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【発明の名称】 植物栽培用器具および植物栽培方法
【発明者】 【氏名】岡本 昭弘

【氏名】渕 元二

【氏名】新崎 光彦

【氏名】坂巻 秀男

【氏名】藤井 学

【氏名】森 有一

【要約】 【課題】植物が必要とする酸素と養液(水と養分)を別々のルートによって植物に供給することが可能な植物栽培用器具、および植物栽培方法を提供する。

【構成】であって;
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であって;
該器具が養液を収容するリザーバと該リザーバ中の養液上に配置されたフィルムとを少なくとも含み;
該フィルムの少なくとも一部が植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性であり、且つ、
該無孔性親水性フィルムが、前記植物体の生長に実質的に起因して、該植物体の根により貫通し得るフィルムであることを特徴とする植物栽培用器具。
【請求項2】
前記フィルムが、植物を7〜55日間栽培したときに少なくともフィルムの1箇所に根の貫通が認められるフィルムである請求項1に記載の植物栽培用器具。
【請求項3】
根がフィルムを貫通してから少なくとも5日以上の間、フィルムの上の培地に対して、養液が実質的に浸透しないフィルムである請求項1または2に記載の植物栽培用器具。
【請求項4】
前記フィルムが、該フィルムを介して水と塩水とを対向して接触させた際に、測定開始後4日目(96時間)の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下のフィルムである請求項1〜3に記載の植物栽培用器具。
【請求項5】
前記フィルムが、該フィルムを介して水とグルコース溶液とを対向して接触させた際に、測定開始後3日目(72時間)の水/グルコース溶液の濃度(Brix%)の差が4以下のフィルムである請求項1〜4に記載の植物栽培用器具。
【請求項6】
前記フィルムが、該フィルムの内側(水に対向する面の反対側)に植物体を配置して栽培を開始した35日後に、前記植物体の根に対して10g以上の剥離強度を示すフィルムである請求項1〜5のいずれかに記載の植物栽培用器具。
【請求項7】
前記フィルムが、耐水圧として10cm以上の水不透性を有する請求項1〜6のいずれかに記載の植物栽培用器具。
【請求項8】
栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であって;該器具が養液を収容するリザーバと該リザーバ中の養液上に配置すべきフィルムとを少なくとも含み;
該フィルムの少なくとも一部が、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムであり、且つ、該無孔性親水性フィルムが、前記植物体の生長に実質的に起因して、該植物体の根によって貫通し得るフィルムである器具を用い;
該器具中に植物体を配置し、肥料成分および/あるいは有用物質を含む養液を、少なくとも前記フィルムを介して接触させつつ、前記植物体を栽培することを特徴とする植物栽培方法。
【請求項9】
前記植物体とフィルムとの間に、植物保持用支持体を配置する請求項8に記載の植物栽培方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培用器具および植物栽培方法に関する。より詳しくは、栽培すべき植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルム(以下、「フィルム」と略す)を有し、且つ、該フィルムが前記植物体の生長に実質的に起因して、該植物体の根により貫通し得るフィルムである植物栽培用器具、および該植物栽培用器具を用いた植物栽培方法に関する。
【0002】
本発明による植物栽培用器具による栽培では、植物の根の多数はフィルムの上にあって空気中の酸素を摂取でき、一部の根がフィルムを貫通してフィルムの下側にある養液から水と養分を摂取できる。即ち、植物は温度、照度などの環境条件に合わせて、水、養分、空気を自分自身で摂取することができ、従来の植物栽培では必須の水やり、養分の調整といった、複雑で、且つ手間がかかる操作が不要になる。該フィルムを貫通した根は、該フィルムの貫通部に密着していて、貫通部を通して、養液がフィルム上に浸透することがなく、且つ該養液は容器とフィルムで密閉されているため、外部より細菌類、空気などが入りにくく、養液の腐敗が抑制される。
【0003】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、下記のような追加的利点をも得ることができる。
(1)植物栽培に使用する養液量を極めて少なくすることが容易であるため、養液の加温あるいは冷却を、極めて容易にかつ低コストで行なうことができる。
(2)本発明の植物栽培用器具を用いることにより、通常は、養液が断熱材料で密封された状態に置かれることとなるため、加温または冷却の効率を極めて大きくすることが容易である。
(3)通常は、腐敗性が高く、且つ高価格であるため、植物栽培に使用し難い、糖類、アミノ酸、有機酸などの有用物質を使用した場合であっても、これらの有用物質を実質的に腐敗させることなく、栽培に利用できる。又、該有用物質を加えるべき養液量が極めて少ないため、高価格の該有用物質を少量使用したとしても、植物栽培に極めて高い効果を発揮させることができる。
(4)本発明の植物栽培用器具を用いることにより、栽培すべき植物が、水分、養分、空気などを最適の条件で摂取できるため、該植物を高品質化することが容易になる。
【背景技術】
【0004】
養液栽培の種類には、水耕(たん液式、NFT)、固形培地方式(砂耕、れき耕、ロックウール耕)、噴霧などがあり、それぞれの方式には利点と欠点がある(これらの各方式の詳細、利害得失、等、に関しては、例えば文献「養液栽培の新マニュアル」編者:(社)日本施設園芸協会、28〜135頁、発行所:(株)誠文堂新光社、発行:2002年7月を参照することができる)。
【0005】
養液栽培では、水に溶解した肥料成分を植物の根が直接に水とともに吸収して生育するが、同時に根の呼吸のために酸素が必要である。一般的には水中の溶存酸素として供給するが、養液を多量に循環させながら溶存酸素を供給する必要があり、設備費も高くなる。そのため、様々な工夫が行われており多くの栽培方式が検討されてきた。養液を流動させながら養液中に酸素を吹き込み、溶存酸素を高める方法(たん液式)、多孔性培地を使用し、根に酸素を供給する方式(固形培地方式)、養液を霧状にして根にかけて酸素を供給する噴霧耕などがある。一方、養液を静置した状態で、酸素を供給する方法として、毛管水耕と呼ばれる毛管吸収性の高い材質(ポリエステル繊維の綿や不織布、ウレタンなどのシート、ロックウールやピートなど)の端を養液中に浸して毛管現象で吸い上げさせ根に供給することで根を常に空気に触れさせる方法、また、パッシブ水耕とよばれ、固形培地を柱状にし、その下方を養液で満たし、養液の水位が下がるにつれ根が空中に曝され酸素が根に供給される方法などが行われている。
【0006】
【非特許文献1】「養液栽培の新マニュアル」編者:(社)日本施設園芸協会、(株)誠文堂新光社、2002年7月発行
【0007】
上記した各方式の養液栽培システムに共通する弱点は、高額な初期導入コスト、ランニングコストおよび酸素供給の困難さである。植物に対する酸素の供給は最も重要な要件であり、特に、高温時には根の呼吸が高まって酸素要求量が増すのに対して、溶存酸素濃度は低くなるので、酸素欠乏症に陥り易い。酸素不足が発生すると「根づまり」と称される現象が生じ、その結果、根が腐敗し、アンモニアが発生し、養液のpHが上昇し始める。従来の水耕栽培の場合には、酸素を溶解した養液を植物の根に効率良く接触させるために養液を循環させる必要がある。これがコストの増大につながる傾向がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消した植物栽培用器具、および植物栽培方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、植物が必要とする酸素と養液(水と養分)を別々のルートによって植物に供給することが可能な植物栽培用器具、および植物栽培方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、植物の根の一部が大気中に充分ある酸素を摂取し、該根の他の部分が水と養分を養液側から摂取するという、極めて低コストの植物栽培用器具、および栽培方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、従来技術では実現が困難であった、糖類、アミノ酸類、あるいは有機酸類などの植物にとって有用な物質を植物に供給することが出来る植物用栽培器具、および栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究の結果、無孔性親水性フィルムが、植物の根と実質的に一体化するという全く新たな現象を見出した。
【0013】
本発明者らは、このような知見に基づいて更に研究を進めた結果、フィルムと実質的に一体化した植物の根が、フィルムを介して、養液(肥料成分を含む液体)中の養分(肥料成分)および水を摂取すると同時に、大気中から直接、酸素を摂取して、植物が生長する事を見出した。更に研究を進めたところ、植物の種類あるいは生長の度合で、該フィルムを介して摂取する水あるいは肥料成分が不足する事態に陥ると、植物の根の一部が該フィルムを貫通し養液中に伸長し、直接、養液中から水と肥料成分を吸収し生長する事を見出した。更に研究を進めたところ、植物の根による該フィルムの貫通部分において根とフィルムが強固に密着していて、養液が該貫通部分を通じてフィルム上に浸透することが防止される事が見出された。
【0014】
本発明の植物栽培用器具は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であって;該器具が養液を収容するリザーバと該リザーバ中の養液上に配置されたフィルムとを少なくとも含み;該フィルムの少なくとも一部が植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性であり、且つ、該無孔性親水性フィルムが、前記植物体の生長に実質的に起因して、該植物体の根により貫通し得るフィルムであることを特徴とするものである。
【0015】
本発明によれば更に、栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であって;該器具が養液を収容するリザーバと該リザーバ中の養液上に配置されたフィルムから成っていて;該フィルムが該植物体の根と実質的に一体化し、かつ実質的に植物生長によって根が貫通し得る無孔性親水性フィルムであることを特徴とする植物栽培用器具を用い;該容器中に植物保持用支持体および植物体を配置し;肥料成分および/あるいは有用物質を含有する水を、少なくとも前記フィルムを介して接触させつつ、前記植物体を栽培する植物栽培方法が提供される。
【0016】
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、植物は、酸素を大気中から直接、摂取すると同時に、フィルムの表面に根を密着させフィルム中に養液から溶け込んだ水および養分を吸収し生長する。該植物が生長するに従って水分と養分の摂取量が増大すると、該フィルム上にある根の一部が該フィルムを貫通し、養液中に伸長し直接、水と養分を吸収する。又、該貫通部分はフィルムと根が強固に密着していて、フィルム下にある養液が該フィルム上に移行することが防止されるために、該フィルム上にある未貫通の根は大気と直接、接触し、酸素を摂取する。すなわち、植物体に対する酸素供給と、水および肥料成分の供給とが好適に機能分離された状態を形成する。
【0017】
このため、本発明においては、植物が空気中の酸素を有効に利用することができ、従来の養液栽培では実現できなかった、溶存酸素の無い溜まり水状態の養液を用いて植物を栽培することができる。更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、植物の根の一部分が養液中に、他の部分は大気中にあるために、植物が必要とする水分、養分および空気を容易に摂取することができるため、植物の良好な生長性を保ちながら、該植物を高品質化することができる。
【0018】
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、養液は断熱材料およびフィルムにより囲まれ密封状態にある。不定蒸散する水も殆どなく、消費される水はフィルムを通じて植物が吸収する水および一部の根が養液から吸収する水、ならびにフィルムを通して水蒸気として蒸散する水である。更には、フィルム上に水蒸気を通さないマルチング部材(例えば、マルチングフィルムあるいは発泡ポリスチレンボードなど)で被覆することで、極めて水の消費を抑えることができる。
【0019】
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、養液は断熱された材料で囲まれており、養液中に1本以上のパイプを配置しパイプの中に加温あるいは冷却された水あるいは媒体を通すことにより、フィルムと一体化した根を効率的に加温あるいは冷却することができる。
【0020】
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、養液は密封された状態にあり外部から酸素が供給されず、養液中に溶存酸素が存在しないため、腐敗性のある糖類、アミノ酸類、あるいは有機酸類などの植物にとって有用な物質を腐敗させることなく、養液に添加し、該フィルムを通して植物に供給することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であって;該器具が養液を収容するリザーバと該リザーバ中の養液上に配置されたフィルムとを少なくとも含み;該フィルムの少なくとも一部が植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性であり、且つ、該無孔性親水性フィルムが、前記植物体の生長に実質的に起因して、該植物体の根により貫通し得るフィルムであることを特徴とする植物栽培用器具が提供される。
【0022】
本発明によれば、更に、栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であって;該器具が養液を収容するリザーバと該リザーバ中の養液上に配置すべきフィルムとを少なくとも含み;
該フィルムの少なくとも一部が、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムであり、且つ、該無孔性親水性フィルムが、前記植物体の生長に実質的に起因して、該植物体の根によって貫通し得るフィルムである器具を用い;
該器具中に植物体を配置し、肥料成分および/あるいは有用物質を含む養液を、少なくとも前記フィルムを介して接触させつつ、前記植物体を栽培することを特徴とする植物栽培方法が提供される。
【0023】
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、植物の一部の根が養液中に伸長し、養液から水と養分を吸収し、フィルム上にある根が直接、大気中から酸素を摂取するために、植物体に対する酸素供給のルートと水分、養分供給のルートを分離でき、溜まり水状態の養液を用いても充分な酸素量を根に供給できる。このため、植物はきわめて良好な生長性をしめす。
