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【発明の名称】 魚類の標識剤と標識方法
【発明者】 【氏名】太田 健吾

【氏名】渡辺 研一

【氏名】堀田 卓朗

【要約】 【課題】人体に対する安全性が確認されている素材を用いた新規な魚類の標識剤とその標識剤を用いて「食の安全」の点から心配のない方法でかつ従来よりもコストを低めに抑えることができる魚類の標識方法を提供する。

【構成】コチニール色素、ラック色素もしくはシコン色素又はこれらのいずれかを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤。これらの標識剤を溶解した標識液に標識対象魚の受精卵や稚魚を浸漬し、その硬組織(耳石、棘、鱗等)を染色することによって魚類を標識する方法。マダイ、オニオコゼ、ヒラメ、トラフグ等の標識に好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コチニール色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤。
【請求項2】
ラック色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤。
【請求項3】
シコン色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の標識剤を溶解した標識液に標識対象魚の受精卵を浸漬し、受精卵ないしそのふ化仔魚の硬組織を染色することによって魚類を標識する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の標識方法において、標識液の濃度を、請求項1に記載する標識剤を用いる場合には4000〜8000mg/Lとし、請求項2に記載する標識剤を用いる場合には4000mg/L程度とし、請求項3に記載する標識剤を用いる場合には0.2mg/L程度とし、浸漬時間はそれぞれ24時間程度として魚類を標識する方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の標識方法において、標識対象魚をマダイ、オニオコゼ又はヒラメのいずれかとする魚類の標識方法。
【請求項7】
請求項1又は3に記載の標識剤を溶解した標識液に標識対象魚の稚魚を浸漬し、その硬組織を染色することによって魚類を標識する方法。
【請求項8】
請求項7に記載の標識方法において、標識対象魚をオニオコゼ又はトラフグとし、コチニール色素を16000mg/L程度の濃度に溶解した標識液を用いて、稚魚の硬組織のうち耳石を染色することによってオニオコゼ又はトラフグの稚魚を標識する方法。
【請求項9】
請求項7に記載の標識方法において、コチニール色素を2000mg/L程度の濃度に溶解した標識液を用いて、稚魚の硬組織のうち棘、鱗、下鰓蓋骨又は軟条のいずれかを染色することによって魚類を標識する方法。
【請求項10】
請求項9に記載の標識方法において、標識対象魚をマダイ、オニオコゼ、ヒラメ又はトラフグのいずれかの稚魚とする魚類の標識方法。
【請求項11】
請求項7に記載の標識方法において、標識対象魚をマダイ又はオニオコゼとし、シコン色素を0.5mg/L程度の濃度に溶解した標識液を用いて、稚魚の硬組織のうち耳石又は鱗を染色することによってマダイ又はオニオコゼの稚魚を標識する方法。














