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【発明の名称】 神経等価回路、シナプス等価回路及び神経細胞体等価回路
【発明者】 【氏名】張 暁林
【氏名】前田 幸徳
【課題】神経回路、シナプス及び神経細胞体の各入出力関係を数式化し、神経細胞の生理学機能と物理的構造に沿った電気特性を忠実に再現した神経等価回路、シナプス等価回路及び神経細胞体等価回路を提供する。

【解決手段】神経細胞の電気的特性を模倣する神経等価回路は、その入力信号fin(t)と出力信号fout(t)とが、以下の関係を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シナプスの電気的特性を模倣するシナプス等価回路であって、該シナプス等価回路は、入力端子と出力端子とを有し、前記入力端子に入力される入力信号fin(t)と前記出力端子から出力される出力信号Ipsp(t)とが、以下の関係を有する、すなわち、


但し、kは−∞<k<∞の範囲の定数、kは−∞<k<∞の範囲の定数、Tは0<T≦∞の範囲の定数、Lはシナプスが有する第1伝達物質の種類の総数、l=1,2,,,Lでありlはシナプスの第1伝達物質の番号、Mはシナプスが有する第2伝達物質の種類の総数、m=1,2,,,Mでありmはシナプスの第2伝達物質の番号、eはネイピア数、tは時間、τはt=0から現時点までの時間である、
ことを特徴とするシナプス等価回路。
【請求項2】
請求項1に記載のシナプス等価回路において、前記入力端子は電気抵抗を介して電圧制御抵抗手段の制御端子に接続され、前記出力端子は、電源を介して前記電圧制御抵抗手段に接続されることを特徴とするシナプス等価回路。
【請求項3】
請求項2に記載のシナプス等価回路において、前記電気抵抗と電圧制御抵抗手段の制御端子との間の電位は、第2電気抵抗とコンデンサが並列に接続される並列回路を介して基準電位に接続されることを特徴とするシナプス等価回路。
【請求項4】
請求項3に記載のシナプス等価回路において、前記並列回路は、さらに、並列に接続されるコイルを有することを特徴とするシナプス等価回路。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のシナプス等価回路において、前記入力端子は、環境知覚手段に接続されることを特徴とするシナプス等価回路。
【請求項6】
神経細胞体の電気的特性を模倣する神経細胞体等価回路であって、該神経細胞体等価回路は、入力端子と出力端子とを有し、前記入力端子に入力される入力信号Ipsp(t)と前記出力端子から出力される膜電位V(t)とが、以下の関係を有する、すなわち、


但し、Eは静止膜電位、kは0<k<∞の範囲の定数、Tは0≦T≦∞の範囲の定数、Nはシナプスの総数、n=1,2,,,Nでありnは神経細胞につながるシナプスの番号、eはネイピア数、tは時間、tは前回のパルスの終了時の時間、τはt=0から現時点までの時間、ηはt=tから現時点までの時間、σは神経細胞膜の活動電位の閾値、δ(t)はインパルス関数である、
ことを特徴とする神経細胞体等価回路。
【請求項7】
請求項6に記載の神経細胞体等価回路において、該神経細胞体等価回路は、前記出力端子と基準電位端子の間に、
細胞膜容量に相当するコンデンサと、
静止膜電位に相当する電源と細胞膜の透過性に相当する電気抵抗とが直列に接続された回路と、
ナトリウムイオンの化学ポテンシャルの等価電位に相当する電源と、ナトリウムイオンチャネルに相当するリレー素子と、ナトリウムイオンチャネルの透過性に相当する電気抵抗とが直列に接続されたナトリウムイオンチャネル等価回路と、
が並列に接続されて構成されることを特徴とする神経細胞体等価回路。
【請求項8】
請求項7に記載の神経細胞体等価回路において、該神経細胞体等価回路は、前記出力端子と基準電位端子の間に、さらに、
カリウムイオンの化学ポテンシャルの等価電位に相当する電源と、カリウムイオンチャネルに相当するリレー素子と,カリウムイオンチャネルの透過性に相当する電気抵抗とが直列に接続されたカリウムイオンチャネル等価回路と、
が並列に接続されて構成されることを特徴とする神経細胞体等価回路。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の神経細胞体等価回路において、該神経細胞体等価回路は、前記出力端子と基準電位端子の間に、さらに、
ナトリウムイオンとカリウムイオン以外の所定のイオンの化学ポテンシャルの等価電位に相当する電源と、前記所定のイオンのイオンチャネルに相当するリレー素子と、前記所定のイオンのイオンチャネルの透過性に相当する電気抵抗とが直列に接続されたイオンチャネル等価回路と、
が並列に接続されて構成されることを特徴とする神経細胞体等価回路。
【請求項10】
請求項6乃至請求項9の何れかに記載の神経細胞体等価回路において、前記出力端子は、前記神経細胞体等価回路により制御される被制御手段に接続されることを特徴とする神経細胞体等価回路。
【請求項11】
神経細胞の電気的特性を模倣する神経等価回路であって、該神経等価回路は、その入力信号fin(t)と出力信号fout(t)とが、以下の関係を有する、すなわち、


