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【発明の名称】 凝集系核反応の予測方法およびその予測装置、凝集系核反応を予測するプログラム、ならびに核種変換後の物質の検出方法
【発明者】 【氏名】伊藤 岳彦

【氏名】岩村 康弘

【要約】 【課題】高い確度で核反応を予測することができる凝集系核反応の予測方法を提供する。

【解決手段】凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ、凝集系構造体に対して重水素を流して、核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応の予測方法であって、核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を、核種変換後の物質と予測する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ、
前記凝集系構造体に対して重水素を流して、前記核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応の予測方法であって、
前記核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を、核種変換後の物質と予測することを特徴とする凝集系核反応の予測方法。
【請求項2】
予測した前記核種変換後の物質が不安定元素である場合には、前記核種変換を施す物質の原子番号を2m(mはnと異なる自然数)加えるとともに、質量数を2m加えた物質を、核種変換後の物質と予測することを特徴とする請求項1記載の凝集系核反応の予測方法。
【請求項3】
凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ、
前記凝集系構造体に対して重水素を流して、前記核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応の予測装置であって、
前記核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を演算し、これを核種変換後の物質と予測することを特徴とする凝集系核反応の予測装置。
【請求項4】
凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ、
前記凝集系構造体に対して重水素を流して、前記核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応を予測するプログラムであって、
前記核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を、核種変換後の物質と予測する工程を含むことを特徴とする凝集系核反応を予測するプログラム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の凝集系核反応の予測方法によって得られた核種変換後の物質の検出方法であって、
予測した前記核種変換後の物質が、他の物質によって検出を阻害されない方法を用いることを特徴とする核種変換後の物質の検出方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集系核反応の予測を行う方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パラジウム等の固体からなる凝集系構造体に対して、核種反応を施す物質を接触させ、凝集系構造体に対して重水素を流し、凝集系反応を生じさせて核種変換を行う方法は、種々報告されている(特許文献1及び非特許文献1乃至4)。
これらの代表的な凝集系核反応としては、以下のものが知られている。
133Cs→141Pr
88Sr→96Mo
12C→24Mg→28Si→32
23Na→27Al
これらの反応は、全て、実験により観測されたものである。
【0003】
【特許文献1】特開2002−202392号公報
【非特許文献1】Y. Iwamura, T. Itoh et al., Observation of Nuclear TransmutationReactions Induced by D2 Gas Permeation Through Pd Complexes, Proc. 11th Int.Conf. Cold Fusion, 31 October - 5 November 2004(Marseilles, France), pp.339-350
【非特許文献2】岩村康弘、伊藤岳彦、坂野充、栗林志頭真:重水素透過によるPd多層膜上での元素変換の観測,「固体物理」,vol,. 39, No. 4, (2004), pp. 203-210
【非特許文献3】Y. Iwamura, T. Itoh and M. Sakano, Proc 8th Int. Conf. Coldfusion(Italian Physical Society, Bologna, Italy, 2000), pp. 141-146
