038】
また、本発明の動物用飼料には、本発明の生菌剤に関して示したのと同様の、酵素、酸化防止剤、乳化剤、増粘剤、ビタミン類、ミネラル類、糖類、フレーバー等の各種成分を混合することもできる。
【0039】
本発明の生菌剤及び飼料組成物は、安全であり、動物、特に幼動物の下痢又は軟便の治療又は予防の効果に優れ、良好な体重増加、体重増加量の向上をもたらし、愛玩動物の健康維持促進の他、家畜の生産性向上に寄与することができる。下痢又は軟便の治療又は予防のためのHOKKAIDO株の有効給与量、体重増加量の向上のためのHOKKAIDO株の有効給与量は、動物の種類、動物の健康状態及び給与形態等に依存して変化するが、子牛への給与の場合には、一般に、1日あたり体重1kgに対して107〜1010CFU程度である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0041】
1. 生菌剤の製造
実施例1:
容量3Lのジャーファーメンター(高杉製作所製TS−M−3)中で調整したMRSブロース培地から肉エキスを除いた組成の培地に、HOKKAIDO株のフルグロースの培養液を種菌として1%接種し、37℃、pH6.5の条件下で24時間中和培養し、計4Lの培養液を得た。この培養液を高速冷却遠心機で遠心(3000G、5℃、10分)し、得られた菌体を生理食塩水で洗浄し、この1/4の量を、水に10%のスキムミルクと1%のグルタミン酸ナトリウムを溶解させた溶液100mLに懸濁させ、懸濁液の形態の生菌剤を得た。平板希釈法(MRS寒天培地)により生菌数を測定したところ、総生菌数は、8.5×1012CFUであった。
【0042】
実施例2:
実施例1に示した生理食塩水で洗浄した後の菌体の1/4の量を、実施例1と同様に水に10%のスキムミルクと1%のグルタミン酸ナトリウムを溶解させた溶液100mLに懸濁させ、アルミトレイに分注した。これを真空凍結乾燥機(協和真空技術製RLEII−103)により、−50℃に予備凍結後、最終棚温度25℃で計48時間乾燥し、10g強の乾燥粉末の形態の生菌剤を得た。平板希釈法(MRS寒天培地)による総生菌数の測定結果及び乾燥前後での生残率を、以下の表1に示す。
【0043】
実施例3:
水に10%のスキムミルクと1%のグルタミン酸ナトリウムを溶解させた溶液100mLの代わりに、市販の成分無調整豆乳(めいらく製)100mLを使用した点を除いて実施例2を繰り返し、10g強の乾燥粉末の形態の生菌剤を得た。平板希釈法(MRS寒天培地)による総生菌数の測定結果及び乾燥前後での生残率を、以下の表1に示す。
【0044】
【表1】


【0045】
2. 飼料組成物の製造
実施例4:
実施例2の乾燥粉末としての生菌剤を、ホエーパウダーで重量2000倍に希釈し、乳酸菌としてHOKKAIDO株を含有する混合飼料(飼料組成物)を製造した。平板希釈法(MRS寒天培地)による生菌濃度(飼料1gあたりの生菌数)の測定結果を、以下の表2に示す。
【0046】
実施例5:
実施例4の混合飼料を、子牛用配合飼料(組成:脱脂粉乳42質量%、濃縮ホエー蛋白30質量%、混合油脂25質量%、ビタミン・ミネラル類のプレミックス3質量%)で重量25倍に希釈し、乳酸菌としてHOKKAIDO株を含有する配合飼料(飼料組成物)を得た。平板希釈法(MRS寒天培地)による生菌濃度の測定結果を、以下の表2に示す。
【0047】
比較例1:
ホエーパウダーを、子牛用配合飼料(組成:脱脂粉乳42質量%、濃縮ホエー蛋白30質量%、混合油脂25質量%、ビタミン・ミネラル類のプレミックス3質量%)で重量25倍に希釈し、乳酸菌を含有していない配合飼料(飼料組成物)を得た。平板希釈法(MRS寒天培地)による生菌濃度の測定結果を、以下の表2に示す。
【0048】
【表2】


【0049】
実施例4、5、及び比較例1の飼料組成物を子牛に給与したところ、いずれも良好な嗜好性を示した。
【0050】
3. 子牛への飼料組成物の給与
飼養例1: HOKKAIDO株の有無による比較
市場で購入したホルスタイン雄子牛32頭を、外観、体重、体調等について統計学的に偏りの無い16頭ずつの二群に分け、それぞれ、実施例5及び比較例1の配合飼料を給与し、42日間飼育した。
【0051】
実施例5及び比較例1の配合飼料は、それぞれ、自動哺乳機を用いて1頭あたり1日500gを4Lのぬるま湯で溶いた物を4回に分けて給与した。子牛の体重は、試験開始後0、7、21、35、及び42日目に測定した。結果を以下の表3に示す。
【0052】
【表3】