但し、kは−∞<k<∞の範囲の定数、kは−∞<k<∞の範囲の定数、Tは0<T≦∞の範囲の定数、Nはシナプスの総数、n=1,2,,,Nでありnは神経細胞につながるシナプスの番号、Mはシナプスが有する第1伝達物質の種類の総数、m=1,2,,,Mでありmはn番目のシナプスの第1伝達物質の番号、Lはシナプスが有する第2伝達物質の種類の総数、l=1,2,,,Lでありlはn番目のシナプスの第2伝達物質の番号、eはネイピア数、tは時間、τはt=0から現時点までの時間である、
ことを特徴とする神経等価回路。
【請求項12】
請求項11に記載の神経等価回路において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載のシナプス等価回路の出力端子は、請求項6乃至請求項10の何れかに記載の神経細胞体等価回路の入力端子に接続されることを特徴とする神経等価回路。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載の神経等価回路において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載のシナプス等価回路の入力端子は、請求項6乃至請求項10の何れかに記載の神経細胞体等価回路の出力端子に接続されることを特徴とする神経等価回路。
【請求項14】
コンピュータを請求項1に記載のシナプス等価回路として機能させるためのプログラム。
【請求項15】
コンピュータを請求項6に記載の神経細胞体等価回路として機能させるためのプログラム。
【請求項16】
コンピュータを請求項11に記載の神経等価回路として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は神経等価回路、シナプス等価回路及び神経細胞体等価回路に関し、特に、神経回路、シナプス及び神経細胞体の電気的特性をそれぞれ模倣する神経等価回路、シナプス等価回路及び神経細胞体等価回路に関する。
【背景技術】
【0002】
神経細胞間の信号伝達は、一般的なアナログ信号、デジタル信号伝達と異なり、パルス周波数変調に相当するインパルス列に近い電気信号によって行われていることが知られている。また、神経細胞の発火機構を説明するためのホジキン・ハックスレー方程式が良く知られている。ホジキン・ハックスレー方程式によれば、神経細胞膜をある種の電気等価回路で表すことができ、イオンに対するコンダクタンスを電圧と時間の関数で表現して神経活動を表現することができる。
【0003】
また、発火現象に似せた等価回路としては、特許文献1に示されるような人工神経回路が挙げられる。
【0004】
人工知能と自動制御分野では、ニューラルネットワーク関して盛んに研究され、そのネットワークの各ユニットにはシグモイド関数(f(x)=1/(1+exp(−x))等が用いられている(非特許文献1等)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−168901号公報
【非特許文献1】D.E. Rumelhart, G. E. Hinton & R. J. Williams,“Learning Internal Representations by Back−Propagation Errors”, Nature, 323, 533〜536, Oct.(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、神経細胞の発火現象そのものを忠実に再現したものは存在しなかった。ホジキン・ハックスレー方程式による等価回路は、細胞の入力ユニットであるシナプスのメカニズムを取り入れておらず、情報処理機能を実現するための検討はなされていない。さらに、特許文献1の技術は、発火原理が真の意味での神経細胞の等価回路とはいえず、神経細胞間の信号伝達を忠実に模倣して細胞の信号処理機能を実現することは困難であった。具体的には、特許文献1の技術は、神経細胞体回路の出力電位が所定の閾値を超えると軸索突起回路からパルスが出力されるが、神経細胞体回路の電位が下がることがないため、実際の神経細胞の生理的特性と異なり、神経細胞のような演算機能を持たせることは不可能であった。また、特許文献1の軸索突起回路は、情報を正しく伝達するための単なる経路に過ぎず、演算機能を有するものでもなかった。
【0007】
現在提案されているニューラルネットワークの各ユニットには主にシグモイド関数が用いられているので、動的システムではない。そのため、基本的に動的システムである制御対象を制御することは難しかった。また、これまでのニューラルネットワークは数学の発想から得られたアルゴリズムであるため、実際の神経の特性を用いているものでもなかった。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、神経回路、シナプス及び神経細胞体の各入出力関係を数式化し、神経細胞の生理学機能と物理的構造に沿った電気特性を忠実に再現した神経等価回路、シナプス等価回路及び神経細胞体等価回路を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明によるシナプスの電気的特性を模倣するシナプス等価回路は、入力端子と出力端子とを有し、入力端子に入力される入力信号fin(t)と出力端子から出力される出力信号Ipsp(t)とが、以下の関係を有するものである。