【0024】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、植物の根圏を極めて低コストで加温あるいは冷却することができる。
【0025】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、通常は腐敗性があるために使用出来ない、糖類、アミノ酸類、あるいは有機酸類など植物にとって有用な物質を植物に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0027】
(植物栽培用器具)
本発明の植物栽培用器具は、栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であり、該器具が養液を収容するリザーバと該リザーバ中の養液上に配置されたフィルムから成っていて、該フィルムが該植物体の根と実質的に一体化し、かつ実質的な植物の生長によって、該植物の根が貫通し得る無孔性親水性フィルムであることを特徴とする植物栽培用器具である。
【0028】
図1は、本発明の植物栽培用器具の基本的な一態様を示す模式断面図である。図1を参照して、この態様の植物栽培用器具1は、養液および植物体を収容するための収容部2を与える(画する)ためのリザーバ4と、リザーバ中の養液5と収容部2の底部に対応する位置(植物体の根が接触すべき部分)の少なくとも一部に配置されたフィルム3とを含む。該フィルム3は、植物体の根と実質的に一体化し、かつ実質的な植物の生長によって根が貫通し得る無孔性親水性フィルムからなる。
【0029】
図2は、図1に示す本発明の植物栽培用器具を用いて、植物体6を栽培する方法の一態様を示す模式断面図である。
【0030】
図2を参照して、植物体6が生長するに伴い、水分と養分が不足した時点で、該植物体6の根の一部7が該フィルム3の貫通部9で養液5中に侵入し、水分と養分を摂取する。一方、該フィルム3上にある根8は大気中から酸素を摂取する。即ち、本発明の植物栽培用器具を用いることによって、植物体6への水分/養分の供給ルートと酸素の供給ルートを分離することが可能になる。
【0031】
(根によるフィルムの貫通)
植物体6の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルム3を使用する栽培においては、一般的に、栽培初期で、植物体6が小さい時には、植物体6はフィルム3を介して水と養分を吸収し生長できるものの、栽培中期から後期になり、植物体6が大きくなると、フィルム3を介して摂取する水と養分量が不足する傾向が生じやすくなる。
【0032】
本発明においては、このような水と養分量が不足する傾向が生じた場合であっても、該植物体6の根の一部が該フィルム3を貫通して、フィルム3下の養液中に伸び、直接、水と養分を吸収し生長する。このように、栽培初期から後期にわたって植物体6が良好に生長するためには、栽培初期に植物体6の根をフィルム3上で充分に発達させ、フィルム3と一体化させることがポイントである。このフィルム3との一体化現象はフィルム3の貫通および貫通後の植物体の生長をも左右する。更に、栽培中期から後期にかけてフィルム3を介して供給される水分、養分が不足した時点で、根の一部がスムースに該フィルム3を貫通するためには、フィルム3強度を調整することが重要になる。
【0033】
(フィルム強度)
本発明者の知見によれば、該フィルム3の根による貫通現象はフィルム強度と関連し、フィルム3の膜厚とフィルム3の結晶化度の2つの因子に依存する傾向がある。したがって、本発明においては、膜厚を薄くすることと結晶化度を低下させることによって、根によるフィルム3の貫通をより容易にすることができる。フィルム厚さは、一般的には加熱下の延伸工程における延伸倍率で制御できる。また、フィルム3の結晶化度は、一般的には結晶融解温度以上に過熱した後の冷却速度でコントロールすることができる。栽培中期から後期にかけて、水と養分が不足した時点で、植物体6の根の一部がスムースに該フィルム3を破り、養液中に伸びるためには、このフィルム3膜厚と結晶化度の制御が重要である。
【0034】
実施例1にトマトの根によるフィルム3貫通までの期間をフィルム3の膜厚で制御した例を示す。実施例13にフィルム3をヒートシールすることによって、ヒートシール部が選択的に根によって破られることを示した。このような現象は、本発明者の知見によれば、ヒートシール部分はフィルム3の厚さが薄くなると同時に加熱後の急冷工程で結晶化度が低下していて強度が劣化しているためと考えられる。
【0035】
この実験データから、フィルム3の特定場所のフィルム強度を低下させることによって、植物体6の根が選択的に該場所でフィルム3を貫通するような仕組みにすることもできる。図23に示すように、フィルム3の特定場所(●印で示す)のみを加熱下に延伸することによって、フィルム3の厚さを低下させると同時に急冷工程で結晶化度を低下させることによって根が選択的に貫通できるようにフィルム3を加工することができる。
【0036】
(追加的な手段)
図2の態様においては、養液5を収容するリザーバの部材として、断熱性材料を使用することによって、養液5を加温または冷却する温度制御手段10(例えば、水または媒体を通すためのパイプ)の効果が著しく向上する。更に、必要に応じて、フィルム3の上に土壌などのマトリックス12および/又は、水蒸気を通さないか、または低透過性の蒸発抑制部材11(例えば、後述するマルチング材)を配置することができる。このように、蒸発抑制部材11および/またはマトリックス12を配置することにより、フィルムから大気中に蒸散する水蒸気の量を大幅に抑制することができ、養液使用量を削減すると同時に、該水蒸気がマトリックス12中に凝縮し、水として植物体6が利用できるというメリットがある。
【0037】
(栽培方法)
本発明においては、上記した構成を有する栽培用器具1を使用する限り、これと組み合わせて使用すべき栽培方法は、特に制限されない。本発明において好適に使用可能な栽培方法の態様を、以下に述べる。
【0038】
(好適な栽培方法)
図2の模式断面図を参照して、この態様においては、養液5の上にフィルム3が配置され、養液5がフィルム3に供給される。また、この態様においては、リザーバ4を形成する断熱材料で囲まれた養液5を、内部に配置したパイプ10の中に温水あるいは冷水を通すことによって、加温あるいは冷却することもできる。また、この態様においては、必要に応じて、フィルム3の上に土壌などのマトリックス12および/又は水蒸気透過を抑制する蒸発抑制部材11を配置することによって、フィルム3から大気中に蒸散する水蒸気の量を低下させ、養液量の使用量を削減することもできる。また、この両者を組合わせるにより、マトリックス12中に水蒸気を凝縮させ、水として植物体に供給させることもできる。
【0039】
(図24に対する記述)
図24の模式断面図を参照して、この態様においては、養液5の上にフロート部材13と揚水シート14を配置し、揚水シート14を介して養液5がフィルム3に供給される。また、この態様においては、リザーバ4を形成する断熱材料で囲まれた養液5を、内部に配置したパイプ10の中に温水あるいは冷水を通すことによって、加温あるいは冷却することもできる。また、この態様においては、必要に応じて、フィルム3の上に土壌などのマトリックス12および/又は水蒸気透過を抑制する蒸発抑制部材11を配置することによって、フィルム3から大気中に蒸散する水蒸気の量を低下させ、養液量の使用量を削減することもできる。また、この両者を組合わせるにより、マトリックス12中に水蒸気を凝縮させ、水として植物に供給させることもできる。また、マトリックス12に点滴チューブ15を配置して、点滴チューブ15より水または養液をマトリックス12に供給することもできる。
この図24における各記号の意味は、図1および2に示した以外は、以下の通りである。
10 通水パイプ
11 蒸発抑制部材
12 マトリックス(土壌)
13 フロート部材
14 揚水シート
15 点滴チューブ
【0040】
(本発明の利点)
上記構成を有する本発明の栽培用器具ないし栽培方法を用いることにより、植物体6を発芽あるいは幼苗の段階から充分成熟する段階までの全生長過程に亘って、枯死などの失敗を最小限に抑えることができる。本発明の栽培用器具を用いた植物栽培の特徴は、以下の通りである。
【0041】
本発明において、フィルム3は接触している養液5から水と養分をフィルム中に吸収するものの、該フィルムから植物体6側には水も養分も放出しない。そこで、フィルム上に移植された植物体6は、根をフィルム上に密着させ、フィルムと一体化することによって、フィルム中の水分と養分を直接、摂取する。一方、酸素は大気中から摂取する。該フィルムと植物体6の根が一体化すると、植物体6自身がフィルムから水と養分を摂取できるため、人為的な水の供給および養分の調整などの複雑で面倒な操作が不要になる。一方、酸素は大気中から容易に摂取できるため、先に述べた、従来の養液栽培に伴う酸素供給の困難さが完全に解決される。
【0042】
更に、本発明の特徴は、該フィルムは細菌類、ウイルスなどを通さないため、養液が汚染されても植物体6に病原菌が伝染する危険性がないことである。また、該養液はリザーバ4とフィルム3によって密閉されていて、細菌類、酸素などが入りにくく、したがって、養液の腐敗が抑制されるため、腐敗性が強い糖類、アミノ酸類、有機酸類などの有用物質を養液に添加して使用することができるという点である。
【0043】
更に、もう1つの特徴として、該フィルム中の水は、フィルムを構成する親水性高分子に強く結合した結合水であり、通常の水と比較すると、植物体6が吸収しにくい。そこで、植物体6は根の表面積を高めるために細根、毛根を発達させると同時に、細胞中の糖類、アミノ酸類などの濃度を高め、浸透圧を高くすることによって水を吸収しようとするため、植物体6が高品質化するという点である。
【0044】
一方、植物体6は生長するに従って、必要とする水分量と養分量が増大する。本発明の最も重要な点は、本発明の植物栽培用器具および栽培方法を用いると、栽培初期には植物体6の根が該フィルムと一体化し、該フィルム中の結合水を吸収するために細根、毛根を発達させる。栽培中期から後期になると、生長した植物体6を維持するためには、該フィルム中の結合水のみの吸収では不足し、植物体6の根の一部が該フィルムを貫通し、養液中に侵入し、直接、養液を吸収するということである。このときに、一部の根がフィルムを貫通し、養液中から水と養分を吸収し、根の他の部分(フィルム上にある部分)は大気中から酸素を摂取する。即ち、水/養分を摂取する根と酸素を摂取する根がそれぞれの役割を分担し、植物体6を良好に生長させる。
【0045】
更に、本発明の重要な点は、植物体6の根のフィルム貫通部分からフィルム下の養液がフィルム上に浸透しない程度、充分に根とフィルムが密着するということである。したがって、フィルム上の根が冠水することがなく、大気中から酸素を摂取することができる。また、該養液はフィルムが根によって貫通されたものの、貫通部が植物体6の根によって密栓されているため、密封状態が保持され、腐敗などの危険性が抑制される。
【0046】
(各部の構成)
以下、本発明の栽培用器具1の各部の構成について詳細に説明する。このような構成(ないしは機能)に関しては、必要に応じて、本発明者らによる文献(WO 2004/064499)の「発明の詳細な説明」、「実施例」等を参照することができる。
【0047】
(無孔性親水性フィルムの性質)
本発明において、植物栽培用器具1を構成するフィルム3は、植物体6の根と実質的に一体化し、かつ実質的に植物体6生長によって根が貫通し得る無孔性親水性フィルムであることが特徴である。本発明において、「植物体6の根と実質的に一体化」できるか否かは、例えば、後述する「一体化試験」によって判断できる。また、「植物体6生長によって根が貫通し得る」かは、例えば、後述する「根の貫通試験」によって判断できる。本発明者らの知見によれば、「植物体6の根と実質的に一体化し、かつ実質的な植物体の生長によって根が貫通し得る」フィルム3としては、以下のようなイオン透過性、グルコース透過性、耐水性、および好適な強度を有するフィルムが好ましいことが見出されている。
【0048】
本発明者らの知見によれば、フィルムの良好なイオンおよびグルコース透過性が、フィルムを介して植物体6の根が水分および養分を摂取するために必須であり、かつ良好な耐水性が、植物体6の根が大気中から酸素を摂取するために必須であることが見出されている。更に、これらのフィルムの性質が植物体6の根と該フィルムが一体化するために必須であることがわかっている。即ち、根とフィルムの一体化が、該植物体6が良好な生長性を示すためには、必須である。根とフィルムの一体化現象は後述する(根とフィルムの一体化試験)によって測定できる。
一方、本発明者らの知見によれば、フィルムの強度が、栽培中期から後期にかけての植物体の生長性を左右する、根によるフィルムの貫通現象に大きな影響を与えることが見出されている。根によるフィルムの貫通現象は後述する(根によるフィルム貫通試験)によって測定できる。
【0049】
イオン透過性としては、該フィルムを介して水と塩水を対向して接触させた際に、測定開始4日後の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下、更には3.5dS/m、更には2.0dS/m以下であることが好適である。このようなフィルムを用いた際には、根に対して好適な水あるいは肥料溶液を供給し、該フィルムと根との一体化を促進することが容易となる。この電気伝導度の差は、下記のようにして測定することが好ましい。
【0050】
耐水性としては、JIS L1092(B法)に準じた方法によって測定した耐水圧として10cm以上、20cm以上、更には、30cm以上がより好ましい。このようなフィルムを用いた際には、根に対する好適な酸素供給および該フィルムを介しての病原菌汚染を防止することが容易となる。
【0051】
<実験器具等>
なお、本明細書の以降の部分(実施例も含む)において用いた実験器具、装置および材料は、(特に指定がない限り)後述する「実施例」の前の部分に示した通りである。
【0052】
<電気伝導度の測定方法>
肥料は、通常イオンの形で吸収されるため、液中に溶けている塩類(あるいはイオン)量を把握することが望ましい。このイオン濃度を測定する手段として電気伝導度(EC、イーシー)を用いる。ECは比導電率ともいい、断面積1cm2の電極2枚を1cmの距離に離したときの電気伝導度の値を使用する。単位はシーメンス(S)が使われ、S/cmとなるが肥料養液のECは小さいので、1/1000のmS/cmを使う(国際単位系ではdS/m(dはデシ)と表示する)。
【0053】
実際の測定においては、上記した電気伝導度の測定部位(センサー部)にスポイトを用いて試料(例えば溶液)を少量乗せ、導電率を測定する。
<フィルムの塩/水の透過試験>
市販の食塩(例えば、後述する「伯方の塩」)10gを水2000mlに溶解して、0.5%塩水を作製する(EC:約9dS/m)。
【0054】
