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【発明の名称】 魚類寄生虫の防疫方法
【発明者】 【氏名】平澤 徳高

【氏名】石田 昌史

【氏名】河野 文美

【氏名】梅田 奈央子

【要約】 【課題】特殊な薬剤等、特別な装置等を必要としない、安全で容易な魚類の寄生虫感染を低減させる方法を提供する。

【解決手段】魚類の飼育環境のうち、魚類の遊泳範囲の照度を魚類の非遊泳範囲の照度の1/3以下とする魚類の寄生虫感染の低減方法である。さらに、魚類の飼育環境が水槽等である場合、魚類の非遊泳範囲に排水口又はトラップを設ける魚類の寄生虫感染の低減方法である。魚類の飼育環境のうち、魚類の非遊泳範囲の少なくとも一部の照度を魚類の遊泳範囲の照度の3倍以上にする魚類の寄生虫感染の低減方法である。さらに魚類の飼育環境が水槽等である場合、魚類の非遊泳範囲内に設けられた照度が3倍以上にされた場所に排水口又はトラップを設ける魚類の寄生虫感染の低減方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類の飼育環境のうち、魚類の遊泳範囲の照度を魚類の非遊泳範囲の照度の1/3以下としたことを特徴とする魚類の寄生虫感染の低減方法。
【請求項2】
魚類の飼育環境が水槽又はタンクであって、魚類の非遊泳範囲に排水口又はトラップを設けたことを特徴とする請求項1の魚類の寄生虫感染の低減方法。
【請求項3】
排水口の口及び口周囲の色が水槽又はタンクの色と明度に差がある色で構成されていることを特徴とする請求項2の魚類の寄生虫感染の低減方法。
【請求項4】
生簀の上面を遮光することにより、魚類の遊泳範囲である生簀内の照度を魚の非遊泳範囲である生簀外の照度の1/3以下にすることを特徴とする請求項1の魚類の寄生虫感染の低減方法。
【請求項5】
沈下式生簀を用いることにより、魚類の遊泳範囲の照度を魚の非遊泳範囲の1/3以下の照度にすることを特徴とする請求項1の魚類の寄生虫感染の低減方法。
【請求項6】
魚類の飼育環境のうち、魚類の非遊泳範囲の少なくとも一部の照度を魚類の遊泳範囲の照度の3倍以上にすることを特徴とする魚類の寄生虫感染の低減方法。
【請求項7】
魚類の飼育環境が水槽又はタンクであって、魚類の非遊泳範囲内に設けられた照度が3倍以上にされた場所に排水口又はトラップを設けたことを特徴とする請求項6の魚類の寄生虫感染の低減方法。
【請求項8】
排水口の口及び口周囲の色が水槽又はタンクの色と明度に差がある色で構成されていることを特徴とする請求項7の魚類の寄生虫感染の低減方法。
【請求項9】
魚類を飼育する水槽またはタンクの内壁の色と明度に差がある色の排水口またはトラップを設ける魚類の寄生虫感染の低減方法。
【請求項10】
魚類を飼育する水槽またはタンクの内壁の色を魚類の体色と同色で明度の近い色にすることを特徴とする魚類の寄生虫感染の低減方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類寄生虫の防疫方法に関する。特にハダムシの防疫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハダ虫 Neobenedenia girellaeなど眼点を有する魚類寄生虫は正の走光性を示すことが知られている。それら試験は、孵化幼生に光をあて行動を観察したものが主であり、宿主である魚への感染に実際どのように関与しているのか、などの詳細については検討されていない(非特許文献1、2)。
【0003】
【非特許文献1】魚介類の感染症・寄生虫病(2004).若林久嗣、室賀清邦編 第4章単生虫症pp353−379.株式会社恒星社厚生閣.東京.