【非特許文献4】Y. Iwamura, M. Sakano and T. Itoh, Elemental Anarysis of PdComplexes: Effects of D2 Gas Permeation, Jpn. J. Appl. Phys. 41,4642-4648(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、今後、新たな核反応について実験を行う場合、どのような核種を選べば、どのような核種が生成されるかという予測については、明確になっていない。
一方、生成された核種を検出する場合、検出方法によっては、検出を妨害する元素が存在する場合が多々ある。特に反応が微量な場合には、検出精度を上げるために適切な反応を選択することが必要となるが、その指針を得る方法が存在しない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、高い確度で核反応を予測することができる凝集系核反応の予測方法およびその予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の凝集系核反応の予測方法およびその予測装置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる凝集系核反応の予測方法は、凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ、前記凝集系構造体に対して重水素を流して、前記核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応の予測方法であって、前記核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を、核種変換後の物質と予測することを特徴とする。
【0007】
核種変換を施す物質の原子番号を2n加えるとともに、質量数を2n加えた物質を核種変換後の物質と予測することにより、検出すべき核種変換後の物質を定めることができ、たとえ微量であっても核種変換後の物質の同定が容易となる。
予測される核種変換後の物質は、1つとなる場合もあり、また、2以上となる場合もある。
【0008】
さらに、本発明の凝集系核反応の予測方法は、予測した前記核種変換後の物質が不安定元素である場合には、前記核種変換を施す物質の原子番号を2m(mはnと異なる自然数)加えるとともに、質量数を2m加えた物質を、核種変換後の物質と予測することを特徴とする。
【0009】
予測した核種変換後の物質が、放射性物質等の不安定元素である場合には、この物質が核種変換後の物質として安定的に存在する確率は低いので、この予測した物質は核種変換後の物質と予測しないこととする。そして、原子番号を2m加えるとともに、質量数を2m加えた物質を核種変換後の物質と予測することとする。これにより、核種変換後の物質を精度良く予測することができる。
【0010】
また、本発明にかかる凝集系核反応の予測装置は、凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ、 前記凝集系構造体に対して重水素を流して、前記核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応の予測装置であって、前記核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を演算し、これを核種変換後の物質と予測することを特徴とする。
【0011】
核種変換を施す物質の原子番号を2n加えるとともに、質量数を2n加えた物質を核種変換後の物質と予測することにより、検出すべき核種変換後の物質を定めることができ、たとえ微量であっても核種変換後の物質の同定が容易となる。
予測される核種変換後の物質は、1つとなる場合もあり、また、2以上となる場合もある。
【0012】
また、本発明にかかる凝集系核反応を予測するプログラムは、凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ、前記凝集系構造体に対して重水素を流して、前記核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応を予測するプログラムであって、前記核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を、核種変換後の物質と予測する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
核種変換を施す物質の原子番号を2n加えるとともに、質量数を2n加えた物質を核種変換後の物質と予測することにより、検出すべき核種変換後の物質を定めることができ、たとえ微量であっても核種変換後の物質の同定が容易となる。
予測される核種変換後の物質は、1つとなる場合もあり、また、2以上となる場合もある。
【0014】
また、本発明にかかる核種変換後の物質の検出方法は、上記の凝集系核反応の予測方法によって得られた核種変換後の物質の検出方法であって、予測した前記核種変換後の物質が、他の物質によって検出を阻害されない方法を用いることを特徴とする。
【0015】
