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【発明の名称】 組織保存液
【発明者】 【氏名】眞野 喜洋

【氏名】佐藤 健次

【氏名】長 雄一郎

【氏名】千葉 金夫

【要約】 【課題】組織保存性に優れ、医療、医学実験等の分野において有用な、組織保存液を提供すること。

【構成】酸素ナノバブルを含むことを特徴とする組織保存液である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ナノバブルを含むことを特徴とする組織保存液。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、医学実験等の分野において有用な、組織保存液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の急速に進歩する医療の中で、組織(臓器、細胞も同様、以下同じ)移植の重要性は増し、その進歩は免疫抑制剤や、組織保存技術などの進歩により支えられている。組織移植においては、組織提供者(ドナー)から摘出された組織が直ちに受容者(レシピエント)に移植されるのが理想的ではあるが、必ずしも直ちに移植されるとは限らない。そのため、摘出された組織を如何に保存するかは極めて重要であり、より優れた組織保存液が望まれているのが現状である。
【0003】
一方で、近年、酸素のナノバブルを多量に含んだ水(酸素ナノバブル水)が、魚介類の環境変化に対する適応性を向上させたり、衰弱した個体を急速に回復させたりするなど、生物に対する種々の生理活性作用を有していることが注目されている(例えば、特許文献1参照)。ナノバブルとは、直径が1μm以下の超微小気泡であり、通常はマイクロバブル(直径が50μm以下の微小気泡)が縮小する過程において生成するが、表面張力の作用により自己加圧されているため急速に完全溶解してしまい、その寿命は一般的に短いとされていた。しかし、界面活性剤による殻を被った場合や、表面帯電による静電反発力を受けた場合には、ナノレベルの気泡であってもある程度の長時間、存在することが可能であることが報告されている。特に帯電効果により安定化したナノバブルは、気泡としての特性を保持しており、生物の細胞レベルへの直接的な働きかけなど、多方面に応用の可能性が期待されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−246294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、組織保存性に優れ、医療、医学実験等の分野において有用な、組織保存液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、酸素ナノバブル水が、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、神経細胞培養用培地(NCM)等の従来の組織培養液と同等か、又はそれ以上の組織保存効果を奏することができるという知見である。
酸素ナノバブル水は、前記したように、例えば、魚介類の環境変化に対する適応性を向上させたり、衰弱した個体を急速に回復させたりするなど、生物に対する種々の生理活性作用を有していることが既に知られており、注目を集めている。また、近年、ナノバブルを長期間安定に維持できる酸素ナノバブル水の製造方法も確立された(例えば、特開2005−246294号公報参照)。
しかしながら、前記酸素ナノバブル水が、従来の組織培養液と同様か、又はそれ以上の組織保存効果を奏することができ、そのため、優れた組織保存液として、医療、医学実験等の分野で好適に利用可能であることは従来全く知られておらず、本発明者らの新たな知見である。
【0007】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、酸素ナノバブルを含むことを特徴とする組織保存液である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、組織保存性に優れ、医療、医学実験等の分野において有用な、組織保存液を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(組織保存液)
本発明の組織保存液は、酸素ナノバブルを含むことを特徴とする。
【0010】
<酸素ナノバブル水>
本発明において、「酸素ナノバブル」とは、酸素を含有する気泡であり、かつ、その気泡径(直径)がナノサイズ(1μm以下)であるものをいい、「酸素ナノバブル水」とは、酸素を含有し、かつ、前記酸素が、前記酸素ナノバブルとして存在している水溶液をいう。即ち、前記酸素ナノバブル水は、本発明の組織保存液の好ましい一態様である。
【0011】
本発明の組織保存液に用いる酸素ナノバブル水中の酸素ナノバブルとしては、種々の気泡径のものが存在しうる。中でも、前記気泡径としては、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、10nm未満が特に好ましい。前記気泡径が100nm以下であると、電解質や異物が混入するリスクが低い点で、有利である。また、前記気泡径が10nm未満であると、ウイルス等を含む多くの異物も除去できる点で、更に有利である。
