| 【発明の名称】 |
香味を調整した麦芽使用発酵飲料の製造方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】多田 信雄
【氏名】乾 隆子
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| 【要約】 |
【課題】麦汁中の不飽和脂肪酸含量を調節し、それにより麦芽使用発酵飲料の香味の調整を行う麦芽使用発酵飲料の製造方法、ならびに麦芽使用発酵飲料の香味の調整方法を提供すること。
【解決手段】乾燥発芽大麦を組織別に分画し得られる不飽和脂肪酸の含量が低い画分、及び/又は不飽和脂肪酸含有量の高い画分を使用し、麦汁中の不飽和脂肪酸含有量の制御を行うことにより香味の調整を行うことを特徴とする、ビール、発泡酒、ウイスキー、または低アルコール発酵飲料等の麦芽使用発酵飲料の製造方法、および香味の調整方法である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 乾燥発芽大麦を組織別に分画し、不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる画分、及び/又は、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる画分を使用し、麦汁中の不飽和脂肪酸含有量の制御をすることにより香味の調整を行うことを特徴とする麦芽使用発酵飲料の製造方法。 【請求項2】 不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる画分が、胚乳画分及び穀皮画分である請求項1に記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法。 【請求項3】 不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる画分が、内皮層画分、幼芽画分及び麦芽根画分である請求項1に記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法。 【請求項4】 不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる胚乳画分、及び/又は、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる内皮層画分を使用し、麦汁中の不飽和脂肪酸含有量の制御をすることにより香味の調整を行うことを特徴とする請求項1に記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法。 【請求項5】 麦芽使用発酵飲料の原料として、不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる胚乳画分を、水とホップを除く原料中に30重量%〜100重量%使用することにより香味の調整を行うことを特徴とする請求項1に記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法。 【請求項6】 麦芽使用発酵飲料の原料として、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる内皮層画分を、水とホップを除く原料中に5重量%〜70重量%使用することにより香味の調整を行うことを特徴とする請求項1に記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法。 【請求項7】 麦芽使用発酵飲料の原料として、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる内皮層画分を、水とホップを除く原料中に5重量%〜25重量%使用することにより香味の調整を行うことを特徴とする請求項6に記載の麦芽使用比率が25%以下である麦芽使用発酵飲料の製造方法。 【請求項8】 香味調整される麦芽使用発酵飲料が、ビールまたは発泡酒である請求項1〜7のいずれかに記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法。 【請求項9】 請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法により製造された麦芽使用発酵飲料。 【請求項10】 麦芽使用発酵飲料が、ビールまたは発泡酒である請求項9に記載の麦芽使用発酵飲料。 【請求項11】 乾燥発芽大麦を組織別に分画し、不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる画分、及び/又は、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる画分を使用し、麦汁中の不飽和脂肪酸含有量の制御をすることを特徴とする麦芽使用発酵飲料の香味の調製方法。