トップ :: A 生活必需品 :: A01 農業;林業;畜産;狩猟;捕獲;漁業




【発明の名称】 根菜類の養液栽培装置および養液栽培方法
【発明者】 【氏名】北宅 善昭

【要約】 【課題】幼苗の植え替えの手間がなく、従来の土壌栽培に比べ、単位面積あたりの収穫量を向上させることのできる根菜類の養液栽培装置および養液栽培方法を提供する。

【構成】所要の深さを有するとともにその上部が開放された栽培容器1の底部に養液2を配置し、この養液2から栽培容器1の上部開口に向けて、吸水性を有する材料からなる培地3を配設した後、培地3の上部開口近傍の所定位置に苗を植え付け、この苗の根元部から下部を遮光部材4で覆った状態で前記養液2を循環させることにより、苗の根元部から発根する根を前記培地3の内部に伸長させるとともに、この培地3,3と底部の養液2の間の空間Sに、根から生じる塊根Cを成長させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培容器の中を流れる養液により根菜類を栽培する装置であって、
所要の深さを有するとともにその上部が開放された栽培容器と、
この栽培容器の底部に配置された養液層と、
この養液に所定の養分を追加しつつ該養液を循環させる循環装置と、
吸水性を有する材料からなり、前記養液層から栽培容器の上部開口に向けて配設された培地と、
前記栽培容器の上部開口を覆う遮光部材と、を備え、
前記培地の上部開口近傍の所定位置に苗を植え付け、この苗の根元部から下部を前記遮光部材で覆うことを特徴とする根菜類の養液栽培装置。
【請求項2】
養液の流れる栽培装置を用いて根菜類を栽培する方法であって、
所要の深さを有するとともにその上部が開放された栽培容器の底部に養液層を配置し、この養液から栽培容器の上部開口に向けて、吸水性を有する材料からなる培地を配設した後、前記培地の上部開口近傍の所定位置に苗を植え付け、この苗の根元部から下部を遮光部材で覆った状態で、前記養液を循環させることにより、該根元部から発根する根を前記培地に伸長させるとともに、前記培地と底部の養液層の間の空間に、当該根から生じる塊根を成長させることを特徴とする根菜類の養液栽培方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、屋上緑化や家庭菜園等の限られた土地でも、収穫量を向上させることのできる根菜類の養液栽培装置と養液栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヨーロッパを起源とするNFT耕やロックウール耕が導入されたのを契機に、わが国でも溶液栽培に対する関心が高まり、多くの作物、なかでも園芸作物は養液(溶液あるいは水耕)栽培によって、ほぼ周年的栽培が可能となっている(例えば、特許文献1〜2等を参照。)。また、この養液栽培は、例えばジャガイモ等の種芋の生産にも利用されている(特許文献3等を参照)。
【0003】
一方、地球温暖化対策の一環として、炭酸ガス同化作用の強いサツマイモ(さつまいも,薩摩芋)などの根菜類が注目されており、ヒートアイランド対策として、ビルの屋上あるいは家庭等で養液栽培することが検討されている(例えば、非特許文献1等を参照。)
【0004】
この研究によれば、サツマイモを、従来と同様の方法により萌芽から成苗までの育苗期間を60日程度とした種苗を採取し、砂を主成分とする苗床に約20〜25日間仮植した後、根が30〜40cmに伸長した幼苗を掘り起こし、図4のように、養液層(栄養吸収源)とその上部の空気層(塊根形成部)とからなる栽培箱に定植して養液栽培することによって、養液層の上部の空間S内に塊根を成長させることができることが報告されている。なお、図中の符号1は栽培容器、2は養液(層)、5は蓋部材、Aはサツマイモの葉茎、Bはサツマイモの根、Cはサツマイモの塊根である。
【特許文献1】特開平9−56283号公報
【特許文献2】特開2005−198563号公報
【特許文献3】特開平5−284864号公報
【非特許文献1】上和田勉,「サツマイモの水耕栽培に関する研究」,生物環境調節学会誌,1990年,28,p.135−140