前記酸素ナノバブルの気泡径は、例えば、逆浸透膜などを利用して所望のサイズに調整することができ、また、前記酸素ナノバブルの気泡径は、例えば、動的光散乱光学計を用いて測定することができる。
【0012】
前記酸素ナノバブル水の酸素濃度としては、飽和状態が好ましい。前記酸素ナノバブルが、水溶液中に十分に溶解していることが重要である。
【0013】
前記酸素ナノバブル水の塩分濃度、pH、硬度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する酸素ナノバブル水の製造過程において、また、一旦、酸素ナノバブル水を製造した後に、各々所望の程度に調整することができる。
【0014】
−その他の成分−
前記酸素ナノバブル水は、前記酸素ナノバブル以外にも、必要に応じて適宜その他の成分を含有してなる。前記その他の成分の具体例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄、マンガン、塩分などが挙げられる。
【0015】
−製造−
前記酸素ナノバブル水の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特開2005−246294号公報に記載の製造方法に従って製造することができる。前記公報に記載の製造方法によれば、数ケ月以上の長期にわたって酸素ナノバブルが安定して存在し、水溶液中から消滅することがない酸素ナノバブル水を製造することができる点で、好ましい。
【0016】
前記酸素ナノバブル水の製造過程において、用いる水溶液の塩分濃度は、0.2〜3.0質量%が好ましく、0.8〜1.2質量%がより好ましい。前記塩分濃度が、0.8〜1.2質量%の範囲内であると、ナノバブル(ガス核)を作成し易く、酸素ナノバブル水の作製効率に優れる点で、有利である。前記塩分濃度は、例えば、公知の塩分濃度測定器を用いて測定することができる。
【0017】
また、前記酸素ナノバブル水の製造過程において、用いる水溶液のpH、硬度は、酸素ナノバブルの作製効率に塩分濃度ほど大きな影響を与えないと考えられるが、通常、pHは、7〜8が好ましく、硬度は、20〜30が好ましい。前記pH、硬度は、例えば、それぞれ公知のpH測定器、公知の硬度測定器を用いて測定することができる。
【0018】
また、前記酸素ナノバブル水の製造過程においては、鉄、マンガン、塩分を添加することが好ましい。
【0019】
具体的には、例えば、1.0質量%の塩分濃度の硬水(地下水)を原材料として、50μm 以下の酸素マイクロバブルを作製した上で、急速圧壊させることにより、酸素ナノバブル水を作製することが可能である。なお、更に10nmの逆浸透膜を通して精製された酸素ナノバブル水(塩分0質量%)が、飲料水として厚労省が認可している「ナーガの雫」(有限会社オーベル)である。一方、10nmの逆浸透膜を通していない段階のものが塩分濃度1.0質量%の酸素ナノバブル水である。この両者の酸素ナノバブル水の混合比率を変えることで、塩分濃度0〜1.0質量%の酸素ナノバブル水を提供することができる。
【0020】
前記のようにして得られた酸素ナノバブル水は、そのまま前記組織保存液として使用してもよいが、例えば、前記酸素ナノバブル水を既存の組織保存液に添加するか、或いは、前記酸素ナノバブル水を原水として既存の組成の組織保存液を作成すれば、組織保存能力が更に増強されることが期待できる。酸素ナノバブル水は無菌水であり、かつ高い殺菌能力を有するため、このような方法による組織保存液の作製に好適である。したがって、このような、酸素ナノバブル水を一部に利用した組織保存液も、本発明の組織保存液の範囲内に含まれる。
【0021】
<組織>
前記組織保存液の保存対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、また、本発明の組織保存液は、「組織」のみでなく、「細胞」や「臓器」の保存にも好適である。
【0022】
前記「組織」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織などが挙げられる。
【0023】
前記「細胞」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0024】
前記「臓器」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜などが挙げられる。
【0025】
また、前記組織、細胞、臓器の由来となる生物に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、哺乳動物由来の組織、細胞、臓器が好ましく、ヒトの組織、細胞、臓器がより好ましい。
【0026】
<用途>
前記組織保存液の使用方法としては、特に制限はなく、従来の組織保存液と同様に、例えば、前記組織、細胞、臓器等を、生体から摘出後、前記組織保存液に所望の期間浸漬させることにより使用することができる。