図3を参照して、上記「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべきフィルム(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に上記の塩水150gを加え、得られた系全体を食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデンフィルム、商品名:サランラップ、旭化成社製)で包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24hrs毎に水側、塩水側のECを測定する。
【0055】
一方、該フィルムのグルコース透過性としては、該フィルムを介して水とグルコース溶液を対向して接触させた際に、測測定開始後3日目(72時間)の水/グルコース溶液の栽培温度において測定した濃度(Brix%)の差が4以下であることが好ましい、更には、3以下、2以下(特に1.5以下)がより好適である。このBrixの差は、下記のようにして測定することが好ましい。
【0056】
<フィルムの水/グルコース溶液透過試験>
市販のグルコース(ブドウ糖)を用いて5%グルコース溶液を作製する。上記塩水試験と同様の「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべきフィルム(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に上記のグルコース溶液150gを加え、得られた系全体を食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデンフィルム、商品名:サランラップ、旭化成社製)で包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24hrs毎に水側、グルコース溶液側の糖度(Brix%)を糖度計で測定する。
【0057】
(根とフィルムの一体化試験)
後述する実施例2の条件(バーミキュライト使用)で、試験を行う。すなわち、サニーレタス(本葉1枚強)を2本用いて、実施例2の液肥(原液ハイポネックス1000倍希釈液)条件で、35日間、植物体の生長試験を行う。
【0058】
得られた植物体−フィルムの系において、植物体6苗の根元で茎葉を切断する。根の密着したフィルムの茎がほぼ中心になるように、該フィルムを巾5cm(長さ:約20cm)に切断して試験片とする(図6を参照)。根がフィルムを貫通した場所がある場合は、試験片は非貫通部分から作製する。
【0059】
図4を参照して、ばね式手秤に市販のクリップを付け、上記で得た試験片の一方をクリップで固定して、ばね式手秤の示す重量(試験片の自重に対応=Aグラム)を記録する。次いで試験片の中心にある茎を手で持ち、下方に緩やかに引き下げて、根とフィルムが離れる(あるいは切断される)際の重量(荷重=Bグラム)をばね式手秤の目盛りから読み取る。この値から初期の重量を差し引き、得られた(B−A)グラムを巾5cmの引き剥がし荷重とする。この引き剥がし荷重、即ち、剥離強度を根とフィルムの一体化の目安とした。
【0060】
本発明においては、このようにして測定された剥離強度において、前記植物体6の根に対して10g以上の剥離強度を示すフィルムが好適に使用可能である。この剥離強度は、更には30g以上、特に100g以上であることが好ましい。
【0061】
(光学顕微鏡による確認)
上述したように、本発明においては、フィルムと植物体6の根の一体化は、根が密着したフィルムから根を引き剥すため必要な荷重の大きさで評価することができるが、この一体化は、光学顕微鏡によっても確認することができる。例えば、図16に示すように、根とフィルムの界面の光学顕微鏡写真において、根とフィルムが一体化して、根がフィルム表面を実質的に隙間無く覆っていることが観察され、フィルムと植物体6の根が一体化していることが確認されている。
【0062】
(根によるフィルム貫通試験)
プランターに養液を溜めるためのPEフィルム(厚み0.15mm)を敷き、養液をプランター内に6〜10L加える。無孔性親水性フィルムを養液の上に浮かべ、、調整した培地を該フィルムの上に深さ1.5cmで敷く。マルチングフィルムとして、白黒マルチフィルムにトマト苗を植えつける場所に×印の切込みを入れ、該培地を被覆する。トマト苗をマルチングフィルムの×印の穴から該培土中に植えつける。植付けたプランターはハウス(温度10〜35℃)内に置く。植付プランター数は5〜10とする。栽培期間中、培土の上からの潅水ならびにプランターへの養液の追加は全く行わない。苗を植付け後、フィルムの裏側を観察し、根がフィルムを貫通した時点の日数を計測する。
【0063】
本試験において使用する資材は、以下の通りである。
栽培容器:プランター(65×23×18cm)容量13L(市販品)
PEフィルム:ポリフィルム(巾200cm、長さ50m、厚さ0.15mm)
マルルチングフィルム:白黒マルチ(太陽マルチ)(巾150cm、厚さ0.025mm)(大倉工業(株))
無孔性親水性フィルム:ハイメックフィルム(メビオール(株)製、厚さ40μm)
【0064】
養液:大塚ハウス1号(大塚化学(株)製)1.2g/L、大塚ハウス2号(大塚化学(株)製)0.8g/Lの混合養液1Lに対し大塚ハスス5号(大塚化学(株)製)0.05gを混合する。
培地:スーパーミックスA((株)サカタのタネ製)とバーミキュライト(中〜大粒)((株)トーホー)を容量比3:2で混合した後、予めスカイジェル(メビオール(株))100gに対し水5Lを加え、良く膨潤させたスカイジェルを0.4wt/vol%の割合で添加することによって培地を作成した。該培地を、プランター当たり6〜10Lの割合で、無孔性親水性フィルム上に、深さ1〜2cmになるように加えた。
【0065】
栽培用苗:サンマルツァーノの苗(トマトの品種:バーミキュライトを培土としてセルトレーに播種後、3週間でポットに移植し2〜4週間栽培した、高さ18±3cmの苗)を使用した。
【0066】
本発明においては、このようにして測定された、根が貫通するまでの日数が7〜55日であるフィルムが好適に使用可能である。この貫通までの日数が、更には25〜55日、特に35〜50日であることが好ましい。
【0067】
(無孔性親水性フィルム用材料)
上述した「根と実質的に一体化し得る」性質を満足する限り、本発明において、使用可能なフィルム材料は、特に制限されず、公知の材料から適宜選択して使用することが可能である。このような材料は、通常フィルムないし膜の形態で用いることができる。
【0068】
より具体的には、このようなフィルム材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、セロファン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、エチルセルロース、ポリエステル等の親水性材料が使用可能である。
【0069】
上記フィルムの厚さも特に制限されないが、通常は、300μm以下、更には200〜5μm、特に100〜20μmであることが好ましい。
【0070】
(器具・収容部・リザーバ)
器具1の収容部2の形状、大きさないしは該収容部を与えるためのリザーバ4の材質、厚さ等も特に制限されず、育成すべき植物体6の水分消費量、容器の内容積、植物体6支持体(土壌等)の通気性、水の温度等、種々の条件を考慮して、適宜選択することが可能である。
【0071】
例えば、リザーバ4の材質としては、軽量化、易成形性および低コスト化の点からはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の汎用プラスチックあるいはこれらプラスチック発泡製品が好適に使用可能である。
【0072】
(無孔性親水性フィルムの含水率)
本発明者の知見によれば、無孔性親水性フィルムがイオンを透過する理由は、肥料成分であるイオンが水と共にフィルムの片側から中に浸透し、反対側のフィルム面に到達するためであると推定される。このメカニズムに従えば、例えば、フィルムの含水率を大きくすることにより、水分および肥料成分などのイオン等の浸透量を増大させることができる。
【0073】
後述する実施例11には、フィルムの含水率を測定した結果を示す。(この実施例において使用したフィルムは、フィルムの種類や厚さによる含水率の差は、比較的小さいものであった。)本発明においては、例えば、含水率をより高めたフィルムに改質することにより、水分および肥料成分等の浸透量を、更に大きくすることができる。このように、含水率をより高めるためのフィルム改質は、フィルムに親水性をより多く持たせることで、例えば、[文献:P.J.フローリー著「高分子化学I」昭和40年8月20日第3版第9刷 訳者 岡 小天、金丸 競発行所 丸善株式会社 P38〜47、P48〜54、P168〜221]で参照される方法で、水酸基(OH)などの親水基を含む分子をより多く、共重合することで可能となる。また、表面改質により親水化する方法もあり、その詳細は、例えば[文献:「電気電子用プラスチック材料」発行 2002年3月 株式会社東レリサーチセンター P47〜77]を参照することができる。
【0074】
一般に、植物体6は肥料成分を水に溶けた状態のイオンとして吸収する。例えば、肥料成分の1つである窒素は、NH4+ またはNO3- として植物体6に吸収されるが、どちらの成分を吸収し易いかは植物体6によって異なる。従来は、供給する肥料としてNH4+体窒素またはNO3-体窒素のバランスを変えることが行われてきた。本発明のシステムにおいては、例えばフィルム中にチャージを持ったイオン基を導入することにより養液中のイオンを透過しにくくしたり、透過しやすくしたりすることができる。このように、フィルム組成へのイオン基の導入の詳細に関しては、例えば、[文献:P.J.フローリー著「高分子化学I」昭和40年8月20日第3版第9刷 訳者 岡 小天、金丸 競発行所 丸善株式会社 P38〜47、P48〜54、P168〜221]で参照される方法で、イオン基を導入することで可能となる。また、表面改質による方法もあり、その詳細は、例えば[文献:「電気電子用プラスチック材料」発行 2002年3月 株式会社東レリサーチセンター P47〜77]を参照することができる。
【0075】
(栽培用器具の使用法)
本発明を構成する植物栽培用器具の使用方法は特に制限されないが、例えば、該器具中で、植物体6と栽培用マトリックスを配置した無孔性親水性フィルムを、肥料溶液に接触させつつ、該植物体6を栽培する方法があげられる。
【0076】
(植物体)
本発明において栽培可能な植物(体)は、特に制限されない。本発明の栽培方法においては、植物体の生長した根が、上記したフィルムと一体化した後にはじめて、該フィルムを介して、接する養液からの水分および肥料成分の吸収が可能となるため、植付け植物体6としては、ある程度生長した苗の状態であることが望ましい。ただし、栽培用マトリックス中に、該植物体6の根がフィルムと一体化するまで、根を成長させるための肥料および水分を添加することにより、種子ないし発芽直後の種子であっても、本発明の栽培方法により栽培することが可能となる。
【0077】
また、本発明においては、マトリックス無しで、直接フィルム上に植物体6(例えば、種子)を蒔いて発芽させ、生育させることも可能である。
【0078】
(マトリックス)
上述したように、通常使用される土壌ないし培地は、本発明において、いずれも使用可能である。このような土壌ないし培地としては、例えば、土耕栽培に用いられる土壌、および水耕栽培に用いられる培地が挙げられる。
【0079】
例えば、無機系では天然の砂、れき、パミスサンドなど、加工品(高温焼成等)では、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、セラミック、籾殻くん炭など。有機系では天然のピートモス、ココヤシ繊維、樹皮培地、籾殻、ニータン、ソータンなど、合成品の粒状フェノール樹脂などがある。また、これらの混合物でもよい。また、合成繊維の布あるいは不織布も使用可能である。必要最小限の水分、肥料および微量要素を、これらの土壌ないし培地に加えてもよい。本発明者らの知見によれば、本発明の栽培器具/栽培方法においては、植付けた植物体6の根が、フィルム表面に達し、該フィルムを介して養液側から水分および養分を吸収できるようになるまでに必要な水分および養分、ここに言う「必要最小限の水分および養分」を該マトリックスにあらかじめ添加しておくことが望ましい。
【0080】
(養液)
本発明において使用可能な養液(ないし肥料溶液)は特に制限されない。例えば、従来の養液栽培ないし水耕栽培において使用されてきた液状成分は、本発明においていずれも使用可能である。
【0081】
一般には、植物体6の生育にとって必要不可欠な無機成分としては、主要な成分として:窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)、などで、微量成分として:鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)などが挙げられる。さらにこの他に、副成分として、珪素(Si)、塩素(Cl)、アルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)等がある。必要に応じて、本発明の効果を実質的に阻害しない限り、その他の生理活性物質も加えることができる。更に、グルコース(ブドウ糖)などの糖質、アミノ酸を養液中に添加することも可能である。
【0082】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0083】
実施例1
1)試験
(無孔性親水性フィルムの根による貫通栽培試験)に従って試験した。
:トマト サンマルツァーノ種((有)つる新種苗)をバーミキュライトを培土として、セルトレー内に播種、栽培後、3週間でポットに移植し、2〜4週間栽培した苗(草丈:約18cm)を使用した。
(i)無孔性親水性フィルムを用いた栽培
プランター:650型(65×23.5×19cm、12L)
無孔性親水性フィルム:ハイメックフィルム(メビオール(株)、厚さ40μm))
栽培法:プランター内にPEフィルム(ポリフィルム)を敷き、養液をプランター当り10L加え、無孔性親水性フィルムを養液の上に浮かべ、調整した培土をフィルムの上に1.5cmの深さで敷いた。トマト苗を植えつける場所に×印の切込みを入れた白黒マルチフィルムによって培土を被覆した。トマト苗を培土に植えつけた。植えつけたプランターはハウス(温度7〜35℃)内に置いた。1プランターに苗1本を植付けたプランター5個を準備した。
栽培期間中、培土の上からの潅水ならびにプランターへの養液の追加は全く行わなかった。
【0084】
(ii)培土使用プランター植付け栽培(コントロール)
赤土:島尻赤土((有)緑工業)
肥料:CDU複合燐加安S55(くみあい肥料、全農)
栽培法:ピートモス、バーミキュライト、赤土(2:2:1)の混合割合の培土に、スカイジェルを0.4wt/vol%の割合で添加したものを、プランター内に、約10L加えた。スカイジェルの添加は、予めスカイジェル100gに対し水 5Lを加え、良く膨潤させたものを所定量加えた。6gの肥料を各プランター当りに添加し、トマト苗を各2本植付け、(i)と同じハウスに置いた。栽培期間中は上部から潅水した。
栽培期間:11月24日〜2月8日
【0085】
2)試験結果
栽培後のトマト苗の根の大部分は無孔性親水性フィルムにびっしりと張り付き、ごく一部の根が無孔性親水性フィルムを貫通し、養液の中に根を伸ばしていた。
表1に根がフィルムを貫通した期日と苗を植付け後、貫通までの日数を示す。
根が貫通した時点の苗の草丈はいずれも約50cmであった。
【0086】
(表1)
【表1】


