トップ :: A 生活必需品 :: A23 食品または食料品;他のクラスに包含されないそれらの処理




【発明の名称】 大豆蛋白加水分解物の製造法
【発明者】 【氏名】西 孝太郎

【要約】 【課題】本発明は大豆蛋白を加水分解する際に生じる不溶性画分を工業的連続遠心分離機でも容易に分離できる大豆蛋白加水分解物の製造法を目的とした。

【構成】本発明は、脱脂・脱ホエー工程を経た大豆たん白の酸性スラリーを、カリウム化合物を含む中和剤で中和した大豆蛋白濃縮物または分離大豆蛋白に対し、これを酵素分解し、生じる不溶性画分を分離除去することを特徴とする大豆蛋白加水分解物の製造法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆たん白の酸性スラリーを、カリウム化合物を含む中和剤で中和した大豆蛋白に対し、これを酵素分解し、生じる不溶性画分を分離除去することを特徴とする大豆蛋白加水分解物の製造法。
【請求項2】
酵素分解後不溶性画分分離除去前の15重量%TCA可溶率が30〜90%となるように酵素分解する、請求項1の製造法。
【請求項3】
カリウム化合物が、水酸化カリウムまたは炭酸カリウムである、請求項1の製造法。
【請求項4】
不溶性画分を分離して得られる大豆蛋白加水分解物のカリウム含量が粗蛋白質(CP)100g当り15m mole以上、アルカリ金属含量が同105m mole以下である、請求項1の製造法。
【請求項5】
生じる不溶性画分を分離除去する態様が遠心分離である、請求項1の製造法。
【請求項6】
遠心分離が、5000×gで10分間に相当する分離条件以下の緩慢な条件である、請求項5の製造法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆蛋白を加水分解した後に生じる不溶性画分を容易に分離できる、大豆蛋白加水分解物の製造法に関する。本発明の製造法により溶解時の透明性が高い、大豆蛋白加水分解物を容易に得ることができる。
【背景技術】
【0002】
大豆蛋白はその製造工程に於ける中和の際に水酸化ナトリウムを用いるのが典型的であり、その結果、大豆蛋白の粗蛋白質(CP)あたりのナトリウム含量が概ね1.0〜1.8%程度である。この大豆蛋白を蛋白質の物性を殆ど失うペプチドレベルにまで加水分解すると不溶性の画分を生じるが、この不溶性画分が不要な場合、例えば透明性が求められる食品や飲料などに使用する際には、この不溶性画分を除去する必要がある。
【0003】
除去する手段としては、工業的には連続式遠心分離が用いられる場合が多い。通常の大豆蛋白スラリーに対する連続式の遠心分離は、不溶性画分を含むスラリーを遠心分離機に1回通すだけで行われる場合が多い。しかしペプチドレベルにまで分解した大豆蛋白加水分解物は、沈降性が非常に悪い画分が含まれるため、2000〜3000×gの遠心分離では十分に除去することができず、最低でも5000×gで数十分程度の処理が必要である。このため、実際の製造工程においては生産効率を考慮して最初に遠心分離(2000〜3000×g)で沈降性の良い画分を除去し、次いでより分離能力の高い遠心分離(7000〜8000×g)を使用して沈降性の悪い画分を除去するなど、多段階の遠心分離工程やフィルターろ過などの工程を行う必要がある。この場合、多数の設備を必要とするため、メンテナンスや洗浄にかかる時間やコストが多くなるという問題があった。
【0004】
大豆蛋白は、脱脂大豆から水で抽出を行い、オカラを分離除去して得た脱脂豆乳に酸を加えて等電点沈殿させ、酸性水溶解性画分のホエーを除去した後、上記のように水酸化ナトリウムを用いて中和し、噴霧乾燥などして粉末状大豆蛋白を得る製造法が多い。しかし、稀ではあるがカリウム化合物を用いて中和して大豆蛋白を得る方法も以下のように知られている。
【0005】
本出願人は、炭酸カリウムで中和して大豆蛋白を製造する製造法を特許文献1に開示している。この特許文献1の従来技術の項にも水酸化カリウムで中和する大豆蛋白の製造法が開示されている。しかし、それらはペプチドレベルにまで加水分解して不溶性画分を除去することとは関係がない。
【0006】
