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【発明の名称】 Timp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物およびそれを用いた薬剤のスクリーニング方法
【発明者】 【氏名】安田 修

【氏名】河本 秀宣

【氏名】福尾 惠介

【氏名】荻原 俊男

【要約】 【課題】不安定動脈硬化プラークを生成する動脈硬化症モデル動物を作製すること、およびかかる動物を用いて動脈硬化症の予防薬剤および治療薬剤をスクリーニングする方法を提供すること。

【構成】Timp−3遺伝子とApoE遺伝子とを欠損してなるTimp−3/ApoEダブルノックアウト動物、およびかかるダブルノックアウト動物に、一定期間高脂肪食を与えつつまたは与えた後に、候補薬剤またはプラセボを投与し;候補薬剤を投与した動物およびプラセボを投与した動物の血管の中膜弾性板の破綻数または線維性被膜の厚さを測定し;ついで、プラセボを投与した動物と比較して、候補薬剤を投与した動物の中膜弾性板の破綻数が少ない場合または線維性被膜の厚さが厚い場合に該候補薬剤を動脈硬化性疾患の予防薬剤または治療薬剤として判定するスクリーニング方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ApoE遺伝子とTimp−3遺伝子とを欠損してなるTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物。
【請求項2】
ApoE遺伝子ノックアウトマウスとTimp−3遺伝子ノックアウトマウスとを交配させて得られる請求項1記載のTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物。
【請求項3】
マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ヒツジ、サル、ヤギ、ブタ、ウマ、ウシ、サル、ウサギ、イヌおよびネコよりなる群から選択される動物である請求項1または2に記載のダブルノックアウト動物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のダブルノックアウト動物から調製した組織。
【請求項5】
請求項1または2に記載のダブルノックアウト動物から調製した細胞。
【請求項6】
動脈硬化性疾患の予防薬剤のスクリーニング方法であって:
(1)請求項1または2に記載のTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物に、一定期間、高脂肪食を与えつつ候補薬剤またはプラセボを投与し;
(2)候補薬剤を投与した動物およびプラセボを投与した動物の血管の中膜弾性板の破綻数または線維性被膜の厚さを測定し;ついで
(3)プラセボを投与した動物と比較して、候補薬剤を投与した動物の中膜弾性板の破綻数が少ない場合または線維性被膜の厚さが厚い場合に該候補薬剤を動脈硬化性疾患の予防薬剤として判定する、ことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項7】
動脈硬化性疾患の治療薬剤のスクリーニング方法であって:
(1)請求項1または2に記載のTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物に、一定期間高脂肪食を与えた後に候補薬剤またはプラセボを投与し;
(2)候補薬剤を投与した動物およびプラセボを投与した動物の血管の中膜弾性板の破綻数または線維性被膜の厚さを測定し;ついで
(3)プラセボを投与した動物と比較して、候補薬剤を投与した動物の中膜弾性板の破綻数が少ない場合または線維性被膜の厚さが厚い場合に該候補薬剤を動脈硬化性疾患の治療薬剤として判定する、ことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項8】
血管が胸部大動脈であることを特徴とする請求項6または7記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
高脂肪食を1−7ヶ月間投与することを特徴とする請求項6−8のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
動物が、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ヒツジ、サル、ヤギ、ブタ、ウマ、ウシ、サル、ウサギ、イヌおよびネコよりなる群から選択される動物である請求項6−9のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