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、麦芽使用発酵飲料の原料である乾燥発芽大麦を組織別に分画し、分画した組織別画分により麦汁中の不飽和脂肪酸量の制御を行い、香味を調整した麦芽使用発酵飲料の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 アルコール発酵中に酵母によって産生されるエステル類は、得られた酒類の香味に与える影響が大きく、最も重要な製品設計・品質のひとつであるとされている。例えば、ビールの場合には、適度なエステル含量は快いフレーバーの香味をもたらすが、発酵中に産生されるエステ類が過多になると果実様の香りになり、味も甘くしつこく感じられるので、ドリンカビリティーが失われるといわれている。また、イソアミルアルコールに対する酢酸イソアミルの比は、吟醸酒の香りの強さ、官能評価と相関が高いことが報告されている(非特許文献1)。 【0003】 このアルコール発酵中におけるエステル類の産生メカニズムは詳細に研究されており、吉岡らが報告しているように(非特許文献2)、アルコール−アセチル転移酵素(Alcohol-Acetyl Transferase:以後AATaseと記載する)は、酢酸イソアミルの産生において中心的役割を果たす酵素であって、イソアミルアルコールとアセチルCoAを反応させて、酢酸イソアミルを産生する性質を有する。AATaseは、イソアミルアルコールをはじめとする他の高級アルコールも基質とするので、ATTaseは高級アルコールと酢酸エステルの主要な合成酵素と考えられている(非特許文献3)。 【0004】 また、AATaseは温度に対して不安定なものであり、低温発酵条件下では酢酸イソアミルの生成量は多くなるとされている(非特許文献4)。さらに、AATase遺伝子の発現は、酸素の存在や不飽和脂肪酸の存在で抑制され、糖の存在で促進されると報告されている(非特許文献5)。 【0005】 このような知見に基づいて、麦芽使用発酵飲料の一つであるビールの場合には、原料となる原麦汁の濃度、麦汁中の不飽和脂肪酸の含量、麦汁通気法、発酵温度などの各条件設定によってエステル含量を調整し、香味を調整する手段が採用されている。また、エステル系の香味を産生する酵母の選択や、その育種方法も提案されている。 【0006】 ところで、麦汁中の脂肪酸含量を制御する方法としては、これまで(1)原料穀物より脂質を多く含む胚芽の除去(精白)、(2)製造工程中でのホスホリパーゼの添加(特許文献1)、(3)分離・濾過方法による除去もしくは麦芽糖化粕から抽出する方法(非特許文献6)、(4)亜臨界状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素により麦芽から脂質を除去する方法(特許文献2)といった方法などが試みられていた。 【0007】 しかしながら、これらの方法においては、脂肪酸のなかでもエステル生成に関与する不飽和脂肪酸についての含有量に関して、その香味に与える影響については必ずしも十分な検討がなされていないのが現状である。 【0008】 【特許文献1】特許第2858875号 【特許文献2】特許第3255962号 【特許文献3】WO2004/106483号公報 【非特許文献1】醸造協会誌,75,451−457(1980) 【非特許文献2】Agric. Biol. Chem.,: 45, 2183 (1981) 【非特許文献3】Appl. Envirom. Microbiol.,: 60, 2786 (1994) 【非特許文献4】Agric. Biol. Chem.,: 47, 2287 (1983) 【非特許文献5】Appl. Environ. Microbiol.,: 63, 910 (1997) 【非特許文献6】J. Inst. Brew., July/Aug.,: 85(4), 219-227 (1997) 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 上記現状に鑑みて、本発明者等は、AATase遺伝子の発現が不飽和脂肪酸の存在で抑制される点に着目して、麦汁中に含有される脂肪酸のなかでも不飽和脂肪酸の含有量がエステルの生成に関与するものであって、麦芽使用発酵飲料の香味に影響を与えるものではないかと考え、種々の検討を行った。 【0010】 その点を、上記の麦汁中の脂肪酸含量を制御する方法の中で可能かどうかを検討した。その結果、(2)のホスホリパーゼを利用する方法では、酵素分解により生成された物質による悪影響が大きくなる可能性があった。また(3)の分離・濾過方法による除去方法では、不飽和脂肪酸含量を制御するために麦汁の濁度を変化させると、濁度が高い場合には糖化が充分でないデキストリンを増やすこととなり、ビールの混濁安定性及び香味に悪影響を及ぼすという問題があった。また、麦芽糖化粕から抽出する方法についても同様の問題があった。 