また本出願人は、カリウム含有大豆蛋白加水分解物を、発酵促進剤として製造する方法を特許文献2に開示している。これは、脱脂大豆から水抽出して得られた脱脂豆乳を、等電点沈澱を行なわないまま直接酵素分解するものである。ナトリウムによるpH調整を行なわないことで、元々の大豆の組成に由来する、高カリウム含量かつ低ナトリウム含量の大豆蛋白加水分解物を得ることができる。しかし、水酸化カリウムで中和することを教えるものではないし、軽便に大豆蛋白加水分解物の分離性を向上させることについて教えるものでもない。
【0007】
【特許文献1】特開昭63-116652号公報
【特許文献2】特開平8-238066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は大豆蛋白を加水分解する際に生じる不溶性画分の沈降性改善を目的とした。遠心分離工程を簡単にでき、大豆蛋白加水分解物の製造工程を簡素化できるからである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は
(1)大豆たん白の酸性スラリーを、カリウム化合物を含む中和剤で中和した大豆蛋白に対し、これを酵素分解し、生じる不溶性画分を分離除去することを特徴とする大豆蛋白加水分解物の製造法。
(2)酵素分解後不溶性画分分離除去前の15重量%TCA可溶率が30〜90%となるように酵素分解する、(1)の製造法。
(3)カリウム化合物が、水酸化カリウムまたは炭酸カリウムである、(1)の製造法。
(4)不溶性画分を分離して得られる大豆蛋白加水分解物のカリウム含量が粗蛋白質(CP)100g当り15m mole以上、アルカリ金属含量が同105m mole以下である、(1)の製造法。
(5)生じる不溶性画分を分離除去する態様が遠心分離である、(1)の製造法。
(6)遠心分離が、5000×gで10分間に相当する分離条件以下の緩慢な条件である、(5)の製造法。
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、大豆蛋白加水分解物を製造する際に生じる不溶性画分を効率的に除去できるようになったものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明は、大豆蛋白の酸性スラリーを、カリウム化合物を含む中和剤で中和した分離大豆蛋白に対し、これを酵素分解し、生じる不溶性画分を分離除去することを特徴とする大豆蛋白加水分解物の製造法である。
【0012】
本発明に用いる酸性スラリーとしては、(a)脱脂大豆に加水しオカラを分離して得た脱脂豆乳を等電点沈殿させて得た酸性スラリー、または(b)脱脂大豆に加水し等電点沈殿させてホエーを分離して得た酸性スラリーを用いることができる。(b)の脱脂大豆に加水し等電点沈殿させてホエーを分離して得た酸性スラリーを用いる場合は、中和後オカラを除去するか、或いは酵素分解した後に生じる沈殿物と一緒にオカラを分離することが好ましい。酵素分解に供する酸性スラリーを中和した大豆蛋白溶液は、乾燥固形分当たりのCP70〜98%、好ましくはCP85〜98%が適当であるので、原料としてはCPの高い(a)の酸性スラリーを用いることが好ましい。酸性スラリーを中和した大豆蛋白溶液の乾燥固形分当たりのCPが高いほど、目的の大豆蛋白加水分解物の収率が高く好ましいからである。
【0013】
本発明は大豆たん白の酸性スラリーを、カリウム化合物を含む中和剤で中和したのち、酵素分解することが重要である。カリウム化合物としては水酸化カリウムまたは炭酸カリウムが適当であり、水酸化カリウムが少量で効果があり好ましい。カリウム化合物を含む中和剤としては、水酸化カリウムまたは炭酸カリウムだけでなく水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属化合物を用いることができる。カリウム化合物或いはカリウム化合物を含む中和剤と水酸化アンモニウムを併用することもできる。或いはアンモニアガスを吹き込むこともできる。
【0014】