動脈硬化性疾患が、血栓症、細動脈硬化性腎硬化症、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症、狭心症、大動脈瘤、大動脈解離、脳出血および腹部アンギナよりなる群から選択される疾患である請求項6−10のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、Timp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物に関し、より詳細にはTimp−3遺伝子およびApoE遺伝子を欠損しており、不安定動脈硬化プラークを形成する非ヒト動物、およびそれを用いた動脈硬化性疾患の予防薬または治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における死因の2位および3位を示す心疾患、脳卒中はともに虚血性の疾患であり、この2つを合わせると日本における死因の約3分の1を占める。また、心筋梗塞および脳梗塞の発症はそれぞれ心不全、身体麻痺を併発し、寝たきりの状態になる原因疾患として上位を占めており、社会的に大きな問題となっている。したがって、これらの虚血性疾患の予防および治療方法の確立は、超高齢化社会を迎えつつある日本にとって極めて重要な問題であり、早期の解決が望まれている。
【0003】
虚血性疾患の発症原因の一つとして、動脈硬化が知られている。動脈硬化により肥厚した血管壁の隆起は動脈硬化プラークと呼ばれ、それには、破綻しにくい安定動脈硬化プラークと、破綻しやすい不安定動脈硬化プラークとが存在する。最近の研究により、血管内腔の狭窄または閉塞の原因は、動脈硬化プラークの肥大よりもむしろ、動脈硬化プラークの破綻(亀裂)によって血管内に生じた血栓の沈着であることがわかっている。したがって、動脈硬化病変が進行しても安定動脈硬化プラークであって破綻しなければこれらの疾患を生じる可能性は少なく、この破綻しやすい形態の不安定動脈硬化プラークの発生を防ぐことや、発生したプラークを安定化させることが、心筋梗塞や脳梗塞ならびに併発する心不全や身体麻痺を予防ないし治療するうえで重要であると考えられる。
【0004】
動脈硬化プラークは線維性被膜と呼ばれる被膜構造で覆われており、線維性被膜は主にコラーゲン、エラスチンなどの細胞外基質で構成されている。そして、上述した不安定動脈硬化プラークではこの線維性被膜の形成が不完全であるかまたは薄くなっているために破綻しやすくなっている。しかし、どのような原因によって線維性被膜の形成が不完全になりまたは薄くなるかについては様々な機構が提案されているが、いまだ明らかにされていない(非特許文献1)。
【0005】
一方、動脈硬化を原因とする虚血性疾患を予防および治療する対象はヒトであるため、予防および治療方法を探索するうえにおいてはモデル動物を作製することが不可欠である。動脈硬化プラークのうち、安定動脈硬化プラークを発症するモデル動物としてはApoE欠損マウスやLDL受容体欠損マウスなどが知られている(特許文献1)。しかし、虚血性疾患の発症に重要な役割を演じる不安定動脈硬化プラークを発症するモデル動物はいままで開発されておらず、不安定動脈硬化プラーク研究や動脈硬化性疾患薬剤のスクリーニングの観点からその開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2005−278617
【非特許文献1】Galis Z. S., Sukhova G. K., Kranihoefer R., Clark S. and Libby P., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1995;92:402-406.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述したような従来の問題を解決するものであり、不安定動脈硬化プラークを発症するモデル動物を作製することにある。また、本発明の目的は、かかるモデル動物を用いた動脈硬化に起因する疾患の予防薬剤または治療薬剤のスクリーニング方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる事情に鑑みて、不安定動脈プラークの被膜構造を構成する細胞外基質の分解に着目して鋭意検討した結果、動脈硬化のモデル動物であるApoE遺伝子ノックアウト動物などの動物とTimp−3遺伝子ノックアウト動物とを交配させて得られるダブルノックアウト動物が、不安定動脈硬化プラーク研究の良好なモデル動物となり得ること、ならびにかかるモデル動物を利用すれば好適な動脈硬化性疾患の予防薬剤および治療薬剤のスクリーニング系を確立し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]ApoE遺伝子とTimp−3遺伝子とを欠損してなるTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物;
[2]ApoE遺伝子ノックアウトマウスとTimp−3遺伝子ノックアウトマウスとを交配させて得られる[1]記載のTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物;
[3]マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ヒツジ、サル、ヤギ、ブタ、ウマ、ウシ、サル、ウサギ、イヌおよびネコよりなる群から選択される動物である[1]または[2]に記載のダブルノックアウト動物;
[4][1]または[2]に記載のダブルノックアウト動物から調製した組織;
[5][1]または[2]に記載のダブルノックアウト動物から調製した細胞;