さらに、(4)の亜臨界状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素により麦芽から脂質を除去する方法では、不飽和脂肪酸について未検討である上、大量の麦芽を処理する場合に多大なコストを要するという問題があり、現実的でないとの結論に至った。 【0011】 そこで、本発明者等は麦芽使用発酵飲料の原料となる乾燥発芽大麦を組織別に分画し(特許文献3)、分画した個々の組織画分が有する特性について検討したところ、各組織別画分を使用して得た麦汁中には、不飽和脂肪酸の少ない麦汁と、不飽和脂肪酸の多い麦汁が得られることを確認し、これらの組織別画分を使用して、不飽和脂肪酸含有量の制御を行うことにより、麦芽使用発酵飲料の香味の調整が可能となることを新規に見出した。 【0012】 すなわち、本発明者らは、乾燥発芽大麦の各組織に着目し、乾燥発芽大麦を組織別に分離することによって、麦汁中の不飽和脂肪酸の含有量に特徴のある画分に分けることができる点に注目した。そのうえで、これらの画分および分画前の全粒麦芽や麦芽根の配合量を適宜加減することによって、発酵前の麦芽使用発酵飲料中における乾燥発芽大麦由来の不飽和脂肪酸をコントロールできるとのではないかと考えた。 【0013】 そこで、実際に乾燥発芽大麦を工業的に組織毎に厳密に分画し、組織別画分により得られた麦汁中の不飽和脂肪酸成分を分析するだけでなく、得られた分画物が、麦芽使用発酵飲料を製造する際に、エステル含量にどのような影響を与えるかを詳細に検討し結果、乾燥発芽大麦を組織別画分に分離することによって、麦芽使用発酵飲料中のエステルに影響を及ぼす不飽和脂肪酸の含有量、その成分に特徴のある分画物が得られること見出した。そして、麦芽使用発酵飲料の原料として、実際に得た分画物の配合を調整することにより、麦汁中のエステル含量を制御した種々の麦芽使用発酵飲料を製造できることを確認し、本発明を完成させるに至った。 【0014】 したがって、本発明は、麦芽使用発酵飲料の原料である乾燥発芽大麦について、各組織別に分離、分画し、各分画された組織別画分から得られた麦汁中における不飽和脂肪酸の含有量の違いにより、その画分の使用量を組み合わせ配合して原料とすることにより、麦汁中の不飽和脂肪酸の含有量を制御し、それにより麦芽使用発酵飲料の香味の調整を行う麦芽使用発酵飲料の製造方法、ならびに麦芽使用発酵飲料の香味の調整方法を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0015】 かかる課題を解決するための本発明は、その一つの態様として以下の構成からなるものである。 (1)乾燥発芽大麦を組織別に分画し、不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる画分、及び/又は、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる画分を使用し、麦汁中の不飽和脂肪酸含有量の制御をすることにより香味の調整を行うことを特徴とする麦芽使用発酵飲料の製造方法; (2)不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる画分が胚乳画分及び穀皮画分である上記(1)に記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法; (3)不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる画分が内皮層画分、幼芽画分及び麦芽根画分である上記(1)に記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法; (4)不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる胚乳画分、及び/又は、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる内皮層画分を使用し、麦汁中の不飽和脂肪酸含有量の制御をすることにより香味の調整を行うことを特徴とする上記(1)に記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法; (5)麦芽使用発酵飲料の原料として、不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる胚乳画分を、水とホップを除く原料中に30重量%〜100重量%使用することにより香味の調整を行うことを特徴とする上記(1)に記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法; (6)麦芽使用発酵飲料の原料として、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる内皮層画分を、水とホップを除く原料中に5重量%〜70重量%使用することにより香味の調整を行うことを特徴とする上記(1)に記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法; (7)麦芽使用発酵飲料の原料として、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる内皮層画分を、水とホップを除く原料中に5重量%〜25重量%使用することにより香味の調整を行うことを特徴とする上記(6)に記載の麦芽使用比率が25%以下である麦芽使用発酵飲料の製造方法; (8)香味調整される麦芽使用発酵飲料が、ビールまたは発泡酒である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の麦芽使用発酵飲料の製造方法。 