但し、kは−∞<k<∞の範囲の定数、kは−∞<k<∞の範囲の定数、Tは0<T≦∞の範囲の定数、Lはシナプスが有する第1伝達物質の種類の総数、l=1,2,,,Lでありlはシナプスの第1伝達物質の番号、Mはシナプスが有する第2伝達物質の種類の総数、m=1,2,,,Mでありmはシナプスの第2伝達物質の番号、eはネイピア数、tは時間、τはt=0から現時点までの時間である。
【0010】
ここで、上式の右辺第1項を実現するために、入力端子は電気抵抗を介して電圧制御抵抗手段に接続され、出力端子は、電源を介して電圧制御抵抗手段に接続されれば良い。
【0011】
また、上式の右辺第2項を実現するために、電気抵抗と電圧制御抵抗手段との間の電位は、第2電気抵抗とコンデンサが並列に接続される並列回路を介して基準電位に接続されれば良い。
【0012】
さらに、並列回路は、並列に接続されるコイルを有しても良い。
【0013】
また、入力端子は、環境知覚手段に接続されても良い。
【0014】
また、本発明の神経細胞体の電気的特性を模倣する神経細胞体等価回路は、入力端子と出力端子とを有し、入力端子に入力される入力信号Ipsp(t)と出力端子から出力される膜電位V(t)とが、以下の関係を有するものである。


但し、Eは静止膜電位、kは0<k<∞の範囲の定数、Tは0≦T≦∞の範囲の定数、Nはシナプスの総数、n=1,2,,,Nでありnは神経細胞につながるシナプスの番号、eはネイピア数、tは時間、tは前回のパルスの終了時の時間、τはt=0から現時点までの時間、ηはt=tから現時点までの時間、σは神経細胞膜の活動電位の閾値、δ(t)はインパルス関数である。
【0015】
ここで、神経細胞体等価回路は、出力端子と基準電位端子の間に、細胞膜容量に相当するコンデンサと、静止膜電位に相当する電源と細胞膜の透過性に相当する電気抵抗とが直列に接続された回路と、ナトリウムイオンの化学ポテンシャルの等価電位に相当する電源と、ナトリウムイオンチャネルに相当するリレー素子と、ナトリウムイオンチャネルの透過性に相当する電気抵抗とが直列に接続されたナトリウムイオンチャネル等価回路と、が並列に接続されて構成されれば良い。
【0016】
また、出力端子と基準電位端子の間に、さらに、カリウムイオンの化学ポテンシャルの等価電位に相当する電源と、カリウムイオンチャネルに相当するリレー素子と,カリウムイオンチャネルの透過性に相当する電気抵抗とが直列に接続されたカリウムイオンチャネル等価回路と、が並列に接続されて構成されても良い。
【0017】
さらに、出力端子と基準電位端子の間に、ナトリウムイオンとカリウムイオン以外の所定のイオンの化学ポテンシャルの等価電位に相当する電源と、所定のイオンのイオンチャネルに相当するリレー素子と、所定のイオンのイオンチャネルの透過性に相当する電気抵抗とが直列に接続されたイオンチャネル等価回路と、が並列に接続されて構成されても良い。
【0018】
また、出力端子は、神経細胞体等価回路により制御される被制御手段に接続されても良い。
【0019】
また、本発明の神経細胞の電気的特性を模倣する神経等価回路は、その入力信号fin(t)と出力信号fout(t)とが、以下の関係を有するものである。