[6]動脈硬化性疾患の予防薬剤のスクリーニング方法であって:
(1)[1]または[2]に記載のTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物に、一定期間、高脂肪食を与えつつ候補薬剤またはプラセボを投与し;
(2)候補薬剤を投与した動物およびプラセボを投与した動物の血管の中膜弾性板の破綻数または線維性被膜の厚さを測定し;ついで
(3)プラセボを投与した動物と比較して、候補薬剤を投与した動物の中膜弾性板の破綻数が少ない場合または線維性被膜の厚さが厚い場合に該候補薬剤を動脈硬化性疾患の予防薬剤として判定する、ことを特徴とするスクリーニング方法;
[7]動脈硬化性疾患の治療薬剤のスクリーニング方法であって:
(1)[1]または[2]に記載のTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物に、一定期間高脂肪食を与えた後に候補薬剤またはプラセボを投与し;
(2)候補薬剤を投与した動物およびプラセボを投与した動物の血管の中膜弾性板の破綻数または線維性被膜の厚さを測定し;ついで
(3)プラセボを投与した動物と比較して、候補薬剤を投与した動物の中膜弾性板の破綻数が少ない場合または線維性被膜の厚さが厚い場合に該候補薬剤を動脈硬化性疾患の治療薬剤として判定する、ことを特徴とするスクリーニング方法;
[8]血管が胸部大動脈であることを特徴とする[6]または[7]記載のスクリーニング方法;
[9]高脂肪食を1−7ヶ月間投与することを特徴とする[6]−[8]のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
[10]動物が、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ヒツジ、サル、ヤギ、ブタ、ウマ、ウシ、サル、ウサギ、イヌおよびネコよりなる群から選択される動物である[6]−[9]のいずれか1に記載のスクリーニング方法;および
[11]動脈硬化性疾患が、血栓症、細動脈硬化性腎硬化症、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症、狭心症、大動脈瘤、大動脈解離、脳出血および腹部アンギナよりなる群から選択される疾患である[6]−[10]のいずれか1に記載のスクリーニング方法
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、不安定動脈硬化プラークを原因とする動脈硬化性疾患の発症機構を詳細に解明し、および、かかる動脈硬化性疾患の予防薬剤および治療薬剤をスクリーニングするのに有用なモデル動物、組織または細胞を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のApoE遺伝子とTimp−3遺伝子とを欠損してなるTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物は、ApoE遺伝子ノックアウト動物とTimp−3遺伝子ノックアウト動物とを交配させることによって得る。
【0012】
このうち、ApoE遺伝子ノックアウト動物は、安定動脈硬化プラークを発症するが不安定動脈硬化プラークは発症しない。このApoE遺伝子ノックアウト動物としては既存の動物系統を用いることができる。例えば、ApoE遺伝子ノックアウトマウスとしては、慣用的な方法により、例えば129系統マウス由来の胚性幹細胞(ES細胞)中で、遺伝子欠損ターゲティングベクターとマウスゲノムとの間で相同組換えを起こさせてノックアウトマウスを作製し、野生型マウス、例えばC57BL/6系統マウスと戻し交配させることによって得たマウスを用いることができる。
【0013】
さらに、本発明においては、上記のApoE遺伝子ノックアウト動物の代わりに、安定動脈硬化プラークを形成する公知の他の遺伝子ノックアウト動物を用いることもできる。この他の遺伝子ノックアウト動物としては、LDL受容体遺伝子ノックアウト動物、ApoEまたはLDL受容体遺伝子中に突然変異を有する動物などが挙げられる。また、ApoE遺伝子ノックアウト動物の代わりに、ヒト型ApoBまたはドミナント変異ApoE遺伝子を導入した動物を用いることもできる。
【0014】
また、Timp−3遺伝子ノックアウト動物は、Tissue Inhibitor of Metalloproteinase(Timp)−3遺伝子のいずれかのエキソン領域を欠損した動物であり、好ましくはTimp−3のエキソン1を含む領域を欠損した動物である。
Timpはマトリックスプロテイナーゼ(MMP)の活性を阻害することが知られているペプチドであり、現在、哺乳動物においてはTimp−1からTimp−4までの4種類が知られている。このうちTimp−1、−2および−4は分泌型であるのに対し、Timp−3は細胞外基質に結合し、MMP活性を局所的に抑制する。本発明者らは、Timp−3遺伝子の発現異常によりMMP活性が亢進し、その結果、線維性被膜の形成異常をきたして不安定動脈硬化プラークを発生すると考え、Timp−3遺伝子ノックアウト動物を選択した。
【0015】