根の貫通までの日数
【0087】
根がフィルムを貫通した後もトマトは順調に生育し、2月8日(苗植付け後76日)時点、養液側から培土への養液の漏れもなく、果実を付けた。
図20は苗植付後76日目のトマト苗の様子を示す写真であり、図21は無孔性親水性フィルムの裏側を観察した写真であるが、根が貫通していることが分かる。図22は土壌表面の写真であるが、無孔性親水性フィルムを根が貫通したにも関わらず、培土が乾燥していて、養液がフィルム上に浸透していないことがわかる。これは、フィルム貫通部が根によって密栓されていることを示すものである。
【0088】
図20は、植付け後76日目のトマトの写真である。
【0089】
図21は、根の貫通状況の写真である。
【0090】
図21は、苗の根元の培土の写真である。
【0091】
表2に苗植えつけ後76日目における、草丈(cm)、花芽を付けた段数および1段目の実の数量のデータを、コントロールのプランターによる土耕栽培のものと比較して示す。
本発明の無孔性親水性フィルムを使用し、一部の根によってフィルムを貫通させることによる栽培法では、コントロール試験に比べ、草丈が平均128cm(コントロール:98cm)と高く、花芽を付けた段数は平均4.8段(コントロール:4.3)とほぼ同等であり、1段目の実の大きさ(縦方向の長さ)が平均7.1cm(コントロール:4.6)と顕著に大きいという良好な栽培結果が得られた。
【0092】
(表2)
【表2】