【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は魚類の標識剤とその標識剤を用いて魚類を標識する方法に関する。詳しくは、新規な魚類の標識剤とその標識剤を用いて魚体の硬組織を染色し、魚類を標識する方法に関する。さらに詳しくは、人体への安全性が確認されている素材からなる標識剤とその標識剤を用いて魚類を安全かつ安価に標識する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種苗生産技術の飛躍的な向上に伴い、全国で放流を目的として生産される海産仔稚魚は2002年で37種・9400万尾に達している。なかでもマダイは、栽培漁業を代表する対象種の一つであり、2002年には全国で1955万尾の稚魚が放流されている。また、ヒラメは、マダイと共に栽培漁業を代表する魚種であり、近年、放流を目的とする魚類の中では稚魚の生産数と放流尾数が最も多くなっており、2002年には全国で2590万尾が放流されている。また、オニオコゼは、栽培漁業の有望な対象種であり、2002年には全国で64万尾の稚魚が放流されている。
【0003】
これらの放流調査に使用する魚類の標識法には、従来から、アンカータグ等の各種標識票の装着、鰭切除、鰭抜去、焼印等の体外標識法と、標識剤としてアリザリンコンプレクソン(以下「ALC」)、塩酸オキシテトラサイクリン(以下「OTC」)、アリザリンレッドS(以下「ARS」)等の薬剤を用いる耳石蛍光染色法や、墨汁、イラストマー蛍光タグ等の皮下注射による体内標識法が用いられている。
【0004】
魚類の標識技術の問題点として、体外標識法では、装着に長時間を要すること、標識票の脱落、切除後や抜去後の鰭の再生、焼印痕の再生等によって標識の識別が困難になることが指摘されている。一方、体内標識法では、ALCやARS等の標識剤が高価であるため、稚魚等に大量に装着する場合の経済性の問題が指摘されている。なお、OTCは、薬事法で規定された動物用医薬品であり、承認された使用法以外での使用は刑事罰の対象となるため、実際の放流試験には使用できない。
【0005】
また、近年は食の安全性に対する国民の関心が高まっているが、ALCやARSは、人体に対する安全性が確認された薬剤であるとは明言できない。また、将来的には、いずれの標識方法であっても、魚体内に異物を装着する点で人体に対する安全性が危惧される可能性が高い。このため、今後はこの点に配慮した標識技術の開発が必要である。
【0006】
従来の体内標識法では、標識剤としてフッ化物イオンの定量試薬であるALCが多用されている。ALCは、魚の体内に取り込まれると、カルシウムとキレートを生成して耳石等の硬組織に沈着する。沈着したALCは、蛍光顕微鏡で観察することにより蛍光として確認されるので、調査した魚が放流魚であるか否かを容易に判定できる。しかし、前記のとおり、ALCは、安全性に懸念があると共にかなり高価であるから、人体に対してより安全でより安価な標識剤を開発することができれば、きわめて好ましい。
【0007】
体内標識法によれば、体外標識法では困難である受精卵やふ化仔魚(受精卵からふ化した直後の仔魚)サイズの小型魚への大量標識が可能であり、また、ALCで確認されているように標識後の持続性が高く、標識率を100%に高めることができる。さらに、放流調査においていくつかの放流群を識別する際、放流魚には耳石における蛍光リングの多重性が要求されるため、受精卵ないしふ化仔魚期における蛍光標識技術が不可欠であるが、体内標識法はこの点にも適合する。なお、受精卵ないしふ化仔魚期における標識は、稚魚期における標識と比べて1個体あたりの標識単価を低くすることができる。
【0008】
このような状況に鑑み、本発明者らは、上記全ての問題点を解消できる魚類の体内標識法の開発を志向し、技術情報を入手すべく、まず特許文献について調査した。
特許公報を見ると、魚類の標識技術に関していくつかの発明が出願され、開示されているが、そのほとんどは体外標識法の改良に関する発明であり、体内標識法に関する発明は皆無に近い。わずかに、特許文献1には、放流魚の耳石に標識を付ける方法が開示されているが、この標識方法は、魚類のふ化飼養池の水温・水質を変化させて魚類の耳石にバーコード状模様の標識を形成させる発明であり、本発明の課題に対して何ら参考となる情報ではない。また、特許文献2には、河川で捕獲されるアユの耳石成長基点を通る断面におけるストロンチウムの濃度分布を測定し、天然アユか放流アユかを識別する方法について開示されている。しかし、この方法も本発明の課題とは何ら関係がない。このように特許公報には、本発明の課題を解決するために参考となる情報は何ら開示されていない。
【特許文献1】特開2003−9701号公報
【特許文献2】特開2001−275512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の状況に鑑み、本発明は、人体に対する安全性が確認されている新規な魚類の標識剤とその標識剤を用いて魚類を安全に標識する方法を提供することを第1の課題とする。また、本発明は、人体に対する安全性が確認されていると共に安価な標識剤とその標識剤を用いて魚類を安全かつ安価に標識する方法を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の各課題を解決するための本発明のうち、特許請求の範囲・請求項1に記載する発明は、コチニール色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤である。
【0011】
また、同請求項2に記載する発明は、ラック色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤である。
【0012】
また、同請求項3に記載する発明は、シコン色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤である。
【0013】