【0053】
表3から明らかなように、実施例5の配合飼料を給与して飼育した子牛は、比較例1の配合飼料を給与して飼育した子牛よりも、良好な体重の増加を示した。
【0054】
表4は、1日あたりの体重増加量(各飼養期間の平均値)を示す。
【0055】
【表4】


【0056】
表4から明らかなように、実施例5の配合飼料を給与した子牛の36〜42日における1日あたりの体重増加量は1.32kgであり、比較例1の配合飼料を給与した子牛の36〜42日における1日あたりの体重増加量の1.14kgより有意に大きかった(Tukey−Kramer法による一元配置分散分析(P=0.07))。その他の日齢についても、22−35日を除いて、実施例5の配合飼料を給与した子牛は比較例1の配合飼料を給与した子牛より、良好な体重増加を示した。したがって、HOKKAIDO株の給与により、子牛の体重増加量が向上したことがわかる。
【0057】
上述の子牛の各個体について、体重測定と共に、下痢、軟便発生状況を毎日確認した。評価に当たっては、下痢の発生1回について2、軟便の発生1回につき1、正常便の場合を0として点数化し、各飼養期間における1頭あたりの合計点を求めて下痢軟便指数とした。表5に結果を示す。
【0058】
【表5】


【0059】
表5に示した通り、飼養期間0〜21日における下痢軟便指数は、実施例5の配合飼料を給与した子牛に関しては1.1であり、比較例1の配合飼料を給与した子牛に関する指数2.8より有意に小さかった(Tukey−Kramer法による一元配置分散分析(P=0.07))。また全飼養期間0〜42日においても、実施例5の配合飼料を給与した子牛に関しては下痢軟便指数が1.8であり、比較例1の配合飼料を給与した子牛に関する指数4.2より有意に少なかった。(Tukey−Kramer法による一元配置分散分析(P=0.07))。以上の結果から、強いストレスにさらされる子牛の導入初期にHOKKAIDO株を給与することにより、子牛の下痢や軟便の発生が明らかに抑制されたことがわかる。
【0060】
飼養例2: 市販の複合生菌剤との比較
実施例5のHOKKAIDO株を含有する配合飼料と、市販の複合生菌剤を配合した配合飼料(比較例2)とを子牛に給与して、子牛の各個体の体重増加量及び下痢軟便指数を比較した。
【0061】
比較例2:
比較例1の配合飼料に、子牛の下痢軟便抑制のために汎用されている市販の三種の生菌を含有する複合生菌剤「ボバクチン」(製品1gあたり、乳酸菌のラクトバチルス・プランタラム220株を1×105〜9×106CFU、ストレプトコッカス・フェシウム26株を1×104〜9×105CFU、及び、これらの乳酸菌に対して発育促進作用を有するクロストリディウム・ブチリカムMiyairi株を1×103〜9×104CFU含有、株式会社ミヤリサン製)を混入することにより製造した。この配合飼料500gあたり、「ボバクチン」を使用基準量とされる10gの量で配合した。
【0062】
市場で購入したホルスタイン雄子牛8頭を、外観、体重、体調等について統計学的に偏りの無い4頭ずつの二群に分け、それぞれ、実施例5及び比較例2の配合飼料を給与し、35日間飼育した。
【0063】
実施例5及び比較例2の配合飼料は、それぞれ、1頭あたり1日500gを4Lのぬるま湯で溶いた物を2回に分けて哺乳ビンで給与した。子牛の体重は、試験開始後0、7、21、及び35日目に測定した。また、各個体の下痢、軟便発生状況は毎日確認した。
【0064】
以下の表6に、子牛の体重増加量を示す。
【0065】
【表6】


【0066】
表6から明らかなように、実施例5の配合飼料を給与した場合の1日あたりの体重増加量は比較例2の配合飼料を給与した場合より常に大きく推移した。
【0067】
以下の表7に、下痢軟便指数を示す。
【0068】
【表7】


