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【発明の名称】 動物実験装置
【発明者】 【氏名】礒村 宜和

【要約】 【課題】無麻酔状態の被検動物の実験中のストレスを軽減し、被検動物が暴れない状態で脳を定位固定したうえで、レバー操作を効率的に行わせる。

【解決手段】本発明は、被検動物の胴部に沿う寸法の保定部であって、該被検動物が該保定部内に侵入するための入口部と該被検動物の頭部がでる頭部開口部とを有する保定部20eと、該被検動物の頭部を固定する頭部固定部22とを備える動物実験装置10を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検動物の胴部に沿う寸法の保定部であって、該被検動物が該保定部内に侵入するための入口部と該被検動物の頭部がでる頭部開口部とを有する保定部と、
該被検動物の頭部を固定する頭部固定部と
を備える動物実験装置。
【請求項2】
前記被検動物の一方の前肢で操作する操作部と、
該被検動物による操作部の操作に応じて、該被検動物に報酬を供給する供給部と
を備える、請求項1に記載の動物実験装置。
【請求項3】
前記被検動物の他方の前肢で掴まることができる前肢支持部を備える、請求項2に記載の動物実験装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、動物実験装置に関し、より詳細には、ラット、モルモット又はマウス等の被検動物に実験目的に応じた行動等をさせて脳機能の測定等を行う動物実験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検動物に特定の行動を学習させて実験を行う装置として、オペラント実験装置(室町機械Comp ACT OPS/W等)が使用されている。オペラント実験装置は、非拘束状態の被検動物がレバー押し行動を学習する過程を心理学的に評価するための装置である。
【0003】
例えば、被検動物にレバーを動かす行動を学習させるオペラント実験装置(いわゆるスキナー箱)では、被検動物が生活可能な空間を有する実験箱と、実験箱の壁から突出したレバーと、被検動物に餌または水を供給する供給部とを有し、被検動物がレバーを動かすと被検動物に報酬としての餌または水を与える。
【0004】
このようなオペラント実験装置では、被検動物が偶然にレバーに接触することを契機に学習が始まり、偶然にレバーに接触することを繰り返して試行錯誤により、被検動物はレバーを動かすことと報酬を得ることとの相関を学習する。
【0005】
また、無麻酔状態の動物の脳内活動を生理学的に記録するための装置として、動物用慢性脳定位固定装置が知られている。動物用慢性脳定位固定装置は、無麻酔の被検動物の頭部を定まった空間位置(定位)で固定して、被検動物の頭部に電極を刺入して、脳機能を測定する装置である。
【0006】
このような動物用慢性脳定位固定装置として、例えば、非特許文献1が開示されている。非特許文献1に開示された脳定位固定装置では、予め被検動物の頭部に取り付けておいた固定具(ガイドパイプ)と装置とを固定することによって、被検動物の脳を無麻酔状態で固定する。固定具は、被検動物の頭部の皮膚を切除して、頭蓋骨に複数のビスを嵌入して、該ビスの問にパイプを固着することによって被検動物に取り付けられる。
【0007】
固定具を被検動物に取り付ける際には、最初に被検動物に麻酔をかけておき、被検動物の両耳にイヤーバーを差込み、上の前歯に金具をかけて3点で頭部が定位に位置するように調節してから、装置に取り付けた状態の固定具を頭蓋骨に固着させて、頭部と固定具を装置から取り外す。この操作によって、次からは無麻酔状態で固定具を装置に固定すると自動的に頭部が定位に位置することになる。
【非特許文献1】株式会社成茂科学器械研究所ホームページ「SR−8N 脳定位固定装置」[online][平成18年12月11日検索]、インターネット〈URL:http://www.narishige.co.jp/japan/products/group2/sr−8n.htm〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