【非特許文献2】Yoshinaga, T., Nagakura, T., Ogawa, K. and Wakabayashi, H. (2000).Attachment-inducing capacities of fish tissue extracts on oncomiracidia ofNeobenedenia girellae (Monogenea, Capsalidae). Journal of Parasitology 86,214-219.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特殊な薬剤等、特別な装置等を必要としない、安全で容易な魚類の寄生虫感染を低減させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ハダ虫 Neobenedenia girellaeなど眼点を有する魚類寄生虫は正の走光性を示すことが知られていたが、本発明者らは、魚類の飼育環境の照度が寄生虫の魚への寄生に大きく影響すること、すなわち、照度の高い場所にいる魚ほど本寄生虫感染が起こりやすいことを見出し本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、以下の(1)〜(10)の魚類の寄生虫感染の低減方法を要旨とする。
(1)魚類の飼育環境のうち、魚類の遊泳範囲の照度を魚類の非遊泳範囲の照度の1/3以下としたことを特徴とする魚類の寄生虫感染の低減方法。
(2)魚類の飼育環境が水槽又はタンクであって、魚類の非遊泳範囲に排水口又はトラップを設けたことを特徴とする(1)の魚類の寄生虫感染の低減方法。
(3)排水口の口及び口周囲の色が水槽又はタンクの色とコントラストの大きい色で構成されていることを特徴とする(2)の魚類の寄生虫感染の低減方法。
(4)沈下式生簀を用いることにより、魚類の遊泳範囲の照度を魚の非遊泳範囲の1/3以下の照度にすることを特徴とする(1)の魚類の寄生虫感染の低減方法。
(5)生簀の上面を遮光することにより、魚類の遊泳範囲である生簀内の照度を魚の非遊泳範囲である生簀外の照度の1/3以下にすることを特徴とする(1)の魚類の寄生虫感染の低減方法。
【0007】
(6)魚類の飼育環境のうち、魚類の非遊泳範囲の少なくとも一部の照度を魚類の遊泳範囲の照度の3倍以上にすることを特徴とする魚類の寄生虫感染の低減方法。
(7)魚類の飼育環境が水槽又はタンクであって、魚類の非遊泳範囲内に設けられた照度が3倍以上にされた場所に排水口又はトラップを設けたことを特徴とする(6)の魚類の寄生虫感染の低減方法。
(8)排水口の口及び口周囲の色が水槽又はタンクの色とコントラストの大きい色で構成されていることを特徴とする(7)の魚類の寄生虫感染の低減方法。
(9)魚類を飼育する水槽またはタンクの内壁の色と明度に差がある色の排水口またはトラップを設ける魚類の寄生虫感染の低減方法。
(10)魚類を飼育する水槽またはタンクの内壁の色を魚類の体色と同色で明度の近い色にすることを特徴とする魚類の寄生虫感染の低減方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法を採用することにより、薬剤や特殊な設備を用いることなく、魚類の寄生虫感染を低減させることができる。魚類の養殖において重大な問題となる寄生虫感染症の発症を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、ハダ虫 Neobenedenia girellaeなど眼点を有する魚類寄生虫の魚類に対する寄生が、魚類の飼育環境の照度により大きく影響されること、すなわち、照度の高い場所にいる魚ほど寄生虫感染が起こりやすいことを見出した。
本発明において、「魚類の飼育環境のうち、魚類の遊泳範囲の照度を魚類の非遊泳範囲の照度の1/3以下とした」とは、例えば、水槽が魚類の飼育環境であったとすれば、水槽を網で仕切り、魚が入れる区画(魚類の遊泳範囲)と入れない区画(魚類の非遊泳範囲)に区分し、魚が入れる区画の照度を入れない区画より暗くするという意味である。暗さの程度が照度で1/3以下である。この場合、寄生虫は両区画の間を自由に移動できる必要があるので、魚類の遊泳範囲と非遊泳範囲とは、網などのように水と寄生虫は自由に移動でき、魚類が移動できない方法で仕切られている必要がある。