Timp−3遺伝子ノックアウト動物は、動物のゲノム上に存在する内因性Timp−3遺伝子エキソンのうちの1またはそれを超える領域を遺伝子操作により欠損させて作製する。詳細には、欠損させる1またはそれを超えるエキソン領域(または領域群)を薬剤耐性遺伝子などに置き換えるターゲティングベクターを作製して動物の胚性幹細胞(ES細胞)に導入する。導入したターゲティングベクターは細胞内で相同組換えを起こし、欠損させたいエキソンが薬剤耐性遺伝子などで置換されたゲノムを有するES細胞を生じる。このES細胞を、野生型動物の胚盤砲に導入し、それをレシピエントマウス(仮親)へ移植し、自然分娩により仔動物を得る。得られたキメラ動物を野生型動物と数回戻し交配させて得た動物(ホモ接合体またはヘテロ接合体)をTimp−3遺伝子ノックアウト動物として用いる。
【0016】
本発明のTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物は、上記のApoE遺伝子ノックアウト動物とTimp−3遺伝子ノックアウト動物とを交配させて得られるキメラ動物を野生型動物と交配させて得られるヘテロ接合(+/−)ダブルノックアウト動物として、または、かかるヘテロ接合動物同士をさらに交配させて得られるホモ接合(−/−)ダブルノックアウト動物として得ることができる。
【0017】
ホモ接合ダブルノックアウト動物は、高脂肪食を与えることによって容易に不安定動脈硬化プラークを発生するため、不安定動脈硬化プラークに起因する動脈硬化性疾患の発症機構の研究や疾患の予防薬剤または治療薬剤のスクリーニングに使用することができる。
また、ヘテロ接合ダブルノックアウト動物は、外因的要素によってホモ接合ダブルノックアウト動物に変化する、または、他の欠損動物との交配によりホモ接合ダブルノックアウト動物を出産する素因を有する。したがって、ヘテロ接合ダブルノックアウト動物は、動脈硬化性疾患の素因を有する動物のモデルとして使用することができる。
【0018】
本発明のダブルノックアウト動物として使用する哺乳動物としては、形質転換した胚性幹(ES)細胞からの再生系が確立している哺乳動物であればよく、例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ヒツジ、サル、ヤギ、ブタ、ウマ、ウシ、サル、ウサギ、イヌまたはネコよりなる群から選択される哺乳動物を挙げることができるが、好ましくはマウスである。
【0019】
さらに、本発明のTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物の組織または細胞は、上記のダブルノックアウト動物から慣用技術により調製、培養するものであり、イン・ビトロ(in vitro)のスクリーニングに使用することができる。これらダブルノックアウト動物の組織または細胞は、培地中で候補薬剤と接触させてそのMMP活性の変化を測定する。プラセボと接触させた組織または細胞と比較してMMP活性を低下させる物質は、動脈硬化性疾患の予防薬剤または治療薬剤と判定することができる。
【0020】
本発明の動脈硬化性疾患の予防薬剤または治療薬剤のスクリーニング方法においては、一定期間、高脂肪食を上記のダブルノックアウト動物に与える間(予防薬剤のスクリーニング)または与えた後(治療薬剤のスクリーニング)に候補薬剤を投与する。また、対照区として、候補薬剤の代わりにプラセボを投与する以外は同じ条件下でダブルノックアウト動物を飼育する。その後、これらのダブルノックアウト動物を殺し、血管、例えば胸部大動脈、冠状動脈、腹部大動脈、頸動脈、腸骨動脈など動脈硬化プラークが発生する部位の血管を摘出し、染色、固定した後に実体顕微鏡下で検鏡して、中膜弾性板の破綻数および動脈硬化プラークの線維性被膜の厚さを測定する。
ダブルノックアウト動物への候補薬剤の投与は、経口投与、または静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、硬膜外注射、腹腔内注射などの非経口投与などの経路により行う。また、候補薬剤の投与量および投与期間は、適宜変化させてスクリーニングする。
【0021】
本発明における動脈硬化性疾患とは、不安定動脈硬化プラークの破綻に起因して発症し得る疾患であり、血栓症、細動脈硬化性腎硬化症、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症、狭心症、大動脈瘤、大動脈解離、脳出血および腹部アンギナなどが含まれる。
投与した候補薬剤が動脈硬化性疾患の予防薬剤または治療薬剤として適当であるかは、対照区(プラセボ投与)動物と比較して中膜弾性板の破綻数が少ないかまたは線維性被膜の厚さが厚いことを基準として判定することができる。
【0022】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、これは説明することを意図するものであって、いかなる場合においても本発明がそれに限定されることを意図するものではない。
【実施例】
【0023】
Timp−3ノックアウトマウスの作製