被検動物に特定の行動を学習させる場合、上記オペラント実験装置では、被検動物が偶然にレバーに触れるまでの時間を要するため、学習開始に時間がかかること、偶然にレバーに触れることを繰り返す試行錯誤によりレバーの動作と報酬の供給との相関を学習するまでに時間がかかること等の問題があった。一般的に、上記オペラント実験装置を用いた場合、特定の行動を被検動物に学習させるための時間として、数週間から数ヶ月の期間を要していた。
【0009】
また、神経生理学では、脳に電極を刺入して、被検動物の感覚や運動機能に対する脳の神経活動の応答を電極から検出して記録する。脳に電極を刺入する際、又は電極からの応答を検出する際には、脳定位固定装置に被検動物の脳を固定する必要がある。被検動物の脳に電極を刺入するいくつかの手法を例として以下説明する。
【0010】
脳に電極を刺入するとき、脳に刺入された電極からの応答を見ながら電極の刺入位置を決定する手法がある。例えば、脳の視覚野の実験を行うとき、被検動物の脳における電極の刺入位置を変化させながら、被検動物の目に刺激を与える。目の刺激に対応する神経細胞は発火して電位変化があるため、この神経細胞付近に到達した電極はこの電位変化を検出する。実験者は、電極の刺入位置を適宜変化させながら、目の刺激に対して電位変化のある神経細胞を探索して、電極の刺入位置を決定する。
【0011】
また、脳に電極を刺入する別の手法として、電気刺激を与えながら電極の刺入位置を変化させて、この電気刺激に応答する被検動物の運動を見ながら電極の刺入位置を決定する手法がある。例えば、脳の運動野の実験を行うとき、被検動物の脳の神経細胞に電極で電気刺激を与えると、この電気刺激を与えた神経細胞に対応する筋肉(例えば前肢)が活動して被検動物が運動を行う。実験者は電極の位置を適宜変化させて電気刺激を与えながら、実験を行いたい運動に対応する神経細胞を探索して、電極の刺入位置を決定する。
【0012】
上述の電極の刺入位置を決定する手法は、脳の神経活動や筋活動の応答を見ながら電極の刺入位置を決定するため、脳の神経活動や筋活動が活動可能な状態で行わなければならない。当然に、被検動物の視覚や聴覚などの感覚に対応する脳の神経活動を記録する実験や、被検動物の運動機能に対応する脳の神経活動を記録する実験でも、脳の神経活動や筋活動が活動可能な状態で行わなければならない。また、10ミクロンオーダの神経細胞に電極を刺入するため、被検動物が暴れると刺入された電極が100ミクロンオーダで振動して、刺入位置を決定した神経細胞から電極がずれて、刺入位置を決定した神経細胞からの電気応答を検出できなくなる。加えて、被検動物が暴れると、被検動物の脳の脳圧が上がって脳が上方に押し上げられることによっても、応答を検出したい神経細胞から電極がずれて、応答を検出したい神経細胞からの電気応答が検出できなくなる。
そのため、脳に電極を刺入する際、又は脳に刺入された電極からの応答を検出する際には、被検動物において脳の神経活動や筋活動が活動可能な状態であり、かつ、被検動物が暴れない状態で、被検動物を上記脳定位固定装置に固定する必要がある。
【0013】
しかしながら、従来の脳定位固定装置では、被検動物の頭部のみを固定して胴部や四肢を自由に動かすことができるため、被検動物が胴部や四肢を大きく動かすことにより脳に刺入された電極を振動させることが可能であった。また、従来の脳定位固定装置では被検動物の頭部のみが固定されていることから、強いストレスを感じて暴れて脳に刺入される電極を振動させることも多々あった。そのため、脳定位固定装置に被検動物を固定して実験などを行うためには、被検動物を脳定位固定装置に馴れさせるための数週間の馴化時間が必要であるとともに、被検動物を脳定位固定装置に馴れさせたとしても被検動物が動いて脳に刺入された電極を振動させる可能性は依然として残っていた。
【0014】
そこで、麻酔下の被検動物を脳定位固定装置に固定すれば、被検動物は動くことも、暴れることもなく、脳に刺入された電極が振動して、応答を検出したい神経細胞から電極がずれることを防止することができるとともに、被検動物が脳定位固定装置に馴化させる時間も必要ないとも思われる。しかしながら、無麻酔睡眠状態、無麻酔覚醒状態、及び麻酔状態の3つの脳の状態のうち、麻酔状態の脳は、睡眠状態でも覚醒状態でもなく非生理的な意識不明の状態であり、感覚や運動に関する脳の神経活動及び筋活動が著しく低下又は変質しており、神経細胞からの機能的な電気応答の検出が困難である。そのため、麻酔下の被検動物では、脳の神経活動や筋活動が活動可能な状態を前提とした脳の神経活動や筋活動の応答を見ながら電極の刺入位置を決定する手法、被検動物の視覚や聴覚などの感覚に対応する脳の神経活動を記録する実験、及び被検動物の運動機能に対応する脳の神経活動を記録する実験などは行うことができない。