【0016】 また本発明は、別の態様として、 (9)上記の(1)〜(8)に記載のいずれかの製造方法により製造された麦芽使用発酵飲料; (10)麦芽使用発酵飲料が、ビールまたは発泡酒である上記(9)に記載の麦芽使用発酵飲料; であり、さらには、 (11)乾燥発芽大麦を組織別に分画し、不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる画分、及び/又は、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる画分を使用し、麦汁中の不飽和脂肪酸含有量の制御をすることを特徴とする麦芽使用発酵飲料の香味の調製方法; である。 【0017】 すなわち本発明は、これまで何等検討されていなかった、乾燥発芽大麦を組織別に分画した画分を使用した場合における不飽和脂肪酸の含有量をベースに、その組織別画分を組み合わせ使用して、不飽和脂肪酸含有量の制御を行うことにより、麦芽使用発酵飲料の香味の調整を行う点に一つの特徴を有するものであり、極めて特異的なものである。 【0018】 そのなかでも好ましい態様としては、不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる胚乳画分、及び/又は、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる内皮層画分を使用し、麦汁中の不飽和脂肪酸含有量の制御をすることにより香味の調整を行うことを特徴とする麦芽使用発酵飲料の製造方法である。 【発明の効果】 【0019】 本発明の発酵麦芽飲料の製造方法は、麦芽使用発酵飲料の主原料である乾燥発芽大麦を各組織別に分画し、得られた各組織画分の特性をベースにして、分画された組織部分を適宜組み合わせて配合し、麦汁の不飽和脂肪酸を制御することによって、香味の調整を行うものであり、これにより極めて簡便に香味調整を図った麦芽使用発酵飲料を製造することができる利点を有している。 【0020】 特に、分画した乾燥発芽大麦の各組織画分を、種々組み合わせることにより香味を調整した麦芽使用発酵飲料の原料として使用できる点は、消費者の好みに応じた種々の香味を有する麦芽使用発酵飲料を提供することができることになり、その産業上の効果は多大なものである。 【発明を実施するための最良の形態】 【0021】 本発明は、上記したように、基本的には、麦芽使用発酵飲料の主原料である乾燥発芽大麦の各組織部分に分画し、得られた各組織画分の特性、すなわち不飽和脂肪酸の含有量をベースにして、分画された組織部分を適宜組み合わせて配合し、麦汁中の不飽和脂肪酸を制御し、これにより簡便に香味を調整した麦芽使用発酵飲料を製造するものである。 【0022】 以下に本発明を、乾燥発芽大麦の各組織部分への分離手段、分離された各組織画分の特性を説明しながら、詳細に説明していく。 【0023】 本発明により提供される麦芽使用発酵飲料とは、麦芽を原料の全部または一部として使用して製造したアルコール含有飲料(蒸留したものも含む)及びアルコール非含有飲料をいう。具体的には、ビール、発泡酒、リキュール類、スピリッツ類、雑酒、ウイスキー、低アルコール麦芽使用発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の麦芽使用発酵飲料)、ノンアルコール飲料等をあげることができる。なかでも、ビールや発泡酒において好適に用いられる。 【0024】 本発明により提供される麦芽使用発酵飲料について、原料となる麦芽を得る工程においては、大麦を水に浸して発芽させた後に乾燥させる工程を経る。したがって、本発明でいう乾燥発芽大麦とは、発芽した大麦を乾燥させたものを指す。 【0025】 乾燥発芽大麦は、組織学的には様々な組織から成り立っている。本発明においては、乾燥発芽大麦を組織毎に分画し、得られた組織画分を麦芽使用発酵飲料の原料として使用する。乾燥発芽大麦を組織毎に分画するに際しては、飲料の品質に特徴を与える特性を有する組織単位に画分することが肝要である。また、分画のし易さを考慮して、適宜、分画する組織単位を任意に選定することができる。 