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【発明の名称】 コックピット・ワークロード推算システムにおける行動シナリオ生成ルーチン
【発明者】 【氏名】村岡 浩治

【氏名】津田 宏果

【要約】 【課題】本発明の課題は、航空機コックピットにおける時間軸解析を対象とし、設計者が容易に利用可能なシステムの構築を目指すもので、ワークロード推算出力機能を装備し、コックピット・ワークロード推算プログラムにおける行動シナリオ生成を自動化することにある。

【解決手段】本発明のコックピット・ワークロード推算システムは、ユーザが用意した入力ファイルを基に行動計算用のシナリオを作成するシナリオ生成プロセス、作成された前記シナリオに記述された一連の作業に基づき、航空機特性モデルと連動しながら行動計算を行って時間軸解析結果を出力する行動計算プロセスそして前記行動計算の結果を図表化する計算結果処理プロセスからなるものとした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが用意した入力ファイルを基に行動計算用のシナリオを作成するシナリオ生成プロセス、作成された前記シナリオに記述された一連の作業に基づき、航空機特性モデルと連動しながら行動計算を行って時間軸解析結果を出力する行動計算プロセスそして前記行動計算の結果を図表化する計算結果処理プロセスからなるコックピット・ワークロード推算システム。
【請求項2】
シナリオ生成プロセスは、データベースとして人間基本性能データを備えたものであって、機器配置ファイル、操作手順ファイル、飛行時歴データファイルを入力データとし、補間動作の生成、個々の作業に必要な時間の算出、ワークロード設定の機能を持ち、最後に行動計算ルーチン用のシナリオを出力するものである請求項1に記載のコックピット・ワークロード推算システム。
【請求項3】
機器配置ファイルは、 スイッチ,レバー,計器類といったコックピット機器の名称、位置、寸法および操作特性が記述されたものである請求項2に記載のコックピット・ワークロード推算システム。
【請求項4】
操作手順ファイルは、PF(Pilot Flying)とPNF(Pilot Not Flying)ごとに手順番号、作業内容および作業開始条件の順にコックピット操作手順を記述されたものであって、前記作業内容は述語(作業内容)V,目的語(操作対象)O,補語(終了条件)Cを用いて記述するものである請求項2に記載のコックピット・ワークロード推算システム。
【請求項5】
飛行時歴ファイルは、飛行高度・速度等の航空機状態およびシステム状態変化を時系列で記述されたものである請求項2に記載のコックピット・ワークロード推算システム。
【請求項6】
シナリオ生成プロセスには、1つの動作を認知したときはそれに伴う一連の動作を補間する補間動作生成機能が組み込まれていることを特徴とする請求項2に記載のコックピット・ワークロード推算システム。
【請求項7】
シナリオ生成プロセスには、機器操作に要する作業時間、発話および聴話に要する作業時間、状態確認に要する作業時間について各作業に必要な平均時間、標準偏差及び最大最小値を計算する作業時間算出機能が組み込まれていることを特徴とする請求項2に記載のコックピット・ワークロード推算システム。
【請求項8】
シナリオ生成プロセスには、V(Visual),A(Auditory),C(Cognitive),P(Psychomotor)の要素のワークロードについてそれぞれ1.0〜7.0まで7段階の数値で定めたデータを基に、操作手順に記述された操作内容(動詞)と操作対象の特性との組み合わせにより自動的にワークロード値を設定する機能が組み込まれていることを特徴とする請求項2に記載のコックピット・ワークロード推算システム。
【請求項9】
出力される行動計算用のシナリオは、行動シナリオ生成ルーチンで計算したV,A,C,P、ワークロード値、作業時間作業開始条件といった各乗員の一連の動作及びその属性が記述されるものである請求項1乃至8のいずれかに記載のコックピット・ワークロード推算システム。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は航空機のコックピットでのパイロットの作業負担を推定して算出するワークロード推算手法と、その手法に基づいて算出を実行するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機をはじめとする大規模システムの設計においては、その初期段階からオペレータの役割やタスクを検討することがシステムの安全性確立や効率を確保する上で、また設計プロセスの効率化の観点から重要となる。このような検討作業は設計プロセスにおいて繰り返し行われ、システム側の設計変更やオペレータ側の役割・タスクの変更等へと反映される。特に変更が繰り返される設計の初期段階では、負担に係らない簡略な入力方式であり且つ短時間で結果が得られる評価ツールが求められる。