【0015】
上述の通り、従来の脳定位固定装置では、被検動物において脳の神経活動や筋活動が活動可能な状態で、かつ、被検動物が落ち着いた状態で、被検動物を固定することは非常に困難であり、脳に刺入された電極から電気応答を検出する成功率を下げるものであった。
【0016】
また、上記脳定位固定装置に頭部が固定された状態では、被検動物は暴れ続けて自然睡眠に至るのは非常に困難であるとともに、長時間暴れさせて、断眠状態にしてから入眠させることは動物愛護の観点からも望ましくなく、上記脳定位固定装置では自然睡眠中の被検動物で実験等を行うことはできなかった。
【0017】
そこで、本発明の目的は、上記問題点の少なくともいくつかを克服する動物実験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る装置は、被検動物の胴部に沿う寸法の保定部であって、該被検動物が該保定部内に侵入するための入口部と該被検動物の頭部がでる頭部開口部とを有する保定部と、該被検動物の頭部を固定する頭部固定部とを備える動物実験装置である。
【0019】
また、前記動物実験装置は、前記被検動物の一方の前肢で操作する操作部と、該被検動物による操作部の操作に応じて、該被検動物に報酬を供給する供給部とを備えることができる。
【0020】
また、さらに前記被検動物の他方の前肢で掴まることができる前肢支持部を備えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る実験装置は、被検動物の胴部に沿う寸法の保定部を備えているため、狭い所にいることを好む被検動物は、保定部の中に胴が収容されていることにより、胴が開放されている状態よりも安心感を得るため、無麻酔状態であっても暴れたりしない。
【0022】
さらに、操作部と供給部とを備える実施形態においては、頭部を固定した状態で被検動物が操作部を操作することにより供給部から報酬を得ることの学習を訓練することができるとともに、該学習に対応した脳の神経細胞からの電気応答を記録する実験も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を添付の図により説明する。図1〜図3に本発明の第1の実施形態に係る実験装置の概念図を示す。図2は、図1をA方向から見たA矢視図であり、図3は、図1をB方向から見たB矢視図である。
【0024】
本発明の第1の実施形態にかかる動物実験装置10は、被検動物に特定の条件に応じた特定の運動を実行させたときの脳の機能を測定するために用いられる。本実施形態においては、特定の条件に応じて、ラット(被検動物)にレバーを操作させたときのラットの脳機能を測定する実験を例に挙げて説明する。
【0025】
動物実験装置10は、装置支持部12と、装置支持部12の上に設置されたラットの胴部を収容する保定部20eを有する保定器20と、ラットの頭部を固定する頭部固定部22とを備える。
【0026】
装置支持部12は、下部プレート16と、上部プレート18とを備え、上部プレート18は、下部プレートの4隅から垂直方向に延びる上部プレート支持部14によって、下部プレート16から一定の空間を保持して設置されている。下部プレート16と、上部プレート18との間に形成される空間には、ラットに操作させるための操作部26の一部が収納されている。操作部26は水平にストロークするレバー26aを備えており、該レバーは、保定器20と頭部固定部22の間に設けられた上部プレート18の前方開口部18aから上方に突出ている。上部プレート18の上には、保定器20が、保定器支持壁30を介して取り付けられている。
【0027】
保定器20の斜視図を図4〜図6に示す。保定器20は、半筒形状部分を有する第1部材20aと第2部材20bとを備え、各部材の半筒形状部分において、直線状の2辺から連なる保定器固定部20c及び20dを備えている。第1部材20aと第2部材20bは、半筒形状部分が互いに対向して筒形状の保定部20eを構成するように組み合わされ、一方の保定器固定部20cがヒンジ部として構成されて他方の保定器固定部20dが開閉可能となっている。本実施形態では、開閉可能側部20dに設けられたネジを緩めて第1部材20aを開き、ネジを締めて第1部材20aを第2部材20bに固定することができる。