但し、kは−∞<k<∞の範囲の定数、kは−∞<k<∞の範囲の定数、Tは0<T≦∞の範囲の定数、Nはシナプスの総数、n=1,2,,,Nでありnは神経細胞につながるシナプスの番号、Mはシナプスが有する第1伝達物質の種類の総数、m=1,2,,,Mでありmはn番目のシナプスの第1伝達物質の番号、Lはシナプスが有する第2伝達物質の種類の総数、l=1,2,,,Lでありlはn番目のシナプスの第2伝達物質の番号、eはネイピア数、tは時間、τはt=0から現時点までの時間である。
【0020】
ここで、シナプス等価回路の出力端子は、神経細胞体等価回路の入力端子に接続されれば良い。
【0021】
また、シナプス等価回路の入力端子は、神経細胞体等価回路の出力端子に接続されても良い。
【0022】
さらに、本発明は、コンピュータをシナプス等価回路として機能させるためのプログラム、神経細胞体等価回路として機能させるためのプログラム、神経等価回路として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の神経等価回路、シナプス等価回路及び神経細胞体等価回路には、神経細胞の生理学機能と物理的構造に沿った電気特性を忠実に再現できるという利点がある。また、本発明の神経等価回路、シナプス等価回路及び神経細胞体等価回路は、安定した情報処理と信号伝達が可能である。さらに、神経等価回路、シナプス等価回路及び神経細胞体等価回路の入出力関係を数式化しているため、電気回路のみならず、コンピュータ上でも容易に神経等価回路、シナプス等価回路及び神経細胞体等価回路の機能を実現可能となる。したがって、新しいニューラルネットワークや人工知能アルゴリズムを実現することも可能となる。その他、大規模な並列演算、例えば数万の入力の加算、減算、積分計算、比例計算等を1つの神経等価回路で同時に行うことも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の神経細胞体等価回路は、ホジキン・ハックスレー方程式による等価回路を改良し、イオンチャネルの機能を電気素子等を用いて実現するものである。また、信号の入力と処理に最も重要である興奮性シナプスと抑制性シナプスを実現可能なシナプス等価回路を提案し、神経細胞全体の等価回路を実現した神経等価回路を提供するものである。神経細胞間に形成される神経活動に関わる接合部位とその構造であるシナプスの等価回路が実現できるため、信号の入出力が実現できるので、神経細胞と同じ原理で信号処理を行う神経等価回路が実現可能となる。
【0025】
本発明のシナプス等価回路においては、その入力端子は圧力センサや温度センサ等の環境知覚センサに接続することが可能であるため、知覚細胞からの信号が神経細胞に伝わるのと同様に、環境知覚センサからの信号がシナプス等価回路に入力され、その出力が神経細胞体等価回路に伝わるという神経等価回路が実現できる。
【0026】
また、神経細胞体等価回路においては、その出力端子が神経細胞体等価回路により制御されるモータやアクチュエータ等、又はこれらを制御するためのドライバ回路等、被制御部に接続することが可能であるため、神経細胞からの信号が筋肉細胞へ伝わるのと同様に、神経細胞体等価回路からの信号が被制御部に伝わるという神経等価回路も実現できる。
【0027】
以下、本発明の神経細胞体等価回路について説明する。神経細胞体の前回のパルスの終了時点から次のパルスの開始時点までの膜電位を考慮すると、次式の関係が成立する。


但し、Ipsp(t)はシナプス後部から神経細胞体に流れる電流、V(t)は膜電位、−Eは静止膜電位、Nはシナプスの総数、n=1,2,,,Nでありnは神経細胞につながるシナプスの番号、tは時間、Cは細胞膜の電気容量、gは細胞膜の透過性イオン全体に対する等価コンダクタンである。
【0028】
上式から、発火前の膜電位V(t)と入力信号Ipsp(t)との関係は、以下のようになる。
【数1】


但し、V(0)は、活動電位終了時の膜電位、eはネイピア数、tは前回のパルス終了時の時間、τはt=tから現時点までの時間、Cは細胞膜の電気容量である。
【0029】
上式を基に様々な電気回路による電気的特性を表現するように式を変形し、活動電位を同時に表現すれば、神経細胞体等価回路の入力端子に入力される入力電流Ipsp(t)と出力端子から出力される膜電位V(t)とが、以下の関係を有すれば良いことになる。すなわち、
【数2】