【0026】 そのなかでも、工業的な規模での分画のし易さや、麦芽使用発酵飲料の香味、品質等に与える特徴を考慮すると、乾燥発芽大麦を組織毎に分画する場合には、例えば特許文献6に記載される組織別の分画を行うのが好ましい。具体的には、麦芽根画分、穀皮画分、胚乳画分、内皮層画分、幼芽画分の5種類の分画に分けることが好ましい。 【0027】 それぞれの画分は、具体的には、例えば以下の方法により分画することができ、目的とする組織ごとに分画されたか否かは、得られた分画物を外観観察、顕微鏡観察、あるいは成分の分析をすることで確認することができる。 【0028】 麦芽根分画: 乾燥発芽大麦は、全粒麦芽(以後、単に麦芽ということもある)と麦芽根からなる。乾燥発芽大麦を脱根機に投入し、麦芽と麦芽根を分離し、麦芽根画分を得ることができる。脱根機としては、例えば回転スリットドラム(明治機械社製)を用いることができる。 【0029】 胚乳画分: 一般に、穀物の表層を研磨して、穀皮などを胚乳から分離することを「搗精」という。上記により麦芽根を分離して得た麦芽を搗精機により搗精することで、核部分にあたる胚乳画分と、周囲部分のいわゆる糠(ぬか)とに分離することができる。搗精の歩留まりは、胚乳画分と糠との分離が的確に行われるように、供する麦芽の品質を考慮して、適宜調整することができる。本発明においては、搗精の歩留まりの程度は50〜95%が好ましものであり、特に75〜85%程度が望ましい。 【0030】 内皮層画分: 本発明でいう内皮層画分とは、上記で得られた糠について、篩にかけることによって分離し、その結果、篩を通過した画分をいう。篩サイズは、糠の品質等により、分離が適合に行われるものを適宜選択できるが、例えば、目開き600〜850μm、特に710μm程度のものを用いるのが好ましい。かくして得られた内皮層画分にあっては、組織学的にみれば、果皮、種皮、アロイロン層と称される各組織が含まれる。しかしながら、これ以上の分離は工業的に困難を伴うこと、また、分画を行わなくても内皮層画分として独特の特徴を発揮することが判明した。したがって、本発明においては、内皮層画分をこれ以上の組織別に分画する必要はなく、上記で得られた内皮層画分をそのまま使用するのがよい。 【0031】 穀皮画分および幼芽画分: 上記した糠の篩い分けにより、篩上に残留した画分をアスピレーター処理することで、低比重区分と高比重区分に分けることができる。低比重区分として得られた部分が穀皮画分であり、高比重区分として得られた部分が幼芽画分である。このアスピレーターの操作条件は、穀皮画分と幼芽画分とを分離できるように適宜設定することができる。 【0032】 以上のようにして得られたそれぞれの組織別画分には、その特徴を損なわない範囲であれば、他の組織や未分離の画分が多少混入していてもよい。 これらの各組織分画としては、自ら分画した画分を用いても良いし、同等の品質のものであれば、例えば、市販品の組織分画品を用いても良い。 【0033】 なお、本発明でいう未分離画分とは、上述した5つの組織別画分のうち、2ないし4画分についての未分離の画分をいう。ただし、全粒麦芽は本発明では未分離画分とは言わないものとする。例えば、穀皮画分および幼芽画分の両方を麦芽使用発酵飲料の原料として用いることが好ましい場合には、これらの画分をそれぞれ用いることができ、またこれらの両画分についての未分離画分を適当量用いることでもよい。 【0034】 以上に記載した分画方法により、麦芽使用発酵飲料の主原料となる乾燥発芽大麦を各組織別に分画することができる。分画されたそれぞれの組織別の画分については、本発明者等の検討の結果、以下の特性を有し、麦芽使用発酵飲料の原料とした場合に、それぞれ特有の香味を与えるものであることが判明した。 【0035】 麦芽根画分は、乾燥発芽大麦中に2〜3重量%程度含まれることが多い。麦芽根画分を原料とした麦汁には不飽和脂肪酸の含有量が高いことが判明した。したがって、この麦芽根画分を原料として使用すると、エステル類の少ない麦芽使用発酵飲料を製造することができる。 【0036】 胚乳画分は、胚乳を主な組織とする。この画分は麦芽中に約80%程度含まれることが多い。胚乳画分を原料とした麦汁には不飽和脂肪酸の含有量が低いことが判明した。したがって、この画分を原料として使用すると、エステル類の多い麦芽使用発酵飲料を製造することができる。 【0037】 内皮層画分は組織学的には、果皮、種皮およびアロイロン層を主な組織とする。この画分は麦芽中に約13%程度含まれることが多い。内皮層画分を原料とした麦汁には不飽和脂肪酸の含有量が高いことが判明した。したがって、この画分を原料として使用とすると、エステル類の少ない麦芽使用発酵飲料を製造することができる。 【0038】 また、穀皮画分は、穀粒を覆う穀皮を主な組織とし、繊維質を多く含むものである。この画分は麦芽中に約8%程度含まれることが多い。穀皮画分を原料とした麦汁には不飽和脂肪酸の含有量が比較的低いことが判明した。麦汁濾過の工程で不飽和脂肪酸の一部が吸着することが影響した可能性がある。