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【発明の名称】 プロトカドヘリンαを用いた精神神経疾患モデル動物およびその利用
【発明者】 【氏名】八木 健

【氏名】福田 絵美

【氏名】濱田 俊

【要約】 【課題】精神神経疾患と脳神経系で発現する多様化膜蛋白、詳細にはプロトカドヘリンαとの関連性を明らかにし、精神神経疾患の治療薬や予防薬の新規スクリーニング方法を開発する。

【構成】プロトカドヘリンα遺伝子の機能が破壊された、ヒトを除く哺乳動物;ならびにそれを用いる精神神経疾患の治療物質のスクリーニング方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトカドヘリンα遺伝子の機能が破壊された、ヒトを除く哺乳動物。
【請求項2】
マウスである請求項1記載の動物。
【請求項3】
プロトカドヘリンα遺伝子がノックダウンまたはノックアウトされた請求項1または2記載の動物。
【請求項4】
精神神経疾患の治療物質をスクリーニングする方法であって、
請求項1〜3のいずれか1項記載の動物に候補物質を与え、
候補物質を与えられた動物の行動と、候補物質を与えていない動物の行動とを比較する
ことを特徴とし、候補薬剤を与えられた動物における行動異常が軽減または消失した場合に該候補薬剤を精神神経疾患の治療物質と認定する、方法、
【請求項5】
該精神神経疾患が統合失調症である請求項4記載の方法。
【請求項6】
該動物がマウスである請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
該動物がプロトカドヘリンα遺伝子をノックダウンまたはノックアウトされたものである請求項4〜6記載の方法。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項記載の方法により得ることのできる精神神経疾患の治療物質。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な精神神経疾患モデル動物およびその使用に関する。詳細には、プロトカドヘリンα遺伝子の機能が破壊されたヒトを除く哺乳動物およびそれを用いた精神神経疾患の治療物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症などの精神神経疾患は、脳神経系で発現する多様化膜蛋白と深く関わっていることが知られている。そして、いずれの蛋白の発現がどのような精神神経疾患に関連しているのかについて研究が進められている。しかしながら、明確なデータを得ることは困難であり、これらの蛋白と精神神経疾患との関連性は、特定の事例に限って示唆されているにすぎない。
【0003】
脳神経系で発現する多様化膜蛋白のうち、ヒトのプロトカドヘリンαにつていては、多くのアミノ酸配列置換を伴う1塩基多型(非特許文献1参照)、ならびにハプロタイプや欠失が認められており、ヒトの精神神経疾患への関与も示唆されている。しかしながら、プロトカドヘリンαと精神神経疾患との関連性に関して、プロトカドヘリンα遺伝子の機能を破壊した動物、特にノックダウンマウスやノックアウトマウスを用いた確実な研究結果は得られていなかった。
【非特許文献1】Miki R, et al: Gene (2005) 349: 1-14
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
精神神経疾患と脳神経系で発現する多様化膜蛋白、詳細にはプロトカドヘドリンαとの関連性を明らかにし、精神神経疾患の治療薬や予防薬の新規スクリーニング方法を開発することが本発明の課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記事情に鑑みて、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、プロトカドヘドリンα遺伝子機能を破壊した動物を作製し、その行動について解析したところ、情動性、学習性、統合脳機能に関わる異常を認め、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、精神神経疾患のモデル動物が提供され、それを用いた精神神経疾患の治療物質のスクリーニングを行うことができ、それにより統合失調症などの精神神経疾患の治療物質を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
上述のごとく、本発明者らは、プロトカドヘドリンα遺伝子の機能を破壊した動物が情動性、学習性、統合脳機能に関わる異常を有することを認め、かかる動物を用いた統合失調症などの精神神経疾患の治療物質をスクリーニングする系を開発することができた。
【0008】