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、以上のような根菜類の養液栽培方法は、従来の土壌栽培と同様、幼苗が複数個の葉を展開した適当な段階で苗床から採苗し、この苗を培地に定植し直す必要がある。しかしながら、この採苗および定植作業は手間がかかる上、根菜の種類によっては、採苗の時期(タイミング)によって収穫量が左右されることもあり、この採苗時期の見極めが難しいという問題があった。
【0006】
特に、サツマイモの場合は、幼苗の育成方法や生育状態により、1本の苗から生産でき得る塊根の数が定植(植え替え)時に決定してしまうこと、および、塊根が水(養液)に浸ると成長しなくなることなどが知られている。
【0007】
本発明は、上記する課題に対処するためになされたものであり、幼苗の植え替えの手間がなく、従来の土壌栽培に比べ、単位面積あたりの収穫量を向上させることのできる根菜類の養液栽培装置および養液栽培方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、栽培容器の中を流れる養液により根菜類を栽培する装置であって、所要の深さを有するとともにその上部が開放された栽培容器と、この栽培容器の底部に配置された養液層と、この養液に所定の養分を追加しつつ該養液を循環させる循環装置と、吸水性を有する材料からなり、前記養液層から栽培容器の上部開口に向けて配設された培地と、前記栽培容器の上部開口を覆う遮光部材と、を備え、前記培地の上部開口近傍の所定位置に苗を植え付け、この苗の根元部から下部を前記遮光部材で覆うことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、養液の流れる栽培装置を用いて根菜類を栽培する方法であって、所要の深さを有するとともにその上部が開放された栽培容器の底部に養液層を配置し、この養液から栽培容器の上部開口に向けて、吸水性を有する材料からなる培地を配設した後、前記培地の上部開口近傍の所定位置に苗を植え付け、この苗の根元部から下部を遮光部材で覆った状態で、前記養液を循環させることにより、該根元部から発根する根を前記培地に伸長させるとともに、前記培地と底部の養液層の間の空間に、当該根から生じる塊根を成長させることを特徴とする。
【0010】
本発明は、根菜類の養液栽培において、吸水性を有する材料からなる培地を、栽培容器底部の養液層から容器上部の開口にかけて配置するとともに、この培地の上部側に植え付けられた萌芽前の苗に、培地の内部を通って吸い上げられた養液を供給することによって、所期の目的を達成しようとするものである。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、吸水性を有する材料からなる培地が、栽培容器の底部に配置された養液層から容器上部の開口に向けて配設されていることから、養液が培地の内部を通って吸い上げられ、培地の上部開口近傍に植え付けられた苗にこの養液を供給することができる。
【0012】
また、栽培容器が所要の深さを有することから、この培地と前記養液層との間には、根菜類の塊根が成長することのできる空間が形成されるとともに、この栽培容器は、その上部が開放されていることから、開口を覆う遮光部材を取り除くだけで、前記空間内に成長した根菜(塊根)の成長度合いの確認や収穫を容易に行なうことができる。
【0013】
なお、栽培容器の上部開口を遮光部材で覆うことは、容器内の水分の蒸発を抑制するとともに、培地に緑藻類や他の植物が生育することを防止できるというメリットがある。従って、本発明の根菜類の養液栽培装置は、従来の土壌栽培に比して農薬や薬品等を使用する頻度が少なく、無農薬野菜など、人体に対して安全な作物を生産することが可能となる。
【0014】
次に、請求項2に記載の養液栽培方法によれば、培地の上部開口近傍の所定位置に植え付けられた苗は、培地の内部を通って吸い上げられた養液を用いて発芽(発根)し、その根元部から吸水根(養液吸収根)と呼ばれる細根を該培地の内部に伸長させていくとともに、遮光部材の外部に位置する茎部からは、容器の外に向かって多数の葉茎が展開していく。また、吸水根から分かれて、培地と底部の養液層の間の空間に伸長した根には、塊根の元となる塊根形成部が形成され、やがてこの部位に塊根(根菜)が形成されることとなる。