【0028】
電磁波シールド効果と管理の容易さを考慮して、本実施形態では、第1部材20aと第2部材20bはステンレスである。保定器20は、筒形状部分の一方の開放部が頭部固定部22に面するように設置されている。ラットは、頭部固定部22側の開放部(以下、頭部開口部という)から頭部を突き出し、胴体と後両肢が保定器20の筒形状に構成された空間に収容されるように保定される。他方の開放部は、ラットが自ら保定部20e内に侵入可能な入口部を構成している。本実施形態では、保定器20は、ラットの体型に合わせて、頭部開口部及び入口部の直径が約60mm程度、頭部開口部から入口部までの長さが約200mm程度の大きさで構成されている。
【0029】
保定器20が取り付けられる保定器支持壁30は上部壁30aと下部壁30bを備え、上部壁30aと下部壁30bとが重なる重合部30cの幅が、上下方向に調節可能となっている。したがって、上部プレート18から保定器20までの距離を調整することが可能である。
【0030】
保定器20は、保定器支持壁30が頭部固定部22側(以下、前方という)から、遠ざかる側(以下、後方という)に向かってやや傾斜して設置されていることにより、上部プレート18に対して、前方から後方に向かって傾斜して固定される。実験中のラットの糞尿は、この傾斜によって保定部20eの入口部に向かって落下し、上部プレート18に設けられた図1に示す後方開口部18bを通って、下部プレート16の上に設けられた図2に示す糞尿受け皿34に回収される。
【0031】
図6は、保定器20の頭部開口部を示す斜視図である。この頭部開口部においては、ラットが前肢を自由に動かせるように、第2部材20bが第1部材20aよりも短くカットされている。また、頭部開口部には、左前肢支持部32が設けられている。左前肢支持部32は、ラットの頭部が固定された状態において、ラットの左前肢に対応する位置に設置され、左前肢支持部32の格子状に構成された突起部32aに、ラットが左前肢で掴まることが可能となっている。これにより、ラットが右前肢でレバー26aを操作する間、ラットの体がより安定する。
【0032】
図7は頭部固定部22にラットを固定した状態を示している。頭部固定部22は、手術によって予めラットの頭部に装着されている被検動物装着金具40と、該装着金具40を頭部固定部22に固定する金具固定部42とを備える。金具固定部42は、金具固定部支持部44を介して、上部プレート18に設置されている。被検動物装着金具40は、ラットの頭骨に2本のアルミ製パイプ40aを取り付け、さらに固定用フレーム40bを該パイプ40aに通して固定する手術を施すことにより、ラットの頭部に装着される。
【0033】
図7では、まだ電極が差し込まれていない状態のラットを示している。脳機能の記録時には、頭部固定部22に固定されたラットの脳に、図示しない脳機能測定装置に連結した図示しない電極が差し込まれる。また、電極の差込箇所を照らすライト52が設けられている。
【0034】
図8は、頭部固定部22にラットを固定していない状態を示している。また、説明のために、前方開口部18aからレバー26aが見える状態で、開口部閉鎖板19を示している。開口部閉鎖板19はレバー26aを上部プレート18の下に収納して前方開口部18aを閉じるために用いられる。前方開口部18aは、ラットにレバー操作を行わせる必要のない実験や測定を行う際に閉じられる。
【0035】
金具固定部支持部44は、図示していないネジ部等によって、垂直方向に延伸可能に構成されている。また、金具固定部42は、図示していないネジ部等によって、保定器20から遠ざかる方向及び近づく方向にスライド可能に構成されている。したがって、頭部固定部22は、実験時に位置及び高さを調節することができる。
【0036】