予測した核種変換後の物質が、検出時に、他の物質によって検出が阻害されることがある。本発明の検出方法では、高い確度で核種変換後の物質を予測できるので、予測した核種変換後の物質が他の物質によって検出を阻害されない検出方法を用いることができる。これにより、核種変換後の物質を確実に検出することができる。
代表的な検出方法としては、XPS(X-ray
Photo-electron Spectrometry:X線照射光電子スペクトル分析)、プラズマ発光質量分析器(ICP−Mass:Inductive Couple Plasma - Mass)、蛍光X線分析等が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
高い確度で凝集系核反応を予測することができるので、効率よく核反応実験ないし反応生成物の検出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
先ず、凝集系核反応の概略を説明した後に、本発明にかかる凝集系核反応の予測方法について説明する。
【0018】
図1には、凝集系核反応を実現する装置10の概略が示されている。
この装置10は、パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこれらの合金等からなる、例えば略板状の構造体(凝集系構造体)11を備えている。この構造体11の一方の表面11A上には、核種変換を施す物質14が接触させられている。この一方の表面11A側は、例えば加圧あるいは電気分解等によって、重水素の圧力が高い領域12とされている。構造体11の他方の表面11B側は、例えば真空排気等により重水素の圧力が低い領域13とされている。これにより、構造体11内に重水素の流れ15が生成され、重水素と核種変換を施す物質14とが反応することによって核種変換が行われる。
ここで、構造体11は、図2に示すように、好ましくはPd基板23の表面上に、相対的に仕事関数が低い物質つまり電子を放出し易い物質(例えば、仕事関数が3eV未満の物質)とPdとの混合層22が形成され、この混合層22の表面上にPd層21が積層されて形成されている。
【0019】
図3には、図1に示した装置10をさらに具体化した核種変換装置30が示されている。核種変換装置30は、内部が気密保持可能とされた吸蔵室31と、この吸蔵室31の内部にて多層構造体32を介して気密保持可能に設けられた放出室34と、バリアブルリークバルブ33を介して吸蔵室31内に重水素を供給する重水素ボンベ35と、放出室34内の真空度を検出する放出室真空計36と、例えば多層構造体(凝集系構造体)32から生成されるガス状の反応生成物を検出すると共に放出室34内の重水素量を計測することにより多層構造体32を透過する重水素の透過量を評価する質量分析器37と、放出室34内を常に真空状態に保つターボ分子ポンプ38と、放出室34及びターボ分子ポンプ38内を荒引きするためのロータリーポンプ39とを備えて構成されている。
【0020】
さらに、核種変換装置30は、例えばX線や電子線、粒子線等の照射により励起された多層構造体32の表面上の原子から放出される光電子やイオン等を検出する静電アナライザー40と、多層構造体32の両面のうち吸蔵室31内の重水素に曝される表面上にX線を照射するXPS(X-ray Photo-electron Spectrometry:X線照射光電子スペクトル分析)用のX線銃41と、内部に重水素が導入された吸蔵室31内の圧力を検出する圧力計42と、例えばベリリウム窓43を有する高純度ゲルマニウム検出器44からなるX線検出器と、吸蔵室31内の真空度を検出する吸蔵室真空計45と、例えば重水素の導入以前等に吸蔵室31内を真空状態に保持する真空バルブ46と、吸蔵室31を真空状態にするターボ分子ポンプ47と、吸蔵室31及びターボ分子ポンプ47内を荒引きするためのロータリーポンプ48とを備えて構成されている。
【0021】
そして、多層構造体32の吸蔵室31側を相対的に重水素の圧力が高い状態とし、多層構造体32の放出室34側を相対的に重水素の圧力が低い状態として、多層構造体32の両面において重水素の圧力差を形成することで、吸蔵室31側から放出室34側へ重水素の流れを作り出す。ここで、例えば図4に示すように、多層構造体32は、Pd基板23の表面上に相対的に仕事関数が低い物質(例えば、仕事関数が3eV未満の物質)とPdとの混合層22が形成され、この混合層22の表面上にPd層21が積層され、さらに、Pd層21の表面上に核種変換を施す物質としてセシウム(Cs)層52が添加(接触)されて構成されている。
【0022】
本実施の形態による核種変換装置30は上記構成を備えており、次に、この核種変換装置30を用いて核種変換を行う方法について添付図面を参照しながら説明する。
【0023】
先ず、例えば図2に示すPd基板23(例えば、縦25mm×横25mm×厚さ0.1mm、純度99.5%以上)をアセトン中で所定時間に亘って超音波洗浄することにより脱脂する。そして、真空中(例えば、1.33×10-5Pa以下)において、例えば900℃の温度で所定時間(例えば、10時間)に亘ってアニールつまり加熱処理を行う(ステップS01)。次に、例えば室温でアニール後のPd基板23を重王水により所定時間(例えば、100秒間)に亘ってエッチング処理を施して表面の不純物を除去する(ステップS02)。
【0024】