【0003】
このようなニーズに沿って本出願人は組織として、航空機コックピット設計や操作手順設計時に利用可能なワークロード推算パッケージの開発に着手した。該ワークロード推算パッケージは、入力として与えられるコックピット機器配置、操作手順および航空機特性モデルをもとに、パイロット行動のシミュレーションに基づいて作業の時間軸解析(Timeline Analysis)およびワークロード推算を行い、推算結果を出力するものである。これらのワークロード推算や時間軸解析には本出願人が研究推進中の計算機人間モデル技術を利用している。この計算機人間モデルに関わる研究は、航空安全の一層の向上を目指したヒューマンファクタ研究の一環として推進されており、ここでは、パイロットの身体的特性および認知特性を計算機上にモデル化したソフトウェア・システム(FBSS: Flight crew Behavior Simulation System)を構築することを目的とし、これまでに航空機事故シナリオの再構築や航空機故障モード発生時の非通常操作模擬、データリンク使用時の管制タスク模擬などに応用してきたところである。また、パイロットの状況認識過程モデルの開発を行い、それを既存の統合型人間−機械系設計・解析システム(Air MIDAS: Man-Machine Integrated Design and Analysis System)に組み込み、シンセティック・ビジョン・システム使用時の状況認識性への影響見積もりを試みたことが非特許文献1で報告されている。
【0004】
これら従来のシステムは、高度な認知特性の模擬機能を含む一方でシミュレーション計算を実施するためのシナリオ作成と計算の実施には新たなプログラミング作業等が必要となるため、頻繁に設計と計算のサイクルを繰り返す必要のある航空機設計過程にこれを用いるのは必ずしも容易とは言い難い。また、これらの設計過程では、高度な認知機能は必ずしも必要としない場合が多い。一方、市販の時間軸解析ソフトウェアを利用する場合にも、航空機設計に必要なデータ算出を可能とするために、ヒューマンファクタに関わる基礎知識や作業を定義したシナリオや出力方式定義に関わる準備作業が不可欠となる。
従来、この行動シミュレーション用のシナリオの作成は飛行時歴データやコックピットにおける作業手順そして操作すべき機器の配置といった各情報を基に設計者が各要因を考慮しながら手作業で行っている。このシナリオ作成を自動化することが期待されているところである。
【非特許文献1】K. Muraoka, AJadhav and Kevin Corker, Computational Model of Situation Awareness for Advanced Cockpit Interface Design, IFAC Symposium: Analysis, Design and Evaluation of Man-Machine Systems, Atlanta, Georgia, September (2004)
【非特許文献2】K. Muraoka, S. Verrna, AJadhav, K. Corkerand B. Gore: Human Perfomance Modeling of Synthetic Vision System Use, NASA Grant Report Lab.-No. 2903-100-04, San Jose State University (2004)
【非特許文献3】David B. Hamilton, Card R Bierbaum and D. Michael McAnulry, “ Operator Task Analysis and Work Load Prediction Model of the AH-64D Mission Volume I: Summary Report, Volume II: Appendices A Through F”,ARMY RESEARCH LABORATORY
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、航空機コックピットにおける時間軸解析を対象とし、設計者が容易に利用可能なシステムの構築を目指すもので、ワークロード推算出力機能を装備し、コックピット・ワークロード推算プログラムにおける行動計算用シナリオ生成を自動化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコックピット・ワークロード推算システムは、ユーザが用意した入力ファイルを基に行動計算用のシナリオを作成するシナリオ生成プロセス、作成された前記シナリオに記述された一連の作業に基づき、航空機特性モデルと連動しながら行動計算を行って時間軸解析結果を出力する行動計算プロセスそして前記行動計算の結果を図表化する計算結果処理プロセスからなるものとした。