トマトの草丈および果実データ (植付け後76日目)
【0093】
以下で用いた実験方法は、上述したものの他は、以下の通りである。
<水の蒸発量測定>
図5の模式断面図を参照して、上述した「ざるボウルセット」を使い、ざるにフィルム(200〜260×200〜260mm)を敷いた後に土壌を加え、植物体6の苗(1〜2本)を植え付ける。ボウルに水あるいは所定濃度の肥料希釈液を加え、この上にざるを乗せた。定期的に上皿天秤にて重量を測定し、減量から液の蒸発量を測定した。蒸発により減量した液は随時追加した。
<成長過程の観察>
【0094】
苗の成長過程の観察は、デジタル写真により撮影した(デジタルカメラ:キャノン社製 IXY Digital200a)。
【0095】
<試験終了後の観察ならびに測定>
試験終了後は、根の乗っているフィルムの裏側をフィルム越しに、あるいはフィルムを除き、根の部分を中心に写真撮影を行った。成長した苗の重量測定は、根の付いたまま、あるいは根元で切断し、茎葉部分を秤量した。
【0096】
<pHの測定>
pHの測定は後述のpHメーターによって行った。標準液(pH7.0)で校正したpHメーターのセンサー部分を測定すべき溶液につけ、本体を軽く揺らし、値が安定するのを待ち、LCD(液晶)表示部に表示される値を読み取った。
【0097】
<Brix%の測定>
Brix%測定は後述の糖度計(屈折計)を用いて行った。測定溶液をスポイトでサンプリングし、糖度計のプリズム部分に滴下し測定後、LCDの値を読み取った。
【0098】
<実験器具等>
1.使用器具および装置
1)ざるボールセット:ざるの半径6.4cm(底面の面積約130cm2)
2)発泡スチロール製トロ箱:サイズ55×32×15cm等
3)上皿電子天秤:Max.1Kg、 株式会社タニタ
4)ばね式天秤:Max.500g 株式会社鴨下精衡所
5)ポストスケール:ポストマン100 、丸善(株)
6)電気伝導度計:Twin Cond B−173、 株式会社堀場製作所
7)pHメーター:pHパル TRANSInstruments、グンゼ産業(株)
8)糖度計(屈折計):PR201 、(株)アタゴ
【0099】
2.使用材料(土壌)
1)スーパーミックスA:水分約70% 微量肥料入り、 株式会社サカタのタネ
2)ロックファイバー:栽培用粒状綿66R(細粒)、 日東紡(株)
3)バーミキュライト:タイプGS 、ニッタイ株式会社
【0100】
(フィルム)
4)ポリビニルアルコール(PVA): アイセロ化学(株)、厚さ40μm
5)二軸延伸PVA:ボブロン、日本合成化学工業
6)親水性ポリエステル:デュポン社(株)、厚さ12μm
7)セロファン:二村化学工業(株)、厚さ35μm
8)微孔性ポリプロピレンフィルム:PH−35、 (株)トクヤマ
9)不織布:シャレリア(超極細繊維不織布)、旭化成(株)
【0101】
(苗用種)
10)サニーレタス:レッドファイヤー 、タキイ種苗株式会社
11)パンジー:マキシムF−1、(株)サカタのタネ
(肥料)
12)原液ハイポネックス:(株)ハイポネックスジャパン
(その他)
13)伯方の塩: 伯方塩業(株)
14) ブドウ糖:ブドウ糖100 、(株)イーエスNA
【0102】
実施例2
(肥料濃度の効果)
図5の系を用いて、肥料濃度の根のフィルムとの一体化に与える効果を調べた。すなわち、ハイポネックス100倍希釈液、1000倍希釈液、および水(水道水)の効果を比較した。
【0103】
約20cm×20cmの無孔親水性フィルム(PVA)上に土壌として、バーミキュライト、またはロックファイバーを約300ml配置した。この土壌内に、植物体の苗として、サニーレタス(本葉1枚強)を2本配置した。土壌2種類、溶液3種類の合計6種類の系を作製した。この際、溶液は各300ml使用し、フィルム(PVA)上の土壌が約2cmの深さになるように配置した。実験はハウス内で行い、日照は自然のままのものとした。実験の気温は、約0〜25℃、湿度は50〜90%RHであった。
【0104】
水分蒸発量および肥料溶液のEC値を、栽培開始後13日後、および35日後に測定した。35日後には、前述した「引き剥がし試験」も行った。
【0105】
上記実験条件を纏めると、以下の通りである。
1.実験
1)フィルム:PVA40μm(アイセロ化学) 200×200mm
2)苗:サニーレタス 本葉1枚強
3)土壌:バーミキュライト(細粒)、ロックファイバー66R
4)溶液:水、ハイポネックス原液 100倍希釈水溶液、1000倍希釈水溶液
5)器具:ざるとボールのセット
6)置き場所:ハウス(温度湿度制御無し)
7)実験方法:
ざるにフィルム(200×200mm)を介しバーミキュライト150g(水分73%、乾燥重量40g)、ロックファイバー200g(水分79%、乾燥重量40g)を加え、苗を2本植え付ける。ボウルに水または養液を240〜300g加え、ざるを乗せた。
【0106】
8)期間:10月29日〜12月4日
上記実験により得られた結果を、表3に示す。
【0107】
(表3)
【表3】