また、同請求項4に記載する発明は、請求項1から3のいずれかに記載の標識剤を溶解した標識液に標識対象魚の受精卵を浸漬し、受精卵ないしそのふ化仔魚の硬組織を染色することによって魚類を標識する方法である。
【0014】
また、同請求項5に記載する発明は、請求項4に記載の標識方法において、標識液の濃度を、請求項1に記載する標識剤を用いる場合には4000〜8000mg/Lとし、請求項2に記載する標識剤を用いる場合には4000mg/L程度とし、請求項3に記載する標識剤を用いる場合には0.2mg/L程度とし、浸漬時間はそれぞれ24時間程度として魚類を標識する方法である。
【0015】
また、同請求項6に記載する発明は、請求項4又は5に記載の標識方法において、標識対象魚をマダイ、オニオコゼ又はヒラメのいずれかとする魚類の標識方法である。
【0016】
また、同請求項7に記載する発明は、請求項1又は3に記載の標識剤を溶解した標識液に標識対象魚の稚魚を浸漬し、その硬組織を染色することによって魚類を標識する方法である。
【0017】
また、同請求項8に記載する発明は、請求項7に記載の標識方法において、標識対象魚をオニオコゼ又はトラフグとし、コチニール色素を16000mg/L程度の濃度に溶解した標識液を用いて、稚魚の硬組織のうち耳石を染色することによってオニオコゼ又はトラフグの稚魚を標識する方法である。
【0018】
また、同請求項9に記載する発明は、請求項7に記載の標識方法において、コチニール色素を2000mg/L程度の濃度に溶解した標識液を用いて、稚魚の硬組織のうち棘、鱗、下鰓蓋骨又は軟条のいずれかを染色することによって魚類を標識する方法である。
【0019】
また、同請求項10に記載する発明は、請求項9に記載の標識方法において、標識対象魚をマダイ、オニオコゼ、ヒラメ又はトラフグのいずれかの稚魚とする魚類の標識方法である。
【0020】
また、同請求項11に記載する発明は、請求項7に記載の標識方法において、標識対象魚をマダイ又はオニオコゼとし、シコン色素を0.5mg/L程度の濃度に溶解した標識液を用いて、稚魚の硬組織のうち耳石又は鱗を染色することによってマダイ又はオニオコゼの稚魚を標識する方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る魚類の標識剤は、いずれも食品添加物や漢方薬として公認されている素材からなるものであるから、これらを放流魚の体内標識に使用しても、食の安全性の点で安心であり、いたずらに危惧されるおそれがない。また、本発明に係る魚類の標識方法は、いずれも人体に安全な方法であると共に大量標識に用いるのに適しているので、魚類の体内標識における所要コストを抑えることができる。
【0022】
しかも、本発明に係る魚類の標識方法は、標識対象魚が受精卵ないしふ化仔魚の時期に標識できるので、放流魚の耳石蛍光リングの多重性の要求に十分に応えることができる。
【0023】
特に、本発明のうちシコン色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤については、これを用いて受精卵を標識する場合、標識コストをALCを用いる場合よりも低く抑えることができる。また、シコン色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤は、マダイやオニオコゼを標識対象とする場合は、受精卵ないしふ化仔魚期の標識にも、また、稚魚の標識にも有用であるから、すこぶる便利である。
【0024】
本発明のうちコチニール色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤については、稚魚の耳石以外の硬組織を標識する場合において、標識コストをALCを用いる場合よりも低く抑えることができる。すなわち、コチニール色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤は、稚魚を標識対象とする場合は、耳石の標識に限らず、鱗や棘や下鰓蓋骨等を染色できるので、これらの染色状況をもって標識対象魚であるか否かを容易に鑑別できる。しかも、2000mg/Lという、いずれの魚種にも安全に浸漬できる濃度で有効である上、鱗や棘や鰓等は標識液の濃度を低く抑えても十分に染色できるので、標識コストをALCを用いる場合よりも低く抑えることができる。このように、コチニール色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる標識剤の溶液(標識液)に稚魚を浸漬する標識方法は、耳石をターゲットとしない場合にはきわめて有用な標識方法である。
【0025】
なお、耳石をターゲットとしない場合、鱗は、外部から容易に採取できるため、鱗によって鑑別するときはサンプリングが簡単である。また、オニオコゼやトラフグには鱗はないが、オニオコゼは通常は市販前に切除されている棘を採集すればよいし、トラフグは皮膚に存在する棘を採取できるので、いずれもサンプリングが簡単にできる。
【0026】
また、コチニール色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤は、稚魚の耳石標識にもきわめて有用である。例えば、オニオコゼやトラフグについては、その硬組織のうち耳石への標識が可能であることが確認されている。このように、本発明のうちコチニール色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤は、受精卵ないしふ化仔魚期の標識にも、また、稚魚の標識にも有用であるから、標識剤として大きな成果が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、コチニール色素もしくはラック色素又はこれらを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤である。さらに、本発明は、これらの標識剤を用いて魚体の硬組織を染色し、魚類を標識する方法である。具体的には、これらの標識剤を濾過海水等に溶解して作った標識液に標識対象魚の受精卵を24時間程度浸漬することによって受精卵ないしそのふ化仔魚の硬組織を染色し、魚体を標識する方法を採ることが好ましい。また、コチニール色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる標識剤を用いる場合は、これを濾過海水等に溶解した標識液に標識対象の稚魚を24時間程度浸漬し、その硬組織(特に耳石、鱗、棘、下鰓蓋骨、軟条等)を染色することによって、稚魚を標識する方法を採ることもできる。この方法は、耳石を標識対象とするとき、オニオコゼやトラフグの稚魚について特に有用であり、耳石以外の硬組織を標識対象とするとき、マダイ、オニオコゼ、ヒラメ、トラフグについて特に有用である。