【0069】
表7から明らかなように、実施例5の配合飼料を使用した場合の下痢軟便指数は、比較例2の配合飼料を給与した場合の下痢軟便指数と同等かむしろ良好に推移した。
【0070】
以上の結果をまとめると、HOKKAIDO株単独の給与でも、体重増加や下痢軟便の抑制について、ラクトバチルス・プランタラムを含む市販の複合生菌剤と同等か、それよりも良好な結果が得られることがわかった。
【0071】
4. 発酵した飼料組成物の製造
以下に、HOKKAIDO株をスタータとした発酵飼料(飼料組成物)の調製例を示す。調製に当っては、基礎飼料として市販のオカラを用い、パウチ袋に1袋あたり100gずつ詰めて密封して使用した。
【0072】
実施例6:HOKKAIDO株接種区
実施例5の配合飼料をオカラ1gあたりHOKKAIDO株が105CFUになるように接種し、25℃の定温庫内で発酵させた。
【0073】
実施例7:HOKKAIDO株+セルラーゼ区
実施例5の配合飼料を、オカラ1gあたりHOKKAIDO株が105CFUになり、セルロリティカス由来及びトリコデルマ ビリデ由来セルラーゼがオカラ100gあたり3.3mgになるように混合し、25℃の定温庫内で発酵させた。
【0074】
比較例3:無添加オカラ区
乳酸菌を添加しない未処理のオカラを、25℃の定温庫内で発酵させた。
【0075】
比較例4:市販乳酸菌スタータ区
雪印種苗製「スノーラクトLスプレー」(ラクトバチルス・ラムノーサスSBT−2300株含有)5gを1Lの水に溶かし、オカラ1kgあたり1mLになる量で噴霧した(製品に記載された基準使用量)。この処理により、オカラ1gあたりラクトバチルス・ラムノーサスSBT−2300株が105CFU接種される。噴霧後のオカラを25℃の定温庫内で発酵させた。
【0076】
比較例5:市販スタータ+セルラーゼ区
雪印種苗製「スノーラクトLアクレモスプレー」(ラクトバチルス・ラムノーサスSBT−2300株とアクレモニウム セルロリティカス由来及びトリコデルマ ビリデ由来セルラーゼを含有)35gを1Lの水に溶かしたものを、オカラ1kgあたり1mLになる量で噴霧した(製品に記載された基準使用量)。この処理により、オカラ1gあたりラクトバチルス・ラムノーサスSBT−2300株が105CFU接種され、セルラーゼがオカラ100gあたり3.3mg添加される。噴霧後のオカラを25℃の定温庫内で発酵させた。
【0077】
いずれの処理区とも15袋ずつ調製し、貯蔵1日後、3日後、7日後、14日後、28日後に、各処理3袋ずつ開封し、発酵飼料を調査した。具体的には、サンプル10gと蒸留水90mLを1分間ストマカーにかけて、約3時間5℃で抽出した後、No.5Aのろ紙でろ過した液を水抽出液とし、この液のpHをガラス電極pHメーターを用いて測定した。また、水抽出液を更に10倍に希釈して0.2μmのメンブランフィルターでろ過後、高速液体クロマトグラフィーのポストラベル法で有機酸の種類と量を測定した。
【0078】
図1に示した通り、貯蔵1日後までは、各処理区とも発酵飼料のpHに差が見られなかったが、貯蔵4日後以降では、比較例3及び比較例4の発酵飼料に比べて実施例6の発酵飼料のpHは有意に低かった(Duncan法による一元配置分散分析(p=0.05))。同様に図2に示した通り、セルラーゼと乳酸菌を併用した処理区の比較においても、比較例5の発酵飼料に比べて実施例7の発酵飼料は貯蔵4日後以降のpHの低下度合いが良好であった。
【0079】
また、図3に示した通り、貯蔵4日後以降、比較例3及び比較例4の発酵飼料に比べて実施例6の発酵飼料の乳酸含有量が多かった。さらに、図4に示した通り、セルラーゼとの併用区においても、比較例5の発酵飼料に比べて実施例7の発酵飼料の乳酸含有量が多かった。また、乳酸以外の有機酸は酢酸以外検出されず、酢酸も0.2%程度と少なく、実施例6、7はいずれも外観、香気とも優れ、極めて良好であった。
【0080】
以下の表8に、各発酵飼料についての乳酸菌濃度(オカラ1gあたりの菌数)と発酵時間との関係を示す。
【0081】
【表8】


【0082】
表8から明らかなように、発酵飼料の乳酸菌数に関しても、比較例3〜5の発酵飼料に比べて、実施例6、7の発酵飼料は多くの生菌を含んでいた。
【0083】
実施例6、7の乳酸菌の菌種の生化学的性状や遺伝学的性状(特開2005−224224号参照)を調査した。遺伝学的性状に関しては、乳酸菌をMRSブロース培地により35℃で2日間培養した後、培養液からDNAを抽出し、これを鋳型としてPCRにより増幅して分析した。その結果、ほぼ100%近くがHOKKAIDO株であると確認された。
【0084】
以上の結果から、HOKKAIDO株は市販の乳酸菌よりも速い発酵速度を示し、発酵飼料の乳酸菌スタータとして極めて優れていた。また、このように調製した発酵飼料は嗜好性や保存性も良好で、その上HOKKAIDO株が飼料中に大量に増殖しているので、この発酵飼料を家畜に給与することによりHOKKAIDO株を自然な形態で大量かつ持続的に投与することが可能となり、低コストのプロバイオテック飼料としての利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】発酵飼料(飼料組成物)のpHの変化を示す図である。
【図2】発酵飼料(飼料組成物)のpHの変化を示す図である。
【図3】発酵飼料(飼料組成物)の乳酸含量の変化を示す図である。
【図4】発酵飼料(飼料組成物)の乳酸含量の変化を示す図である。
【出願人】 【識別番号】591190955
【氏名又は名称】北海道
【識別番号】391009877
【氏名又は名称】雪印種苗株式会社
【出願日】 平成18年8月25日(2006.8.25)
【代理人】 【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明


【公開番号】 特開2008−48683(P2008−48683A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2006−229648(P2006−229648)