したがって、本発明において「魚類の飼育環境」とは、魚類の飼育水が存在する範囲であり、「魚類の遊泳範囲」とは魚が泳いでいける範囲、「魚類の非遊泳範囲」とは、飼育環境の中の魚が泳いで行けない範囲を意味する。
【0010】
魚類の飼育環境のうち、魚類の遊泳範囲を仕切る他の方法としては、生簀がある。海の中の一定の範囲を網などで囲ったものである。この場合、生簀の上面を遮光することにより、魚類の遊泳範囲である生簀内の照度を魚の非遊泳範囲である生簀外の照度の1/3以下にすることができる。遮光する方法は、生簀の大きさによるが、物理的に板やシートで覆うことができる。あるいは、沈下式生簀を用いることにより、魚類の遊泳範囲の照度を魚の非遊泳範囲の1/3以下の照度にする方法もある。沈下式生簀とは、金網でできた箱状の生簀を海面から深く沈めるタイプの生簀である。波の影響をうけにくいなどの理由で一部の魚類では利用されている。水中では、深くなるほど、暗くなるので、この沈下の程度を調節することにより、暗くすることができる。汚染されていない海域で、水深30mの光量は表層の1/100である。深い海などの暗い環境でも魚に寄生している寄生虫は、産卵を続ける。卵は付属糸を有しており、生簀の金網や岩などの周辺の障害物に絡まり、このような環境でも少なからず寄生虫とその卵が存在する。孵化した寄生虫は、明るい水面に移動すると考えられ、本方法によって、寄生虫感染を軽減できる。
【0011】
本発明により、照度の高い区画と低い区画を作り、魚類を照度の低い区画に入れておくことにより、寄生虫の感染を低減させることができるが、さらに、魚類の飼育環境が水槽又はタンクの場合には、照度の高い区画に飼育水の排水口又はトラップを設けることにより、効率よく、寄生虫を排水と共に排出したり、あるいは、トラップで寄生虫を捉えてしまうことができる。すなわち、照度の高い区画の方が寄生虫濃度が高いので、そこから排水あるいはトラップするほうが効率がよい。
【0012】
さらに、排水口の口及び口周囲の色、あるいは、トラップの色が水槽又はタンクの色と明度に差がある色で構成されているのが好ましい。実施例に示したように、寄生虫は背景の色に対してコントラストの大きい色の部分に付着しやすいことがわかった。したがって、水槽等の色が白色の場合は、排水口やトラップを黒色など暗い色にすることにより、寄生虫が多く集まり、排出されたりトラップにかかったりしやすくなる。
この場合、明度の差がある色とは、背景が白の場合黒、背景が黒の場合白が典型例で、その他の色が付いている場合でも、白っぽい色と黒っぽい色にすることによっても効果がある。
【0013】
本発明の他の態様は、周辺環境に対して、魚類の遊泳範囲を暗くするかわりに、魚類の非遊泳範囲を明るくする方法である。すなわち、魚類の飼育環境のうち、魚類の非遊泳範囲の少なくとも一部の照度を魚類の遊泳範囲の照度の3倍以上にすることを特徴とする魚類の寄生虫感染の低減方法である。
魚類の飼育環境が水槽又はタンクの場合、水槽又はタンクを網で仕切り、魚が入れる区画(魚類の遊泳範囲)と入れない区画(魚類の非遊泳範囲)に区分し、魚が入れない区画の照度を入れる区画より明るくするという意味である。明るさの程度が照度で3倍以上である。この場合、魚類の非遊泳範囲全体を明るくする必要はなく、一部でもよい。寄生虫が集中する領域ができればいいのである。したがって、魚類の遊泳範囲との境界域は明るくせず、離れた位置を明るくするのが好ましい。明るくするにはライトで照らすのがもっとも簡単である。タンクの場合一部だけ、壁を透明にするなどの方法もある。
【0014】
さらにこの明るくした領域に排水口あるいはトラップを設けるのが前記同様好ましい。集中してきた寄生虫を効率よく、排出あるいは捉えることができる。また、上記同様、排水口の口及び口周囲、あるいはトラップの色を水槽又はタンクの色と明度の差がある色で構成するのが好ましい。
【0015】
本発明において排水口とは、水槽やタンクでは飼育水を浄化するために常に一定量の飼育水を流入、排出しているが、その飼育水の出口にあたる部分のことである。排水口では飼育水が外に出て行く流れがあるので、そこに近づいてきた寄生虫はその流れに引き込まれて排出される。したがって、排水口付近に寄生虫が多く集まるのは好ましい。
本発明のトラップとは、寄生虫を捉える仕組みであればなんでもよい。例えば、発明者らは、ハダ虫の孵化幼生は、魚類体表粘液から抽出される分子量約65kDa、75kDa、90kDaのタンパク質に反応し、繊毛を脱落させ固着器を出現させることを見出している。これらタンパク質を塗ったものをトラップとし、その色を水槽等の色と明度の差が大きい色にして水中に置いておくと、寄生虫の孵化幼生が定着し、水中から除去することができる。