【0108】
EC:液肥追加前/追加後
【0109】
上記した表3のデータ(例えば、100倍希釈−1000倍希釈−水のデータの比較)により、植物体がフィルムを介して肥料溶液中から生長に必要な肥料成分を得ていることも、容易に理解できる。また、水と比較して肥料溶液を使用すると引剥がし強度が顕著に増加し、肥料成分が根とフィルムの一体化を促進することがわかる。
【0110】
実施例3
養液として用いた液体肥料の濃度を、ハイポネックス1000倍、2000倍、3000倍希釈とし、表4に示した項目以外は、実施例2と同様に実験を行った。
【0111】
「ざる」にフィルムを介し土壌200g(水分79%、乾燥重量40g)を加え、苗を2本植え付けた。ボウルに水または肥料溶液を240g加え「ざる」を乗せた(実施期間:10月30日〜12月4日)。
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0112】
(表4)
【表4】


【0113】
EC:液肥追加前/追加後
(実験結果に対する記述)
実施例2と同様に、液体肥料の濃度が高くなると、植物体の生長が良好であった。該植物体がフィルムを介して肥料成分を吸収していることがわかった。
【0114】
実施例4
(各種フィルムの差)
上記した方法で、各種フィルムに関して、水による苗の生長を観察した。フィルムとしては、PVA、二軸延伸PVA(ボブロン)、親水性ポリエステル3種の計5サンプルを用いた。
【0115】
ざるにフィルム(260×260mm)を介し土壌500mlを加え、苗を2本植え付ける。ボウルに水250mlを加え「ざる」を乗せた。実験期間は8月17日〜9月14日である。
【0116】
(表5)
【表5】