但し、kは0<k<∞の範囲の定数、Tは0≦T≦∞の範囲の定数、ηはt=tから現時点までの時間、σは神経細胞膜の活動電位の閾値、δ(t)はインパルス関数である。
【0030】
上式を満たす入出力関係を有する回路である限り、神経細胞体のを模倣した等価回路であると言える。なお、インパルス関数δ(t)は、例えばリレー回路を用いて近似的に実現すれば良い。
【0031】
さて、入力信号Ipsp(t)と膜電位V(t)との関係が数2を満たす神経細胞体等価回路の具体例を説明する。図1は、本発明の神経細胞体等価回路の概念図である。図中、コンデンサCは細胞膜の電気容量に相当し、この電位差は細胞膜の膜電位に相当する。また、Eは静止膜電位に相当する電源であり、イオンポンプ、不透過性陰イオン等の役割を果たすものである。さらに、ENa及びEは、それぞれナトリウムイオンNa、カリウムイオンKの細胞外液と細胞内液のイオン濃度差により生じた化学ポテンシャルの等価電位に相当する電源である。gNa及びgは、それぞれNa、Kの細胞膜全体にあるイオンチャネルが開くときの電気的コンダクタンスである。また、gは、細胞膜の透過性イオン全体に対する等価コンダクタンスである。リレー素子(Na)は、Naのイオンチャネルの電気的特性を実現するための素子であり、膜電位Vが所定の閾値を超えると、スイッチがオンになる素子である。また、リレー素子(K)は、Kのイオンチャネルの電気的特性を実現するための素子であり、膜電位Vが所定の閾値を超えると、スイッチがオンになる素子である。シナプス後部からの電流入力は、複数あっても良く、これはpsppspで示される。
【0032】
図示のとおり、Naチャネルは、膜電位Vが得られる出力端子とグラウンドとなる基準電位端子の間に、電源ENaと、リレー素子(Na)と、電気抵抗gNaとが直列に接続されて構成される。また、Kチャネルは、膜電位Vが得られる出力端子とグラウンドとなる基準電位端子の間に、電源Eと、リレー素子(K)と、電気抵抗gとが直列に接続されて構成される。さらに、上記のNaチャネルとKチャネルの等価回路に並列に、コンデンサCと、電源Eと電気抵抗gとが直列に接続されて構成された回路が接続されている。このように構成することで、神経細胞体等価回路が原理的に再現される。
【0033】
膜電位Vが所定の閾値を超えると、Naチャネルにおいては、リレー素子(Na)のスイッチがオンとなり、電源ENaから電流が流れ込むため、膜電位Vが急激に上昇する。また、Kチャネルにおいては、リレー素子(K)のスイッチがオンとなり、コンデンサCの電荷が電源Eに流れ出し、膜電位Vが急激に下降する。このようにして、図示の神経細胞体等価回路は、神経細胞体の発火特性を再現している。
【0034】
なお、NaチャネルやKチャネル以外に、必要によりカルシウムイオンCaチャネル等、所定のイオンの化学ポテンシャルの等価電位に相当する電源と、そのイオンチャネルに相当するリレー素子と、そのイオンチャネルの透過性に相当する電気抵抗とが直列に接続されて構成された回路が、さらに上記のNaチャネルやKチャネルの等価回路に並列に接続されても良い。
【0035】
次に、本発明のシナプス等価回路について説明する。神経細胞間の信号伝達は、シナプス前部とシナプス後部によって行われる。軸索から伝わってきたパルスがシナプス前部に到着すると、シナプス小胞から一定量の伝達物質がシナプス間隙に放出され、シナプス後部にある各伝達物質に対応するイオンチャネルが開く。これにより開いたチャネルに対応するイオンがチャネルを通して流れる。興奮性シナプスの場合には、細胞膜の電位が上昇し脱分極する。また、抑制性シナプスの場合には、細胞膜の電位が下降し過分極する。
【0036】
ここで、チャネルが開く時間Tと開くチャネルの種類は、伝達物質によって異なる。1パルスにより起こされる興奮性シナプスからのシナプス後電位の波形には、図2に示すような2種類の波形が存在する。図2(a)の波形は以下のように表せる一次遅れの波形に近い。


但し、kは0<k<∞の範囲の定数、Tは0≦T≦∞の範囲の定数である。
また、図2(b)の波形は、以下のように表せる波形に近い。


但し、T、Tはそれぞれ0≦T≦∞、0≦T≦∞の範囲の定数である。
【0037】
図2に示す波形は、1パルスにより引き起こすシナプス後電位であるため、数1において、シナプスの総数N=1の場合という意味である。また、活動電位終了時の膜電位V(0)は、静止膜電位−Eである。したがって、数1から分かるとおり、N=1、Vm(0)=−Eであり、Ipsp(t)が単位インパルスのとき、膜電位V(t)は以下の式で表せる。


これは、図2(a)の一次遅れの波形に相当することが分かる。
【0038】
また、Ipsp(t)が以下の式を満たす場合、すなわち、


の場合には、膜電位V(t)は以下の式で表せる。


これは、図2(b)の波形に相当することが分かる。
【0039】
したがって、興奮性シナプスからの単位パルス入力に対するシナプス後電流の応答は、以下の2種類となる。


【0040】
シナプス入力とシナプス後電流の関係を、ラプラス変換の伝達関数G(s)で表すと、以下のようになる。
【数3】


但し、Fin(s)はシナプス入力のパルス周波数関数fin(t)のラプラス変換である。fin(t)はパルス周波数関数なので、fin(t)のインパルス信号の形状は、単パルス信号とすることが可能である。すなわち、Fin(s)の単パルス信号は、Fin(s)=1とすることができる。図2(a)及び図2(b)の波形は、Fin(s)=1の場合であるので、G(s)は、以下の2つのタイプに分けられる。
【数4】