したがって、本発明は下記のものを提供する:
(1)プロトカドヘリンα遺伝子の機能が破壊された、ヒトを除く哺乳動物、
(2)マウスである(1)記載の動物、
(3)プロトカドヘリンα遺伝子がノックダウンまたはノックアウトされた(1)または(2)記載の動物、
(4)精神神経疾患の治療物質をスクリーニングする方法であって、
(1)〜(3)のいずれかに記載の動物に候補物質を与え、
候補物質を与えられた動物の行動と、候補物質を与えていない動物の行動とを比較する
ことを特徴とし、候補薬剤を与えられた動物における行動異常が軽減または消失した場合に該候補薬剤を精神神経疾患の治療物質と認定する、方法、
(5)該精神神経疾患が統合失調症である(4)記載の方法、
(6)該動物がマウスである(4)または(5)記載の方法、
(7)該動物がプロトカドヘリンα遺伝子をノックダウンまたはノックアウトされたものである(4)〜(6)記載の方法、ならびに
(8)(4)〜(7)のいずれかに記載の方法により得ることのできる精神神経疾患の治療物質
【0009】
本発明は、第1の態様において、プロトカドヘリンα遺伝子の機能が破壊された、ヒトを除く哺乳動物を提供する。本発明のプロトカドヘリンα遺伝子機能が破壊された動物(以下、「本発明の動物」と称することがある)は哺乳動物であればいずれの動物であってもよく、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サル、ヤギ、ヒツジ、ブタ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどが例示される。好ましくは齧歯動物である。とりわけ実験データの豊富なマウスが本発明の動物として好ましい。ただし、ヒトは本発明の動物から除外される。
【0010】
本発明の動物には、プロトカドヘリンα遺伝子ノックダウン動物、プロトカドヘリンα遺伝子ノックアウト動物、および発現産物たるプロトカドヘリンα蛋白の活性が低下または消失している動物が包含される。
【0011】
本発明のプロトカドヘリンα遺伝子がノックダウンされた動物(以下、「本発明のノックダウン動物」と称することがある)は、プロトカドヘリンα遺伝子の機能が部分的に破壊されて、プロトカドヘリンα遺伝子の発現が正常個体と比較して減少している動物をいう。本発明の好ましいノックダウン動物は、プロトカドヘリンα遺伝子の発現が正常個体の50%以下、さらに好ましくは20%以下の動物である。
【0012】
本発明のプロトカドヘリンα遺伝子がノックアウトされた動物(以下、「本発明のノックアウト動物」と称することがある)は、プロトカドヘリンα遺伝子の機能が破壊されて、プロトカドヘリンα遺伝子の発現が消失している動物をいう。
【0013】
本発明の、発現産物たるプロトカドヘリンα蛋白の活性が正常個体と比較して低下している動物(以下、「本発明の活性低下動物」と称することがある)は、好ましくはプロトカドヘリンα蛋白の活性が正常個体の50%以下に、さらに好ましくは20%以下に低下している動物であり、特に好ましくは発現した蛋白からプロトカドヘリンα活性が消失している動物である。
【0014】
本発明においてはノックアウト動物、ノックダウン動物、活性低下動物のいずれを用いても同様の結果が得られるので、いずれを用いてもよいが、好ましくはノックダウン動物またはノックアウト動物を用いる。ノックアウト動物はプロトカドヘリンα遺伝子の発現が消失しているので、より明確な実験結果を得ることができ、精神神経疾患のモデル動物として、あるいは精神神経疾患の治療薬や予防薬のスクリーニングにおいて非常に有用である。
【0015】
本発明の動物を得るためには、プロトカドヘリンα遺伝子の機能を破壊すればよい。遺伝子機能を破壊するための様々な方法が公知である。これらの方法は、ゲノム自体を改変する方法であってもよく、転写を抑制する方法であってもよく、転写後に抑制する方法であってもよく、スプライシングを抑制する方法であってもよく、あるいは翻訳または翻訳後修飾を抑制する方法であってもよい。さらにプロトカドヘリンα蛋白のアミノ酸配列に変異をもたらして活性を低下または消失させる方法であってもよい。遺伝子機能の破壊様式(ノックアウト、ノックダウン、あるいは産物たる蛋白に変異を導入など)、動物の種類、実験目的、その他の要因に応じて、当業者は適宜、遺伝子機能破壊方法を選択して適用することができる。
【0016】