【0015】
従って、本発明に係る養液栽培方法によれば、幼苗を別途苗床等で育苗したり、苗を植え替えたりする手間がなく、根菜類を種苗から直接栽培することが可能となる。
【0016】
また、本発明の栽培方法は、幼苗の採取時期(タイミング)によって収穫量が左右されることがなく、遮光部材を取り除くだけで、適当な大きさになった塊根を適宜収穫することができる。従って、本発明の養液栽培方法は、根菜類の栽培のコストダウンと安定供給を実現することができる。
【0017】
なお、本発明の養液栽培方法は、ヤマイモ,ナガイモ,ジネンジョなどの山芋類、サトイモ,京イモ,エビイモなどの里芋類、ジャガイモ類等の根菜に適用可能であり、特に、塊根を取り除いた根に新たな塊根が出現するサツマイモ類の栽培に適している。サツマイモ類の場合は、従来の土壌栽培に比べ、その寿命および単位面積あたりの収穫量を飛躍的に向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の根菜類の養液栽培装置によれば、培地の上部側に植え付けられた萌芽前の苗に、培地の内部を通って吸い上げられた養液を供給することができるとともに、この培地と前記養液層との間の空間に成長した塊根の成長度合いの確認や収穫を容易に行なうことができる。
【0019】
また、本発明の根菜類の養液栽培方法によれば、幼苗の植え替えの手間がなく、根菜類を種苗から直接栽培することが可能で、従来の土壌栽培に比べ、単位面積あたりの収穫量を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつこの発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態における根菜類の養液栽培装置の概略構成図である。なお、この図においては、養液を還流させるパイプやポンプ等からなる養液循環システムの図示を省略している。
【0021】
本実施形態は、サツマイモを栽培する場合の例を示したものであり、この養液栽培装置は、所要の深さを有する栽培容器1と、この栽培容器1の底部1bに貯えられた養液(養液層)2と、この養液2から栽培容器1の上部開口1aに向けて配置された培地3,3と、栽培容器1の開口1aを覆う遮光部材(遮光フィルム)4と、を主体として構成されている。
【0022】
栽培容器1は、耐水・耐光性を有する樹脂材料から形成されており、その深さ(高さ)は、培地3,3を配置した後も、これら培地3の下側に塊根の形成に十分な空間Sを形成できるように設計されている。
【0023】
また、培地3,3は、例えばロックウールスラブや連通気泡等を有する多孔質部材など、吸水性と、根が内部に進入することのできる程度の粗さを備えた(ポーラスな)素材からなる略板状の部材であり、その下端が養液2の中に、その上端が栽培容器1の開口1a近傍で互いに支えあうように、栽培容器1の中に載置されている。
【0024】
さて、この栽培装置を用いたサツマイモの養液栽培は、最初に、培地3,3の上端近傍に苗の根元を差し込んで植え付け、その根元部と栽培容器1の開口を覆うように遮光部材4を配設する。なお、この場合、植え付ける苗は、通常の土壌栽培や従来の養液栽培で用いるような根や葉茎が成長した幼苗ではなく、根や茎が萌芽する前の種苗が用いられる。
【0025】
培地3に植え付けられたサツマイモの種苗は、培地3の内部を通って吸い上げられた養液2の供給を受けて根と茎が萌芽し、その根(細根)Bが培地3の内部に伸長して行くと同時に、遮光部材4の外側では、つるの伸長に連れて多数の葉茎Aが展開して行く。
【0026】
また、細根は伸長に伴い、そのまま培地3の内部を伸長して養液2層に到達する吸水根(栄養吸収根)と、塊根を生じる根とに分化し、この塊根を生じる根は、培地3と養液2層の間の空間Sに突出して、やがて塊根Cを生じる。
【0027】
以上の構成により、本実施形態における養液栽培装置は、幼苗を別途苗床等で育苗したり、苗を植え替えたりすることなく、サツマイモを種苗から直接栽培することができる。