【0028】
また、本発明は、シコン色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる魚類の標識剤である。さらに、本発明は、これらの標識剤を用いて魚体の硬組織を染色して魚類を標識する方法である。具体的には、これらの標識剤を濾過海水等に溶解して作った標識液に標識対象魚の受精卵を24時間程度浸漬することによって受精卵ないしそのふ化仔魚の硬組織を染色し、魚体を標識する方法を採ることが好ましい。また、シコン色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる標識剤を用いる場合、これを濾過海水等に溶解した標識液に標識対象の稚魚を24時間程度浸漬し、その硬組織(特に耳石や鱗)を染色することによって、稚魚を標識する方法を採ることもできる。この方法は、標識対象をマダイやオニオコゼの稚魚とするときは特に有用である。
【0029】
本発明者らは、耳石等への蛍光標識は、使用される標識剤の化学構造により可能となっているものと推測し、ALCやARSが有するアントラキノン環構造に着目した。また、本発明で開発する標識剤は、食の安全の観点から食品又は食品添加物として公認されている素材を対象とすることとし、アントラキノン環を有する化学物質が含まれる食品又は食品添加物を対象として検索・検討した。その結果、着色料製剤であるコチニール色素と同ラック色素が有用であると推定するに至った。
【0030】
本発明者らは、上記の推定を試験によって確認した。すなわち、後記の試験例1に示すように、標識剤に適した素材を選出する目的で、食品添加物として公認されている市販色素29種類に漢方薬として市販されているシコン色素(化合物和名はシコニン)を加えた合計30種類の色素素材について、シコン色素以外の素材は2000mg/Lの濃度となるように濾過海水に溶解し、シコン色素は50mg/Lの濃度となるように濾過海水に溶解して、それぞれの溶液へマダイのふ化仔魚を24時間浸漬した後、耳石の染色状況を観察した。その結果、マダイのふ化仔魚が生き残って、かつ、耳石の蛍光染色が認められたのは、30種の色素素材の中ではコチニール色素とラック色素のみであった。また、シコン色素は、仔魚は死亡したが(おそらく標識液の濃度が濃すぎたものと考えられる。)、耳石には蛍光染色が認められたため、これも検討対象の素材に加えることにした。
【0031】
すなわち、上記の予備試験によって、アントラキノン類のうちアントラキノン系色素として市販されている食品添加物「コチニール色素」と同「ラック色素」が魚類の標識剤として適していることが確認された。また、ナフトキノン類のうちナフトキノン系の色素であり、漢方薬として市販されている「シコン色素」も魚類の標識剤として有用であることが推定された。そこで、本発明者らは、コチニール色素とラック色素にシコン色素を加えた3種の素材について魚類の標識剤としての有用性をさらに試験・検討することにした。
【0032】
コチニール色素は、アントラキノン系の色素に属し、カイガラムシ科エンジムシの乾燥体から抽出された食品添加物(着色料)であり、カルミン酸を主成分とする。コチニール色素は、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同で食品規格計画を策定する委員会において食品として安全であると認められていて、日本では蒲鉾、菓子、麺類、漬物等に使用されている。
【0033】
ラック色素は、アントラキノン系の色素に属し、カイガラムシ科ラックカイガラムシが分泌する樹脂状物質から抽出された食品添加物(着色料)であり、ラッカイン酸を主成分とする。日本では蒲鉾、菓子、麺類等に使用されている。
【0034】
シコン色素は、植物「ムラサキ」の根(シコン)から抽出されるナフトキノン系の色素で、漢方薬として市販されている。その主成分はシコニン、アセチルシコニン、イソブチルシコニン等である。なお、シコニンは、天然には微量しか存在せず、ほとんどはアセチルシコニン、イソブチルシコニン等のエステル化合物として存在する。シコン色素は、古くから高貴な色として知られている紫色の織物の染料として使用されているほか、抗炎症作用、抗腫瘍活性を有し、漢方薬として解熱・解毒、ニキビ治療、やけど治療等の目的で使用されている。また、口紅の色素としても利用されている。なお、本発明におけるシコン色素には、バイオテクノロジーにより培養細胞に作らせて精製したものを含む。
【0035】
本発明に係る魚類の標識剤としては、コチニール色素、ラック色素、シコン色素のみならず、これらを有効成分とする薬剤も有用である。これら各色素を有効成分とする薬剤としては色素製剤や試薬製剤等がある。例えば、コチニール色素は、メーカーそれぞれの商品名で色素製剤が市販されている他、試薬製剤が「コチニール」又は「コチニール色素」の商品名で市販されている。ラック色素、シコン色素についても同様であり、それぞれ、色素製剤の他に試薬製剤が市販されている。
【0036】
一般に体内標識法において、魚体の硬組織中、蛍光顕微鏡で観察し、蛍光染色の有無を確認するのに最も適している部位は耳石であるため、従来から魚類の体内標識では耳石染色法が広く用いられている。耳石は聴砂ともいい、魚体の内耳の前庭にある粒状の石灰質で、魚が平衡感覚を維持する役割をしている。受精卵でも、胚体に耳胞が形成されるとまもなく耳石が出現する。しかし、本発明に係る魚類の標識方法において、特にコチニール色素溶液を用いて稚魚を標識する場合は、蛍光染色する部位は耳石に限るものではなく、耳石以外の硬組織、例えば、棘(特に背鰭第2棘)や鰓(特に下鰓蓋骨)、鱗、軟条等についても容易に染色でき、蛍光顕微鏡によって蛍光の状況を確認できる。