したがって、この画分を原料として使用すると、エステル類の多い麦芽使用発酵飲料を製造することができる。 【0039】 幼芽画分は、幼芽を主な組織とし、麦芽中に約2%程度含まれることが多い。麦芽根画分と同様に幼芽画分を原料とした麦汁には不飽和脂肪酸の含有量が高いことが判明した。したがって、この画分を原料として使用すると、エステル類の少ない麦芽使用発酵飲料を製造することができる。 【0040】 上記した各組織画分を適宜選択、配合調整して、麦芽使用発酵飲料の原料として用いることにより、各種の麦芽使用発酵飲料について、不飽和脂肪酸を制御することができる。 そのなかでも本発明にあっては、不飽和脂肪酸の含量が低い麦汁となる胚乳画分、及び/又は不飽和脂肪酸含有量の高い麦汁となる内皮層画分を使用し、不飽和脂肪酸含有量の制御を行うことにより香味の調整を行うことが好ましいが、必要に応じて他の組織画分を適宜配合使用し得ることはいうまでもない。 【0041】 その一つの具体的態様として、例えば、麦芽使用発酵飲料の原料として、不飽和脂肪酸の含有量が低い麦汁となる胚乳画分を、水とホップを除く原料中に30重量%〜100重量%使用することにより香味の調整を行うことを特徴とする麦芽使用発酵飲料の製造方法であり、この場合に他の組織画分を適宜配合使用し得ることはいうまでもない。 【0042】 また、別の具体的態様として、例えば、麦芽使用発酵飲料の原料として、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる内皮層画分を、水とホップを除く原料中に5重量%〜70重量%使用することにより香味の調整を行うことを特徴とする麦芽使用発酵飲料の製造方法であり、この場合に他の組織画分を適宜配合使用し得ることはいうまでもない。 【0043】 なかでも、麦芽使用比率が25%以下である麦芽使用発酵飲料に関して、麦芽使用発酵飲料の原料として、不飽和脂肪酸の含有量が高い麦汁となる内皮層画分を、水とホップを除く原料中に5重量%〜25重量%使用することにより香味の調整を行うことを特徴とする麦芽使用発酵飲料の製造方法であり、この場合に他の組織画分を適宜配合使用し得ることはいうまでもない。 【0044】 本発明が提供する麦芽使用発酵飲料の製造方法においては、麦芽由来の不飽和脂肪酸の制御は、上述した方法により乾燥発芽大麦の組織別画分の組み合わせ配合により達成することができるが、糖類や大麦などをはじめとする麦芽以外の原料を併用することにより、さらなる成分調整が可能である。さらに、このように成分調整をした原料にあわせて、粉砕、糖化、麦汁濾過、煮沸、発酵の諸条件を設定することにより、更なる微調整を行うことが可能である。 【0045】 また本発明は、かかる麦芽使用発酵飲料の製造に関し、目的とする麦芽使用発酵飲料の香味、とりわけエステル香の調整方法をも提供するものでもあり、その詳細は上記の説明から当業者に容易に理解しうるものである。 【0046】 また、本発明が提供する麦芽使用発酵飲料は、当該技術分野で汎用されている製造技術を用いて、所望のビール、発泡酒、リキュール類、スピリツ類、雑酒、ウイスキー、低アルコール麦芽使用発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の麦芽使用発酵飲料)、ノンアルコールの麦芽使用発酵飲料等へ製造することができる。なかでも、ビールや発泡酒において好適に用いられる。 【実施例】 【0047】 以下に、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されない点に注意すべきである。 【0048】 [試験方法] 本実施例で用いた試験項目および試験方法を以下に示す。特に断りのない限り、本実施例における試験方法はこれに準じた。 1.試験項目: a)麦芽のエキス濃度、b)不飽和脂肪酸濃度、c)ビールのエステル濃度、d)官能評価。 2.試験方法: a)麦芽のエキス含量(Extract fine)については、[改訂BCOJビール分析法(2004)4.3.1コングレス麦汁の調整]によって測定した。 b)麦汁の不飽和脂肪酸濃度については、H. Miwa, M. Yamamoto, T. Nishida, K. Nunoi and M. Kikuchi: J. Chromatogr., Biomedical Applications, 416 (1987) 237-245に準じて測定した。 また、麦芽の不飽和脂肪酸については、麦芽をDLFUディスクミル(Buhler-Miag社製)を用いて[改訂BCOJビール分析法(2004)1.1.2粉砕機]の操作法によって粉砕し、麦汁の不飽和脂肪酸濃度と同様に測定した。なお、粉砕ディスク間の間隔は0.20mmで使用した。 c)ビールのエステル濃度については、酢酸エチルおよび酢酸アミルを指標とすることとし、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーによる内部標準法を用いて測定した。