そして、上記のシナリオ生成プロセスは、データベースとして人間基本性能データを備えたものであって、機器配置ファイル、操作手順ファイル、飛行時歴データファイルを入力データとし、補間動作の生成、個々の作業に必要な時間の算出、ワークロード設定の機能を持ち、最後に行動計算ルーチン用のシナリオを出力するものとした。
上記の機器配置ファイルは、スイッチ,レバー,計器類といったコックピット機器の名称、位置、寸法および操作特性が記述されたものとし、上記の操作手順ファイルは、PF(Pilot Flying:操縦士)とPNF(Pilot Not Flying:副操縦士または機関士 )ごとに手順番号、作業内容および作業開始条件の順にコックピット操作手順を記述されたものであって、前記作業内容は述語(作業内容)V,目的語(操作対象)O,補語(終了条件)Cを用いて記述するものとし、そして、上記の飛行時歴ファイルは、飛行高度・速度等の航空機状態およびシステム状態変化を時系列で記述されたものとした。
【0007】
本発明のコックピット・ワークロード推算システムにおけるシナリオ生成プロセスには、1つの動作を認知したときはそれに伴う一連の動作を補間する補間動作生成機能が組み込まれるようにし、シナリオ生成プロセスには、機器操作に要する作業時間、発話および聴話に要する作業時間、状態確認に要する作業時間について各作業に必要な平均時間、標準偏差及び最大最小値を計算する作業時間算出機能が組み込まれるようにし、そして、シナリオ生成プロセスには、視覚V(Visual),音声A(Auditory),認知C(Cognitive),身体作業P(Psychomotor)の要素のワークロードについてそれぞれ1.0〜7.0まで7段階の数値で定めたデータを基に、操作手順に記述された操作内容(動詞)と操作対象の特性との組み合わせにより自動的にワークロード値を設定する機能が組み込まれるようにした。
また、本発明のコックピット・ワークロード推算システムから出力される行動計算用のシナリオは、行動シナリオ生成ルーチンで計算したV,A,C,P、ワークロード値、作業時間、作業開始条件といった各乗員の一連の動作及びその属性が記述されるようにした。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコックピット・ワークロード推算システムは、ユーザが用意した入力ファイルを基に行動計算用のシナリオを作成するシナリオ生成プロセス、作成された前記シナリオに記述された一連の作業に基づき、航空機特性モデルと連動しながら行動計算を行って時間軸解析結果を出力する行動計算プロセスそして前記行動計算の結果を図表化する計算結果処理プロセスからなるものであるから、頻繁に設計と計算のサイクルを繰り返す必要のある航空機設計過程においてその負担を大きく軽減することができる。
そして、上記のシナリオ生成プロセスは、データベースとして人間基本性能データを備えたものであって、機器配置ファイル、操作手順ファイル、飛行時歴データファイルを入力データとし、補間動作の生成、個々の作業に必要な時間の算出、ワークロード設定の機能を持ち、最後に行動計算ルーチン用のシナリオを出力するものとしたので、従来手作業となっていた部分を機械化することができ、その人的負担と作業時間において大幅な改善ができた。
機器配置ファイルは、 スイッチ,レバー,計器類といったコックピット機器の名称、位置、寸法および操作特性が記述されたものとしたので、作業時間の算出やワークロードの設定を効果的に実行できる。また、操作手順ファイルは、PF(Pilot Flying)とPNF(Pilot Not Flying)ごとに手順番号、作業内容および作業開始条件の順にコックピット操作手順を記述されたものであって、前記作業内容は述語(作業内容)V,目的語(操作対象)O,補語(終了条件)Cを用いて記述するものとしたので、合理的に作業内容を機械情報化でき操作手順を機械入力可能とした。そして、飛行時歴ファイルは、飛行高度・速度等の航空機状態およびシステム状態変化を時系列で記述されたものとすることにより、設計の初期段階から機体シミュレーション・モデルの使用が難しい問題および性能計算に基づく飛行時歴算出の詳細度は設計の進捗に応じて多様となることへの対応を可能とした。
【0009】
本発明のコックピット・ワークロード推算システムにおけるシナリオ生成プロセスには、1つの動作を認知したときはそれに伴う一連の動作を補間する補間動作生成機能が組み込まれるようにしたので、操作手順ファイルを準備する段階で細かいレベルまでの作業分析を実施するというユーザの負担を軽減できる。