図9は、操作部26を示す斜視図である。操作部26は、レバー26aが、頭部が固定された状態におけるラットの右前肢に対応する位置にくるように設置され、レバー26aはラットの右前肢によって動かされる。レバー26aは軸部26bと連結しており、水平に、かつ一定のトルクで20mmストローク可能である。図10は、ラットの右前肢とレバー26aを示す図である。ラットの右前肢によって矢印方向にストロークされるレバーの位置は、軸部26bと連結した図示しないエンコーダを介して、20mm間を8bit(256段階)の分解能で示したレバー位置情報としてデジタル出力され、図示しないインターフェース部に出力される。該インターフェース部は、エンコーダから受け取ったレバー位置情報を増幅して図示しないコンピュータへ送信する。従来のスキナー箱では、レバーのON、OFFの2値のみを検出する単純な学習しかできないとの問題点があったが、本動物実験装置10では、ラットがレバーをどの位置まで動かしているか、リアルタイムに正確に測定することが可能となり、より高度な学習をさせることができる。
【0037】
図9に示すロックバー28は、訓練または記録実験中において、データ記録中にのみレバーを動かせるようにするものである。データ記録前まではレバー26aをロックして「待て」(おあずけ)の状態にする。データ記録前に水を飲みすぎると、ラットがレバー動作を積極的に行わなくなる可能性があり、このような状態を防ぐために、データ記録前にはロックバーによりレバーをロックする。データ記録開始時にロックバー28をはずしてレバー26aを動かすことが可能な状態にする。なお、レバー26aの位置及び高さは任意に設定可能である。望ましくは、レバー26aをシリコンゴムで覆い、やや太めにしておくと、ラットがより掴みやすい。
【0038】
また、動物実験装置10は、ラットに外部刺激を与える図示しない外部刺激供給部を備える。本実施形態では、外部刺激供給部は、音刺激を供給するように構成され、周波数の異なる2種類の音を生成するジェネレーターと、生成された音を発信するスピーカーボックスを備える。音刺激の発信タイミング等は、上記図示しないコンピュータに記憶されたプログラムによって調整することができる。音刺激トリガー信号は、上記コンピュータに連結された上記インターフェース部を介して、5VTTL信号として前記ジェネレーターに出力される。
【0039】
本実施形態では、音刺激に応じてラットにレバーを操作させ、報酬としてサッカリン水を該ラットに与える。保定されたラットの口元に、一定量のサッカリン水を供給するために、図1〜図3に示す給水スパウト支持部24には、給水スパウト25が固定されている。該給水スパウト25は、図示しないシリンジポンプに連結され、1回に約0.02mlのサッカリン水をラットに供給する。給水スパウト25は、ラットの口内に確実にサッカリン水を与えることが可能なように、ラットの口元に対応する位置に設置される。
【0040】
ラットによってレバー26aが操作されると、前述のように、エンコーダ及びインターフェース部を介してレバー位置情報がコンピュータに出力される。該コンピュータは該レバー位置情報に基づいてレバーが適切に操作されたと判定できる場合には、インターフェース部を介して、給水トリガー信号を5VTTL信号として前記シリンジポンプに出力し、前記給水スパウト25からサッカリン水をラットに供給する。
【0041】
次に、本動物実験装置10を用いた実験方法について、説明する。この実験では、被検動物を学習させ、学習による脳の神経細胞の応答を観測して、脳の神経細胞を特定することを目的としている。実験の手順は、(手順1)被検動物の準備、(手順2)装置への保定、(手順3)課題訓練、(手順4)記録実験、(手順5)神経細胞の染色、(手順6)神経細胞の特定、の(手順1)〜(手順6)で構成されている。
【0042】
手順1:被検動物の準備
まず、従来法と同様に、ラットの頭蓋骨に2本のアルミ製パイプ40aを固着する手術を行う。ラットの頭部の皮膚を切除して、頭蓋骨に複数のビスを嵌入して、該ビスの間に1本のパイプ40aを固着する。このパイプ40aを2本頭蓋骨に固着して、このパイプ間の頭蓋骨に直径1mmぐらいの穴を空け、この穴をシリコンゴムなどでシールする。シリコンゴムでシールすることにより、脳の乾燥を防ぐと共に脳への菌の侵入を防御する。なお、実験を行うときには、シリコンゴムをはがして脳に電極を直接刺入する。
【0043】
ラットに固着されたパイプ40aに固定用フレーム40bを通すと、固定用フレーム40bを、頭部固定部22の金具固定部42に固定することにより、動物実験装置10に被検動物の頭部を固定することが可能となる。なお、以下に説明する訓練や実験に先立って、ラットには24時間の給水制限を施しておく。
【0044】
手順2:装置への保定