ガスクロマトグラフィーは島津社製(GC2010)を使用し、キャリアガスはヘリウム25Psi、カラムはJ&Wカラム DB-WAX(US1331246H)、気化室温度(180℃)、カラム温度(180℃)の条件とした。 d)官能評価については、訓練されたパネラー10名が、無臭の官能室で麦汁やビールを飲み、その結果を評価した。 【0049】 実施例1:乾燥発芽大麦の組織画分の分画方法 大麦を水に浸して発芽させた後に乾燥させて製造した乾燥発芽大麦から、麦芽根を脱根機(明治機械製)によって麦芽根と麦芽とに分離した。麦芽根の重量は乾燥発芽大麦の約2.4%(重量比)であった。 次に、麦芽根が取り除かれた麦芽の分画は次のようにおこなった。 麦芽約500kgを搗精機(サタケ製作所製RMDB40A)で歩留まり80%まで搗精して、精白された画分(胚乳画分)と糠に分離した。このときの運転条件は、歩留まり100〜90%においては、回転数340rpm、電流値32A、スクリーン網目10メッシュ、歩留まり90〜80%においては、回転数320rpm、電流値30A、スクリーン網目11メッシュで行った。 また、糠を集塵機で集めて、目開き710μmのシフタで篩って710μm以下の糠である内皮層画分と、701μm以上の糠に分離した。更に710μm以上の糠は、マルチアスピレーターで風選して、高比重区分(幼芽画分)と低比重区分(穀皮画分)に分離した。 このときの各分画物の重量比は、胚乳画分:内皮層画分:幼芽画分:穀皮画分=80:13:2:5であった。 【0050】 実施例2:組織画分を使用した麦汁脂肪酸含量の評価 各組織画分を原料として使用した麦汁中の不飽和脂肪酸含量を評価するために、全粒麦芽、胚乳画分、内皮層画分、幼芽画分、穀皮画分、麦芽根画分を原料として麦汁を試作して、脂肪酸量を評価した。 実施例1の方法で分画した胚乳画分を用いて、分画物40g、仕込み水240mLにて、常法にしたがって糖化液を製造し、遠心分離によって麦汁を得た。組織自体に吸水性を有し、単独での麦汁製造に不適切である幼芽画分、麦芽根画分、および穀皮画分については、全粒麦芽に各画分を10%となるように添加して同様に麦汁を製造した。これらの麦汁のエキスを10%に調整した脂肪酸の分析値を、下記表1に示した。 【0051】 【表1】
(単位:μM) 【0052】 表1に示した結果から判明するように、各組織画分を使用した麦汁について、全粒麦芽を使用した麦汁と比較すると、胚乳画分及び穀皮画分は不飽和脂肪酸の含有量が低いものであることが判明した。また、それらとは対照的に、内皮層画分、幼芽画分、麦芽根画分を用いた麦汁には不飽和脂肪酸の含有量が高いものであることが判明した。 【0053】 実施例3:原料である組織画分中の脂肪酸含量の評価 脂肪酸は麦汁の調製中にリパーゼを始めとする各種酵素や酸化による影響を受ける。そこで、原料そのものに含有される不飽和脂肪酸を評価した。 実施例1で不飽和脂肪酸量に特徴のあった全粒麦芽、胚乳画分、内皮層画分について、原料中の脂肪酸含量を評価した。 その結果を、下記表2に示した。 【0054】 麦芽重量当たりの脂肪酸含量(μmol/麦芽1g) 【0055】 【表2】
【0056】 表2に示した結果から判明するように、麦芽そのものについて全粒麦芽と比較すると、実施例2の麦汁結果と同様に、胚乳画分は不飽和脂肪酸の含有量が低いものであり、内皮層画分は不飽和脂肪酸の含有量が高いものであることが判明した。 【0057】 実施例4:ビールの試作(組織画分の分画物を使用) 麦芽組織分画物の中で、不飽和脂肪酸の含量に特徴のある胚乳画分及び内皮層画分を原料としてビールを試作し、ビール中のエステル量を評価した。 実施例1の方法で分画した麦芽組織の分画物を用いて、100Lスケールにてビールの製造を行った。胚乳画分をハンマーミルにて微粉砕し、仕込み釜に粉砕物9kgと仕込み水36Lを、仕込み槽に粉砕物21kgと仕込み水84Lを入れて、常法に従って糖化液を製造した。これをマッシュフィルターにて濾過を行い、得られた麦汁にホップを添加して煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去したあと、約12℃に冷却した。この冷麦汁を、エキス濃度11.3%に加水によって調整した後、発酵槽に導入し、ビール酵母を接種・発酵して、ビールを製造した(試作品4−1)。 また、内皮層画分や全粒麦芽についても同様の方法でビールを製造した(それぞれ試作品4−2、対照品4)。 【0058】 このものについて、アルコール濃度、エステル濃度に関するビールの分析を行った。その結果を下記表3に示した。 また、併せてビールの香味評価を行った。その結果を下記表4に示した。 【0059】 【表3】
【0060】 【表4】