次に、アルゴンイオンビームによるスパッター法を用いて、エッチング処理後のPd基板23上に成膜処理を施して構造体11を作成する。ここで、例えば図2に示すPd層21の厚さは400・10-10mとし、仕事関数の低い物質とPdとの混合層22は、例えば図5(a)に示すように、例えば厚さ100・10-10mのCaO層57と、例えば厚さ100・10-10mのPd層56とを交互に積層して形成し、この混合層22の厚さを1000・10-10mとした。そして、混合層22の表面上にPd層21を400・10-10mで成膜することにより、構造体11を形成した(ステップS03)。
【0025】
次に、CsNO3のD2O希薄溶液(CsNO3/D2O溶液)の電気分解により、核種変換を施す物質として、例えばCsを構造体11の成膜処理表面に添加する。例えば、図6に示す電着装置60のように、1mMのCsNO3/D2O溶液を電解液62として、電源61の陽極に白金陽極63を接続し、陰極に構造体11を接続して、例えば1Vの電圧で10秒間に亘って電気分解を行い、構造体11の表面上で下記化学式に示す反応を発生させてCs層52を添加して、多層構造体32を形成する(ステップS04)。
Cs+e→Cs
【0026】
そして、多層構造体32のCs層52を吸蔵室31側に向けて、多層構造体32を介在させて吸蔵室31と放出室34とをそれぞれ気密状態に閉塞して、先ず、放出室34をロータリーポンプ39およびターボ分子ポンプ38により真空排気する。そして、バリアブルリークバルブ33を閉じ、真空バルブ46を開いて吸蔵室31をロータリーポンプ48およびターボ分子ポンプ47により真空排気する(ステップS05)。次に、吸蔵室31の真空度が充分安定した後(例えば、1×10-5Pa以下の状態)に、XPSにより吸蔵室31側の多層構造体32の表面上に存在する元素を分析する(ステップS06)。すなわち、X線銃41からのX線を多層構造体32の表面に照射して、このX線の照射により励起された多層構造体32の表面上の原子から放出される光電子のエネルギーを静電アナライザー40により検出する。これにより、多層構造体32の吸蔵室31側の表面上に存在する元素を同定する。
【0027】
次に、多層構造体32を、加熱装置(図示略)により例えば70℃の温度で加熱した後、真空バルブ46を閉じて吸蔵室31の真空排気を停止して、バリアブルリークバルブ33を開いて吸蔵室31内に所定のガス圧力で重水素ガスを導入して、核種変換の実験を開始する。ここで、重水素ガスを導入する際の所定のガス圧力は例えば1.01325×105Pa(いわゆる1気圧)とした。そして、放出室34の質量分析器37でガス状の反応生成物(例えば、質量数A=1〜140)の測定を行い、多層構造体32を透過して放出室34内に放出された重水素の拡散挙動の評価を行う。また、多層構造体32の吸蔵室31側の高純度ゲルマニウム検出器44によりX線の測定を行う(ステップS07)。なお、多層構造体32を透過して放出室34内に放出された重水素量は、例えば放出室真空計36により検出される放出室34内の真空度と、ターボ分子ポンプ38の排気速度とに基づいて算出する。
【0028】
吸蔵室31内に重水素ガスの導入を開始してから所定時間、例えば数十時間後に、多層構造体32の温度を常温に戻す。そして、バリアブルリークバルブ33を閉じて吸蔵室31内への重水素ガスの導入を停止して、さらに、真空バルブ46を開いて吸蔵室31を真空排気して核種変換の実験を終了する。そして、吸蔵室31内の真空度が充分安定した後(例えば、1×10-5Pa以下の状態)に、XPSにより吸蔵室31側の多層構造体32の表面上に存在する元素を分析して生成物の測定を行う(ステップS08)。
【0029】
そして、上述したステップS06〜ステップS07の処理を繰り返して、核種変換反応の時間変化を測定する(ステップS09)。そして、多層構造体32を核種変換装置30から取り出して、核種変換の実験を終了する(ステップS10)。
【0030】
以上の実験により、以下の核反応が確認された(詳細には特許文献1参照)。
133Cs→141Pr
【0031】
次に、上述の凝集系核反応によって得られる核種変換後の物質の予測方法について説明する。
核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を、核種変換後の物質と予測する。
すなわち、核種変換を施す物質をA、核種変換後の物質をBとした場合、
A+n×α→B ・・・(1)
の関係に基づいて予測する。ここで、αはHe原子核(原子番号2,質量数4)である。
なお、αは反応に必要な重水素Dの2個分に相当し、上式(1)は、
A+2n×D→B ・・・(2)
とも書くこともできる。反応メカニズムを理解する上では、(2)式が良いが、原料A、生成物Bの関係を表現する上では(1)式が便利なため、以下では(1)式に従って説明する。
【実施例1】
【0032】
先ず、上述した、核種変換を施す物質を133Csとした場合の予測方法について説明する。
本予測方法では、図7に示すように、原子番号および質量数で整理した核図表を用いる。この核図表には、放射性元素等の不安定元素については記載していない。つまり、天然に存在する安定核種のみを示している。