手術の翌日以降、ラットを動物実験装置10に固定して、レバー26aを動かすことを訓練させる。まず、実験開始時にラットを保定部20eに誘導する。狭い所を好むラットは、入口部から保定部20eの内部に自ら侵入する。
保定部20eの頭部開口部から出てきたら、ラットの頭部に固着されたパイプ40aとそれに取り付けられた固定用フレーム40bとからなる被検動物装着金具40を、頭部固定部22の金具固定部42に固定して、ラットの頭部を動物実験装置10に固定する。被検動物は、頭部が固定された状態でも、保定部20eの中に胴が収容されていることにより安心感を得て、無麻酔状態であっても暴れたりしない。なお、保定部20e内には、被検動物の胴部及び後両肢が収容されている。
したがって、被検動物の頭部を動物実験装置10に固定した当初から、被検動物が暴れることなく落ち着いた状態にあるため、従来必要としていた、脳定位固定装置への馴化時間は必要ない。
【0045】
動物実験装置10では、ラットの頭部が固定された状態において、右前肢に対応する位置にレバー26aが、左前肢に対応する位置に左前肢支持部32の格子状突起部32aが配置されている。両前肢の下方は大きく開口しており、ラットは、右前肢でレバー26a以外を、左前肢で突起部32a以外を、捉えることができない構造となっているため、ラットは頭部が動物実験装置10に固定された当初から、自然と右前肢でレバー26aを把持するとともに、左前肢で突起部32aを掴み、姿勢を保持しようとする。
上記実験装置10の構成により、ラットは、頭部が実験装置10に固定された当初から、自然とレバー26aを把持するため、従来要していたレバー等の操作部に偶然接触するまでの時間や、レバー26aに偶然接触することを繰り返して試行錯誤する時間を要することなく、ラットの頭部が実験装置10に固定された当初から、レバー操作と報酬との相関学習の訓練や評価、測定等を開始することができる。
【0046】
本動物実験装置10では、装置への馴化時間がない状態で、実験第1日目から3時間で500回程度のレバー操作を実行させることが可能である。
【0047】
手順3:課題訓練
次いで、ラットに課題を与え、より高度なレバー操作の訓練をさせる。本実施形態では、外部刺激供給部から発信される条件刺激に応じて、ラットにレバー26aを操作させる。条件刺激としては、例えば、周波数の異なる2種類の音をランダムに発信させて、2種類の音に対応したレバー操作の訓練をさせる。一方の音が発信されたときには、レバー26aを動かし、もう一方の音が発信されたときには、レバー26aを動かさないようにラットを訓練する。この訓練では、ラットが、第1の周波数の音に対して、レバー操作を実行すると、報酬として、給水スパウト25からサッカリン水が与えられるが、第2の周波数の音に対してはレバー操作を行ってもサッカリン水が与えられないようにする。
【0048】
レバー26aのトルクは一定であり、レバー位置はエンコーダを介して常に正確に検出される。レバー位置情報に基づいて、ラットがレバー26aを動かす加速度を詳細に測定することができるため、レバーを動かす加速度を考慮した、より高度な訓練を実行することができる。
【0049】
前述のように、ラットは胴体及び後両肢が保定部20eに収容されることによって、長時間(例えば6時間以上)にわたって暴れることなく動物実験装置10に拘束されるため、上記訓練を効率的に実行することができる。
【0050】
手順4:記録実験
レバー操作を学習済みであるラットの脳に電極を刺入する。より具体的には、電極により電気刺激を与えるとラットの右前肢の筋肉が活動する脳の神経細胞を、電極から脳の神経細胞を刺激しながら探索して、電極の刺入位置を決定する。または、ラットにレバー操作を行わせて、レバー操作に対応して発火する神経細胞を電極からの電位変化を検出することにより探索して、電極の刺入位置を決定してもよい。このとき、ラットが暴れたりしないため、電極をゆっくりと進めながら、レバー操作に対応して発火する神経細胞を着実に探索することができる。
【0051】
電極の刺入位置が決定したら、ラットにレバー操作を行わせて、解析対象となる神経細胞からの電気応答を記録する。なお、記録実験のときは、マニュピレータにより電極の刺入位置を3次元で特定しているため、電極の刺入位置を正確に把握することができる。
【0052】
手順5:神経細胞の染色
記録実験にて電気応答を検出した神経細胞に染料を注入することにより、電気応答を検出した神経細胞を染色する。