シナリオ生成プロセスには、機器操作に要する作業時間、発話および聴話に要する作業時間、状態確認に要する作業時間について各作業に必要な平均時間、標準偏差及び最大最小値を計算する機能が組み込まれるようにしたので、作業時間算出を合理的に実行することができる。
そして、シナリオ生成プロセスには、V(Visual),A(Auditory),C(Cognitive),P(Psychomotor)の要素のワークロードについてそれぞれ1.0〜7.0まで7段階の数値で定めたデータを基に、操作手順に記述された操作内容(動詞)と操作対象の特性との組み合わせにより自動的にワークロード値を設定する機能が組み込まれるようにしたので、従来のように解析者がタスク内容と図7の定義を照らし合わせながら個々のワークロード値を設定する必要が無くなった。
また、本発明のコックピット・ワークロード推算システムから出力される行動計算用のシナリオは、行動シナリオ生成ルーチンで計算したV,A,C,P、ワークロード値、作業時間作業開始条件といった各乗員の一連の動作及びその属性が記述されるようにしたので、従来のように人手を介することなく、次段の行動計算プロセスへ行動シナリオを出力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るコックピット・ワークロード推算システム(Flight crew Workload Estimation Package:以下 FWEPと略称する。)の概要について図1を参照しながら説明する。ワークロードとは人間がある作業を行う際に生じる身体的あるいは精神的負荷を指す。一方、作業時間とはその作業を完遂するまでに要する時間のことである。システムは、パイロットがコックピット内で操作手順を行う際に、パイロットにどの程度の負荷(ワークロード)がどの程度の時間生じるかを推定するためのソフトウェアである。これによって想定されるコックピットの機器配置と航空機の特性に対し、一連の操作手順を行う場合について計算し、それぞれの作業が適時に実施可能かを時系列的に検証することによって高いワークロードが生じる箇所の抽出が可能となる。
FWEPは大きくシナリオ生成プロセス、行動計算プロセスそして計算結果処理プロセスからなる3つの部分から構成され、それぞれの作業内容は次の通りである。
(1)シナリオ生成プロセスは、ユーザが用意した入力ファイルを基に行動計算用のシナリオを作成する。本発明に係るシステム用のシナリオ生成ルーチンについてはあとで詳述する。
(2)行動計算プロセスは、シナリオに記述された一連の作業(各作業のワークロードや作業時間、作業開始条件等を含む)に基づき、航空機特性モデルと連動しながら行動計算を行って時間軸解析結果を出力する。行動計算には既存のパイロットの身体的特性および認知特性を計算機上にモデル化したソフトウェア・システム(FBSS)、あるいは統合型人間−機械系設計・解析システム(Air MIDAS)の機能をベースとしたモデルを用いる。ここでは、 FBSSの簡易版を用いた時間軸解析を実施するが、San Jose State University(米,カリフォルニア州)及びNASAにて開発中の Air MIDASも利用することが可能である。
(3)計算結果処理プロセスは、行動計算の結果を図表化する等の作業を行いディスプレイ等に明示化する部分である。
【0011】
前述したように、既存の計算機人間モデルでは、シミュレーションを実施するためのシナリオの作成時に、各作業動作分析や作業時間の計算であるとか個別のワークロードの指定など、解析前の準備作業は手作業によっており大きな労力が必要となっている。本発明における(1)の入力シナリオ生成プロセスでは、この作業を効率化するために設計時に用いられるデータから最小限の時間および労力で行動計算用のシナリオを生成することを目的としている。
【0012】
次に本発明に係るシナリオ生成ルーチンの機能について、図2の機能ブロック図を参照しながら説明する。シナリオ生成ルーチンは、ユーザが用意するデータファイル(機器配置ファイル・操作手順ファイル・飛行時歴データファイル)を入力し、補間動作の生成、個々の作業に必要な時間の算出、ワークロード設定の機能を持ち、最後に行動計算ルーチン用のシナリオを出力するものである。行動計算を行うために、入力データとしてユーザは機器配置ファイル、操作手順ファイル、飛行時歴データファイルを用意する必要がある。これらを基にシナリオ生成ルーチンは、機器配置、操作手順に基づいて各作業時間を算出し、ワークロード値を設定する。飛行時歴データは行動計算ルーチンで読み込み可能な形式へ変換される。
【0013】