内因性Timp−3遺伝子のエキソン1を含むラムダファージベクターを、公開されている配列を用いてクローニングした。ターゲティングベクター(B303NeoTK)は、ゲノム内のエキソン1(図1A中の記号「E1」)およびプロモーター領域がネオマイシン耐性遺伝子(記号「N」)で置換されるように設計した(図1A)。図1Aに示すように、エキソン1の5'側領域の6.5kbのBamHI(記号「B」)/SacII(記号「S」)断片は相同な5’アームを提供し、イントロン1中の1.8kbのEcoRV(「記号「R」)/BamHI断片は相同な3'アームを形成する。このターゲティングベクターを線状化し、エレクトロポレーションによって、マウス系統129/Ola由来のES細胞に導入した。G418およびガンシクロビアで選抜した後に生存しているコロニーを、ネオマイシン耐性遺伝子の3'末端からのFwプライマー(5'-CTTCTATCGCCTTCTTGACG-3')(配列番号:1)およびイントロン1内のBamHIサイトの3'部分からのRvプライマー(5'-CACCCACACCTCCCATTTTT-3')(配列番号:2)を用いたPCRによって一次スクリーニングにかけた。2.0kbのPCR断片を生成する陽性クローンを培養増殖し、エキソン1の上流部分に特異的なプローブ(プローブA)を用いたBamHI消化ES細胞ゲノミックDNA、またはイントロン1に特異的なプローブ(プローブB)を用いたEcoRI消化DNAのサザンブロット分析によって陽性クローンを確認した。
【0024】
その結果、プローブAを用いた分析では、野生型ES細胞(+/+)では9.5kbの断片しか認められない一方、スクリーニングした形質転換ES細胞(+/−)では9.5kbおよび7.0kbの大きさの断片が認められた(図1B左)。また、プローブBを用いた分析では、野生型ES細胞では25kbの断片しか認められない一方、スクリーニングした形質転換ES細胞では25kbの断片に加えて9.5kbの断片が認められ、スクリーニングしたES細胞のTimp−3遺伝子がネオマイシン耐性遺伝子で置換されていることが確認された(図1B右)。
【0025】
また、野生型マウス(+/+)、スクリーニングしたES細胞から再生させたヘテロ接合(+/−)およびホモ接合(−/−)ノックアウトマウスの腎臓におけるTimp−3遺伝子の発現レベルを分析した結果、ホモ接合ノックアウトマウスでは発現が認められず、ヘテロ接合ノックアウトマウスでは野生型のほぼ半分の発現しか認められなかった。一方、対照遺伝子(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、GAPDH)の発現はいずれのマウスにおいても同等であった(図1C)。したがって、ターゲティングにより欠損させたTimp−3遺伝子が個体レベルで発現していないことが確認された。
【0026】
マウスおよび遺伝子型決定
正確にターゲティングしたTimp−3遺伝子座を有するES細胞を、C57BL/6マウス系統レシピエント胚盤胞にマイクロインジェクションで注入し、た。このキメラ胚を不妊雄と交尾した雌マウス(仮親)の子宮の中へ移植した結果、約17日後にキメラマウスを出生した。このキメラマウスを、生後8週以降にC57BL/6マウスと交配させてF1マウスを得た。マウスの遺伝子型は、3種類のプライマー、Neo−Fw(5'-TGACCGCTTCTTCGTGCTTT-3')(配列番号:3)、Timp−3Fw(5'-GGCTTGGGCTTGTCGTGCTC-3')(配列番号:4)およびTimp−3Rv(5'-CTCTCACCCTCCTTCTCCAG-3')(配列番号:5)を用いる尾部から採取したDNAのPCRによって決定した。Timp−3FwおよびTimp−3Rvで増幅した300bpの断片は正常アレルに由来し、Neo−FwおよびTimp−3Rvで増幅した230bpの断片はターゲットした遺伝子座の検出を意味する。突然変異アレルを保有しているマウスをC57BL/6マウスと8回以上戻し交配させてC57BL/6の遺伝バックグラウンド(Timp−3遺伝子ノックアウトマウス)を作出した(図2)。
【0027】
Timp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスの作出
ApoE遺伝子ノックアウトマウスは、ジャクソン研究所から入手した。このApoE遺伝子ノックアウトマウスを、上記で作製したTimp−3遺伝子ノックアウトマウスと交配させてヘテロ接合(+/−)Timp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスを得、このヘテロ接合ダブルノックアウトマウス同士を掛け合わせてホモ接合(−/−)Timp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスを得た。得られたホモ接合ダブルノックアウトマウスは、野生型マウスと比較して体重や外見上の差異は認められなかった(図3)。
【0028】
高脂肪食負荷下での血中コレステロール値の推移
8週齢のApoE遺伝子ノックアウトマウス16匹(オス8匹、メス8匹)およびTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウス16匹(オス8匹、メス8匹)に、以下の組成の高脂肪食(21%粗脂肪、0.15%コレステロール含有、自由摂食、オリエンタル酵母工業(株)製)を24週間負荷し、負荷前および負荷後の血中コレステロール値を測定した。コレステロール値は、製造業者の指示に従って、コレステロール測定キット(Lタイプワコー CHO・M)(和光純薬工業(株)製)を用いて行った。その結果を、平均値標準偏差値で図4に示す。