【0053】
手順6:神経細胞の特定
実験終了後は、被検動物装着金具40を、頭部固定部22の金具固定部42から外し、保定器20の開閉可能側部20dのネジを緩めて第1部材20aを開き、ラットを動物実験装置10から解放する。ホルマリン処理を施したラットの脳切片を作成して、染色した神経細胞を顕微鏡により観察する。これにより、手順4で応答を検出した神経細胞を特定し、サブクラスに分類する。
【0054】
上記第1の実施形態において、被検動物の訓練(手順3)と記録実験(手順4)とは、同一の動物実験装置10で連続して実行しなくても良い。例えば、別の動物実験装置10又は複数の動物実験装置10において、予め被検動物の訓練を実行して被検動物に特定の行動を学習させておくこともできる。そして、特定行動を習得済みのラットを、訓練を行った動物実験装置10とは別の動物実験装置10に固定して、記録実験を行うこともできる。被検動物の訓練課程(手順3)では、右前肢でレバー26aを掴み、左前肢で左前肢支持部を掴み、給水スパウトから水等を得ることが可能な位置に、頭部が固定されていれば足り、厳密に脳を定位に固定しなくても良い。したがって、訓練用に用いる動物実験装置10においては、固定フレーム等を用いない頭部固定部を採用することができ、被検動物装着金具40を装着していない被検動物の頭部を固定する頭部固定部を用いることができる。
また、記録実験においては、電極を微小移動させるためにマニュピレータを用いることができる。
【0055】
上記第1の実施形態の被検動物の訓練において、正解範囲、制限時間、待機時間及び音の種類等の条件は、コンピュータ・プログラムによって任意に設定可能なため、研究目的や各個体の能力に応じた課題種類、難易度で訓練及び評価を行うことが可能である。
【0056】
上記第1の実施形態における脳の神経活動の記録において、多電極プローブを用いることにより、多数の神経細胞の活動を同時にとらえることができるマルチユニット記録法を実行することができる。また、微小ガラス電極を用い、単一の記録細胞にバイオサイチンの電気的浸透を施すことによって、傍細胞記録法による電気生理学的(細胞の活動を電気応答の検出により観測)および形態学的(細胞の形を観測)モニタリングを行うことができる。大脳皮質の運動関連領域における神経活動をこれらの方法を用いて解析することにより、運動の実行を担う神経回路メカニズムの解明などに役立てることが可能となる。
【0057】
本発明の第2の実施形態における実験装置は、第1の実施形態おける動物実験装置10の保定器20と、頭部固定部22とを備えており、操作部26や給水スパウトを備えていない点において第1の実施形態と相違する。被検動物は、頭部が実験装置に固定されているとき胴が保定部20eに収容されているため、頭部が実験装置に固定された状態であっても安心感を得て暴れたりすることがない。
【0058】
本実施形態の実験装置では、自然睡眠中の脳の働きを測定することができる。被検動物が入眠する時間帯に合わせて、被検動物装着金具40を装着した被検動物を本実験装置に誘導する。被検動物の頭部を本実験装置に固定しておき、脳に電極を刺入して脳機能の測定が可能な状態にしておく。被検動物は、頭部が固定されていても、胴が保定部20e内に収容されているため、安心感を得て自然に眠りに落ちて、脳波上「レム睡眠」(夢を見る眠り)と「ノンレム睡眠」(深い眠り)とを繰り返すようになる。よって、自然睡眠中の脳の働きを測定することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態の実験装置では、被検動物を実験装置に固定した状態でも、被検動物が暴れることがないため、より正確に被検動物の脳に電極を刺入することができる。例えば、被検動物の脳への電極の刺入位置を変化させながら被検動物の目に刺激を与えて電極の刺入位置を決定するときも、被検動物は無麻酔下で頭部が固定されていても暴れることがないため、電極の刺入位置の決定の成功率をあげることができる。
【0060】
なお、本実施形態の実験装置の用途は、無麻酔下で頭部が固定された状態であっても被検動物が暴れることがないことを利用する全ての実験に用いることができるものであり、上記自然睡眠中の実験、上記電極刺入の用途に限られるものではない。また、前述のように、操作部26を上部プレート18の下に収容して、開口部閉鎖板19によって前方開口部18aを閉鎖することにより、本実験装置を用いてもよい。