【数5】


【0041】
数3を時間領域で書き直すと、以下のようになる。


但し、g(t)はG(s)の時間領域の形であり、インパルス応答である。
【0042】
したがって、数4、数5から、2つのタイプのシナプス後電位出力と入力信号との関係は、それぞれ以下のようになる。
【数6】


【数7】


但し、kは−∞<k<∞の範囲の定数、kは−∞<k<∞の範囲の定数、Tは0<T≦∞の範囲の定数である。
【0043】
これらから、複数種類の伝達物質、すなわち第1伝達物質と第2伝達物質を有するシナプスの場合には、シナプス等価回路は、入力信号fin(t)と出力信号Ipsp(t)とが、以下の関係を有する。
【数8】


但し、Lはシナプスが有する第1伝達物質の種類の総数、l=1,2,,,Lでありlはシナプスの第1伝達物質の番号、Mはシナプスが有する第2伝達物質の種類の総数、m=1,2,,,Mでありmはシナプスの第2伝達物質の番号である。
【0044】
なお、定数k及びkに関しては、興奮性シナプスの場合には正の値となり、抑制性シナプスの場合には負の値となる。この定数k、kの値を設計することにより、数8は任意のシナプスを表すことが可能となる。例えば、第1伝達物質のみを有するシナプスを表したい場合には、k=0とすれば良い。
【0045】
さて、入力信号fin(t)と出力信号Ipsp(t)の関係が数7を満たすシナプス等価回路の具体例を説明する。図3は、本発明のシナプス等価回路の概念図である。図中、外部入力電圧をV(t)とし、電圧制御抵抗部の制御電圧をV(t)とする。また、Eは対応するイオンの化学ポテンシャルの等価電位、電気抵抗g、電気抵抗g、コンデンサCは数8の第2伝達物質の特性を実現するためのRC回路素子である。なお、電圧制御抵抗部は、具体的にはFETやトランジスタ等のように、制御電圧の大きさによりその抵抗値が変化するものである。
【0046】
図示のとおり、シナプス等価回路の入力端子は電気抵抗gを介して電圧制御抵抗部の制御端子に接続され、シナプス等価回路の出力端子は、電源Eを介して電圧制御抵抗部に接続されている。
【0047】
また、電気抵抗gと電圧制御抵抗部の制御端子との間の電位は、電気抵抗gとコンデンサCが並列に接続される並列回路を介して基準電位に接続されている。なお、この並列回路は、第2伝達物質に対応するものである。この並列回路を用いない場合は、第1伝達物質を有するシナプスに対応するものとなる。また、この並列回路に、さらにコイル等を並列に接続し、神経等価回路の入出力関係を2次系にすることも可能である。
【0048】
図3の回路図からは、以下の式が成立する。


【0049】
これらの式から、以下の式が成立する。


【数9】


【数10】


【0050】
ここで、g(t)は、V(t)=0の場合の電流I(t)である。外部入力であるV(t)をパルス列として考えると、V(t)=0の場合の各パルスの形状は同じであるので、パルスごとに同じ電荷qinが抵抗素子gを通過する。よって、一定の時間を平均的にみると以下の式が成立する。