【0016】
照度の高い場所にいる魚ほどハダ虫感染が起こりやすい。実施例にて示したように周辺環境より照度を1/3程度に低くすることで、魚への寄生虫の感染を8割程度減らせることができる。さらに照度を1/100にすると寄生虫の感染を9割程度減らすことができる。また、本結果は、照度が高い海面では本虫の感染が成立しやすい、すなわち現在主流となっている浮上式生簀養殖そのものが本虫の流行を引き起こす一つの要因となっていることを示している。生簀を沈める(沈下式生簀養殖)、生簀を遮光するなど、照度を回りの環境と比べて1/3程度低く保つことで魚の本虫感染を防げることが明らかになった。
実施例にて示したように、ハダ虫 Neobenedenia girellaeは白黒のコントラストに反応することがわかった。白い中に黒い物体、黒い中に白い物体があると、これら物体に集まる習性がある。特に白色や明るい中に黒い物体があると、その物体に顕著に向っていく。したがって、水槽の色を魚と同色とするほうが、寄生虫感染を低減させるには好ましく、排水口やトラップは水槽の色とコントラストが大きい色にして、孵化幼生を誘引して排除するのが好ましい。
【0017】
照度の明るい側でなくても、魚類を飼育する水槽またはタンクの内壁の色と明度に差がある色の排水口またはトラップを設けるだけでも上述のような理由により寄生虫除去に貢献するので、水槽やタンクの排水口の色を適切に選択するとよい。すなわち、白っぽい色の水槽であれば、排水口やトラップの色は黒い色とするのがよく、黒っぽい水槽であれば白っぽい色にするのがよい。
【0018】
逆に、魚類に寄生虫がつきにくくするためには、魚類を飼育する水槽またはタンクの内壁の色を魚類の体色と同色で明度の近い色にすることが望ましい。体表が黒っぽい魚類であれば、水槽等の内壁の色を黒っぽくすることで、寄生虫が付きにくく、逆に白っぽい魚類であれば、水槽等の内壁の色を白っぽい色にすることで、寄生虫が付きにくくなる。ここで、魚類の体色とは、背側と腹側の色が異なる魚の場合は背側に、異体類であれば有眼側の色のことである。
【0019】
本発明において寄生虫とは、眼点を有し、正の走光性を示す寄生虫である。具体的には、ハダ虫(Neobenedenia girellae、Benedenia seriolae)、ダクチロギルス(Dactylogylosis)、シュードダクチロギルス(Pseudodactylogyrosis)などが例示される。
本発明において魚類とは、上記の寄生虫が寄生する魚類すべてである。具体的には養殖魚のブリ、カンパチ、ヒラマサ、スズキ、ウナギ、コイなどが例示される。
【0020】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
<照度がハダ虫寄生に及ぼす影響>
材料と方法
寄生虫:本試験に使用したハダムシ Neobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持した。孵化幼生は、成虫から産卵された卵を回収し、培養することで得た。得られた孵化幼生を試験に用いた。
試験区:一つの水槽内で照度を変えた3室を作り、138.0 ルクス区(照度明区)、41.3 ルクス区(照度中間区)1.3 ルクス区(照度暗区)の計3試験区とした。
照度設定と孵化幼生の魚への感染:角型水槽(内寸:長さ96.5cm、幅30.0cm、高さ20.0cm)をナイロンネット(メッシュサイズ5mm)で3室に分けた。蓋をすることで照度の異なる3室をつくった(138.0 ルクス、41.3 ルクス、1.3 ルクス)(図1)。角型水槽に18000個体のハダ虫孵化幼生を含む海水32リットルを入れ、蓋をして30分間放置した。その時の海水の温度は25℃とした。その後、速やかに各室にヒラメ10尾を収容し再び蓋をし、1時間放置して本虫幼生を魚に感染させた。感染後、各区のヒラメそれぞれを予め準備しておいた100リットル水槽に収容し継続飼育した。攻撃9日目に全ての魚をサンプリングし、本虫の寄生数を調べた。試験を通して、市販飼料を与え、1日の給餌量を魚体重の3%とした。飼育期間中の水温は25±1℃、注水は2.4リットル/分とした。また、試験を2回実施し、供試魚の平均魚体重は1回目が38.6g、2回目が47.2gであった。