本発明である、酵素分解して生じる沈殿物の分離が容易なカリウムとナトリウムの含量は、得られる大豆蛋白加水分解物のカリウム含量が、この大豆蛋白乾燥固形分中の粗蛋白質(CP)100g当り15m mole以上、好ましくは25m mole以上であり、且つ、アルカリ金属含量が、この大豆蛋白乾燥固形分中の粗蛋白質(CP)100g当り105m mole以下、好ましくは90m mole以下であることが適当である。カリウム含量が15m moleより少なくても、アルカリ金属含量が105m moleより多くても、沈殿の分離性の改善効果は劣る傾向にあるため好ましくない。尚、本発明では食品中のアルカリ金属の大半である、カリウムとナトリウムの合計をアルカリ金属として計算している。
【0015】
前記のように、(a)或いは(b)の酸性スラリーを、水酸化カリウムまたは炭酸カリウムで中和した後酵素分解することが重要であり、中和と酵素分解の間に例えば一旦噴霧乾燥するなど任意の工程が入ってもよい。その際は噴霧乾燥した大豆蛋白を再度加水して溶液となして酵素分解すればよい。また、酵素分解する工程と、生じる不溶性画分を分離除去する工程の間に任意の工程が入ることも妨げない。
【0016】
次に中和した大豆蛋白スラリー又は溶液を酵素分解する。本発明に用いる酵素は公知のものを利用することができ、酵素の種類は特に限定しない。作用pHも作用温度もその酵素の作用pH範囲、作用温度範囲で用いることができる。目的とする酵素分解率になるよう作用時間を調整することができる。酵素分解率は、15重量%TCA可溶率で表すことができる。即ち、酵素分解された大豆蛋白の最終15重量%のトリクロル酢酸可溶性窒素を全窒素で除して100をかけて表した値で表すことができる。本発明において、酵素分解後不溶性画分の分離前の状態で、15重量%TCA可溶率が30〜90%、好ましくは40〜90%、より好ましくは50〜90%が適当である。15重量%TCA可溶率が30%より少ないと、不溶性画分の分離がほとんど起こらず、透明な大豆蛋白加水分解物を得ることが困難である。また90%より高いと、蛋白質の低分子化が進みすぎ、ペプチドが有する種々の機能が低下する。
【0017】
生じる不溶性画分を分離除去する態様としてフィルタープレス、遠心分離など公知の分離手段を用いることができる。本発明の特徴は、連続遠心分離機で容易に不溶性画分を分離できることにあり、例えば「デカンター」のような工業的連続遠心分離機(2000〜3000×g)だけでもこの不溶性画分を分離できることにある。
【0018】
本発明では、5000×gで10分間以下、通常1000〜3000×gで5〜10分間に相当する分離能力の遠心分離で、効率的に不溶性画分を分離することができる。例えば、バッチ式の遠心分離機であれば、1000×gで5〜10分間、好ましくは1300×gで5〜10分間で十分に不溶性画分を分離することができる。加重を大きくしたり遠心分離の時間を長くするほど不溶性画分を容易に分離することができる。
【0019】
このようにして、加水分解後に生じる不溶性画分を分離して得られた大豆蛋白加水分解物含有溶液は、そのまま使用しても、殺菌して乾燥した後に使用しても良く、分離後の工程は特に限定しない。
【0020】
以上の製造方法により得られる大豆蛋白加水分解物は、乾燥固形分当たりのCPが70〜90%、カリウム含量が粗蛋白質(CP)100g当り15m mole以上、アルカリ金属含量が粗蛋白質(CP)100g当り105m mole以下とすることができる。また、不溶画分を除去後のこの大豆蛋白加水分解物は、15重量%TCA可溶率が95〜100%であり、得られる溶液は沈殿を生じない。また、得られた溶液を乾燥して粉末化した後に、再度溶解してもその溶液は沈殿を生じない。
【実施例】
【0021】
以下実施例により本発明の実施態様を具体的に説明する。
【0022】
[実施例1]
脱脂大豆に15倍加水し、水酸化ナトリウムでpH7.0に調整して、室温で30分間抽出後、1400×gで 5分間遠心分離して脱脂豆乳を得た。この脱脂豆乳に塩酸を加えてpH4.5とし、遠心分離して得られた大豆蛋白カードに固形分が10重量%となるように加水し、水酸化カリウムのみまたは水酸化カリウムと水酸化ナトリウムをそれぞれカリウム含量とナトリウム含量が表1の割合になるように併用してpH7.0に中和後、142℃で7秒間加熱殺菌を行い、噴霧乾燥して大豆蛋白粉末を得た(T1〜T5)。比較として中和時に水酸化ナトリウムのみを使用して同様の操作を行い粉末(C1)を得た。
【0023】