【0028】
また、本実施形態におけるサツマイモの養液栽培方法は、栽培容器1開口を覆う遮光部材4を取り除くだけで、空間S内に成長した塊根の成長度合いの確認や収穫を容易に行なうことができるうえ、この栽培方法は、塊根を取り除いた根に新たな塊根が出現するため、サツマイモの苗の寿命および単位面積あたりの収穫量を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0029】
(実施例)
次に、この栽培装置および栽培方法を用いて行なった栽培実験の結果を説明する。
図2は、本発明の栽培容器を複数用いた養液栽培装置の概略構成図であり、図3は、1つの栽培容器の構造を示す(a)上面図、(b)側面図、(c)断面図である。
【0030】
この実施例における養液栽培装置は、ビルの屋上に設置されたものであり、複数の栽培容器1を配管(13)で接続し、ポンプ14を用いて、これらの中を養液2が循環するように構成したものである。なお、図中の符号11,12は養液を貯める貯水槽、13a,13b,13cはそれぞれ吸水配管,排水配管,揚水配管である。
【0031】
また、本実施例において栽培する根菜としては、サツマイモ(品種:Elegant summer)を選択し、以下の[表1]に示す組成の養液(培養液)を循環させつつ、170日間(6月初旬〜11月中旬)栽培を行なった。なお、蒸発により養液が不足した場合は、貯水槽に水道水が自動的に追加される。
【0032】
(表1) 養液1L中の肥料成分濃度
アンモニア態窒素:22.5mg
硝酸態窒素:233mg
リン酸(P):120mg
カリ(KO):405mg
苦土(MgO):60mg
マンガン(MnO):1.5mg
ホウ素(B):1.5mg
硫黄(SO):70.5mg
石灰(CaO):230mg
鉄(Fe):2.7mg
【0033】
この栽培実験の結果、1株あたり平均1.4kgのサツマイモ塊根の収穫を得た(1株の植え付け面積0.25m)。この収穫量は、単位面積あたりに換算すると、5600kg/10aに相当し、従来の土壌栽培における平均収穫量(2880kg/10a)の約2倍近い収穫量が得られた。
【0034】
また、この栽培実験からは、
1)1つの塊根が、土壌栽培に比べて大きく成長する。
1)塊根を栽培途中で取り除いた場合も、その根に新たな塊根が出現するため、サツマイモの収穫期間および単位面積あたりの収穫量を伸ばすことができる。
2)温度、特に根圏の温度を高めることにより、二期作を行なうことが可能。
3)ビニールトンネル等で装置全体を覆い、開花を制御すれば、ほぼ周年的な計画栽培も可能。
4)農薬等を使用することなく、人体に対して安心・安全な作物を生産することができる。
5)土壌による影響がないため、品質(形状)の揃ったサツマイモが生産できる。
等のメリットを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態における根菜類の養液栽培装置の概略構成図である。
【図2】本発明の栽培容器を複数用いた養液栽培装置の概略構成図である。
【図3】1つの栽培容器の構造を示す(a)上面図、(b)側面図、(c)断面図である。
【図4】従来のサツマイモの養液栽培方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0036】
1 栽培容器
2 養液(層)
3 培地
4 遮光部材
5 蓋部材
11,12 貯水槽
13 配管
14 ポンプ
A 葉茎
B 根
C 塊根
S 空間
【出願人】 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
【出願日】 平成18年7月5日(2006.7.5)
【代理人】 【識別番号】100090608
【弁理士】
【氏名又は名称】河▲崎▼ 眞樹


【公開番号】 特開2008−11752(P2008−11752A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2006−185133(P2006−185133)