本発明のノックアウト動物の作製方法としては相同組換え法が一般的である。一般的な相同組換え法の概略は以下のとおりである。先ず、相同組換えのためのターゲティングベクターを作製する。ターゲティングベクターは、市販プラスミドにプロトカドヘリンα遺伝子ゲノムDNAフラグメント、ポジティブおよびネガティブセレクションマーカー遺伝子等を公知方法により組み込むことによって作製することができる。次に、ターゲティングベクターを全能性細胞(例えばES細胞)に導入する。ターゲティングベクターの細胞への導入は公知の方法を用いて行うことができ、エレクトロポレーション法がよく用いられる。ベクター導入後細胞を培養し、ポジティブ−ネガティブマーカー選択法、所望によりサザンブロッティング法などにより目的の相同組換えが起こっている細胞を選択する。選択された細胞を胚盤胞に導入する。次いで、胚盤胞を仮親に移植し、生まれた動物を野生型動物と交配させて第1世代(ヘテロ個体)を得て、これらをさらに交配させて第2世代(ホモ個体)を得ることができる。通常は、このようにして得られた第2世代の動物を本発明のノックアウト動物として使用する。上記操作は公知方法を用いて行うことができる。ノックアウト動物の作製効率を向上させるために、ノックアウトマウスを作製する際にテトラサイクリンやCre−LoxPを用いた条件つき遺伝子ターゲティングなどの手法を取り入れてもよい。本発明のノックアウト動物を作製するための他の方法としては、RNAインヒビターを用いた方法、タンパク質機能をドミナントネガティブに調節するタンパク質を発現させる方法などが挙げられる。
【0017】
本発明のノックダウン動物もまた、公知の方法を用いて作製することができる。上記のような相同組換え法を適用してもよい。また、RNAi法をもちいてもよく、例えばSiRNAをレトロウイルスベクターやアデノウイルスベクターに組み込んで動物に導入することにより本発明のノックダウン動物を得てもよい。その他、プロトカドヘリンα遺伝子の発現を抑制するような変異(例えば定常領域を欠損した細胞外領域、定常領域のみ)を導入したトランスジェニック動物を作製することによっても本発明のノックダウン動物を得ることができる。
【0018】
得られた本発明のノックアウト動物およびノックダウン動物は、その組織から得た試料についてサザンブロッティング等の方法を適用して、プロトカドヘリンα遺伝子の発現の抑制または消失を確認することができる。
【0019】
本発明の活性低下動物の作製もまた、公知の方法により行うことができる。例えば、突然変異を誘発させた動物の選別などの方法により本発明の活性低下動物を得ることができる。
【0020】
本発明の動物は、種々の精神神経疾患の症状あるいはそれに類似した挙動および症状を示す。本発明の動物は、特に、統合失調症において見られる症状またはそれらに類似した症状を示す。すなわち、情動性、学習性、統合脳機能に関わる異常などが見られる。それゆえ本発明の動物は種々の精神神経疾患、特に統合失調症のモデル動物として有用である。本発明の動物はヒトの病態モデルとして用いることができる。本発明の動物の行動は一定の試験条件下で正常個体と異なるものである。精神神経疾患、特に統合失調症および類似疾患を有する動物の行動を試験する方法は様々であるが、例えば、プレパルスインヒビション試験(Prepulse Inhibition (PPI)試験)、恐怖条件付け学習試験などの公知の試験において行動異常を確認することができる。
【0021】
本発明の動物が種々の精神神経疾患の症状あるいはそれに類似した挙動および症状を示すことから、これらの疾患の治療物質のスクリーニングにも使用することができる。したがって、本発明は、第2の態様において、精神神経疾患の治療物質をスクリーニングする方法を提供する。典型的な本発明のスクリーニング方法は、本発明の動物に候補物質を与え、次いで、候補物質を与えられた動物の行動と、候補物質を与えていない動物の行動とを比較することを特徴とする。具体的には、情動性、学習性、統合脳機能に関わる異常などの改善または正常化が起こるか否かを調べる。そして、候補薬剤を与えられた動物における行動異常が軽減または消失した場合に該候補物質を精神神経疾患の治療物質と認定するものである。
【0022】
上記スクリーニング方法に使用する動物は本発明の動物であればいずれのものであってもよく、ノックダウン動物またはノックアウト動物が好ましい。実験結果が明確であることから、本発明のノックアウト動物を用いることが好ましい。また、過去の実験データが十分に蓄積されていること等を考慮すると、マウスを用いることが好ましい。
【0023】
上記スクリーニング方法における動物の行動の解析は公知の方法を用いて行うことができ、例えば、プレパルスインヒビション試験(Prepulse Inhibition (PPI) Test)、恐怖条件付け学習試験などを用いて行うことができる。
【0024】
本発明は、さらなる態様において、上記スクリーニングにより得ることのできる精神神経疾患の治療物質も提供する。本発明のスクリーニング方法により精神神経疾患の治療物質と認定された物質は、とりわけ統合失調症の治療に有効である。また、本発明のスクリーニング方法により精神神経疾患の治療物質と認定された物質は、精神神経疾患の治療効果のみならず予防効果も期待される。上記スクリーニングにより得ることのできる精神神経疾患の治療物質はヒトにおいても効果を示し得る。