【0037】
本発明では、標識剤を魚体に注射する方法を採ることもできる。例えば、全長68mmのオニオコゼ1尾に対して20mgのコチニール色素を溶解した0.1mLの生理食塩水を注射することによって、耳石標識が可能であることが確認されている。すなわち、標識剤を生理食塩水等に溶解させた標識液を、標識対象魚の腹腔内に0.1mL/尾の割合で注射する。注射前に0.03%の2−フェノキシエタノールを溶解した砂濾過海水に魚類を浸漬して麻酔を行なうとよい。注射は、実体顕微鏡下で行ない、ピンセットで魚の右胸鰭を固定した後、注射器を用いて右胸鰭基部から腹腔内に標識液を注入する。標識液を注入した魚の耳石を蛍光顕微鏡で観察すると、浸漬法の場合と同様、蛍光を発しているので標識を付した魚類であることを確認できる。
【0038】
本発明における受精卵の耳石標識においては、使用する標識剤と標識対象魚の種類によって標識液の所要濃度が異なる。すなわち、後記の試験例2〜4に示すとおり、標識剤としてコチニール色素又はこれを主成分とする薬剤を用いる場合において、コチニール色素の濃度を、マダイ受精卵では2000〜8000mg/L、オニオコゼ受精卵では2000〜16000mg/L、ヒラメ受精卵では4000〜16000mg/Lとするのが効果的である。したがって、コチニール色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる標識剤を用いる場合は、コチニール色素の濃度を「4000〜8000mg/L」に調整して用いれば、受精卵一般について広く使用できる。
【0039】
また、標識剤としてラック色素又はこれを有効成分とする薬剤を用いる場合には、ラック色素の濃度を、マダイ受精卵では1000〜4000mg/L、オニオコゼ受精卵では1000〜16000mg/L、ヒラメ受精卵では4000mg/L程度とするのが効果的である。したがって、ラック色素溶又はこれを有効成分とする薬剤からなる標識剤を用いる場合は、ラック色素の濃度を「4000mg/L」程度に調整して用いれば、受精卵一般について広く使用できる。なお、本発明において、「4000mg/L程度」とは、4000mg/Lを中心に魚類の標識液として通常許容される範囲の濃度、例えば、3900〜4100mg/Lの濃度をいう。
【0040】
また、標識剤としてシコン色素又はこれを有効成分とする薬剤を用いる場合には、シコン色素の濃度を、マダイ受精卵では0.1〜0.2mg/L、オニオコゼ受精卵では0.5〜2mg/L、ヒラメ受精卵では0.2mg/L程度とするのが効果的である。したがって、シコン色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる標識剤を用いる場合は、シコン色素の濃度を「0.2mg/L」程度に調整して用いれば、受精卵一般について広く使用できる。
【0041】
本発明における稚魚の硬組織の標識においては、使用する標識剤と標識対象魚の種類と標識部位によって標識液の所要濃度が異なる。すなわち、後記の試験例5・6に示すとおり、標識剤としてコチニール色素又はこれを主成分とする薬剤を用いる場合において、コチニール色素の濃度を、オニオコゼ稚魚の耳石標識では16000mg/L程度に、オニオコゼ稚魚の耳石以外の硬組織の標識では8000〜16000mg/Lに、トラフグ稚魚の耳石、棘、軟条の標識では8000〜16000mg/Lにするのが効果的である。なお、コチニール色素又はこれを有効成分とする薬剤からなる標識剤を用いる場合、コチニール色素の濃度を「2000mg/L」程度に調整すると、マダイ、オニオコゼ、ヒラメ、トラフグなど稚魚一般について安全に使用できると共に、耳石以外の硬組織を十分に染色することができる。
【0042】
また、本発明における稚魚の硬組織の標識において、シコン色素又はこれを主成分とする薬剤を用いると、濃度0.5mg/L程度でマダイ稚魚やオニオコゼ稚魚の耳石又は鱗もしくは背鰭棘を染色することができる。
【0043】
本発明に係る魚類の標識剤及びこれを用いる標識方法によれば、魚類の硬組織への標識効果を長期間にわたって持続できる。例えば、全長65mmのオニオコゼをコチニール色素の16000mg/L溶液に浸漬し、標識を施した後、新鮮海水へ戻して継続飼育したところ、6カ月を経過した後も、耳石、背鰭棘、下鰓蓋骨のどの部位についても蛍光染色が観察されている。
【0044】
本発明に係る魚類の標識剤及び標識方法の対象魚は、マダイ、オニオコゼ、ヒラメ、トラフグに限るものではなく、メバル、メダカ、キンギョなど多くの魚類について適用できることが確認されている。例えば、本発明に基づき、コチニール色素溶液を用いて稚魚の耳石を標識する場合、メバル、メダカ、キンギョでは、標識液の濃度を8000mg/L程度にすると染色効果が見られることが確認されている。
【0045】
本発明に係る標識剤について、最近の標準的な価格を調べたところ、ALCは約1000円/g、コチニール色素は約13円/g、ラック色素は約9円/g、シコン色素は約6000円/gで販売されていることが確認された(市販の色素製剤による)。受精卵を標識する場合、標識液の適正な濃度は、上記のとおり、コチニール色素は4000〜8000mg/L、ラック色素は4000mg/L程度、シコン色素は0.2mg/L程度である。よって、標識液1Lあたりの標識剤のコストは、コチニール色素は52〜104円、ラック色素は36円、シコン色素は約1円である。これをALCと比べると、受精卵を標識する場合のALCの適正濃度は5mg/L程度であるから、その1Lあたりの標識コストは5円である。よって、今回開発した標識剤のうちシコン色素の標識コストはALCよりも安価である。
【0046】