照度が寄生に及ぼす影響の判定:各区の寄生数を比較することで行った。
【0022】
結果と考察
寄生数は、照度が高い区ほど明らかに多い結果となった(図2)。本結果から、照度が高い場所にいる魚ほど明らかに本虫感染が成立しやすいことが判明した。具体的には、周辺環境より照度を1/3程度低くすることで、魚への本虫寄生を8割程度減らすことができ、さらに照度を1/100程度にすることで、本虫感染を9割程度減らすことができる。また、本結果は、照度が高い海面では本虫の感染が成立しやすい、すなわち現在主流となっている浮上式生簀養殖そのものが本虫の流行を引き起こす一つの要因となっていることを示している。生簀を沈める(沈下式生簀養殖)、生簀を遮光するなど、照度を回りの環境と比べて1/3程度低く保つことで魚の本虫感染を防げることが明らかになった。
【実施例2】
【0023】
<ハダ虫の白黒コントラストに対する反応性(in vitro試験)>
材料と方法
寄生虫:本試験に使用したハダムシ Neobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持した。孵化幼生は、成虫から産卵された卵を回収し、培養することで得た。得られた孵化幼生を試験に用いた。
試験区:白色のスライドグラス中の黒色部位区、白色のスライドグラス中の白色部位区、黒色のスライドグラス中の黒色部位区、黒色のスライドグラス中の白色部位区の計4区とした。
試験用スライドグラスの準備:白色のスライドグラスに、ガラス用の黒と白のペイントマーカーで直径6.4mmの円形を白色で3つ、黒色で3つ作った。同様にして、黒色のスライドグラスに、ガラス用の黒と白のペイントマーカーで直径6.4mmの円形を白色で3つ、黒色で3つ作った(図3)。これら円形部位にヒラメ粘液50μlをのせ、30℃で3時間放置することで粘液を乾燥させた。
in vitro 試験:直径9cmの組織培養用シャーレに3000個体のハダ虫孵化幼生を含む海水50mlを入れ、その中に準備しておいたスライドグラス1枚を収容した。シャーレを25℃で1時間培養した。培養後、各部位に定着しているハダ虫数を数えた。試験は3回実施した。
白黒コントラストに反応するか否かの判定:白色スライドグラス(白色背景)の黒色部位と白色部位の定着数を比較すること、及び黒色スライドグラス(黒色背景)の黒色部位と白色部位の定着数を比較することで行った。
【0024】
結果と考察
白色スライドグラス(白色背景)において、黒色部位のハダ虫定着数は白色部位と比べ有意に多い結果となった(図4a)。また、黒色スライドグラス(黒色背景)において、白色部位のハダ虫定着数は黒色部位と比べ多い傾向を示した(図4b)。従って、本虫孵化幼生は白地に黒い物体や黒地に白い物体があると、それら物体に集まる習性があることが判明した。
【実施例3】
【0025】
<ハダ虫の白黒コントラストに対する反応性(飼育試験)>
材料と方法
寄生虫:本試験に使用したハダムシ Neobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持した。孵化幼生は、成虫から産卵された卵を回収し、培養することで得た。得られた孵化幼生を試験に用いた。
試験区:白色の底の水槽に正常ホシガレイ(暗色)と体色異常ホシガレイ(明色)を飼育し本虫を感染させる(図5a)白色水槽正常(暗色)ホシガレイ区、白色水槽体色異常(明色)ホシガレイ区、および黒色の底の水槽に正常ホシガレイ(暗色)と体色異常ホシガレイ(明色)を飼育し本虫を感染させる(図5b)黒色水槽正常(暗色)ホシガレイ区、黒色水槽体色異常(明色)ホシガレイ区の計4区とした。
攻撃試験:白色の底の100リットル水槽に正常ホシガレイおよび体色異常ホシガレイ各12尾を収容した。同様に、白色の底の100リットル水槽に正常ホシガレイおよび体色異常ホシガレイ各12尾を収容した。7日間馴致したのち、孵化幼生約3000個体を各水槽に投入し攻撃した。攻撃は1時間止水とし、本処理虫を暴露させることで行った。攻撃9日目に全ての魚をサンプリングし、本虫の寄生数を調べた。供試魚の平均魚体重は18.8gであった。試験を通して、餌は市販飼料を与え、1日の給餌量を魚体重の3%とした。飼育期間中の水温は25±1℃、注水は2.4リットル/分とした。
白黒コントラストに反応するか否かの判定:白色底水槽中の正常ホシガレイと体色異常ホシガレイの寄生数を比較すること、及び黒色底水槽中の正常ホシガレイと体色異常ホシガレイの寄生数を比較することで行った。