【0025】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例はあくまでも例示説明であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0026】
本発明のノックダウン動物およびノックアウト動物の作製
マウスES細胞株(TT2株)を用いて、相同遺伝子組み換え法によりプロトカドヘリンα遺伝子クラスター中の共通領域エクソンに、loxP配列をネオマイシン耐性遺伝子カセットとともに導入した(図1の上パネル参照)。導入に用いたベクターの構造を図1の上パネルのTargeting vectorとして示す。ネオマイシン耐性を選択マーカーとして相同組み換えES細胞株を選択し、これを正常マウス胚に移植し、キメラマウスを作製した。得られたキメラマウスを交配することにより遺伝子変換マウスを作製した。この遺伝子変換マウスにおいて、プロトカドヘリンα遺伝子の発現が正常個体の約20%にまで減少しており、このマウス系統を遺伝子ノックダウンマウスとして系統化した。得られたノックダウンマウスのゲノム構造を図1の下パネル(ΔB)に示す。また、このノックダウンマウスと別の遺伝子変換マウス(G1マウス)(そのゲノム構造を図1の下パネル(G1)に示す)を用い、Cre組換え酵素を用いて、プロトカドヘリンα遺伝子クラスターの共通領域をすべて欠失させた遺伝子を欠失したマウスを作製し、遺伝子ノックアウトマウスとして系統化した。得られたノックアウトマウスのゲノム構造を図1の下パネル(ΔCP/ΔCP)に示す。これらのノックダウンマウスおよびノックアウトマウスを用いて、以下の実施例に示すような行動異常解析、組織化学的解析等を行ってヒト精神神経疾患に関連性のある異常を確認した。
なお、この実験に使用したG1マウスは以下のようにして作製した。マウスES細胞(TT2株)を用いて、相同遺伝子組み換え法によりプロトカドヘリンα遺伝子クラスターの共通領域エクソン前の共通第1イントロンに、loxP配列をネオマイシン耐性遺伝子カセットとともに導入した。ネオマイシン耐性を選択マーカーとして相同組み換えES細胞株を選択し、正常マウス胚に移植してキメラマウスを得、交配により遺伝子変換マウス(G1マウス)を得た。
【実施例2】
【0027】
本発明のノックダウン動物のプロトカドヘリンα蛋白の発現解析
実施例1で得られたノックダウンマウスのプロトカドヘリンα蛋白の発現を、ウエスタンブロット解析および免疫沈降法によって調べた。実験方法は下記のとおりであった。
【0028】
ウエスタンブロット解析
タンパク質は各遺伝子型の1ヶ月令マウスの小脳または海馬から調整した。実体顕微鏡下で脳から小脳および海馬を分離後、氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で血液を除去し、直ちに液体窒素に入れ、急速凍結した。凍結した小脳または海馬の入っているチューブに、試料重量の10倍量のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)用サンプルバッファーを加え均質化後、20400×g、20分間室温で遠心分離して上清を回収した。蛋白質濃度を定量(BCAプロテインアッセイ、PIERCE社)後、2−メルカトルエタノール(最終濃度2%)とBPB(最終濃度0.1%)を加え、98℃5分間の熱処理を行い、これをSDS−PAGE試料とした。30μgのタンパク質可溶化液を7.5%のSDS−アクリルアミドゲルに展開し、ニトルセルロース膜(Schleicher&Schuell)に電気的に転写した。その後、ブロッキング液(10%スキムミルクを含むPBS−T(PBSに0.2%のTritonX−100を含む))で2時間室温ないし一晩4℃でブロッキングした。ブロッキングしたニトロセルロース膜をPBS−Tで5分3回洗浄した後、CNRの定常領域を認識する抗体(CNR1CP)を用いて1時間室温で抗体反応した。PBS−Tで5分3回の洗浄後、二次抗体(各一次抗体に対するHRP標識抗体)を30分間室温で反応させた。PBS−Tで5分3回の洗浄後、ECL化学発光法(Amersham)を用いて免疫陽性バンドを検出した。
【0029】
免疫沈降法