また、安定同位体の存在比については、図8に示した区分けに従って分類されている。例えば、図7及び図8から、133Csは90%以上の確率で安定的に存在すると判断することができる。
【0033】
図7に示すように、133Csから原子番号を2加えるとともに質量数を2加え、α核1つ分移動すると、空白の位置(原子番号57,質量数80の位置)となる。ここでは、図8より安定元素が存在しないと判断し、さらにα核1つ分移動し、141Prの位置へと移動する。ここでは、安定元素として141Prが90%以上の確率で存在するため、核種変換後の物質として141Prを予測することができる。
【0034】
このように、133Cs→141Prという反応を予測したら、次に、検出方法を検討する。上述のようにXPSによる検出の際には、Cu(銅)が同時に検出されるので、141Prを検出する際に問題ないかを検討する。この場合、141Prの検出に対してCuが阻害することはないので、XPSによる検出方法は適切であると判断する。
【0035】
また、検出方法として、プラズマ発光質量分析器(ICP−Mass:Inductive Couple Plasma - Mass)を用いる場合には、以下のように検討する。
この場合、電解溶液中の物質を考慮する。具体的には、図9に示すように、質量数141の141Prを検出する場合に、同じ質量数141となる物質が存在しないかを検討する。同図によれば、質量数141に妨害イオンがないと判断でき、ICP−Massによる分析が適切であると判断する。
【0036】
また、蛍光X線分析を用いる場合には、パラジウムの光に隠れてしまう場合があるので、塩素フィルタ等でカットして測定するのが好ましい。
【実施例2】
【0037】
次に、図10を用いて、88Sr→96Moの反応について検討する。
既述のように、この反応はすでに実験によって確認されている(例えば特許文献1参照)。
図10に示した核図表は、図7と同様に作成されており、安定元素のみが示されている。同位体の存在率については、図8に従う。
【0038】
図10の核図表によれば、88Srからα核1つ分移動させると、92Zrとなり、さらにα核1つ分移動させると96Moとなる。この場合、92Zr及び96Moはいずれも安定元素であり、同等の確度(20〜30%)で存在すると考えられるので、これら92Zr及び96Moを核種変換後の物質と予測する。したがって、検出の際には、これら92Zr及び96Moを検出するように検出装置を調整して行う。
実際の実験では、α核2つ分移動した96Moが検出され、88Sr→96Moの反応が確認されることになる。
このように、本予測方法によれば、核種変換後の物質を2つまで絞ることができ、これらの物質に焦点を合わせた検出方法を選択できるので、確実に核種変換後の物質を検出することができる。
【実施例3】
【0039】
次に、図11を用いて、12C→24Mg→28Si→32S及び23Na→27Alの反応について検討する。
既述のように、これらの反応はすでに実験によって確認されている(例えば特許文献1参照)。
図11に示した核図表は、図7及び図10と同様に作成されている。同位体の存在率については、図8に従う。
【0040】
図11から、核種変換を施す物質を12Cとした場合、α核が3つ分移動した24Mgの存在確率が70〜90%、さらにα核が1つ分移動した28Siの存在確率が90%以上、さらにα核が1つ分移動した32Sの存在確率が90%以上であることがわかる。したがって、12C→24Mg→28Si→32Sの核反応を予測することができる。
【0041】
核種変換を施す物質を23Naとした場合についても、図11から、α核1つ分移動した27Alの存在確率が90%以上と判断されるので、23Na→27Alの核反応を予測することができる。
【実施例4】
【0042】
次に、核種変換を施す物質として天然Baを用いた場合を説明する。
図12には、この実験に用いた核図表が示されている。この図12の核図表についても、図7,図10及び図11と同様に作成されている。同位体の存在確率については図8に従う。
【0043】
天然Baは、138Baが71.7%を占めており、ほとんど138Baである。したがって、天然Baを用いた場合は、138Baを用いた実験と等価であると考える。
図12の核図表より、予測される核反応として、以下のものが得られる。
138Ba+1×α→142Ce
138Ba+2×α→146Nd
138Ba+3×α→150Sm
これらの核種はいずれも安定核種であるため、これら3つの核種を候補として核反応実験および検出を行う。
実際に実験した結果(非特許文献1参照)では、3×αの反応である150Smが生成されていることが分かった。つまり、XPS分析によってSmが判明し、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)によって質量数が150であることが判明した。
【実施例5】
【0044】
次に、実施例4で用いた138Baの同位体である137Baを核種変換を施す物質として用いた場合を説明する。137Baは、138Baを80%まで同位体濃縮した試薬を用いた。
図13には、本実験に用いた核図表が示されている。この図12の核図表についても、図7,図10,図11及び図12と同様に作成されている。同位体の存在確率については図8に従う。
【0045】