また、コチニール色素を用いてオニオコゼ稚魚の耳石を標識する場合、放流サイズを全長50mmと仮定し、海水1kLあたり3000尾を収容するとして、好ましい標識液の濃度はALC(1000円/g)では50mg/L、コチニール色素(13円/g)では16000mg/Lであるから、1尾あたりの標識剤のコストは、ALCでは17円、コチニール色素では69円となり、ALCの方が安いことになる。しかし、棘や鱗等を標識する場合には、コチニール色素は8分の1の濃度、すなわち2000mg/L程度の濃度で標識可能であるため、その標識コストは8.7円/尾と試算され、経費面でもALCよりも効果的である。
【0047】
また、シコン色素を用いてマダイやオニオコゼの稚魚を標識する場合、好ましい標識液の濃度はALC(1000円/g)では50mg/Lであり、シコン色素(6000円/g)では0.5mg/Lであるから、標識液1Lあたりの標識剤のコストは、ALCでは50円、シコン色素では3円となり、シコン色素の使用は経費面でもALCよりも効果的である。
【0048】
以下、試験例をもって本発明をさらに詳しく説明する。なお、供試魚は、試験例1〜4では、独立行政法人水産総合研究センター・伯方島栽培漁業センターにおいて養殖した親魚が自然産卵したオニオコゼの受精卵とマダイのふ化仔魚及び民間の養殖業者が養殖した親魚が自然産卵したマダイの受精卵とヒラメの受精卵を用いた。また、試験例5では、同水産総合研究センター・伯方島栽培漁業センターで2004年と2005年に生産したオニオコゼ仔稚魚、同2005年に生産したヒラメ稚魚、同屋島栽培漁業センターで2006年に生産したトラフグ仔稚魚及び民間の養殖業者が2005年に生産したマダイ稚魚を用いた。また、試験例6では、同水産総合研究センター・屋島栽培漁業センターで2006年に生産したマダイ稚魚と同伯方島栽培技術開発センターで2006年に生産したオニオコゼ稚魚を用いた。
【0049】
また、以下の試験例では、いずれも市販されている色素製剤を用いた。すなわち、コチニール色素として「カルミンレッド MK-40」(商品名:キリヤ化学株式会社)を、ラック色素として「ラッカインレッド R」(商品名:キリヤ化学株式会社)を、また、シコン色素として「シコニン」(商品名:株式会社ぴのあ)を使用した。なお、本発明に係る標識剤の素材は、これらに限るものでないことは勿論である。本発明者らは、コチニール色素として「SRレッド K-R」(商品名:三栄源株式会社)、「コチニール色素」(商品名:和光純薬工業株式会社)、「コチニール」(商品名:関東化学株式会社)を、また、ラック色素として「SRレッド L」(商品名:三栄源株式会社)、「ラック色素」(商品名:和光純薬工業株式会社)を使用して、以下の試験例と同様の試験を行ない、以下の試験例とほぼ同様の結果が得られることを確認している。
【0050】
また、以下の試験例では、試験の結果をまとめた表1〜表11において、「○」は供試魚が生残したか又は標識が施されたことを示し、「×」は供試魚が死亡したか又は標識が施されなかったことを示す。また、生残又は生残性の項の「△」は、供試した個体の一部が生き残ったことを示し、蛍光染色又は染色性の項の「△」は、蛍光が明瞭に見えるわけではないが、見えなわけでもないことを示す。なお、表中の「−」は、観察していないことを示す。
【0051】
なお、従来からALCを用いる場合、魚類を標識液へ浸漬する時間は通常「24時間」としているので、以下の各試験例でも、供試魚の標識液への浸漬時間を24時間として試験している。しかし、本発明に係る魚類の標識方法では、標識液へ魚類を浸漬する時間は24時間に限るものではなく、任意に設定して差し支えない。例えば、6〜12時間程度に短縮することも可能である。しかし、浸漬時間を短くすると標識液の濃度を濃くする必要があるため、標識剤を多量に使用することになり、その分だけ標識コストが高くなることは否めない。
【0052】
《試験例1》
<魚類の標識に適した素材を選定するための予備試験>
標識剤に適した素材を選出する目的で、食品添加物に指定されている市販色素29種類に漢方薬として市販されているシコン色素を加えた合計30種類の素材について、以下の試験を行なった。
(1)試験方法
供試素材のうち、シコン色素以外の素材については、それぞれ濃度2000mg/Lとなるように濾過海水に溶解し、標識液とした。また、シコン色素については、濃度50mg/Lとなるように濾過海水に溶解し、標識液とした。次いで、それぞれの標識液へマダイのふ化仔魚を24時間浸漬した後、耳石の染色状況を観察した。
(2)試験結果
試験結果は表1に示すとおりである。
(3)考察
マダイ仔魚が生き残って、耳石の蛍光染色が認められたのは、29種の色素素材のうちコチニール色素(カルミンレッド MK-40)とラック色素(ラッカインレッド R)のみであった。また、シコン色素(シコニン)は、マダイ仔魚は生残しなかったものの、耳石の蛍光染色が認められた。マダイ仔魚が死亡したのは、シコン色素の濃度が濃すぎたからであると推測される。よって、この試験によって、コチニール色素とラック色素は、標識剤として有用な素材であることが確認された。また、シコン色素は、標識剤として有用な素材であることが推認された。
【0053】
《試験例2》
<マダイ受精卵を用いた3種の標識素材の実用化試験>
耳石標識剤としての有用性が認められたコチニール色素とラック色素に漢方薬として使用されているシコン色素を加えた3種の素材について、マダイ受精卵に対する標識の可能性と使用条件を実用規模で試験した。
(1)試験方法
上記3種の素材を表2に示す各濃度となるように濾過海水に溶解し、それぞれの溶液へ胚体に耳胞の形成が確認されたマダイ受精卵を24時間浸漬した。浸漬中にふ化して仔魚になったものを含め、所定浸漬時間経過後、受精卵又はふ化仔魚を採取し、蛍光顕微鏡下で耳石の蛍光の有無を観察した。
(2)試験結果
試験結果は表2に示すとおりである。
(3)考察
イ.コチニール色素溶液では、1000mg/L以上の濃度において耳石への蛍光が確認 された。いずれの濃度でも死亡は発生しなかった。最も蛍光が強いのは8000mg/ L濃度であった。
ロ.ラック色素溶液では、500〜4000mg/L濃度において耳石への蛍光が確認さ れたが、8000mg/L濃度では死亡が発生した。蛍光が強いのは2000〜400 0mg/L濃度であった。