免疫沈降用のサンプルは各遺伝子型の10日令マウスの脳から調整した。脳摘出後、氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で血液を除去し、直ちに液体窒素により凍結した。脳重量の10倍量のRIPA(10mM Tris−Hcl pH7.5,150mM Nacl,5mM EDTA,1% Tritonx−100,1% DOC,0.1% SDS)にタンパク分解阻害剤(0.03% leupeptin,0.1% aprotinin,0.5% PMSF)を加えた液で懸濁し、ローテーターで10分間4℃で撹拌した。この懸濁液を9100×g、20分間4℃で遠心分離し上清を回収した。非特異的な免疫沈降物を除くため、PBSで平衡化したプロテインGセファロース(Amersham)を各チューブにつき20μl加え、ローテーターで30分間4℃で撹拌した後、800×g、1分間4℃で遠心分離し上清を回収した。この懸濁液にCNRのすべてのスプライシングバリアントを認識する抗体CNR−1Nを加え、ローテーターで1時間4℃で撹拌した後、プロテインGを各チューブにつき20μl加えさらに2時間4℃で撹拌した後800×g、1分間4℃で遠心分離し上清を除いた。氷冷RIPAで5分間3回洗浄後、30μlのSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)用サンプルバッファーを加え98℃5分間熱処理し、これを免疫沈降法サンプルとした。上記の方法と同様、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で展開後、ニトルセルロース膜に電気的に転写した。CNR−B型タンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体(1F4)を使用し、CNR−B型タンパク質の有無を検討した。
【0030】
図2(a)に示すように、ノックダウンマウスはプロトカドヘリン蛋白(116kD)が正常個体の約20%にまで減少していることがわかった。さらに図2(b)に示すように、ノックダウンマウスでは116kDのスポットが確認されなかった。実施例1で得られたノックアウトマウスについてもノックダウンマウスの場合と同様にしてプロトカドヘリンα蛋白発現を調べたが、発現は検知されなかった。
【実施例3】
【0031】
本発明のノックダウン動物およびノックアウト動物のPPI試験における挙動
マウスをプラスチックの円柱の実験箱に入れ、5分後に実験を開始した。驚愕刺激(startle stimulus)はすべてのテストにおいて、40ミリ秒にした。バックグラウンドとして、各チャンバーには70dBのノイズを使用した。驚愕反応(startle response)の振幅は、プレパルス刺激が開始してから160ミリ秒間記録され、その間最も振幅の大きい値をピーク驚愕反応値とした。驚愕刺激音は110dBまたは120dBに設定した。プレパルス音は74、78、82dBで、驚愕刺激音の100ミリ秒前に表示された。1試行中、驚愕刺激音とプレパルス音の6つの組み合わせ(74−110、78−110、82−110、74−120、78−120、82−120dB)は6回繰り返され、平均15秒の間隔を空け、ランダムな順番に表示された。
【0032】
プロトカドヘリンαノックダウンマウスの結果及びプロトカドヘリンαノックアウトマウスの結果を、それぞれ図3および図4に示す。プロトカドヘリンαノックダウンマウスでは78−110、82−110、74−120dBにおいて、またプロトカドヘリンαノックアウトマウスでは82−110、74−120、78−120、82−120dBにおいて驚愕反応抑制率(prepulse inhibition)が野生型に比べ有意に減少していることが認められた。
【実施例4】
【0033】
本発明のノックダウン動物およびノックアウト動物の恐怖条件付け学習課題における挙動
この実験では2つの実験箱を準備した。実験箱1は1辺が10.5cmの透明のアクリルでできた立方体で、底面には直径2mmのステンレス製グリッドが5mm間隔で配置され、被検体に電気ショックを与えることができた。また実験箱2(altered context用)は半透明のアクリルでできた1辺が10.5cmの立方体で、底にはチップを敷き詰めた。
【0034】
1日目、トレーニングを行った。被検体を実験箱1に入れ、2分間自由に探索させた。2分後70dBの音を30秒間ならし、最後の2秒間で0.35mAのフットショックを与えた。この音と電気ショックの組み合わせを2分の間隔で2回被検体に与えた。トレーニングから24時間後、contextualテストを行った。被検体をトレーニングと同じ実験箱1に入れ、体を硬直させる、フリージング(freezing)の割合を5分間測定した。またcontextualテストの1時間後、cuedテストを行った。cuedテストでは被検体を実験箱2に入れ、3分間後にトレーニングのときにならした70dBの音を聞かせたときのフリージングの割合を画像処理により測定した。
【0035】