入力データの一つ機器配置ファイルの具体例を図3に示しながら説明する。この機器配置ファイルには、コックピット機器(スイッチ,レバー,計器類)の名称・位置・寸法および操作特性を記述する。各機器の位置は、コックピット絶対座標系で定義される他、相対座標系での定義も可能とした。例えば、天井パネル上に配置されたスイッチは、ユーザが任意に定義した天井パネル座標系で定義することができ、天井パネル自体の位置は絶対座標にて別途同ファイル内に定義されることにより、相対位置で記述された機器類は、ファイル読み込み時に絶対位置に換算することができる。また、機器の寸法情報は機器の操作面の幅を記述する。操作特性は機器の特徴であり、表1より選択する。これらの情報は後述する作業時間の算出およびワークロード設定に用いられる。
【表1】


【0014】
次に操作手順ファイルであるが、これは図4に示されるようなもので、この操作手順ファイルには、PF(Pilot Flying)とPNF(Pilot Not Flying)ごとにコックピット操作手順を記述する。各作業は、手順番号・作業内容および作業開始条件の順に記述してゆく。作業内容は、PF或いはPNFを主語Sとして、述語(作業内容)V、目的語(操作対象)O、補語(終了条件)Cを用いたS+V+O+CもしくはS+V+O+Oの文体形式で記述することができる。ユーザは、表2にあるリストのなかから動詞を選択し、マニュアル表記と同様の「Set, Flap Lever, 15」などといった形式で定義することが可能である。これに加え、操作手順ファイルには作業開始条件を記述する必要がある。例えば上記動作を対気速度が150[kt]以下となったときに開始する場合はEASKT<150と記述する。
【表2】


【0015】
飛行時歴データファイルは図5に示すようなもので、現時点のシナリオ生成ルーチンではユーザは航空機特性モデルとして飛行時歴ファイルを用意する必要がある。飛行時歴ファイルには、飛行高度・速度等の航空機状態およびシステム状態変化を時系列で記述する。これらは、行動計算実施時の作業開始条件および終了条件に用いられる。したがって作業開始条件で用いられる飛行パラメータは、この飛行時歴データファイル内に記述されている必要がある。航空機特性モデルデータの準備方法として、ユーザによる重量や翼面積などの性能値入力に基づき本シナリオ生成ルーチンによって飛行時歴を自動生成する方法や、ユーザの用意した機体シミュレーション・モデルと結合可能とするなどの方法が可能である。航空機の設計段階では、機体シミュレーション・モデルは設計の初期段階から必ずしも利用可能とは考えられないことおよび性能計算に基づく飛行時歴算出の詳細度は設計の進捗に応じて多様となることから、現時点ではユーザ自身が飛行時歴データを用意する構成としている。
【0016】
次に行動シナリオの生成について説明する。まず、補間動作生成であるが、操作手順ファイルに指定された個々の作業を計算機人間モデルで模擬する場合には、その作業をさらに詳細な動作に分解しなければならない場合がある。例えばPF:「Order Flap 5」およびPNF:「Set, Flaps 5」という操作手順を考える場合、これらは単に「フラップ5degを指示」し、それにしたがって「フラップレバーを5deg位置に動かす」という動作のみでなく、PNF側では「フラップ5deg」を聞く、「レバーを動かす」、「フラップ角度が計器表示上で5degに設定されたことを確認する。」という一連の動作が必要となる。操作手順ファイルを準備する段階でこのレベルまでの作業分析を実施するのはユーザにとって煩雑となるため、本システムでは1つの動作を認知したときはそれに伴う一連の動作を補間する補間動作生成機能を組み込んで、前記のような補間動作を生成した。図6に示すように操作手順ファイルに記述された動詞に応じ、操作実施者自身あるいは相手側の手順を参照しながら補間動作を生成している。
【0017】
次に作業時間の算出について説明する。この作業時間算出機能では、各作業に必要な平均時間、標準偏差及び最大最小値を計算する。作業時間算出のために、非特許文献2に開示されたものと同様の動作時間モデル及び統計データを用いた方法を組み込んだ。操作手順ファイルに記述されている動詞及び機器配置ファイルに記述されている操作対象の属性(位置及び操作特性)情報を用い、下記の方法で計算している。ここでは作業時間平均値の算出法のみを示す。
(1) 機器操作に要する作業時間の算出(Device Manipulation Time)
ここで作業時間は、乗員が手を操作対象機器の位置まで移動させる時間(Hand Movement Time)と、機器操作に要する時間の合計とする。前者はFitts’s Lawにより、後者はコックピット機器操作時間の統計データに基づき決定される。
・Fitts’s Law
hand=100・log(D/S+0.5)[msec]