【0051】
上式を数9、数10に代入すると、以下の式が得られる。


【0052】
ここで、以下の式を満足するものを、電圧制御抵抗部のトランジスタ等を用いて作成すれば良い。


但し、kは定数であり、表現するチャンネルの種類と伝達物質の種類と量によって定まるものである。
【0053】
上式から、以下の式が得られる。


【0054】
したがって、上式から、図3のシナプス等価回路が、数7の入出力関係を満たしているということが分かる。なお、パラメータとなるC、g、g、kの容量や抵抗値等を種々調整することにより、さまざまなシナプスの特性を実現することが可能となる。また、Cとgの並列回路を取り除けば、数6の入出力関係を満たしたシナプスの特性を実現することが可能である。
【0055】
シナプス等価回路としては、図3に示したものに限定されず、他の回路も考えられる。本発明のシナプス等価回路は、数6や数7の入出力関係を実現できれば良い。また、複数種類の伝達物質を有するシナプス等価回路を実現する場合には、数8の入出力関係を実現できれば良い。これは、例えば図4に示したような回路で実現可能である。なお、図中(t)は図3に示した回路を表している。
【0056】
ここで、シナプス等価回路のより具体的な回路図の一例を、図5に示す。図5は、第1伝達物質を有する興奮性シナプスを実現するためのシナプス等価回路である。図5の回路は、同じ種類のイオンのチャネルに作用する伝達物質を実現する興奮性シナプス等価回路である。なお、作用するイオンの種類が異なると、V6の電圧が異なる。図5の回路の入出力関係の一例を時間軸で示したのが、図6である。3つのシナプスからパルス列が入力されると、膜電位が徐々に上がることが分かる。なお、抵抗値(R2,R7,R11及びR4,R8,R9等)を変えることで、種々の第1伝達物質を有するシナプスとすることが可能である。
【0057】
次に、図7に、第1伝達物質を有する抑制性シナプスを実現するためのシナプス等価回路の具体的な回路図の一例を示す。図7の回路は、同じ種類のイオンのチャネルに作用する伝達物質を実現する抑制性シナプス等価回路である。なお、作用するイオンの種類が異なると、V3の電圧が異なる。図7の回路の入出力関係の一例を時間軸で示したのが、図8である。3つのシナプスからパルス列が入力されると、膜電位が徐々に下がることが分かる。なお、抵抗値(R1,R2,R3及びR19,R20,R21等)を変えることで、種々の第1伝達物質を有するシナプスとすることが可能である。
【0058】
次に、神経等価回路全体、すなわち、神経細胞体とシナプスとの関係について説明する。神経細胞体が発火するとき、神経細胞体全体にあるNaとKチャネルが開閉するので、パルスごとに一定の電荷qが神経細胞体の外に流出する。神経細胞体ごとの活動電位であるパルス形状は同じなので、電荷qは各神経細胞体において一定である。ここで、神経細胞体の発火により流出する電流Iout(t)は、神経細胞体の発火周波数をfout(t)とすると、以下の式で表される。


【0059】
また、シナプス後部を通過する電流は、以下の式で表される。


但し、psp(t)は、n番目のシナプスによって流出入される電流であり、Nは神経細胞体におけるすべてのシナプスの数である。
【0060】
活動電位以外の膜電位を静止膜電位として近似する場合、静止状態の各イオンが平衡状態を保っているため、膜を通過する電流は0とすることができる。また、細胞膜の電気容量をコンデンサと捉えると、細胞が発火と静止を繰り返すことは、コンデンサが充電と放電を繰り返すことと考えることができる。この充放電を一定時間帯でみる場合、電荷の移動は0として考えることが可能である。したがって、以下の式が成立する。