得られた大豆蛋白粉末の分析値を表1に示す。これら粉末の10重量%溶液を調製し、140℃で45秒間加熱した。この溶液の固形分に対してAlcalase 2.4L FG(Novozymes A/S)2.5重量%となるように添加し、撹拌しながら58℃で4時間反応させた。この反応液を85℃で30分間加熱し酵素失活させた溶液を得た。この溶液の15重量%TCA可溶率を表1に示す。この溶液を600〜1300×g,10分間のバッチ式遠心分離したときの上清の透明性を目視で確認した。
【0024】
(表1)調製した大豆蛋白粉末の分析値と遠心上澄の透明性


【0025】
1300×g,10分間の遠心分離で、ほぼ透明な上清が得られたT1〜T4に対して、T5およびC1では、同条件のの遠心分離でも透明な上清を得ることが出来なかった。T5およびC1では、カリウム含量が低いためだと推察する。尚、表中の上澄の透明性評価は、分離後の上澄の状態が、◎:透明,○:ほぼ透明,△:濁り,×:強く濁り,××:激しく濁り、とした。
【0026】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた大豆蛋白カードに水酸化カリウムを表2の量を添加し、塩酸でpH7.0に調整した後に、殺菌、乾燥して大豆蛋白粉末を得た。この粉末を用いて実施例1と同様に酵素分解した溶液を600〜1300×g,10分間のバッチ式遠心分離したときの上清の透明性を目視で確認した。
【0027】
(表2)調製した大豆蛋白粉末の分析値と遠心上澄の透明性


【0028】
1300×g,10分間の遠心分離で、ほぼ透明な上清が得られたT1,T6およびT7に対して、T8では、分離性は悪くなった。これはアルカリ金属含量が高いためだと推察される。
【0029】
[実施例3]
実施例1と同様にして得られた大豆蛋白粉末T1の10%溶液中に、溶液の固形分あたりAlcalase 2.4L FGを表3に示す量を添加して酵素分解をした。分解後の溶液を600〜1300×gで10分間のバッチ式遠心分離したときの、上清の透明性を目視で確認した(T1-1〜T1-3)。比較として、C1についても同様に分解し、評価を行った(C1-1〜C1-3)。
【0030】
(表3)酵素分解条件と遠心上澄の透明性


【0031】
1300×g,10分間の遠心分離で、ほぼ透明な上清を得ることができたT1,T1-1およびT1-2に対して、T1-3では分離は認められなかった。これは15重量%TCA可溶率が低いため、不溶性画分の分離がほとんど起こらなかったためであると考えられる。また、ナトリウム中和を行なったC1,C1-1およびC1-2では、いずれも透明性の高い上清を得ることができなかった。
【0032】
[実施例4]
実施例1と同様にして得た大豆蛋白カードに表2最下段に示した量の炭酸カリウムを添加し、更に水酸化ナトリウムを添加してpHを6.0に調整した。142℃で7秒間加熱殺菌を行い、噴霧乾燥して大豆蛋白粉末を得た(T9)。炭酸カリウムは加熱殺菌工程中にある真空処理時に炭酸が二酸化炭素として放出されるため、殺菌後のpHは7.0になる。得られた大豆蛋白粉末を、実施例1と同様に酵素分解した溶液を600〜1300×gで10分間のバッチ式遠心分離したときの上清の透明性を目視で確認した(表2最下段)。炭酸カリウムを用いた場合でも、水酸化カリウムと同様に1300×g 10分間の遠心分離で、透明な上清を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、大豆蛋白加水分解物の沈殿除去効率が改善され、より少ないエネルギーで分離することが可能になったものである。従って、この発明は沈殿が問題となる飲料などの製造時における沈殿除去工程の簡易化や効率の改善などに寄与するものである。
【出願人】 【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油株式会社
【出願日】 平成18年7月25日(2006.7.25)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−22826(P2008−22826A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2006−202243(P2006−202243)