(D:操作対象までの距離[m],S:操作対象の幅[m])
・作業時間(平均値)
manipu=tmove+tdevice [msec]
(2) 発話および聴話に要する作業時間(Speech Time, Hearing Time)の算出
ここで発話内容の単語数により作業時間を算出する。聴話の場合は発話に要する時間に加え、発話内容を文節に分けた文節数に認識時間(Cognitive Cycle)を乗じた時間を加えた時間とする。
・発話時間(平均値)
spech=nwords/fspech[msec]
・聴話時間(平均値)
hear=tspech+nchunks・τcgn[msec]
・発話速度fspechおよび認識時間τcgn
spech =166[word/min], τcgn =0.070[sec]
(3) 状態確認に要する作業時間(Reading Time)
機器操作実施後の確認、あるいは機体状態変化の確認のためにディスプレイ等に視線を移動させるものとし、視線移動に要する時間と読み取りに要する時間との合計とする。読み取りに要する時間は、各機器の特性に基づき決定される(表1参照)。
・視線移動時間(平均値)
eye=angle[deg]・0.66/90 [sec]
・状態読み取り時間(平均値)
check=teye+tdevice [msec]
【0018】
次にワークロードの設定について説明する。このワークロード値には非特許文献3にあるTask Analysis Workload(以下,TAWLと略称する。)を使用している。V(Visual),A(Auditory),C(Cognitive),P(Psychomotor)の4つについて、それぞれ1.0〜7.0まで7段階の数値で定めたものである(図7参照)。通常タスク解析を行う場合には、解析者がタスク内容と図7の定義を照らし合わせながら個々のワークロード値を設定する。これに対し、本システムでは操作手順に記述された操作内容(動詞)と操作対象の特性との組み合わせにより自動的にワークロード値を設定する機能を組み込んだ。
TAWLを使用し、あるタスクのワークロード値を設定する場合、コックピット内操作のみに限定して考えればそのタスクの操作内容(動詞)に応じてある程度まで選択肢を絞ることができる。例えば、「Set」という作業について、図7のPsychomotor値を設定する場合、1.0 Speechや6.5 Symbolic Productionは除外することができる。本システムでは、さらに、その動詞の目的語(操作対象の操作特性値)を考慮することによりワークロードを決定している。例えば「Set, Push Button」の場合、ワークロード値Pは2.2となり、「Set, Rotary Knob」の場合は5.8などとしている。
【0019】
一方、このような方法でワークロード値を決めるには困難あるいは曖昧となってしまうコックピット動作が存在する場合も考えられる。例えば「Check, Flight Control(操縦輪の円滑さを確認する)」という作業は、「Check, Current Altitude」などのように単に現在のシステム値を確認するのみでなく、操縦輪を手で動かし、異常がないことを確認する作業を含んでいる。本システムではこのような作業は例外として扱い、あらかじめ設定した動詞・目的語の組み合わせルールに無いものの場合は、ディフォルト値を用いてワークロード値を出力すると同時に、ユーザに関して注意を喚起し出力された行動シナリオの確認及び手動によるワークロード値の変更を促すように設計した。
【0020】
次に行動計算用シナリオ出力について説明する。本発明に係るFWEPは行動計算用の行動シナリオファイル及び飛行時歴シナリオファイルを出力する。行動計算は、100[msec]を基本周期として実施されるため、任意の周期で記録されている飛行時歴ファイルは100[mseclのデータに補間され、飛行時歴シナリオファイルとして出力される。行動シナリオファイルには、行動シナリオ生成ルーチンで計算した各乗員の一連の動作及びその属性(VACP,ワークロード値,作業時間[平均,標準偏差及び最大最小値],作業開始条件及び終了条件)が記述される。
【0021】
本発明に係るFWEPシナリオ生成ルーチンの機能を検証するとともに、本機能の利用可能性を検討するために中型旅客機の離陸手順を対象とした行動計算を試みた。
図8に部分的に示す操作手順を仮定し、それに基づき図3〜5に示したような入力ファイルを準備した。今回開発したシナリオ生成ルーチンを用いて行動シミュレーション用のシナリオを生成しこれに基づいて行動計算を行った。行動計算には、FBSSをベースとした簡易型の行動計算ルーチンを用いた。同モデルは下記の方法で行動計算を行っている。
・ パイロットは航空機の飛行及びシステム状態を常時把握している。