【0061】
[他の実施形態]
被検動物は、ラットに限定されない。上記保定器の保定部は、被検動物の体型に合った形状であればよく、筒状に限定されず、上部が開放されている半筒状であってもよい。
【0062】
各被検動物の体型に合わせて、被検動物の頭部が固定された状態で、左前肢で掴むことが可能な位置に左前肢支持部を配置し、右前肢で操作することが可能な位置にレバー等の操作部を配置し、被検動物が水等を得ることが可能な位置に給水スパウトを配置することができる。被検動物は、保定器に自ら侵入し、頭部を固定されると、上記配置関係によって、自然と左前肢で左前肢支持部を掴み、右前肢でレバー等の操作部を掴み、給水スパウトから水等を得ることができる。また、保定器に胴と後肢が収容されることによって、暴れたりしない。よって、被検動物は、被検動物を実験装置に固定した当初からレバー等の操作部を動かす動作を開始し、レバー等を動かすことと水等の供給との相関の学習を即開始し、被検動物を訓練する期間を飛躍的に短縮させることができる。
【0063】
上記保定器の筒状保定部を用いる場合には、各種被検動物の体型に合わせた筒形状の大きさを採用することができる。また、筒状保定部は、筒状形状の側面の一部に開口を有する形状であっても良く、筒状形状の側面にスリットを有する形状であっても良い。なお、胴部に密着又は触れる領域が多く内部が薄暗い方が、被検動物はより落ち着きストレスがより軽減される。したがって、望ましくは、被検動物の体型に合わせて、胴部に密着又は触れる領域が多く内部が薄暗くなるような形状を用いると良い。上記保定器は、例えばアルミやダンボール等の材料を用いて形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る実験装置を示す概念図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る実験装置を示す概念図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る実験装置を示す概念図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る保定器を例示する斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る保定器を例示する斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る保定器を例示する斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るラットが固定された状態の頭部固定部を例示する斜視図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係るラットが固定されていない状態の頭部固定部を例示する斜視図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る操作部を例示する斜視図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係るレバーを示す概念図である。
【符号の説明】
【0065】
10 実験装置
12 装置支持部
20 保定器
22 頭部固定部
25 給水スパウト
26 操作部
30 保定器支持壁
32 左前肢支持部
40 被検動物装着金具
42 金具固定部
【出願人】 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
【出願日】 平成19年2月22日(2007.2.22)
【代理人】 【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一

【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一

【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男


【公開番号】 特開2008−200007(P2008−200007A)
【公開日】 平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願番号】 特願2007−42633(P2007−42633)