予測される核反応として、以下のものが得られる。
137Ba+1×α→141Ce
137Ba+2×α→145Nd
137Ba+3×α→149Sm
これらの核種の中で、141Ceは核図表より不安定核種と判断されるので、確度は低いと考えられる。145Nd及び149Smは、核図表より安定核種と判断され、これらの確度は同等と考えられる。しかし、天然Baである138Baを用いた実施例4では150Smが生成したため、同位体である137Baの実験では149Smが生成する可能性が高いと考えられる。したがって、核種変換後の物質としては、以下の順序の確率と判断される。
149Sm(3α)>145Nd(2α)>141Ce(1α)
このような予測の下、実験を行い、SIMSによって質量数が149であることが判明した(非特許文献1参照)。生成量が微量なため、XPSでは検出できなかったが、質量数149の核種で安定なものは149Smのみなので、実際に149Smが生成された可能性が高いと考えられる。
【0046】
以上説明した実施例1〜5の凝集系核反応、あるいは実施例1〜5以外の凝集系核反応は、以下に示す凝集系核反応の予測装置を構成し、これにより予測することもできる。
この予測装置は、CPU(中央演算装置)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random
Access Memory)等から構成された処理部を備えている。ROMには、図7等に示した核図表に関するデータと、この核図表に基づいて核種変換後の物質を選定するプログラムとが格納されている。入力として核種変換を施す物質が与えられれば、ROMに格納されたプログラムをCPUがRAM等に読み出してプログラムを実行することにより、核図表に基づいて予測される核種変換後の物質を演算し、外部出力装置に出力する。
実行されるプログラムは、核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を核種変換後の物質と予測する工程を含み、さらに、これら核種変換後の物質のうち存在確率の高い物質を選定する工程をも含んでいる。
【0047】
以上の通り、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を核種変換後の物質と予測することにより、検出すべき核種変換後の物質を定めることができ、たとえ微量であっても核種変換後の物質の同定が容易となる。
また、予測した核種変換後の物質が、放射性物質等の不安定元素である場合には、この物質が核種変換後の物質として安定的に存在する確率は低いので、この予測した物質は核種変換後の物質と予測しないこととした。そして、原子番号を2m(mはnと異なる自然数)加えるとともに、質量数を2m加えた物質を核種変換後の物質と予測することとした。これにより、核種変換後の物質を精度良く予測することができる。
また、予測した核種変換後の物質が、他の物質によって検出が阻害されるか否かを判断し、適切な検出方法によって核種変換後の物質を検出することとした。これにより、核種変換後の物質を確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る核種変換方法の原理を説明する概略図である。
【図2】図1の核種変換方法にて使用される構造体を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る核種変換装置の構成図である。
【図4】図3に示す核種変換装置で使用する多層構造体を示す断面図である。
【図5】(a)は混合層の断面構成図であり、(b)は混合層を含む構造体の断面図である。
【図6】構造体に核種変換を施す物質を添加する装置の概略構成図である。
【図7】133Cs→141Prの核反応を予測する際に用いられる核図表である。
【図8】同位体の存在率の区分けを示した図である。
【図9】検出方法としてICP−Massを用いた場合に、考慮すべき物質を示した図である。
【図10】88Sr→96Moの核反応を予測する際に用いられる核図表である。
【図11】12C→24Mg→28Si→32S及び23Na→27Alの核反応を予測する際に用いられる核図表である。
【図12】核種変換を施す物質として天然Baを用いた場合の核反応を予測する際に用いられる核図表である。
【図13】核種変換を施す物質として137Baを用いた場合の核反応を予測する際に用いられる核図表である。
【符号の説明】
【0049】
11 凝集系構造体
30 核種変換装置
【出願人】 【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
【出願日】 平成18年5月31日(2006.5.31)
【代理人】 【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴

【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生


【公開番号】 特開2007−322202(P2007−322202A)
【公開日】 平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願番号】 特願2006−151335(P2006−151335)