(スキャン・パターン等の知覚モデルを省略する)。
・ 作業の開始条件が成立すると、遅滞なく作業開始を試みる。
・ ワークロードのV,A,C,P各値が7.0以下であれば作業を実施する。
・ 開始した作業は中断しない。
・ 作業時間にはシナリオに指定された平均値のみを用いる。
図9にこの設定で実行した行動シミュレーションの結果を示す。左側のグラフは上から高度情報、対空速度、飛行姿勢であり、該飛行姿勢の内Pitchは機首の上下回転、Angle of Attackは迎角を示している。右側の1番上GearのグラフはGear Leverの動きとGearの動きとが併記され、上から2番目のFlapのグラフもFlap Leverの動きとFlapの動きとが併記されている。また、PFとPNFのワークロードを示すグラフはVが細波線、Aが細実線、Cが太波線そしてPが太実線とV,A,C,P毎に示されている。入力した飛行時歴データ(図9のうち高度,速度,姿勢,脚及びフラップ)に対し、人間モデルが作業の実施タイミングを調整し、その結果PF及びPNFのワークロードが算出されている(図9右側下部)。例えば図4に示されるような操作手順ファイルにおいて、PFの「30,Order, “Gear Up”, ROC(Rate of Climb)>1500, PNFの“╌╌╌”」という操作手順がタスク指定されていた。これについて図9のGearのグラフからギアレバーがDnからUpのポジションに移行していることから、開始後50[sec]の付近で実行されていることがグラフより読み取れる。ワークロード(PF)のグラフでは、PFが"Gear Up"を指示、それを受けてPNFが昇降率を確認復唱し、ギアレバーの操作を行っていることがワークロード(PNF)のグラフでわかる。PFの指示を受けた後PNFが昇降率を確認している箇所は、グラフ中に細波線で示されたVのワークロードが5.9となっており、ギアレバー操作の箇所は太実線のPで3.8のワークロードが生じている。また、90[sec]付近では、フラップ格納の指示(PF)および操作実行(PNF)を確認できる。作業時間に関しては、段落番号[0017]の各計算式による結果の通り作業が実行されていることが確認できた。開始直後0[sec]のPNFの操作内容は、天井パネルにあるスイッチ類の操作であるが、天井パネルという離れた場所にある機器操作のため、他と比べて長い作業時間を要していることが分かる。以上の結果よりシナリオ生成ルーチン機能が確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係るシナリオ生成ルーチン及びFWEP全体の応用範囲について考察する。
前記の行動シミュレーションのように、 FWEPはユーザが用意した入力ファイルをもとにワークロード推算及び時間軸解析を出力する。シナリオ生成ルーチンにより、操作手順やコックピット機器配置および飛行特性といった航空機設計過程で比較的容易に準備可能な入力を用いての行動シミュレーションを行うことが可能となった。本システムを用いれば設計変更やそれに基づくシステム検討が繰り返し行われる航空機設計過程においても、操作手順の検討やコックピットシステムの影響評価や解析が簡易かつ即座に実施できると考えられる。ワークロードの評価は、耐空性審査過程にも必要とされているが、現時点でのFWEPは人間基本性能のデータベースとしてFitts’s Law やNASA TLA等の汎用データに基づいていることに注意する必要がある。航空機運航時の実計測データに基づく作業時間を要求される場合には、人間基本性能データベース部分を変更する必要がある。
【0023】
本発明に係るシナリオ生成ルーチン及びFWEP全体の出力機能の拡張について考察する。FWEPでは、各作業を開始してから終了するまでの間、V,A,C,Pの4項目のワークロードが乗員に発生するものとし、時間軸上でV,A,C,Pそれぞれの値を出力する。これにより乗員、時刻、各ワークロード値それぞれの詳細な比較が可能であるが、航空機の設計段階では他の形式によるワークロード評価手法が求められる場合もある。航空機の耐空証明取得時に必要な最小必要乗員数の検討ワークロード評価のガイドラインが示されているがその一例として作業実行確率を用いるワークロード評価手法がある。この手法はV,A,C,Pといったワークロード値は用いず、図10に示すように目・両手・耳・思考の各部位につき、操作手順1つごとに(a)作業開始可能時刻、(b)最も可能性の高い開始時刻、(c)終了していなければならない時刻の3点から成る三角形を時間軸上に描く(三角形の面積力が必ず1となるように描く)。(a)から(c)までが三角形の底辺、(b)の高さが三角形の頂点となり、頂点(b)の高さは(a)から(c)までの長さによって定まる。