【0061】
したがって、上式に数8を代入すると、次式が得られる。


【0062】
ここで、qをk、kに含ませれば、神経等価回路は、その入力信号fin(t)と出力信号fout(t)が以下の関係を有することになる。
【数11】


【0063】
上式をラプラス変換すると、以下の式となる。


【0064】
上式及び数11から分かるとおり、神経等価回路は、入力の加減算、比例、積分を実現することが可能である。但し、一般の積分は漏れのある積分であるため、純粋な積分を表現する場合には、T=∞に設定すれば良い。
【0065】
さて、上述したシナプス等価回路と、神経細胞体等価回路とを統合すると、図9に示すような神経等価回路全体の等価回路を構築することが可能となる。図9に示すように、複数の興奮性シナプスや抑制性シナプスとして機能するように、複数のシナプス等価回路が細胞体等価回路に接続されている。なお、図9中、「Amp」は電圧制御抵抗器に相当するものであり、一般の増幅器でも同様の特性を得られる。
【0066】
ここで、神経等価回路のより具体的な回路図の一例を、図10に示す。図10は、興奮性シナプスを実現するためのシナプス等価回路と、Naチャネルの神経細胞体等価回路とを接続した回路である。図10の神経等価回路は、第1伝達物質を有する興奮性シナプス等価回路とNa+チャネルの神経細胞体等価回路とを接続したものであり、その入出力関係の一例は図11に示される。
【0067】
図示のとおり、コンデンサの電位が高くなる、すなわち膜電位が上がり、ある所定の閾値を超えると、トランジスタがオンとなり、V1の電位が回路全体に流れる。これにより、細胞膜が興奮状態となったことが模倣できる。なお、実際の神経細胞内では、膜電位が高くなり続けると、Naチャネルが不活性化することが知られているが、Kチャネルを併用することによりこの特性は無視できると考え、図10の回路ではその特性は考慮していない。但し、必要によりこの不活性化特性を電気回路で実現しても良い。
【0068】
図12に、さらにKチャネルを併用した、神経細胞全体の神経等価回路のより具体的な回路図の一例を示す。図12の神経等価回路は、第1伝達物質を有する興奮性シナプス等価回路と、第1伝達物質を有する抑制性シナプス等価回路と、NaチャネルとKチャネルとを有する神経細胞体等価回路とを接続したものであり、その入出力関係の一例は図13に示される。
【0069】
次に、図14に、神経細胞体全体の神経等価回路のより具体的な回路図の他の一例を示す。図14の神経等価回路は、第2伝達物質を有する興奮性シナプス等価回路と、NaチャネルとKチャネルとを有する神経細胞体等価回路とを接続したものであり、その入出力関係の一例は図15に示される。図15から分かるように、入力と出力の関係は漏れのある積分関係である。
【0070】
図16は、神経細胞体全体神経等価回路のより具体的な回路図の他の一例である。図16の神経等価回路は、第1伝達物質を有する興奮性シナプス等価回路と、NaチャネルとKチャネルとを有する神経細胞体等価回路とを接続したものであり、その入出力関係の一例は図17に示される。同図から、入力信号が3パルスに対して1パルスの出力、すなわち、fout(t)=1/3fin(t)であるので、比例要素となる。
【0071】
このように、第1伝達物質や第2伝達物質、興奮性シナプス、抑制性シナプス、Naチャネル、Kチャネル等を種々組み合わせた回路を構築することにより、種々の神経等価回路を実現可能となる。
【0072】
また、個々の神経等価回路が単体で存在しても良いが、実際の神経細胞と同様に、これらが複数それぞれ接続されても良い。すなわち、神経細胞体等価回路の出力端子がさらにシナプス等価回路の入力端子に接続されるよう構成しても良い。また、複数のシナプス等価回路の出力端子が神経細胞体等価回路の入力端子に接続され、神経細胞体等価回路の出力端子がさらに他の複数のシナプス等価回路の入力端子に接続されるように構成しても良い。さらに、シナプス等価回路には、外部の環境を知覚する温度センサや圧力センサ等の環境知覚部からの信号が入力されても良い。また、神経細胞体等価回路の出力信号は、外部の被制御部、すなわちアクチュエータ等の制御信号として用いても良い。
【0073】
また、上記の説明では回路図として示したが、本発明はこれに限定されず、コンピュータ上で実行可能なプログラムとして構成することも可能である。すなわち、本発明の神経等価回路、シナプス等価回路、神経細胞体等価回路は、すべて数式で表現できるため、容易にプログラミングすることが可能である。したがって、大規模な神経回路を模倣する場合等でも、きわめて容易にプログラムが実現可能である。
【0074】
なお、本発明の神経等価回路は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、シナプス等価回路は入力がパルスで出力がアナログ信号とすることが可能であるため、単体でもパルス周波数変調信号をアナログ信号に変換する変換器等に応用することも可能である。また、神経細胞体等価回路は入力がアナログ信号で出力がパルス信号とすることが可能であるため、単体でもアナログ信号をパルス周波数変調信号に変換する変換器等に応用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、本発明の神経細胞体等価回路の概念図である。
【図2】図2は、1パルスにより起こされる興奮性シナプスからのシナプス後電位の波形を示す図である。
【図3】図3は、本発明のシナプス等価回路の概念図である。
【図4】図4は、複数種類の伝達物質を有する場合のシナプス等価回路の概念図である。
【図5】図5は、図3に示すシナプス等価回路のより具体的な回路図の一例を示す図である。
【図6】図6は、図5に示すシナプス等価回路の入出力関係の一例を示すグラフである。
【図7】図7は、第1伝達物質を有する抑制性シナプスを実現するためのシナプス等価回路の具体的な回路図の一例を示す図である。
【図8】図8は、図7に示すシナプス等価回路の入出力関係の一例を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の神経等価回路全体の等価回路の概念図である。
【図10】図10は、本発明の神経等価回路のより具体的な回路図の一例を示す図である。
【図11】図11は、図10に示す神経等価回路の入出力関係の一例を示すグラフである。
【図12】図12は、本発明の神経等価回路全体のより具体的な回路図の一例を示す図である。
【図13】図13は、図12に示す神経等価回路の入出力関係の一例を示すグラフである。
【図14】図14は、本発明の神経等価回路全体のより具体的な回路図の他の一例を示す図である。
【図15】図15は、図14に示す神経等価回路の入出力関係の一例を示すグラフである。
【図16】図16は、本発明の神経等価回路全体のより具体的な回路図の他の一例を示す図である。
【図17】図17は、図16に示す神経細胞体等価回路の入力信号と膜電位との関係を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
【出願日】 平成18年3月6日(2006.3.6)
【代理人】 【識別番号】100124257
【弁理士】
【氏名又は名称】生井 和平
【公開番号】 特開2007−241483(P2007−241483A)
【公開日】 平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願番号】 特願2006−60338(P2006−60338)