【0117】
(実験結果に対する記述)
不織布付親水性ポリエステルの水分蒸発量が大きかったが、フィルムに張られている不織布が水を吸い上げて、空中に出ている部分からの蒸発量が多かったためと考えられる。
【0118】
最終苗の本葉数は、不織布付親水性ポリエステル≧PVA>親水性ポリエステル≧ボブロン>生地付親水性ポリエステルの順であった。これは、根の発育状況と同様の傾向であった。
【0119】
実施例5
(塩水透過試験)
前述の<フィルムの塩/水透過試験>方法に従って、各種フィルムのイオン透過試験を行った。フィルムはPVA、ボブロン(二軸延伸PVA)、親水性ポリエステル、セロファン、PH−35、超極細繊維不織布(シャレリア)の6種である。
【0120】
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0121】
(表6)
【表6】


【0122】
上記データをグラフ化したものを図7に示す。
【0123】
(実験結果に対する記述)
6種類のフィルムのうち、PH−35には塩の透過が認められなかった。その他のフィルムでは、超極細繊維不織布は水と共に塩が完全に透過しているが、PVA、親水性ポリエステルおよびセロファンも比較的早く塩の透過が進んでいる。ボブロンは塩の透過速度が小さいものの、4日目には塩水系と水系とのEC値の差が4.5以内になっていた。
【0124】
実施例6
(ブドウ糖透過試験)
下記の<グルコース(ブドウ糖)透過試験>方法に従って、各種フィルムのブドウ糖透過試験を行った。フィルムはPVA、ボブロン(二軸延伸PVA)、セロファン、浸透セロファン、PH−35の5種である。
【0125】
<グルコース(ブドウ糖)透過試験>
前述のざるボウルセットを使用し、ボウルに5%ブドウ糖水溶液(ブドウ糖50g/水1000ml)150gを加え、ざるに200×200mmのフィルムを敷き、水150gを加えて、ボウルに乗せた。それぞれの濃度と重量の経時変化を測定した。
【0126】
<濃度測定>
糖度計(屈折計)を用いてBrix%を測定した。Brix%はショ糖を水に溶解したときの重量%の単位で、例えば100g中に10gのショ糖が溶けている液はBrix10%となる。
【0127】
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0128】
(表7)
【表7】


【0129】
上記データをグラフ化したものを、図8に示す。
【0130】
(実験結果に対する記述)
5種類のフィルムのうち、ボブロン、PH−35を除いた、PVA、セロファンおよび浸透セロファンは実験開始から3日目で、ブドウ糖系と水系とのBrix値の差が1以内になり、ブドウ糖がフィルムを透過することがわかった。
【0131】
実施例7
(耐水圧試験)
JIS L1092(B法)に準じた試験により、200cmH2Oの耐水圧試験を行った。
実験結果
フィルム種 耐水圧(cmH2O)
PVAフィルム(40μm) 200以上
二軸延伸PVA(ボブロン) 200以上
セロファン 200以上
親水性ポリエステル 200以上
超極細繊維不織布 0
【0132】
実施例8
実施例5と同様に、ざるボールセット(ざるの半径6.4cm、容量130ml)を用い、ざるに20×20cmのフィルムを乗せ、純水を150g加え、ボール側に養液150gを加えて、水蒸気としての発散を防止するために、系全体をサランラップで被覆した。上記の容器を7個作成し、各容器から、それぞれ3、6、12、24、36、48、72時間ごとに、100mlの試料を採取し、主要肥料成分濃度の分析を行った。
【0133】
1)透湿フィルム:PVAフィルム25μm(日本合成化学工業(株)製)、親水性ポリエステル20μm(デュポン社製)
2)水:蒸留水(和光純薬工業(株)製)、養液肥料:大塚ハウス1号 1.5g/L、2号 1g/L(大塚化学(株)製)
3)分析方法
a)アンモニウムイオン、硝酸イオンおよび硫酸イオン:イオンクロマトグラフ法により分析(分析の詳細に関しては:「水の分析」第4版 日本分析化学会北海道支部編 発行(株)化学同人 1997年7月20日 第3章水の分析に用いられる分析法 3.7.3 イオンクロマトグラフィー(P125〜129)を参照することができる)。
【0134】
b)りん、カリウム、カルシウムおよびマグネシウム:ICP(発光分光分析)法により分析(分析の詳細に関しては:「水の分析」第4版 日本分析化学会北海道支部編 発行(株)化学同人 1997年7月20日 第13章微量汚染物質と関連する分析法 13.10 ICP(P478〜480)を参照することができる)。
【0135】
(測定結果)
主要成分である、アンモニア性窒素(NH4−N)、硝酸性窒素(NO3−N)、リン酸(P2O5)、カリウム(K2O)、カルシウム(CaO)、マグネシウム(MgO)および硫黄(SO4)について、試料濃度の経時変化を表8〜表14に、またこれらのデータに対応するグラフを図9〜図15に示す。
【0136】
上記した表および図に示すように、肥料のフィルム透過性に関して、肥料成分によって透過速度の違いはあるものの、主要成分の窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)および硫黄(S)はフィルムを透過した。
アンモニア性窒素 単位:ppm
【0137】
(表8)
【表8】


【0138】
硝酸性窒素 単位:ppm
【0139】
(表9)
【表9】


【0140】
リン酸 単位:ppm
【0141】
(表10)
【表10】


【0142】
カリウム 単位:ppm
【0143】
(表11)
【表11】


【0144】
カルシウム 単位:ppm
【0145】
(表12)
【表12】


【0146】
マグネシウム 単位:ppm
【0147】
(表13)
【表13】


【0148】
硫黄 単位:ppm
【0149】
(表14)
【表14】


【0150】
実施例9
大きさが30×22×8cmのトロ箱内に養液としてハイポネックス原液(N:5%、P:10%、K:5%)((株)ハイポネックスジャパン製)の300倍希釈水溶液(EC:1.37)1.3Lを加え、PVAフィルム(アイセロ化学(株)製、大きさ48×40cm、厚さ40μm)を該養液上に浮かべた。
【0151】
フィルム上に土壌としてスーパーミックスA((株)サカタのタネ)を深さ2cm乗せ、サニーレタス幼苗(本葉3枚)を12本植えつけた。ビニルハウス(温度湿度制御無し)に11月12日〜1月11日(60日間)の間、栽培した。その後、根と一体化したPVAフィルムを試料とし、根とフィルムの界面の光学顕微鏡写真(倍率:10〜100倍)を撮影した。
[試料の前処理と観察]
1)試料をエタノールで脱水
2)親水性の樹脂「テクノビット」(応研商事(株)社製)に包埋
3)ガラスナイフで厚さ3ミクロンに薄切りしてガラス板の上に載せ乾燥させる
4)0.1%のトルイジン青にて15分間染色
5)水洗下の血に70%エタノール溶液で過剰な染色部分を脱色させる(分別)
6)アルコールで脱水した後にキシレンに入れて、その後にカバーガラスをかけて封入
7)光学顕微鏡にて、10倍から100倍の間で観察
(なお、上記した試料の前処理および観察方法の詳細に関しては、例えば、応研商事株式会社のホームページ(http//www.okenshoji.co.jp/)の「低温重合樹脂テクノビット」の項で詳細な試験方法を参照することができる。)
光学顕微鏡による観察結果を、図16に示す。この図16に示すように、根の細胞がPVAフィルム表面に隙間無く配置され、PVAフィルムと根が一体化している様子が観察された。
【0152】
実施例10
実施例5と同様に、ざるボールセット(ざるの半径6.4cm、容量130ml)を用い、ざるに、大きさ20×20cmの各種フィルムを乗せ、水道水を150g加え、ボール側に塩水150gを加えて、サランラップで系全体を被覆した。実験温度は室温である。サンプリング時に、水側(ざる)および塩水側(ボール)の養液を良く撹拌した後、スポイトでサンプリングし、EC値を測定した。
【0153】
1)透湿フィルム:厚さの異なる親水性ポリエステルフィルム(デュポン株))およびPVAフィルム(日本合成化学工業(株))を使用した。厚さの異なる親水性ポリエステルフィルムとしては、厚さ20μm、40μm、および75μmをそれぞれ使用した。厚さの異なるPVAフィルムとしては、厚さ25μm、40μm、および65μmをそれぞれ使用した。
2)0.5%塩水:水道水に「伯方の塩」(伯方塩業(株)製)を0.5重量%溶解した。
【0154】
3)実験方法
電気伝導度計:Twin Cond B−173((株)堀場製作所)を用い、試料溶液を電気伝導度計の測定部位に少量乗せ、電気伝導度EC(ds/m)を測定した。
【0155】
実施期間:8月26日〜31日
親水性ポリエステルフィルムの結果を表15および図17に、PVAフィルムの結果を表16および図18に示す。
【0156】
上記の図17および図18から、親水性ポリエステルフィルムおよびPVAフィルムとも、水側のEC値は増加し、塩水側のEC値は減少し、両者の値が時間と共に同じ値に収束していくことが判明した。親水性ポリエステルフィルムの場合は、フィルム厚さが20〜75μmの範囲で、水側EC値の増加速度および塩水側EC値の低下速度は、厚さが増すに従って遅くなった、即ち塩水透過性はフィルムの厚さに依存して低下した。一方、PVAフィルムの場合は、フィルム厚さが25〜65μmの範囲で、厚さが増しても塩水透過性は殆ど変わらなかった。
【0157】
親水性ポリエステル 単位:dS/m
(表15)
【表15】