また、前記組織保存液自体の保存方法としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記組織保存液は組織保存性に優れるので、例えば、医療、医学実験等の分野における組織保存液として、好適に利用可能である。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1:酸素ナノバブル水の組織保存効果の評価)
本発明の組織保存液の一態様である酸素ナノバブル水(株式会社REO研究所)は、特開2005−246294号公報に記載の製造方法を参照し、作製した。具体的には、1.0質量%の塩分濃度の硬水(地下水)を原材料として、50μm以下の酸素マイクロバブルを作製した上で、急速圧壊させて作製した。
得られた酸素ナノバブル水の組織保存効果について、生理食塩水と従来の組織培養液とを対照とし、ラット迷走神経を材料に用い、組織学的検討を行った。
【0029】
<方法>
−組織の保存/固定−
ラット(Std:Wistar/ST、10週齢、雄、300g)4頭(ラット1〜4)より、ネンブタール麻酔下に手術用顕微鏡を用いて、両側の迷走神経(計8本)を摘出した。次に、摘出した迷走神経のうち、ラット1頭(ラット1)より摘出した迷走神経(計2本)については、切断せずにそのまま以降の実験操作に用い、残りのラット3頭(ラット2〜4)より摘出した各迷走神経(計6本)については、それぞれ5等分に切断した。
次に、3頭(ラット2〜4)より摘出した各迷走神経の最中枢側(L2〜4、R2〜4)と、残りの1頭(ラット1)より摘出した迷走神経全体(L1、R1)を、正常対照迷走神経組織として、切断乃至摘出直後にザンボニ固定液(15%ピクリン酸、4%パラホルムアルデヒド、0.4Mリン酸緩衝液、pH7.4)を用いて4℃で1週間、固定処理した。また、3頭(ラット2〜4)より摘出した各迷走神経組織の残りの部分は、左側をA系列、右側をB系列として、中枢側から順に、それぞれ生理食塩水(C)、酸素ナノバブル水(NB)、ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium:DMEM)、神経細胞培養用培地(Neuron Culture Medium:NCM)中にて4℃で組織保存し、1、3、7日後にザンボニ固定液に移して4℃で1週間、固定処理した(図1)。更に、固定処理した各迷走神経組織は、52℃低融点パラフィンを用いて包埋処理した。
【0030】
なお、図1に表記したラット迷走神経組織の各部位と各保存方法との対応は以下の通りである。
[保存方法]
L1〜4、R1〜4 :切断乃至摘出直後に固定
C−A1、3、7、C−B1、3、7 :生理食塩水で保存
NB−A1、3、7、NB−B1、3、7 :酸素ナノバブル水で保存
DMEM−A1、3、7、DMEM−B1、3、7:DMEMで保存
NCM−A1、3、7、NCM−B1、3、7 :NCMで保存
[保存日数]
A1、B1:1日保存
A3、B3:3日保存
A7、B7:7日保存
【0031】
−ヘマトキシリン−エオシン染色(H.E.染色)−
パラフィン包埋した各迷走神経組織について、ミクロトームを用いて厚さ8μmに薄切した後、MASコーティングスライドガラスに貼り付けた。次いで、キシレン系列及びアルコール系列により脱パラフィン処理し、蒸留水中で5分間、脱アルコール処理した。その後、メイヤーのヘマトキシリン(Mayer’s Hematoxylin)液を用いて室温で30分間、核染色処理した。更に、流水中で15分間色出し処理後、10%エオシン(Eosin)液で5分間、線維、間質等の染色をし、流水中で1分間洗浄後に蒸留水に通した。その後、アルコール系列にてエオシン(Eosin)脱色及び脱水処理を行い、キシレン系列で透徹処理した後に、エンテランニューにより封入処理をして、H.E.染色組織標本を作製した(例えば、下記参考文献(1)〜(2)参照)。
次に、作製したH.E.染色組織標本について、光学顕微鏡を用いて鏡検し、各迷走神経組織の微細形態変性について、組織保存性を組織学的に判定した(例えば、下記参考文献(3)〜(8)参照)。
【0032】
<結果>
結果を図2〜4、及び表1に示す。
正常対照迷走神経組織の微細形態については、中枢側、中央部、末梢側で組織学的な差は認められなかった(図2)。また、左右間や個体間でも組織学的な差は認められなかった。
生理食塩水(C)中で保存した場合では、保存3日後以降で迷走神経組織の細胞質脱落による菲薄化が進行していた。また、DMEM中で保存した場合では、保存3日後にある程度の迷走神経組織の細胞質脱落がみられ、保存7日後で迷走神経組織の細胞質脱落による菲薄化が進行していた。一方、酸素ナノバブル水(NB)、NCM中で保存した場合では、組織保存性が比較的良好であり、保存7日後で弱度の細胞質脱落がみられたのみであった(図3、図4)。
各迷走神経組織の組織保存性について、下記評価基準に従い、組織学的に判定した結果を表1に示した。
[評価基準]
3+:良好な微細形態の維持
2+:弱度の細胞質脱落
+:細胞質脱落による菲薄化の進行
【0033】
【表1】