プロトカドヘリンαノックダウンマウスの結果及びプロトカドヘリンαノックアウトマウスの結果を、それぞれ図5および図6に示す。24時間後のcontextualテストではプロトカドヘリンαノックダウンマウス及びプロトカドヘリンαノックアウトマウスでフリージングの割合が野生型に比べて有意に亢進していた(ノックダウンマウスのcontextualテストにてp<0.05)。トレーニングでは各遺伝子間で有意差は認められなかった。cuedテストでは音を聞かせる前後でプロトカドヘリンαノックダウンマウスでは各遺伝子間でフリージングに有意な差は見られなかった。一方、プロトカドヘリンαノックアウトマウスではcuedテストにおいて音を聞かせたときのフリージングが有意に亢進していた(p<0.01)。これらの結果は実験箱1および2において同傾向であった。
【0036】
異常の実施例で示したように、本発明の動物は、精神神経疾患の症状あるいはそれに類似した挙動および症状(情動性、学習性、統合脳機能に関わる異常など)を示し、
【実施例5】
【0037】
本発明のノックダウン動物における抗精神薬(ハロペリドール)の効果
本発明の動物を用いた精神神経疾患の治療物質のスクリーニング系の有効性を確認するために、公知の抗精神薬を用いてモデル試験系を構築した。具体的には試験開始30分前にハロペリドールを動物に腹腔内投与し、実施例2と同じ手順でPPI試験を行った。
【0038】
図7に結果を示す。ハロペリドール投与により、本発明のノックダウンマウスの反応が野生型マウスの反応に近づくことがわかった。ハロペリドール0.05mg/kg投与群よりも0.1mg/kg投与群において、野生型マウスの反応に近づく傾向が見られた。これらの結果から、精神神経疾患の治療物質のスクリーニングに本発明の動物を使用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、精神神経疾患の研究分野、ならびに精神神経疾患の治療薬および予防薬の開発の分野等において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1の上パネルは、相同遺伝子組み換え法によりプロトカドヘリンα遺伝子クラスター中の共通領域エクソンに、loxP配列をネオマイシン耐性遺伝子カセットとともに導入したことを模式的に示す。図1の下パネルは、野生型マウスのゲノム構造(wild-type)、およびG1マウスの遺伝子変換されたゲノム構造(G1)、本発明のノックダウンマウスの遺伝子変換されたゲノム構造(ΔB)、および本発明のノックアウトマウスの遺伝子変換されたゲノム構造(ΔCP/ΔCP)を示す。
【図2】図2は、本発明のノックダウンマウスのプロトカドヘリンα蛋白の発現を解析した結果である。(a)はウエスタンブロット解析法による解析結果、(b)は免疫沈降法による解析結果を示す。wtは野生型マウス、+/−はヘテロ型マウス、−/−はホモ型マウスを示す。
【図3】図3は、本発明のノックダウンマウスのPPI試験における異常を示すグラフである。パネルAはパルス音レベルに対する驚愕反応の振幅、パネルBはプレパルス音レベルに対するプレパルスインヒビション(%)を示す。
【図4】図3は、本発明のノックアウトマウスのPPI試験における異常を示すグラフである。パネルAはパルス音レベルに対する驚愕反応の振幅、パネルBはパルス音レベルに対するプレパルスインヒビション(%)を示す。
【図5】本発明のノックダウンマウスの恐怖条件付け学習課題における挙動を示す図である。左パネルはcontextual testの結果、右パネルはcued testの結果である。
【図6】本発明のノックアウトマウスの恐怖条件付け学習課題における挙動を示す図である。左パネルはcontextual testの結果、右パネルはcued testの結果である。
【図7】本発明のノックダウンマウスに対するハロペリドールの効果をPPI試験にて調べた結果を示す図である。パネルAは驚愕刺激音110dB、パネルBは驚愕刺激音120dBにおけるハロペリドール投与量と驚愕反応の振幅との関係を示す。パネルCはハロペリドール投与量とプレパルス音レベルに対するプレパルスインヒビション(%)を示す。
【出願人】 【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
【出願日】 平成18年7月18日(2006.7.18)
【代理人】 【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄

【識別番号】100116311
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 忠行

【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史


【公開番号】 特開2008−22714(P2008−22714A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2006−195401(P2006−195401)