【0061】 不飽和脂肪酸の含有量の少ない胚乳画分を原料とした試作品4−1は、酢酸エチルおよび酢酸アミルの含有量が高く、香味もエステル香が明確に強く感じられた。それに対して、不飽和脂肪酸の含有量の多い内皮層画分を原料とした試作品4−2は、酢酸エチル及び酢酸アミルの含有量が低く、エステル香が強くは感じられなかった。 このように原料に含まれる不飽和脂肪酸量に応じて麦芽分画物を調整することにより、麦芽使用発酵飲料の香味を制御できることが明確となった。 【0062】 実施例5:副原料を使用したビールの試作(副原料の使用) 実施例1の方法で分画した分画物を用いて、原料比率に全粒麦芽50%、胚乳画分50%を原料としたビール(試作品5−1)、及び全粒麦芽37%、胚乳画分30%、糖化スターチ33%を原料としたビール(試作品5−2)を試作し、各ビール中のエステル量を評価した。 麦芽分画物はロールミルにて粉砕し、仕込み釜に粉砕物9kgと仕込み水36Lを、仕込み槽に粉砕物21kgと仕込み水84Lを入れて、常法に従って糖化液を製造した。これをロイターにて濾過を行い、試作品5−2については得られた麦汁に糖化スターチを添加し、加水によってエキス分を調整してからホップを添加して煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去したあと、約12℃に冷却した。この冷麦汁を、エキス濃度11.3%に加水によって調整した後、発酵槽に導入し、ビール酵母を接種・発酵して、ビールを製造した。 【0063】 このものについて、アルコール濃度、エステル濃度に関するビールの分析を行った。その結果を下記表5に示した。 また、併せてビールの香味評価を行った。その結果を下記表6に示した。 【0064】 【表5】
【0065】 【表6】
【0066】 胚乳画分は不飽和脂肪酸の含有量が少ない分画物であるが、糖化スターチのように不飽和脂肪酸をほとんど含まない原料を併用することによって、更に不飽和脂肪酸含量を減らすことができる。 糖化スターチを使用した試作品5−2は、使用しない試作品5−1よりも更にエステルを増加させることができ、エステル香も強くすることができた。 【0067】 実施例6:発泡酒の試作(内皮層画分を使用) 実施例1の方法で分画した分画物を用いて、原料比率に全粒麦芽20%、内皮層画分5%、糖化スターチ75%を原料とした発泡酒(試作品6−1)、及び原料比率に内皮層画分25%、糖化スターチ75%を原料とした発泡酒(試作品6−2)を試作し、各ビール中のエステル量を評価した。 麦芽分画物はロールミルにて粉砕し、仕込み釜に粉砕物9kgと仕込み水36Lを、仕込み槽に粉砕物21kgと仕込み水84Lを入れて、常法に従って糖化液を製造した。これをマッシュフィルターにて濾過を行い、麦汁に糖化スターチを添加し、加水によってエキス分を調整してからホップを添加して煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去したあと、約12℃に冷却した。この冷麦汁を、エキス濃度11.3%に加水によって調整した後、発酵槽に導入し、ビール酵母を接種・発酵して、発泡酒を製造した。 【0068】 このものについて、アルコール濃度、エステル濃度に関する発泡酒の分析を行った。その結果を下記表7に示した。 また、併せて発泡酒の香味評価を行った。その結果を下記表8に示した。 【0069】 【表7】
【0070】 【表8】
【0071】 内皮層画分は不飽和脂肪酸の含有量が多い分画物であり、糖化スターチのように不飽和脂肪酸をほとんど含まない原料を併用することによっても、エステル濃度を減少させることができ、エステル香も弱くコントロールすることができた。 【産業上の利用可能性】 【0072】 以上記載のように、本発明により、麦芽使用発酵飲料の主原料である乾燥発芽大麦の各組織部分に分画し、得られた各組織画分の特性をベースにして、分画された組織部分を適宜配合し、麦汁中の不飽和脂肪酸を制御することによって香味を調整した麦芽使用発酵飲料を製造することができる。したがって、消費者の好みに応じた香味を有する麦芽使用発酵飲料を提供することができることになり、産業上の利用性は多大なものである。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000001904 【氏名又は名称】サントリー株式会社
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| 【出願日】 |
平成17年6月29日(2005.6.29) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100083301 【弁理士】 【氏名又は名称】草間 攻
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| 【公開番号】 |
特開2007−6748(P2007−6748A) |
| 【公開日】 |
平成19年1月18日(2007.1.18) |
| 【出願番号】 |
特願2005−190120(P2005−190120) |
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