ハ.シコン色素溶液では、0.4mg/L濃度以上において死亡が発生した。また、耳石 への強い蛍光が0.1mg/L濃度以上において確認された。
【0054】
(4)総合評価
以上の試験結果を総合すると、以下のとおりである。
イ.マダイ受精卵を、コチニール色素とラック色素をそれぞれ500〜8000mg/L 含む溶液に24時間浸漬した結果、コチニール色素で8000mg/L以下、ラック色 素で4000mg/L以下の濃度において、正常なふ化が認められた。耳石への蛍光は コチニール色素で2000mg/L以上、ラック色素で1000mg/L以上の濃度で 全ての供試個体について確認された。
ロ.シコン色素では、0.1〜10mg/L濃度の溶液に24時間浸漬した結果、0.1 〜0.3mg/Lの濃度で、全ての供試個体についてふ化が認められ、かつ、耳石への 蛍光も認められた。
【0055】
《試験例3》
<オニオコゼ受精卵を用いた3種の標識素材の実用化試験>
耳石標識剤としての有用性が認められたコチニール色素とラック色素に漢方薬として使用されているシコン色素を加えた3種の素材について、オニオコゼ受精卵に対する標識の可能性と使用条件を実用規模で試験した。
(1)試験方法
上記3種の素材を表3に示す各濃度となるように濾過海水に溶解し、それぞれの溶液へ胚体に耳胞の形成が確認されたオニオコゼ受精卵を24時間浸漬した。浸漬中にふ化して仔魚になったものを含め、所定浸漬時間経過後、受精卵又はふ化仔魚を採取し、蛍光顕微鏡下で耳石の蛍光の有無を観察した。
(2)試験結果
試験結果は表3に示すとおりである。
(3)考察
イ.コチニール色素溶液では、1000mg/L以上の濃度において耳石への蛍光が確認 された。いずれの濃度でも死亡は発生しなかった。蛍光が強いのは4000mg/L濃 度以上であった。
ロ.ラック色素溶液では500mg/L以上の濃度において耳石への蛍光が確認された。 いずれの濃度でも死亡は発生しなかった。蛍光が強いのは2000mg/L濃度以上で あった。
ハ.シコン色素溶液では、5mg/L以上の濃度では死亡したが、2mg/L濃度以下で は死亡が認められず、また、生残した全ての濃度で耳石への強い蛍光が確認された。
【0056】
(4)総合評価
以上の試験結果を総合すると、以下のとおりである。
イ.オニオコゼ受精卵を、コチニール色素とラック色素をそれぞれ250〜16000m g/L含む溶液に24時間浸漬した結果、いずれの色素を用いた場合でも、16000 mg/L以下の濃度において、正常なふ化が認められた。耳石への蛍光はコチニール色 素で2000mg/L以上、ラック色素で1000mg/L以上の濃度で全ての供試個 体について確認された。
ロ.シコン色素では、0.1〜50mg/L濃度の溶液に24時間浸漬した結果、0.1 〜2mg/Lの範囲において全ての供試個体のふ化が認められ、また、耳石への蛍光も 全ての供試個体について確認された。
【0057】
《試験例4》
<ヒラメ受精卵を用いた3種の標識素材の実用化試験>
耳石標識剤としての有用性が認められたコチニール色素とラック色素に漢方薬として使用されているシコン色素を加えた3種の素材について、ヒラメ受精卵に対する標識の可能性と使用条件を実用規模で試験した。
(1)試験方法
上記3種の素材を表4に示す各濃度となるように濾過海水に溶解し、それぞれの溶液へ胚体に耳胞の形成が確認されたヒラメ受精卵を24時間浸漬した。浸漬中にふ化して仔魚になったものを含め、所定浸漬時間経過後、受精卵又はふ化仔魚を採取し、蛍光顕微鏡下で耳石の蛍光の有無を観察した。
(2)試験結果
試験結果は表4に示すとおりである。
(3)考察
イ.コチニール色素溶液では、2000mg/L以上の濃度において耳石への蛍光が確認 された。いずれの濃度でも死亡は発生しなかった。蛍光が強いのは4000mg/L濃 度以上であった。
ロ.ラック色素溶液では、2000mg/L以上の濃度において耳石への蛍光が確認され た。4000mg/L以下の濃度では死亡が発生しなかった。蛍光が強いのは4000 mg/L濃度以上であった。
ハ.シコン色素溶液では、1mg/L濃度以上では死亡したが、0.5mg/L濃度以下 ではふ化が認められた。耳石への蛍光は0.1〜0.2mg/L濃度で確認された。ま た、強い蛍光は0.2mg/L濃度で確認された。
【0058】
(4)総合評価
以上の試験結果を総合すると、以下のとおりである。
イ.ヒラメ受精卵を、コチニール色素とラック色素をそれぞれ500〜16000mg/ L含む溶液に24時間浸漬した結果、コチニール色素では16000mg/L以下、ラ ック色素はで4000mg/L以下の濃度において、正常なふ化が認められた。耳石へ の蛍光は、コチニール色素で4000mg/L以上、ラック色素でも4000mg/L 以上の濃度で確認された。
ロ.シコン色素では、0.1〜5mg/Lの溶液に24時間浸漬した結果、0.1〜0. 2mg/Lの濃度範囲で全ての供試個体のふ化生残が認められ、また、0.2mg/L で全ての供試個体について耳石への蛍光が認められた。
【0059】
《試験例5》
<コチニール色素を用いた各種稚魚の標識試験>
(1)試験方法
水槽に入れた海水に、コチニ−ル色素をそれぞれ2000、4000、8000、16000mg/Lの濃度となるように溶解し、全長14〜100mmのオニオコゼ、マダイ、ヒラメ、トラフグの各稚魚を10尾ずつ24時間浸漬した。水槽は、稚魚の大きさに合わせて容量1〜30Lのものを用いた。浸漬終了後、全ての供試魚を新鮮海水中に移し、その生残状況を確認した。また、一部の個体をサンプリングして耳石及び耳石以外の硬組織を採取し、蛍光顕微鏡下で耳石等への蛍光標識の有無(染色度)を観察し、稚魚の成長に伴う浸漬濃度と標識状況を調査した。さらに、一部の個体を継続飼育して、硬組織への標識の残存状況についても観察した。
(2)試験結果
試験結果は、表5・表6(耳石の染色性)、表7・表8(耳石以外の硬組織の染色性)及び表9(トラフグ稚魚の生残性と染色性)に示すとおりである。
(3)考察