【0029】
【表1】


【0030】
図4から明らかなように、ApoE遺伝子ノックアウトマウスとTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスとでは、それらの性別に関係なく血中コレステロール値の推移に有意差は認められなかった。
また、ApoE遺伝子ノックアウトマウスとTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスとでは、それらの性別に関係なく体重の推移にも有意差は認められなかった(図5)。
【0031】
高脂肪食負荷後のプラーク面積
高脂肪食負荷後のマウスを4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)で5分間環流固定した後、胸部大動脈を摘出した。実体顕微鏡下で大動脈から分枝および結合組織を除去した後、大動脈を弓状部の小湾側に沿って遠位部終端まで切り開き、その後に弓状部の大湾側を切り開いた。摘出した大動脈標本の内腔側を上方にして虫ピン(0.25mm径、Fine Science Tools社製)で固定した。固定した大動脈標本を60%イソプロパノールで洗浄し、オイルレッドO染色液で室温下に10分間染色した。その後に5分間水洗し、標本を水に浸したままデジタルカメラを用いて実体顕微鏡下に染色部位を写真撮影した。撮影した画像をコンピュータ画像解析装置(MacSCOPE、三谷商事(株)製)により解析し、オイルレッドO染色部位の面積率(%)および個数を測定した。その結果を図6および7に示す。
【0032】
図6および7から明らかなように、ApoE遺伝子ノックアウトマウスとTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスとでは、それらの性別に関係なく胸部大動脈の動脈硬化プラークの面積および個数に有意差は認められなかった。
【0033】
高脂肪食負荷後の線維性被膜
高脂肪食負荷後のApoE遺伝子ノックアウトマウスおよびTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスを4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)で5分間環流固定した後、胸部大動脈を摘出した。その大動脈弓部位をTissue-Tek OCT Compound(Miles社、Elkhart, IN)に包埋し、クライオスタットを用いて厚さ10μmの切片を調製し、以下のようにして染色した。調製した線維性被膜の切片をカラッチのヘマトキシリン液に20分間浸漬した後、軽く水洗した。その後、1%塩酸を含む70%アルコールで分別した。色出し後、10分間水洗した。軽く80%エタノールに通した後、エオジン液に10分間浸漬し、軽く水洗した。水洗した切片は脱水し、封入して光学顕微鏡下で観察した(ヘマトキシリン・エオジン染色)。その結果を図8に示す。
【0034】
ApoE遺伝子ノックアウトマウスの血管組織では、明瞭な境界を有する線維性被膜が観察された。一方、Timp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスの血管組織では、線維性被膜の境界が不明瞭になっており、線維性被膜の厚さが薄くなっていることが判明した。
【0035】
高脂肪食負荷後の中膜弾性板
前記と同様にして調製した中膜弾性板の切片を100%アルコールに浸漬した後、1%塩酸を含む70%アルコールで分別した。ワイゲルトのレゾルシン・フクシン液に40〜50分間浸漬した後、純アルコールに浸漬して5分間水洗した。つぎに、ワイゲルトの鉄ヘマトキシリン液に5分間浸漬した後、軽く水洗した。1%塩酸を含む70%アルコールで分別し、色出し後、10分間水洗した。つぎに、ワンギーソン液に2〜5分間浸漬した後、軽く水洗した。水洗した切片は脱水し、封入して光学顕微鏡下で観察した(エラスチカファンギーソン染色)。その結果を図9に示す。
【0036】
ApoE遺伝子ノックアウトマウスの血管組織では、線維性被膜と同様に、明瞭な境界を有する中膜弾性板が観察された。一方、Timp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスの血管組織では、中膜弾性板の破綻が多数観察された。ApoE遺伝子ノックアウトマウスとTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスとの間には、中膜弾性板の破綻数に有意差が認められた(図10)。
【0037】
これらの実験から、Timp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物では血管内膜の動脈硬化性プラークの線維性被膜が破綻し易く不安定になっていることが判明した。