【0158】
PVA 単位:dS/m
【0159】
(表16)
【表16】


【0160】
実施例11
(含水率の測定)
ポリプロピレン製蓋つきプラスチック容器(15×10×4cm)に水300mlを加え、厚さの異なる3種類のPVAフィルムと親水性ポリエステルフィルム(10×20cm)を浸漬し、適温ボックスに入れ20時間保持した。所定時間経過後フィルムを取りだし、表面の水分をティッシュペーパーで速やかにふき取り秤量した(Wg)。乾燥時の重量をWgとし、含水率(%)=(W−W)/W×100を求めた。
【0161】
測定温度は5、20、35℃の3点で、各温度n=2の試料で測定した。
PVAフィルム:#2500(厚さ25μm)、#4000(40μm)、#6500(65μm)(日本合成化学(株)製)
親水性ポリエステルフィルム:厚さ40μm(デュポン(株))
適温ボックス:型式ERV740(容量9L、消費電力75W)(松下電工(株))
【0162】
(結果)
図19に含水率の温度依存性を示す。このグラフに示すように、PVAフィルムは温度が上昇するにつれて、含水率が上昇する傾向を示した。PVAフィルムの場合、含水率はフィルム厚さと温度には大きく依存せずに、ほぼ一定であり、20〜28%であった。
【0163】
実施例12
(フィルム厚さの根によるフィルム貫通への影響の測定)
ポリスチレン製プラスッチック容器(20×12×5.5cm)内に養液(EC=2、容量600ml)を加え、厚さの異なるPVAフィルム(アイセロ化学(株))(30×22cm)を載せ、その上に土壌としてヤシガラチップ(ベラボンチップ、(株)フジック)200mlを置き、芝の種(西洋芝ベントグラスハイランド、タキイ種苗(株))を蒔いて、霧吹きで充分給水し、ポリスチレン製の透明な蓋を被せた。栽培は20℃の栽培室内で人工灯を用いてで行った。表17に、使用したフィルムと根がフィルムを貫通した日および播種日からの日数を示す。
【0164】
(表17)
【表17】


(播種日:1月25日)
【0165】
(実験結果に対する記述)
表17の結果から、フィルム厚さが増すと、植物体の根がフィルムを貫通するのに要する日数が大きくなることがわかった。
【0166】
実施例13
(根の貫通部分の特定)
ポリスチレン製プラスチック容器(20×12×5.5cm)内に養液(EC=2、容量700ml)を加え、発泡スチロール製フロートを浮かべ、PVAフィルム#40(厚さ40μm、アイセロ化学(株))(30×22cm)、および同フィルムをヒートシールすることによって、箱状(底面の寸法19×12cm)に成型したものを、それぞれ載せた。フィルム上に土壌としてパミスサンド(さつま軽石)160gを載せ、ルッコラの種(オデッセイ、(株)サカタのタネ)を12粒播種し、霧吹きで充分給水し、ポリスチレン製の透明な蓋を被せた。栽培は20℃の栽培室内で人工灯を用いて行った。
【0167】
箱状成型物の場合は、3週間でヒートシールした角の部分から根がフィルムを貫通したが、平面状のフィルムの場合は、1.5ヶ月以上経過しても根がフィルムを貫通することは無かった。
フロートと箱状成型物の作製方法は以下の通りである。
フロート:低発泡ポリスチレン板(エスレンウッドパネル、厚さ5mm、19×12cm、長さ方向に3本のスリット(スリット巾5mm)、位置は巾方向、長さ方向とも端より2.5cm、と中心に1本の計3本)
箱状成型物:24×16cmのフィルムの端2cmを糊しろとし、ヒートシーラー(HAKKO 306、白光(株))でヒートシールし、19×12×2cmの箱状成型物を作成した。
【0168】
(実験結果に対する記述)
植物体の根は水を求めて、フィルムの最も破りやすい場所を貫通し、養液側に出ようとする傾向がある。ヒートシールにより加熱、圧着された角の部分、特にヒートシーラーの圧着部分の端面で、根がフィルムを貫通しているのが観察された。フィルムを加熱、圧着したことにより、フィルムの結晶化度の低下および/またはフィルム厚さの低下が生じ、その結果、根がフィルムを貫通したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】図1は、本発明の植物栽培用器具の基本的な態様の例を示す摸式断面図である。
【図2】図2は、本発明の植物栽培用器具により植物体を栽培する方法の一態様を示す摸式的断面図である。
【図3】図3は、本発明に用いるフィルム特性(水−塩水接触)測定を説明するための摸式断面図である。
【図4】図4は、本発明に用いるフィルム特性(引き剥がし強度)測定を説明するための摸式斜視図である。
【図5】図5は、本発明に用いるフィルム特性(水蒸発量)測定を説明するための摸式断面図である。
【図6】図6は、本発明に用いるフィルム特性(引き剥がし強度)測定用の試験片を示す写真である。
【0170】
【図7】図7は、本発明に用いるフィルム特性(水−塩水接触)測定結果の例を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明に用いるフィルム特性(水−ブドウ糖接触)測定結果の例を示すグラフである。
【図9】図9は、アンモニア性窒素のフィルム透過性を表すグラフである。
【図10】図10は、硝酸性窒素のフィルム透過性を表すグラフである。
【図11】図11は、リン酸のフィルム透過性を表すグラフである。
【図12】図12は、カリウムのフィルム透過性を表すグラフである。
【図13】図13は、カルシウムのフィルム透過性を表すグラフである。
【図14】図14は、マグネシウムのフィルム透過性を表すグラフである。
【図15】図15は、硫黄のフィルム透過性を表すグラフである。
【図16】図16は、植物体の栽培終了時の、根/フィルム/養液の界面近傍の状態を表す光学顕微鏡写真(倍率:250倍)である。
【0171】
【図17】図17は、種々の厚さの親水性ポリエステルフィルムの0.5%塩水透過性を示すグラフである。
【図18】図18は、種々の厚さのPVAフィルムの0.5%塩水透過性を示すグラフである。
【図19】図19は、実施例11において得られた、数種のフィルムの含水率の温度変化を示すグラフである。
【図20】図20は、本発明の実施例1で得られたトマトの写真である。
【図21】図21は、本発明の実施例1で得られたトマトの状況を示す写真である。
【図22】図22は、本発明の実施例1で得られたトマトの状況を示す写真である。
【図23】図23は、フィルムに根の貫通部分を特定する例を示す図である。
【図24】図24は、本発明の植物栽培用器具の他の態様例を示す摸式断面図である。
【符号の説明】
【0172】
1 植物栽培用器具
2 収容部
3 無孔性親水性フィルム
4 リザーバ
5 養液
6 植物(体)
7 貫通した根
8 フィルム上の根
9 貫通部
10 通水パイプ
11 蒸発抑制部材
12 マトリックス(土壌)
【出願人】 【識別番号】596009814
【氏名又は名称】メビオール株式会社
【出願日】 平成18年9月4日(2006.9.4)
【代理人】 【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤

【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬

【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次

【識別番号】100089901
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 一男


【公開番号】 特開2008−61503(P2008−61503A)
【公開日】 平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願番号】 特願2006−239291(P2006−239291)