【0026】
結果と考察
白色底水槽中の正常ホシガレイ(暗色)の本虫寄生数は、体色異常ホシガレイ(明色)区と比べ有意に多い結果となった(図6)。また、黒色底水槽中の体色異常ホシガレイの本虫寄生数は正常ホシガレイと比べ多い傾向が認められた。本結果から、本虫孵化幼生は白黒や明暗のコントラストに反応していることが明らかとなった。これらは、水槽の色を飼育魚と同様な色とするなど、コントラストを少なくすることで、魚の本虫感染を防ぐことができることを示している。また、コントラストを利用することで、本虫孵化幼生を効率的に集められることを示している。
【実施例4】
【0027】
<ハダ虫の色に対する反応性(in vitro試験)>
材料と方法
寄生虫:本試験に使用したハダムシ Neobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持した。孵化幼生は、成虫から産卵された卵を回収し、培養することで得た。得られた孵化幼生を試験に用いた。
試験区:白色寒天区、黒色寒天区、黄色寒天区、赤寒天区の計4区とした。
試験用寒天の準備:白色寒天は市販の寒天1%を水に溶解させたものとし作製した。黄色および赤は市販の食品添加用合成着色料を市販の寒天1%を水に溶解させたものに加えて作製した。黒色寒天は市販の食品添加用合成着色料を混合し、市販の寒天1%を水に溶解させたものに加えて作製した。全区の寒天は、長さ21mm、幅7mm、高さ7mmの大きさに切り出したものを試験に使用した。
in vitro 試験:直径9cmの組織培養用シャーレに3000個体のハダ虫孵化幼生を含む海水30mlを入れ、その中に準備しておいた各区寒天一つを収容した。この時、シャーレの底に白色の紙を貼り付け、背景を白色とした。シャーレを25℃で30分培養した。培養後、各寒天に定着しているハダ虫数を数えた。試験は3回実施した。
色への反応性判定:供試した虫の各寒天への定着割合を比較することで行った。
【0028】
結果と考察
ハダ虫定着数は、黒色、赤色、白色、黄色の順に多い結果となった。その中でも黒色寒天のハダ虫定着数は他の色の寒天と比べ有意に多かった(図7)。従って、本虫孵化幼生は白地に黒い物体があると、それら物体に集まる習性があることが再現された。また、黄色に関しては、海洋付着生物などの定着を妨げる色であることが一般的に知られており、本虫に対しても忌避的に働いている可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の方法を利用することにより、魚類の養殖現場で問題となっているハダ虫の魚類への寄生を低減させることができ、寄生虫症の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で使用した水槽の状態を示した図である。
【図2】実施例1の結果の飼育照度がハダ虫寄生に及ぼす影響を示した図である(試験1と2は同じ試験を2回行った結果であり、用いたヒラメの平均体重はそれぞれ38.6gと47.2gである。a、b、cは異なった文字の群間に統計的に有意差があることを意味する)。
【図3】実施例2で用いたスライドの形態を示した図である。
【図4】実施例2の結果の白黒コントラストがハダ虫定着に及ぼす影響を示した図である(試験1、2、3はそれぞれ別のヒラメの粘液を用いた結果である。*、**はそれぞれp<0.05、p<0.01の統計的な有意差があることを意味する)。
【図5】実施例3で使用した水槽とホシガレイを示した写真である。
【図6】実施例3の結果の白黒コントラストがハダ虫寄生に及ぼす影響を示した図である(*はp<0.05の統計的な有意差があることを意味する)。
【図7】実施例4の結果のハダ虫孵化幼生の色に対する反応性を示した図である(a、bは異なった文字の群間に統計的に有意差があることを意味する)。
【出願人】 【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
【出願日】 平成19年2月20日(2007.2.20)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−199959(P2008−199959A)
【公開日】 平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願番号】 特願2007−39626(P2007−39626)