したがって、本発明のTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウト動物は不安定動脈硬化プラークを形成する動脈硬化症の良好なモデル動物とし得ることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明はノックアウト動物の分野に属し、不安定動脈硬化プラークを形成する動脈硬化症の良好なモデル動物として、不安定動脈硬化プラークに起因する動脈硬化性疾患の発症機構の実験系、ならびに、動脈硬化性疾患の予防薬剤および治療薬剤のスクリーニング系を提供することができる。また、かかるノックアウト動物の組織および細胞は、不安定動脈硬化プラークの形成に関与していることが間接的に立証されたMMP活性を測定することにより、薬剤のイン・ビトロ(in vitro)のスクリーニングに使用することができる。
【配列表フリ−テキスト】
【0039】
SEQ ID NO: 1
Primer used for a polymerase chain reaction of a targeted timp-3 gene.
SEQ ID NO: 2
Primer used for a polymerase chain reaction of a targeted timp-3 gene.
SEQ ID NO: 3
Primer used for a polymerase chain reaction of a targeted timp-3 gene.
SEQ ID NO: 4
Primer used for a polymerase chain reaction of a targeted timp-3 gene.
SEQ ID NO: 5
Primer used for a polymerase chain reaction of a targeted timp-3 gene.
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1はTimp−3ノックアウト動物作製における、ゲノムTimp−3エキソン1の欠損を生成する工程を示した図(A)、ターゲティングベクターとの相同組換えが生じてES細胞ゲノムのTimp−3エキソン1が欠損したことを示すサザンブロット(B)、およびノックアウト動物におけるTimp−3およびグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現を示すノザンブロット(C)である。
【図2】図2は作製したTimp−3遺伝子ノックアウトマウスの遺伝子型を示すゲル電気泳動図である。
【図3】図3は野生型マウスとTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスの外観を示す図である。
【図4】図4は高脂肪食負荷したApoE遺伝子ノックアウトマウスおよびTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスの血中コレステロール濃度の推移を示す図である。
【図5】図5は高脂肪食負荷したApoE遺伝子ノックアウトマウスおよびTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスの体重の推移を示す図である。
【図6】図6は高脂肪食負荷後のApoE遺伝子ノックアウトマウスおよびTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスにおける動脈硬化プラーク面積率(%)を示す図である。
【図7】図7は高脂肪食負荷後のApoE遺伝子ノックアウトマウスおよびTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスにおける動脈硬化プラーク数を示す図である。
【図8】図8は高脂肪食負荷後のApoE遺伝子ノックアウトマウスおよびTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスにおける動脈硬化プラーク線維性被膜の顕微鏡写真である。
【図9】図9は高脂肪食負荷後のApoE遺伝子ノックアウトマウスおよびTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスにおける血管中膜弾性板の顕微鏡写真である。
【図10】図10は高脂肪食負荷後のApoE遺伝子ノックアウトマウスおよびTimp−3/ApoE遺伝子ダブルノックアウトマウスにおける血管中膜弾性板の破綻数を示す図である。
【出願人】 【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
【識別番号】599125249
【氏名又は名称】学校法人武庫川学院
【識別番号】801000061
【氏名又は名称】財団法人大阪産業振興機構
【出願日】 平成18年8月10日(2006.8.10)
【代理人】 【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄

【識別番号】100106231
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 正樹


【公開番号】 特開2008−35839(P2008−35839A)
【公開日】 平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願番号】 特願2006−218455(P2006−218455)