イ.全長100mmサイズの稚魚では、オニオコゼは、いずれの濃度でも供試魚の生残が 確認された。また、いずれの魚種についても、16000mg/Lの濃度では耳石への 明瞭な蛍光染色が確認された。しかし、マダイとヒラメは、16000mg/L濃度で は生残しなかった(表5)。
ロ.全長100mm未満のオニオコゼでも、16000mg/Lの濃度で全ての供試魚が 生残し、かつ、耳石への蛍光標識が可能であることが確認された(表6)。
ハ.全長47mmのトラフグ稚魚では、いずれの濃度でも供試魚の生残が確認された。ま た、耳石への明瞭な蛍光は8000mg/L以上で確認された。4000mg/L以下 の濃度でも蛍光が見えないわけではなかった(表9)。
【0060】
ニ.耳石以外の硬組織の染色状況については、2000mg/Lの濃度において、オニオ コゼでは背鰭棘や下鰓蓋骨が(表7・表8)、ヒラメでは鱗等が(表7)、マダイでは 背鰭棘や鱗が(表7)、トラフグでは皮膚の棘や軟条が(表9)、それぞれ蛍光染色さ れることが確認された。2000mg/Lは、表5や表9に示すように、いずれの魚種 も安全に浸漬できる濃度であり、2000mg/L程度のコチニール色素を有効成分と する標識液に稚魚を浸漬する標識方法は、耳石をターゲットとしない場合には有用な標 識方法であると考えられる。
【0061】
ホ.濃度16000mg/Lのコチニール色素溶液に24時間浸漬した全長65mmのオ ニオコゼを継続飼育したところ、6カ月が経過した後も、耳石、背鰭棘、下鰓蓋骨のい ずれからも蛍光が観察された。表5と表6に示すように、耳石の染色状況は標識液の濃 度によって異なる。しかしながら、耳石以外の硬組織である背鰭棘や下鰓蓋骨では、A LCより標識コストが安価となる濃度2000mg/Lの標識液に浸漬した場合にも、 表7や表8に示すように蛍光が観察されている。したがって、16000mg/Lの標 識液に浸漬したときのように6カ月経過した後も蛍光が残存することが予想される。後 記のように、ヒラメ、マダイでは2000mg/L濃度の標識液に浸漬した稚魚の7カ 月が経過した背鰭棘や鱗から蛍光標識が確認されており、オニオコゼでも同様と考えら れる。
ヘ.また、濃度4000mg/Lのコチニール色素溶液に浸漬した全長100mmのヒラ メ、マダイを継続飼育したところ、7カ月が経過した後も、鱗(ヒラメ、マダイ)、背 鰭棘(マダイ)、臀鰭軟条(ヒラメ)に蛍光が観察された。表7に示すように、200 0mg/Lの標識液に浸漬した後も、特に鱗では蛍光標識が観察されているので、この ことから、本発明の標識方法によれば、その蛍光標識は、ALCよりも標識コストが安 価となる濃度においても7カ月以上残存することが予想される。
ト.上記のとおり、蛍光標識が長期にわたって残存する面において、従来法であるALC 溶液に浸漬する標識方法よりも安価に標識が可能であるため、本発明におけるコチニー ル色素溶液に浸漬する方法の有用性が理解される。
【0062】
《試験例6》
<シコン色素を用いたマダイ稚魚の標識試験>
(1)試験方法
水槽に入れた海水に、シコン色素を0.1、0.2、0.5、1.0、2.0、5.0及び10.0mg/Lの濃度となるようにそれぞれ溶解し、全長78mmのマダイ稚魚と全長14mmのオニオコゼ稚魚を10尾ずつ24時間浸漬した。水槽は、マダイには容量10Lのものを、オニオコゼには容量1Lのものを用いた。浸漬終了後、全ての供試魚を新鮮海水中に移し、生残状況を確認した。また、一部の個体をサンプリングして耳石及びその他の硬組織を採取し、蛍光顕微鏡下で耳石等への蛍光標識の有無(染色度)を観察した。
(2)試験結果
試験結果は、表10(マダイ稚魚の生残性と染色性)と表11(オニオコゼの生残性と染色性)に示すとおりである。
(3)考察
イ.どちらの稚魚も全ての個体の生残が0.5mg/L以下の濃度で認められ、1.0m g/Lでも一部 の個体が生残した。
ロ.マダイの耳石では、0.5〜1.0mg/Lの濃度で蛍光染色が確認された。その他 の硬組織でも0.5〜1.0mg/Lの濃度で鱗や背鰭棘で染色が確認されたが、0. 5mg/Lでは背鰭棘の染色状況は弱かった(表10)。
ハ.オニオコゼの耳石、同背鰭棘では、0.1〜1.0mg/Lの濃度で蛍光染色が確認 された(表11)。
ニ.この試験によって、シコン色素はマダイ稚魚やオニオコゼ稚魚の標識剤としても有用 であることが確認された。標識液の好ましい濃度は、マダイ稚魚では0.5mg/L、 オニオコゼ稚魚では0.1〜0.5mg/Lである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上詳しく説明したとおり、本発明は、人体に対する安全性が確認されている新規な魚類の標識剤を提供する。また本発明は、その標識剤を用いて魚類を安全に標識する方法を提供する。さらに本発明は、人体に対する安全性が確認されていると共に安価な標識剤とその標識剤を用いて大量の魚類を安全かつ安価に標識する方法を提供するものである。このように本発明は、栽培漁業技術の向上にすこぶる貢献する発明である。

【表1】


【表2】


【表3】


【表4】


【表5】


【表6】


【表7】


【表8】


【表9】


【表10】


【表11】



【出願人】 【識別番号】501168814
【氏名又は名称】独立行政法人水産総合研究センター
【出願日】 平成18年9月14日(2006.9.14)
【代理人】 【識別番号】100133905
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良夫

【識別番号】100113837
【弁理士】
【氏名又は名称】吉見 京子

【識別番号】100127421
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 さなえ

【識別番号】100090941
【弁理士】
【氏名又は名称】藤野 清也


【公開番号】 特開2008−67648(P2008−67648A)
【公開日】 平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願番号】 特願2006−249780(P2006−249780)