こうして操作手順ごとに描いたものを作業全体で合計した値が1を超えるかどうかを示すことで、ワークロードの適/不適の評価を行う方法である。この手法ではFWEPのような操作内容に基づいたワークロード値の大小は考慮しない。FWEPからこの方法と同様の出力を行う場合には、計算機人間モデル部分での行動計算を下記のように簡易化すればよい。すなわち、シナリオ生成ルーチンから出力された行動シナリオに記述された作業開始条件のうち、作業開始条件を満たす最も早い時点を(a)、作業開始条件となりうる期間の1点を(b)、作業終了条件となる時点を(c)と設定する。例えば、作業開始条件がEASKT>=165&&EASKT<170(EASKTは対気速度)の場合、(a)はEASKT=165となる時点、(b)はEASKTが条件を満たしている間のうちの1点、例えばEASKT=(165+170)/2の時点、(c)は操作手順に記述された作業終了条件を満たす時点となる。終了条件が定義されていない場合には算出された作業時間により(c)の点を決定する。このように、行動計算ルーチンの機能拡張のみにより、FWEPを他の評価手法に適用させることも可能である。
【0024】
作業開始条件の設定について
今回用意した操作手順ファイルでは、PFの操作手順のうち、脚上げ操作指示のPositive Climb, Order Gear Up(昇降率が正となった後、脚上げを指示)という作業を、
「Order,“Gear Up”ROC>1500
(Rate of Climb>1500[ft])」
と設定した。作業開始条件については、操作手順にある"Positive Climb"をそのまま"ROC>0"とはせず、 " ROC>1500"と設定した。
飛行時歴データにおける昇降率は、計算機上では航空機が浮揚した瞬間に正の値となる。今回用いた人間モデルでは計器スキャンやそれに基づいた知覚の模擬などの機能を省略し、航空機の状況変化を常に把握していると仮定したため"ROC>0"とすると航空機が浮揚した時点で作業開始条件が満たされて、即座に脚上げ操作指示を実行してしまう。しかし実際に人間パイロットがこの操作をする場合には、計器表示の遅れ計器のスキャンを行うまでの時間遅れや、計器の分解能ではROC>0となった瞬間を読み取ることは不可能であるなどの理由から、実際にはROCが大きな値になってから開始条件の確認が可能となる。今回はこれらの背景を考慮して操作手順ファイルを"ROC>1500"を用いて定義した。
行動計算に今回の計算人間モデルと同レベルのものを用いる場合には、ユーザは操作手順ファイルを作成する際、このようなモデルの特性を踏まえた作業開始条件を設定する必要がある。一方、行動計算に用いる計算人間モデルにスキャン・パターン機能や情報取得時の分解能等の特性を持つレベルのものを用いれば、操作手順ファイル作成時に"ROC>0"といったより自然な記述方式が可能となると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るコックピット・ワークロード推算システムの概要図である。
【図2】シナリオ生成ルーチン機能を示すブロック図である。
【図3】本発明で用いる機器配置ファイルの例を示す図である。
【図4】本発明で用いる操作手順ファイルの例を示す図である。
【図5】本発明で用いる飛行時歴データファイルの例を示す図である。
【図6】本発明の補間動作生成のアルゴリズムを説明する概念図である。
【図7】本発明で用いるVACP別のタスク内容に対するワークロード値表を示す図である。
【図8】旅客機の離陸手順マニュアルの例を示す図である。
【図9】本発明のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図10】作業時間を用いたワークロード評価手法を説明する図である。
【出願人】 【識別番号】503361400
【氏名又は名称】独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
【出願日】 平成17年10月13日(2005.10.13)
【代理人】 【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信

【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男

【識別番号】100084607
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 文男


【公開番号】 特開2007−106239(P2007−106239A)
【公開日】 平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願番号】 特願2005−298755(P2005−298755)