【0034】
表1の結果、酸素ナノバブル水で組織保存した迷走神経組織は、生理食塩水、DMEMで保存したものに比べ、迷走神経組織の細胞質脱落による菲薄化の程度が少なく、迷走神経組織の微細形態がより維持されていた。また、酸素ナノバブル水で組織保存した迷走神経組織は、NCMで保存したものと同等の組織保存性を示した。本実施例1で用いた各保存液の組織保存性は、酸素ナノバブル水≧NCM>DMEM>生理食塩水の順であった。
以上の結果から、酸素ナノバブルを含む本発明の組織保存液は、優れた組織保存性を有していることが示され、医療、医学実験等の分野における組織保存液としての応用の可能性が示された。
【0035】
[参考文献]
なお、本実施例中、各参考文献は以下の通りである。
(1)赤尾信吉、麻生晃、安達真二、阿南建一、阿部美知子、他(1997)新染色法のすべて.pp.3−6.医歯薬出版
(2)下鳥萌(2004)迷走神経切断・再生様式の機能的ならびに組織学的検討.東京医科歯科大学卒業論文
(3)志水義房、井出千束、川村光毅、戸谷重雄、東儀英夫(1997)神経の再生と機能再建−基礎と臨床−.pp.227−249.西村書店
(4)Bray G M,Aguayo A J(1974)Regeneration of peripheral unmyelinated nerves.Fate of the axonal sprouts which develop after injury.J Anat 117:517−529
(5)Barbara Young,John W Heath(2001)機能を中心とした図説 組織学 第4版.pp.116−142.医学書院
(6)Alan Stevens,James Lowe(1999)人体組織学 原書第2版.pp.77−98.南江堂
(7)Leslie P Gartner,James L Hiatt(2003)最新カラー組織学.pp.157−187.西村書店
(8)Leslie P Gartner,James L Hiatt(1999)ガートナー/ハイアット組織学カラーアトラス.pp.126−146.メディカル・サイエンス・インターナショナル
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の組織保存液は組織保存性に優れ、そのため、医療、医学実験等の分野における組織保存液として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、実施例1で用いたラット迷走神経組織の各部位と各保存方法とを示す模式図である。
【図2】図2は、正常対照迷走神経組織(左側:L1)の光学顕微鏡像(H.E.染色法:×400)である。
【図3】図3は、各迷走神経組織(左側:A系列)の光学顕微鏡像(H.E.染色法:×400)である。
【図4】図4は、各迷走神経組織(右側:B系列)の光学顕微鏡像(H.E.染色法:×400)である。
【出願人】 【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
【識別番号】503357735
【氏名又は名称】株式会社REO研究所
【出願日】 平成18年9月6日(2006.9.6)
【代理人】 【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一

【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広

【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子


【公開番号】 特開2008−63258(P2008−63258A)
【公開日】 平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願番号】 特願2006−241189(P2006−241189)